エクストラダンガンロンパZ 希望の蔓に絶望の華を 作:江藤えそら
ちょっと駆け足になってたりキャラの扱いが雑だったりするところがありますが、番外編なのでそこらへんはご愛嬌で…。
◆前回のあらすじ◆
前木常夏は、クラスメートである亞桐莉緒が夢郷郷夢に恋心を抱いていると勝手に類推!
彼女の恋心を測るためドッキリ計画を立ち上げた!
その内容はなんと、「夢郷が病気で死ぬ」というすさまじい内容であった!
おかっぱ眼鏡丹沢の妨害や津川たちのノリに振り回されつつも順調に進むドッキリ計画。
一方、単独で動いていた釜利谷は亞桐から思わぬ相談をされて……!?
希望ヶ峰学園75期生が繰り広げるドタバタ恋愛劇、遂に決着!!
◆◆◆
「あ、あの、えっと?」
釜利谷は突然道を尋ねられた少年のような返答をする。
「ごめん……いきなりこんなこと言われてもなんて返していいか分かんないよね…。でもさ…こういうのを相談できる相手って、釜利谷しか思い浮かばなかったんだよね」
亞桐は頬を紅く染めながらそう言った。
「えぇぇ……」
釜利谷は恐ろしく困った声を出した。
「そんなこと俺に言われてもどうすればいいんだよ……」
「うん……ごめん……」
亞桐がしおらしい態度を取り始めたので、ますます釜利谷は慌ててしまう。
「あっ、まあ、あのさっ!? とりあえずどっかで休みがてら話そうぜっ!?」
明らかに挙動不審な態度ながら釜利谷はそう告げる。
10分後、二人は学園からほど近い喫茶店の中にいた。
「(何気に女子と店来るの初めてかもしれん……)」
相変わらず落ち着かない様子でオレンジジュースを飲む釜利谷。
「ごめんね? こんなところまで付き合ってもらって…。でも本当に悩んでることだから……」
そう言って亞桐はアイスコーヒーを一口呷る。
「まず……アレだな。”好きかもしれないってのはどういう感情なんだ?」
おぼつかない口調ながらも釜利谷は一直線に核心を問う。
「うん…。なんていうか…ほら、ウチさ、よくアイツと喋ってるじゃん。大体アイツのセクハラを懲罰したりくだらないやり取りばかりなんだけどさ……。最近……アイツがいないと無性に寂しくなるんだ」
「………はあ」
「気が付くとアイツのことばかり考えてる自分がいるんだ。これってひょっとして恋なのかなって……」
頬を紅く染めて自らの想いを吐露する亞桐。
「(絵に描いたような青春じゃねえか。これはアレだな、冷静に考えるとムカついてくるやつだな)」
「でもさ、友達でもこれに近い感情になることってたまにあるんだよ! 友達のことで頭一杯になることもあるし……。だからこの気持ちはあくまでも友達としてのものなのかなって…」
「(いや絶対恋だろ。腹立つな)」
「だからウチ、これからどうアイツと接すればいいのか分かんなくなっちゃって…。どう思う?」
「話の振り方が雑……」
と言いかけて「いやいや」と釜利谷は言い直す。
「まあ……今まで通り接すればいいんじゃねえのかな? まだ気持ちを見極めるのには時期尚早な気もするしよ」
と、当たり障りのない答えを返す。
「う~ん……」
頬を膨らませて何か考え込む亞桐。
「(ダメなの? 今の答えで)」
「今まで通り……でいいのかな……?」
「(ダメ? ダメなの?? あぁメンドクセー!!)」
「だって最近の夢郷、なんかおかしいんだもん……」
「ぶっ」
釜利谷は思わずオレンジジュースを吹きそうになり、咳き込む。
「(やべえ、あのドッキリだ)」
口下手な自分がうっかりドッキリの内容を話してしまうようなことだけは避けねば、と心に決めていた釜利谷。
