フォトン・ブレット~白色の光弾~   作:保志白金

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 明けましておめでとうございます。

 今年もスローペースではありますが、更新を進めていくので、どうかよろしくお願いしますm(__)m


第15話~東京エリアの裏~

「う~ん、なんかいっぱい買ったねぇ~」

 

「……かな子、普通に夕飯とかの買い出しを事前に頼まれていたんだったら、先に言ってくれよ。特に重くは感じないけど、いくらなんでもこれは多すぎるだろ」

 

 大量の荷物を両手に持ち、いかにも疲れている様子を全面に見せる巧人。かな子は視線をあたふたと逸らしながら気まずそうに首を傾げた。

 

「あれ?私、言ってなかったっけ?」

 

「ああ、そんなこと一言も聞いていなかった。……こんな有り様になると最初から知っていたら、俺もサイドバッシャーで来たのにな」

 

「さいどばっしゃー?」

 

「ただの独り言だよ。あまり気にするなって」

 

「……ふ~ん?変なの」

 

 もちろん、これも本心で言っているわけではない。巧人の冗談だ。しかし、そんな愚痴を口にするほどの量の買い物を巧人は付き合わされたのである。

 

「あ、そうだ!じゃあ、巧人もお疲れみたいだし、ちょっと休憩していこうよ。私がご馳走してあげるからさ」

 

「いや、それはさすがにかな子に悪いって。それに、ある程度の軽食をできるぐらいの金は、俺だって持ち合わせているからさ」

 

 奢ってあげると提案するかな子だが、さすがにそれは気が引けるようで、首を横に振って遠慮をする。

 

「別に遠慮しなくていいよ。ちょうど期限ギリギリの使えるサービス券がちょうど残ってたから、そこのところはご心配なく」

 

「そうなのか?だったら、お言葉に甘えるとしようかな。……それで、今から行くつもりなのはどこの店なんだ?」

 

 そう訊ねられると、かな子は一度小首を傾げてから反対側の歩道に向けて指差しつつ、口を開いた。

 

「そこまで遠くないはずだから、とりあえず私についてきてよ」

 

 巧人はその言葉に黙って頷き、道案内を委ねることにして、人通りがまばらで少しだけシャッター街になりかけているアーケードを横切るようにして通過していく。

 

 その時の時刻は午後5時30分。今の季節はもうそろそろ夏と言ったところなので、周囲はまだそこそこの明るさを有していたが、日は大分傾き、空は多少薄暗くなりつつある。

 

 それが影響してのことだろうか、巧人とかな子は偶然ではあるが、今にも泣きだしそうな顔をした一人の少女を目撃した。それも、同じ勾田高校の制服を着ている自分達と同い年くらいで、明るめの茶髪が特徴的なショートヘアの少女である。彼女は、せわしなく辺りをキョロキョロとしていて、落ち着きが全くと言って無い。

 

「あの子どうしたんだろう?何か困っているみたいだけど……」

 

「……そうだな、とりあえず何があったのか、理由だけでも聞いてみるか」

 

 どうやら、巧人もかな子も彼女のことを放っておけないと思ったようで、二人は彼女に近寄っていき思い切って訊ねた。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

 少女は不意に声をかけられたことに驚き、肩をビクッと突き動かしたが、すぐに巧人達の方を向いた。

 

「……あ、いえ、別に大したことじゃないんです。私の妹が迷子になってしまって、その子を捜しているだけですから。ところで、あなた達は……?」

 

「俺は勾田高校二年の三原巧人。まぁ、制服を見れば一目瞭然だろうけど」

 

「私は同じく二年の桜井かな子です」

 

 二人の自己紹介が終わると、先程とは打って変わって彼女は申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。

 

「……すみません。先輩だってこと知らずに話してしまっていて。私は一年の乙倉夕美(おとくらゆみ)っていいます。では、私は急ぎますので、失礼します」

 

 そして、夕美は謝りをひとつ入れて、そそくさと立ち去ろうとするが、巧人は制止の声をかけた。

 

「ちょっと待って。俺達二人も捜すのに協力するからさ、その妹さんの服装とか身長とか、どんな特徴なのか教えてくれないか?」

 

 巧人は優しく声をかけ、夕美のことを手助けしようとするが、彼女は首を横に振った。

 

「……その、お言葉は嬉しいのですが、一人で大丈夫です。それに、先輩方に迷惑をかけるのが申し訳ないですし」

 

