フォトン・ブレット~白色の光弾~   作:保志白金

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第12話~戦いの終結~

 デルタが『天の梯子』へ向かう途中、ガストレアの大群は待ってましたと言わんばかりにデルタへ襲いかかってきた。

 

 しかし、それは『天の梯子』を目指して来たというよりも、ついさっきバットオルフェノクと戦っていた場所に集まってきた、という考えの方が案外近いかもしれない。なぜなら、デルタが走り出して一分も経過しない内に遭遇したからである。

 

『これは聖天子様の作戦的に考えれば、好都合なのかもな。まぁそのおかげで、俺もあそこまで移動する手間が省けたわけだ』

 

 デルタはガストレア達の突進を器用に受け流しながら、蹴りや拳打などの格闘技で反撃を確実に加えていった。比較的に体の小さなガストレアは、その攻撃だけでほとんど動けない状態にまで至っているが、それはごく稀な例であり、大抵のガストレアは未だに活発な動きを見せている。

 

『なかなか倒れてくれない奴が多いな。だったら、これはどうだ!』

 

 肉弾戦を続けてもあまり効果的でないと判断したのか、今度はデルタムーバーを腰から取り出し、そのまま連続でドロウ。青白い光弾はまっすぐガストレアの群れに突き刺さり、それらの命を容易に散らせていく。さらに、事前に呼び出しておいたサイドバッシャーもようやく合流して、高火力の砲撃による追い討ちをかけていた。

 

 こうして見ていると、デルタとサイドバッシャーは戦闘を有利に運んでいて、作戦も順調に進んでいるようにも思えてくる。

 

『しかし、困ったな。……数が多すぎる』

 

 ところが、戦闘が始まって5分と経過しない内に、ガストレアが減っていくペースは、目に見えるほどわかりやすく急激に落ちた。それもそのはず、その時点でサイドバッシャーに内蔵されたフォトンミサイルの残弾数はゼロ。フォトンブラッド粒子量も連戦が続き、フォトンバルカンをハイペースで連射してしまったせいか、そろそろ底が尽きてしまう。

 

 さらに、ステージⅣのガストレアを相手にする場合は、フォトンブラッド光弾を何発も撃ち込む、もしくは急所を的確に狙って撃ち抜かなければ仕留めることができなかった。そのため、仕留め損なったガストレアからの攻撃を受ける回数が段々と増えていった。

 

『グッ、ガッ!…………フッ、この程度かよ!』

 

 かなりの重量がある巨体から放たれた攻撃によって、デルタは思わず膝を屈しそうになるが、なんとか持ちこたえて、自らを鼓舞し、奮い立たせた。

 

 デルタの攻撃力が高いのは既に実証されてきたわけであるが、防御力も全身を鎧で固めているため、非常に高い。そのため、デルタよりも一回り、もしくは二回り大きい程度の比較的に小さなステージⅣガストレアの攻撃を数発ほど食らっただけでは、変身の強制解除にまでは至らなかったのである。

 

 しかし、このままでは埒が明かないと判断してか、デルタはデルタムーバーで敵を牽制しながら、ミッションメモリーに左手を伸ばした。

 

『Ready』

 

 デルタムーバーにミッションメモリーを装填してからも銃撃をやめようとはせず、ただひたすらに撃ち続ける。それはまるで、何かを虎視眈々と狙っているかのように、音声入力をすることなく待機させていた。

 

『……Check!』

 

『Exceed Charge』

 

 そして、相手をしていたガストレア達がほぼ一ヶ所に集中した段階で、デルタムーバーに一言吹き込み、トリガーを二度引く。すると、青紫色の三角錘状のポインティングマーカーが二つ同時に現れて、ガストレアの動きをまとめて封殺した。

 

『フッ…………セアッ!』

 

 デルタはその場で大きく跳び上がり、一つ目のマーカーへ蹴り込んでいく。そのままガストレアごと貫通して地面に着地。本来の一連の攻撃の流れならば、それで終わるはずなのだが、まだデルタの攻めは終わってない。

