フォトン・ブレット~白色の光弾~   作:保志白金

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第5話~戦う理由~

 ガストレアと初めて戦ったあの場から帰る直前、啓太郎に過去のことを訊ねた巧人だったが、啓太郎から返ってきた言葉に巧人が求めていたものはなかった。正確に言うと、啓太郎は自分から語ろうとはしなかったのだ。

 

『そのことは俺なんかに聞くよりも、里奈さんから直接聞いた方がいいかもしれない。そのことについてなら、もっと詳しく知っているはずだから。……それに、俺の口から言うべき話でもないからさ』

 

 啓太郎はそう伝えてから、運転免許のない巧人に代わってサイドバッシャーを運転して、二人はそれぞれの自宅に帰っていったのだった。

 

 そして、その日から数日経過したが、巧人は里奈に仮面ライダーのことをあえて訊こうとはしなかった。それこそ既にデルタギアを自分が所持しているにも拘わらず。

 

 里奈と巧人の親子としての仲は決して悪くはない。むしろ、早々に修二を亡くしているということもあり、ごく一般的な家庭と比べると、その絆はより強固なものだろう。だからこそ、巧人は聞き出したくても聞き出せなかった。それは里奈のことをできれば悲しませたくはないと思っているからである。自分は昔の父のこと、あのベルトのことを知りたいのに、その過去を一番よく知る人物には辛いことを思い出させたくない、という矛盾を抱えているのが今の巧人の現状だ。

 

「……『そのベルトは今生きている人類の中で巧人にしか扱うことのできない、巧人にしかできないことなんだ。厳しいことを言うかもしれないけど、自分の居場所を守るためには自分自身が戦うしかないんだよ』か。こんな信じられない話が本当だと思えるなんて、俺もどうかしてるよ」

 

 日は既に落ちかけていて、だいたい7時を回り夕食時の最中であろう頃。巧人は居心地の悪さから帰宅しようとはせず、近所にある公園のベンチでアタッシュケースにあった二枚目の手紙を呆然としながら読んでいるところだった。

 

「巧人、もう夕食はできているわよ。まったくもう、なんですぐに帰ってこないの?」

 

 しかし、普段なら帰る時間に帰ってこない巧人のことを心配したのか、里奈が探しに来たのである。無論、ここ数日の間、巧人が普段よりもぎこちない様子で過ごしていたことを察していたからここまで来たのだが。

 

「……母さん。なんで、俺がここにいるってわかったんだ?」

 

「なんでって、巧人は一人になりたい時は決まって昔からいつもこの公園に来ていたじゃない。だからなんとなく、ね」

 

「……アハハ、母さんにはまいったな。ここにいることがバレてたなんて」

 

 巧人は里奈に自分の居場所があらかた読まれていたことを知り、気まずい雰囲気を誤魔化すように間の抜けたような笑い声をあげる。……が、そんなことはお構い無しに里奈は本題に入っていった。

 

「私、啓太郎さんから話は全部聞いたわ。巧人がとうとうデルタに変身した。そして、ガストレアと戦って助けてくれたって」

 

「……そう。啓太郎さんがそんなことを、ね」

 

 里奈はついに話を切り出したが、巧人は里奈と目を反らして、未だに向き合って話をしようとしない。頑なに拒んでいるようだった。それでも、里奈は声を荒げることなく巧人に優しく語りかけていく。

 

「巧人は私達がこのことをずっと黙っていたことについて怒ってるの?」

 

「いや、別にそういうわけじゃないよ」

 

「初めてガストレアと戦って、やっぱり怖かった?」

 

「え~と、どうだったかな。あの時は無我夢中だったから、よく覚えてないや」

 

「……それじゃあ、あの人が仮面ライダーだって知って驚いた?」

 

「うん、たしかに驚いたよ。でもね、正体が父さんということに妙に納得できるところはあったんだ」

 

 里奈が質問しては、すぐに巧人が答えを返す。そのような一問一答の言葉のキャッチボールが二人の間で繰り返されていったが、巧人は最後の質問にまだ言いたいことが残っていたのか、「その事なんだけどさ」と静かに告げて、さらに言葉を続ける。

