真剣でアッガイになった。【チラ裏版】   作:カルプス

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【第2話】 勝利など容易い!

 

 九鬼での契約も終了し、部屋から退出しようとソファーから腰を上げる陽向と、すでにソファーの上に立っていたアッガイ。アッガイはしょんぼりして体育座りしていたのだが、すぐに立ち直ってサタデーナイトなポージングを帝に見せつけていた。それはともかくとして、二人はドアへと向かおうとする。するとその進行方向にヒュームが入り、待ったを掛ける。

 

 

「ちょっと待て」

 

「なんですかルガールさん」

 

「いやヒュームさんだよ……誰さ、ルガールって」

 

「94の頃、多くの人間に絶望を見せた奴さ。あの野郎スーツ脱ぐとスゲェんだ……」

 

「何の話だよ。んでヒューム、どした?」

 

「帝様、正直な所、このロボットは不確定要素が多すぎます」

 

 

 鋭い眼光をアッガイに向けるヒューム。それに対して内心で超ビビリながらも『じ、軸のアルカナ使えるかな……いやそれとも吹き荒ぶ風の……』とか考えるアッガイ。この時、意図せずにモノアイが一層輝き、ヒュームの警戒度が上がったのは不運としか言い様が無かった。

 

 

「そうだ、その視線や纏う気。有り得ないのだ。機械が気を纏っている事自体がな」

 

「いや付喪神だから。付喪神なん――」

 

「だから少々試させてもらおう」

 

(無視された! だけど怖くて言えない! 涙が出ちゃう、だってアッガイだもん!)

 

「えーと、ヒュームさん、何を試すのでしょうか……?」

 

「万が一の時に俺がこいつを抑える事が可能かどうか。引いて言えば最悪の場合にコイツを破壊出来るかどうか、だ」

 

「死亡フラグやないですか!」

 

「それなりに加減はしよう、それなりにな」

 

「せやかて工藤!」

 

「いやヒュームさんだよ、誰なの工藤って」

 

「いちいちウルサイぞ! 大体お前製作者なんだから庇えよ! お前の金注ぎ込んで作ったこの僕がスクラップになるかもなんだぞ!」

 

「ハハハ、ヒュームさんはそんな人じゃないよ」

 

「おう、それに壊したらもっかい作れるだけの金はこっちで用意するぜ」

 

「チクショウメェェェェェ!!」

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 九鬼財閥には多くの社員が居る。その筆頭とも言えるものが従者部隊と呼ばれる集団。序列が存在し、順位が上に行く程に高等な技術を持った優秀な人材となる。そしてアッガイの目の前に居る金髪執事、ヒューム・ヘルシングはその頂天に君臨していた。武神、川神鉄心と同等の戦闘力を持ち、大概の事ならばその実力をもって解決する事が可能なのだ。

 そんな金髪執事の前で内心かなり焦っているのはアッガイである。というかぶっちゃけ自分に気というものがある事自体、先程のヒュームの言葉で知ったばかりだった。無理もないだろう。これまで自分の力は試していたが、それは気とは全く関係ない系統の力だったのだ。更に言えば、周囲に気というものを感知したり、使える人間が居なかったというのもある。アッガイが知らず知らずに気というものを使ったり纏っていても、それを『気だ』と伝えてくれる人物が居なかったのだから。

 

 九鬼のビルには地下が存在しており、そこは従者部隊の訓練場となっている。地下であるにも関わらず、それなりに広い空間である。ここからも九鬼という組織の大きさと、それに属する人間の多さが垣間見えるだろう。

 しかしアッガイにはそんな事は至極どうでもいい事であり、如何にしてこの場を凌ごうかという事に必死だった。

 

 

「――ではそろそろ始めるとしようかロボット」

 

「ちょっとタイム! 具体的に言えばあと5分程タイム!」

 

 

 陽向や帝相手であればまずロボットと呼ばれた事に対して噛み付くであろうアッガイだが、この時ばかりはそこに構っている余裕は無かった。少なからず何かしらをしなければならない。最悪の場合には目の前にいるヒュームを倒してでも自分の安全を確保する必要があるのだ。

 そしてこの場を切り抜けるには自分の持つ能力こそが絶対不可欠となる。何かしらを具現化出来れば対抗出来る筈。それを信じて一生懸命に考えるのだが、目の前の恐怖が強すぎて上手く能力を発動出来ない。

 

 

(なにこの無理ゲー。ルガールの前でなにかしら想像してどうにかしろってナニコレ。ルガール対アッガイってどこの需要? 静岡の方面には供給待ちしてる人がいるんだろうか……。あ、もしかしてカプ○ンvsS○Kとかみたいな――)

