エクストラダンガンロンパZ 希望の蔓に絶望の華を   作:江藤えそら

18 / 65
chapter2 非日常編④ 学級裁判後編

「まだ終わっていないんだ。この事件の脚本は」

 

 

「なん……ですと…?」

 丹沢君が怪訝そうな顔をした。

「終わっていない……だって?」

 夢郷君が顎に手を置いて尋ねてくる。

「……!?」

 ここにこいて初めて、御堂さんの表情にも驚きが走る。

 だが、彼女ですら予想外なのは仕方のないことだ。

 その根拠は、根拠と呼ぶにはあまりにも小さく、ともすれば容易に反論されてしまうかもしれない。

 それでも俺は見つけたのだ。

 ここまでの推理では説明のつかない矛盾…!

 

 ”リュウ君がモノクマ達との戦闘で死亡したとすれば、説明がつかない根拠”……

 

【提示コトダマ:リュウの包帯

 

「俺は捜査時間の間に、リュウ君のコートの中を見た。するとあることに気付いた。彼の体には包帯が巻かれていた。体だけじゃない、腕や足など、いたるところに巻いてあったんだ」

「…確かにそうだ。オレが巻いてるコイツも……アイツの包帯の一部だからな」

 そう言って山村さんが悲しげな表情で頭の鉢巻を撫でた。

「…それがどうしたの? リュウ君がヌイグルミ達との戦いで傷ついて、そのせいで包帯を巻いたってだけじゃないの?」

 小清水さんが不思議そうに聞いてきた。

「いや、よくよく考えてみなよ。モノクマ達との激しい戦闘の最中、体に包帯を巻きつける余裕なんてあったと思う? そのまま戦闘で殺されたというのならなおさら包帯を使う余裕なんてないはずだよね」

「………!」

 場に沈黙が走る。

 

「つまるところ、あなたは何が言いたいの?」

 伊丹さんの問いが飛ぶ。

「簡単なことだよ。リュウ君はモノクマ達との戦いで死んだわけじゃないんだ」

 これが、俺の答えだ。

「少なくとも彼には、戦闘を終えて自身を治療するだけの余裕があった。そういうことだよ」

「んなっ!? なななっ!? そ、それでは、いったいどうしてリュウ殿は亡くなられたぞな!!??」

 安藤さんがオーバーなリアクションとともに叫ぶ。

「恐らくは、いるんだよ」

 口に出すのもためらわれるような推論だが、言わなければ何も始まらない。

「リュウ君を殺害した犯人。この事件の、真のクロが」

 言い放った。 

 

 

 きっといる。

 俺達を手玉にとって、事件の真相を隠蔽しようと目論む人物が。

 信じたくはないが、俺達の中にいるはずだ。

 

 

 

「リュウを……殺した奴が……いるだと……!!??」

 山村さんが裁判台に手をつき、怒りの形相を浮かべる。

「どうやってアイツを……どんな卑劣な手で……くそっっ!!!」

 ダン、と裁判台を叩く。

「その謎を、これから解き明かすんだよ。辛いけど、真実を導かなければこの裁判は終わらないんだ、山村さん」

 

 

「納得できんな」

 俺の言葉に動揺のそぶりも見せず、反論をしてきた人物。

 その人物を見て俺はにわかに戦慄した。

「先ほど出した推理と結論に齟齬はない。貴様の愚論如きに時間をとらせるな」

 御堂さん。

 これまで率先して捜査を行い、事件の真相を共に暴いてきた聡明な彼女が、今は俺と意見を異にしている。

 彼女の頭脳すらも欺くほど、犯人の工作が周到であったことを表している。

 しかし、ここで立ち止まるわけにはいかない。

 たとえ相手が天才であろうと、言葉の刃で切り捨てるのみだ。

 

 

 

【御堂秋音の反論】

 

 

 

 

「リュウはあのクマ共との交戦で死んだ。それが事実だろうが」

「いや、さっきも言った通り彼には包帯を巻いて治療する余裕なんてなかったはずだよ」

「その包帯も、奴の体にもともと巻いてあったものかもしれんだろう? 世界を股にかける殺し屋ならそれほどの古傷をもっていてもおかしくはあるまい」

「違うね。俺達はこの前、プール大会を開いたじゃないか。その時にみんな見たはずだ。彼の体に包帯なんて巻いてなかった」

「ああ言えばこう言う…! 耳障りな虫けらめ…!! 真のクロだと!? 笑わせるな!! 第三者が関与した根拠などどこに存在するというのだ!!」

 

「その言葉、切らせてもらおうか」

 

【使用コトノハ:死体発見アナウンス

 

 両断。

 彼女の言葉を真っ二つに断ち切り、俺は自らの論理の解説を始めた。

 