「いや、俺は別に迷惑だなんて思っていないよ。それに辺りも暗くなって、さらに危なくなるから、3人で手分けして捜した方が絶対にいい」

 

「本当に一人で大丈夫なんです。私達のことは気にせずに帰ってください」

 

「そんなこと言われても放っておけないよ。いなくなっちゃって焦る気持ちはわかるけど、ここは落ち着いーー」

 

「ですから、私にはかまわないでください!…………どうせ、先輩達も本当のことを知ったら……ッ!」

 

 夕美は頑なに巧人達の協力を拒み続けて、ついにはかな子の言葉を最後まで聞かずに遮り、急ぎ足でここから去っていった。

 

「……う~ん、行っちゃったね。でも、夕美ちゃんは最後に何を言いたかったんだろう?」

 

「さあな。何のことを言ってるのかさっぱりだ。俺には見当もつかないよ」

 

 巧人はかな子の前だからこそ、口ではそう言ったものの、実際には自分なりの仮説が一つあった。

 

「けどさ、やっぱり心配だから俺は捜しに行くよ。特徴を聞くことはできなかったけど、要するに乙倉さんに似た迷子らしき女の子を見つければいいわけだろ?きっとなんとかなるさ」

 

「じゃあ、私もーー」

 

「いや、かな子はここで待っていてくれ。荷物を持った状態だと動きづらいから、こいつらを見張っといてくれ。あ、別に一人で先に帰っていてもかまわないから、よろしくな」

 

 そう言うと、両手に持っていた荷物をかな子の傍に置いて、駆け出していく。

 

「えっ!?ちょっ、待ってよ~」

 

(もし、俺の考えが正しいのなら、本当に早く見つけ出さないと、取り返しのつかないことになるかもしれない。けど、そうは絶対にさせない!)

 

 そして、一つの大きな不安を抱えながらも、巧人は捜索を開始させるのだった。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

 夕美と巧人があちこちを走り回っている一方で、迷子の少女はというと、かなり危険な状況に巻き込まれていた。それは、いかにもという典型的なチンピラ達に一方的な因縁をつけられて囲まれていた。

 

「おい、テメェのせいで俺の服が台無しになったんだよ。だから弁償しろや!このガキ!」

 

「…………ッ!」

 

 アイスクリームがべっとりついている服を着たチンピラの一人が、女の子のことを怒鳴り散らすと、女の子は恐怖で怯え、体をブルブルと震わせる。その時の女の子の目は、赤く光っていた。

 

「オイオイ。なんだよコイツ、赤目じゃねえか!?」

 

「ケッ、マジかよ?そんなんだったら、金をぶんどることできねぇじゃんかよ」

 

 彼女が『呪われた子供たち』であると知り、そこにいた一部のチンピラは、露骨そうに残念がる。だが、逆にそれを都合よく解釈をした者がいた。その危険な考えを持った男は、歪んだ笑みを浮かべながら言った。 

 

「まぁ逆に考えてみろよ。たしかに金はとれねぇだろうが、ちょっとしたガス抜きに使えるだろう?」

 

 その言葉をチンピラ達全員は理解したようで、お互いに顔を見合ってアイコンタクトをする。それから間を置くことなく、一人の男がナイフを片手に持ちながら、怯えたまま震えている女の子に近づいてきた。

 

「ああ、たしかにそうだな。コイツら赤目は、化け物同然の存在なんだから、何をしようが咎められないよな」

 

 理不尽な理屈を並べて、自分達が正当であると言い聞かせると、喜々として笑いながらナイフを高く振りかざした。

 

 ーーこのように、東京エリアでは、『呪われた子ども達』の迫害を、さも当然のように行われてきている。もちろんそれは、ここに住んでいる人々の全てに該当するわけではなく、彼女達のことを一人の人間として認識している蓮太郎や聖天子などのような例外もいる。ただ、そのような思想を持った人間は圧倒的少数であることもまた、変えようのない事実だった。

 

(怖い、怖いよ!助けて、お姉ちゃん!)

