真剣でアッガイになった。【チラ裏版】   作:カルプス

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【第5話】 うぷぷ……

 

「――アイドルゆるキャラ、アッガイ。こんな手紙を書いているには理由があります、っと……」

 

 

 アッガイしかいない陽向の家で、アッガイは手紙を書いていた。何気にちゃんとした筆で書いている。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「アッガイがいなくなった?」

 

「そうなんですよ! 朝起きたらテーブルに手紙があって……。でもまだ封筒からは出してないんです。とにかく驚いちゃって……」

 

 

 ある日の朝、石動陽向は大急ぎで九鬼へと訪れた。その理由とはアッガイの事である。なんとアッガイが陽向の家から居なくなっていたのだ。テーブルに置いてあった封筒を見て、そのまま大急ぎで九鬼まで来たと言う。

 陽向の話し相手はヒュームである。陽向の気を察したヒュームが、陽向の様子がいつもと違う事に気付いたのだ。そしてアッガイがいなくなった事と、封筒の存在を知った。

 

 

「とにかくその手紙を見せてみろ」

 

「は、はい、これです」

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 以下、アッガイの手紙内容である。

 

 

 九鬼の皆へ

 

 

 

 やぁ。川神市のアイドルゆるキャラ、アッガイだお☆ こんな手紙を書いているのには理由があります。

 僕はちょっと旅に出ようと思うんだな。お、おにぎりが美味しいんだな。

 ですが突然旅に出ると言っても、僕の事が大好きな貴方達は僕の事をきっと、絶対、確実に引き留める事でしょう。ですがアッガイは籠の中の鳥ではないのです。ジオンのアッガイなのです。故にこのような行動を取らせて頂きました。テヘペロ(。・ ω<)ゞ

 しかし何故旅なのか。ですが旅に行くだけです。そう【旅】に【行】くだけなのです。きっと分かってくれるよね? そうだと言ってよバーニィ!

 今は巡り巡って夏です。カブトムシやクワガタなどの昆虫採集に心が踊りますね。そしてそれを都会の子供達に気持ち法外な値段で売り付けると思うと笑いが止まりません。

 英雄も野球の挫折から回復し、九鬼の後継者として頑張っているし、傍にあのペッタンコもいれば大丈夫でしょう。学校も夏休みで見守り活動もありません。ついでに僕の解析も夏の終わりぐらいまで掛かるとか掛からないとかいう話も盗み聞きしました。

 正直、最近になって武力が増大しまくってる揚羽ちゃんが怖いです。いつか僕の体が粉々に砕け散るのではないでしょうか……。揚羽ちゃんに殴られている小十郎が何故あんなに元気なのか分かりません。

 前に助けた白子ちゃん(小雪だっけ?)も榊原さん家に引き取られてちゃんとした生活を送っているようだし、あの厨二少年のグループとも遊んでいるようで何よりです。さすが僕が助けただけの事はある。なんでもゾズマに足技を教えて欲しいとか。やっぱアイツ、ロリコ――おや誰か来たようだ。

 ただ一つ問題があるとすれば、あの事件の後に見守り活動の小学校を増やしましたが、危険な少女と出会った事でしょう。川神の孫娘は化物かッ! と思わず叫んでしまいました。中学に入れば大人しくなるかと思いましたが、そんな事は無かった。

 

 さて、ですが僕が旅に行く本当の理由をお話しします。

 

 それは……………………

 

 

 

 

 

 

 お前だよ陽向ァァァ□■□!!!!

 お前なにいつの間にか若葉ちゃんとデキちゃってるの!? なんだよ「僕達、結婚するよ」って!

 知るかよッ! 結婚とか知るかよッ!! 僕はこれほどまでに若葉ちゃんのセンスに絶望した事はないよ! 僕が親だったら絶対にお前との結婚なんて認めないよ!! この□■□■□!!!

 

 お前の■□■□なんて□■□■で■□■だから■□■□■□だ■□■□そして■□■□が

 □■って□■□■□■□■しても■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□だかんな!