「まず初めに、捜査をしていてどうしても気になったことがあるんだ。そこでモノパンダ、一つ聞きたい」

「はいはい、はいよ!」

 鼻ちょうちんを出して居眠りに興じていたモノパンダは俺の声で突如目を覚ます。

「死体発見のアナウンスの鳴り方には規則性がある…と、俺は踏んでいる。もしそうなら、その規則性を教えてほしい」

「アナウンスの……規則性!?」

 伊丹さんが驚愕に満ちた表情を浮かべる。

「そうだ。恐らくそれが御堂さんの推理の矛盾点を示してくれるはずだ」

「うーん、それを今言うと犯人側に不利な気もするけどなあ……でもまあ、核心をつく部分でもないからいいか! 聞かれたら答えるのが温厚なパンダの礼儀だからな! ズバリ、アナウンスは”三人の人物が遺体を目撃した時点で鳴るんだぜ!!」

 …三人!

 やはりそういう規則性だったか。

 これで分かったぞ。

「モノパンダ、付け加えて質問をする。その目撃者に犯人は含まれるのか? もし含まれるのならば、犯人が別の場所から遠隔殺人でも行わない限り、目撃者が二人現れた時点でアナウンスが鳴ることになるが」 

 すかさず御堂さんが鋭い質問を飛ばした。

「ノンノン! 犯人は目撃者には含まれないぜ! ただし、いったん犯行現場から立ち去り、その後目撃者のふりをして目撃した場合、これは目撃者としてカウントするぜ!」

「みーちゃん、理解できた?」

「さっぱり分からぬぞよっ!!」

 亞桐さんがため息をつき、安藤さんは無邪気な笑みを浮かべている。

「……つまり、”犯行直後の犯人は目撃者としてカウントしないけど、目撃者のふりをした犯人はカウントする”ということよ。重要なのはそこじゃないわ」

 そう言って伊丹さんが俺の方を向いた。

「この情報をもとに釜利谷君とリュウ君、二名の目撃情報についておさらいしようか」

 俺は脳内に組みあがっている遺体発見の順番を語り始めた。

 

『リュウ君の遺体を最初に発見したのは夢郷君。その後、彼は慌てて俺と御堂さんを呼びに来た。そして俺と彼女がリュウ君の遺体を発見した直後、アナウンスが鳴った。つまり、アナウンスが鳴るまでに遺体を目撃した三人の人物とは、夢郷君、御堂さん、そして俺だ。ここまではいいよね?

 問題は釜利谷君だ。俺が彼の遺体を発見した時、既に前木君がそこにいた。つまり、前木君が第一発見者であるように思える。その次に俺が遺体を発見し、その後に御堂さんが続いた。しかし、アナウンスは御堂さんの到着を待つことなく、俺が釜利谷君の遺体を発見した直後に鳴った。

 …おかしいよね? アナウンスが鳴るまでに遺体を発見したのは、俺と前木君だけ。ここから導かれる事実は一つ。もう一人、前木君より前に遺体を発見した人物がいたということだ』

「…ってそれどういうことだよ!! 俺が間違いなく最初に三ちゃんのところに行ったはずだぞ! それより前に行った奴なんていないはず…なのによ……」

「簡単な話さ。さっき立てた筋書きでは説明のつかない、”リュウ君でも釜利谷君でもない第三者”が、この事件に関わっているということだよ」

「”第三者”……!?」

 場内にいるみんなの視線が不穏なものとなる。

「それが、今回の事件における”真のクロ”になるわけですか?」

 入間君の問いに俺は頷く。

「まとめるよ。この事件が、単純にリュウ君の行動のみで終わっていないという俺の推理を裏付ける証拠は、死体発見アナウンスの謎がまず一つ。実はもう一つ根拠があってね」

 そう言って俺が取り出したものは。

 

【提示コトダマ:決意表明

 

 さっきみんなに見せたリュウ君の決意表明書だった。

「これをもう一度よく見てもらいたい。先ほど導いた筋書きでは説明のつかないことがあるはずだ」

 

『 第一に、モノクマとモノパンダを操るものは”超高校級の絶望”である。俺はこれより奴らを排除すべく行動に出る所存である。

 

 第二に、この学園生活を過ごす者達にも、”超高校級の絶望”の一味たるものが複数人紛れ込んでいる。その者についても残さず排除する。』

 

「…この部分、読んでいて不思議に思わない?」

「”複数人”と言っているね」

 夢郷君は気付いたようだ。

「つまり、裏切り者として殺された釜利谷君のほかにも、今こうして顔を合わせている者の中にも”絶望の一味”がいるということか」

「…は!? 何それ!? この中に、まだ裏切り者がいるの!?」

 亞桐さんが驚きの声を上げる。

「いるとしても、その人に裏切り者としての記憶はないはずよ。釜利谷君の記憶研究所によれば、彼を除いた14名……すなわち、ここにいる人間は全員記憶を操作されてしまっているものね」

