フォトン・ブレット~白色の光弾~   作:保志白金

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第3話~再起動~

 巧人と啓太郎がガストレアウイルス感染者に遭遇してしばらく経過した頃。

 

「…………はい。それで、発見場所は…………はい、わかりました」

 

 都内某所では、突然の電話に応答した千寿夏世はひたすらに淡々と警察官と受け答えをしていた。理由は単純、要点のみを的確に聞き取るためである。

 

「将監さん、仕事です」

 

「あ?……ハッ、ようやくあの仮面野郎のお出ましってか?」

 

 彼女のプロモーターである伊熊将監は仕事という単語を聞いて、笑いを浮かべた仮面にシルクハット、それにタキシード姿の奇人ーー蛭子影胤のことを真っ先に思い浮かべる。

 

「夏世、それで奴は何処にいるってんだ?」

 

 そして、将監は感情を昂らせて体をウズウズさせながら夏世に訊ねる。

 

「いえ、残念ながら将監さんが思っている敵ではありません。今回与えられた任務は蛭子影胤の抹殺ではなく、ウイルス感染者の討伐。それで私達に依頼が来た理由はなんでも、私達が現場に一番近かったから、だそうです」

 

「チッ、なんだ、雑魚の掃除かよ。つまらねぇな」

 

 しかし、思っていたこととは全く別の格下ガストレアの駆除というつまらない仕事だと知った途端、興味をなくしたかのように息を吐いた。

 

「ま、憂さ晴らしにはなってくれんだろ。行くぜ夏世、とっととルートを案内しろ」

 

「わかりました、では」

 

 将監と夏世はそれぞれの武器を持って外に出ると、オリジナルにカスタムされたサイドカーに乗り込み、その場から走り去っていく。そして、出発してたった30秒足らずで将監はガストレアを発見する。

 

「……獲物は飛んでるアイツか。へぇ、マジで近かったんだな、笑えてくるぜ」

 

「いえ、あれは違います。どうやら、私達とは別の他の誰かがあのガストレアを追っているようなので。私達の標的はもっと先にいるはずです」

 

 しかし、そのガストレアは彼らに依頼された個体ではなく、蓮太郎がたった一人で追っている飛ぶことのできるガストレアだった。

 

「アイツじゃあねえのかよ。だったら俺らがやる必要はねえな」

 

 将監は近くにいるガストレアを無視して、自分達に来た依頼のみを成そうとすぐにここからいなくなろうとするが、不意に彼の気になるような何かが目に飛び込んできて、ブレーキをかけた。

 

「……ガストレアを追ってる野郎、見たことある顔だとは思ったが、あの時の生意気なガキか。……夏世、お前は先に行ってろ」

 

「残って将監さんはどうするつもりですか?まさか、彼を助けるつもりなのですか?」

 

 思ってもみなかった主の行動に少し動揺を見せる夏世。

 

「ハッ、勘違いすんな。あのガキに現実ってやつを見せつけたいだけだ。それにお前一人だけでなんとかなる獲物なんだろ?俺達二人でその二匹狩ればそれだけ報酬が多く貰える」

 

 が、将監はいつも通りの平常運転だったことを認識したので、夏世もいつも通りの冷静な姿勢に戻った。

 

「なるほど、そういうことですか。了解です」

 

 そして夏世はサイドカーの側車から飛び降りると、将監の命令通りに逆方向へと全速力で走っていった。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

「ガ、ガガガストレア!」

 

 啓太郎はテンパったような声を出して驚き、アクセルペダルを限界まで踏み込み、キックダウンをごく自然な流れで発生させる。巧人はこの状況下においてパニックに陥ることは特になく、スマホで警察に電話をしていた。

 

 ーーなぜ、こんなところにガストレアが?と、啓太郎も巧人も同じことを思っただろう。しかし、そのことに関して深く考えられる暇があるはずもなく、ただひたすらに突如出現した化け物から逃げることだけを考えて二人は行動していた。

 

 ハンドルを連続で切り、入り組んでいる道を曲がって啓太郎達の乗る車はうまく逃げていくが、不運なことにガストレアが蜘蛛型ということもあったため振り切るまでには至らなかった。そして、巧人は通話終了の画面をタッチして啓太郎に言う。

 

「警察には連絡を入れました。なので民警も少し経てば来るはずです。……けど、もっと飛ばせないんですか?すぐにでも追い付かれそうですよ!」

 

「これ以上は無茶だよ!運転しきれる限界を出してるんだから!」

 

 巧人の言うように少しずつ、毎秒2~3センチ程度ではあるものの、それは確実に両者の距離が徐々に縮められているようだった。

 

 そして、ベタッ、という粘性のある何かが吐き出されたような聞き心地の悪い音が聞こえてきたかと思うと、

 

「え、なんで!?なんで?」

 

「とにかく、車から早く降りましょう!ここからは分かれて逃げるしかない!」

 

 それは最悪なことに車のホイール部分に絡み付き、極端なまでに動きを鈍らせたのだった。二人はまともに動くことのできない啓太郎の車を乗り捨てて、散るようにして走っていく。

 

(とにかく、隠れることのできそうな物陰に潜んで、民警が来るまで見つかりさえしなければ問題はないはず。ガストレアに認識されていない今しかチャンスはない!)