 

 ※上記、筆の乱れ及び、大変汚らしい言葉が書いてあった為、お見せする事が出来ません。ご了承下さい。

 

 

 

 

 

 

 ――失礼。少々興奮してしまいました。

 ご結婚おめでとうございます。陽向だけくたばれ。

 ですが正直、僕は家で不自然にベッドが軋む音なんて聞きたくはありません。陽向だけ事故れ。

 なので、夏の間は旅に行って、見聞を広めようと思います。西の方に行く予定です。そして夏の終わりまでに僕の部屋を九鬼ビルに用意しておいて欲しいのです。陽向だけ土に埋まれ。

 

 九月になる手前位に迎えに来てください。場所はそっちで探してくださいね☆ 陽向爆発しろ。

 

 P.S 僕の新しい部屋は出来る限り豪華にお願いします。※オーシャンビュー必須(笑)

 

 

 ☆彡ACGUY☆彡

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「………………」

 

「………………なんかすみません……」

 

「……その、なんだ。……結婚おめでとう」

 

「ありがとうございます……」

 

 

 なんとも言えない雰囲気がヒュームと陽向の間に流れた。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「海を見ながら食べる弁当美味しいなー」

 

 

 アッガイは電車に揺られながら駅弁を食べていた。川神から出ると周囲の人間はアッガイというロボットに様々な視線を向けたのだが、アッガイの付けていたタスキを見て、そのまま話し掛ける訳でもなく去っていく。

 アッガイのタスキには『九鬼財閥の誇る、ゆるキャラ、アッガイです』と書かれている。タスキはアッガイの自作。周囲の人間は「あぁ、あの九鬼か」と深い理由もある訳ではないのに、何故か納得してしまったのだ。あの九鬼財閥ならロボットくらい作っていてもおかしくはない、筈。と。一部は精巧な着ぐるみだと思ったようだが。

 ちなみに電車でもアッガイは子供に人気だった。人気と言っても小学校低学年くらいの子供からで、赤ん坊には大泣きされて凹んだ。懐かれ度は男女割合的には綺麗に半々位である。

 

 

「最初はやっぱり京都かなー。どすえー」

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「京都なう」

 

 

 京都に到着したアッガイはとりあえず、寺などの文化財を見て回る事にした。京都は外国の観光客も多く、何気にアッガイは注目を集めている。その注目に気付いてか、アッガイは得意のサタデーナイトなポージングを見せ付け、観光客からのカメラフラッシュを一身に浴びていた。

 ちなみにその時に撮影しながら仲間と喋っていた外人の話は――

 

 

『おいおい、このロボット、ヤバいな。このセンスに共感できない』

 

『ああ、日本人はイカれてるぜ。こいつら未来に生きてるよ』

 

 

――である。

 

 

 そんな話がされているとは露とも知らず、アッガイは有頂天モードでポージングし続けるのだった。そしてそんなアッガイを見つめる少女が一人。

 

 

「あのロボット……使えるかも!」

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「納豆ウマー」

 

「でしょー! 松永納豆って言うんだよー」

 

 

 アッガイは外人からの写真撮影の後、一人の少女から話し掛けられていた。少女の名は松永燕。京都で松永納豆を販売している松永家の娘である。燕はアッガイを自分の家へと案内すると、自慢の松永納豆をアッガイに食べさせたのだ。アッガイも松永納豆が気に入ったのか、ウマーウマーと言いながら食べ続けている。

 

 

「でね。アッガイにお願いがあるの」

 

「なんだい燕ちゃん。この納豆に最適なお米を探してこようか?」

 

「ううん、それはいいよ。あのね。アッガイってあの九鬼財閥のロボットなんでしょ?」

 

「そうだね。九鬼のアッガイというか、アッガイの九鬼と言っても過言ではないね」

 

「だからね。アッガイの力で松永納豆を売る手助けをして欲しいの。……駄目かな?」

 

「イーヨ!」

 

 

 アッガイはどこぞの芸人のネタのように、グッと親指代わりのアイアンネイルを立てて同意を示す。その即断に燕も驚いて少しの間、声が出なかった。しかしすぐに瞳をキラキラさせてアッガイに抱きつく。

 

 

「ありがとー! 助かるよー!」

 

「ふっ、アッガイは歌って踊れる素敵な紳士なアイドルゆるキャラですから。キリッ」

 

(よぉーっし! 九鬼とのパイプゲット! これでおとんとおかんも仲直りしてくれるはず!)

