【第1話】 九鬼ビルで僕と握手!
皆さんは【アッガイ】という存在をご存知だろうか。
アッガイ (ACGUY)。それはTVアニメ機動戦士ガンダムにて登場したモビルスーツ――以下MS表記――である。物語の敵側であるジオン公国にて開発された量産型水陸両用MS。焦げ茶色とクリームブラウンの機体色に、丸みを帯びたボディが特徴だ。頭部にはモノアイレールがあり、横方向全周囲と上方向に設置されている。タコのような口があったり腕が伸びたり、当初は設定自体が曖昧だったりと、まだまだ語るべき部分は多いのだが割愛させていただく。
ところで何故このような話をするのか。それはとある一人の青年の事を語らなければならない。
ある世界に一人のアッガイ好きな青年がいた。世代的にはガンダムシリーズで言う所のSEED世代だったのだがゲームなどでアッガイを知って、それからアッガイ好きになったのだ。
まぁそんな事はそう重要ではない、何故ならその彼は今――
「やだ……なにこれ……」
――アッガイになったからである。
◇◆◇◆◇◆
「現実逃避を始める前に言っておくッ! 俺は今、アッガイをがっつりと体験している。い、いや……体験しているというよりは、もうアッガイそのもので、まったく理解を超えているのだが……。
あ、ありのまま、今、起こった事を話すぜ! 俺は大学を出てバイトに行き、家に帰って寝たと思ったら、いつのまにかアッガイになっていた。
な、何を言っているのか分からねーと思うが、俺も何が起きたのか、分からなかった……。
頭がどうにかなりそうだった……。ドッキリだとか夢オチだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わっているぜ……!」
「素晴らしい! こんなに流暢かつバラエティに富んだ会話が出来るとは! これで九鬼に――」
「ウルサイ!」
「ぎゃふ!」
アッガイは混乱している自分の横で何やら騒いでいた白衣の男の腹を殴りつけた。白衣の男は少し空中を飛んで数メートル先に落下して気絶。しかしアッガイは心底どうでも良かったのだ。
と言うのも、アッガイは先程の白衣の男に起こされた。寝ぼけたままのアッガイはそのまま目の前にあった大きな鏡を見る。最初は目の前に等身大アッガイが居ると一気にテンションが上がったのだが、すぐに鏡だと気付いておかしい事に気付く。【自分】はどこに映っているのか。目の前の鏡にはアッガイ。しかし自分が見ているのだから自分が映らなければおかしな事になる。
腕を動かせば鏡のアッガイも全く同じ動作をした。サタデーナイトな感じにポーズをとってみても同じ。ふと不安になって下を見てみる。ずんぐりむっくりで機械的で焦げ茶色とクリームブラウンな体が目に入った。手を見てみる。アイアンネイルだった。
(あるぇー?)
◇◆◇◆◇◆
アッガイは取り敢えず状況を確認してみる。まずこれが夢であるという可能性。そこらへんの壁に向かって結構本気で頭突きをしてみる事にした。
「ふんぬ!」
壁が凹んだ。
「壁さん、ごめんなさい」
次に恐らく違うと分かっている事なのだが、一応、後ろにファスナーが有るのかを確認してみる。
「……デスヨネー」
無かった。
◇◆◇◆◇◆
「ふん、むん」
青年だった存在は数十分でアッガイという新しい体に完全に慣れていた。何故か自分の本当の名前が思い出せないが、そこまで重要じゃない気がしたので深く考えない事にしている。今は鏡に向かって様々なポージングをしている途中だ。ちなみに気絶している白衣の男は後ろ手に、近くにあったビニール紐で縛って部屋の隅に放置してある。
「なんだかこうまで慣れ親しんだように動けると、今までのが全部夢で本当は自分が人間じゃなくてアッガイなんじゃないかと思ってしまう……。いやもしかしてホントにそうなのか? いやでもしかし、このサイズのアッガイって……。いやしかしなんか自分の性格とかも変わって……」
「……う……?」
「あ、起きそう」
気絶していた白衣の男の意識が戻ったみたいなのでアッガイは男の目の前まで移動した。まだハッキリと覚醒しないのか、寝ぼけたような視線をアッガイに向ける白衣の男。しかし事は一刻を争うのだ。アッガイにとって。
