フォトン・ブレット~白色の光弾~   作:保志白金

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第6話~求めた答え~

(これからも前と同じように普通に過ごしていけばいいのか。それとも、これからは力を持っているからこそガストレアと戦うべきなのか。……ああ、俺はこれからどうすれば……)

 

 巧人はあの時から食事の時も授業中ですら一人で悩んでいた。親しい友人の誰にも相談することなく、いや、そんな突飛な話を言えるはずがなかった。無論、事実を包み隠さず言う必要があるわけでもないので、他の何かに例えて話すこともできたかもしれない。しかし、それすらも巧人はしなかった。他に例えられるものがなかなか考えつかなかったからである。

 

(……ん?待てよ。そもそも、会長が俺のことを勧誘してきたのは変身できる体であることを知っていたんじゃ……)

 

「巧人、そんなに難しい顔してどうかしたの?もしかして、悩みごと?」

 

 そんな調子で昼休みもずっと過ごしていた巧人に声をかけた一人の女子生徒がいた。それは巧人の同じクラスで巧人とまともに話すことのできる女友達、桜井かな子だった。

 

「……なんだ、かな子か。俺が悩みごとを持ってたら何か問題でもあるのか?」

 

 彼女は小学生の時からずっと巧人と同じクラスで、一緒に学校生活を過ごしてきた。二人の家は近所ではなく幼馴染みとは決して呼べない部類に入るので、巧人とかな子、この二人の関係はいわば腐れ縁と呼ばれるものなのだろう。もっとも、巧人はともかくとして、かな子が巧人との関係をどのように捉えているのかは不明なのだが。

 

「別に。ただ私は巧人のそんな顔初めて見たなぁ、ってなんとなく思ってね。それで気になったから声をかけてみただけなんだ」

 

「はいはい、そうですか。まぁ、俺にも悩みごとのひとつやふたつあるってことだ。いつも能天気でいるお前とは違うんだよ」

 

 巧人は苦笑しながらかな子に対して少し意地の悪いことを言い放つ。

 

「む~、人がせっかく心配してあげてるのに、その言い草はひどいよ~。……巧人が知らないだけで私にだって悩みの種はあるんだからね」

 

 するとかな子は頬を小さく膨らませて、巧人の非を訴えかける。しかし、巧人は彼女のことならなんでもお見通しだ、とでも言いたげな顔をして悪態をつくのだった。

 

「どうせかな子のことだ。続かないダイエットのことを悩んでるんだろ?そんなことしても無駄だという現実をいい加減受け入れたらどうなんだ」

 

「フフン、それは甘いよ巧人、いままでの私とはまったくの別人なんだから。あのね、今回は……ってそれ違~う」

 

「なんだ、俺の予想は違ったのか」

 

 わざとらしくがっくりと肩を落として、残念そうに演技をする巧人。すると、かな子は得意気に生き生きと自分の悩みの種を語り出した。彼女が満面の笑顔を浮かべているその時点で巧人は、十中八九あまり大したことではない、とそんな予測を建てていた。

 

「あのさ、駅前に新しくケーキ屋さんができたんだけど、そこに行くべきかどうかで悩んでるんだ。それで訊くんだけど、巧人だったらどうするかな?やっぱり気になるから行く?」

 

「そうだな、俺だったら部活とかバイトとかで忙しいから、行く予定の友達に買ってきてもらう、だな。しかし、……ハハ、くだらなすぎ。俺の言ってることを訂正したくせに、……フフ、レベル的にはさっきのと大差ないだろ」

 

 案の定、到底深刻と呼ぶには程遠いとても甘そうな話だったので、巧人は堪えきれずに笑いながら返答をする。

 

「わ、笑わないでよ~。巧人にとってはどうでもいいことかもしれないけど、私にとっては死活問題なんだからね。……そもそも、そう言う巧人だけど、巧人が悩んでいることはじゃあなんなの?」

 

 訊いてきたかな子のことを適当なことを言ってはぐらかそうとするつもりでいた巧人だったが、なぜかそれを実行には移さなかった。その代わりに、巧人は例え話と称して自分の悩みに近似している内容のことを語り出し、少しでもヒントを得ようと試みたのである。

 

「……ん~、そうだな。ひとつ例え話をしよう。もし、有名なパティシエが「お前には才能がある」とか突然言い出してきて、その手の道に勧誘されたらどうする?そんでもって、その時点の自分自身には何も将来の目標を持っていないと仮定しての話だ」

 

「……う~ん、それはなかなか難しい例え話だなぁ」

 

 かな子は首を傾げて考え込むように唸っていて、巧人は「やはり」と呟き、(かぶり)を横に振って諦めかける。ところが、今度は巧人の予想と反して、かな子からは割りと的確な答えが返ってくるのだった。

 