 伊丹さんの言葉に全員が不安げな視線をたがいに向け合う。

「でも」と俺は声を上げた。

「記憶を持っていようといまいと、それはこの事件を語る上ではさしたる情報じゃないと思うよ。問題は、裏切り者が釜利谷君のほかにも存在し、かつそれをリュウ君が把握していたということだ。と、なると…」

「…釜利谷さんの他にも、彼に命を狙われていた人物がいると……?」

 入間君が声を震わせながら呟く。

「そうだね。でも、彼は二番目のターゲットを殺せぬまま息絶えた。これが何を意味するか分かるかい?」

 

 

「二番目のターゲットがリュウを返り討ちにした犯人だと……そう言いたいのだろう?」

 俺が言う前に代弁してくれたのは御堂さんだ。

「…先ほどの過ちを認めよう。私の描いた筋書きは間違っていたようだ。どうやらこの事件、一筋縄ではいかないようだな」

 その言葉を受けて、俺は強く頷いた。

 冷静に振る舞ってはいるが、彼女の腕は微かに震えている。

 誤った結論の果てに何が待っているのか、想像するだけでそうなるのも頷ける。

 

 

【議論開始】

 

亞桐莉緒:「じゃ、じゃあ本当の犯人の手がかりを見つけないと!」

入間ジョーンズ:「これまでの議論で不審な点はありましたか?」

伊丹ゆきみ:「特になかったと思うけど……」

夢郷郷夢:「さっきの決意表明とやらにさらなるヒントがあったりしてね」

小清水彌生:「うーん…読み返してるけど、なさそうよ」

前木常夏:「犯行場所以外で不審だったところとかねえのか!?」

山村巴:「んなモンあるわけねぇだろうが!!!」

安藤未戝:「それじゃあ犯人が自白するのを気長に待つのがよいぞよ!」

モノパンダ:「議論が終わる前にみんな寿命を迎えちまうよ~!」

 

「山村さん。事実を見誤っちゃダメだ」

 

【使用コトダマ:技術室の焦げ跡

 

「んだとぉっ!!??」

 彼女の剣幕に押し倒されそうになるが、負けてはいられない。

「ぎ、技術室を調べた時に不審な点があったんだ。ねえ、亞桐さん?」

「あ、そうだ!!」と亞桐さんは思い出したように叫ぶ。

「なんかね、ススみたいなのが床とか備品にこびりついててね……乱暴に掃除した跡があったけど」

「スス……でございまするか?」

 丹沢君が訝しげな顔をする。

「火事……があったわけでもないみたいだ。ただ、周囲の物品に多少の損傷が見られたね」

「……どういうことだ、葛西幸彦。貴様は技術室で何があったと考えている?」

 御堂さんの鋭い問いが飛んできた。

 俺は思考を整理する。

 

 焦げ跡、スス…。

 周囲の者が多少破損していた…。

 

「”爆発”。そう、爆発が起きたんだ。小規模のね」 

「爆発…ですって!?」

 小清水さんが驚愕の声を上げるのも無理はない。

 爆発なんて現象、そう簡単に起きるものではないからだ。

 だが、あの技術室においては状況は別だ。

 

「爆発が起きたことを示す根拠もある。これだよ」

 

【提示コトダマ:製図と部品

 

 俺はポケットから手のひらサイズの小さな冊子を取り出した。

「これは技術室に置いてあったものだ。内容は、”手製小型爆弾の作り方”。ご丁寧に爆弾製作用の部品も置いてあったよ」

「な、なんですと!? そんな物騒なものが技術室にあったと!?」

「ぎひゃひゃひゃ!! 快適なコロシアイ生活のための必需品として提供させてもらったんだぜ~! でも勘違いするなよ、爆弾そのものには人を殺せるほどの威力はねえからな~!」

 モノパンダが口を挟む。

 まさかそんなものが常備してあるなんて、予想外だった。

 事前にあの部屋をもっと調査しておくべきだったけど、今となっては仕方のないことだ。

 

「殺す威力はないにしろ、威嚇や目くらましなどに使われた可能性は高いね。間違いなく、昨晩技術室で何かがあったんだろう」

「つまり、真犯人が爆弾を用いてリュウを返り討ちにしたということか?」

 御堂さんが腕を組んだまま尋ねる。

「そう考えても差し支えはないね」

 

