真剣でアッガイになった。【チラ裏版】   作:カルプス

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【第15話】 北斗有情ローリングバスターライフル

「川神学園の生徒?」

 

「うん。義経は通う学園にどんな人が居るのか知りたい」

 

「まぁ私も少し興味あるんだよね。武神も居るし、濃い面子が多いみたいだし」

 

「私も一人だけ学年が違うし、知っておきたいな」

 

「ハッ、どうせ特異点なんて居やしない。誰も俺の孤独には共感する事なんて出来ないのさ」

 

「一人よく分からない事を言っているけどまぁいいや」

 

 

 とある休日の朝。アッガイの部屋には英雄組が勢揃いしていた。要件は【川神学園の生徒について】である。武士道プランの実行が間近となり、本人達にも色々と思う所があったのだろう。英雄組は皆、Sクラスに転入する事になっているが、清楚はそもそも3年だから源氏組とは離れてしまうし、Sクラスは競争必須なクラスである。そこに一抹の不安を抱いてもしょうがないだろう。まぁどこだろうと英雄組は大丈夫とアッガイは思っているが。

 

 

「それじゃあ3年から説明していこうか。だけどアレだよ。個人的にコイツ濃いな、って感じの奴しか説明しないからね? 全員は面倒というか覚えてないし」

 

「お前、一応教員に数えられているんだよな? 覚えてないとか……」

 

「お前は今までに食べたご飯粒の数を覚えているのか? ……そういう事だ」

 

「いやお前――」

 

 

 与一が何か言っているようだが、面倒だったのでそのまま無視して説明に入るアッガイ。どこからか大きな画用紙を取り出し、マジックで何かを書いていく。どうやら話すだけではなく、書きながら説明するようだ。

 

 

「まず3年はこの3人! 川神百代、南條・M・虎子、矢場弓子、京極彦一」

 

「アッガイちゃん、3学年は4人しか説明しないの?」

 

「清楚には悪いけど、3年連中は基本的にもう進路決定状態の奴も多くて意外とまったりなのさ。面白い奴も少ないし」

 

「そっか……」

 

「んじゃ紹介入りますよっと。まず3-Fの3人ね」

 

 

 まずは世界に名を轟かせる武神、川神百代。川神学園では3-F所属。学園内外で風間ファミリーというグループに所属している。若い世代でも特に武勇に優れた人間が推薦させる【武道四天王】の一人。

 ハッキリ言えばチート。説明するにもチート。自他共に認める美少女(内面は除く)である。スタイル抜群で顔は整っていてビームが放てる女子高生ってチートと言う他になんと言えばいいのか。唯一の救い(?)は内面が酷い所だろう。

 基本的に弟分である直江大和にじゃれついている。風間ファミリーが有名な最たる理由も彼女。しかしこれまでに自分よりも弱い、情けない男ばかりを見てきたせいか好みが女子に傾倒。街中でナンパした女子に食べ物を奢って貰ったり、食べさせて貰っているのをよく見掛ける。

 基本的には暴君。しかし一応の良識は持っている模様。アッガイがお気に入りのようで、見付けると強制的に抱きついてくる。いつか強制猥褻で訴えてやるとアッガイは計画中。

 

 

「武神かぁ。映像で見た事あるけど確かにチートだよねぇ」

 

「うん。義経も見たけど、未熟な義経ではどこまで戦えるか……」

 

「というか別に無理に戦わなくていいだろ。まぁやるんなら止めはしないが俺を巻き込む――」

 

「与一、まさかと思うけど自分はスルーするとか思ってないよね? 主君を守るのが家臣の役目だよね?」

 

「お、おう! 当たり前じゃねぇか! だから姉御、その明らかに俺に向かってきている手を引いてくれ!!」

 

「不本意だけど、まだ僕の説明中だから抑えておくれ弁慶さんや」

 

「……まぁそうだね」

 

(た、助かった)

