真剣でアッガイになった。【チラ裏版】   作:カルプス

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【第6話】 サイド3ジオン軍 アッガイ先生

「ハッ、命令される為に生まれてきた傀儡。未来を決められた英雄の模造品。とんだ茶番だぜ」

 

「……厨二……だと……」

 

「べ、弁慶。アッガイには触ってもいいのだろうか……?」

 

「いいんじゃない? 私が許す」

 

「じゃあ私も触ろっかな」

 

 

 沖縄から川神ではなく、とある離島に連れてこられたアッガイは、少年1人と少女3人に面会していた。アッガイの横には、この4人の元へと連れてきたマープルも居る。

 

 

「いいかい、アッガイボーイ。さっき説明した通り、この4人が英雄のクローン達さ。【武士道プラン】のね。史実とは性別が違ってるが、まぁあんたは気にしないようだね。じゃあ自己紹介しな」

 

「義経は源義経のクローンだ! ……あの、アッガイ、ちょっと触ってもいいだろうか……?」

 

「いいぜ、アッガイのボデーに酔いな」

 

「うわぁ! ありがとう! 義経はとても嬉しい!」

 

「はいはい、とりあえず後でね。私は武蔵坊弁慶ね。ヨロシク。んでもってそこでクネクネしてるのが那須与一。ちゃんと自己紹介しそうもないし、アッガイは分かっていそうだから詳しくは言わないよ。あと義経に攻撃したら潰す」

 

「破滅への輪舞曲(ロンド)!」

 

「お、おい姉御!」

 

「なに?」

 

「い、いや……なんでもない……」

 

 

 弁慶の鋭い眼光に与一は怯え、何か言おうとしていた口を、そのまま閉じた。視線はオロオロと地面に向かい、弁慶の方を向こうとしない。そんな与一の様子にアッガイは『あれは厨二でも放っておいて大丈夫か』と思った。

 

 

「最後は私だね。私は葉桜清楚。義経ちゃん達の一つ上だよ。よろしくね、アッガイちゃん」

 

「よろしくーネッ!」

 

 

 アッガイは両手を右横に向け、挨拶と共に逆方向に腕を動かし、更に左の膝を捻りながら右側に持ち上げるという不思議なポーズをする。しかしすぐにポージングをやめて、口元に手を当て、首を傾げて喋る。

 

 

「葉桜清楚、って英雄いたっけ?」

 

「あっ、それは――」

 

「それはあたしから説明するよ、アッガイボーイ」

 

「マープルさん、説明はお願いしたいんだけど、ボーイってのはどうにかならない? どこぞのペガサスを思い出してしまうよ」

 

「清楚は25歳になるまで元となった英雄の正体は明かさない事になっているんだよ」

 

「……九鬼の幹部はクラウディオ以外、僕に冷たすぎない? 君達のスルースキルを磨く為に僕が居る訳じゃないんだよ!?」

 

 

 マープルの華麗なスルーに酷く傷付くアッガイ。

 

 

「僕の心はダイヤモンドみたいに輝いている純粋な心なんだよ! 傷付いたらどうするのさ!」

 

「アッガイボーイ。ダイヤモンドはとても傷付きにくいんだよ。ただ砕ける時は呆気ない程に木っ端微塵だがね。硬度と強度の違いってやつさ」

 

「第4部が否定された!」

 

 

 アッガイは両手を床について嘆く。そんな様子を見て心配しているのは義経だけ。

 

 

「大丈夫だアッガイ。義経はアッガイを応援しているぞ! アッガイは強い子だ!」

 

「アッガイは源氏を応援しています!」

 

「立ち直り早ッ!?」

 

「アッガイは面白いねぇ」

 

「うん」

 

 

 義経の言葉で即座に立ち直ったアッガイは、与一の突っ込みと弁慶、清楚の暖かな視線の中、マープルによって新たな役目を聞くのだった。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「サイド3、ジオン軍ー! アッガイ先生ーーーー!」

 

「お前何言ってるんだよ」

 

「うるさい、このバカチンがぁ! そんな事ばっか言ってるから弁慶の前で厨二が崩れるんですよバカチンがぁ!」

 