「でも、それだとおかしくない?」

 小清水さんが不安げな顔で呟く。

「リュウ君は確かに大ホールの中央で亡くなっていたじゃない。その話だと、爆弾が使われた技術室で殺されたように聞こえるけど……」

「偽造工作、ということなんじゃない?」

 俺の代わりに声を上げたのは伊丹さんだった。

「犯人は”モノクマ達との戦いでリュウ君が死んだ”と思わせたかったんでしょう? だから、別の場所で亡くなったリュウ君をあの場所へ運んだと考えるのが妥当だと私は思う」

「でも…技術室に血痕なんて残ってなかったと思うけど……」

 亞桐さんの言葉はもっともだ。

 犯人が掃除したという可能性も拭いきれないが、血痕をきれいに掃除しておいて焦げ跡の掃除が乱暴になされていたのは不自然だ。 

 だとしたら、初めから血痕なんて存在しなかったのか?

「爆弾を使ったからといって、その場で殺したとは限らないわ。爆弾で怯ませた隙に、何らかの方法で気絶でもさせれば、彼を安全に大ホールまで運べ、かつ大ホールでの殺害を演出できるものね」

 伊丹さんの放った言葉が、俺の脳細胞を刺激した。

 

 ――”気絶”。

 つまり、あれを使ったということか。

 

【提示コトダマ:更衣室のスタンガン

 

「伊丹さん。その仮定を裏付けるものがある。男子更衣室に置いてあったスタンガンだ。はじめは誰かの私物だと思って気にしていなかったんだけど……」

「犯人がそれを用いた可能性が高いってことね」

 伊丹さんは俺の言わんとすることを察してくれた。

「ちょっと待てよ…。話が進みすぎなんじゃねーのか」

 そこに前木君が横槍を入れてきた。

「そのスタンガンってのは誰がどこから持ち込んだってんだよ? まさか入学早々からそんなモンを用意してたやつがいたってのか?」

 確かに、そんな武器の存在を突然知らされたらそう思うのも無理はないだろう。

 一つ一つ事実を確認していく必要がある。

「初めから誰かの私物だったとは考えられないよ…。この場所に連れてこられた時、俺達は必要最低限のものを除いて持ち物を奪われていた。携帯電話や財布すらも取られてしまった。そんな中でスタンガンだけが奪われずに残っていたなんて考えにくいね」

「でも、俺達が殺し合うのを望んでいたこいつらなら、武器を奪わずに残しとく可能性だってあるだろ!?」

「クマ聞きの悪いこと言うなよー! オイラはいつだって公平なコロシアイ環境を提供するように心がけてるんだぞー! 一人だけに武器を渡すなんて不平等なこと、させるわけねーだろー!!」

 耳障りなモノパンダの言葉だが、おかげでとりあえずは確信が持てた。

「じゃあ、そのスタンガンはここでの生活が始まってから更衣室に持ち込まれたってこと…?」

 小清水さんの言葉に俺は頷いた。

 

「ですが、外界と完全に遮断されたこの校舎内に外部から物を持ち込むなど不可能ではないでしょうか?」

 入間君の反論はもっともだ。

「物体を瞬間移動させる念力を使えば可能だぞよ!!」

「さすが安藤君、目の付けどころが違うね」

 相変わらず健在な安藤さんと夢郷君の掛け合いには呆れ笑いするしかない…。

「そんな奴がいたら推理も議論も意味なくなるじゃん!! 真面目に考えろよ!」

「落ち着き給え亞桐君。怒ると丸めた新聞紙みたくなるよ」

「普通に"小皺が増える"って言えよ!! 変にリアルな比喩持ってくるなよ!!」

 

 

 

「作られた、と考えることはできませぬか?」

 混沌とした議論を断ち切ったのは、丹沢君の何気ない一言だった。

「技術室に爆弾を製作する環境が整えられていたのならば、同様にしてスタンガンも技術室で作れちゃったりして……という素人考えでござりますが…」

「確かに考えられなくもないけど……でも俺が探した限りは爆弾以外のものを作るための製図なんて見つからなかったよ」

「犯人が処分した、という可能性が高いんじゃないの?」

 伊丹さんの冷静な指摘が入る。

「そうするなら、爆弾の製図も一緒に処分しているはずじゃないかな? スタンガンの方だけを処分するのは不自然だと思うんだ」

 スタンガンの製図だけを処分しなければならない状況なんて想像できない。

「つまり、犯人は製図なしでスタンガンを組み立てたってこと…?」

 小清水さんが呟く。

「そ、そんな方がこの中におられるというのござるか!?」

「相当な精密機械だから常人には作れないと思うのだが……」

 言ってはみたものの、丹沢君や夢郷君の言葉はもっともだ。

 とてもじゃないが機械に詳しくない人が部品だけ集めて作れるものじゃない。

 

 

 

 