ドッキリ周りの話題が出るとなると一段と緊張が高まる。
「体調崩して保健室に運ばれたり、体育でめっきり体力が落ちてたり、授業中も先生の話聞いてなかったり……なんか最近のアイツ、様子がおかしいんだよね」
「(そりゃそういうドッキリだからな!) ……へぇ~」
「もしかしたら……もしかしたらだけどさ……いや…これは考えすぎだよね……」
「なに、言ってみ」
「アイツ………」
亞桐の顔がだんだんと青ざめていくのを釜利谷は察知する。
「アイツ………死んじゃったりしないよね?」
「…………」
釜利谷は反応に困る。
まさにこれこそ、このドッキリの本質だからだ。
「まさかあり得ないと思うけど………なんか漠然とそんな気がするんだ」
「まあ………調子悪いなら病院行かせた方がいいんじゃねえかな……。俺も軽くなら診るくらいできるし……」
「そっか……そうだよね……」
そう言って亞桐は黙り込む。
「………‥‥」
「……………」
「(あぁもう会話なくなっちゃったよ……どーすんだこれ……)」
釜利谷は何かを話そうとするが、どの話題をするにも躊躇いが生じ、口をパクパクさせるばかりだった。
「まあ、あれだな。後悔はないように過ごした方がいいんじゃねえか?」
釜利谷は頭を掻きながらそう言った。
「後悔………」
亞桐は何か思いつめたようにそう呟いたきり黙り込む。
「…さっき、ゆきみちゃんにも同じようなこと言われたんだよね」
「あぁ……そうなのか…」
亞桐は何かを決意したような表情を浮かべる。
「ウチ、夢郷のところ行ってくる!」
「え?」
釜利谷が呆気にとられる間に亞桐は喫茶店を飛び出していってしまった。
「あ? え? ………会計は俺持ち……ッスか?」
釜利谷が唖然としているそのすぐ後ろの席では。
帽子を深くかぶり、サングラスをかけた女が何者かに電話していた。
「こちら”パープルシャドウ”、目標の移動を確認。目的地は夢郷君の模様。どうぞ」
一般客に偽装した伊丹は電話の向こうの前木にそう伝える。
◆◆◆
「了解。あとそのよく分からんコードネーム的なのやめてくれ」
電話の向こうの伊丹にそう返して前木は電話を切った。
「まさか俺達が解散した後に亞桐が三ちゃんにコンタクトするとは思わなかったな…。伊丹が気付いて尾行してくれて助かったぜ」
「むしろなんで咄嗟に変装できるんだよあいつ怖いな……」
隣の土門がそう呟く。
「じゃあ急遽だけど夢郷にはアレをやってもらうか」
そう言って前木は夢郷に電話を繋ぐ。
「夢郷、いきなりだけどいける? ……おっけー、亞桐がもうすぐ来ると思うから頼むわ。御堂も今呼んでるところだ」
◆◆◆
外では日が暮れ始め、外の世界の学生たちは皆各々の手段で帰宅の途につきつつあった。
その頃、夢郷は自室で本を読んでいた。
ピンポーン、と部屋のチャイムが鳴る。
「はい……」
夢郷は本を閉じてインターホンに語り掛ける。
「ウチだけど………ちょっとお話したいことがあるんだけど、時間ある?」
インターホンの向こうから聞こえてきたのは亞桐の声だった。
しかし夢郷は先ほどの前木からの電話で亞桐の来訪のことは知っていたのである。
部屋に入ると、亞桐は何も言わず夢郷が差し出した椅子に座るが、明らかに落ち着かない様子だった。
「で、わざわざ何の用だい?」
夢郷はあくまでもいつもの柔らかな笑顔で問いかける。
「いや、あの………」
いざ対面すると言葉を発することができない亞桐。
それでも自分に言い聞かせ、奮い立たせる。
”後悔はしちゃダメ”。