 

 

 抱きついた燕の瞳が明らかに策士の、見る人が見たら恐ろしいと感じる瞳であった事をアッガイは知らない。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「松永納豆ダヨー。アッガイのお勧めの松永納豆ダヨー。ミクダヨー」

 

「京都名産松永納豆でーす! お一ついかがですかー!」

 

 

 アッガイと燕は一緒に街中で松永納豆の売り子をしていた。元々、美少女と呼べる容姿の燕の集客力もあったのだが、アッガイという見た目のインパクトには事欠かない存在が居る事で、更なる集客効果を生み出している。燕の父親である松永久信もこの売れ行きに笑みが止まらない。

 

 

「いやぁ! 僕もずっと松永納豆売ってきたけどこれは凄い集客力だよ! 燕ちゃんだけでも結構なもんだけど、アッガイ君がこれほど人を呼び込めるとはねぇ」

 

「おとん! 追加の納豆早く!」

 

「はいよー!」

 

「アッガイお勧めの松永納豆ダヨー。この納豆を買うとゆるキャラグランプリでのアッガイへの投票権が得られるヨー」

 

「なんか勝手に付属された!?」

 

「おとん!」

 

「あぁーごめんごめん!」

 

 

 この日の松永納豆の売上は歴代でも最高レベルのものとなった。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「本当に行っちゃうの……?」

 

「燕ちゃんがこのアッガイを求める気持ちは分かるけど、僕のような可愛さの権化とも言える存在は――」

 

「アッガイ、またね!」

 

「お、おう……」

 

「アッガイ君。九鬼と商売する時にはヨロシクねー!」

 

 

 アッガイはこうして松永家との交流を深め、別れを惜しまれながら次の目的地へと向かう。だが結局、燕の母親とは会う事が出来なかった。なんでも久信に怒って家に帰って来ないらしい。

 ちなみにアッガイは、納豆屋なのにツナギを来ている久信を『ウホッ』と呼ぼうとしたのだが、燕に止められた。しかも話をよく聞くと松永納豆を売り始めたのは比較的最近で、特に歴史も無い事が判明する。元々技術者の久信はとてもアッガイに興味深々で、言う事をよく聞いてくれたので、アッガイは仲良くしてやろうと思った。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「思えば遠くに来たものだ……」

 

 

 アッガイは九州は熊本までやってきていた。ここにやって来た目的はただ一つ。ゆるキャラ日本一を目指すアッガイにとって最強の好敵手とも言える存在が誕生する地だからだ。だがまだその存在は確認されていない。そしてもしも誕生の兆しがあれば、それを容赦なく潰す為にアッガイはここに来た。

 

 

「油断をしていると次から次へとライバルが生まれる……熊本然り、今治然り。船橋のアイツはダークホース……」

 

 

 アッガイは熊本城を前にして、一人で呟き始める。そんな様子をまた観光客達に撮影されていたのは言うまでもない。

 

 この後、熊本を歩き回ったが、例のクマが生まれている様子は無かった。アッガイは安堵しながらも、クマの放つプレッシャーに押し潰されそうな気持ちとなる。

 ホテルの一室でアッガイはバスローブを着ながら椅子に座り、ワイングラスを傾けていた。グラスに入っているのはデコポンジュースだ。熊本の夜景を見ながらグラスを呷る。ゆらゆらとグラスを弄りながら、窓に反射した自分の姿を眺めた。

 

 

「……クマの威力が凄い事は分かっている……。熊本のアイツ然り、半分白で半分黒の『うぷぷ』も然り……」

 

 

 そう言うとグラスに残っていたデコポンジュースを一気に飲み干すアッガイ。大袈裟に口を腕で拭い、グラスをテーブルに置いて立ち上がる。そして窓の傍に行って話し続けた。

 

 

「僕だってベアッガイとか、新作のⅢとかニャッガイとか、シロクマテナッガイというバリエーションがあるんだ。……でも最初からその姿であれば何かしらの言い訳も出来るけど、後から動物系の姿になったら『動物の可愛さを取り入れてあざとい』みたいに言われてしまう……! 主に帝に……! 特に帝に……!!」

 

 

 アッガイは両手を窓に置いて、プルプルと震え始める。

 

 

「今はとにかくライバルを潰す事に集中せねば……。バリエーションは切り札として取っておいた方がいいだろうし……」

 

 

 そう言うとアッガイは窓から離れ、着ていたバスローブをバサっと空中に放る。そしてバスローブが乱暴に床に落ちた時、アッガイはベッドにダイブしたのだった。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「この世ーはー、でっかい桜島!!」