 

 蹴ったガストレアを足場として利用し、再度上空へと大きく跳び上がる。そして、最高到達点に達したところから降下していき、そこからさらに体を前方に宙返りさせた。

 

『ハァァァッ!』

 

 二度目の跳び蹴りの構えに入ったデルタは、残っているもうひとつのマーカーに吸い込まれるようにして進んでいき、標的としていたガストレア達の背後に颯爽と降り立つ。すると、ほぼ同時にいくつかの赤い三角形の紋章が浮かび上がり、ガストレアの体から赤い炎が上がった。

 

『よし。これでここにいたガストレアは全滅したみたいだ。……先を急ごう!』

 

「ーーすみません、待ってください」

 

 サイドバッシャーに跨がろうとしたデルタだったが、茂みの奥深くから突然姿を見せた少女から、不意に声をかけられて体の動きを止めた。よく見るとその少女は、肩にショットガンを提げている上に、服の傷も大小問わず様々な箇所につけられていた。乾いた血の塊もこびりついている。しかし、肝心な皮膚の部分には切り傷一つ負っていなかった。

 

 デルタは理解した、彼女が『呪われた子ども達』であり、同時に民警の片割れーーイニシエーターであることを。

 

『……ッ。キミは、誰だ?』

 

「私は、三ヶ島ロイヤルガーダーに所属する民警のイニシエーターです。先程は助けて頂いてありがとうございました」

 

『……は?え~と、ちょっと待ってくれよ。悪いんだけど、俺は無我夢中にガストレアと戦っていただけで、キミのことを助けた覚えはないんだ。いったいどういうことだい?』

 

 自分に身に覚えのないことに関する感謝の言葉を少女から述べられ、デルタは思わずたじろぐ。

 

「えっと、それはですね。私もれんーーとある民警ペアの元にガストレアを向かわせないために、先程まであの群贅と戦っていたんですが、超音波かそれに似た何かを発して、こちらにいた一部のガストレア達を誘き寄せていましたよね」

 

 そして、彼女の続けて発せられた言葉から、なぜ自分の元にガストレア達が集まってきたのかをようやく理解した。

 

『超音波だって?いや、それは俺が発したものじゃないな。……まさか、あのオルフェノクが最後に行っていたあの行為がそれだったということかもしれないな……』

 

「……?あなたの言っていることはよくわかりませんが、助けて頂いた事実に変わりはありませんから。それと、あなたが急ぐ必要はもうありません。今、あなたが戦っていたもので完全にガストレアが全滅しましたので」

 

『それは……本当なのか?』

 

「はい。少なくとも、大きな個体の気配はもうこの辺りにいませんから、安全でしょう。……あとは、あのステージⅤのガストレアさえ、なんとかすることができればいいのですが……おそらく諦めるしかなさそうですね」

 

 ガストレアを全滅できたこと自体は、非常に喜ばしいことなのだが、まだステージⅤがいる。その事実を既に知っている少女は、完全に諦めているかのような言葉を並べる。そんな彼女の心を励ますように、デルタは言った。

 

『いや、まだだ。まだ終わってなんかいない。あそこの『天の梯子』にいる民警の人が必ず成し遂げてくれるだろうさ』

 

 ーーあなたのそれは何の根拠もない、ただの理想であり、叶うはずのない願望です。

 

 彼女は内心でそのようなことを思い、口に出そうとしたが、決して実行に移そうとはしなかった。それは、蓮太郎と延珠の二人のことを信じて、見送った彼女もそのごく僅かな可能性に賭けてみたいと思ったからだ。

 

 

 

 

 

 デルタが最後に言葉を発してからほどなくして、『天の梯子』からは鋭い風切音と激しい発光と共に、弾丸となる蓮太郎の超バラニウム合金製の義手がステージⅤガストレア、スコーピオンに向けて放たれた。それと同時に巧人のデルタとしての戦いはひとまず終わりを迎えるのだった。




 今のところは、次回の話で一章を完結させる予定でいます。

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