エクストラダンガンロンパZ 希望の蔓に絶望の華を   作:江藤えそら

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亀更新で申し訳ないです。私の悪い癖ですね。でも日常編は書くの大変なんです…。まだトリックも定まってないし。頑張らなきゃなあ…


chapter2 (非)日常編②

 ◆◆◆

 

 

 

 この場所へ連れてこられて、今日で七日目。

 

 ついに、一週間経ったんだ。

 

 先週。

 つい先週までは、俺達は互いの顔すら知らなくて。

 殺し合うなんて夢にも思っていなかった。

 

 この悪夢は、いつになったら終わるのだろうか?

 

 

 ……いや。

 不安になんかなっている暇はない。

 いつ終わるかじゃなく、俺達が終わらせてやるんだ。

 亡くなった二人のためにも。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 今日の朝食は、幾分か昨日よりはみんなが調子を取り戻してくれたようだった。

 安藤さんも伊丹さんもちゃんと来てたし。

 俺としては嬉しい限りだ。

 

 

 

「葛西、ちょっといいか?」

 朝食後、俺を呼んだのは釜利谷君だった。

「? どうしたの?」

「あ~、なんつーか……。はあ~、俺は乗り気じゃねえんだが……」

 釜利谷君はボサボサの頭をかきむしりながらぼやく。

「男子全員でプール大会するみたいだからよ。オメーにも言っとこうと思って」

「…え? プール大会?」

 知らなかったぞ。

 いつの間にかそんな話になったんだ。

「おやおや、葛西さんは知らなかったのですか?」

 背後から陽気に声をかけてきたのは、入間君だった。

「一昨日は悲しいこともありましたが……。気分を一転するためにも、みんなで体を動かそうと思いまして。更衣室には全員分の水着も置いてありましたし、ちょうどいいかと思いましてね!」

 ……なにも、運動じゃなくてもいいと思うんだけどな…。

「はっはっは! 恐れながら拙者がインドア派ではないことを証明する時が来たようですな!!」

 そう言って眼鏡に指をかける丹沢君。

「コミケにイベント、同好会! オタクとは常に社会の荒波にのまれ続ける存在! 体力なくしてはやっていけませぬともー!!」

 かなり意気込んでいるようだ。

 待てよ、彼になら勝てるかもしれない。

 いける。勝ってやる。

 意地でも女子にビリの姿を晒すわけにはいかない。

 

 

 なんだか、ヘンなことになってきたな…。

 そう思いながら食堂を後にすると。

「…あ、前木君」

 廊下を歩く前木君を見つけた。

「……プール大会の話、聞いたか?」 

「う、うん。前木君も参加するよね?」

 しない、と言ったらどうしようと思ったけれど。

「ああ、するよ。心配すんな」

 いつもの陽気な笑みを浮かべてそう答えた。

「”彼”だったら…こういうイベントには絶対参加したがっただろうね」

 スポーツと聞いて陽気にはしゃぐ彼の姿が脳裏に浮かぶ。

 言ってはいけないことだったのかもしれないけど、口をついて本音が出てしまっていた。

「あぁ? お前知らねーのか? あいつカナヅチなんだぞ? ガキの頃に溺れたのがトラウマなんだとよ」

 思った以上に明るい口調で前木君はそう答えた。

「え、あ、そうだったんだ……」

「ははは! お前が思ってるほどあいつは何でもできるやつじゃねーよ! あいつだって普通の人間なんだよ! あいつ自身がそう言ってたろ?」

 

『俺だって建築業なら自信はあるが、それ以外のことはてんで常人並みだ! 他の連中だって自分の分野以外じゃあみんな凡人なんだぜ?』

 

 先週、土門君の部屋を訪れた時に聞いた話が脳裏をよぎった。

「だからよ、俺は……あいつの遺志ってモンを継いでやるんだ! 俺みたいな人間でも継げるって分かったからな!」

 前木君は胸をドンと叩いて高らかにそう言った。

「もう俺のことは心配すんなよ! 俺は土門で、土門は俺だ! 苦しいこと嬉しいこと悲しいこと、ぜ~んぶ俺が土門の分まで背負って生きてやるさ!!」

 そう宣言する彼の顔はとても凛々しくて、まさに”超高校級”だった。

「ほらよ、もうこの話は終わり! 俺の華麗な泳ぎを見せてやんよ!」

 そう言って前木君は更衣室へと駆け出していった。

 彼の後ろ姿はとてもまぶしかった。

 

 

 更衣室に入ると。

「…リュウ君!?」

 そこには、早くも海パン一枚になり、指一本で腕立て伏せをするリュウ君がいた。

 特徴的な色付き眼鏡は色付きゴーグルになり、競泳用帽子まで被る徹底ぶりである。

「おう……お前たちも早く体を慣らしておいた方がいいぞ。競泳開始まで残り40分だ」

 思いっきり”競泳”って言っちゃってるし。

 時間まで気にするなんて、どこまで本気なんだ…?