 

「……そもそもこちらにお前を待ってやる道理はなかったな」

 

「え、ちょ、まっ――」

 

「ジェノサイドチェーンソーッ!!」

 

「あーん! アッガイがー!」

 

 

 ヒュームのジェノサイドチェーンソーによって十割持って行かれたアッガイは空中高く舞った。そしてそのまま頭を下にして落下する。大きな落下音の後に聞こえて来たのはアッガイの声だった。

 

 

「うわーん暗いー出してー」

 

 

 所謂、犬神家状態というやつだ。足だけを地上に出してジタバタとしている。

 その様子を見て、鋭い視線を送りつつも警戒心を大幅に引き下げているヒューム。そして観戦室で腹を抱えて大笑いしている帝。そんな帝に『頑丈でしょう?』と更なる説明をしている陽向。そんな二人に自然と紅茶を出すクラウディオ。

 

 その後、ヒュームによって引っこ抜かれたアッガイ。しかしヒュームの姿を見た瞬間、恐怖のあまりアイアンネイルで攻撃して、そのまま画面端まで運送されたのは言うまでもない。ちなみにアッガイのアイアンネイルでもヒュームはノーダメージだった。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「そんなこんなで部長になったよ!」

 

「はいはい、大人しくしてるんですよー」

 

 

 九鬼帝との会談から約一ヶ月後、アッガイと陽向は九鬼の持つビルの一室に居た。ここは帝が用意した九鬼人型機械技術研究室となっており、設備や広さは『さすが世界の九鬼財閥』と言わせるレベルだ。ちなみに陽向は【とりあえず】の研究室責任者、室長となっている。これは帝が陽向に着かせたもので、陽向本人は『人の上に立つのは慣れない』と拒否しようとしていた。しかし現在の研究室自体が陽向の作ったアッガイを調べる為のようなものであり、製作者がトップじゃないと色々と面倒なので帝が強制したのだ。ちなみにアッガイは『アイツ(陽向)はコミュ障だから無理』と言っていた。実はこの言葉で陽向が奮起したのは秘密である。実は交友関係が少ない事を気にしていたという事は。

 

 今はアッガイに色々な機材をくっつけて調べている途中である。ちなみにアッガイを触っているのは女性。アッガイ曰く『野郎に触られるのを我慢する僕の気持ちを考えろよ!』との意見があり、それを無視すると暴れるので女性が担当する事になっているのだ。ちなみにあまり暴れるとヒュームが来るので限度は弁えている。

 

 ちなみにアッガイの言う部長とはアッガイの役職である。そう、アッガイは部長なのだ。これには色々な事情が関係している。まず最初にアッガイ本人がなにかしらの役職を要求した事。これは本人が無職というレッテルを恐れた為だ。周囲からすればそんなレッテルを貼る事などないのだが。周囲からは働くという事になにかしらの意義を見出していたのかもしれない、と思われた。アッガイ本人の考えとしては、今後誰かに『無職ロボ(笑)』とか言われるのを想像したら滅茶苦茶、苛ついたからなのだが。ちなみにそう考えた時に言った人物は九鬼帝。

 ……で、電話越しに帝に直談判したのだ。多忙を極める九鬼帝に電話が出来るという時点でアッガイもかなり凄いのではあるが、本人は知らない。そして帝はその訴えに了承を示し、後で席を用意すると言った。

 そして作られたのが、【九鬼特殊広報部】である。所属はアッガイ一人。しかしアッガイはとりあえずでも肩書きが出来たので喜んだ。しかし作った帝が、後でアッガイに『ボッチ乙』と言ってやろうと思っていた事をアッガイは知らない。

 

 

「はい、これでおしまいですよー」

 

「ふぅ、ロボット使いが荒いぜ……」

 

「あ、アッガイ。今日は僕帰るの遅くなるからね」

 

「おう、どうでもいい」

 

「酷い!」

 

「アッガイちゃんはこれからいつものですか?」

 

「そうだよ、若葉ちゃん。千里の道も一歩から。僕にとっては一里位だけど、いやもっと短いかもだけど!」

 

「頑張るですよー」

 

「うん、またねー!」

 

 

 研究員の一人、村井若葉に見送られ、研究室からドタドタと慌ただしい足音で出て行くアッガイ。静かになった研究室では研究員達が忙しなく動き出していた。と、ある事を思い出したのか若葉は陽向に話し掛ける。

 

 

「そういえば今度いらっしゃるそうですね。津軽さん」

 