 

「あ、清楚は気をつけなよ。絶対に胸とかお尻を触ってくるだろうから」

 

「えぇ!?」

 

「なーんか武神っていうかエロ親父みたいだよね」

 

「で、でも武神は武神だぞ、弁慶」

 

 

 アッガイの説明に清楚は顔を赤くし、弁慶は想像していた武神と違ったのか呆れ顔で川神水を飲んでいる。そんな弁慶に武神は武神である、と油断しないように言っている義経。与一は未だに弁慶の躾から逃れられた事に安堵していて黙っている。

 

 

「んじゃ次、サクッといくよー」

 

 

 3-F所属。南條・M・虎子。川神学園生徒会会長。骨法部部長。頭になんかでかいアクセサリ的なのを着けてるので一発で分かる。なんか見てると人生楽しんでるな、って感じがする(アッガイ談)。滅茶苦茶元気が良い。その割にはアクセサリ製作が趣味で、彼女のアクセサリは数ヶ月待ち状態である。

 

 

「生徒会長。きっと凄い人なんだろうな。人の上に立つ人間として義経も見習う所があるはずだ」

 

「いや、義経。虎子はなんていうか、運が味方したような感じで生徒会長になっただけだから……。いや人気はあるのよ。ただまぁ当選するとは思ってなかったというか……」

 

「そ、そうなのか?」

 

「発言も結構ぶっ飛んでる時が多いしね。良い子なんだけども。んじゃFクラス最後の紹介だよー」

 

(いやよく考えたらアッガイよりもぶっ飛んでるとか、かなりやばい奴なんじゃねぇか……?)

 

 

 3-F所属、矢場弓子。川神市の特徴として挙げられる武士の系譜を受け継ぐ子孫の一人。名は体を表すというが、その名の通り川神学園でも弓道部の部長を務めている。眼鏡さん。常識人と思われる。ただし裏がある模様。語尾に『で候』と付けているが、時々言い忘れたり明らかに素と思われる話し方をする為、キャラクラー作りなのではないかとアッガイは推理している。

 

 

「ちなみに弓ちゃんは僕にも優しいのでとても評価が高いよ! 常識人最高!!」

 

「ふーん、弓使いだってさ。与一どうよ?」

 

「どうもこうもねぇよ姉御。興味も無いしな」

 

「でも与一、同じ弓使いなんだから……」

 

「立ち塞がるなら射るだけの話だ。まぁ特異点である俺をそいつが捉えられるかは知らんがな」

 

「まぁ確かに弓ちゃんは天下五弓では無いし、実力は与一のほうが上なんじゃないの。人間性は圧倒的敗北だがな!!」

 

「うるせぇよ!」

 

「そういや天下五弓なんて称号も出来た事、すっかり忘れてたよ」

 

 

 【天下五弓】。若い世代の、簡単に言えば武道四天王の弓使い版である。天下五弓と言うように人数は5人。しかしこちらはつい最近になって作られた称号であり、どこの誰が天下五弓なのかはまだちゃんと認知されていない。与一も天下五弓とされてはいるが、称号を設立した川神鉄心すらも与一の事を知らないのだ。これはまだ武士道プランの情報を、川神鉄心と言えども教える事は出来ないという判断がされた結果である。

 では何故それにも関わらず与一は天下五弓として数えられているのか。それは鉄心と知己であり好敵手であるヒュームが推薦したからである。いまだに凄まじい戦闘力を誇るヒューム・ヘルシング。その彼が天下五弓に相応しいと判断する人材だ。下手な人間の推薦よりも遥かに信頼でき、価値がある。

 

 

「2年にはもう一人天下五弓に数えられている子も居るよ。まぁそれも3年のが終わったら話すけどさ」

 

「ふーん。やっぱり良い人材が集まるんだね、川神学園って」

 