「っしゃあああああああ!!! 俺はトビウオになってやらあああああああ!!」

 そう叫び、飛び跳ねるように勢いよく服を脱ぐ前木君。

 そして、相変わらず更衣室の隅で考える人になっている夢郷君。

「人はなぜ泳ぐのか…? 人間が魚の真似をするなんてくだらないとは思わないかい…?」

「い、いや……そんなこと俺に言われても…」

 彼は競技に参加してくれるのかな?

 

 しばらくすると、男子全員が更衣室に集まった。

 俺もしぶしぶ水着に着替えた。

「いやあ、こうしてみると皆さん立派なお身体で羨ましい限りですよ!」

 小学生のようにダボダボの水着を履いた入間君が声を上げる。

 そういう言い方されると、俺みたいな細見が恥ずかしくなるじゃないか。

 みんな揃って腹筋割れてるし、腕も太いし……。 釜利谷君だって理系のくせに意外と肉付きはいいんだよな。

「何を申しまするか! 水泳はウェイトリフティングとはわけが違うのです! 筋肉が全てを決めると思ったら大違いですぞ!!」

 そう反論する丹沢君。

 今のところ、彼が俺の一番の安心材料だ。

 何しろ、見ていて心配になるくらい体がヒョロヒョロなのだ。

 入間君みたいな水着履いてるし、小学生にしか見えないよ。

 

「人間がどこまで魚に近づけるのか、興味が湧いた。悪いけど勝たせてもらうよ」

 さっきまで下らないと言っていたのに今はやる気満々の夢郷君。

「言っとくがなあ、勝つのは俺だぞ! 後で言い訳するのがメンドクセーからな!」

 同じく乗り気じゃなかったはずなのにいつの間にかやる気全開の釜利谷君。

「はっはっは、愚民どもが……このわたくしに勝てるとでも???」

 眼鏡に手をかけてポーズをとり、おかしな方向にキャラを定め始めた入間君。

 まさか……これからずっとその路線で行くつもりじゃないよね?

 

 コンコーン、と更衣室の扉がノックされる。

「男子のみなさーん! 準備はいいですか?」

 扉の向こうから山村さんの声が聞こえてくる。

「よし、始めんぞ!!」

 前木君の声に続くようにして、俺達はプールに出た。

 

 昨日はここまで来なかったため、プールを見るのは初めてだ。

 一言でいうと、とても広い。

 大ホールと変わらないんじゃないかと思うくらい広い。

 周囲にはギャラリーのようなものもあって、本当にここで大会なんかが開けそうだ。

「はい! それじゃあ皆さん、一列に並んでくださいね! 小清水さんの笛でスタートしますから!」

 みんなを引率する山村さんも、競泳水着になって……

 ……え?

「な、なんで君も水着になってるの?」

「なんでって、私も参戦するからに決まってるじゃないですか!」

「ええええええ!?」

 そんな馬鹿な!?

「山村殿!! これは男同士の真剣勝負ですぞ!! 女性は観客席に戻って」

「うるせええええええええッ!!!」

「ひええっ!?」

 突如、赤いオーラを暴発させた山村さんの叫びが丹沢君を委縮させる。

 なんだか……出会った頃よりも沸点低くなってないだろうか?

「オレが野郎共に負けるとでも思ってんのかあ!? 見くびってんじゃねえぞ!! てめえらなんざ十メートル差でぶっ潰してやんよ!!」

 指をバキバキと鳴らしながら山村さんは邪悪な笑みを浮かべる。

「ふははは、愚民が、ほざいていろ!! 優勝を飾るこの私の前にひれ伏す姿が目に浮かぶ!」

 新調したキャラがぶれない入間君。

「メンドクセー前置きは無しだ!! ひねりつぶしてやらぁ!」

「僕の思考をじゃまさせはしない…。僕が勝つ」

「オタクの底力、見せてやりますともーーー!!」

 思い思いの言葉で勝利への抱負を述べる男子一同。

 そして、そんな一同をよそに一人深呼吸するリュウ君。

 みんな優勝に向けて息巻いているが、現状、間違いなく優勝候補なのは彼だろう。

 

「はーい、それじゃあ全員、位置について!」

 全員が入水すると、笛を持った小清水さんが号令をかける。

「みんなガンバー!」

「大和撫子の本気、吾輩に見せてみよ!」

「…頑張って」

 ギャラリーから女子一同の声が飛ぶ。

 御堂さん以外の女子一同もそこに集まって見ているようだ。

 ますます負けるわけにはいかないな……。

 

「よーーーい…」

 緊張する。

 泳ぐのなんて一年ぶりかな。

 クロール……覚えてるかな?

 

 ”ピー―――ッ!!”