 

「なんで、父さんは自衛隊員でもないのに、あのベルトを使ってまで戦う必要があったんだよ?……たしかに、あのベルトは特異体質の人にしか使えないってことはこの手紙で知った。けどさ、自分が死ぬまで戦うなんてやっぱりおかしいと思うんだ」

 

 初めて訊いてきた質問はあまりにもド直球過ぎたのか、里奈は1、2秒だけ瞑目して、間を置いてから言った。

 

「…………そうね。でも、あの人があそこまでして戦い続けたのにはある理由があったの」

 

「父さんの戦う理由?いったいどんな……」

 

「そうね、あれはあなたが生まれるより少し前でガストレアもまだ発生していなかった頃の話。ガストレアとは別のばけ……異形の者達、オルフェノクと私達は戦っていたの。そして、その者達と戦うための力として、私達のお父さんからは三本のベルトが送られてきて、私達はそのベルトの力を頼りにして、みんなで団結して、協力して戦った。でも、その戦いはとても厳しいもので、私達の仲間はほとんど死んでいったわ。……それで、そういうことを見てきたからなのか、あの人は拳を振りかざして戦おうとはしなかった。そもそも、あの人は戦うことや争うことが大嫌いで、私達同級生の中でも1位、2位を争うくらい気弱だったから、当然と言えば当然だったのかもしれないけど」

 

「……あの父さんが?嘘だろ?」

 

 頭に疑問符を浮かべて「意外だ」とでも今にも言いそうな顔をしている巧人。里奈はそんな様子の巧人を見てクスリと笑いながら、それを否定した。

 

「ええ、嘘じゃないわ。私もあの時限りはそのことで怒ったことがあったもの。……そんな調子がずっと続いたのだけど、ある時に変化が起きた。私達の中でも一番強くて、オルフェノクとの戦いにも慣れていて、ベルトを使いこなすことのできる数少ない適合者がいたんだけど、その彼があの人のことを叱咤して奮い立たせてくれた。それからね、あの人があの人なりの戦いを始めたのは」

 

「…………」

 

「はじめの方は自分の身を守るため、生き残るために戦っていた。まあ、それは戦うことのできない私も同じだったんだけど。でも、その戦う目的は少しずつ変わっていった。それこそがあの人の本当の戦う理由になったのよ」

 

 里奈がそう言い終わった段階で、巧人はようやくその理由に気づき、その時初めて反らし続けてきた目を合わせた。

 

「戦うことのできない他人を危険から守ること。それが父さんの戦う理由……」

 

「ええ、そうよ。……さっきも言ったでしょ?あの人は元々人一倍気弱だって。けどそれは逆に、人一倍優しい心の持ち主ってことだった。だから、仲間のことをたくさん殺してきたオルフェノクを憎むことは決してしなかった。代わりにまだ生き残っている仲間を守るために戦ってくれた」

 

「そう……だったんだ」

 

 口ではわかったようなことを言いつつも、それとは裏腹に表情はまだ納得のしていない巧人。里奈の話にはまだ続きがあるのか、彼女は呼吸を整えて何か言い出そうとしたが、その直前でピタリと止めてゆっくりと息を吐き出した。

 

「……空も真っ暗だしさ、もう帰ろう。それに、巧人もお腹空いたでしょ?」

 

 里奈は巧人の前へ出て先導するように歩き出すと、

 

「ちょっと待って、その話にはまだ続きが……いや、やっぱりいいや。なんでもない」

 

 巧人はまだ引っ掛かっている何かを訊こうとして、制止の声をかけようとするが、結局訊くことは諦め、里奈の後ろを追いかけるように歩いていった。

 

(戦う理由……か。それがない俺なんかにどうして父さんはあのベルトを託したんだ?俺が適合者だから、本当にそれだけなのか?俺にはまったくわからないよ。……教えてくれ、父さん)

 

 その巧人の疑問に答えが返ってくることがあるはずもなく、静寂が一帯を包み込んでいた。


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