頑張れ、ウチ。
「夢郷ってさ……何か病気もってたりするの?」
「!」
夢郷は少し驚いた表情を浮かべた。
亞桐の問いかけは、夢郷が懐に忍ばせたマイクから別室の前木達にも伝わっていた。
◆◆◆
「流石の亞桐も気付き始めたみたいだな」
土門が腕を組みながら言った。
「よし、ここまで来たらこっちも攻めの姿勢で行こう。夢郷、プランCを頼む」
前木の言葉は、夢郷が密かに耳に差しているイヤホンから彼に伝わる。
◆◆◆
「あぁ……クラスメートには言っていなかったが…気付かれたのなら仕方ない。これを見てくれ」
そう言って夢郷は自分のデスクから一枚のカルテを取り出した。
そこには、呼吸器系の疾患を患っている様子が事細かに記載されていた。
無論これは釜利谷がねつ造したものである。
「なにこれ………?? あんた、こんな病気にかかってたの…?」
カルテを見て亞桐は声を震わせる。
「そうなんだ。命に別条のある者ではないようだが、最近は時たま希望ヶ峰附属病院に通っているんだ。あと数か月もすれば完治するらしいね」
現時点では深刻な病気ではないかのように振舞うのが彼らの作戦だった。
「………そう…だったんだ……ウチ…なんも知らなかった…」
亞桐は悲しげな表情を浮かべる。
「気に病むことじゃないさ。僕も気付かれないように隠し続けていたからね。どうかこのことはみんなには内緒にしておいてほしいんだ。いらぬ心配をかけたくないからね」
「うん……分かった。誰にも言わない」
亞桐はこくりと頷く。
「………‥‥」
亞桐が複雑な感情を感じて黙り込んでいる中、夢郷が口を開く。
「次の土曜日、近くの自然公園にでも行かないかい?」
「……えっ!?」
「もちろん、二人きりでだ」
Step4:『デートの誘い』
そう、それは即ち”デート”の誘いであった。
思わぬ申し出に亞桐は顔を真っ赤にする。
「えっ、待っ、そんなっ……」
「…嫌かい?」
「………っ!! わ、分かったよ! 行ってやるよ!!」
恥じらいを隠すかのように亞桐は立ち上がりながら言った。
「土曜日、朝10時でいい? 現地集合ね!」
「ふむ、いいだろう。楽しみにしているよ」
夢郷が笑顔でそう返事する。
こうして、彼らの目論見は成功した。
◆◆◆
「うまくいったな」
土門が語り掛けると、前木はにやりと笑った。
「いよいよだ、いよいよ亞桐の本心が分かる時がくる……」
「次で最後だ。絶対成功させような!!」
「はぁ、なんでこんなことにここまで労力使ってんだろうなぁ……」
運命の時は、刻一刻と迫っていた。
◆◆◆
Step5:『週末デート』
週末。
希望ヶ峰学園からそう遠くない自然公園。
集合時間のはるか前から集まっていた前木達は、各々のポジションにつく。
「今日は御堂が寝坊したり入間が急な仕事で南米に飛んじゃったりと出鼻をくじかれた感はあるが、今日で長かったドッキリも終わりだ。みんな気合い入れて頼むぞ!」
「おー!」
前木の号令に全員は腕を掲げて応える。
【AM:9:55】
ベンチに座ってスマホを弄る亞桐は、明らかにそわそわした様子である。
しきりに時間を確認し、夢郷が来るのを今か今かと待ちわびていた。
…と、そんな様子を向かいのベンチから見つめる人物が二人。
「亞桐殿、なんだか落ち着きませぬな」
その片方、天然パーマのウィッグをつけた丹沢が呟く。
「しっ! もっと小声で話せ! 俺達はあくまでも通りすがりのガリ勉Aとガリ勉Bだ」
同じく長髪のウィッグをつけ、丹沢とおそろいの丸眼鏡(伊達眼鏡)をかけた前木が丹沢に告げる。