「う、うるせぇ! 俺のは真実なんだよ……。この世の真理を突く言葉なん――」

 

「与一うるさい」

 

「……くっ」

 

 

 アッガイと武士道プランの4人は学校が終わって九鬼所有の自宅へと帰って来たのだが、新たな役割を与えられたアッガイによって一つの教室のような部屋に集められている。4人には学校と同じ机と椅子が用意された。

 義経はアッガイが余程気に入っているのか、目をキラキラさせて何が始まるのかを待っている。与一は面倒臭そうにしながらも、下手な事を言うと弁慶から【指導】が入るので、とりあえず大人しくしていた。弁慶は義経の様子を観察しており、ニヤニヤしている。清楚は椅子に姿勢正しく座っており、かなり美しい状態だった。そんな清楚の様子を見てアッガイは呟く。

 

 

「ふつくしい……」

 

「あはは、アッガイちゃんありがとう」

 

「清楚はあれだね、正しい姿勢を学ぼうとか言う本を出せば売れると思うよ。売る時は僕が企画立案という事で報酬の割合は――」

 

「いい加減に始めろよッ!?」

 

 

 話し始めると横へと逸れるアッガイに、与一は叫んだ。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「今日も大変だったよグランゾン」

 

『あの武士道プランという偉人の世話か……』

 

「まぁまだ偉人なんてレベルじゃないけどね。クローンだからって偉人になれるとは限らないし」

 

『確かにな……。偉人や英雄がそう呼ばれるには個人の力も必要ではあるが、それ以上に周囲や世界を大きく変えたり、魅了する行いが重要であろう……』

 

「さすがグランゾン、よく分かってるよ。そういえば勉強の方はどう?」

 

『うむ。とりあえず平仮名は覚えた。まだ筆を持って書くには程遠いな』

 

 

 夜、新たな新居となった部屋でアッガイは今日の出来事をグランゾンに話していた。アッガイがマープルから任された新たな仕事というのは、武士道プランの4人との特別授業である。武士道プランの4人は世間にその存在を、まだ知られてはならない。だからこそ、離島という環境の中で時が来るのを待っているのだ。その間、少しでも世界の広さを知る為に、アッガイが抜擢されたのである。

 何故世界の広さを知るにアッガイなのか。それはやはり帝の一言があった。

 

 

『世界は広いが、アッガイほどブッ飛んでおかしい奴もそうそう居ないだろ』

 

 

 とにかく世界は広い。常識では考えられない行動や言動をする存在が居る。しかしテレビや本でただ、情報としてしか知るだけでは駄目なのだ。直接会って、話して、感じなければならない。何故なら4人は英雄のクローンであり、その存在自体が、大きな期待という責務を背負っているのだから。だからこそ、教えなければならない。少しでもその責務を果たせるように。

 そしてもう一つ、アッガイには話していないが、マープルには期待している事があった。それは那須与一の精神ケアである。何故与一なのかというと、彼の厨二病の発症が原因だ。心無い研究者の言葉によってまだ純粋だった与一は酷く傷付き、悲しみ、いつの間にか歪んで厨二少年となってしまった。

 

 ハッキリ言って現在の与一の状態は好ましくない。さすがに大人になるまでにはどうにかなるだろうと予想しているが、武士道プランの発表時期、投入時期は義経達が高校生の頃を予定している。英雄のクローンとして、九鬼の計画の成果としても、あまり変な行動や言動をされては困るのだ。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「――とか思ってるでしょ?」

 

「……一体なんだい、藪から棒に。アッガイボーイ」

 

 

 ある日の夜。アッガイはマープルの所へとやって来ていた。話は武士道プランの4人。そしてその行く末である。アッガイとしては自分がいつか来たる、ゆるキャラグランプリで優勝すればそれでいいのだが、なんだか勝手に利用されてる気がしたので、思った事をそのままマープルに言った次第だ。

 アッガイが思った通りであるならば、アッガイにはどうしても認められない事があった。それは与一の厨二病を英雄として恥ずべきものである、と思われている事だ。

 

 

「……おかしなロボットだとは思ったけど、変な所で鋭いね、あんた」

 