「先代の武神である鉄心氏が運営する学園だからねぇ。遠くから入学してくる子も居る位だし。んじゃ3年最後は京極彦一。通称ひこにゃん(アッガイだけ呼称)だよ!」

 

 

 京極彦一。川神学園3-S所属。イケメン四天王の一角である。文系硬派のハイパーイケメン。川神学園では多額の援助等をすると許可される私服で通学しており、常に和服。趣味は人間観察で、言霊部という部活に所属している。実家は提灯屋。

 

 

「3-Sって事は私のクラスメイトになるのかな?」

 

「そうだね。ひこにゃんは言霊使いだから中々にレアな存在よー」

 

「言霊使い?」

 

「ひこにゃんが意識して何か言葉を発するとね、催眠のような効果が出てくるのさ」

 

「??? アッガイ、義経はよく分からないぞ」

 

「まぁそうだねぇ。例えば、ひこにゃんが『動くな』って意識して言葉を発し、それを聞くと本当に動けなくなっちゃうのさ」

 

「おー、それは凄いねぇ」

 

「言葉だけで動けなくなってしまうのか! 義経は驚きだ!」

 

「ハン、そんなもんは精神力の無い弱者だけにしか効かねぇって相場が決まってるんだよ」

 

「ところがどっこい、ひこにゃんのはかなり強い言霊なんだな。百代も怖がるレベルを与一は耐えられると?」

 

「う、うるせぇ。やってみなきゃ分かんねーだろ!」

 

「まぁいつか聞く機会もあるでしょ。その時に耐えられなかったら罰ゲームね、与一」

 

 

 実際には百代が怖がるのはある系統の言葉だけなのだが。まぁ弁慶の言葉に顔を蒼くしながら震えているようでは与一にも効果は出るだろうとアッガイは思った。

 

 次は2年の生徒の事を話そうかなーとか思ったアッガイだったのだが、英雄組は清楚が3年、源氏組は2年である。つまり1学年の事は別に紹介しなくてもいいかなと考えた。が、紹介しなければならなくなる理由がやってくる。

 

 

「フハハハー! 我、参上である!」

 

「おや、紋白と……」

 

「俺が居るのが問題だとでも?」

 

「ソンナコトナイヨ、ヒュームシ」

 

 

 アッガイの所に紋白とヒュームがやってきた。若干怯えた視線をヒュームに向けたアッガイだったが、ヒュームの威圧感の前に泣く泣く、しかしかなり頑張って粘った感じを醸しつつ問題ない事を伝える。

 紋白はアッガイ達の近くにやってきてこれまで説明するのに使われた画用紙を「ふむふむ」と眺める。特に川神百代のをよく見ていた気もしたが、すぐに視線をアッガイに変えた。

 

 

「アッガイ、我にも川神学園の生徒を紹介してくれ!」

 

「紋様も英雄組と時を同じく、川神学園へと入られる。データは俺達が集めたが、実際に学園に居るお前から直接聞きたいとの事だ」

 

「うん。いいよ。でもヒューム氏はホラ、忙しいじゃない。紋白への説明は僕がしておくからさ。その間はステイシーとかコナーとかステイシー・コナーとかを鍛えてあげなさいよ」

 

「お前は俺をどこかに行かせたくてしょうがないようだな?」

 

「そんな事ないよ! 僕が一撃で十割持っていくヒューム氏をどこかに行かせたいだなんて思っている筈がないではありませんか! でもホラ、やっぱり生徒紹介とかヒューム氏も聞いててつまらないでしょう?」

 

「俺も入学する以上、情報は多くあった方がいい。それがお前からの情報であったとしてもな」

 

「…………ん? 今なんか黙示録の始まりみたいな言葉があったような」

 

「フハハッ! アッガイ、ヒュームも我の護衛として川神学園の生徒になるのだ!」

 

「ハルマゲドン!!」

 

 