 

 笛の音が鳴る。

 俺は一気に背後の壁を蹴り、水面に潜り込んだ。

 ぐっと力の限り水を後ろにかき、ばっと顔を横に出す。

 

 あれ!? 

 水泳ってこんなに疲れるものだったっけ!?

 まずい、もうすでにちょっと苦しいぞ…!

 

 一瞬、顔を上げた隙にみんなの進行具合を見る。

 やはりトップを独走しているのはリュウ君。

 そこに山村さんが並ぶ。…やはりあの二人は頭一つ抜けている。

 その次に続いているのは…三人くらい並んでいるな。

 俺は……やはり置いていかれてる。

 でも、そんなことは問題じゃない。

 俺が競るべき相手は丹沢君。

 彼に勝てれば、俺は満足……って!?

 俺のちょっと前を進むあのマッシュルーム頭は!?

 間違いない、彼だ!

 

 くそ、負けてたまるかー!!

 

 俺は必死に水をかいた。

 訳も分からないまま、とにかく必死に。

 

 ようやく、ゴールに手がついた。

 ああ、終わったんだ。

 苦しかったけど、俺はやりきった。

 さあ、結果は……

 

 

 

 

 

「葛西君!! 50mよ、50m!!」

 

 

 折り返しコースだったとは。

 

 

 

 

 

 結果発表。

 

 1位…山村さん。

 2位…釜利谷君。

 3位…リュウ君。

 4位…前木君。

 5位…夢郷君。

 6位…入間君。

 7位…丹沢君。

 8位…俺。ビリ。

 

 リュウ君も俺と同じミスをしたらしい。

 山村さんが言うには初めの方に50m競争だと説明していたらしいが……聞いてなかったよ。

 ていうか、唯一参加した女子が一位だなんてシャレにもならないよ。恥ずかしくて死にそうだ。

 

「お疲れ様」

 プールサイドでうなだれる俺にそう言ってタオルを渡してきたのは小清水さんだった。

「元気だして。たかがプールの競争を気にすることないじゃない」

 うるさい、と言わんばかりに俺はタオルを引っ掴んだ。

 気恥ずかしさと悔しさで半分いじけていた。

 

 そんな俺の背中に、急に暖かい感触が広がった。

「うわっ!?」

 小清水さんが両手を俺の背中に置いたのだ。

「ふふ、あったかいでしょ?」

 いきなりそんなことをされたのでどう反応していいのかわからない。

「今朝ゴキブリさんを乗っけた手だけどね」

 てへ、と笑いながら彼女が発した言葉は恐るべきものだった。

「ええええぇぇぇぇぇぇ!!!??」

 思わず飛びのいてしまった。当然の反応だよね?

「だって、可愛かったからつい……」

 ゴキブリが可愛いだって!?

 

 …いや、俺は大事なことを失念していた。

 彼女は”超高校級の昆虫学者”。

 いままで全然そんな感じ出してなかったけど、彼女はこの世に存在するどの女子高生よりも虫が好きなんだ。

 

「大丈夫よ、流石に手はよく洗ってあるから」

 そう言って彼女は余計にベタベタと俺の背中に触ってきた。

「わわっ!! ちょ、やめてよ!」

 洗ってるとか、そういう問題じゃないよ!

 俺は彼女から逃げるように更衣室に駆け込んだ。

 

「葛西てめえ、ぶっちぎりのビリのくせに小清水とイチャつくたぁ身の程をわきまえてねえみてえだな」

 更衣室に入ると早速釜利谷君に凄まれた。

「それは違うよ!!」

 自然と声が出ていた。

 俺はイチャついていたつもりはない。むしろ被害者だよ。

「釜利谷君、あまり冷やかしては失礼だよ。男女の美しい関係に水を差すようなことはしないでおこうじゃないか」

 いや、夢郷君……それってますます冷かしてるよね…?

 ていうか、まず君は服を着てくれよ!

 いくら更衣室だからって、素っ裸で考え事に興じる必要はないだろ!?

 これじゃあまるっきりローマの石像だよ!

 

 

「はあ……」

 着替えを終え、半ば追い出されるように更衣室を後にした俺は大きなため息をついた。

 女子には恥ずかしいところを見られたし、男子には変な勘違いされるし。

 ほんと、ついてないなあ。

「おや…葛西さん」

 廊下には、俺以上にうなだれる入間君がとぼとぼと歩いていた。

「い、入間君……どうしたの…?」

「どうしたもこうしたもありますか! 体力には自信があったのに、まさかビリから三番目だなんて。この気持ち、若者言葉で『萎え萎え~』とでも言うのでしょうか……」

 なんだよそれ。俺へのあてつけか。

「入間殿はまだ良いではありませぬか! 拙者などビリから二番目ですからな! 恥ずかしくて顔から火が出てしまいそうですぞ!」

 すかさず丹沢君が割り込んでくる。

 くそっ、やっぱり二人とも遠まわしに俺を馬鹿にしているんだな!!

