フォトン・ブレット~白色の光弾~   作:保志白金

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第8話~思わぬアクシデント~

 巧人が東京エリアを離れて、既に30分近くが経過しようとしていた頃、巧人はある違和感を感じていた。

 

「……おかしいな、モノリスを離れてすぐのところにはガストレアがそれなりの数いたのに、こんなに遠くまで来て開けた道に出たというのに、小さいネズミ一匹すら見当たらないなんて」

 

 モノリスから遠く離れ、巧人は元千葉県と元東京都の県境を過ぎたというのに、ガストレアの数が少なく遭遇することがあまりなかったのである。巧人にとって、これはむしろ非常に喜ばしいことなのだが、素直に喜ぶことができずにいた。

 

「何なんだ?この妙な胸騒ぎは。とにかく、先を急いだ方がいいような……気がする」

 

 巧人はさっきまでよりも気をさらに引き締めてから、そこからさらに歩みを進めていくと、この近くの少し開けた場所でヘリコプターが飛び立っていく様子を見て取ることができた。この道中、それとほぼ同型式のものを巧人は何台も確認していたし、それらが数回ほど往復していたことも知っていた。

 

「それと目的地までは、だいぶ近付いてきたみたいだ」

 

 往復していた訳を出発当初はいまひとつわからなかったが、目的地に着実に近付いている巧人はそれとなくわかるようになってきていた。「あのヘリは民警が乗ってきたものなのだろう」と。

 

 サイドバッシャーを駆りながらさらに先へと進んでいくと、ついに巨大なガストレアの後ろ姿が視界に入るようになってきた。ただし、それはあくまでも後ろ姿なので、そのガストレアが巧人の存在に気付いていることはないのだが。それでも、その存在感のある巨体は、素人に毛が生えた程度の巧人にとって畏怖させるには十分過ぎるものだった。

 

「……たしか、外周区に出てガストレアが大勢いる場合には、なるべく静かにすることがセオリーだったかな」

 

 ただ、巧人はそれに焦りの色を面に出すことはなく、サイドバッシャーから静かに降りて、ここからは歩きで進む選択肢を取った。このように、ガストレアとの遭遇経験が本当に少ないとは思えないほどの冷静な対応を先程から見せていた。そして、巧人のその行動は正しく、ガストレアが急に襲ってくることはなかったのである。

 

 サイドバッシャーを降りて約十数分の間、軽い駆け足程度の速度を保ちながら進んでいると、突然どこからともなく爆音が鳴り響いた。さらにそこから追い討ちをかけるように、驚く暇も与えず前方の森の中からは黒い煙がモクモクと上がっている。火が立ち上っていることで、森の中やガストレアの様子が若干ではあるが見やすくなった。しかし、変わった状況はそれだけでは留まることもなく、さらに最悪な方向へと傾いていた。

 

「……ッ!これは!?」

 

 爆音がここ一帯に通ったせいなのか、いままでおとなしくしていたはずの周囲のガストレアに刺激を与えてしまい、さらには活動を活発にさせてしまった。そこにいたほとんどのガストレアは音の発生した方向へ向かって進撃していくが、デルタのことを目で捉えてしまったガストレア達はデルタの方へと飛び掛かってきた。

 

「チッ、……Fire!」

 

『Burst Mode』

 

 巧人は自分の方に向かってくるガストレアの大きさが推定約15メートルであると目測で判断し、数は確認できる範囲内で計三体。迎撃するためにデルタムーバーを引き抜き臨戦態勢をとるが、ノーマルモードでは捌ききれないと思ったのか、そのままデルタムーバーを口元へ持ってきて音声を即座に入力。デルタムーバーをブラスターモードに移行させて、トリガーを三連続で引いた。放たれた合計九発のフォトンブラッド光弾はガストレアの巨体にそれぞれ着弾し、巧人は速やかに撃滅が完了したことを確認した。

 

 ところが、それで終わりのはずがなく、灰となったガストレアと入れ替わる形で、それらとは他の個体が前方から近付いてくる。ガストレアは前からだけでなく、後ろや側面からもデルタを中心にして、きれいに取り囲むようにしていた。

 

 周囲に存在するガストレアの数は全てを数える暇がないほどに多い。もっとも、光源が無いに等しいこの森の中で、ガストレアの正確な数を知ることができないのは至極当然のことなのだが。