 アッガイ滅亡のお知らせである。一体誰が金髪不良老執事が川神学園に入学するなんて予想できるだろうか、いや不可能だ。最近の中では一番の衝撃を受けたアッガイ。頭の中には【辞表】が延々と浮かび続ける。最早川神学園は修羅道となった。生命の危険がある。学園に入ったからと言って十割攻撃を自重するだろうか、いいやしない。

 

 

「……一身上の都合で――」

 

「あまりふざけた行動をしようとするなよ? すればお前が考えている事よりも更に悪い方向に進むぞ?」

 

「一生懸命お勤めします」

 

 

 最早牢獄である。川神学園での居場所が破界され、ちょっと経ったら再世し、そしてまた時獄がやってきて遂に天獄に行く事になるのだろう。呪われし放浪者である。どこかに呪印でもあるのではないだろうか。

 

 

「さっさと紹介をしろ。紋様の時間は限られているのだ」

 

「一気に生きる希望がなくなったけど、まだ死にたくは無いので続けます。次は一番紹介人数の多い2学年ね」

 

 

 まず今の2年の特徴として、学園でも屈指の濃い面子が揃っている事が挙げられ、更にSクラスとFクラスの仲が非常に良く無い事も挙げられる。何故このような状態になっているのかは色々な理由があるのだが、とりあえず生徒の紹介に入ろう。義経達が入るのはSクラスなので、Sから先に紹介していく。

 

 

「とりあえず英雄とあずみんは知ってるし抜かしていくねー。2-S所属組からいくよー」

 

 

 2-S所属で有名なのは英雄だけではない。葵冬馬。葵紋病院院長の子息であり、イケメン四天王の一人。眼鏡イケメン。完全知能派。Sクラスの中でも良識を持った人物で、Fクラスへの態度も柔らかい。通称、葵ファミリーと呼ばれている井上準、榊原小雪との三人組での行動が多く、この3人は基本的にFクラスへの態度が柔軟である。

 井上準。葵紋病院副院長の子息。ハゲ。ロリコン。性犯罪者予備軍。ここまで悪口のようではあるが、事実である。意外と武力はあるが、意外なレベルというだけで武士娘のレベルには遠く及ばない。彼にかんしては後でヒュームに【紋白に対する最大の危険人物】として報告する予定のアッガイである。

 榊原小雪。真っ白。髪もロングなのでより白さが際立つ。どこぞの洗剤もビックリなレベル。発言や行動から誤解されがちではあるが、立派なSクラス生徒であり、勉学はFクラスよりも遥かに上。脚力に素晴らしい才能があり、蹴りに関しては修行すれば壁を越えられるとアッガイは思っている。ただし、脚の能力を磨き始めた理由が『昔見たゾズマの蹴りが凄く格好良かったから』というのには、さすがのアッガイも激情を思いのままに叫ぶしかなかった。

 

 

「小雪はアレね。昔に僕とゾズマが色々やった時の子ね」

 

「あの時の赤子が立派になったものだな」

 

「うむ、真っ直ぐに成長できたのはアッガイとゾズマのお陰であろう! さすがであるぞ、アッガイ!」

 

「紋白だけは僕の価値を分かってくれる! キャーモンサマー!」

 

 

 続いて紹介するのは不死川心。ぼっち。3年の京極彦一と同じく私服での登校許可がされており、常に高価な和服。日本三大名家である不死川家のご令嬢。家柄が良いので大抵皆を見下している。だからぼっち、一人ぼっち。友人と言える人間を見た事がない。だが基本的にへたれなので、皆から温かい目で見られる事も多い。ロリコンハゲとか特に。ただし、Fクラスは『山猿』と言って滅茶苦茶見下しているので仲が悪く、Fクラスも不死川が嫌いな人間が多い。意外と柔道が強い。でもぼっち。

 

 マルギッテ・エーデルバッハ。トンファーさん。明らかに年齢はアレだけど、学長が気にしないならもう何でもOKなんだと最近アッガイは知った。でもヒュームの入学は無いだろうと本気で思っているが口には出さない。