「ねぇ起きてー」
「あひん」
男に容赦なくビンタを浴びせるアッガイ。伸縮自在の腕のしなりもあり、その威力はかなりのものなのだが、気にしないでビンタし続ける。それによって白衣の男の顔が真っ赤になったとしても。
「ねぇ起きてー、ねぇ起きてー」
「ごっ、ぐぇふ」
明らかに別の意味でもう一度眠りそうな白衣の男を、アッガイが気にせず殴る。しかしさすがに命の危険を感じたのか、白衣の男が必死に声を出す。
「起きてブッ! 起きへリュッからっ! やめヴェッ!」
「あらホント」
漸くアッガイを止める事に成功した白衣の男は、息も切れ切れに説明をし始める。早くしないと再び攻撃されるのではないかという不安が強烈に頭を支配していたからだ。
◇◆◇◆◇◆
白衣の男の話によると、アッガイの本当の名前はコミュニケーション護衛ロボ・アンタレスという事。しかしどう見てもアッガイだろうという本人の強い物理的な訴えもあって名前は正式にアッガイになった。身長は130Cmである。イマイチ想像が出来ない人はリアルドラ○もん人形で検索してみよう。体型もほぼ変わらない。
「大体なにさコミュニケーション護衛ロボって。コミュニケーションを護衛するの? 仲睦まじく話している二人の人間の所に入り込もうとする別の人間をボコボコにするの? ねぇなんなの? 馬鹿なの? 死にたいの?」
「ちっ違う! コミュニケーションも出来て主人を護衛する事も出来るロボットという事だ!」
「だったらコミュニケーション兼護衛ロボとか言えよ! イラっとしたからもっかい殴る!」
「理不尽!」
体を両手で抱き締めて震える白衣の男。ふとアッガイは、この白衣の男の名前を知らない事を思い出す。正直、アッガイにとっては至極どうでも良かったのだが、これからも『お前』とか『オイ』とか呼ぶ訳にもいかなくなると思ったので、極めて遺憾ながら聞く事にした。
「お前の名前は?」
「な、何故、アイアンネイルを出しながら聞くの……」
「え、無駄にかっこいい名前とかだったら殴ろうと思って。いいから早く言えよ、切り裂くぞ」
「いっ、石動(いするぎ) 陽向(ひなた)です。……なんか自然に敬語に……」
「……うーん……。まぁいいか。良かったね。名前だけは素晴らしいと思うよ」
「あ、ありがとう……」
◇◆◇◆◇◆
石動陽向。170Cmの細身でメガネ付き。顔だけは整っているものの、髪や服装には無頓着なようで、正直に言えば汚い。白衣はオイルなどで汚れており、髪も整えずにいるのかボサボサである。
そんな陽向の話をまとめると、そもそも脱サラしてロボットを作り始めたのが始まりだ。自分でロボットを作るのが夢だったそうなのだが、そこそこの大学を出たもののロボットを作っているような企業に入れず、入れたとしても自分の作りたいロボットとは違う物ばかりだったという。
そこで陽向は貯金をしてどうにかこうにか自力でやっていける目星がついた時点で会社を辞め、アッガイを作り出したのだ。もっとも、アッガイを作った時点で彼自身の貯金はほとんど無くなっており、これからこの先の資金確保へと動き出そうとしていた。アッガイからすればそこそこの若さで、ロボット一体を作れる金額が手に入っているという事実に、ちょっとこの世界の金銭価値が気になったが。
「んでその資金調達の元が九鬼財閥ってトコだと」
「そうなんだ。あそこは実力が高く評価されれば受け入れてくれる。それに工業関係の部門には前の会社の時に交渉した事のある顔見知りも居るんだ。だからアンタレ……アッガイが認められれば資金には目処が着くし、やっていけると思う。ロボット技術に注目しているらしくて、もしかするとトップと直接話せるかもしれないんだ」
「まぁそもそも一般人が個人でロボット作り出した事のが凄いと思うけどね。どうした褒めてるんだから頭を垂れて喜べよ」
「普通こういうのって製作者が製作物に敬われるんじゃ……」
「……実は君に伝えなければならない事があるんだ……」
「えっ?」
