フォトン・ブレット~白色の光弾~   作:保志白金

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第9話~二度の遭遇~

「仮面ライダー、だと?……10年前にパッと出てすぐに消えやがった幻の救世主様が今さら何をしに来たってんだ?」

 

 男は仮面ライダーの噂を当然ながら知っていたので、突っかかることなく話をすんなり進めようとする。無論、彼が納得している顔をしているかと言えば、それは間違いなく否である。

 

「俺は東京エリアの人々を救うためにここに来ました。さっきも言いましたけど、俺はあなた方の敵ではなく味方なのですから」

 

「ああ、そういや、そんなことをついさっき言ってたな。……で、こっから先どうするつもりだよ」

 

「どうするもこうするもありません。依頼されている奪われてしまったケースを取り返しにいく。ただそれだけです」

 

「……」

 

「……」

 

 二人ともその場から微動だにせず、互いに睨み合っている。そんな張り詰めた空気の中、先に動いたのは巧人ではなく、バスターソードを抜こうとしていた男の方だった。彼はなんとバスターソードの持ち手から手を離して、構えを解いたのである。

 

「チッ、そうかよ。しょうがねぇ……今のところはお前の話を信じてやる」

 

「……はぁ、ありがとうございます」

 

「いいか?確認のために言っておくが、「今のところは」だ。少しでも怪しい動きを見せたら、容赦なく弾くからな」

 

「だから、俺は敵じゃないと何度言えば……」

 

 巧人は仮面の下で大きく息を吐きながら、文句を言おうとしたが、大事なことを訊き忘れていたことに気が付き、言葉を切った。

 

「そういえば、あなたの名前を訊いてませんでしたね。一応連係のためにも教えてもらっていいですか?」

 

「フン、俺がお前に教える義理はねぇ」

 

「義理、ですか。だったらあるじゃないですか。なにせ、俺はあなたにきっちりと名を名乗ったんですから」

 

 頑なに名乗ろうとしない男に対し、巧人は挙げ足を取り、さらには強引なこじつけで無理にでも名前を聞こうとした。

 

「……伊熊将監だ」

 

 そして、その屁理屈にも等しいそれに納得してしまったのか、男は自分の名前をついに名乗った。しかし、名前すら教えたくなかったためか、歯切れ悪く自己紹介をそれだけで簡潔に終わらせるのだった。

 

「伊熊さん……ですね。では、これからよろしくお願いします」

 

「あ?何を勝手に俺がお前に協力すると思ってやがる。俺はお前のこれからやることの邪魔はしないが、協力をする気はさらさらねぇ。互いに干渉し合わないってことでいいだろ?」

 

「え、そんな!あなたこそ、何言ってるんです?助け合った方が要領よくことが進むに決まってる。それに一人よりも二人の方が生存する確率だって上がるじゃないですか」

 

「ハッ、とんだお人好しの考えだな。だいたい、一度も組んだことのない奴なんかと足並み揃えて戦えるわけねぇだろうが」

 

「それは……たしかにそうかもしれませんが」

 

 共闘することを拒む将監に、一歩も引かず共同戦線を意地でも確立させようとするが、それは巧人の頭の中ではある疑問が生じていたからだ。

 

(伊熊さんがここに一人でいる理由は、自分のイニシエーターとはぐれたからなのだろうか?それとも別の理由が……)

 

 訊こうにしても将監から返ってくる言葉次第では、関係がさらに悪化の一途を辿るのではないだろうか?その思考に至ってしまったら最後、言葉を詰まらせてしまい、何も言うことができなかった。

 

 沈黙が二人の間を支配する中、それを先に破ったのはまたしても将監だった。

 

「仲良しこよしで共闘するつもりはないが、お前には色々と訊きたいことがある」

 

「……それはなんですか?俺も答えられる範囲で答えますけど」

 

「いったい何を使ってガストレアを殺してやがる?少なくとも、そのスーツみてえな外骨格(エクサスケルトン)はバラニウム製じゃねえだろ」

 

 それは、いままで数多くのガストレアとの戦いを経験した将監だからこそ生じた疑問であり、それと同時に最も信じられなかった事柄。10年前の大戦時には

 

「……ッ。えっと、それはですね、この銃を使ってガストレアと戦っているんです」

 

 巧人は将監のその質問に一瞬息を詰まらせたが、デルタムーバーを指差しながらなんとか言葉を紡ぎだした。

 

「こいつからはバラニウムの銃弾ではなく、ビームみたいな光の弾が発射されて、ガストレアがそれを受けると灰になる、そんなイメージですね」

 

「……なるほど。そいつはずいぶんと胡散臭い代物だな」

 

「アハハ……ですよね~。こんな話を信じられるはずがありませんよ」

 

 冷ややかな目でこちらを覗いてくるのを感じ取ったのか、巧人は自信なさげに力無く笑い、自虐していた。

 

「……ったく、俺は信じないと一言も言ったつもりはないんだが」

 

「え、何か言いました?」

 

「……なんでもねえよ、ただの独り言だからお前は気にすんな。そんなことより、もう一つ質問させろ。お前は人を殺す覚悟があってここに来てんのか?」

 

「……?そんなことを訊いて何になるんですか」

 

「チッ、それすらもわかんないとはな。少なくとも、これを理屈で理解しようとしている時点でアウトだ。……お前は今回の仕事に向いてねえ。だからよーー」

 

 真正面から自分の発言をバッサリと切られた巧人だったが、そこから意気消沈することなく猛反論して将監に食らいつくのだった。

 

「俺にとってそんなことは関係ない。俺にこの依頼が向いてる、向いていないの問題じゃないんだ!東京エリアの人命を助けるか、もしくはそれを放棄するのか、そのどちらかを選択しろと迫られて後者を選べるはずがないでしょう!」

