真剣でアッガイになった。【チラ裏版】   作:カルプス

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【第17話】 ほにゃらら

 工場地帯における川神学園対天神館、そして突如として参戦したアッガイ勢力による東西交流戦は開幕からアッガイ勢力によって奇襲が行われた。川神学園と天神館はこれをアッガイによる攻撃と判断。だが実際にはアッガイ勢力所属のMSによる攻撃だった。攻撃を停止させる為に出陣した双方の学園生徒は、この事を本陣へと伝令する。そしてその情報は両陣営にほぼ同時に伝わる事となった。

 

 

「――アッガイではないだと!?」

 

「伝令の報告ではロボットは二体。どちらも少々大きい、しかしアッガイと同じ単眼のロボットとの事です。英雄、九鬼ではアッガイのようなロボットの開発を?」

 

「クッキーシリーズと呼ばれるタイプの開発は知っているが、それらは現在、最終プログラミングの段階で動かせるレベルではない。そもそもアッガイに持ち出す権限は無い筈である。クッキーシリーズは九鬼の技術の中でも最先端であり、情報漏洩等の対策で最高レベルの警戒がされているからな」

 

「つまり九鬼の開発したロボットではない、と?」

 

「少なくとも我が知る物ではない」

 

「……九鬼が分からないんじゃしょうがない。とにかく今はそのロボット達をどうにかしないと」

 

「恐らくですが、アッガイだと思って向かった鎮圧部隊が壊滅し、障害がなくなった事で進軍してきていると思います。伝令の話では本陣に撤退してくる時点で既に壊滅と言っていい状態だったそうですから」

 

 

 川神学園二年の大将である英雄、そして軍師役の冬馬と大和を加え、川神陣営は作戦の変更を話し合っていた。原因はアッガイでは無いロボット達である。完全にこちら側の認識を利用されてしまったと冬馬と大和は悔やんだ。普段のように注意深く考えていれば思いついた筈の可能性。相手の戦力を自分達で勝手に決めつけ、返り討ちにあってしまった。

 何故アッガイ側の戦力を疑わなかったのか。そこにはどうしようもない程の心の隙間があった。心のどこかでアッガイを下に見ていたのだ。どこか甘えていた。勝負なのにも関わらず、どこかで舐めていたのだ。軍師として、生徒に指示を出す立場にいる人間として、冬馬と大和は自分達の思考を猛省した。

 思えばアッガイがいつもと違う様子なのは察せた筈。勝負なのにも関わらず勝利した時の【景品】を要求しなかった事はその最たる事だろう。疑問に思っていた、違和感を感じた。しかし思考を止めたのだ。何故か。それこそが油断であり甘えだったからだ。

 

 

「アッガイの抑えに中途半端に人を割いたのは誤りだった。そもそもアッガイでは無かったんだからな。だけどだからと言って今から前線に出た部隊を呼び戻すのは駄目だ。部隊長はまだしも部隊員に余計な不安や焦りを与えるし、何よりも時間のロスが痛い」

 

「そうですね。本来ならばアッガイ鎮圧部隊がアッガイを少しでもこちらに到達する時間を引き延ばして欲しかった訳ですが、最早そうとも言ってられません。部隊を進軍させた訳ですし、全てとは言えずとも天神館の部隊を停止させる事は出来るでしょう」

 

「だな。ここは残りの部隊を再編成して本陣周囲を徹底的に警戒させよう。特に一定以上の武力がある奴は残しておきたい。確実に進軍してくるロボット二体。それと突破してくるかもしれない天神館の奴らに対応する為に」

 

「とにかく進軍してくるロボットをどうにかして、それから再度、残存兵力を前線に送りましょう。ただし前線との連絡は密に。準達ならば大丈夫だとは思いますが、もう油断は出来ません。前線が崩壊すれば天神館が雪崩れ込んでくる可能性がある以上、それだけは避けねばなりません」

 

 