「そうだね。僕も楽しみだよ。電話で話したけど考えとか凄く分かるし。きっと会話するだけでも凄く良い経験になると思うよ」

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 アッガイを調べるにあたり、とある問題が浮上した。それは調査から解析、そして再調査という期間の間である。調査を行い、その解析が終了するまで、アッガイは待たなければならない。しかし解析がそんなにすぐに終了する筈もなく、場合によっては一月単位の話となる。しかしその間も研究室にアッガイが居られては正直な話、迷惑だった。とにかく喋る、とにかく暴れる、とにかく邪魔だったのだ。

 そんな時にアッガイが帝に役職を要求した。アッガイの話は帝にも報告されており、対応策を考えている時だったのだ。とにかくアッガイが研究室の邪魔にならないようにする事を念頭に置いての役職でなければならない。だが下手にやる事の無い役職では意味がないのだ。やるべき事を与える事で研究室から離れさせなければならないからだ。やる事がなければまた暇つぶしに研究室に行ってしまうだろう。そしてそれなりの自由も重要だ。一定の自由を与え、尚且つ続けられる仕事を与えなければならない。

 

 そして九鬼帝はアッガイに九鬼特殊広報部の部長という役職を与えた。この特殊広報部というのは、アッガイそのものが広報材料となっている。業務範囲は川神市全域。市長や議会への許可は既に下りている。主な活動内容は全域に渡っての美化作業。小学生の登下校における見守り活動である。九鬼の技術の高さとイメージアップを兼ねた業務だった。

 

 しかし一応、アッガイは高等技術の塊の為、従者部隊の一人が護衛に付いている。アッガイには護衛と説明しているが、実際には従者部隊の訓練となっていた。アッガイは時折、予想外の行動をする事があり、そういった想定外にも対応する事によって、柔軟かつ迅速な行動が取れるようになるのではないか、という予想がされたのだ。実際にどうなのかというと、護衛としてアッガイに同行する回数が増えれば増えるほどに想定外への対応力が上昇したという結果が出た。最初こそダメ元だったのだが、結果が出れば行動は早く、アッガイは従者部隊の育成過程に組み込まれていたのだ。数日のローテーションでアッガイには従者部隊から護衛がやってくる事になった。

 

 そして今日もまた、アッガイは河川敷の美化作業に勤しんでいる。

 

 

「ひゃっはー! ゴミを分別だぁー! 外来植物は消毒だぁー!」

 

 

 空き缶空き瓶その他のゴミを素早く分別して従者部隊の護衛が持つゴミ箱に放り込み、繁殖力が高く河川敷をあっという間に占領する外来植物は火炎放射で焼き尽くす。火炎放射も能力による力だ。ヒートロッドと同じように掌から炎が吹き出ている。

 

 

「ブタクサもセイタカアワダチソウもまとめて焼却だぁー! ススキもそれなりに焼却だぁー!」

 

 

 ススキも北米の方では侵略的外来種となっているのだ。

 

 

「はっ!? もう小学校の下校時間か。チビッ子達を見守らねば!」

 

 

 思い出したように火炎放射を止めて、河川敷を凄まじい速度で走るアッガイ。それを慌てながら追いかける護衛。確かに良い訓練となっていた。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 アッガイは九鬼特務広報部の部長となって考えていた。確かに現在は部長という肩書きを手に入れ、日々を過ごしている。しかし自分が解析され、お役御免となればどうなるのか。社会というのは厳しいものだ。ブームがされば見向きもされない。つまり自分は自分で資金を貯めていく事が肝心だとアッガイは思った。老後の為にも。だが、このまま九鬼で部長をやっていても、自分一人でどうにか暮らしていく金額を貯蓄するよりも早く、解析が終わってしまうのではないかという不安が大きい。

 勿論、能力に関しては解析出来ないだろうとは思っているが、九鬼は能力ではなく、純粋な人型ロボットの技術を求めている部分も大きいので、能力を深くまで調べようとはしないだろう。というかヒュームがあれの解析は無理だと、ある時にアッガイの目の前で帝に言っていた。何故と問う帝に、ヒュームは『自分の武力を解析するようなものだ』と言う。つまり知った所で再現する事は不可能なのだ。未来的には不可能ではなくなるのかも知れないが、今そこに掛けるべき資金は無い。それを瞬時に察した帝は、『コレがヒュームと同じようなもんだとはねぇ。不相応過ぎるだろ』と言ってアッガイに殴られ掛けた。殴られ無かったのは即座にヒュームが画面端までアッガイを運送したからである。

 

 様々な事があり、アッガイは現状している業務を上手く利用出来ないか考え、一つの名案を思い付いた。

 

 

「ゆるキャラ日本一に! 僕はなる!」

 

