LDS襲撃事件より暫くたったある日。コナミは遊勝塾のソファで死体のようにぐったりとしていた。ぴくりとも動く気配が無い。
「どうしたんだ?コナミ……?」
そんな彼を心配そうに覗き込むのはコナミと同じ遊勝塾の生徒、遊矢だ。彼もあの後自分の、自分だけの力であるペンデュラムをコナミと零児が使用した事により傷心し塞ぎ込んでしまったが、彼を心配した塾長、修造との熱血デュエルを通し迷いを振り切った。
「舞網チャンピオンシップの出場条件よ」
「へ?」
「コナミ、チャンピオンシップの出場条件を満たしてないの……」
コナミを心配し、おろおろと忙しなくする遊矢に柚子が答える。そう、赤馬 零児との再戦を誓った舞網チャンピオンシップ。コナミとしてもデュエルの大会に参加できると言うなら嬉々として飛び込むだろう。そう、参加できると言うなら……。実はこの舞網チャンピオンシップ、参加するにも条件がある。その条件とは40戦近くの公式戦をこなし、かつ公式戦勝率6割以上である。因みにコナミはこの舞網市に来たばかり。勝ち星もネオ沢渡戦の1回、それも野良試合であるため公式戦に入らない。
はっきり言って今から40戦以上の公式戦を組むなど不可能である。つまりコナミは舞網チャンピオンシップには参加出来ない。そのためこうして死体と成り果てているのである。
「ああ……うん、成程。何とも間抜けな話だなぁ再戦を誓ったのに参加条件すら満たしてないなんて」
無意識に毒を吐く遊矢に珍しくぐぬぅとコナミが情けない声を漏らす。デュエルしたいのにできない。コナミにとって生き地獄である。こんなんじゃ満足できねぇぜ……。こうなったら乱入して満足するしかねぇ、とかつての満足同盟のファッションリーダーのように不穏な事を考えていると遊矢が声を掛ける。
「コナミ」
先程の苦笑いとは打って変わって真剣な表情で語りかける。その真剣さを感じたのかコナミも姿勢を正し、顔を合わせる。
「俺さ、お前に嫉妬してた」
「遊矢……?」
「あのデュエル、赤馬 零児とお前は融合やシンクロ、エクシーズを自在に操り、そしてペンデュラムまで繰り出した。……正直、悔しかったよ。ペンデュラムは俺だけの物なのにって」
「……そうか。お前もペンデュラムを……」
「ああ、でも塾長に目を覚ましてもらった」
視線を自らの掌に落とす遊矢。その表情は重い荷物を下ろしたかのようにスッキリとしている。
「ペンデュラムが他の人達にも使われるって言うならそれでも良い。俺は、俺だけのペンデュラムでエンタメってやる」
グッと力強く握り拳を作る遊矢。そんな彼の言葉に首を傾げるコナミ。
「……エンタメ……?」
「ああ、観客も相手も笑顔にする。俺の信じるデュエルさ!」
遊矢の脳裏に浮かび上がるのは父親の姿。沸き上がる歓声、人々の笑顔。自身の憧れる最高のショー。
「そこに、お前はいるのか?」
「――え?――」
「見てる人々を、相手を楽しませたいのなら、笑顔にしたいなら、何よりも、誰よりも」
――自分が楽しめ――
「お前の信じるデュエルは苦難の道だ。だから――泣きたい時こそ笑え――」
ふとコナミの姿が自らの父と、榊 遊勝と重なる。やはりこの少年は
「ああ!」
俺の理想だ、と。
「だから誓うよ。コナミ。お前が舞網チャンピオンシップに出るって言うなら、その舞台でお前と闘って俺のエンタメデュエルを見せてやる!とびきりの笑顔にしてみせる!俺はお前を超えたいんだ!!」
それは誓い。榊 遊矢がコナミと言うデュエリストに憧れを抱き、彼のようなデュエリストに、華々しいエンタメデュエルをしたいと思い、胸に刻んだ約束。彼のようなデュエリストになりたい。例え、逆境でもデュエルを楽しみ、真摯に向き合う、本物のデュエリストに。
「為らば誓おう」
その誓いに応えるべく、コナミは立ち上がる。目の前の少年に、1人のデュエリストの覚悟に向き合う為に。