 

 藁にもすがる思いで必死に祈る女の子。

 

 その祈りが通じたのか、はたまた偶然か、振りかざされたナイフは、女の子の元に届くことなくその場で止まった。さらに、止まったものはそのナイフだけでなく、ここにいるチンピラ全員が、ある一点を注目して行動を一時中断させたのである。

 

 彼らの目に映ったものは、突然上から舞い降りてきて、女の子とナイフを持っている仲間の間に割って入ってきた全身黒ずくめの青年だった。

 

「オイ、テメェ誰だ?」

 

「…………」

 

 突如現れた不審人物に対して、2、3歩と後ずさりながら男は問いかけるが、青年は何も言葉を発そうとしない。

 

「ま、待って、危ないよ!」

 

 さらに、自分のことを心配する女の子の声すら気にも留めず、ただ青年は男達に敵意を込めた視線向けながら、ツカツカと歩き進んでいく。

 

「チッ、無視すんなや。クソガキがッ!」

 

 後ろに控えていた下っ端は、それを見て腹が立ったようで青年の前に立ちはだかり、顔面目がけて右拳を振りぬいた。青年の後ろにいる少女は、思わず顔をそむけてしまうが、鈍い打撃音が聞こえてこなかった。それを不審に思い、顔を恐る恐る前に向けると、そこには、相手の右腕を掴み、拳を受け止めている青年の姿があった。

 

「……今すぐにこの場から立ち去り、彼女のことを自由にしろ。俺は貴様らと闘り合うつもりはない」

 

 「立ち去れ」と命令口調に近い物言いで青年は彼らに促すが、そのような高圧的な言い方に彼らが応じるはずもなく、逆に全員が好戦的な姿勢を見せる。

 

「何、ふざけたことを言ってやがる。テメェが勝手に首を突っ込んでおいてよォ!」

 

 そして、リーダー格の男の言葉が合図となって、男達は一斉に青年へ向かって突っ込んでくる。

 

「……交渉の余地が全くないか。だったら仕方がない。これは不本意な結果だが、貴様らがそれを望むのならば、いいだろう。力でねじ伏せてやる」

 

 青年は静かに嘆息しながら、自分の元へ立ち向かってくる相手の数を目で見やり確認する。その後、自分の腰に提げられた、ホルスターに一瞬だけ視線を落としたが、すぐに前を向き直した。

 

(同時に来る敵は、まだ両手で数えられる範囲内。この数であの程度の実力しか有していないのならば、コイツを使うまでもないだろう。……素手で十分だ)

 

 男達は殴りかかったり、掴みかかろうとしたりと各々が攻撃を繰り出していくが、青年は無駄のない動きで男達のそれらの攻撃を次々と躱していき、同時にカウンターをそれぞれの腹部に叩き込んだ。

 

「ガフッ!」

 

「……グエッ!」

 

 そして、そのカウンターは男達の人体急所を的確に捉えており、一撃のもとにノックアウトしていく。これで残すは、ナイフを片手に持ったリーダー格の男のみとなっていた。

 

「……まだ、続けるか?」

 

 青年は暴れようとした荒くれ者達をひとしきり沈静化させると、特に気分を高揚させることなく、表情を一切変えないまま訊ねる。しかし、ナイフを持った男には、まだ打つ手が残されているようで、ここから逃げようとはしなかった。

 

「フン、だったらこれはどうだ!」

 

 そう言って男は、懐からリボルバー型の拳銃を金髪の少女に構えたのである。青年はこれでもなお、表情を変えることはしなかったのだが、怒気を込めた言葉で嫌悪感をあらわにした。

 

「……この下郎が」

 

「おっと、そこから動くな。これもまた戦術のひとつだ。きれいに勝つ必要なんかねぇんだよ」

 

 撃鉄の上に置かれた親指はゆっくりと下げられていき、「カチリ」と、発砲の準備を報せる音が静かに鳴る。さらに男は、あごを動かして、青年の腰にある何かを指しながら命令した。

 

「お前の腰に提げられた、そのいかにもゴツそうな銃。そのままホルスターごと地面に落とせ」

 

「ああ、いいだろう」

 

 対する青年は、おとなしくそれに応じ、すぐに己の武器を地面へ落とした。

 

「どうだ、これで満足か?もし満足したのならば、彼女のことは見逃せ」

 

「は?何言ってんだお前は。赤目の連中を野放しにしておいて良い道理なんかねぇからこそ、今ここで痛め付けてやろうとしてんだろ。……けど、安心しろよ。テメェのことはその銃に免じて見逃してやっからよ」

 