二人は手に持った本を読むふりをしながら亞桐から視線を離さない。
【監視役(近距離):前木、丹沢】
その遥か後ろでは、モニュメントに寄りかかって立つサングラスの女性。
「莉緒は現在ベンチで待機中。横顔、非常に尊い。どうぞ」
伊丹はニヤニヤと笑いながら電話の向こうの相手に告げた。
【監視役(遠距離):伊丹】
その近くにある喫茶店内。
「伊丹。尊いの話はもういいから」
土門は呆れ気味に呟いて電話を切る。
「いやー、一か月ぐらい続いたドッキリだけど、今日で終わりかぁ。なんか寂しくなるなぁ」
「………」
しかし、彼の向かいに座る御堂はノートパソコンを開いたままじっと窓の外の公園を眺めていた。
「はぁ……恋か………」
「……御堂?」
「えっ? な、なんだ、いきなり話しかけるな阿呆ッ!!」
「えぇ……」
突然激高する御堂に土門は困惑するばかりであった。
【情報管理・総指揮:土門、御堂】
その時、土門に別の人物から電話がかかる。
「お、リュウか。首尾はどうだ?」
相手は、これまで表立ってドッキリ活動をすることのなかったリュウであった。
『ああ、ちょうど整った。いつでも始められるぞ』
「おっけー。じゃーよろしく頼むわ」
そう告げて電話を切ると、土門はコーヒーを一口呷る。
「あとは夢郷が来れば始められるな。あいつまだかなぁ…」
「………」
【???:リュウ】
【AM9:58】
「やあ、待たせたね」
「!!」
その声で亞桐ははっと声を上げる。
そこには、いつもとは違うカジュアルな格好をした夢郷が立っていた。
「私服選びに手間取ってしまってね……。似合ってるかい?」
「………全然…似合ってねーよ」
亞桐は紅潮した顔をそむけながら小さく言った。
「嘘つけ。絶対似合ってると思っただろ」
「亞桐殿、ぐうの音も出ぬ王道ツンデレヒロインの道を進んでおりますな…」
向かいに座る前木と丹沢が交互に呟く。
「…で、集まったはいいけどこれからどうするの?」
亞桐が問う。
「特に予定は決めていないんだがね…。まあとりあえずはこの公園にある自然を見て回ろうじゃないか」
夢郷が提案すると、亞桐は「あぁ…うん」と煮え切らぬ返事を返す。
「うむむ…拙者、デートと申しますと映画を見に行ったりテーマパークに行ったりするものと心得ておりましたが……自然を感じようとはなかなか渋いチョイスにござりまするな…」
「まあ最初は好きにさせてやればいいさ。何をしようが途中から俺達のターンになるんだしな。じゃあ追いかけるぞ」
二人は静かにベンチを立つ。
「この小川にはヤゴがいるみたいだね。確かこの前小清水君から教わったんだが……」
「………」
公園の小川を見て嬉しそうに語りだす夢郷だが、亞桐は夢郷の話には全く集中できず、彼の顔ばかり見ている。
「この水は綺麗だし、触るとひんやりしていて気持ちいいね。君もどうだい?」
夢郷は不意に亞桐の手を握る。
「あっ」
亞桐は思わず声を上げる。
「…もうっ、触んなよっ!」
一瞬のちにそう言って夢郷の手を振りほどき、自分で水に手を突っ込む。
「ほんとだ、ひんやりしてる……」
「くぅぅ~、甘酸っぱいですな」
本を持って二宮金次郎のような姿で歩く丹沢が呟いた。
「たぶん伊丹が発狂してるんじゃないかな」
前木の言うとおり、遠くで見ていた伊丹はその頃血を吐いていた。
【AM11:25】
ゆっくりと公園を見て回った二人は、最初に集合したベンチへと戻ってきた。
「ふぅ、お腹も減ってきたね。そろそろどこかでご飯でも食べるかい?」