 

 アッガイに目標が出来た瞬間である。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「いいかいチビッ子達よ。ゆるキャラグランプリの際には僕に、アッガイに投票するんだよ。アッガイに投票するんだよ。大事な事だから二回言うんだよ」

 

「なにそれー」

「変なロボットさよならー」

「帰ってあそぼー」

 

「……大丈夫、大丈夫だ……。いつかこれが刷り込み作用で効果を発揮する筈……。毎朝毎夕言い続ければきっと……フ、フヒ、フヒヒ」

 

 

 横断歩道を元気に走り去っていく小学生達を見送りながら、不安な心を必死に抑え込んで自分を信じるアッガイ。自分を信じた未来を想像して自然と清らかな笑いが漏れる。そんなアッガイに近付く執事服の男。

 

 

 

「お前は一体何をしているんだ」

 

「ゆるキャラグランプリの為の下準備だよ。えーと……」

 

「ゾズマだ。ここに来る前に言った筈なんだがな」

 

「そうそう、DJゾズマ」

 

「……ゾズマ・ベルフェゴールだ。もう間違えるなよ。間違えたら……」

 

「え、やだ、この人もルガールと同類?」

 

「ルガールとは誰の事だ」

 

「いや気にしないで。ゾズマはアレだよね。日本名だとキリツグとかヨシカゲとかが合いそうだよね」

 

「何を言っている」

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 アッガイとゾズマは九鬼のビルへと向かって歩いていた。アッガイが川神市で活動を開始してから、まだ一月も経過していないが、周囲ではそこまで騒がれもせずにアッガイは受け入れられている。アッガイ自身にちょっかいを出す人間達もいたが、悉くアッガイと従者部隊の護衛によって撃退されていた。アッガイの活動が治安維持や改善にも役立っていると判断され、住民からの印象は良い。

 

 ゾズマ・ベルフェゴールは中東の国出身の黒人で、身長が185Cmの長身。武術は足技がメインだ。戦闘能力の高さも買われて九鬼の従者部隊へと入っている。従者部隊の中では高位にいるのだが、本人が自分の序列は低いと感じ、序列向上の為に仕事に没頭していた。この頃のゾズマの序列はアッガイの護衛をする程の低さではないのだが、今日は偶々、帝から命じられてアッガイと行動を共にしている。ゾズマとしては言いたい事もあったのだが、九鬼のトップである帝の指示に従わないという訳にもいかず、アッガイの護衛をしていた。帝からは『アッガイと一緒だと面白いぞ』としか言われず、とにかく帰還するまで護衛するしかない状態なのだ。ちなみにゾズマからすれば面白い事など一つも無かった。美化作業は言わずもがな。小学生の見守り作業に至っては『外人だ』と小学生に群がられる始末。ゾズマの見た目はハッキリ言って簡単に声をかけられるような印象ではないのだが、執事服でアッガイと一緒に居た事が子供達の警戒心を下げる結果となった。

 

 

「むっ!? 草っ原でチビッ子達が遊んでる! 危ない事しないように見守ろうじゃないか、ジャマイカ!」

 

「何故ジャマイカと言った」

 

 

 そう言うとアッガイは静かに素早く、子供達から見えないように草の影へと向かう。ゾズマも溜め息を吐きながらアッガイの後を負う。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 まだ開発が進まずに自然が残る草原では数人の子供達がかくれんぼなどをして遊んでいた。アッガイはその様子を背丈の大きい草の影から見守りつつ、ゾズマに話し掛ける。

 

 

「ゾズマってアレだよね。ズを抜いて伸ばし棒入れると強そうだよね。魔王的に考えて」

 

「……お前はロボットにしては理解不能な事ばかりを話すな。欠陥品じゃないのか」

 

「理解不能なのは君の勉強が足りないからだよ。日本語おけー?」

 

「…………私はお前の廃棄処分が決定したら絶対に処理を担当しよう。火薬の扱いは慣れているんだ」

 

「なにそれこわい」

 

 

 アッガイは震えながら子供達を見守り続ける。ゾズマはフンと鼻を鳴らして共に子供達を見ていた。暫くするとアッガイは一人の少年に目を付ける。その少年は時折、体をクネッと捻りながらポーズを取り、何やら漫画などでよく見るような【格好良い】言い回しをしている。アッガイはその少年を見た瞬間に閃いた。

 

 

「そうか……! そういう事か、リリン!」

 

「……?」

 

「僕はいつも不思議に思っていた……。何故可愛らしさを体現している僕が今だに世間に注目されないのか……。周囲に原因があるものだと思っていた……。この世界の人間は皆、目の奥が腐ってるんじゃないかとも考えた……。しかし、しかしである! 今ここに来てこのアッガイは天啓を得た!」