急に真面目な口調になったアッガイに、陽向は何事かと息を呑む。そんな陽向を見つつ、アッガイは自分の為に、今度の為になるように話し始める。――嘘を。
「実は僕は付喪神なんだ」
「……は? 付喪神?」
「そう、この八百万の神が居る日本では珍しい事じゃないさ」
「え? えっ?」
「君が作ったこのアッガイの体は最高だった。誇っていい。しかしだ。君自身、僕がこのように流暢に話す事が出来ると思うかい? 体は最高でも、本来、内部のプログラミングはここまででは無かっただろう?」
「! それは……まぁ……」
「では何故それが可能なのか。それは僕が付喪神で、その力を使って動かしているからさ」
「なん……だと……」
驚愕の事実に目を見開く陽向。その様子を見て、モノアイを輝かせながら心中で『チョロいぜ』と思うアッガイ。しかしまだ押しが足りない。
「だ、だけど。例え付喪神だとしても動いている事実には変わらない。それに九鬼に認めてもらえば――」
「そう、そこが問題なんだよ明智君」
「……石動陽向なんですが……。しかし問題とは?」
「確かに九鬼という企業は優秀なのかもしれない。だけど分解とか痛い事とかされると私はこの体に居られなくなるんだ」
「なっ!?」
「いいかい。付喪神そのものにも種類があって、偶々とり憑く事もあれば理由がある場合もあるんだ。僕の場合には強烈な君の感情が込められて作られたからさ」
一応言うとアッガイの言っている事は嘘である。しかし陽向は信じてしまった。
「……つまり九鬼に認められたとしても、そこで解析の為に弄られると君は消えて、九鬼に認められる程の物では無くなってしまう、という事かい?」
「認められる物かどうかは君がよく分かっている筈だよ。(実際、僕は知らないし)」
「――くそぅ! 一体どうすればいいんだ!!」
悔しそうに両手を壁について悩む石動陽向。そしてその様子を見て、モノアイを輝かせながら心中で『fish!』と思うアッガイ。取り敢えずアッガイの思うままに石動陽向を誘導出来たのだ。しかしこのまま九鬼に資金提供をさせないと生活するにも厳しいのはアッガイにも分かっていた。というよりも食欲だのエネルギーだのと自分自身もまだ分かっていない事が多く、まだ石動陽向という人間と一緒に居なくてはならないと思ったのだ。自分の安全を確保しつつ、この石動陽向という人間を破産させないようにしなければならない。
「まぁでも方法はあるんじゃない?」
「! 何かあるのかい!?」
「唾飛んだよ汚いな拭けよシルクで拭けよ」
「ご、ごめん……普通のハンカチで我慢してくれ……」
「まったくしょうがない奴だなぁ君は。まぁいいや。とにかく君はもうお金が無くてマズイ。しかし九鬼で僕は分解されると消える。ならば方法はただ一つ。九鬼で僕の有用性を示しつつ、分解とか何か新しいプログラム入れるとかそういうのをしないで解析してもらう」
「つまり直接的に君に何かをしなければ大丈夫という事かい?」
「簡単に言うとそうだね。更に言えば僕が嫌がる事をしなければいいのさ。それさえ守ってくれれば僕は消えないよ。(多分ホントは何やっても消えそうにないけど)」
「――よし! よぉし! これで未来が開けてきたぞ!」
両手を天に突き上げて喜びに満ちている石動陽向。そしてその様子を見て、モノアイを輝かせながら心中で『計画通り』と超悪人面で思うアッガイ。
それから暫く二人の生活は続いた。
◇◆◇◆◇◆
石動陽向の家は神奈川県の川神市にある一軒家だ。元々は両親が住んでいた家なのだが、両親は東南アジアに移住して使わなくなったので陽向が住んでいる。そこそこに広い敷地があり、家の他に物置小屋、鯉の居る池、畑があった。近くには川が流れており、かなり良い家と言える。アッガイはこの家や敷地を見て、『あいつ(陽向)って親の金使って僕作ったんじゃね?』と本気で思った。ちなみにその後に質問を物理的にぶつけてみたが、本当に自分の貯金だけで作った事が判明する。
――アッガイになってから二週間程が経過。その間にアッガイは自分の体の仕組みや能力、疑問に思っていた事の大部分を解明していた。