 

 

 アッガイは桜島までやって来ていた。だが周囲にはアッガイのような観光客の姿は見えない。

 

 

「道に迷っちゃったから適当に入ってきちゃったけど、まぁ大丈夫だよね。獣道だったけど、愛さえあれば関係ないよねっ!」

 

 

 ちなみにこの日、桜島は数日前から続く火山活動の活発化によって入山規制がされている。現に、アッガイは火口付近まで来ているのだが、モクモクと噴煙が上がり続けていた。

 

 

「火の国じゃぽん……。このエネルギーを僕が受けて更なる力を――」

 

 

 アッガイが火口に背を向けて、エネルギーを受けるかのように両手を広げた瞬間。桜島は中規模クラスの爆発的噴火を起こした。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「…………う、ぅぅ……」

 

『目覚めるのだ、旅人よ……』

 

「……ぅ……うぅ」

 

『天から降り注ぐ力強き光と、海からの心地よき波に抱かれし者よ……。目を覚ますのだ……』

 

「……ぅ、うう?」

 

『さぁ、目覚めの時だ……』

 

「…………ハッ!?」

 

 

 アッガイはガバっと体を起こす。今までうつ伏せ状態だったのだ。アッガイの体半分は海水に浸かり、波が体に打ち付けた。目の前は砂浜が広がっており、とても綺麗な風景である。

 しかし一体ここはどこなのか。桜島で噴火に巻き込まれたのはアッガイでもなんとなく分かった。噴火の瞬間から後の記憶は無いが。致命的なダメージを負った様子は無い。というか、ヒュームの蹴りを喰らってもボディが凹まない時点で、アッガイの体の堅牢さが分かる。しかし背中の方がやたらチクチクするのだ。

 アッガイがその原因を知ろうと視線を少し動かした瞬間。

 

 

『旅人よ……。我が姿を見てどう思う……』

 

「すごく……大きいです……」

 

 

 アッガイの目の前には大きなムラサキオカヤドカリが居た。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「ここは沖縄だったんですか! グランゾンさん」

 

『然り……ここは人が琉球と呼ぶ島なり……。グランゾン?』

 

「種別で呼ぶのもアレなので、名前を付けてみました!」

 

『そうか。名前を付けられるのは初めてだ……』

 

 

 アッガイは自分に呼びかけていたムラサキオカヤドカリをグランゾンと命名した。背中のチクチクの正体は、小さなオカヤドカリ達がアッガイをハサミで啄んでいた事が原因と判明。今は一匹残らず退いて頂いている。

 

 

「しかしグランゾンさんは大きいですね……。サッカーボールレベルの大きさだ……。というかそのサイズの貝が存在したのか……」

 

『随分と長く生きているからな』

 

 

 このグランゾン。ハッキリ言って異常である。そもそもオカヤドカリにも種類があるのだが、一般的には最大で野球ボール位の大きさがほとんどである。自然界では10年も20年も生きるとは言われているが、そういった年月を経てもグランゾン程の大きさになるのはかなり厳しいだろう。

 

 

『其方、アッガイと言ったか。そう畏まらずでよいぞ』

 

「いえいえ、グランゾンさんが声を掛けてくれなかったら、あのまま錆びて朽ち果てたかも知れませんし……」

 

「我のお陰というならば、尚更だ。其方のような存在とこうして話す事など、一生にあるかないか、だからな。気にせず話してくれるとありがたいのだ」

 

「んじゃよろしくね、グランゾン!」

 

『……切り替えが早いな、其方』

 

「そういえば思ったんだけど」

 

 

 砂浜でグランゾンの正面に体育座りするアッガイ。傍から見ると大きなムラサキオカヤドカリと、ずんぐりむっくりなロボットが向かい合っているという不思議な光景である。

 

 

「グランゾンってどうして話せるの? 僕と同じように特殊な力でもあるの?」

 

『我は何もしていないぞ。長くは生きたが知能が仲間よりも上なだけで、人と話す事など出来ない』

 

「え、いやでも今こうして僕と喋ってるじゃない」

 

『分からぬがそもそも我は言葉を発する事など出来ない。其方に何か力があるのなら、その力の影響ではないのか?』

 

「うーん。僕ヤドカリと話したいとか思った事ないんだけどなぁ……」

 