「でも私だったら、そのお誘いを喜んで引き受けると思うけどね」

 

「それは、なぜ?」

 

「だって、他の人に認められるって滅多にないことじゃない?そんなこと実際に言われたら私、飛んで喜ぶと思うんだ!それに将来の目標について迷っているんだったら、なおさらだよ。できる時にチャレンジしておかないと、後々後悔するのは自分なんだし、色々としながらでも目標を探し出す手段なんかたくさんあるんだから」

 

 かな子は最後に「でも、納得のいく答えが見つかるかどうかは別だけどね」と言ってから、力の抜けた笑いを見せた。

 

「あれ?……私ちょっと変なこと言ったかな」

 

 しかし、巧人が真剣な面持ちで食いつくようにかな子の話を聞いていたので、彼女は戸惑ってしまい困惑の色を隠せなかった。当の巧人もそれをすぐに見抜いて、気を使わせまいと明るい笑顔を咄嗟に作った。

 

「かな子、ありがとう。おかげさまで俺もようやく答えが見つかった気がする」

 

「……そうなの?ふふふ、巧人のお役に立てたみたいで、私は嬉しいよ」

 

……キーンコーンカーンコーン……

 

 そして、二人の会話が終わったのとほぼ同じタイミングでチャイムが鳴り響き、昼休みの終わりを告げる。

 

「あ、お昼休み終わっちゃった!まだ、お弁当のサンドイッチまだ全部食べてないのに~」

 

「……別に昼飯のひとつ抜いても、倒れるわけじゃないんだから。ったく、仕方のない奴だな」

 

 くだらないことで嘆くかな子を尻目に巧人は息を大きく吐いていた。その吐いた息にはかな子に対する呆れのため息の他にも、安堵したという意味でのものも含まれていた。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

 これから先の進むべき道が決まってからの巧人の行動は早かった。授業が終わるとすぐに生徒会室へ赴いたのである。しかし、未織はこの日不在だったため、巧人はおとなしく引き返した。結局、巧人の生活パターンは今日もいつもと変わらず、部活に熱心に打ち込んだ後は、真っ直ぐ家へと帰っていった。

 

「ただいま……って、今日は母さんいないんだ。夜遅いとか言ってたもんな」

 

 巧人は帰宅するとすぐに自分の部屋に入って、押し入れにしまっていたアタッシュケースの中からデルタギアを取り出した。そして、手の中にあるそれをまじまじと見つめて、何かに誓うかのように呟いた。

 

「俺には父さんのように人のために戦うなんてことはまだできない。理由もまだ不透明だし、正直ガストレアは怖い。けど、俺は戦うよ。その中で俺の探す答えも必ず見つけ出すから」

 

 それからしばらくの間、物思いにふけるみたいにデルタギアから目を離さないままの状態が続いたが、突然巧人の耳に聞き覚えのない着信音が鳴り響いた。ポケットにしまってあるスマホを巧人は念のために確認するが、もちろんながら音の発生源はそれではない。

 

(……どこから聞こえる?)

 

 冷静になって、自分の耳を頼りにしてその音を辿っていくと、最終的にケースに収められていた銃のグリップーーデルタフォンに行き着いたのだった。

 

「マジかよ。これ電話だったのか。……って、応答するにしても、この場合は引き金を引けばいいのか?いったいどうすれば……」

 

 携帯電話らしくないその形状に驚きながらも、電話としての使い方が皆目見当がつかないため、その場で立ち尽くしてしまう。しかし、誰からの着信なのか不明であるということもあったので、この電話を無視しようと決めたーーはずだった。

 

 しかし、その耳障りな着信音は一向に止む気配がなく、その時間が3分を過ぎても5分を過ぎても鳴り続けた。

 

「……しょうがない、出てみるか」

 

 とうとうその騒音に耐えかねた巧人はデルタフォンを再び手に取り、引き金を試しに引いてみる。すると、電話は見事に繋がったらしく、デルタフォンのスピーカーからは「もしもし」と声が漏れ出てきた。

 

「……もしもし。すみません、私はこの電話の本当の持ち主ではーー」

 

 巧人はすぐに訳を言って、この電話の接続を絶とうとするが、その電話の相手はその声が聞こえていないのかなんなのか全く無視して、話しかけてくる。それは頭をハンマーで殴られたような衝撃的な内容のことを。

 

『東京エリアの国民を救うため、是非力を貸してください。かつて『白い救世主』とまで呼ばれたあなたの力を』

 

「……ッ!?誰ですか、あなたは?」

 

 若干興奮気味な状態のまま素性を訊ねる巧人に、電話の向こう側にいる相手は透き通った声で答えを返してきた。

 

「私は聖天子です」

 

 巧人はその答えに絶句するしかなかった。




 今回出てきたオリキャラの苗字と名前は完全に自分の趣味です。

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