第14話~桜井かな子~
「なるほど。つまり、基本的には前衛を私に任せると、そういうことですか?」
「ああ、極力目立つことだけは避けたいからさ。それにセオリー通りなら、これが普通なんだよね?だったら、問題はないと思うんだけど」
「たしかに、そうなんですが……私、ずっとサポートに撤してきたので、うまく立ち回れるかどうか、少し不安なところがあります」
巧人と夏世が正式な民警ペアとなって、早くも2週間が経つ。しかしながら、引っ越し早々で慌ただしく動き回っていたり、そんな中でも巧人は普通に高校の授業があったりと、二人はゆっくりと時間をとって話し合えていなかったのだ。そして、ようやく一段落ついたところで、これからのことについて話し合っていた。その内容は主に民警としての仕事に関することがほとんどを占めている。
「それは大丈夫だって。夏世ちゃんは、民警になったばかりの俺なんかよりも民警歴は長いわけだし、それに戦い慣れてるだろうからね」
「そう、ですか。……でも、ありがとうございます。私のことを信頼してくれているみたいで」
「何言ってるんだ、これからはお互いにパートナーとして仕事をしていくわけなんだから、それくらい当たり前でしょ」
巧人はそう言って、少し浮かない顔をしている夏世に向けて笑顔を見せる。すると夏世は、一瞬ポカンと間を置いてからクスリと笑った。
「巧人さんは、里見さんとは少し違う方向の優しさを持っていますね」
「……?それはどういった意味合いかな?」
「深い意味は特にありません。でも、自分自身と里見さんを比べてみれば、違いがすぐにわかると思いますよ。きっと。……あ、そんなことより時間、大丈夫ですか?」
夏世がふと気が付き、それとなく指摘すると、巧人は自分の後ろにある時計を確認する。すると、時計の針はもうすぐ午前の8時を示そうとしていて、高校の始業時間に迫ろうとしていた。
「っと、もうこんな時間か。じゃあ、俺は学校に行ってくるよ。夏世ちゃんも出掛ける時は気をつけるようにしてね」
「はい、ではお気をつけて」
少し大きめのカバンにシルバーのアタッシュケースを無理矢理詰め込むと、巧人は扉を開け放った。
「ようやく俺もこの道に慣れてきたな。……まぁ、2週間も経てばそうなるか」
引っ越しをしたために、勾田高校への通学路も前とは変わったのだが、それにも大分慣れてきた様子の巧人。そんな巧人に後ろから声をかける者がいた。朗らかで巧人によく喋りかけてくれる、同じクラスの少女だ。
「おはよ~。巧人」
「ん?おう、おはよう。なんだ、今日は珍しく早いじゃないか、かな子」
「そ、そうかな?えへへ」
「……いや、俺は別にかな子のことを誉めたつもりはないんだけど。ま、いいか」
巧人は「いつも遅刻ギリギリだろ」と、そのようなことを言ったつもりなのだが、当のかな子はそのような意味でとっておらず、なぜだか嬉しそうに笑っている。そして、そこからしばらくの間、二人の間では他愛のない普通の会話が続いていった。
「ねねっ、最近の部活の調子はどうなの?大会とか近いんだよね?」
「調子は絶好調!……って言いたいところだけど、まずまずかな。最近色々と忙しかったし。そんなことよりもそろそろ中間試験があるだろ。かな子はそんなに余裕があるのか?」
「うん、しっかりと復習したから多分バッチリだよ!……まぁ、英語と世界史は、いつも通りヤバい気がするけどね。アハハ……」
「もう始めてるのか?だったら、俺もそろそろ始めていかないと、順位が落ちるかもな」
学校に到着して、駐輪場に各々の自転車を並べて置こうとしていたその時、かな子が何かを思い出したかのように「あ」、と声を出した。
「そうだ。巧人は今日の放課後に予定とか既にあるかな?」
「今日も普通に部活が……ん?でも、そろそろ試験期間に入るわけだし、今日から休みだったか……お、今日から休みらしいな。それで、そんなことをかな子が俺に訊くなんて、何か用事でもあるのか?」
対して巧人は、自転車に鍵をかけながら部活の予定表を頭の中に思い浮かべる。ただ、自分の記憶があやふやだったため、スマホのフォルダ内にある部活予定表を確認すると、今日から全部活が休み期間となっていた。
「ちょっと買い物に付き合って欲しいかなぁ、なんて考えてたりして。あ、でも都合が悪くて、何かすることがあるんだったら、別にそっちを優先してもいいから。うん、別に無理して来ることはないから」
顔をあちこちに向けたり、両手をわたわた意味なく動かしたりと、いかにも挙動不審な様子のかな子。巧人はそんな様子だった彼女を見ることもなく、答えるのだった。