 彼女はドイツ軍に所属しており、【猟犬】という二つ名がある程に有名である。しかしながら上司であるフランク・フリードリヒ中将の指示により、中将の娘であるクリスティアーネ・フリードリヒの護衛の為、川神学園に入学。しかしながら護衛としながらも同じクラスではないので、おそらく見守る的な立場なのだろうとアッガイは予想している。中将共々クリスに甘い。あと戦闘狂。亜種百代。スタイルも良くて美人なのだが、他の面で色々と台無しなので人気はあっても言い寄られたりはしていない模様。『あれ、ここも百代と被ってね?』とかアッガイは思った。

 

 

「マルちゃんは英雄組には突っ掛かってくるかもね。戦闘狂だから。いやまぁそれ言ったら百代とか他の人間もそうだろうけど」

 

「えー、めんどいなぁー」

 

「英雄組は本格的な決闘に関しては制限がかかる。川神百代など特定の人物との決闘は九鬼の許可が無ければする事は出来ない」

 

「おぉ、ラッキー」

 

「ただしそれなりには力を示して貰わねばならない。分かっているな? 弁慶」

 

「うへぇ……」

 

 

 ヒュームの言葉に項垂れる弁慶。強者との戦闘は九鬼で制限するが、それ以外の決闘はしてもらうという事だ。勿論、本人の自主性に任せる部分は大きいが、全く受けないというのは駄目という釘を刺されてしまった。

 

 

「なんか一人テンション落ちてるけど続けるよー。次は2-Fだけど、多いからサラッとね」

 

 

 2-F。所謂濃い面子が多く集まるクラスである。基本的には勉学に不真面目だったり、何かしらの癖が強い人間がよく集められるクラスだ。この不真面目さや授業中でも好き勝手に騒ぐ自由さが、Sクラスの生徒達の多くがFクラスを嫌いな理由でもある。Fクラスにも例外はいるのだが、大半が当てはまってしまうのでしょうがないと言えばしょうがない。

 

 そんな2-Fを纏めるクラス委員長が甘粕真与である。身長149cmと非常に小柄な彼女。Fクラスでも真面目な彼女は、お姉さん的な立場としてクラスを纏めようと日々頑張っている。そんな彼女にどこぞのロリコンハゲがご執心なのが不憫でならない。

 しかし彼女の親友として小笠原千花がガードに入るのでまだ問題は起きていないようだ。小笠原千花は学園内でも屈指の人気を誇る女子である。性格は明るく、ファッションにも詳しい為、クラスのアイドル的な存在だ。一部男子とは非常に仲が悪い。実家は仲見世通りにある和菓子屋。見た目や言動から遊んでいるような印象も受けるが、ちゃんと店の手伝いをしている姿は多く見かけられる。

 川神学園でイケメン四天王、エレガンテ・クアットロと呼ばれる4人が居るが、その内、二人は2-F所属だ。片方が源忠勝。2-S担当の宇佐美巨人の養子であり、宇佐美代行センターの跡継ぎでもある。言葉遣いに少々乱暴な所があるが、基本的に相手を思い遣る非常に良い青年だ。島津寮に住んでおり、アッガイが行くとお茶とかお菓子をくれるのでアッガイは大好きである。昔、孤児院で川神一子と一緒だった事から仲が良い。

 

 羽黒黒子。黒い。レスラーの娘。

 福本育郎。猿。カメラ持ってる。公認助平野郎。

 熊谷満。大きい。食べ物くれる。

 大串スグル。貧弱眼鏡。二次元に生きる男。

 

 

「えーっと次は……」

 

「ア、アッガイちゃん? なんだか4人が凄く短く説明されたけど……?」

 

「いやもうこれが全てだね。というかもう面倒臭くなってきました正直」

 

「おい」

 