 

(ガストレアが一体、いや、せめて三体ずつなら、今の俺でもなんとか切り抜けられる自信があるんだが……)

 

 この状況はどこの誰から見てもやや劣勢と言ったところ。たとえ超人的なデルタの力を扱うことができる今の巧人だとしても、それの例外ではない。仮に全滅させることができたにしても、それなりの怪我を負うことは覚悟するべきだろう。

 

 ただ、それは音をたてずに戦おうとすればの話である。そう、この状況で唯一の救いがあったとすれば、

 

「でも、これならこれで静かにする必要はなくなったわけだ」

 

 それはついさっきまでのように、ガストレアを気にして音を一切たてない必要性が皆無になったこと。

 

 そして、もうひとつ。それによってサイドバッシャーによる攻撃が可能になったことだ。

 

「……(Nine)(Eight)(Two)(One)!」

 

 巧人がデルタムーバーのグリップ部にとあるコードを吹き込むと、すぐに電子音声が返ってきた。

 

『Side Basshar Come Closer』

 

 巧人は途中で置いてきたはずのサイドバッシャーを呼び出してからデルタムーバーを腰にマウントさせると、ちょうど頭上に見える太い木の枝を掴むためにそこから真上に跳び上がった。

 

 ガストレア達はデルタの動きにすぐさま反応して、デルタがぶら下がっている木の周りに近寄り、そのままよじ登ろうとする個体もいた。羽を生やしていて飛ぶことが可能なガストレアも当然いたので、それらはけたたましい羽音を鳴らしながら急接近してくるものもいた。

 

 巧人はそのことを確認してから、まずは枝を鉄棒と見立てて大車輪の要領で体を宙に舞わせると、今いる木とは別の丈夫そうな木に乗り移り不安定ながらも足場を確保する。その次に迎撃できる態勢をとり、飛べるガストレアから先に狙いを定めてデルタムーバーで確実に撃ち抜いていった。

 

 羽をもったガストレア達は次々に地に落ち、数を確実に減らしていくが、全体的の数で見るとまだ気を抜くことができない戦況。ただし、それは数的な問題だけであって冷静に分析すれば、デルタの性能や能力、そして巧人が立っている場所などを加味して考えれば、敵の数など大したの問題ではない。

 

『Battle Mode』

 

 加えて、巧人がデルタフォンに音声を入力して、ちょうど一分が経過した段階でサイドバッシャーはこの場に到着し、右腕のクローでガストレアに掴みかかり群れを掻き分け、巨大な足で蹴り飛ばし散らしていきながら、巧人の元へとようやくたどり着いた。

 

「よし、ナイスタイミングだ。サイドバッシャー!」

 

 木の上からサイドバッシャーの運転席に飛び乗ると、巧人はグリップを強く握り操縦をオートからマニュアルに切り替え、一度大きく跳躍をした。その跳躍によってガストレア達の包囲網の外側をとると、巧人自身の意思でフォトンバルカンによる攻撃を開始させる。

 

 その凄まじい光弾の連射性能はまさに圧巻の一言に尽きるものであり、大量に群れていたはずのガストレアの群贅をサイドバッシャーが介入してきてからは、それらを終始圧倒し続けるのだった。そして、ガストレアの約八割方が撃滅できたと、巧人は内心で少し安堵すると、サイドバッシャーの後方に降り立った。

 

「あとのことは任せる。……そして、全てが片付いたら、安全なところで待機だ。いいね?」

 

 巧人はサイドバッシャーの脚に手を置きつつ、そう話しかけると、テールランプにあたる部位をサイドバッシャーは数回点滅させて、「了解」とでも言ったような合図を巧人に送った。

 

 巧人はそれを見てひとつ頷くと、回れ右をしてガストレアがいなくなった暗闇の中を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

「まさか、あんなところに崖があったなんて……思っても見なかった」

 

 サイドバッシャーと別行動をとってまもなくすると、巧人は切り立った深い崖にさしあたった。しかしながら、目的地に行くための最短の近道はここを飛び降りていくしかない。ここから他のルートで行くには大きく遠回りをする必要があるため、かなりのタイムロスが生じてしまう。そして、事態は一刻を争う緊迫した状況にある。だから、そこから飛び降りることを決断したのであった。