 川神学園が進軍させた実力者は一子、クリス、準、翔一である。本陣にて待機しているのは京、岳人、小雪、心、忠勝、マルギッテ、そして英雄の護衛であるあずみだ。

 本来ならば様子を見てもう一人二人は前線に送りたかったのだが、実力不明なロボットが確実に進軍してくる以上は迂闊に本陣の人員を減らす訳にはいかない。

 川神陣営は正体不明のロボットの警戒の為、弓兵の京を周囲を見渡せる高所へと配置した。弓兵である彼女ならば他の人間よりも視力が高い。そして何よりも冷静である。発見と威嚇、本陣への伝達をスムーズに行えるだろう。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 一方、天神館もまた奇襲したのがアッガイでは無い事を伝えられていた。ただ、川神陣営と違うのは天神館の誇る【西方十勇士】にして副将の島右近が鎮圧に向かったお陰で、飛んでくるロケットの量や発射間隔が激減している事だろう。

 そもそも【西方十勇士】とはなにか。大雑把に言えば天神館の中でも特に秀でた実力者達十人の事である。今回の十勇士は二学年に全員が所属しているが、これはかなり珍しい状態であり、この事から石田達の世代は【キセキの世代】とも呼ばれているのだ。ではこの十勇士、実力はどれほどのものなのか。ハッキリ言えば武力知力共にかなりバラついている。文武両道な者、武力一辺倒な者、知力だけの者、武力も知力も持たず魅力のみで十勇士に名を連ねる者。本当に多様なのだ。

 

 

「ええい! 島は一体何をしているのだ!」

 

「いや戦っているんだろう? 伝令によるとロボットはアッガイという奴では無い、二体だそうだからな」

 

「そういう事を言っているのではない! 天神館副将として、西方十勇士として、何をモタついているのだと言っている!」

 

「ハハハハ、まぁそう言うな! では俺が行ってくるか?」

 

「……そうしたい所は山々だが、長宗我部。お前が出れば戦力になり得る奴が毛利だけになってしまう」

 

「大友も宇佐美も前線に出したからな。鉢屋は相手大将への奇襲準備中。大村はネットで川神学園に侵攻中だし、ロケットが散発的になったから尼子も進軍させたしな。龍造寺は知らんが」

 

 

 天神館が誇る西方十勇士はそのほとんどが本陣を離れており、万が一の為の防衛戦力は残しておかなければならない。本来ならば防衛に適している堅実な島が一番なのだが、予想外に梃子摺っているようで未だに帰還しないのだ。

 本来戦う筈だった川神学園とは本格的な戦闘も行えず、遅々として進まない策。総大将である石田は自身の高いプライドも相まって今の状況に大いに苛立っていた。

 そんな石田の傍で堂々としている男は長宗我部宗男。西方十勇士の一人にしてオイルレスラーだ。西方十勇士の中でも最強の攻撃力を持つと言われており、190cmの身長と恵まれた体格を持つ。半端な人間では相対しただけでも萎縮してしまうだろう。

 副将である島が出ている間、長宗我部は大将である石田の護衛をしていた。本来であれば副将である島が石田の護衛に付き、作戦指示を出すのだ。西方十勇士は性格的にも癖の強い人間ばかりで、まとめ役でもある島が指示を出す事によって最も効率良く動く事が出来る。石田は大将としての能力はあるのだが、如何せん自信過剰、相手を見下す癖があり、人を動かすにはまだ未熟なのだ。

 

 

「……こうしていても埒が空かん。」

 

 

 そう、天神館は現在ゆっくりと、しかし確実に自分達のペースを崩し始めていた。誰もがそんな事とは思わず、考えもせず、だが確実に島の不在が戦闘の、天神館の歯車を狂わせ始めていたのだ。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「国崩しでりゃぁぁぁ!!」

 

「犬っ!」

 

「分かってるわよ!」

 

 