「いやだってちょっと待ってよヒューム氏。今更だけども必要最低限の事だけ教えて、あとは本人達が自分で相手を見定めたほうがいいんじゃないかとか思ったんですよ僕は」

 

「……その言葉、言い訳ではないだろうな?」

 

「何を仰いますか僕がヒューム氏に言い訳した事なんて結構あるかもしれないけど今回はもしかしたら違うかもしれないじゃないですかー!!」

 

「ヒューム。アッガイの言葉にも一理ある。こちらから頼んでやってもらっている以上、今はアッガイのやりたいようにさせようではないか」

 

「キャーモンサマー!」

 

(……紋様はアッガイに甘過ぎる。だがしかしそれほどまでに信頼しているという事なのだろう)

 

 

 紋白の言葉でヒュームは黙ったが、どこか複雑そうな表情を一瞬だけ見せ、すぐにいつもの不敵な表情に戻った。それを見た人間は居ない。誰もがヒュームの些細な変化を捉える事は出来なかったのだ。

 

 

「2年の最後は風間ファミリーっていうグループに入ってる面子だけだから軽く紹介していくねー」

 

 

 まずリーダーの風間翔一。特徴として頭にバンダナを巻いている奴と記憶すればいい。冒険家を目指しており、行動力は異常。結構な確率で危ない橋を渡っているのだが、持ち前の幸運チートで危険を回避している。イケメン四天王に数えられているが、本人に性的興味が皆無。デートのお誘いを【食事を奢ってくれる】と勘違いする事は多い。

 

 直江大和。知能派。仄かに与一と同じ雰囲気を持つ。武力よりも知力を好んでおり、頭脳と人脈で勝負している。本来ならばSクラスに入れるレベルなのだが、人脈構築やその他の理由でFクラスに。ヤドカリマニアで、ヤドカリに関しては変態レベル、というか変態になる。両親は海外で生活しており、父親はかなりやり手のファンドマネージャー。名前は直江景清。母親は昔、神奈川北部を仕切っていた暴走族。名前は直江咲。大和の顔は母親似である。ヤドカリ好きも彼女から大和へ受け継がれた。

 

 椎名京。昔ちょっと色々な事があり、なんやかんやで大和にガチで惚れている女の子。家が椎名流弓術という弓のスペシャリストであり、天下五弓にも数えられている。仲良くなればそこそこに話すが、それ以外には非常に素っ気無い。

 

 川神一子。川神百代の義妹。武器は薙刀。元気一杯天真爛漫。犬のように人懐っこく従順なのでワン子とも呼ばれる。姉に少しでも近付きたいと一生懸命に鍛錬し続けているのだが、アッガイとして姉のようにはなって欲しくないと思っていたり。なんか武道家としては尊敬されるんだろうけども、女性としては残念な感じがあるからだ。一度、ワン子にそれを言った事がアッガイにはあったのだが、気配を隠して近付いていた百代に聞かれて大変な目にあった。

 

 島津岳人。ガクト。筋肉馬鹿。露骨な助平。パワーはある。パワーしかない。パワー。女性と会話をすれば悉くが自分を格好よく見せようとするばかりで全くモテない。しかしながら年下からは人気がある。だが本人は同年代以上が好みの範囲なので、どうでもいいらしい。かなり損をしているが『アイツは損したままでいいや』とアッガイは思った。故に何もしてあげない。

 

 師岡卓也。ツッコミ役。大和に次ぐ常識人。運動系は得意ではないが、パソコンやゲームなどには強い。引っ込み思案で大人しいタイプ。最近、実は女装させると凄い事が判明。そんな彼にガクトが露骨に優しくし始めた為、そろそろ本気でガクトにお仕置きしなければならないとアッガイは思っている。

 