「おやおや、どうしたのですか葛西殿、涙目になって?」

 うるさいよ!! 分かってるくせに!!

「いや…ほら、葛西さんはルールを勘違いしておられましたし……その、実力じゃないですよ。ええ」

 それでフォローのつもりかよ。ちくしょう!!

 俺は精一杯の目力を込めて二人を睨んでやった。

 

「おや、三人集まってどうしたんだい? 暇なら僕の思考に付き合ってもらいたいんだが」

 遅れて出てきた夢郷君が声をかけてきた。

「体を動かしたおかげで頭が冴えてきた。そこで一つの議題を思いついたんだ。もしよければみんなで考えてみないか?」

「お、いいですねえ!! 是非ともお聞かせ願いたいです!!」

「拙者も!! 拙者もお付き合いいたしまするぞ!!」

 俺の怨嗟の視線から逃れるように二人は彼に同調する。

 ふん、二人がそういうつもりなら俺だって。

「俺も! 俺にもその話聞かせて!」

 げげっ、という顔をしながらも二人が文句を言うことはなかった。

 

 

 それにしても、改まって夢郷君が聞きたいことって何だろう?

 この前みたいに、『我々がなぜいるのか』みたいなよく分からないことを聞かれるんじゃないだろうか?

 

 そうこうしているうちに夢郷君が先導してくれた先は、休憩室だった。

 

「で? お話とは何ですか?」

 ソファーに腰かけながら入間君が尋ねる。

「ああ…。先ほどのプール大会、山村君も参加していたのだが……」

 顎に手を当てて考え事をしながら、彼は語り始める。

 

「あの水着姿、非常に興奮を覚えはしなかったか?」

 

 

 その時の俺は、文字通り目を丸くしていた。

 

「はいっ、興奮しました!! じゃなくて!!」

 丹沢君のノリツッコミが飛ぶ。

「そんなことを言うために呼び出したのですか!?」

「そんなこと…? バカにしないでもらいたいな。これは僕のれっきとした議題だ。”男という生き物は、なぜ女性の肉体美に魅せられてしまうのか”…。これは僕が長年答えを追い求めている議題の一つなんだよ」

「………」

「それが生殖活動よる子孫繁栄のために必要であり、生物学的にプログラミングされたことであるということは重々承知している。しかし、なぜ肉体美…すなわち胸、脚、腰のラインなどに欲求の的が集中するのか? なぜ、その部位でなくてはならないのか? ……これは非常に考えがいのある議題だ」

 淡々と、大真面目な顔で語る夢郷君。

「は、はあ……そういうものなんじゃないですか…? 男って…」

 スケベな話題ならば男子の最前線を行くはずであった入間君と丹沢君もこれには動揺を隠しきれないようだった。

「”そういうもの”…? そんな言葉で片づけてしまっていいのかい…? 僕は納得できない。男子はなぜ女性の肉体に惹かれるのか、その明確な答えを得るまでは僕は考えることをやめたくはないんだ」

「うーむ…。しかしお気持ちは分かりまするぞ。拙者も仕事柄、美しい肢体や豊満な肉体を目にすることは多々あります。なぜ美しい肉体はあそこまで人々の心を魅了するのか、気になりますなあ」

 丹沢君が頷きながら呟く。

 

「この答えを知る方法は一つしかない…。葛西君に頼みがある」

「え? …なに?」

「小清水君をここに連れてきてもらいたい」

「え、ええええ!?」

「ゆ、夢郷君……そんなことをして何をするつもりですか…?」

 ふん、と夢郷君は笑った。

「決まっているじゃないか。彼女に裸になってもらうのさ」

 

「!!!」

 その空間を、緊張感が支配した。

 

「この謎を解明するには、やはり女性の肉体を十分に理解する必要がある。本物の肉体を間近でじっくり観察する必要があると僕は思っている」

「なっ、いけません! 拙者ですら未だヌードの題材を制作したことはないのですぞ!!」

「早まってはいけません!! いきなり最終プロセスに駒を進めるなど、愚の骨頂ですよ!!」

「黙ってくれ」

 静かにそう言った彼の顔は、これ以上ないくらい真剣で重々しかった。

「これは”女性”という名の真理を追及するために必要なことなんだ。僕はやり遂げる。見届ける勇気がないのなら席を外してもらおうか」

「………」

 静寂が部屋の中を支配する。

「知っているかい? 小清水君はここにいるメンバーの中で最も豊満な肉体をしている。つまり、最も女性らしい肉体をしているということだ。これ以上にうってつけの相手はいないだろう?」

「そ、そこまで見ていたとは…。我ながら感服するばかりでござりまする」

「言っておくが、これは性欲に基づく欲求ではない。あくまでも知識欲が行動の原因だ。三人とも、絶対にそれを忘れないでほしい」

「そ、そう言われましても……いやあ…胸のバクバクが止まらないですね…」

「さあ、そういうわけで葛西君。小清水君を呼んできてくれ。彼女は君に懇意にしているのを僕は確認している。君ならできるはずだ」

『できるわけないだろーーっ!!!!』

 

 頭が真っ白になっていた。

 だって。

 そんなこと言われちゃうと想像しちゃうんだもん。

 小清水さんのあられもない姿を……。

 

 ああ、ダメだダメだ!! 何考えてるんだよ俺は!!