「アッガイは凄いんだぜぇ! なにせあのガンダムに勝った奴だっているんだからなぁ!」

 

「その切り返しの意味不明さはとことん残念だよ」

 

「まぁあれだよ。厨二病を否定されると困るんだよ僕が。キャラの一つなんだから」

 

「前にキャラが被ってた少年を襲ったとか言う話を聞いたんだがね?」

 

「過去は振り返らない! 希望は前に進むんだ!」

 

 

 まるでコトダマを飛ばすかのようにビシッと腕をマープルに向けるアッガイ。それを溜め息を吐いて首を振るマープル。

 

 

「あんたは結局何が言いたいんだい?」

 

「うーんとね。一つ聞きたいんだけどさ。武士道プランって最終的に何を目指してるの?」

 

 

 アッガイの言葉にマープルは一瞬、鋭い視線をアッガイに向ける。それはただの老女ではなく、九鬼家従者部隊を束ねる立場にある一人としての視線。だがアッガイのモノアイと視線が交差すると、その視線を隠すように被っている帽子を顔が隠れるように引っ張った。

 

 

「武士道プランは過去の英雄達同様、人々を導き、人類が進むべき道を提示するんだよ。それが最終目標さ」

 

「ふーん。そりゃ責任重大だね」

 

「そうさ。だからもうこの話は――」

 

「でもさぁ」

 

 

 マープルの言葉をアッガイが遮る。アッガイに言葉を遮られたマープルは、先程のような視線ではなく、ごく普通の視線をアッガイに向けた。マープルとしてはこれ以上、この話をしたくはなかったのだ。マープルはアッガイを今まで【おかしなロボット】という認識でしか無かったのだが、先程の問いや思考など、所々にマープルでさえも、一瞬ゾッとさせるような部分がある。どこからその思考に至るのかは全くもって不明ではあるが何かを教えれば、どこまでも突き進んでくる、そんな印象を抱かせた。

 

 

「英雄ってそんな簡単になれるもんなの?」

 

「……どういう意味だい? 義経達は英雄と呼べるポテンシャルを持ってるよ。そもそも過去の英雄のクローンなんだ」

 

「おかしいなぁ。マープルは星の図書館って呼ばれてるんでしょ? なのになんでクローン作れば英雄になるって簡単な考えなの?」

 

「だから、英雄に相応しくなるべくこの離島で育てているんじゃないかい」

 

「相応しいとか相応しくないとか言う話じゃないよ。僕はね、英雄は時代に望まれて生まれるものであって、個人が望んで生まれるもんじゃないって思うんだよ」

 

「…………」

 

「別に義経達がどうこうではないけどさ。武士道プランって結局、昔の人の力を頼るって事だよね? それって今頑張ってる人達には期待してないって言う風にも思える訳ですよ、うん」

 

「……ッ」

 

 

 アッガイの話にマープルは話すべき言葉を見失う。マープルが何か言うまでもなく、アッガイは本当の武士道プラン、その生まれた本当の意思まで辿り着いてしまったのだ。マープルは考える。アッガイはプランが何故生まれたのかまで、到達する寸前だ。全てを話してこちら側に引き込むのか。それともヒューム達と協力してアッガイをプラン実行後まで隔離するか。どちらも悪手としか言えないが、プラン実行まで失敗する事は出来ない。

 そんなマープルの考えを水の泡とするアッガイの言葉が聞こえる。

 

 

「まぁいつの時代も年寄りは若い人に未熟だの何だのって言うよね。未熟、未熟、未熟千万、だからお前は阿呆なのだぁ! って」

 

「…………」

 

「お婆ちゃんは夜が辛そうなので、話を締めようと思います。気配り上手なアッガイに拍手」

 

「……一体なんだって言うんだい?」

 

「与一が傷付いたのが、大人の勝手な英雄像から来たものだったら、今の厨二病を勝手にまた相応しくないって否定するな、って話だよ。大体、元々那須与一って英雄は厨二病だったかも知れないじゃない。『某の弓は日の本の神々をも貫く!』とか言ってたかも知れないじゃない! 僕がもしかしたらギルガメッシュだったかも知れないじゃない!」

 