まず食欲なのだが、ほぼ無い。ロボットだから無いのが普通なのだが、時々食欲が沸くのだ。しかも信じられない事に、普通に食べ物を食べる事が出来た。それを目の前で見せられた石動陽向は酷く動揺したのは言うまでもない。彼からすればまず口や食道、胃などの消化器官が無いのにどうやって食べたのかという事なのだが。実際に見てみると本来は口の役目ではなく、体内で発生した熱を蒸気として排出する為の口のような部分があるのだが、そこが口の役目となっていた。つまり見た目通りの機能となっているのだ。ちなみに消えた食べ物の行方は不明である。ただ、設計上アッガイは電気で動くロボットであり、充電が必要ではあるのだが、食べ物を食べるとその電気が回復している事が分かった。ちなみに睡眠もする。睡眠しても何故か電気が充電されるのだ。まぁその電力がそのまま利用されているのかも減っているのかも観測データを見ると最早分からなくなりつつあるのだが。
これにはアッガイの能力が関係している事をアッガイは突き止めた。そもそもアッガイが作られた時、アッガイには何が装備されていたのか。石動陽向が作った時には腕に出し入れ可能な護身用三爪アイアンネイル、頭部に護身用の四連ミニ催涙弾。両腕の掌も催涙弾という物だった。しかしいつの間にか頭部武装は普通のバルカン砲。掌は六連装ロケットランチャー、メガ粒子砲といった本来のアッガイの武装に変化していたのだ。しかも驚く事に弾切れしない。ずっと撃ち続けると疲れる程度である。試しに何も作っていなかった畑に向かって撃ち続けた事で判明した。ちなみに撃った弾丸は暫くすると勝手に消える。あと最初にスプーンとかお箸が持てなくていたら、いつの間にかアイアンネイルが三本から五本になっていた。伸縮も自在になって喜んだ。
この事からアッガイは実験的にとある事をしてみた。頭に思い浮かべるのはジオン軍のMSグフ。その武装の一つである電磁鞭ヒートロッド。それが手から飛び出るイメージを作る。
「ほあっちゃー!」
気合の入った叫びと共にアッガイの掌からは本来は有り得ない、ヒートロッドがシュルシュルと前方に勢い良く伸びていった。到達した床でバチバチと電気を放出している。ヒートロッドはアッガイの掌部分から脈絡もなく出ており、出ている根元は輝いていて接合部分がどうなっているのかは分からない。
アッガイ自身が突き止めた能力。ずっと良い子にしてた自分に神様とか仏様とかサンタクロースとか多分その辺が何も言わずに付与した能力。
「これはアッガイこそが世界の頂点になれという意思なんだ!! 僕は天才! なぁんだって出来るんだぁぁ!!」
自分の思うがままに世界を操れる能力。とは言っても現在は自分以外に何かしら影響を及ぼす事が出来ないようだ。しかしきっとこんな素敵能力があれば世界制覇も夢ではなく、死ぬまでウハウハな生活を送れるだろうとアッガイは予想する。
こんなチートな能力があれば未来は薔薇色黄金色なのだ。テンションが上がりまくったアッガイはその想いを畑の中心で叫ぶ。
「僕は人間をやめたぞ! ジョジョォーーーーッ!!」
「近所迷惑になるから静かにねー」
畑のど真ん中で叫ぶアッガイに陽向はやんわりと注意した。
◇◆◇◆◇◆
更に月日が経過し、アッガイは自分の居る世界の事を調べた。日本であろう事は知っていたのだが、個人でロボットを作る事が出来るのであれば文明レベルも自分の知っている世界とは違うのではないかと考えたのだ。しかし文明レベルは至って普通で、自分の知っている世界とほとんど変わらなかった。
ただ一つ。異常な戦闘力を誇る人間達を除いて。
「…………ヤダナニコレ」
無意識に口から出た言葉は、ニュアンスが違うが、アッガイにとってどれ程の衝撃だったかを表現していた。自分の姿がアッガイと知った時と同じレベルなのだ。
ある意味、アッガイはこの世界での自分の優位性を理由に若干天狗になっていた感があった。なにせ何かしらを強く想像すればそれが叶う能力を持っている。個人でロボットを作成出来る石動陽向という人間が居たとしても、それはあくまで技術の話だ。アッガイの妄想力はそれと一線を画す能力である。その気になれば何でも出来るのだ。