 クリスティアーネ・フリードリヒ。ドイツのリューベックから交換留学で川神学園に来た。日本に対して色々と勘違いしている外国人さん。真っ直ぐ過ぎる思考なせいで策略好きな大和と喧嘩する事も多い。武器のレイピアはかなりの腕前である。簡単な嘘にも騙される事がある愛すべき馬鹿。しかし彼女の背後にいる父親とか猟犬が怖くてキツくは言わない。自分の安全第一がアッガイクォリティ。

 

 

「はい、これで2年はお終い」

 

「いやーなかなかに面白いのが多いんだね」

 

「だ、大丈夫だぞ弁慶。義経達だってちゃんとこの人達と同じ学び舎でやっていける」

 

「なに、義経? 話聞いて緊張してきちゃった?」

 

「そ、そんな事はないぞ!? だけど仲良く出来るかな、と思ったんだ……」

 

「ハン、英雄がビビッてちゃ――」

 

「……」

 

「い、いや。まぁなんとかなるんじゃねぇか?」

 

「! 与一……。そうだな! 何事も恐れず進んでみる事が大切だ!」

 

 

 明らかに弁慶の睨みで言葉を変えた与一だったが、義経は自分を慰めてくれたと勘違いしたようである。与一はまだ弁慶に怯えていたが、結果オーライという事で許して貰えたようだ。弁慶の視線から力が無くなり、与一は安心から溜め息を吐いた。

 

 

「次はいよいよ1年であるな!」

 

「……しっかりやれよ?」

 

「いや先に保険というかですね、言っておきますが1年で紹介するのは二人だけですよ? だからしっかりも何もないんですよ? いや当然しっかりとやりますがね!」

 

 

 なんだかヒュームの視線が痛くなってきたアッガイは、すぐに紹介を終えて逃げ出したい気分である。

 

 1-C所属。黛由紀江。剣士。北陸から川神にやってきた。相棒に九十九神の松風。腹話術ではないらしい。笑顔が苦手で、彼女の笑顔は人に恐怖を与える。剣の腕前はかなり凄いらしい。アッガイは彼女の本気を見ていないので分からないが、百代曰く『相当な腕』との事なので凄いのだろう。現在は友達を増やす事を目標にしている。

 1-S所属。武蔵………………

 

 

「どうした?」

 

「いや、なんか名前が思い出せなくて。武蔵小山? 武蔵小金井? 武蔵嵐山?」

 

「なんでそんなに駅の名前ばっかり出てくるんだ!?」

 

「フハハ! おそらくアッガイが言おうとしているのは武蔵小杉であるな!」

 

「おお、それそれ! ってなんで紋白が知ってるの?」

 

「紋様は事前に入るクラスの名簿をご確認している」

 

「他にも趣味や得意な事など、クラスメイトとなる人間達の事は頭に入れているぞ!」

 

「さすが紋白、そこに痺れる憧れるぅ! でも僕の説明要らないような気もしてるぅ!」

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 大分時間の掛かった生徒紹介も漸くの終わりを迎え、義経達はそれぞれの部屋へと帰っていった。しかしながら何故か部屋に残る人物が一人。

 

 

「え、なんで帰らないのヒューム氏」

 

「まぁそう嫌がるな。ちょっとした話だ」

 

 

 話。ヒュームのする話とはなにか。アッガイの脳裏に様々な記憶が蘇る。おふざけ、十割。悪ふざけ、十割。悪戯、十割。なんか常に十割削られてブラックアウトしている気がする。

 

 

「お前も随分と紋様に信頼されたと思ってな」

 

「それって良い事じゃない! やめて! 十割削らないで!!」

 

「お前がふざけた事をしなければ俺とて画面端に叩きつけたりせんさ。まぁ最近では大分大人しくはなってきたようだからな。以前に比べれば、だが」

 

「……えっとそれはつまりどういう事ですかな?」

 

「そのまま真面目にやっていけよ、という事だ」

 

 