「なんだそんなことか。俺は別に構わないよ、ちょうど気分転換でもしたいと思ってたところだしな」
「ほ、本当に?やったぁ」
ーー意地悪なことをよく言うけど、なんだかんだ言って、やっぱり巧人って優しいなぁ。
「喜ぶほどのことなのか?相変わらずかな子は、大袈裟だな」
「それじゃあ、今日の授業が終わったら、一度家に帰ってから駅に集合ね!」
かな子は巧人にそう伝えると、嬉しそうな顔を浮かべて急に走り出した。
「あ、おい!急に走り出して、転ぶなよ」
「だ~いじょうぶだよ~。……ひゃあ!」
「……はぁ、言わんこっちゃない。かな子は何も無いところでもよく転ぶんだから、もう少し気をつけた方がいいぞ。いつも言ってるだろう?」
ーーったく、昔から本当に危なっかしいよな、かな子は。
額に手を当ててため息をひとつ吐いてから、巧人は躓いたかな子に向けて手を差し伸べる。かな子は口から舌を小さく出しながら、差し出された手の助けを借りて、立ち上がった。
「……えへへ、ごめんごめん」
◼◼◼
「なんだか久しぶりだなぁ、寄り道でこっちまで来たの。しかも巧人と一緒に、なんてさ」
「そうだったのか?かな子だったら、『新作のスイーツが出たんだよね~』とかなんとか言って、真っ先に飛んで来ると思ってたんだけど、最近はそういうのが無いのか」
「む~、それどういう意味?」
「ちょっとした冗談だって、そう睨むなよ」
放課後となった、珍しく何も予定が無かった巧人は、かな子に頼まれた通り、ショッピングモールへ一緒に来ている。
「でも冷静によく考えてみたら、こういうのは、普通女友達同士で行くものなんじゃないのか。今さらだけど、俺なんかが一緒に来てよかったのか?」
ただ、こういった場所に巧人は行き慣れていないのか、少し居心地の悪さを感じており、そんなことを口に出してしまう。かな子はそれを聞くと、顔をそっぽに向けて小さな声で控えめに訴えた。
「……なんで気付いてくれないのかな。巧人じゃなきゃダメなんだよ」
「なんだって?周りがうるさくて少し聞き取りづらいんだから、ボソボソ言わないでくれよ」
しかし、周囲の他の客の声も相まって、かな子の控えめな訴えは、巧人に届くことはなかった。
「な、なんでもないよ。ま、巧人には、荷物持ちを頑張ってもらうんだから覚悟しておいてよ~」
「はぁ、やっぱりそういう話だったか。そうなることは薄々感付いてたけど……。わかったよ、任せておけ」
ため息をつきながら頷くと、かな子は満面の笑顔を見せてわかりやすく喜んでいる様子を表現している。巧人はそれを見て、「やれやれ」と思うと同時に小さく笑うのだった。
◼◼◼
「『白き救世主、再び現る』か。……貴様なのか?俺の友を殺したあの時の『白い奴』というのは」
黒いレギンスに紫のライダースジャケットという格好をした青年は、道端に捨てられていた新聞紙のごく小さな記事を見て、忌々しそうに呟いた。
「……これは確かめてみる必要がありそうだな」
そして、何か決意をしたのか、近くに停めていた髑髏の装飾が施された黒い大型バイクに跨がり、エンジンをかけようとする。ところが、懐にしまっていた情報端末の着信音が鳴ったことにより中断された。
端末の表示された画面を確認してから、青年は流れ作業のように淡々と応答した。
「なんだ、プロフェッサー・エイン」
『……なぜ、お前がその端末を持っているのかを訊きたいところだが、今は特に言及しないでおく。定時の報告をしろ』
受話器の向こう側では、その青年に電話をしたつもりではなく、これは予想外の出来事だったため、初めに言葉を詰まらせたが、向こうも気を取り直して話を進めていく。
「そうだな、東京エリアへの潜入は無事に完了した。ティナはアパートに戻って、今は寝ているだろう」
『そうか。それで、お前の使命は……わかっているんだろうな?』
「ああ、問題ない」
『ならば、通信を切るぞ。お前に話すことはもうないからな』
受話器の向こう側では、この青年との会話を早く終わらせたいといった意図を、やや不機嫌そうにしている声から読み取ることができる。しかし、青年は制止の声をかけた。
「待て、俺からひとつ頼みたいことがある。仮面ライダーという者を可能な限り、調べてほしい」
『ほう、機械のような貴様が特定の何かに興味を持つとは。珍しいこともあるものだな、
「……俺のことをその二つ名で呼ぶな。俺の名はデュオ。デュオ・クロムウェルだ」
『フン、言われずともそんなことは知っている』
その言葉を最後に二人の通信は途切れた。
本文の最後でも読み取れる通り、デルタとは別の3号ライダーを出す予定です。なので、タグは後から追加しておきます。