 一方、工場地帯中央。川神学園と天神館の進軍した部隊は既に戦闘を開始していた。進軍した川神学園の生徒を大火力の砲撃が吹き飛ばし、部隊長クラスの戦闘が始まった。

 天神館の部隊長の一人にして西方十勇士、大友焔が【国崩し】と呼ばれる大筒を存分に使用し、砲弾を発射しては爆音を響かせる。狙う獲物は川神学園のクリスと一子だ。二人は焔の砲撃を回避しつつ、自分達の戦闘距離まで接近しようとする。しかしそこは西方十勇士の焔。着弾地点と相手の回避方向を計算し、自分に接近できないように攻撃していた。

 思うように攻める事が出来ないクリスと一子は一度、態勢を整える為、敢えて焔から距離を離す。

 

 

「ちょっとどうするのよクリ。このままだと一方的にやられてお終いじゃない!」

 

「そんな事は分かっている! だが相手は飛び道具。いつかは弾切れになる筈だ。そこを突く」

 

「おぉー、確かにそうね!」

 

「ふふん、伊達に軍人の父様やマルさんの傍に居る訳ではないのだ」

 

 

 少々焦りもある一子。しかしクリスはあくまでも冷静に、どこか余裕すらも感じる声色で自分の考えを伝える。そこに焔の声が響いた。国崩しを構え、攻撃体勢のままだ。

 大友焔は非常に小柄な女子で武器である国崩しは焔の身長により、その大きさをより大きく感じてしまう程。焔の身長は153cm。戦っているクリスが163cm。10cmの差がある。しかしながら焔の威容は身長の小ささなどを感じさせない、西方十勇士と呼べる誇らしい姿であった。

 

 

「どうした坂東武者よ! まさかと思うが弾切れを待つなどという弱腰な戦法を取っている訳ではないだろうな!」

 

「弱腰ですって!?」

 

「騎士たる私が弱腰な戦法など取るものか! これは作戦というものだ!」

 

「はっはっは! まぁどっちでもいいぞ! この付近には既に天神館が補給線を築いている! この大友に弾切れなど無いのだ!」

 

 

 そう言って焔は砲撃を再開する。それを回避して再び口を開くクリスと一子。

 

 

「ちょっとクリ! なに相手にこっちの考えバラしてるのよ!? それに弾切れは無いみたいじゃない!?」

 

「ち、違うぞ! あれは向こうの高度な誘導であって、け、決して私がバラしたのではない! それよりも目の前の事に集中しろ犬!」

 

 

 顔を真っ赤にしながら必死に否定するクリス。一子はまだ言いたい事があったようだが、焔の砲撃の回避に集中し始め、会話は途絶え、砲撃の爆音が再び響き始めた。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 そんな三人の戦闘を少し離れた建物の上。川神学園と天神館の一般兵による戦闘の喧騒を音楽に、見ている者達が居た。言わずもがな、アッガイ達である。

 

 

「ふむふむ、つまりあの大友って子の話によるとあの付近には弾薬やらが大量に貯蔵されている、と……」

 

「三人共なかなかの腕だな。手合わせしたいものだ」

 

「やだー、なんかその言葉凄く格好良いー。実力者っぽい感じがするー」

 

「で、どうするんだ? 乱入するのか?」

 

「いやぁ、僕、基本的に闇討ちとか数の暴力とかそういうので撃破しようと思ってたからさー。真正面からやり合うのはダメー」

 

 

 あくまでも真正面から戦ってみたいズゴックと、楽して勝利したアッガイ。しかしながらズゴック達を生み出したのはアッガイであり、アッガイの意見が通る。アッガイはくるりと後ろを振り返った。そこには同じくアッガイと共に進軍してきた血風連の姿が。

 

 

「チミ達さ。あの付近に弾薬とかあるらしいから、それ全部場所把握してきて。んで気付かれないようにあの三人の付近に置き直して」

 

「? 弾薬を置き直すのはいいが、それなら使えないようにもっと遠くの別の場所のほうがいいんじゃないか?」

 

「そんなまどろっこしい真似をこのアッガイがする訳ないじゃない! 弾はブッパする為にあるんだよ! だからあそこらにある弾薬は全部、僕達が爆破してやるのさ! まさに僕達の力を誇示するような大きな炎を見せ付けてやるんだよ! まさに焔の錬金術師!」