 丸腰になっている青年の言い分を無視し、男は引き金にかけられた人差し指に力を込めていき、あっという間に最後まで引き絞った。女の子は迫ってくる死の恐怖から、目を閉じて体を屈ませるが、銃弾がぶつかる衝撃も突き刺さる痛みも何も感じてこない。

 

 それもそのはず。なぜなら、男の放った銃弾は、拳銃もろとも青年の銃撃によって()()してしまったからだ。青年の手元には、メリケンサックにも見える紫色の拳銃が握られていた。

 

「……いったい、何をしやがったッ!?」

 

 目をほんの一瞬だけ切った間に、どのような手を使って、地面に置かれていたはずのその拳銃を手元に引き寄せたのか。男は訳がわからずに驚愕していると、青年はすかさず近寄り、片手で首を掴みかかる。そして、軽々と持ち上げて、そのまま男の首を締め付け始めた。

 

「……貴様のような連中は、殺す価値こそない。だが、しばらくの間動けない体にしてやる」

 

「ま、待てよ!お前には何もするつもりは無いんだ!本当に見逃すつもりだったんだよ!だからーー」

 

「……いい加減黙れ」

 

 青年は、拳銃を今度はメリケンサック代わりとして扱い、男の腹部に強烈な打撃を打ち込んだ。リーダー格だったはずの男はその一撃を食らうと、メキメキと変な音を立てながら、5~6メートル後方に大きく吹き飛んでいった。青年は、チンピラ共が完全に沈黙したことを確認すると、地面に落としたホルスターを腰に付け直しながら、女の子の元に近づいていき、手を差し伸べる。そして、声をかけるのだった。

 

「立てるか?」

 

「は、はい。大丈夫……です。助けてくれてありがとう、ございました」

 

「礼などいらん。それよりもお前は早く帰るべき場所へ帰った方がいい。これ以上酷い目に遭いたくなければな」

 

 青年はそれだけ手短に伝えると、身を翻してここから去っていこうとする。しかし、それを止める者がいた。その迷子の女の子を捜していた巧人だ。

 

「待ってくれ。キミがあの子を助けてくれたんだよな?」

 

「……ああ、この場合はそうなるのだろうが、それがどうかしたのか?まさか、貴様もこの男達のように彼女を襲うつもりーー」

 

「いや違う!ただ、俺は迷子になっていたその子のことを捜していたんだ」

 

「なんだ、そうだったか。だったら後のことはお前に任せるとしよう。それと、直にこの騒ぎを嗅ぎ付けて警察が来るだろうから、もしそれに巻き込まれたくないのならば、俺と同様に早く去ることを勧めるぞ」

 

 巧人の制止の声もあまり効果がないようで、やはりここからすぐに立ち去ろうとしている。それでも巧人は諦めずに声をかけ続ける。

 

「だから、待ってくれよ。せめて、その子のお姉さんがここに駆けつけるまでは、その子の傍にいてくれないか?」

 

「……それは人としてのなすべき義務なのか?」

 

「いや、それが義務というわけではないけど、彼女もキミにちゃんと会ってお礼を言いたいだろうし……」

 

「義務でないのなら、俺は見返りも何も求めてはいない。それなら、その姉のことを待つ必要はないだろう」

 

 青年の意思は鋼のように固く、ここに留まらせることは無理であると、巧人は判断した。最後に巧人は、諦めたような顔をしながら、青年にこう訊ねた。

 

「……キミがいったい何を急いでいるのか、今は特に何も訊かないけど、せめて名前だけでも教えてくれないか?一応、こっちも名乗っておくと、俺の名前は三原。三原巧人だ」

 

「……ミハラ、タクト。なぜ、俺にそのようなことを訊く?俺と再び会う機会などもう無いというのに、無駄ではないのか?」

 

 相手の名前を確認するように呟いてから、逆に巧人へ質問を投げ返す。すると巧人は、当然と言わんばかりにすぐさま答えを返した。

 

「せめて恩人の名前だけでも伝えておこうと思ってさ。それにそんなこと言っても、人生何が起こるかは誰にもわからない。俺ともう一度会うことだってあるかもしれないじゃないか」

 

「…………そちらが名乗っておいて、俺が名乗らないのはアンフェアだからな。こちらも名乗っておくとしよう。俺はデュオ。デュオ・クロムウェルだ」

 

 青年はしばらく沈黙した後、背を向けたのだが、最終的には折れた形となり、自分の名前を巧人に告げた。そして、それだけを伝えると、今度こそ本当に去っていくのだった。


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