「とりあえずあんたがギルガメッシュでは無かった事だけは断言出来るよ」

 

 

 先程までの緊迫した内心はどこへやら、マープルは酷く疲れた感覚だった。本当にこの目の前にいるロボットはなんなのか。突然、喉元に刃を突き付けたと思いきや、それを離して曲芸をし始める。マープルは帝が言っていた言葉を再度、思い出していた。

 

 

『世界は広いが、アッガイほどブッ飛んでおかしい奴もそうそう居ないだろ』

 

 

 帝の言葉を脳内で再生すると共に、後日マープルは与一への性格修正を完全な白紙として、部下に通達した。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「ほ、本当にやるのか弁慶? 義経は心配でしょうがない……」

 

「何言ってるのさ。義経だって興味深々、っていうか一番興味があるでしょ?」

 

「ったくなんでこんな朝から俺が……」

 

「与一君、あんまり愚痴ってると朝からお仕置きされちゃうよ?」

 

 

 アッガイが離島で生活し始めて約3ヶ月。季節は巡り、冬となり、もうすぐ年越しである。そんなある冬の日に、武士道プランの4人は朝早くからある部屋へと向かっていた。

 

 

「着いた着いた。さ、アッガイの部屋へ侵入~。マスターキー借りてきたし、楽勝~」

 

「なんで弁慶はそんなに準備がいいんだ……?」

 

「だって義経喜ぶでしょ? 寝てるアッガイの姿見て喜ぶでしょ?」

 

「そ、それは……」

 

「おい姉御、行くなら早くしようぜ。ここでもたついてアイツが起きたんじゃ早起きした意味ねぇよ」

 

(与一君も寝てるアッガイちゃんの姿見たいのかな?)

 

 

 4人は弁慶が開けたドアから部屋に侵入。アッガイの部屋は4人の部屋よりも少しだけ大きい。しかし構造は一緒で、入ってすぐにベッドに行く事が出来る。

 すぐにベッドで寝ているアッガイを見付ける事が出来たのだ。アッガイはベッドの上で鼻提灯のようなものを作った状態で眠っており、起きる気配は無い。ちなみに毛布などは体の一部に掛かっている程度で、寝相が悪い事が分かる。

 

 

「……コイツはいつも思うけど、一体どういう構造なんだ? モノアイと口の間っていうか、何も無い特徴の無い、あそこが鼻なのか? というかそもそも鼻提灯なのかアレは」

 

「うわぁ……アッガイ寝てる……!」

 

(うわぁ、義経その顔チョーいい!)

 

「でも本当に寝るんだね、アッガイちゃんって。ロボットなのに」

 

 

 4人はそれぞれにアッガイを観察――弁慶は義経を観察――しているが、寝ているアッガイが何かをムニュムニャと話し始めた。

 

 

「……ま…………ま…………」

 

「なんか言ったぞコイツ」

 

「ま、ま? ママって言ったのかもしれない。アッガイも親が恋しいんだろうか、義経はとても切ない気持ちだ……」

 

「……ま…………ま……」

 

「まだ言ってるよ? 意外とアッガイってマザコン?」

 

「んー。アッガイちゃんってそんな風には見えないんだけどなー。作ったのも男の人なんだよね?」

 

「起きたらこれネタにしてからかってやろうぜ」

 

「与一、そんな事をしちゃダメだ。アッガイも寂しいのかもしれないぞ」

 

「少しくらいいいだろ。いつも意味不明な行動に付き合わされ――」

 

 

「真島の兄貴が沖田総司だなんて! いいぞもっとやれ!!」

 

 

「わっ!?」

「おっ?」

「うおっ!?」

「きゃっ!?」

 

 

 アッガイの突然の叫びに4人は驚く。弁慶だけは他の3人ほど驚かなかったが、関係なしにアッガイは完全に覚醒する。

 

 

「ふぁーあ。ゾンビが来たから、いつかまた何かやらかすと思ったらやってくれるぜ……!」

 

「お前どういう夢見てんだよ!?」

 

「おや? なぜ与一が僕の部屋に? まさかトイレに行って間違って僕の部屋に入って来て一緒のベッドに寝てたとかいうトラヴルな展開!? トラヴルというか与一だとクソミソな方だよ!! ふざけんな馬鹿野郎!!」