 

 

 こうしてアッガイの指示を受けた血風連は夜の闇に紛れ、補給線の弾薬配置を変え始める。ワクワクテカテカながら、爆破の時を待つアッガイと、どこか残念という雰囲気を出すズゴック。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 一方その頃のゴッグとゾック。川神学園の部隊を撃破して進んでいた彼らは、川神学園本陣の近くにまで歩を進めていた。だがゾックには不可解に思える事が一つ。敢えて兵を一人逃がしたにも関わらず、本陣到達が目前になっても、何の部隊も差し向けられていなかったのだ。

 自分達の力が川神陣営に伝わっているのは明白だし、そもそも伝わるようにした。だが何の反応もない。これは逆に進軍を逆手に取られている可能性が高いとゾックは考える。小規模な部隊を差し向けて中途半端な時間稼ぎをせず、敢えて懐まで飛び込ませて一気に殲滅、なかなかに粋な作戦ではないだろうか。ゾックはそう考えて自分の闘志がふつふつと熱を帯びていくのが分かった。

 兵を逃がしたのはこの何の感慨も抱けないつまらない戦場を変える為だ。真正面からの力と力のぶつけ合いも良いが、策の中に自ら飛び込み、それを喰い破るのも悪くない。

 

 

「いんやぁ、川神の本陣まで敵がいなくて楽だなぁ」

 

 

 どういう状況なのかを全く理解していないゴッグを横目に、ゾックはただ沈黙しながら進む。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「大和、例のロボット二体、もうすぐこっちに到達する距離まで来てる」

 

「分かった。よし、じゃあ単純だが作戦を説明するぞ。これ以上の一般兵の減少は何としても避けたい。中途半端な実力の人間を使わず、敢えて部隊長クラスの人間を全投入して撃破する。ガクト、ゲンさん」

 

「マルギッテさん、小雪、頼みますよ。あずみさんはそのまま英雄の護衛に当たって下さい。天神館にも隠密行動が得意な十勇士がいるそうですし、隙を与える訳にはいきません」

 

「フハハハ、あずみよ、いつも通りに我と共に居れ!」

 

「きゃるーん! 全身全霊をもって遂行させて頂きます英雄様ー!」

 

 

 ゾックの予想通り、川神陣営はゴッグ達を敢えて本陣付近にまで接近させていた。理由としては中途半端な戦力分散を避け、尚且つ確実に二体を仕留める為である。西方十勇士と同じく、アッガイも精鋭を用意していきたのは最早明白。一般兵が減ればその分、作戦行動にも支障が出てしまう。故に一般兵を消耗させずに相手の戦力を削ぐ事が重要なのだ。

 

 

「にょ? 此方はどうするのじゃ?」

 

「……あー、えっと不死川さんも同じく撃破勢に加わってくれ」

 

「忘れられてたねー、心ー」

 

「わ、忘れられてなどおらぬわ! ふん、此方の実力を見せてやるのじゃ!」

 

 

 純粋に存在を忘れられていた心は不機嫌そうに作戦場所へと向かう。すっかり忘れていた大和は苦笑し、忘れられていた事を遠慮なく言った小雪は特に気にした様子もなく笑顔だった。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「うーん、流石にちょっとおかしい気がしてきただよ……」

 

「今更か。だがもう遅い」

 

「んだ?」

 

 

 川神学園本陣直前。流石にこの状況がおかしいと感じ始めたゴッグだった。しかしゾックは既に何かを察知しているのか、視線を上に向けた状態でゴッグに返答する。困惑するゴッグだったが、ゾックの視線の先へと自分も目を向けて、確認した。

 

 

「愛の力で直撃させる」

 

 

――京が先端に爆薬の付いた弓矢を構えているのを。そして放たれる光景を。

 

 放たれた弓矢はまるで吸い込まれるかのようにゴッグのモノアイへと飛翔する。突然の事にゴッグの思考が停止する中、隣にいたゾックはゴッグを守る訳でもなく、粒子砲を放つ準備をしていた。

 

 