 じゃあ、このスタンガンはどうやって……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機械に…詳しく……ない人……???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぞわり、と背筋を撫でられたかのような感触が走る。

 

 

 

 

 

 突然、だった。

 突然に。

 脚本が、組みあがったのだ。

 

 

 

 

 確かに、”凡人”にスタンガンなどというものを組み上げるのは不可能だ。

 だが、ここにいる人間は凡人などではない。

 儚くも全員が才能に恵まれた将来ある若者たちなのだ。

 

 

 

 

 

 そう、”あの才能”ならば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【人物指名】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ、とため息をついた。

 張り詰めた裁判上の空気が冷たい。

 そんな中、俺は真っすぐと”彼女”の方を向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君だったのか。

 

 

 君こそが、今回の脚本の主役。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「超高校級のエンジニア、御堂秋音さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、この場において誰もが予想だにせぬ名であった。

 

 

 

「…君なら、スタンガン程度の精密機械でも製作できるはずだ。製図なんかなくてもね」

 

 

 

 

 さっき微かに震えていた彼女の体。

 それは、謎が解けないゆえの恐怖ではなかった。

 むしろ逆。

 自らが用意周到に隠蔽した事実を紐解かれていくことへの焦燥に他ならなかったんだ。

 

 

 

 瞬間。

 強烈な”何か”を感じた。

 その主はすぐに分かった。

 

 

 

 

「……………!!!!」

 

 

 

 他ならぬ、御堂さん自身だった。

 腕を組み、真っすぐにこちらを見据えている。

 その表情は何とも形容しがたいものだ。

 

 怒り、憎悪、そう言った激情ともいえる感情の中に微かな恐怖、絶望が感じ取れる。

 

 

 

 全員の視線が御堂さんに突き刺さる。

 

「お、お前……何言ってんだよ…。こいつが犯人なわけねえだろ!! だってこいつは、さっきまで積極的に議論を進めてたじゃねえか!」

 前木君が青い顔で反論する。

「そうだね。釜利谷君の死の真相を暴く瞬間”まで”は積極的にみんなを誘導していた。そして彼女は議論をこう結論付けようとした。”釜利谷君を殺したリュウ君はモノパンダたちとの戦いで戦死した”と」

 事実、この仮定の下にこの議論は終了しかけた。

 俺が言の葉を以て反論しなければ、議論はあそこで終わっていた。

 そして、誤った結論のもと、俺達は惨たらしい処刑の危機にさらされるところだったのだ。

「でも、俺が反論したことでさらに議論は発展した。君はその反論に対してさらに反論した。あたかも自分の作ったストーリーを貫きたいかのように、ね」

「う、嘘でしょ……? ねえ、秋音ちゃん……?」

 亞桐さんが声を震わせて呼びかけるが、御堂さんは石像のように強張った表情のまま答えない。

「そして、その後の議論になると君は当然黙り始めた。なんでだろうね? 今まではあれだけ積極的に議論を進めていたのにね」

 そう話している最中も、俺の目は、御堂さんの瞳から光が消え、深い深い闇に呑まれていくのを、はっきりと捉えていた。

「でもそれは粗末なやり方だと言わざるを得ない。君が作り出したストーリーでは、技術室の荒れようもスタンガンの出どころも謎のままだ。だからこそ俺は」

 

 バン、と。

 大きな音が鳴った。

 

 御堂さんが裁判台を全力で叩いた音だとすぐに分かった。

 

 

 

『調子に乗るなよ、屑が』

 

 

 低く、声圧だけで俺の心を押し潰しそうなくらい重みのある声で彼女は言った。

「そこまで私を犯人に仕立て上げたいか」

「仕立て上げたいわけじゃない。ただ、昨晩起こったことをありのままに解き明かしたいだけだよ」

 負けられぬとばかりに俺も力を振り絞って言葉を紡ぐ。

「戯言も大概にしろ…。貴様の推論は穴だらけだ!!」

 高らかに宣言するかのように、力強く御堂さんは言い放った。

 

「まず一つ言わせてもらおうか……。仮に私がスタンガンを製作し、犯行に用いたとてそれを男子更衣室などという場所に移すことなどできんのだ」

「…あ、そうよ!」と声を上げたのは小清水さんだ。

「 葛西君、更衣室には電子生徒手帳を読み取る機械があって、該当する性別の人しか入れないようになってるのよ…」

 甘い。

 そんなことでは俺の手掛けた脚本は崩れない。

 ”超高校級の脚本家”を侮ってもらっては困る。

「分かった。じゃあもう一度確認しようか」

 

 

 

 

 

【議論開始】

 

 

 