「あぁ…そうだね。ウチは何でもいいけど」
亞桐がそう言った直後だった。
「オイ、ガキども」
「!?」
二人の耳に差し込まれた第三者の声。
二人の目の前に立っていたのは、金髪で見上げるほど背の高い筋肉質な男だった。
「よし、変装はばっちりだぞ」
草むらに隠れている前木が呟いた。
「まさかあのリュウ殿がこのような役回りを引き受けてくださるとは……」
眼鏡に指をかけながら目前の光景に感じ入る丹沢。
「なにこんなとこでイチャついてんだよ、なあ? フツーに腹立つんだけど」
ヤンキーに扮したリュウが、普段とは全然異なる声で二人を威圧する。
「…なんだ、君は」
そんなリュウに対し、夢郷は冷たい視線を向ける。
「夢郷、やめろって…! 相手にしたらヤバいよ…もう行こうよ!」
亞桐が夢郷の袖を引っ張るが、夢郷は頑としてその場を動こうとしない。
「は? 生意気だな、フツーに殺すぞ」
そう言うが早いかリュウはベンチの端を蹴った。
「っ!!!」
亞桐は思わず身をすくませる。
「公共のものを乱暴に扱うな。そしてこの子を怯えさせるな」
夢郷は力強く言い放つ。
「はっはっは!! 彼女がそんなに大事なのか!? 気持ち悪っ!!」
リュウは高らかに笑う。
圧巻の演技力である。
「僕を侮辱するのは構わないがね―――僕の女を傷つけるのは許せない」
「へっ!?!?」
夢郷から発せられた言葉で驚いたのは亞桐だった。
「おぉー!! 決まりましたな!!」
「良い調子だぞ……あとはリュウを倒すだけだ」
前木と丹沢の声援が夢郷に降りかかる。
あとはリュウが突き出した腕を夢郷がひねって撃退し、亞桐を守るという筋書きだったのだが……。
「ちょっと待ったーーー!!!!」
「「「「「!?」」」」」」
全く予期せぬ声がその場に響く。
「そこのあなた! 他人に乱暴を働くとは捨て置けません! 正義の鉄槌を下しますなり!!」
声の主は、仮面を被って独特のスーツを着た小さな女の子だった。
「愛は希望の力!! ホープ仮面参上なり!!」
三人組のヒーローは、そう名乗ってビシッとポーズを決める。
夢郷達には見慣れた三人組であった。
「げげっ!? なんであいつらが!?」
前木は思わず草むらの中で立ち上がりそうになってしまった。
『おいまえなつ、ヤバいぞ! どうする!?』
同時に土門からも着信が入る。
「どうするったって…」
オロオロする前木。
「ちょっと、リャンちゃん達!? 危ないからやめて!!」
思わず亞桐はそう叫ぶ。
その声に、硬直していたリュウが動き出す。
「なんだ、ガキ共ぉ!? ふざけた格好しやがって、ぶっ殺されてえのか!?」
「ほら…だからやめとこうって言ったのに……。こんなところでやるの恥ずかしいよぉ……」
後ろに立つ仮面の少年が両手で顔を覆いながら言った。
「ダメなりよ、ゆっk……ホープ仮面二号!! どんな場所であろうと、困った人を見捨てないのが私達ホープ仮面なり!!」
背の低い少女である一号は二号に叱咤激励する。
「今日は四号がお休みだから一号達が頑張らないと! ほら立って!」
「うぅ……嫌だなあ……」
「クソッ、マズいことになったなあ……。頼む、リュウと夢郷…上手くやってくれ…」
もはや神頼みをするしか道が無くなった前木。
「津川殿からたくさん通知きてたと思ったら……これの誘いだったのでござるか……」
自らのスマホを確認して冷や汗を流す丹沢(ホープ仮面4号)。
「おい、あれ…ホープ仮面じゃねえか? 1000万再生の」
「マジだ! あれほんとにやってたんだ!」
「やば、撮っていいかな?」