「んだぁぁぁぁ!?」

 

 

 直撃。ゴッグは絶叫しながら黒煙に包まれた。そして直撃の爆音と入れ替わるように京に対して放たれる強烈な光の矢。ゾックは最初から攻撃後の京を狙っていたのだ。光の矢もまた、先程の弓矢と同じように寸分違わず京へと向かう。しかしゴッグの時とは違ってその矢が京に当たる事は無かった。

 

 

「イッテェェェェ!?」

 

「ナイスディフェンスだよ、ガクト」

 

 

 そう、ガクトこと島津岳人が京を守ったのだ。攻撃後の無防備な状態から彼女を守るのも彼の役割だった。しかし予想以上の痛みに若干涙目になっている。粒子砲が当たった箇所からは煙が上がっており、服は若干焦げてしまった。

 

 

「アッガイの電撃で慣れているガクトには無意味な攻撃だったね。さすが鋼の肉体。これから攻撃は全部ガクトが受け止めてね」

 

「ふざけんな! アッガイの仲間だからそれなりとは思ってたけど全然アイツより上じゃねぇか! 超痛いんですけど!!」

 

「……身を呈して仲間を守ったか。しかも攻撃を受けきるとは――」

 

「油断は敗北を招くと知りなさい」

 

 

 自身の攻撃を受けきりながらも未だ健在なガクトにゾックが少々の驚きを覚える中、横から凄まじい速度で接近する赤。

 

 

「トンファーコンビネーション!!」

 

「ぬ!?」

 

 

 【猟犬】マルギッテ・エーデルバッハが好戦的な笑みを浮かべながら両手のトンファーを振るう。基本的に移動能力が陸上では大きく低下するゾックはその攻撃に対応しきれず、トンファーが一撃当たる毎に大きく後退しながらバランスを崩す。激しい金属音を響かせ、マルギッテは攻撃をし続ける。時折蹴りを織り交ぜながらの連打は凄まじいの一言であり、傍目からは反撃の機会すら無いようにも見えた。

 しかしアッガイ同様に驚異的な耐久力を誇る今回のMS群。その中でも特に堅牢なゾックには、マルギッテの攻撃の最中でも冷静に反撃の機会を窺っていたのだ。

 

 

「ふん!」

 

「なにっ!?」

 

 

 連撃の途中、最も威力の低いであろう攻撃を予測し、その攻撃に合わせる形でマルギッテの連打を止める。攻撃を止めたのは両手のクロー。アッガイ達のアイアンネイルとは違い、アンカーとしての役割が大きいクローだが、十分に武器と成り得る。反撃の気配を感じ取ったマルギッテはトンファーを前面に構えて防御態勢を取った。

 その様子を見たゾックは自分の体を高速で回転。回転の力で大きなアンカークローはより攻撃力が上がり、マルギッテをガードの上から吹き飛ばした。しかしながらマルギッテも即座に体勢を立て直し、すぐに近くの建物の影へと潜んだ。

 

 

(なるほど、中々にこちらを理解している)

 

 

 ゾックはそう考えた。スペックで考えればゾック達の圧勝は間違いない。強力な攻撃に堅牢な体。真正面からまともにやり合えば地力で劣る自分達が不利な事を理解している。奇襲による一撃離脱に近い戦法。場合によっては一方的にこちらの戦力を削ぐ事も可能なやり方だ。

 

 

「いんやぁ、目の前がドーンで驚いただ!」

 

 

 だがそれでも川神陣営の圧倒的不利には変わりない。何故ならここにはゾックとゴッグ、二体が居るのだから。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「でりゃぁぁ!」

 

「このっ!」

 

「せやぁー!」

 

 

 所は変わって再び工場地帯中央。未だに焔とクリス、一子の戦闘は決着を見せていなかった。延々と続く攻防。三者共に徐々に疲労が蓄積し始めていた。しかし譲れない。ここでの勝敗は戦闘に大きな影響を与える。現状ではどの陣営もまだ部隊長クラスが敗北したという知らせは出ていない。勝てば相手の部隊長を最初に倒したという功が。負ければ相手の士気を大いに上げる事となるだろう。故に負けられない、譲れないのだ。