 

「訳分かんねぇ!?」

 

「アッガイ済まない! 義経達はさっき勝手に入ってきたんだ! 義経は素直に謝る!」

 

「私達もいるよ」

 

「おはようアッガイちゃん」

 

「やぁ3人共、おはよう」

 

「俺と態度違い過ぎるだろ!!」

 

 

 アッガイの部屋は朝から騒がしいものとなった。そしてそんな様子を見守る存在。

 

 

『やれやれ、偉人とはいえやはりまだ子供よな……』

 

 

 4人が入って来た時から起きていたグランゾンは、騒々しくなった部屋で、その様子を眺めていた。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「僕の歌を聴けぇ!!」

 

「今日は何やるんだよアッガイ。ラノベ読みたいんだよ俺は」

 

「歌う? アッガイが歌うのか? 義経は興味津々だ!」

 

「まぁ確かにアッガイが歌うのって見た事無いしね」

 

「どんな曲を歌うの?」

 

「皆で歌うんだよー。僕の後に続いてねー。座ったままで歌いにくいなら立ってもいいからねー」

 

 

 そう言うと与一以外の3人は席から立ち、アッガイが歌い始めるのを待った。

 

 

「朽ちー果てるー宇宙そらの~ ビームの雨の中~ 散り逝く貴方へ~ コロニー落とし~~」

 

「どんな曲だよっ!!」

 

 

 思わず席を立って突っ込む与一。

 

 

「えー? これ駄目なの? じゃあ【駆けろ!蜘蛛男】でも……」

 

「何を俺達に歌わせようとしてるんだよ!?」

 

「も、もっと普通の曲はないのか? 義経はその曲を知らない……」

 

「っていうかなんで今日に限って歌なの?」

 

「いつものアッガイちゃんって、折り紙だったり昔話だったり、ゲームとかの話をするだけだよね」

 

「今改めて思い返しても、コイツって授業する意味なくねぇか……?」

 

「チャラーン、与一アウトー。弁慶パンチー」

 

「いえーい」

 

「なんで姉御は乗り気なんだよ!?」

 

 

 与一が弁慶に怯える中、義経は弁慶を止めるべきなのか、アッガイが言った事だから見守った方がいいのかで悩み、清楚は以前のアッガイの授業を思い出して、思い出し笑いしていた。

 

 

「いやね。僕ちょっと川神に戻らなくちゃいけなくなったのよ」

 

「えっ!? アッガイ居なくなるのか!? 義経は寂しい……」

 

「もうこっちに戻ってこないの? アッガイ」

 

「いやいや。多分長くても数ヶ月で戻って来ると思うよ。それにいずれは君達が川神に行く事になるだろうしね」

 

「向こうで何かあったの?」

 

 

 清楚の問いに、アッガイは首を傾げながら腕を組んで答える。

 

 

「なんか帝の隠し子が見付かったみたいなのよねー」

 

「隠し子? 九鬼のトップの?」

 

「それって結構っていうか、かなりのスキャンダルなんじゃねぇか……?」

 

「まぁ帝がどうなろうが知ったこっちゃないんだけどさ」

 

「そうなんだ……。でもアッガイちゃんらしい……のかな?」

 

「まぁそれで、その隠し子の母親が亡くなったとかで、九鬼で引き取る事にしたんだって。でもなんか、まだ慣れないっていうか、ギクシャクしてるらしいから、僕が間に入ってどうにかしてやるのさ。全く、アッガイが好きで困るぜ九鬼家は。大体いつも僕に――」

 

 

 アッガイが一人で喋り続けている中、義経達4人は、アッガイの見送り会をしようという話で盛り上がっていた。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 数日後、川神にある九鬼ビル。

 

 

「――んで、なんなのコレは」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 アッガイの問いに答える人物はいない。とある人物の部屋の前で、従者部隊の者や九鬼家――揚羽と英雄と局――が無言で立っている。皆一様に厳しい表情で、揚羽と英雄には哀しみと心配が強く出ていた。