葛西幸彦:「みんな。もう一度、更衣室の入室方法を思い出してほしい」

小清水彌生:「えっと、更衣室の入り口にはカードリーダーがあって……」

入間ジョーンズ:「そこにご自分の電子生徒手帳をかざし……」

安藤未戝:「対応する性別であればドアが開く、という仕組みであったのう!!」

御堂秋音:「残念ながらモノクマがそこまで厳重な体制を敷いている以上、異性が更衣室に入ることはできんのだ!」

伊丹ゆきみ:「……! まさか……!!」

 

「違うよ、入間君」

 矛盾は存在する。

 辛いけど、追い詰めなくてはならない。

 

【提示コトダマ:リュウの生徒手帳

 

「”自分の”生徒手帳をかざす必要はないよ。他の誰かの生徒手帳をかざせば、性別を偽るなんて簡単さ」

「ま、まさか我々の生徒手帳を盗んで!?」

 入間君の驚きの声とともに全員が自分の電子生徒手帳を確認する。

 もちろん、誰のものも失われてはいない。

 御堂さんは相変わらず鬼のような形相で俺を睨みつけている。

 

 

「死亡した生徒の手帳を奪って使えば、誰かのものをわざわざ盗まなくても可能だよ」

「……ッ!!」

 ビキビキ、と御堂さんの顔を青筋が走る。

「大ホールで亡くなっていたリュウ君の電子生徒手帳が彼の遺体から少し離れたところに落ちていた。少し違和感を覚えたんだ。彼は普段、生徒手帳を懐に忍ばせていたはずだからね。もちろん激戦の最中に落ちたのかもしれないけど、”誰かが使用した後、そこに投げ捨てた”と解釈すればより説明がつきやすいよね」

「た、確かに……」

 

 

 言葉の弾丸が、彼女を抉る。

 あらゆる負の感情が空間を伝播して俺の肌に伝わってくる。

 俺は今、一人の少女を殺している。

 だがその代わり、十人の仲間を生かすのだ。

 

 

「君は釜利谷君に続いてリュウ君に呼び出された”第二の超高校級の絶望”だったんだ。きっと呼び出し状ももらったんだろうけど、細かくちぎって捨てるなりすれば隠すことも可能だね。でも君は驚いたはずだ。知らなかったんだろう? 自分が”超高校級の絶望”だなんてね。君が動揺していた様子は、焦げ跡などの処理が大ざっぱだったことからも容易に推察できる」

 俺は頭に思い描いた脚本をそのまま言葉に変え、述べていった。

「…………」

 御堂さんは押し黙ったまま何も言わない。

「なぜなら君は、いや、君も含めた俺達はみんな、”超高校級の脳科学者”たる釜利谷君に記憶を消されていたのだからね。だから君は慌てたはずだ。ここまでのトリックも、咄嗟に考えたその場しのぎのものだった。それでも俺達を危ないところまで追い込めたのは、ひとえに君の天才的頭脳によるところが大きいだろうけどね」

「………………」

 彼女は顎をカタカタと震わせ、なおも黙る。

「だからリュウ君をスタンガンで返り討ちにした後、もしくは大ホールに移して殺害した後、校内を歩き回って状況を確認しようとした。その時に君は釜利谷君の遺体を発見し、ここに至るまでの一連のトリックを思いついたんだ。最初に議題に上がっていた死体発見アナウンスの謎もここで解決するね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…げ……しろ……」

 不意に彼女は顔を下に向け、何かを呟いた。

「? なんて?」

 

 

 

 

 

 

 

『いい加減にしろと言っているのだ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 顔を上げた時の彼女の表情は、最早普段の姿からかけ離れているといっても過言ではなかった。

 真っ赤に紅潮した顔、牙をむく表情、血走った目。

 すべてが物語っている。

 彼女が、真実を暴かれた犯人の姿そのものであると。

 

「愚論を押し並べるな!!! 貴様の推論のどこに整合性がある!!! 全てこじつけに過ぎんだろうが!!!」

 魔獣のような覇気を纏った彼女は敵意のこもった咆哮を上げる。

「確かにそうだね。ここまでの議論は、”君でも犯行は可能だ”ということを示したに過ぎない。でも僕は確信してしまった。すでに脚本はできあがっているんだ。そのすべてを披露しよう。君が犯人であるという証拠をね」

「証拠だと!!?? 笑わせるな青二才が!! 行っていない犯行の証拠などどこにあるのだ!!」

「あるさ。君が犯人でなければ説明のつかない事象がね」

 

【提示コトダマ:モノパンダ修理の跡

 