 

 そう叫んだ俺は一目散に廊下へと駆け出した。

 

 

「……残念だ。葛西君は少々子供すぎる」

 再び静けさに包まれた休憩室で、夢郷君は感慨深そうに呟くのだった。

 

 

 顔を真っ赤にしながら廊下を駆け抜けると、曲がり角には………

「あら、葛西君じゃない! そんなに慌ててどうしたの?」

「うわあああああぁぁぁぁぁっ!!!!」

 うわあああああぁぁぁぁぁっ!!!!

 

「え? え? ちょ、葛西君!?」

 

 もう何も考えられず、一目散にエレベーターへと乗り込み、訳も分からないままボタンを連打していた。

 

 

 

 

 

 ため息とともに俺はホール階の短い廊下に身を投げ出した。

「どうしよう………」

 それが本音だった。

 もう小清水さんをまともな目で見られないよ……。

 夢郷君も、ずっと硬派だと思っていたのに、まさかあんな一面があるなんて。

 本当に分からないな…”超高校級”の人たちは。

 

 気分を落ち着かせて立ち上がった俺は、ふとあることを思い出した。

「トレーニングルーム……解放されたんだっけ」

 裁判を乗り切った褒美として、エリアを拡張したと語るモノパンダ。

 昨日のリュウ君の話によると、トレーニングルームもその適用例らしい。

 

 俺は静かにトレーニングルームの扉を開いた。

 すると、そこには………

 

「二百、五十、三ッ!! 二百、五十…四ッ!!」

 左手の指二本で鉄棒にぶら下がり、懸垂するリュウ君がいた。

「………」

 上半身裸で汗を流す彼の迫力に気圧され、かける言葉もないまま俺は茫然と彼を見つめていた。

「…ん? 葛西か、こんなところに来るとは珍しいな」

 やがて彼の方が俺に気付き、棒から降りて部屋の隅にあるソファーに腰かけた。

「生憎だが、今は話したい気分じゃない。見ての通り、徹底的に鍛えねば気が済まない気分なのだ」

 そう言いながらもリュウ君は懸垂の動きを止めはしない。

「…なんで?」

「なんで、だと!? 葛西、お前はもうあのプールでの屈辱を忘れたのか!! 飛び入り参加の山村に一位の栄光を渡すなど、プライドを踏みにじられたも同然だ!!」

 リュウ君はすごい形相でこちらを睨みながら声を荒げた。

「で、でも……俺と君は50m競争だってのを知らなくて……」

「言い訳など許されるものか!! 結果が全てなのだ……! くそっ、俺は絶対に再戦するぞ!! 次は負けん!」

 全身を真っ赤に紅潮させながらリュウ君は懸垂のスピードを早めた。

 

 なんていうか……意外だな。

 彼にもこんな子供っぽい一面があるなんて。

 

「葛西! お前はビリだっただろう! 悔しくはないのか!」

 え、そんなこと言われたって……

 悔しいには悔しいけどさ。

 そこまで一生懸命にはなれないよ。

 どうせ負けるの分かってたし。

 

「…ふん、お前がそれでいいのなら俺は何も言わん。だが俺は納得せんぞ! 俺は負けられないのだ……誰にもな!!」

 どもる俺の姿を見かねて、彼はそう言い放った。

 なんだか、間接的にリュウ君にまでビリを馬鹿にされた気分だよ…。

 

 

 俺が言葉に困っていると、背後からドアの開く音がした。

「おっ、葛西とリュウじゃーん。トレーニング? カッコいいねー」

「あ、亞桐さん……と…伊丹さん?」

 入ってきたのは意外な組み合わせの二人だった。

 亞桐さんはいつも通りの格好だが、伊丹さんは黒いジャージを上下着ている。

「みんなが泳いでるの見てたらウチらも体動かしたくなっちゃってさー。ゆきみんもそういう気分っぽいから一緒に来たの! ジャージは倉庫に置いてあったしねー」

 いつの間にか呼称も「ゆきみちゃん」から「ゆきみん」に昇格。

 初日のいざござはもう忘れてるみたいだな…。まあいいけど。

 亞桐さんの言葉に呼応するように伊丹さんは小さく頷いた。

 