 

 アッガイは首を捻って今の状況を考える。

 

 

「桜島噴火。僕吹き飛ばされる。なんやかんやで沖縄なう。グランゾン喋る……」

 

 

 『うーん』と唸りながらアッガイは考え続ける。その間に周囲の小さなオカヤドカリ達は再びアッガイの体によじ登り始めた。もうチクチクにも慣れたのか、それとも気付いていないのか、アッガイはオカヤドカリ達の行動に何も言わない。

 

 と、そこに他者の声が響いた。

 

 

「さーて、今年もオカヤドカリとるさー」

 

「ヤドカリビジネスさー」

 

 

 地元の人間であろうか、中年で日焼けしたオヤジが二人、歩いてきたのだ。そして砂浜にいるアッガイとグランゾンを視界に捉えた。

 

 

「凄く大きいオカヤドカリと、なんかよく分からないのがいるさー!?」

 

「捕まえてボーナス貰うさー!」

 

 

 オヤジ二人は勢い良くアッガイ達の元へと駆けて来る。アッガイは二人からグランゾンを守るかのように立ち塞がった。

 

 

「なんだオマエラ! さーさー言いやがって! 僕のネット友達のハートマン先任軍曹の所に送るぞッ!」

 

「邪魔するんじゃないさー! というかお前も捕まえてお金貰うさー!」

 

 

 一人のオヤジがアッガイに襲いかかった。アッガイを脅威だと思っていないのか、素手で押さえつけようとする。アッガイの頭を掴んで強引に地面に倒そうとしていた。その態度にブチ切れたアッガイは攻撃行動に移る。

 

 

「アッガイコレダー!!」

 

「ひぎゃぁぁぁぁ!?」

 

 

 アッガイの体から強烈な電気が放たれ、掴んでいたオヤジ一名はそのまま気絶。倒れたオヤジを見て、もう一人のオヤジは唖然としていた。そんなもう一人のオヤジにアッガイは話し掛ける。

 

 

「おいオマエ」

 

「はっ!? な、なんなのさ、お前!」

 

「お前じゃない、アッガイ様と呼べ。そして敬語だ。敬語を使え。自重を暫く前に止めた僕にこんな横暴を働いて、こうして話せているだけでも光栄と思うがいい。敢えて言おう。お前はカスであると!」

 

「酷い言われようさー!?」

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「なるほど、天然記念物か……」

 

「そうさ――そうです。オカヤドカリは天然記念物だけど、許可を得た捕獲業者であれば、一年の限られた期間に捕獲量を限って捕獲して売る事が出来るさ――です」

 

「つまりこのグランゾンも、一緒に連れて行くには捕獲業者が捕獲したのを購入するという手続きを取らねばならないという事か……」

 

『アッガイよ。我をどこかに連れて行くのか?』

 

「自然が減って住む所を探すのも大変なんでしょ? ついでにこのオヤジ共みたいに捕まる危険性もあるし。僕の家は世界屈指の財閥が用意してくれるんだよ! だから一緒に行こうよ、無限大の彼方へ!」

 

『ふむ……』

 

 

 オカヤドカリが天然記念物であるという事を知ったアッガイ。気の合う仲間が出来たから連れて帰ろうと思っていたら、法律に抵触する行為だと知り、少しだけイラっとした。そもそも法律なんぞは最低限守っていればいいと思うアッガイは、食べ物は賞味期限までに食べなくてはいけない、という事以外は特に意識して守っていない。自重をやめてからは暴力関係はそこそこ増えた。逆に盗みなどはしない。これまで特にお金を使ってなかったので、それなりに貯金があるからだ。ちなみに暴力関係では英雄に『英雄、暴力はいいぞぉ!』と言ってヒュームにお仕置きされて少しまた自重気味である。

 だがしかし自分を除いて、自分勝手な人間が多いせいで、法律が多く複雑になっていく事にも理解は出来た。アッガイは自分のように綺麗な心を持ち、自分ほどでは無いにしろ、可愛い見た目の生物ばかりであれば、と思う。

 

 

「大体、優しい人とか趣味の合う人、とかが好みです、って書いてあっても、そこに※マーク付けて『ただしイケメンに限る』とか入る訳ですよ……。とんだ詐欺だよ!」

 

『アッガイ、突然どうしたのだ』

 

 