派手な彼らの姿や声を聞きつけた群衆がいつしか彼らの周りに集まりつつあった。
状況はどんどん前木達にとって不利になっていく。
「むわははははっ!! 吾輩の先祖直伝の殺法を受けてみるがよい!」
二号と一号がなんやかんやしてるうちに、背後から三号が飛び出す。
「とりゃーーーーー!!!」
勢いよく振り上げた腕は、真っすぐリュウの背中に打ち当てられた。
ぽこっ。
「…………」
沈黙。
「……‥ぐわぁぁぁぁぁ!!!」
しかし数秒後、空気を読んだリュウが呻き声を上げて倒れる。
「おおぉぉぉ!!!」
周りの聴衆から拍手喝采が飛び交う。
「さあ! 今のうちに大切な人を連れて逃げるなり!!」
一号がそう言うと、夢郷は迷わず亞桐の手を引いて駆け出す。
「あっ…ありがとうねー!!」
亞桐はホープ仮面たちに礼を言いながら夢郷に引かれてその場を去る。
夢郷達が去った後。
「…というわけで二号、あとは頼んだぞよ!」
「えぇ!?」
「ごめんなり! 一号はとてもアイスクリームが食べたくなってきたからもう帰るなり!」
二号が何か反論を言う間もなく、二人は脱兎のごとく逃げていった。
「やっちまえ、二号ー!!」
「ストレートパンチだぁぁ!!」
「えぇぇぇぇぇぇえ!?!?」
ただ一人観衆の中に取り残された二号は、夕方までリュウとの戦いを演じる羽目になった。
「……ふぅ、ここまでくればもう安心か」
離れたところで息をつく亞桐と夢郷。
「リャンちゃん達がちょっと心配だけど、とりあえずはよかっ…」
その時亞桐は、いつの間にか自分が夢郷の腕の中にいることに気付く。
「………っ!!?!?!?」
もう顔を真っ赤にするのも何度目だろうか。
『ハプニングはあったが、何とか切り抜けたな。夢郷、予定通り次のステップに進んでくれ』
土門からインカムで指示を受け取った夢郷は次の行動へ向けて動き出した。
『このドッキリを、有終の美で飾ろう』
【PM4:30】
その後二人は近くのレストランで昼食を済ませた後、恋愛映画を鑑賞。
間もなく日が沈み始めようとしていた。
「なーんか……いろいろあった割にはあっという間の一日だったねー……」
亞桐はため息とともに言った。
そこには、この一日が過ぎることを惜しむ感情が込められていた。
「あぁ……楽しかったね」
夢郷は儚げな表情で呟く。
その時―――
「んっ!! ごふっ!! ごふっ!!」
夢郷は突如膝をついて咳き込む。
「えっ!? ちょ、どうしたの!?」
亞桐は慌ててしゃがみ込む。
「げほっ!! ごほっ!! がはっ!!」
咳をする夢郷の口からは、血が溢れ出していた。
もちろんこれは先ほど映画館のトイレでこっそり含ませた血糊である。
「わっ!! うそ!?!? 誰か!!」
亞桐は慌てて誰かを呼ぼうとするが、夢郷はこれを見越して人通りの少ない道を選んでいる。
その時、亞桐のスマホが激しく振動する。
着信主は釜利谷だった。
「あ、釜利谷!? ちょうどよかった、今夢郷が…」
『夢郷は何してんだ!?!? あいつ勝手に病院を抜け出しやがったんだ!!』
「…え!?」
亞桐は驚いて夢郷の顔を見る。
『あ~クソ!! こんな時だからハッキリ言うぞ! 夢郷の病気は末期の呼吸器疾患だ!! 本当は今日手術をする予定だったんだ!! なんで抜けたんだ、あの野郎!!』
「ウソ……ウソだ……」
亞桐の瞳から光が消えてゆく。
「あ、ぎり、くん……誰と…話しているんだ……」
はあ、はあ、と息を荒げながら夢郷が尋ねる。
「アンタ……アンタなんで……よりにもよって今日……。手術受けなきゃダメじゃんか!!」