 

 巧人は無我夢中で走りながら、身を潜めるられそうな場所を探すが、走っても走っても一向に見つからない。しかし、幸なのか不幸なのか、異なる方向に逃げていった啓太郎はうまく隠れることができており、加えて、二人のことを追跡していたガストレアも二人を捕捉していない。

 

(……お、よし!あの遊具の中なら、なんとかなるはず!)

 

 挫けず、諦めず、必死に探し求めた甲斐はあったようで、巧人はついに自分が隠れられる場所を発見し、一目散に向かっていくが、その時、巧人は大きな過ちを犯してしまった。

 

 ーーそれは自分の周囲の状況をよく観察していなかったことだ。

 

カラン

 

(……ッ!こんなところに空き缶……だと!?)

 

 巧人は無造作にポイ捨てされていた空き缶を勢いよく蹴ってしまい、その発生した音によりガストレアに気づかれてしまった。

 

 もちろん、それはただの結果論であって、運に見放されてしまったとも言えるだろう。しかし、たったそれだけで逃げられたはずのものが不可能になってしまった。それは変えることのできない事実だということもたしかだった。

 

 モデル・スパイダーのガストレアは巧人との距離をひとつの跳躍で一気に無くして、一瞬の内に巧人の前に回り込み立ちはだかった。

 

(……ああ、司馬会長の誘いに乗って、俺が仮にでも民警になっていたとしたら、俺も啓太郎さんもこんな状況にならずに済んだのかな。……クソッ、この状況を打開できる、そんな力が欲しい)

 

 この絶望的な状況に巧人は逃げ出すこともできずに立ち尽くし、後悔の念に駆られてしまう。

 

(……いや、弱気になるな!まだ、俺は死んだわけじゃないんだ。だから、民警の人が来るまで、絶対に持ちこたえてやる!)

 

「ウォォォッ!」

 

 巧人は気合いを入れるようにして吼えると、ガストレアに向かって突っ込んでいった。そして、自分より大きな化け物の空いている股下を滑り込むようにして抜け出すと、そのまま勢いよく駆け出していく。

 

「◻◻◻◻ッッ!」

 

 巧人に僅かな隙間を突かれたガストレアはけたたましい鳴き声をひとつあげると、体を180度方向転換させて巧人の追跡を再開させた。

 

 このガストレアの走行スピードはついさっき体感したように、車とほぼ互角であり、人間の脚では到底敵うことない相手。そんなことは今走って逃げている巧人もわかりきっていた。それでも、最後まで諦めるつもりは全くなかった。

 

『Battle Mode』

 

「……え?」

 

 ーーしかし、その往生際の悪さが功を奏したのか、巧人の元へ救援はやって来た。それは民警でもなければ、ただの警官でもない。ましてや、ガストレアウイルスを保菌している「呪われた子供たち」でもなかった。

 

 無機質で抑揚のない音声がどこからか聞こえてきたかと思うと、その音のする方には巧人にとって見覚えのある紫色のサイドカーが運転手のいない状態でこの場に来ていた。そして、そのサイドカーは二足歩行型のロボットに変形した。

 

「あれは、父さんのサイドカー……なのか?」

 

 そう。巧人を助けるために姿を見せたその正体とは、三原修二が遺してくれた可変型ヴァリアブルビークル。ーーサイドバッシャーだった。

 

 ビークルモードからバトルモードへの変形を終えたサイドバッシャーは、巧人の近くにシルバーのアタッシュケースを投げ飛ばした後、巧人の後ろをつけていたガストレアに近づいていき右腕の爪を使って掴み掛かった。

 

「……こいつは、ケースの中を見ろってことか」

 

 巧人は巧人で自分に投げられたケースの中身が何なのかを確認するために急いで開く。

 

 そのアタッシュケースの中には機械でできたベルト状のもの、ビデオカメラらしきもの、拳銃の持ち手のようなもの。そして、「巧人へ」と書かれた手紙が入っていた。




 今更ですが、劇場版ドライブ観に行ってきました。個人的な感想だと、最近の中では1~2位を争うくらい面白かったかもしれないです。

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