「あ、でもその前にちょっといい?」

 亞桐さんは懸垂するリュウ君の前に駆け寄り、そして……

 

「…ごめんなさいっ!!」

 大きく頭を下げ、謝ったのだ。

 これには流石のリュウ君も動きを止めた。

「…裁判の時、ウチさ…アンタを犯人扱いしちゃったじゃん…? しかも、『何人も人殺したみたい』なんて、酷いこと言っちゃって……まだ謝ってなかったから! ほんとごめん!」

 そう言えば、裁判の時そんなこと言ってたっけ。

 

 …いや、俺の脳裏に浮かんだのはその言葉じゃない。

 昨日、リュウ君との会話で発せられた言葉。

 

『男も女も、大人も子供も、数えきれないほど見てきたさ』

 

 幾多の死を目の当たりにしたと断じた彼の言葉。

 それは、亞桐さんが裁判の時に発した悪口が必ずしも嘘っぱちではない可能性があることを示唆している。

 

 …いや……でも。

 彼はそんな人じゃない…はずだ。

 初日に命懸けで山村さんを助けてくれたし、捜査の時だって懸命に協力してくれた。

 そんな彼が人殺しだなんて……あり得ないよ。

 

「そんなことか。俺は気にしていない。もう忘れろ」

 ぶっきらぼうにそう答えてリュウ君はトレーニングを再開した。

「…そ、そっか。ならいいんだけどさ。じゃ、まずは体操から始めよっ!」

 言うが早いか、亞桐さんは足を180度開いてストンと床に腰を落とした。

「うわ…すごいな………」

 流石はダンサーだ。

 亞桐さんはそのまま上半身を後ろ向きに倒し、後ろ側に伸ばした足の上に乗せた。

「ふう……やっぱこのポーズ落ち着くわ」

 その体勢が落ち着くなんて……本当にダンスの申し子なんだな。

 

 すると、それを見ていた伊丹さんが亞桐さんの横に並び、見よう見まねでゆっくりと足を開き始める。

「……こう?」

「おー、開けてるじゃん」

 少し顔を歪めながらも、伊丹さんの両足も完全に開ききった。

「ゆきみんも体柔らかいんだねー。葛西もやってみなよ!」

「え、俺!?」

 できる気など全くしなかったが、とりあえず二人に並んで足を開いてみる。

「…いて。いててててててて!!」

 腰は重力に従って墜ちようとする。

 でも足はもう開かない!

 痛い!

「いて、いて、いて、わわっ!」

 バランスを崩した俺の体は伊丹さんめがけて倒れこんでしまった。

 

「…ちょっと」

 ふと気づくと、俺の上半身と伊丹さんの上半身はぶつかってぴったりくっついていた。

「邪魔なんだけど。どいてちょうだい」

「あ、ご、ごめんっ!」

 俺は慌てて彼女から離れる。

「…だめ。体は曲がらないみたい」

 俺をどかすと彼女は何事もなかったかのように体操を再開する。

「…ま、まあ始めのうちはしょうがないよ! じゃ、次は前後の足を入れ替えてみよ!」

 結局、ここでも俺が恥ずかしい思いをしただけだ。

 

 俺達三人は亞桐さんの主導のもと、いろいろな体操を行った。

 体の節々を痛めた気がするけど、部屋でもできそうな体操をたくさん教わったからあとでやってみよう。

 

「じゃ、体操はこんぐらいで。ごめん、一曲だけどうしても踊りたい気分だから、ちょっと待ってて」

 そう言うと亞桐さんは懐から取り出したイヤホンを耳に装着し、体でリズムを刻み始める。

 次の瞬間、彼女の体は激しく動き出した。

 ロボットのように機械的な動き、スタントマンのようにアクロバティックな動作、バレリーナのように滑らかな仕草。

 すべてが込められた芸術的ともいえる作品が眼前に広がる。

 俺も、俺の横で一息ついていた伊丹さんも、奥でトレーニングにいそしんでいたはずのリュウ君でさえも、吸い込まれるようにそのダンスに視線を向けていた。

 数分という時間が一瞬のようだった。

 

「ふぅ。ごめんね、待たせて。気分も盛り上がってきたし、なにしよっか?」

 ダンスを終えてイヤホンを外した亞桐さんの言葉を受けて、始めて俺は我に返った。

 それほどまでに彼女のダンスに魅了されてしまっていた。

「…すごいね」

 柔らかな笑顔で、伊丹さんが呟いた。

「ん?」

「あなたのダンス、見てて飽きない。私、ダンスはあまり見たことなかったけど、あなたのを見て興味が湧いてきた。もしよければ教わりたいのだけど、お願いできる?」

 亞桐さんは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに満面の笑みになって「もちろん!! いつでもオッケーだよ!!」と大声で答えた。