亞桐は大いに取り乱しながら叫ぶ。
「あぁ……バレてしまったか……。ふふふ、嘘はつくものじゃないね……」
夢郷は自嘲気味に笑う。
「ウソって……この前のやつはウソだったの!?」
亞桐は夢郷の両肩を掴む。
「数か月で治るって言ってたよね!? 命に別状はないって言ってたよね!?!?」
「………」
「何とか言えよ!!! なんで黙ってたんだよ!!!」
亞桐の瞳から涙が溢れる。
『亞桐……よく聞け。もともと手術をしても治る見込みは極めて薄い病気だったんだ…。だから夢郷は最後にお前と一緒に過ごしたかったんだと思う』
「……っ!!! ふざけんなよ!!! なんでそんなこと!!!」
「君が大切だからさ」
「!!!!」
亞桐は言葉を失った。
◆◆◆
希望ヶ峰学園内、談話室。
そこには、今日のドッキリに参戦した全員が御堂のパソコンを通じて二人の恋の行方を見守っていた。
「……っかぁ~~~~!!! 緊張したぁ~~~!!!」
電話を切った釜利谷はドッと床にへたり込んだ。
「ナイス演技だったぞ、三ちゃん!」
前木は拍手で釜利谷を称えた。
「ったく、俺にこんな役目させんなよ!! 顔とか声に出るんだからよ、俺は!!」
釜利谷は気恥ずかし気に頭をボリボリと掻く。
「いやぁ、まさかリュウ君があんな変装してるなんて思わなかったよ!! どうりで弱いと思ったら……」
へとへとになった葛西がソファーに寝っ転がりながら言った。
「いや、俺もだいぶ驚いたぞ…。我ながら良いアドリブをしたと思う」
「山村とかが来てたら終わってたよな、実際」
土門の言葉に二人は頷く。
「みんながこんなドッキリをやってたのも全然知らなかったよ~。教えてくれればよかったのに」
「悪い、葛西…。ドッキリが終わったらみんなに言うつもりだったんだ」
「お前ら黙れ!!」
彼らの雑談は、ノートパソコンを見つめる御堂の怒声によってかき消された。
「これからが一番いいところだというのにノイズじみた下らん談笑などしおって!!! 静かにしていろ!!!」
「ハイ………」
そんな御堂の隣では、あまりの亞桐の尊さに失神した伊丹が倒れていた。
「あれ、つーかもうそろそろ行かなきゃヤバくね? みんな、準備しろ!」
前木が号令をかけると、みんなは慌てて準備に取り掛かる。
◆◆◆
「た、た、大切って、大切って」
とめどなく流れる涙を拭うことも忘れ、亞桐は夢郷の言葉に耳を傾ける。
「どうせ……先の短い命だ……。下手に延命するよりも…最後の時を君と過ごしたかった……」
「馬鹿だよ!!! 馬鹿すぎるよっ!!! 死んだら…死んだらなんにもならないじゃんかよ!!!」
亞桐は絶叫する。
「そんなことはない…。僕が死んでも、君の心に僕は残り続けるだろう…?」
夢郷は震える両手で亞桐の頬に触れた。
「うぅ…うぅ……」
亞桐は子供のように泣きじゃくる。
「すまない…亞桐君。僕はもう…ここまでのようだ…」
「嫌だっ!!!」
亞桐はその言葉とともに夢郷を抱きしめる。
「嫌だ嫌だっ!!! 嫌だよっ!!!」
絶対に離れないように、力強く、抱きしめる。
「亞桐君……最後に僕に…愛を囁いてくれるかい?」
息も絶え絶えに夢郷は呟く。
「うわぁぁぁぁぁん!!! 嫌だよぉぉぉぉぉ!!!」
亞桐は夢郷の胸の中へ顔をうずめ、涙に暮れる。
「じ、時間が…ない……」
夢郷は亞桐の頬をゆっくりと撫でる。
「………君に出会えてよかった……さようなら、莉緒」
そう言って夢郷は静かに目を閉じる。
「うぅぅっ、うぅぅっ……ゆ、夢郷………ウチは……」