 

「……確か天啓というのは神からのお告げだったと思うが」

 

「え、そうだけど何か?」

 

「お前、付喪【神】じゃないのか?」

 

「……べ、別にノリだし! 最初から分かってるし! 僕付喪神だもの! 天啓なんて無いし最初から分かってるし! あ、また誰か来たね! 見守らなくちゃ!」

 

「…………」

 

 

 目に見えて焦りだしたアッガイに目を細めて疑惑の眼差しを向けるゾズマ。しかし自分が疲れるだけという結果が頭に過ぎり、そのままアッガイと同じく子供に目を向けた。

 新たにやって来たのは【白い】少女。髪が真っ白なのだ。横でアッガイが『あの歳でキャラ作りか……』と呟いていたが、ゾズマは無視した。キャラも何もアルビノなのだろうとすぐに分かったからだ。そしてゾズマは少女の【他】の特異性にも気が付いていた。暫く洗われていないような髪。何日も着続けているような、汚れのある服。草原で遊んでいる同年代の子供と比べても痩せていると断言出来る程の細い体。ゾズマは明らかに少女は異常である事を察したが、だからと言って何をするつもりも、アッガイに言うつもりも無かった。自分はアッガイの【護衛】であり、アッガイの業務の【補佐】ではないからだ。他の従者部隊は補佐もするのだろうが、正式な指示ではない自分はそれに当たらないとゾズマは思った。どこか心の片隅に居心地の悪さを感じながら。

 

 

「お、あの少女、少年に近付いていく。子供ながらの甘酸っぱい展開になるのかしら……」

 

「……ならんだろう」

 

「え、なんで分かるの。って仲間に入れてってやつか。いっその事、『少女は仲間になりたそうにそちらを見ている!』とか言ってくれると面白いよね。お前が言うんかい、という」

 

 

 直後、少年は『定員オーバーだ』と少女を仲間に入れようとしなかった。少女は手に持ったマシュマロを、あげるから仲間に入れてと頼むが少年は相手にしない。その様子をアッガイとゾズマは黙って見ていた。少年はしつこい少女から離れるように仲間の所へと走り去り、少女は寂しそうに俯く。暫くすると少女はとぼとぼと草原から去っていった。その後、少年とその仲間も家に帰るのか、草原からいなくなる。

 子供達がいなくなったのを確認してアッガイはゾズマと共に再び九鬼への帰り道へと向かった。その帰り道ではアッガイが何度となくゾズマに話し掛けたのだが、ゾズマは言い返す事もなく、ただただ無言で歩くだけ。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 草原の少年からヒントを得たアッガイは、暫く少年の様子を観察してみる事にした。草原で遊ぶ少年達を草の影から見守るアッガイ。そしてその隣りには何故かゾズマ。

 本来であれば彼は別の任務に向かう筈だったのだが、草原から帰って来て帝に事の詳細を報告していると、その帝本人から正式に数日間、アッガイの護衛を命令されたのだ。最初はさすがに命令の意味を問うたが、帝は『お前の為になる』と異議を認めなかった。トップにそう言われてはゾズマも引き下がるしかない。

 そしてアッガイに付き合う事、数日。アッガイは必ずこの草原で遊ぶ少年達を見続けていた。そしてその少年達に近付く少女の事もゾズマと一緒に見ている。結果はいつも同じだった。少年は少女の願いを断り、仲間の元へと走り去る。そして少女は悲しそうな表情をして帰っていく。

 そして今日もまた、同じ事が繰り返されようとしていた。

 

 

「……ねぇ、ゾ・ズーマ」

 

「ゾズマだ」

 

「あの子ってもしかしてキャラ作りじゃなくてアルビノとかいうやつなのかな?」

 

「………………だろうな」

 

「まじか。さすが僕、アルビノにも気付く! そう、これは最早、時が来たと言う事なのだよ……」

 

 

 本当は初日に気付いていたのだが、面倒なのでゾズマは言わない事にした。横ではアッガイが自画自賛し続けている。と、思ったら突然静かになって少女に視線を向けていた。この変化にゾズマはアッガイを観察するように視線を送る。アッガイの視線の先にはここ数日と同じように少年に仲間に入れてと頼む少女の姿。

 

 

「仲間にいーれーてー!」

 

「しつこいな! だから定員――」

 

「イ゛ェアアアア!!」

 

 

 少年が少女の願いを断ろうとした瞬間。何故かアッガイは奇声を上げて少年に突撃した。


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