 そんな中、アッガイは見送り会で被せられたトンガリハットを頭に被り、紙で出来た輪っかを首から下げている。ハッキリ言って場違い甚だしい状態だ。

 

 

「とりあえず何があったのか教えてくれないと、僕この格好で完全に空気だからさ。誰か何か言いなさいよコラ」

 

「……ちょっとこっちに来て下さいね、アッガイさん☆」

 

「おぉ、ペッタン子。久し――」

 

「いいからコッチ来い」

 

 

 やっと声を掛けてきてくれたので、フレンドリーに接しようとしたアッガイ。しかし近づいて来たあずみは、耳元でいつかのように怖い声を出すと、アッガイをそのまま九鬼家が見えない廊下の角にまで連れていく。アッガイは思い出した恐怖でそのまま抵抗出来なかった。

 

 

「チッ。テメェは帰ってくるのが遅いんだよ。もっと早かったら、もしかしたら……」

 

「え、なんで僕責められてるの? 特に理由のない暴言がアッガイを襲う!」

 

「……紋様が自分で額を切った」

 

「はっ? そもそも紋様って誰さ? 黄門様?」

 

「九鬼紋白様。新しく九鬼家になったお方だよ」

 

 

 九鬼紋白。先日、アッガイが義経達に話した帝の隠し子である。紋白と九鬼家の間を取り持つ事を目的として戻って来たアッガイにとっては、今最も深い関係とならねばならない人物だ。

 

 

「あー、例の子なのね。っていうか何故に額を?」

 

「お前も知ってんだろ? 九鬼家は皆額にバツ印を刻んでる。局様に至っては自分で自主的に切ったらしいしな」

 

「なんだ、局ちんと同じ理由なんじゃない。九鬼家になった、っていう証明みたいなものが欲しかったのかな。っていうか僕が呼ばれた理由は結局なんなのさ? 紋白って子と九鬼家の間をうんたらってのは聞いたけどさ。誰かと仲が悪いの? っていうか紋白って子は性格悪いの? どこぞのガキ大将なの? 空き地で開くリサイタルが壊滅的なの?」

 

「お前は余計な事ばっか喋ってんじゃねぇよ! ……ぶっちゃけ紋様は良い子だよ。気配りも出来るし、真面目だし。時々元気過ぎてヒュームに怒られたりもしてるけどよ。でもまぁなによりやっぱ帝様や九鬼家に通じるカリスマみたいなのも感じる。ただ……」

 

「ただ?」

 

「……局様がな」

 

「え? 局ちんと仲が悪いの? 同じような行動してるから気が合うと思ったんだけどなぁ。同族嫌悪ってやつかな」

 

 

 あずみの言葉にアッガイは素直に驚いた。アッガイの中でも局の印象というのは帝に尽くし、九鬼という家に尽くす、【女傑】という言葉が相応しい人物であると思っていたからだ。帝とは違って、真面目で実直な人間と思っていたアッガイは、何故、局が紋白と仲が悪かったのかが想像出来なかった。そんなアッガイの様子を察してか、あすみは自分から話し始める。

 

 

「……紋様は帝様の隠し子だろ。だからだよ」

 

「いやいや。それは知ってるよ。でもそんなの紋白って子には関係ないじゃない。知らない所でハッスルしたのは帝で、怒るべき矛先は帝でしょ? なんで紋白に向くのさ」

 

「まぁなんていうか。やっぱ自分の旦那が他の女と作った子供ってのが、許容出来ないんじゃねぇか」

 

「うーん……」

 

 

 アッガイが唸っていると、先程集まっていた廊下の方から声が聞こえて来た。アッガイとあずみは話を切り上げると、先程まで居た廊下へと向かう。そこには先程まで中に居たのであろう、姿が見えなかったヒュームとクラウディオの姿があった。

 

 

「取り敢えず傷は大した事ない。処置も済ませたからこれ以上悪化する事もない」

 

「色々と感情が入り混じって混乱に近い状態でした。本人は大丈夫と仰っていたのですが、こちらの判断で少し休んで頂いています。今は会われない方が良いでしょう」

 

「そうか……。明日には会ってもいいのだろう?」

 

「はい」

 

「ならばここに居ても紋白に心労を掛けるだけであろう。英雄、我等は部屋に戻ろう」

 