亞桐は息を整え、そして語る。
「たぶん…ずっと……アンタのことが好きだった…」
「ウチも大好きだよ…。さようなら……」
「と、いうわけで!」
「「「「「「「「ドッキリ大成功~~~~!!!!!」」」」」」」」
葛西、前木、リュウ、土門、釜利谷、丹沢、伊丹、御堂の八人がその場に現れた。
「へ? へ?」
亞桐は訳が分からずその場に現れた全員を見回す。
「…どうだった、亞桐君?」
夢郷は立ち上がって血糊を吹きながら尋ねる。
「えと…‥‥え?」
亞桐は全く現実を受け入れられていない。
「じゃあ南米の入間さんから説明していただきましょう。入間さ~ん」
前木がそう言ってスマホに語り掛けると、その画面に入間の顔が映りこむ。
『いや~、急な仕事で駆け付けられず申し訳ありません。ですが亞桐様、ご安心ください! 夢郷君は生きます!』
「……どっ……きり……」
『はい! カルテも釜利谷さんが作った精巧な偽物です! そもそも、このドッキリは亞桐様の青春を応援すべく』
入間が語り終える前に、亞桐は駆け出した。
「え、亞桐!?」
前木が引き止めるのも聞かず、亞桐は真っすぐ学園へと駆け戻っていった。
◆◆◆
二日後・月曜日。
放課後。
「亞桐さん、どうしてしまったんでしょう…? 体を崩すような方ではなかったのですが!」
何も知らない山村が心配そうに呟く。
一方前木達は、完全なるお通夜ムードに苛まれていた。
「まさか亞桐がショックのあまり熱出すなんてさー……そんなことになるなんて思わなかったよ…」
前木が頭を抱える。
「拙者たちが声をかけても個室から出てきてくれませぬし……完全にやり過ぎてしまいましたなあ……」
と丹沢が続く。
「…何はともあれ、誠心誠意謝罪を続けるほかはあるまい…」
リュウの言葉に全員が頷く。
「別にもういいよ…」
「!!」
その声の主は、他ならぬ亞桐だった。
教室に現れた亞桐は、未だに体調がすぐれなさそうな様子ではあったが、心なしか傷ついているようには見えなかった。
「亞桐……あの、ほんとにごめん!!」
「謝んなくていいよ……なんだかんだウチも楽しかったし…。ふふっ、恋って楽しいんだね!」
亞桐はいつものような天真爛漫な笑顔を浮かべる。
「今度ドッキリやるときはウチが仕掛け人だからね! 300倍仕返ししてやる!」
その言葉を聞いて、一同にも笑顔が戻り始める。
「あと、夢郷!」
亞桐の声が、教室の一番奥に座っていた夢郷を射抜く。
「一昨日言ったこと…。一旦ノーカンにさせて。結局、アンタへの感情はまだ定まってないから…。でも、一つだけ約束してほしい…」
「あぁ……なんだい?」
「もう絶対に、ウチを置いて死んだりしないって、約束できる?」
「…なんだ、そんなことか」
夢郷は微かに笑う。
「あぁ、約束しよう。絶対に、君より先に死んだりしないと」
夢郷は力強く答えた。
◆◆◆
そして彼らの日常は続く。
甘く、切なく、ほんの少しほろ苦い日常が。
「恋って……いいなぁ………」
ため息とともに御堂が呟いた。
山村「え、ウソ? これで終わりですか?」
小清水「私をハブるなんていい度胸ね」
作者「ほんまに出番が見つからなかったんや……マジですまぬ……」
津川「じゃあ二人ともホープ仮面入りすればいいなり!」
安藤「名案だぞよ!」
小・山「は?」
というわけで急遽入隊決定
ホープ仮面五号→小清水
ホープ仮面六号→山村
いつかホープ仮面勢ぞろい話も書きたいなぁ…。
あと今回入間の扱いも微妙に悪くてごめんなさい。
入間「次に期待ですね」