「オレは舞網チャンピオンシップに出場してみせる。お前とのデュエルで観客よりも、お前よりも、誰よりも楽しんでやる。オレが一番、デュエルを楽しんでやる」
自らの胸に親指を突き立て、不敵に笑うコナミ。だが遊矢とて黙っていない。
「いいや」
コナミに対抗するように立ち上がり、満面の笑みで向き合う遊矢。
「俺の方が楽しんでやる!」
その笑顔に対抗意識を燃やし、「いいやオレが」とコナミが言い返すとムッと眉をひそめて「いやいや俺が」と同じようなやり取りを繰り返す。やがてその事が可笑しくなり、声を出して笑い合う。遊矢も、コナミも、そして柚子も。そんな中、遊矢は思いを馳せる。
――きっとコナミとのデュエルは、笑っちゃうほど楽しいだろうな――
何時かその時が来るまでもっともっと強くなろう。お互いに全力を出して、笑い合って、観客も遊勝塾の皆も楽しんで、何よりも、自分とコナミが楽しむ最高のデュエル。それはきっと父さんのエンタメデュエルも超えるだろうな。と思い誓いをより強固な物とする。
「でも、どうするの?コナミ?」
「……知らん。オレの管轄外だ」
そんな楽しげな空気も柚子の一声で全て壊すんだ!される。しかし本当にどうすればいいか分からない。思わずどこぞのナンバーズハンターのような台詞で答えてしまうコナミ。そんな彼を見かねて溜め息をつき、1枚のポスターを差し出す柚子。どうやら舞網チャンピオンシップのポスターのようだ。柚子はポスターに書かれた小さな文字を指差す。
「成程。6連勝か」
「そうよ。舞網市に来たばかりの人は公式戦で6連勝すれば出場条件は満たされる」
柚子が提案したのは唯一の例外。例え40戦以上の公式戦をこなし、6割以上の勝利を得なくとも、6連勝さえすれば出場出来る。一種の救済処置だろう。そうと決まればコナミの行動は早い。くるりと踵を返しデュエリストを狩るために部屋を出ようとする。――が――
がっちりと柚子に腕を掴まれた。その華奢な体の何処にこんな力を隠していたのだろう。コナミを掴んだ腕はびくともしない。女とてデュエリスト。柚子の中に眠るストロングにコナミは軽く戦慄する。
「何処に行くの?」
「デュエルを……デュエルを……」
冷や汗を垂らしながら、まるで壊れた機械のように……いや飢えた獣のように「デュエルを……」と繰り返すコナミとその獣のリードを握る柚子(飼い主)。
「今日はもう遅いわよ」
コナミの頭を掴み、窓の方向へ動かす。もう暗くなってしまった外の様子を見せる。
「……デュエル……」
「帰って夕飯にしましょう?コナミの好きなもの作ってあげるから、ね?」
言い訳の聞かない子供に接するように優しく微笑む柚子。流石のコナミも仕方なく折れる。
「……プリン……」
「プッ、プリンね。う、うん作った事無いけど、やってみるわ。ええ」
まさかのプリンに苦笑いし、しかし約束なのだから頑張って作ろう。後でレシピ本と材料を買おうと誓う柚子。対するコナミはこんなんじゃ満足できねぇぜと項垂れるのであった。
――――――
その夜。柚子の作った不恰好なプリンを平らげたコナミは1人、部屋で思考していた。考えるのはただ1つ。舞網チャンピオンシップである。チャンピオンシップの出場するには6連勝、しかも公式戦でなければならない。しかしコナミには公式戦まで辿り着く人脈はコナミにはない。そんなコナミがアポ無しで公式戦までこぎ着ける方法。色々な事を考えた。塾長に頼む。プロデューサーを探す。だが何れも時間が掛かる。そんな中、コナミが出した1つの答え。たった1つの冴えた方法、それは――
――道場破りで……満足するしかねぇ!――
と言う訳でコナミ君には遊矢君のライバルになって貰いました。社長?どうみてもライバルっぽくないんだけど……どっちかと言うと中ボス……
次回からはコナミ君の6連戦タッグデュエルです。シリアスも少なくなる……筈。