フォトン・ブレット~白色の光弾~   作:保志白金

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 今回は主人公の紹介です。話はまだ進まないので気軽にどうぞ。


act1~甦りし救世主~
プロローグ~三原巧人~


「行ってきます、母さん」

 

「ちょっと待って巧人、忘れ物はない?」

 

「え?……うん、ない。大丈夫だよ」

 

「そう。じゃあいってらっしゃい」

 

 そして、時は流れて西暦2031年。三原修二、里奈の息子ーー巧人(たくと)は勾田高校に通う2年生として今の生活をなに不自由なく普通に送っている。ちなみに「巧人」という名前は、修二の尊敬していた身近な友人ーー乾「巧」、草加雅「人」の二人の名前から来ているという。

 

 巧人は自転車で学校に向かうその前に、ある理由で寄り道をしていた。そこは自宅近くにある寺院であり、墓参りのために来ていたのである。

 

「父さん、また来たよ。……あの日から、もう10年も経ったんだね」

 

 墓の前で巧人は自分の父親である修二のことを頭に浮かべていた。ーーそれと同時に10年前の今日の出来事も。

 

 それは明け方のことだった。運転席には誰も乗っていない紫色のサイドカーが里奈と巧人の住む家の前に停められていたのだ。朝早くの出来事だったということもあり、巧人はやや寝ぼけており意識も多少はっきりしていなかったところがあった。そのため、巧人もその時の情景を全て完璧に覚えているわけではない。

 

 ただ、そのサイドカーの側車にべっとりと血糊の着いた銀色のアタッシュケースが無造作に置かれていたことと、母親である里奈がサイドカーに付着していたサラサラとした砂のようなものを見て涙を流していたこと、その二つだけは巧人の中の記憶として未だに残っていた。そして、巧人はその時泣くことはしなかったが、自分の父親はガストレアと勇敢に戦い、戦死したのだと、幼いながらも察していた。

 

 しかし、自分の父親が仮面ライダーだという事実は修二本人の口からも里奈の口からも、息子である巧人に語られることは決してなかった。それはガストレアとの過酷な戦いに息子を巻き込みたくないという親心あっての判断だった。

 

「それじゃあ今日も学校があるから行かないと。じゃあまた来るよ、父さん」

 

 巧人は父親の名前が刻まれている墓石に向かってそれだけ告げて、自転車を走らせこの場を後にした。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

 それから巧人は、ほぼ授業が始まる時間ギリギリで席に着き、それと同時に鐘が鳴り先生が教室へ入ってくる。

 

「よし、みんな席に着け。出欠を取るぞ」

 

 先生のその一言によって、教室内を立ち歩き喋っていた生徒達は各自の席へと戻っていく。

 

「え~と、次は三原」

 

「はい」

 

 巧人は出席確認のために先生に苗字を呼ばれ、普通に受け答えをして、クラス全員の出欠を取り終えた段階でようやく国語の授業が始まった。

 

ガラガラガラ

 

(……今日も遅刻か、里見は)

 

 このクラスにはちょっとした問題児が一人いる。それがちょうど今、遅れて教室に入ってきた男子ーー里見蓮太郎である。彼は授業にはほぼ毎日出ているものの、そのほとんどが睡眠のための時間であり、まともに授業を受けていない。先生や同じクラスの生徒に話しかけられようとも、それらを全て無視して過ごし、クラスの女子には「なんで学校に来ているのかしら」と言われるほどだった。

 

 そのようにして、置物のみたいに自分の席から動かないでいた蓮太郎だったが、四時間目が終わった段階で少し動きがあった。彼は突然自分のスマホを懐から取り出して、しばらくの間スマホの画面とにらめっこをしているのだ。その後、どこか諦めたような顔をして誰かと通話を始めた。

 

 蓮太郎の少し変わった様子を友人と共に昼食を摂りつつ、遠くからただなんとなく見ていた巧人だったが、次の瞬間クラスメート中が騒々しくなる出来事が起こった。

 

「おい、あの制服ってまさか……!」

 

「……ミワ女に通ってるどっかのお嬢様だよな」

 

 蓮太郎の後ろには三和女学院の黒いセーラー服を着た黒髪の美人がいたのだ。それから二人は知り合いだったらしく、そのまま少しの間だけではあるが、話をしていた。

 

 ミワ女のお嬢様が何の用でこの勾田高校に来たのか?あの美人の正体はいったい何なのか?なぜ、あの里見蓮太郎と知り合いなのか?ーーなど、この教室にいる生徒全員がそれぞれに様々な疑問を持ったが、すぐにこの場を蓮太郎と共に去ってしまったので、結局どれも解決することなく終わった。

 

「綺麗だったなぁ、あのヒト」

 

「本当そうだよな。あんな綺麗なヒトが自分の彼女になってくれたらどんなにいいことか。……なぁ、巧人はどう思うよ?」

 

 巧人の周りにいた友人二人は去っていった女性のことについて、ヒソヒソと話し合っていて、巧人の方にも話を振った。

 

「……ああ。たしかに綺麗だった。……綺麗だったけど」

 

 巧人も友人一人の意見に同意するような態度を示すが、

 

「……けど、なんだ?」

 

「いや、やっぱりなんでもない」

 

 言葉でこそ表現できないが、ただ単なる容姿の綺麗な美少女ではない、そんな違和感をどこかしらに感じた巧人だった。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

 一日の授業が全て終わった放課後、巧人が体をほぐすために背伸びをしていると、

 

「ふぅ、ようやく今日も退屈な授業が終わったな。部活に行こうぜ、巧人」

 

 後ろに座っている部活仲間の友人から声をかけられる。巧人が所属している部活動は空手道部。普通ならば選択肢にも出てこないはずの少し変わった競技を巧人は選んでいた。理由は修二の薦めもあり、幼い頃から近所に道場があって、そこへ通っていたから、というよくありがちなものだったが、その他にも明確な理由が巧人の中にはあった。

 

 ちなみに、巧人の体格は身長176㎝、体重66㎏と特に恵まれているというわけではなく、一般的な高校生の平均値に限りなく近い。容姿はそれなりに整っていて中の上くらい。学業に関しても並より少し上といったところだ。

 

 しかし、身体能力に関しては違った。視力は両目共に2.0オーバー。他のどの同級生よりも運動神経が飛び抜けて良く、どんな競技を行っても巧人は短時間でコツを掴み、簡単にやってのけた。加えて、陸上競技や水泳に関して言ってしまえば、本業の部員達よりも速いタイムをマークしてしまうこともしばしば。こんな調子なので、他の部活動から引き抜かれそうにもなったり、この学校の女生徒からは意外と人気があったりもした。

 

「ん、ああ。それもそうだな。……よし、行こうか」

 

 巧人は荷物をまとめた後、席から立ち上がり真っ直ぐ武道場へと向かって歩いていこうとするが、

 

『2年3組の三原巧人君。至急、生徒会室に来てください』

 

 校内放送が突然鳴り巧人の名前が呼ばれたので、足を止めてしまう。

 

「なあ巧人。お前呼ばれてるけど、何かしたのか?」

 

「いや、やらかした覚えは何もないけど」

 

(俺、何か不味いことしたっけ?……まぁ、行ってみるしかないか)

 

 全く身に覚えのないことに巧人は当惑してしまうが、クラスメートもざわつき始めたので、武道場へ行く直前に仕方なく生徒会室に向かうのだった。


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