 

 しかしそんな三人の高まった戦闘意識を一気に急降下させる存在がやってきた。

 

 

「僕、参上!」

 

 

 アッガイである。きっと日曜日の朝に放送すれば人気者間違い無しなポーズを取って、三人を工場の上から見下ろしていた。

 突然現れたアッガイに視線が集まる中、アッガイは「とうっ!」と華麗に回転しながら三人の前に降り立つ。

 

 

「やぁやぁ、頑張っているではあーりませんか」

 

「お前は変なロボット!」

 

「アッガイだよ! なんだよ変なロボットって! 僕程に機械生命体とかそっち系の言葉を体現している存在はいないだろうが! あとゆるキャラとかも!」

 

「そこはモビルスーツと言ったほうが正しいような気がするがな」

 

「!? 貴方誰!?」

 

「俺はズゴック。怪我をしたくなければ退くがいい」

 

 

 アッガイと三人を挟むようにして、反対に現れたズゴックに一子は驚く。しかし焔とクリスには別の疑問が浮かんでいた。そもそも両陣営は飛来物による攻撃で混乱の最中に部隊を進軍。その攻撃の主がアッガイだと断定した状態で、である。両陣営共に攻撃を止める為に部隊は差し向けただろう。しかしならば何故アッガイがここに居るのか。討伐部隊に敗北して逃げてきた、という考えが頭を過ぎったが、目の前のアッガイからは敗北したという雰囲気は全く感じられない。そして隣に居る知らないロボット。

 

 

「まさか……!」

 

「他にもロボットが居たのか!?」

 

「ご名答! 一子君座布団一枚差し上げて!」

 

「え!? ざ、座布団なんてどこにも無いわよ!?」

 

「アッガイのペースに乗るな、犬!」

 

 

 完全に状況を理解したクリスと焔。一子だけはいまいち理解できていないようだが、不味い状況である事は雰囲気で分かったようだった。

 

 

「開幕攻撃を仕掛けたのは僕じゃないよ! 僕と同じ水中の支配者、ジオン軍水泳部の面々さ! 今頃はそれぞれの陣営で大暴れしてくれている筈だよ! フッフー!」

 

「なんだと!? 犬、どうにかしてここを脱して本陣と連絡を取るぞ」

 

「そ、そうね! 皆が心配だわ!」

 

「ふん、坂東武者はまっこと腰抜けよな!」

 

「なんですって!?」

 

「この大友は仲間を信じて突き進むぞ! 相手が攻撃を受けているならば丁度良いではないか。お前達を倒し、その勢いのままに大将を落としてくれるわ! 西は早々に負ける程、軟弱ではない!」

 

 

 そう言うと焔は再び国崩しを構える。本陣を心配し浮き足立ったクリスと一子だったが、焔の言葉に思う所があったのか、瞳に闘志を宿して武器を構えた。それを見て焔も嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

 

「え、ちょっと待ってよ! なにこの疎外感!? ここは僕のオンステージになる感じでしょうよ! なんだ畜生! 新手の虐めか! こうなったら最初からクライマックスだ!」

 

 

 怒りに燃えたアッガイは周囲も燃やそうとボタンの付いた箱を取り出した。これこそが血風連に準備させていた弾薬の爆破スイッチである。弾薬は既に配置し直されており、押せば派手に花火を打ち上げる事だろう。

 

 

「!? 何をするつもりだ!」

 

「ボタン?」

 

「このボタンを押せばどうなるものか、迷わず押せよ……着火!!」

 

 

 その瞬間、弾薬が一斉に爆破され――

 

 

「あーん! アッガイがぁぁぁぁぁ!?」

 

 

――何故かアッガイの下にも弾薬があったのか、空へと飛んいった。

 

 

「…………え?」

 

「…………は?」

 

「……はっ!? お、大友の弾薬が!」

 

「ア、アッガイーーー!」

 

 