「ついさっきの捜査時間を思い出してみて。俺達に事件の説明をしたモノパンダはどうなっていた?」

「…そういえば……なんだか音声は途切れ途切れで……表面もボロボロだったよな……」

 前木君が恐る恐るあげた声に俺は同意の意を込めて頷く。

「そう。あのモノパンダは一度破壊された個体に応急処置を加えたものだったんだ。今目の前にいるモノクマとモノパンダは、捜査時間の間に黒幕の手によって修復されたものとみて間違いないだろうね」

「…それが、どう御堂殿の犯行を裏付けるのでござるか…?」

「分からないかい、丹沢君。黒幕には”短時間で”ヌイグルミを”完璧に”修理できる能力がある。ということは、あの応急処置を施された個体は、黒幕以外の誰かが修理したものだってことだよ」

「………!! と、いうことは……」

「スタンガンの時と同じさ。いや、むしろより分かりやすいよね。スタンガンよりもよほど精密で複雑な機械を、応急処置とはいえ問題なく動かせる状態まで直せるのは、御堂さん。君しかいないんだよ」

 重く、静かな声で俺はそう言ってのけた。

「!!!! ……!!!」

 雷に打たれたように、御堂さんは目を見開いたまま硬直していた。

 

 

 

 

 

「嘘よ」

 ささやきのように小さく、差し込まれた声は。

「嘘だと言って……!! 葛西君……!!」 

 黒い瞳を虚ろに泳がせた伊丹さんのものだった。

「そんなはずがない……よりによって……あなたが…」

 この数日間で、言い争いを繰り返しながらも仲を深めていた二人。

 どことなく似ている内面と相まって、いつの間にか無意識の友情が生まれていたことも想像に容易い。

「俺だって信じたくはないよ。まさか君が、殺人欲求に敗北するなんて思っても見なかった。でもこれは、非常に残念ではあるけれど、真実なんだよ」

 

 

 

「ふふ、ふふふふふふふふ……」

 そんな伊丹さんの悲痛な声に答えるように、狂気じみた笑みが返ってきた。

「伊丹…ゆきみ。貴様まで、ふふふ、貴様まで、この雑魚の言うことを鵜呑みにするのかぁぁぁぁぁ!!!!!」

 恐怖と怒りが混じり合った強烈な声が裁判場に響く。

「ふふ、ふふふははははははは!!! そうかそうか!! 貴様らのような無能の集まりは、ふふふ、はははは!!! 簡単に、騙されるのだ!!!!」

 引きつった笑みを浮かべながら、御堂さんは言葉を吐き捨てる。

「私がモノパンダを直しただと!!?? ふふふ、ふへ、へへへ!!! なんだその暴論は!!?? 壊れかけのモノパンダがなぜ私によって修理されたものと断定されるのだ!!?? そんなもの、リュウとの戦いで半壊しただけかもしれないだろうが!!」

「もうやめにしないか、御堂さん」

 

【使用コトダマ:モニター破損部

 

「あの時のモノパンダは間違いなく君によって修理されたものなんだ。なぜなら、技術室のモニターが分解されていた。きっと、モノパンダを直すためにモニターの部品を流用したためだろう」

「違う違う違-----う!!! あのモニターは犯人の爆弾でたまたま壊れたに過ぎ」

「だとしたらなぜ、校則違反を犯した犯人は罰せられなかったの?」

 

「………あ、ぽ??」

 

 素っ頓狂な声を上げて御堂さんのマシンガントークは停止する。

 

「校則をよく見てごらん。『モニターや監視カメラ、モノクマやモノパンダへ危害を加えることを禁ずる』とある。たとえ半壊状態のモノパンダしか残っていなくても、校則違反を犯した犯人はモノパンダによって罰せられたはずだ。でも実際にはそれが行われなかったのは、その時点ではモノクマもモノパンダも全滅し、”一体もヌイグルミが残っていなかった”ためだ。

 つまり、ヌイグルミは一度全滅してから、捜査時間に出会ったあの壊れかけの個体だけが息を吹き返した…。つまり、何者かが修理を施したということに他ならないんだよ」

 それは物的証拠というよりは状況証拠でしかない。

 しかし、ここは本物の裁判場ではない。

 物的証拠がなくとも、結論を出すことは可能である。

 

 

 

 

 

 

 

「もう、やめましょう」

 重い声を上げたのは、裁判台に手をついてうなだれる入間君だった。

「もう十分ですよ……。信じたくはないですけど……ここまでいわれたら、信じるしかないじゃないですか…」

「な、な、な、何を言っている…の、だ???」

 御堂さんは絶叫に近い声で入間君を問い詰める。

「騙されるな!!! 騙されるな、俗物共が!!! この男こそ、葛西幸彦こそが、私を犯人に仕立て上げ、己の犯行を隠蔽しようと」

 

『うるせえっっ!!!』

 

 

 

 

 

 怒号の主は、ここまで沈黙を保っていた山村さんのものだった。

 