「えっとね、まず基礎連から始めよっか。アイソレって知ってる? アイソレーション」

 亞桐さんが興奮した面持ちで伊丹さんにダンス講座を語りだし、伊丹さんはそれを真剣に聞いている。

 おかげで俺はちょっと爪弾きにされた気分……。いや二人は悪くないのだけれど。

 かといって相変わらず無言でトレーニングに励むリュウ君にも話しかけづらいんだよなー。

 

 そう思ってふと部屋内を見回すと、俺が入ってきたのとは違うもう一つの出入り口の存在に気付いた。

 近づいてそっと開けてみると、その先は大ホールだった。

 なるほど、廊下を経由しなくても大ホールに直接行けるようになっているのか。

 

「……あ」

 ホールを覗き込んだ俺は、その中心に座り込む人物を目撃した。

 

 こちらに背を向ける格好で床に座り込むその人は、白い道着のような物を着ていた。

 茶髪の一つ結びといい、山村さんで間違いないだろう。

 じっと胡坐の姿勢で座り込み、精神を研いでいるようだった。

 

 数秒後、彼女はふと立ち上がり……

 

 流れるような所作で構えをとった。

 その動きは間違いなく、初日、モノパンダを打ちのめした時の動きだった。

 

 そして、一呼吸置き……

 

 

 シュッ!

 

 

 …何の音だろうか?

 いや、熟考するまでもなく答えは導き出された。

 彼女が”拳を突き出した音”、それに間違いない。

 斜め後ろから彼女を見ているので表情などはうかがい知れないが、一瞬の間にそこにはなかったはずの腕が正面の空間に突き出されているのを俺はしかと確認した。

 彼女は一息つき、腕をもとに戻すと。

 

 

 ビュッ!

 

 

 今度は蹴りだ。

 腰を深く落としたはずの彼女の体勢は一瞬の残像を残し、次の瞬間には左足を軸にして右足を空中に投げ出していた。

 一瞬でその状態に移行したにもかかわらず、彼女の体はまったくぶれておらず、片足でぴったりと静止している。

 俺はいつの間にかあんぐりと口を開けて彼女の稽古風景に見とれていた。

 

「かさーい! 何見てんの?」

 ドアの隙間から覗き込む俺の上に乗っかるように、亞桐さんもホールを覗き込んだ。

「あ、巴ちゃんだ」

 完全に俺の頭の上に顎を乗っけて見入っている。重たいよ…。

「私も見たい」

 間髪を入れず伊丹さんも亞桐さんの上に乗っかってきた。

 うわ重たい! 限界だよ!

 

「セイヤッ!!」

 大きな掛け声とともに、山村さんは本格的な稽古を開始した。

「ヤ!! セイッ!!」

 掛け声と同時にヒュヒュヒュヒュ、と連続で拳が空を切る音がはっきりと聞こえる。

「カッコいい……ウチもやってみようかな」

「素人にあんな動きは無理だと思う。あの人だからできるのよ」

 必死で倒れるのをこらえる俺をよそに話し込む二人。

 と、次の瞬間、俺にかかる負担がさらに大きくなったのを感じた。

「なんだお前たち……こんなところに集まって何を見ている?」

 その声……リュウ君まで乗っかってきたのか。

 

「うっ、ぐうぅうぅうぅぅぅ……!!」

 鼻息とうめき声を交えながら俺は懸命に耐える。

「あなた、汗臭い。離れて」

 伊丹さんが上のリュウ君に嫌そうな目を向ける。

「ぬ、山村か……。おのれ…プールでの雪辱、必ずや果たすと誓おう……!!」

 伊丹さんの言葉など聞こえていないようで、リュウ君は重々しい声で呟く。

「ちょ、アンタら重いんだけど! だいぶキツイよ!」

 亞桐さんが不満げに漏らす。

 あなたは忘れているようですが、あなたの下に俺がいます。

 

 足がプルプルと震える。

 これ以上は、もう……

「ダメだあああぁぁぁぁぁっ!!」

「きゃあああ!?」

 

 ドタドタ、と積み木のように俺達は床に崩れ落ちた。

 

「ちょ、葛西、大丈夫!?」

 朦朧とする意識の中で聞こえたのは、亞桐さんの慈悲の言葉だった。

「あ、う~ん、大丈夫らよ……」

 床に倒れこんだままの体勢で俺は答えた。

 全身の筋肉が悲鳴を上げている。あと数分は起き上がれそうにない。

「ほら、あなたが乗っかるから葛西君が倒れたじゃない」

 伊丹さんがムスッとしてリュウ君に言い寄っているのが聞こえた。

 いや、君も立派な原因だからね…?