 残されたのは呆然とする一子とクリス。弾薬が爆破されてショックを受ける焔。飛んでいったアッガイに向かって叫ぶズゴック。

 

 

「よくも皆が用意してくれた弾薬を爆破してくれたな! 大友の怒りを思い知れ!」

 

「! 犬! 呆けている場合ではないぞ!」

 

「わ、分かってるわよ!」

 

「……予想外の状況ではあるが、これならこれで楽しませてもらうぞ!!」

 

 

 予定外の事態ではあるが、真正面から戦いたいという自分の希望が叶う形となったズゴックはアイアンネイルを三人に向け、攻撃態勢へと入った。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「えいっ!」

 

「せあっ!」

 

 

 一方その頃、天神館の島とアッグガイ、ジュアッグの戦闘はまだ続いていた。本来ならばアッグガイとジュアッグの圧勝に終わるのだろうが、流石に天神館の副将である島は手強い。アッグガイとの接近戦、ジュアッグの援護射撃を切り抜け、未だに決着が付かずにいたのだ。

 

 

「ええい、このままでは御大将に顔向けできん!」

 

「おじさん頑張るね」

 

「ねー。兄ちゃんはどうしてるかなぁー」

 

「おじさんではない! 某は天神館2年だ!」

 

「いやいや、僕達は生まれたばかりと言っても過言ではないもので、僕達からすれば貴方はおじさんと呼んでもしょうがないんですよ」

 

「っていうかやっぱり気にしてたんだー。老け顔ー」

 

「ぐぬぅぅ!?」

 

 

 戦闘ではなく、言葉でダメージを受ける島。しかしながらアッグガイ達が言っているのも正論なのだ。 アッガイ以外のジオン軍水泳部はこの東西交流戦が発表されてから生み出された。とは言っても大元は既にアッガイが用意しており、それを完成させただけではあるのだが。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 異世界侵略という名目で多くの世界を巡ったアッガイは、【仲間】というものの重要性を深く理解していた。決して誰かにボッチと言われたからではない。別にふとした瞬間に疎外感を感じてしまったり、ホームシックになったり、話し相手がいなくて独りで喋っていたら突然虚しくなったりとかそういう訳ではないのだ。ないったらない。

 

 

「よし、ではこの世界に【ジオン軍水泳部】を生み出すとしよう」

 

 

 

 アッガイは自分のアイアンネイルを爪切りで爪を切るような気軽さで一部削り取り、きっと細胞的な物があるのだろうから培養的な感じで育て、あとはとりあえず面倒だから陽向に任せて生み出されたのが、アッグガイを始めとするジオン軍水泳部である。

 性格とかその辺は培養中に声を掛けてそうなるようにした。お花に「綺麗になぁれ」と言って育てると良い、と近所に奥様に教えて貰った知識を利用した形だ。きっと自分の声には彦一と同じように言霊効果があるのだろうとアッガイは推理する。

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

「……あれー?」

 

「どうしたのジュアッグ?」

 

「んー、なんだか天神館の大将が進軍してるみたいー」

 

「な、なんだと!?」

 

 

 ジュアッグが見付けたのは本陣から前線へと進軍している天神館の大将と残りの部隊長。それを聞いて島は大いに驚き、焦った。場合によっては大将が自ら進む事も策としては有り得る。しかしまだ交流戦の序盤とも言えるこの状態で、進軍するのはあまりにも無謀だろう。焦りながらも島は頭の中で考えた。

 

 

(御大将の性格からして我慢出来なくなったのだろう。手段を選ばないという意味では強いのだが、同時に地味で目立たないのも嫌うからな。それもこれもこやつ等を倒して戻れなかった某の失策……!)

 

「なんか考え事してる所にヤーッ!」

 

「ぬおぉ!?」

 

「? 流れ星ー?」

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「き、貴様は!!」

 

「そう、僕こそは【流星のアッガイ】! 人間大砲のアッガイではない!! ちょっと煤が付いてるのは気にしないで!」

 

 

 吹き飛ばされたアッガイと天神館大将、石田三郎が出会った。

 


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