 突然、意味不明な話をし始めたアッガイに心配するグランゾン。そこでハッとして元に戻る。

 

 

「いやちょっと世間の無情を嘆いていたのさ……。で、どうするのグランゾン。僕は一緒に来て欲しいけど、無理強いはしないよ。どこぞのブライトさんみたいにガンダムに乗れとは言わないよ」

 

『ブライト? ガンダム? まぁそれはいいとして、其方の体にくっついている他のオカヤドカリも連れて行ってくれるならば、我は其方と共に行こう』

 

「そんなのお茶の子さいさいですよ!」

 

「あのぅ……」

 

 

 グランゾン他、オカヤドカリ達が付いて来てくれる事となり、喜ぶアッガイ。しかしそんなアッガイに気まずそうに話し掛けるオヤジ一名。雰囲気を壊すようなオヤジの声に、アッガイはゆっくりと、しかし威圧感を滲ませて視線を向ける。

 

 

「なんだよモブオヤジ。僕の殺意の波動を受けたいのかい?」

 

「い、いやいや! ただほら、オカヤドカリは許可を得た捕獲業者じゃないと……」

 

「……話をしよう」

 

「え?」

 

 

 突然、威圧感を消して、静かに語り始めるアッガイ。そんなアッガイの様子に安堵しながら話を聞くモブオヤジ。これこそ、アッガイが西日本を歩いている中で得た技術である。どんな技術かというとアッガイの実力を見せつけ、恐怖を与え、ギリギリまで相手が萎縮した所で、それを消して安堵感を与えるのだ。そしてその安堵感がある間に自分の話を聞かせて都合の良い方向へと誘導する。だがこれはまだ途中だ。まだ仕上げもあるのだ。

 

 

「あれは今から36万、いや、1万4千年前……。いや年月などどうでもいい。とある一人の可愛らしい。それはもう可愛らしいゆるキャラが居たんだ」

 

「は、はぁ……」

 

「そのゆるキャラは琉球の地で友と呼べる存在と出会ったんだけど、それを邪魔する奴が居た」

 

「……ぇ」

 

「そのゆるキャラはその邪魔する奴の善意の行動に期待したんだけど、ソイツは法律を順守しようとしたんだ。だからゆるキャラは行動するしかなかった。そう、目撃者は消えなければならない……」

 

「…………」

 

 

 モブオヤジから汗が滴り落ちる。先程までの僅かな精神的余裕はとうに無くなり、喉はカラカラに乾いていく。心臓の音が大きく聞こえ、心なしか目眩までしてきた。そんなモブオヤジにアッガイは話し掛ける。

 

 

「僕にとっては過去の出来事だけど……、君にとっては今日の出来事さ」

 

「お好きにどうぞぉぉぉぉ!!」

 

 

 モブオヤジはアッガイに屈した。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「…………で、なんだその大量のヤドカリは」

 

「僕の友人達さ! 一緒に住むんだ! ちゃんと捕獲業者の許可も取ったよ! 違法じゃないよ! 出来るよね、クラウディオ」

 

「簡単な事でございます」

 

 

 クラウディオはオカヤドカリ達を容器に入れると、アッガイを迎える為に乗ってきた九鬼家所有の特別製ヘリへと積み込んだ。その手際の良さはアッガイですらも惚れ惚れするものだった。

 

 

「あっ、クラウディオ。オカヤドカリは水に沈めちゃダメだよ。息できなくて窒息死しちゃうから」

 

「存じておりますので大丈夫ですよ、アッガイ」

 

「……さすが執事王。そこに痺れる憧れるゥ! でも驚いたのはもうすぐ9月って事だよネー。桜島の時はまだ8月上旬だったんだけどネー。これって――」

 

「さっさと乗れ!」

 

「あーん! 久々のヒューム氏の蹴り!」

 

 

 こうしてアッガイとオカヤドカリ達は沖縄を離れた。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「こんなの絶対おかしいよ!」

 

「おかしくなんてないんだよ。少しは黙りなアッガイボーイ」

 

「マホトーン!」

 

「何やってるんだい?」

 

「とりあえず魔法を封じようかと……」

 

 

 アッガイとオカヤドカリ達は新たな新居へとやってきていた。だがそれは川神市の九鬼ビルではなく、離島だった。

 そして目の前には魔女のような格好をした老女。星の図書館の異名を持つマープルが居た。


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