 それだけ言うとヒュームはアッガイの部屋から去っていった。残ったのはポツンと現状が理解できていないアッガイだけである。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 生徒紹介を終えた日の夜。アッガイは一人、BARへとやってきていた。しかし今のアッガイの状態は非常に面倒なものである。

 

 

「ゴキュッゴキュッ……ゲフゥゥゥ!」

 

「お客さん。少しはペース抑えたらどうですか?」

 

「酒! 飲まずにはいられない!」

 

(九鬼から酒は飲ますなって言われてるから、それっぽいジュースなんだけどね)

 

 

 アッガイは荒みながらも考えていた。ヒュームに言われた言葉の意味を。『そのまま真面目にやっていけよ』とは一体どういう事なのか。あのヒューム・ヘルシングが、アッガイに、真面目にやれと言ったのである。しかもかなり大人しく。

 分からない、そんな思いがアッガイの頭の大部分を占めていた。考えが纏まらないので、息抜きにボンヤリとしながらバーテンダーの仕事振りを観察してみる。無駄の無い動きだ。全てが川の流れのように自然に見える。激流を制するは静水。

 

 

「……この動きは……ハッ!? ト、トキ!?」

 

「私は魚沼って名前ですけどね」

 

 

 瞬間、アッガイに発想の雷が落ちた。トキと言えば有情。優しさである。まさかまさかで真っ逆さまであるが、アッガイはヒュームに同情されたと考えた。

 

 

「だってあのヒューム氏がだよ!? これまで肉体言語で一発な感じのヒューム氏がだよ!?」

 

(うん、とりあえず聞き流そう。それが俺の作戦)

 

「これはつまり『お前はその程度』と言われたも同然なんだよ! キイィィィィ!!」

 

 

 アッガイの考えを纏めるとこうである。

 

 お前最近大人しいな。まぁお前なんてそんなもんだろう。無理すんな、そのまま真面目にやれよ。

 

 

「しくじった!! この僕が説明役のような事をしてしまったせいだ!! こんな、明らかに物語だと最初の頃に記述されるであろう紹介を! 事もあろうにこの僕が!! 阿呆みたいに長ったらしく!!」

 

(何言ってるか分からないけど黙っておこう)

 

「知らず知らずのうちにまた自重してしまっていた!! 昔程エキセントリックな出来事が無いせいで僕の想像力は大きく低下していたのだ!! それがあんな、ナレーターがする紹介みたいなのをしてしまう原因になった! 結果としてヒューム氏に僕の天井を、限界を見せたような形になってしまったのだ!!」

 

 

 アッガイは出されたアルコール(実際はジュース)を一気に飲み込む。そしてドンッと少々強めにカウンターへと置いた。

 

 

「僕はチートキャラだったんだ! やろうと思えば何でも出来る! そう、それすらもちょっと忘れていた! このままではヒューム氏、いや九鬼従者部隊の連中全員に『アッガイはあの程度』なんて思われてしまう!! おかわり!」

 

「お客さん、飲み過ぎでは?」

 

「このままでは終わらない! 終われない! 機会を見てアッガイがアッガイである事を、今一度知らしめてくれる! 人々の記憶に刻み込んでやる!!」

 

(話聞いてない……)

 

 

 夜は更けていく。ヒュームの言葉がアッガイに危機感を植えつける結果となったが、ヒュームとしては珍しく素直に褒めただけだった。あまりにも珍しい。その事実にアッガイは言葉の裏を探ってしまった。そして勘違いしてしまったのだ。それが後に凄まじい混沌を呼び込む事を、ヒュームも、他の人間も、知る由も無かった。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「ジオン宇宙の支配者。僕こそ最強。見事超えてみせよ!!」

 

 

「オラはゴッグだべさ!」

 

 

「……ゾック」

 

 

「こんにちは! 僕はアッグガイです!」

 

 

「ジュアッグだよー」

 

 

「俺はズゴック。怪我をしたくなければ退くがいい」

 

 

 

 東西交流戦。2年の部は混沌と化した。


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