 

「さっき見たナビの通りであっているのなら、ここからさらに南西へ進んでいけば良いはず」

 

 サイドバッシャーのコンソールパネルに写っていたマップを思い出しながら、どこへ進んでいけばいいのかを自分で口にして再確認する。そして、デルタムーバーの横にあるモニターを開いて、今どの方位を向いているかを確かめた。

 

 方位の確認を終えるとすぐに歩き出した。それは、飛び降り落下したことで発生した衝撃による問題は何も生じなかったからだ。具体的に言ってしまえば、体の筋繊維にダメージを負いもしなければ、平衡感覚が狂うことも一切なかった。巧人はそうなることを知っていて行動したのか、はたまた単なる勝手な憶測で博打だったのか。それは定かではないが、結果として正しかったと巧人は思っていた。ーー彼にバッタリ出会うまでは。

 

「オイ……テメェ動くなよ」

 

 突然、何か固くかくばったものを横から頭に突き付けられて戦慄する巧人。声質からして性別は男。その何かとはスーツ越しになので、詳しくはわからなかったが、「カチャッ」という音が微妙に聞き取ることができたので拳銃であると判断した。

 

(銃を突き付けられているとか、今の俺には関係ない。死ぬことはないのだから、大丈夫だ。……落ち着け)

 

 だが、そこで空手の基本を思いだし、錯乱することなく心を落ち着かせて次にどう動けばいいかを模索しだす。

 

一、おとなしく言うことを聞く。

 

二、相手との話し合いを試みる。

 

三、銃を払いのけて、そのまま逃げる。

 

四、逆にこちらがデルタムーバーを突きつける。

 

 穏便に済ませたいのなら一か二が妥当であるが、一の場合は立場が不利になるのは明白。なので、二を選択するべきだろう。しかし、もしも相手が話しに応じないとするなら。そう仮定した場合に争いたくない巧人は三を取ろうとしたのだが、後々のことを考えると、なかなか決断ができなかった。

 

「おとなしく、こっちの方を向きな」

 

 明らかにこちらを脅している、そんなドスの効いた低い声に巧人の体は、機敏で自然な動きを見せたのである。自分の体を真下に沈めると、90度体を旋回させてから、拳銃を所持している手に目掛けて即座に左手で裏拳を打ち込んだ。デルタの頭に向けられていた黒い拳銃は地面に落ち、形勢は一気に変わった。

 

「なっ!?」

 

 一瞬の出来事に男は戸惑いを隠せないでいる。巧人はそこからバックステップで男との距離をある程度とると、危害をさらに加えることはなく普通に話し始めた。

 

「俺はあなた方、民警の敵ではありません。そんなことをしても無意味なだけです」

 

 デルタムーバーを抜こうとする素振りも、肉弾戦に持ち込もうとする構えもせず、ただ棒立ちのまま巧人は前で身構えている男の説得を試みたのである。

 

 彼のことを冷静に見据えると、日本人にしてはなかなかの巨漢でゴリゴリの筋肉質。頭髪は赤に茶が混じったような色で逆立っている。口元はドクロ柄のフェイススカーフで覆っている。

 

 そして、一番特徴的なことは背中に背負っている黒いバスターソード。誰もが容易に振り回せる代物でないのは明らかで、彼の身丈ほどの長さはある。男はそんな危険な得物に手をかけて、今にも抜き出しそうな勢いで構えつつ、デルタのことを睨み付けていた。

 

「つまり、テメェは同業者だってことか?」

 

「いえ、違います。……今のところは」

 

「じゃあ、何者なんだよ?こんなあからさまに怪しい奴を警戒すんなってこと自体、無理な話だろうが」

 

「…………俺は」

 

 どう返せばいいのか巧人は迷った。なぜなら、その男の言っていること自体は間違っていないのだから。ーー変身を一旦解除するか、はたまたそのままで良いのか。仮面ライダーだと言うべきなのか、黙ったままが良いのか。色んな考えが交錯する中、導きだした結論がこれだった。

 

「……俺は仮面ライダー、デルタ」

 

 巧人はデルタの姿のまま、そう言い切ったのであった。




 ちょっとした変更点としては、将監の性格です。漫画版のそれに少し近づけています。

 それと、サイドバッシャーの呼び出しコードは単なる思い付きです。

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