 

「ハッ!まだわかんねえか。だったら、もっとはっきり言ってやる。他人のために戦う奴なんてのは、いの一番に死ぬ。そんでもって、自分のために戦う奴の方が長生きするもんなんだよ!東京エリアの一般人を救うだのという、舐めきった覚悟で来た奴なんか、次の戦いで足手纏いになるだけだ。要は邪魔なんだよ!」

 

 デルタのことをギロリと睨み付けて一頻り怒鳴り散らすと、身を後ろに翻した。

 

「俺はもう行くぜ。お前の力を借りなくとも、あの仮面野郎を殺れる手段はあるしな」

 

「ま、待ってください、伊熊さん!俺の話はまだ終わってない!」

 

 制止の言葉をかけるがそれもむなしく、将監はその言葉の通りに暗闇の中へと消えていった。そして、一人取り残されてしまった巧人はその場で立ち尽くし、大きなため息を吐いていた。

 

「……はぁ。目的地に近づきさえすれば、他の民警達の助力を得られると思ったんだけどな。あの様子を見る限りだと、なかなか手厳しい人が多いみたいだ」

 

 将監の助けをもらえなかったことについて少し残念に思いながらも、それを払拭するように頭を横に振って、思考をリセットさせる。

 

「いや、これは仕方のないことなのかもしれない。……しかし、そうなってくると、諦めて一人でなんとかすることを考えた方が建設的なのか?」

 

「ねぇ、ちょっといいかな?」

 

 ぶつぶつと独り言を駄々漏らしにしながら歩き進めていると、前方の茂みから突然何者かが飛び出してきて、それはデルタに声をかけてきた。巧人は思わず反射的に後ろに跳び、とっさに身構える。

 

「あなたは民警の方、ですか?」

 

「ああ、自己紹介もなしに突然出てきてすまない。僕は序列10023位の民警で、名は原田というものだ。さっきのキミ達の話が俺の耳に入ってきてね、ついつい聞き耳を立ててしまったんだよ」

 

 原田と名乗ったその民警は自分から丁寧に自己紹介をして、なおかつ低姿勢で本当にすまなそうな顔をしている。彼は話を続ける。

 

「それでさ、弱い人のために戦うというキミの姿勢、考え方はとても素晴らしいと思ったんだ。……だからさ、僕なんかでよかったらなんだけどさ、キミに喜んで協力するよ。……いや、ぜひとも協力させてくれ」

 

「え、それは本当ですか?」

 

「ああ、構わない。僕はさっき会われたような上位ランカーの民警ではないから、個人の力はそれほどでもなくてね。あまり強くないんだよ」

 

 自ら自分のことを卑下していて、ついさっきまで話していた将監とはまた別の人種だな。……と、失礼ながら、そう思わずにはいられなかった巧人。

 

 ただ、この原田という男の装備は、左腰のホルスターに収められているハンドガン一丁のみであり、外見からだとそこまでしか確認することができない。いくら前衛をイニシエーターに任せる戦術を採用している民警ペアだったとしても、それだけではあまりにも身軽すぎる。ーー巧人はそう思ったようで、原田におもいきって訊ねる。

 

「ところで、あなたの装備はそのハンドガン一丁だけなんですか?」

 

「そうだね、マシンガンも持っていたんだけど、さっきの大量のガストレアとの戦闘で全弾撃ちきってしまってね。今となって残されたのはこの拳銃一丁だけなんだ。……それと僕のイニシエーターともはぐれてしまって、連絡をしても繋がらなくてね」

 

「そう、だったんですか」

 

 原田の突発的なその告白により、この場の空気は気まずい雰囲気にガラリと変わってしまった。原田もすぐに気が付いて慌てて話を別な方向にシフトさせる。

 

「あ!それとこれは、他の高い序列の民警から聞いた情報なんだけど、蛭子影胤の潜伏場所が判明したらしい。場所はもう少し先の方へ歩いていくと見つかる教会だそうですよ」

 

「……ッ!つまりそこに行けば、奪われたケースもあるということですね」

 

「それは確認するまでわからないけど、そう思っていいでしょう。僕はそこまでの行き方を知ってますから案内をします。ついてきてください」

 

「ありがとうございます。……じゃあ」

 

(嫌な予感もするし、サイドバッシャーを側まで呼び出しておくか)

 

 巧人はデルタムーバーを顔の側まで持ち上げて、何か言葉を発しようとしたが、特に何も言うことなく結局そのまま右腰のジョイントに戻した。

 

(……いや、だからこそかな。今はやめておくべきかもしれない。いざという時の隠し玉として残しておこう)

 

 そして、前を歩く原田の後ろをついていくように歩き始め、まもなくしたところで前から不意に質問を投げ掛けてきた。

 

「……ところで、これは興味本意で訊きますけど、その鎧の中って暑苦しくありません?」

 

「……?いえ、特に暑く感じたことはありませんけど」

 

「へぇ、そうなんですか。……たしかこの距離だと、あと15分ほど歩くと思いますので、ガストレアの不意討ちに油断せずに行きましょう」

 

 片手サイズの地図を右手に持って、左腕に巻いていた腕時計を見ながら原田はそう口にする。

 

(へぇ、この人は両利きなのか。珍しい)

 

 口には出さずに心の中でなんとなく想像しながら、その言葉を軽く聞き流していた。

 

 ーーしかしこの時、巧人は彼のことを民警であると本当に信じてしまい、気付くことができなかった。この道に灰のような何かがうっすらと積もっていたことに。そして、前を歩く原田が不気味な笑みを浮かべていたことに。


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