「黙れや、御堂。テメエの負けなんだよ」

「…負、け? 負けって……??」

「もう誰も、テメエの論理に耳なんか貸さねえっつってんだ!! テメエが、テメエがリュウを殺したんだろうがっ!!」

 高ぶった山村さんの顔には、僅かながら涙が降りているように見えた。

「葛西……終わらせろ。お前の脚本を……完成した脚本を…オレ達に示してくれ」

 山村さんの言葉に、俺は力強く頷いた。

 

 

 

 

 

「待って、やめて、やめて、やめて」

 御堂さんの瞳から恐怖ゆえの涙がほろほろと降りる。

 

 

 

 

 これ以上、誰も苦しめたくはない。 

 みんなのために、引いては俺自身のために、この胸糞の悪い裁判を終わらせてやる。

 

 

 

 

 

 

 

「分かった。みんなに披露しよう。これが…俺が導き出した真実だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《クライマックス推理  ――真実の脚本――》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Act.1

 

 すべての始まりは、”超高校級の殺し屋”であるリュウ君…いや、龍雅・フォン・グラディウス君が”超高校級の絶望”の抹殺を計画したことだ。彼はまず、手記をしたためることで俺達に自分の意思を伝えようと試みた。そして俺達の中に紛れ込んでいた”超高校級の絶望”に呼び出し状を送りつけた。その中には、今回の事件の第一の被害者である釜利谷三瓶君、そして真犯人も含まれていたんだ。

 そして龍雅君は下準備として校内の見回りに当たっていた山村さんを急襲し、気絶させることで殺害目標を呼び出せる状況を整えた。

 

 

 

 Act.2

 

 そして龍雅君は行動に出た。大ホールを訪れた彼は自ら校則違反を犯し、モノクマやモノパンダたちに戦いを挑んだんだ。大ホールの様子を見るに、相当な激戦だったことは間違いないね。

 ただ一つ分かっているのは、彼はその戦いに勝利したこと。その証拠に、彼は隠し持っていた包帯で自らの治療をしていたのだからね。ヌイグルミがこの時点で全滅したのも間違いない。

 

 

 

 Act.3

 

 龍雅君の次のターゲットは、”絶望”の一人である釜利谷君だ。待ち合わせ場所の2-Aに辿り着いた彼は、有無を言わせず釜利谷君の首を砕き、殺害した。その後にその場で休息でも取ったんだろう。煙草の吸い殻をその場に落としていった。それが彼の犯行を裏付ける証拠となってしまったんだね。

 龍雅君の次なるターゲットとして技術室に呼び出されていた人物、それこそが今回の事件の真犯人だ。呼び出しを受けていた犯人はかなり前から技術室で待ち構え、手製爆弾やスタンガンを用意していた。そして技術室に現れた龍雅君を迎えうった犯人は、彼の負傷も相まって、返り討ちにすることに成功したんだろう。

 

 

 

 Act.4

 

 犯人の隠蔽工作は周到なものだった。まずは龍雅君を大ホールまで運び、モノクマとの戦いで亡くなったように見せかけた。恐らくとどめもそこで刺したんだろう。そして龍雅君の手記の一部を破り、自分が”絶望”であることを隠した。さらには技術室に戻り、爆発の跡が残らないように掃除し、工具も元の場所に戻した。でも、そういった処理にも様々な部分に詰めの甘い個所があった。そのおかげで俺はそれを手がかりとして見破ることができたんだ。

 最後に犯人は、コロシアイ生活のルールを遂行させるため、龍雅君に破壊されたモノパンダの一体を大まかに修理した。モニターの部品を流用したにもかかわらず校則違反とされなかったのは、その時点でヌイグルミ達が全滅していたからだね。

 

 

「動揺しながらも俺達を翻弄し、誤った結論まであと一歩のところまで歩を進めさせた怜悧さと狡猾さ。そして爆弾やスタンガンを常人ならざるスピードで組み上げる器用さと、モノパンダをその場で修理できるほどの神懸かり的な技術。その全てを備えた”究極の理系少女”。

 

 

 

 

 

 犯人は君だ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”超高校級のエンジニア”、御堂秋音さん!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電撃が走ったかのように、その空間は重く静まり返っていた。

 

 

 

 目の前に立つ女性は、目を見開いたままぼうっと立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……あ………」

 

 

 微かに、その喉元から声が漏れる。

 

 

 

 

「助 けて  」

 

 

 ガクリと膝をつき、両手で頭を抱え込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぁぁああぁあああぁあぁあぁあっぁぁぁぁあぁああっぁああぁぁぁあぁぁぁあああぁ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世のすべての絶望を凝縮したかのような、猛烈で悲痛な悲鳴がその空間を支配した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。