人間よりも強固な体。無限の可能性を秘めた妄想力。『圧倒的ではないかアッガイは……!!』とアッガイが言ってしまうのも無理はない。
小さなロウソクの炎に腕を出して『我が肉体は無類無敵……!!』と言ってしまうのも無理はないのだ。
しかし、しかしだ。今テレビの画面に映っているのはそういったアッガイの驕りを消し飛ばす内容だった。
明らかな老人が両腕からビーム的な物を放出したり、明らかに十数メートル以上軽くジャンプしてたり、普通の拳で地面を砕いたり。挙句の果てには画面に映らない速度で攻防を繰り広げたり。
「過程が消え去り結果だけが残る。……キングクリムゾンッ!」
「凄いよねー。さすが世界に誇る川神院の武神だよ。でも九鬼の従者部隊にはこの人の好敵手も居るっていうし、九鬼も凄いよなー」
「九鬼にも同じようなのが居る……だと……!?」
「あ、うん。ヒューム・ヘルシングって人」
「銀の弾丸……! ヴァン・ヘルシィィィィィングッ!!!」
「ヴァン・ヘルシングじゃなくてヒューム・ヘルシングだよ」
石動陽向の適応力もなかなかに凄いものがある。当初は完全に主導権を握られていたアッガイにも今はそこまで怯まずに、上手い事返す事が可能となったのだ。場合によっては切れたアッガイが襲いかかってくるのだが、なんとなく雰囲気で言っても大丈夫かどうかが分かってきた事が大きい。
「あ、そうそう。明日は九鬼に行くからね。画面に映ってるヒュームさんとも会えるよ」
「アッガイ は めのまえ が まっくら に なった!」
◇◆◇◆◇◆
「へぇー、これが噂のロボットか。なんか変なデザインだな」
「変なデザインとは失礼な! これは未来で宇宙世紀と呼ばれる頃の最先端を先取りした、先進かつ愛らしさに富んだ最高のデザインなのだよ!」
「ほー、書類にはあったがお前さん付喪神なんだって? 未来の事も分かるのか?」
「付喪神の勘はよく当たるから間違いない!」
「付喪神の勘(笑)とか」
「カッコワライとか付けるんじゃない!」
「ちょ、ちょっと。九鬼のトップに向かってそんな言葉遣いしないでよ」
アッガイと石動陽向はとあるビルの一室にてある人物を会談していた。その人物とは九鬼帝。陽向が資金提供を期待していたあの九鬼財閥の頂天である。ソファーにどっしりと構えてアッガイと会話する九鬼帝はまさに大企業のトップとしての威厳に溢れていた。傍には九鬼家従者部隊で最強と言われるヒューム・ヘルシング。執事王と呼ばれるクラウディオ・ネエロがいる。この二人が居れば出来ない事は無いと言われており、陽向はこの濃すぎる面子の中でアッガイが粗相をしないかとヒヤヒヤしていた。実際、ヒュームは鋭い眼光をアッガイに向けている。
「んで、まぁカタログスペックやら仕様やらは書類で見させてもらったが、実際問題どうなのかねぇ」
「な、何がでしょう?」
「いやね、こっちはこっちでロボット開発も視野に入れてたもんでな。他にも居るんだよ。ロボット開発してる人間」
「! そ、それはもしかしてこちらには援助協力いただけないという……」
「まぁそう焦るなよ。確かに書類の内容だと結構厳しいものがあるけど、このアッガイにはそれを吹き飛ばす位の価値がある」
「このアッガイをお求めとは、お目が高い。今だったら握手一回1000円にしておいてあげよう。いつもは3000円なんだよ? お得でしょう?」
「話す内容自体にはかなり問題があるが、コイツを解析出来れば一気に九鬼のロボット開発は段階が進む事になるだろう。そうすれば色んな所に応用出来るようにもなる」
「で、では!」
「おう、まぁとりあえず九鬼でロボット開発の部署を今度用意するから、そこに所属して貰いたい。個人での開発を援助するにしても、これだけの技術となると安全性の為にも、こっちで囲っちまった方がいいんだわ。詳細な契約書はまた別に送るが、大まかに言えば、こっちはアッガイの解析とうちの部署への所属。これが求める条件だ」
「はい! ありがとうございます」
「ねぇ握手は? 1000円は?」
「しねぇよ馬鹿か」
アッガイはしょんぼりした。