「む、むう…すまんな、葛西。立てるか?」

 リュウ君は頭をかきながら俺に手を差し伸べてきた。

「いや…もうしばらくこうしていたい……」

 俺は正直に答えた。

 

「あの、皆さん……どうなされました?」

 目の前から聞こえてきた声は。

「あ、巴ちゃん……その…。ごめんね。練習してたの、ちょっと気になってさ。ちょっとだけ見てたんだ」

 亞桐さんが俺に代わって事情を説明してくれた。

「あ、そ、そうなんですか…。いや、私は構わないですけど…。ちょっとお恥ずかしいところをお見せしてしまったかなと……」

 山村さんは恥ずかしそうに頬を赤らめながら言った。

「なんで? ふつーにカッコよかったじゃん!」

「いえいえ! 軸がぶれてましたし、打ちも浅くて…。とてもとても公式試合で通じるものじゃないですよ。ちょっとでも稽古を休むとすぐこれです……」

「そういうものなの…? 私には何がダメなのかさっぱり分からない」

 伊丹さんの言葉に同意する。

 これがプロと素人の差なんだな…。

 起き上がりながら俺はそんなことを考えていた。

 

「うーん、でもやっぱり一番腕が落ちた理由は、やはり”組み手の相手がいないこと”なんですよね」

 山村さんは腕を組んでそうぼやく。

「でも、いま思いつきました! リュウ君なら私と同等に、いえ、それ以上に戦えると思うんです!! 完全に私のワガママですが、あなたに良心があるならばどうか付き合ってはくれないでしょうか! お願いします!」

 リュウ君は少し驚いたような表情を浮かべた。

「…無理だ。俺は格闘技はいくつか習ったが、空手の型など知らん。それに……」

 いつしか、彼の体は黒いオーラを帯び始める。

「プールでの雪辱を晴らすまでは、絶対にお前を鍛えるような真似などしてやらん! 絶対にだ!」

 山村さんを指さし、高らかに宣言した。

「ちょっと根に持ちすぎじゃなーい? そんなに悔しかったワケ?」

 あきれ果てたように亞桐さんが呟く。

「黙れ! 女には理解されずともよい。これは俺自身の問題だ! …トレーニングに戻る」

 オーラを纏ったままリュウ君はずかずかとトレーニングルームへと歩を進めていった。

 …いや、男の俺でも理解できかねるよ。

 

「よく分かんない人。でも、それが彼のいいところなのかもしれない」

 伊丹さんが小さく呟く。

 

 俺は昨日までのやり取りで彼を少し勘違いしていた。

 いかに凄絶な環境を渡り歩いてきた強者であろうとも、彼は一人の人間だ。

 普通に感情があって、負ければ悔しがる普通の男性なんだ。

 それでも、昨日の発言は少し気になるけど…。

 でも、急ぐ必要はない。

 時間をかけてでも、彼のことを知っていこう。

 きっと、分かり合えるはずだ。

 

 ……でも。

 

「油断しちゃダメ」

 

 俺にだけ聞こえるくらいの、小さな声で伊丹さんは囁いてきた。

「彼は、殺そうと思えば全員を殺せる。そんな人なのよ。モノパンダでさえ例外ではないの…。気を付けて」

 

 なんともいえぬ複雑な感情が胸の内に渦巻く。

 

「…ごめんなさい。悪い癖ね。あくまで可能性の話だから、気にしないで」

 俺の胸中を察した彼女は、バツが悪そうに付け加えた。

「さ、莉緒。もっとダンスの練習したいんだけど。どうする?」

「あ、じゃあ巴ちゃん。ここ借りてもいい? 巴ちゃんの練習の邪魔しないようにするからさ!」

「掛け声が少々うるさいと思いますが、それでよければ全然かまいませんよ!」

 

 周りの会話など上の空で俺は突っ立っていた。

「葛西、葛西ったら!」

 亞桐さんの声で俺は我に返った。 

「あんたはどうするの? 一緒に練習する?」

「あ、いや、今日は疲れちゃったから休もうかな…。じゃあ、また!」

 俺はそう言って廊下へと駆け出した。

「はいよー! また夕食の時にねー!」

 

 

 

 

 ……と、まあ、いろんなことがあった一日だった。

 プール大会があって、夢郷君の謎の持論を聞かされて、トレーニングルームと大ホールでいろいろあって。

 いろんな人のいろんな一面を見られた貴重な一日だったな。

 

 

 

 

 こんな日が永遠に続いてくれればな……。

 この楽しい日々が。

 

 

 

 

 

 そう思った俺は、つい数日前を思い出した。

 

 

 

 

 そうだ。

 先週、まだ俺達が誰も欠けていなかった日々。

 あの時も、同じことを考えていた。

 でも、悲劇は起きた。

 俺の願いなど、無かったかのように。

 

 

 

 

 それが現実だ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嗚呼、神様仏様。

 信仰できるようなものなら何でもいい。

 どうか、俺達に…。

 罪なき希望達に……。

 

 

 これ以上の悲劇を積ませるのはおやめください。

 悲劇に散ったお二人のためにも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうか………。

 

 

 


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