「姉上ッ…………。そう、ですな。我は部屋に戻ろう。あずみ、すまぬが茶を頼む」

 

「了解しました☆ 英雄様」

 

 

 そう言うと揚羽と英雄は自室へと戻り、あずみは英雄に言われて茶の用意をしに行った。戻り際に揚羽と英雄は何かを期待するような目でアッガイを一瞥する。他の従者部隊の人間もそれぞれの場へと戻り、廊下には、ヒュームとクラウディオ、そして局だけが残った。

 

 

「うん、取り敢えず局ちん。暇だから僕とお喋りしようぜ」

 

「……アッガイよ。我は今はそんな気分では――」

 

「真剣九鬼家喋り場!! ヘイ、カモンカモン! オッケェーイ!」

 

 

 そう言うと拒否の意思を示していた局を強引に抱き上げて連れ去るアッガイ。その暴挙とも言える行動に抱き上げられた局は言葉を失い、ヒュームとクラウディオは止めようと思えば止められるものの、そうしようとはせずに二人を見送った。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「はい、アッガイの淹れたオイシー汁。略してアオ汁だよ!」

 

「…………」

 

 

 アッガイに和室へと連れて来られた局は、よく分からない茶色の飲み物を出されていた。実際に飲めるのかどうかは酷く不安になる色合いではあるが、それ以上に局が不安だったのは、アッガイがこれからするであろう話である。きっとあずみから少しは聞いたのだろう、と局は思う。

 局は九鬼家にやってきた紋白を悉く無視した。話し掛けられても、廊下で擦れ違っても、食事の時も。自分の行動が紋白を追い込んだという事は理解出来る。自分の行為に問題があった事も。だが、どうしても認められないのだ。帝と、誰かも分からぬ、自分ではない女との間に成した子供など。帝の妻は自分であり、帝に相応しい、九鬼家の女として努力してきた。それが、どこの誰かも分からぬ女に、まるで帝を取られたかのような想いだったのだ。紋白がそんな怒りの対象には当てはまらないのは分かる。頭では。しかし実際に目の前にすると駄目なのだ。どうしても拒絶してしまう。紋白を認めれば、紋白の母親、つまりは本来怒りを向けるべき相手すらも認めてしまうような気がして。

 

 

「最初に言っとくけどさ。僕は結婚とかした事ないし、これからもする事ないだろうから局ちんの想いは分からないよ」

 

「……我を責めぬのか?」

 

「責めぬのか、って言うけどさ。責められたいの局ちんは? 意外とM――」

 

「分からぬ」

 

 

 局の正直な気持ちだった。認めたくない気持ちはある。だが局とて母親だ。そして大人の女性でもある。自分のしていた行動は改善しなければならないのは分かるし、自分も変わらなければならないという事も分かる。だがそんなに簡単に割り切れるならば苦労はしていない。局もまた、混乱していたのだ。

 

 

「こんな状態でも僕の言葉を遮る九鬼家に僕は驚愕だよ……。まぁそれは置いておいて、局ちんはさ。立派な大人だと僕は思う訳ですよ」

 

「…………それは皮肉か?」

 

「いやいや。素直にそう思ってる訳ですよ。帝の遺伝子を継いでる揚羽ちゃんや英雄はまだしも、一個人として九鬼に嫁いできた局ちんはホントに凄いと思うのよ」

 

 

 アッガイは腕を組んで『うんうん』と頷く。しかし局はいつまでも下を向いて落ち込んでいるような状態だ。

 

 

「九鬼というか、帝の為に一生懸命なんだなぁって感じがビンビンに伝わってますよ。ビクンビクンッ!」

 

「それが我の誇りであり、子供達に見せる姿であると思っているからな」

 

「んでさぁ、相談なんですよ。九鬼の未来の為に……」

 

 

 局はここまでアッガイの言葉を聞いて、『紋白と仲良く出来ない?』と言うのであろうと思った。しかしアッガイは局の予想の斜め上へと行く。

 

 

「僕と協力して、帝をフルボッコにしようよ!」

 

 

 どこぞの魔法少女勧誘のように局を誘った。


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