「いぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
舞網市の長い下り坂にて、コナミと沢渡は共にUMAに乗り、猛スピードで移動していた。その恐怖を覚えるスピード、そしてアングルによって沢渡が叫ぶが、コナミはお構い無しに加速を促す。
「もっと疾く走れー!」
「やめてぇぇぇぇぇっ!!」
強烈な顔芸と共に叫ぶコナミに、それを止める沢渡。そして大きく跳躍してまるでペガサスの如く飛翔するUMA。あ、俺これ死んだわ。沢渡が白目を剥いて口から泡を吹き出した所で、彼等はついに――遊勝塾に辿り着く――。
――――――
「俺と、デュエルを……?」
一方、遊勝塾内では、突然目の前に現れた、長い銀髪を靡かせた赤いスーツの男、ペガサスのデュエルの挑戦を受け、遊矢が虚ろな表情でその口から掠れた声を出していた。含んでいるのは困惑。
それも当然だろう、いきなり見知らぬ誰かが理由も分からずデュエルを申し込んで来たのだ。それに遊矢は今、そんな気分では無い。
「悪いけど、俺は――」
「良いから良いから!私にエンタメデュエルを見せてくだサーイ!」
「え、ちょっ、ちょっと!?」
『お、おい!』
しかし遊矢の言葉を無視し、ペガサスは強引に遊矢の手首を掴んで起こす。ますます戸惑う遊矢につられ、ユートも目を見開く。一体何なのだろうか、この男は。ニコニコと笑顔で子供のように早く早くと急かすペガサス。あろう事か、鼻唄まで唄っている。
「Mr.ストロング!アクションフィールドの展開をお願いしマース!」
「へ、ス、ストロング石島……!?何でここに!?」
「はぁ……申し訳無いが、管制室を借りる。私としても久々に会った榊 遊矢がこんなにフヌケていては困るからな」
ブンブンと手を振ってストロング石島へとアクションフィールドの展開を求めるペガサス。そこで遊矢もストロング石島の存在に気がついたのか、すっとんきょうな声を出し、ストロング石島は溜め息を吐き出し、塾長である修造の案内の下、アクションフィールドの展開に努める。
流されるままにデュエルとなってしまった。光の粒子に覆われ、姿を変えていくフィールドをボケーと呆けた表情で見つめる遊矢。
すると地面がペラペラと紙の音を立てる本となり、飛び出す絵本のように純白の城が立つ。更に城の外もアメコミの世界の如くポップでコミカルな風景へと変化する。
「アンビリーバボー!『トゥーン・キングダム』!私の得意とするフィールドまであるのデスネー!」
「見た事無いフィールド……コナミが追加したのか……?」
アクションフィールド、『トゥーン・キングダム』。遊矢にとっては未知のフィールドだが、ペガサスにとっては得意のフィールドのようだ。今まで目にした事が無いが、サルガッソのようにコナミが追加したフィールドなのだろう。
「あ、あの……大丈夫なんですか?あの人?」
「団長の事かい?なぁに心配いらないさ、あの人はふざけた人だけど――やる時はやる人……だったら良いよね」
「大丈夫なの!?あの人に任せて本当に大丈夫なの!?」
修造の問いかけに対し、アロハシャツにスーツ、薄汚れたハットを被った男が不安そうに答え、洋子が息子を心配して男の肩をガクガクと揺する。それはそうだろう、見知らぬ人間に息子を預ける程、洋子は親をやめていない。やはり止めるべきか、焦る洋子を見て、男がまぁまぁ、と宥め、ニヒルに笑いかける。
「安心を、マダム。何なら賭けても良い。この世界一のギャンブラー、チャーリー・マッコイが、ね」
「イーヒッヒ!チャーリーの賭けは1度たりとも外れた事は――ありますね」
「大丈夫なの!?本当に大丈夫なの!?」
今度はピエロのような小柄な男の肩がガクガクと揺れる。しかし彼はまぁまぁ、と洋子を落ち着かせ、赤い涙のペイントをした目をペガサスに向け、その奥に潜む信頼を見せる。
「安心してください、団長は世界一のギャンブラーの賭けにも勝つ御方。悩み多き少年の迷いを晴らす事等、容易いでしょう」
「おいイェーガー!余計な事言うな!ありゃノーカンだノーカン!」
チャーリーをディスりながらペガサスをアゲるイェーガーに対し、ブーブーとブーイングするチャーリー。こうして見ると実に自由なサーカス団だ。
プロデュエリストで我の強いストロング石島に、自称世界一のギャンブラーで飄々とした男、チャーリー・マッコイ。そしてピエロのような謎に包まれた男、イェーガー。個性豊かで、全員が相性が良いとは思えないのに――団長、ペガサスの旗の下に集い、仲間とし、友としている。
だから洋子も、賭けたくなった。それにペガサスは、どこか似ている。自身の夫であり、遊矢の父、稀代のエンタメデュエリストと呼ばれた――榊 遊勝に。
「さぁ、行きマショウ!闘いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」
「……モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い」
「フィールド内を駆け巡る!」
「見よ、これぞデュエルの最強進化形」
遊矢とペガサス、温度差のある2人の口上が飛び交い、アクションデュエルの準備が進んでいく。本来ならば明るく楽しい口上を放つ遊矢だが、今はまだ、多くのショックによってそれは影に隠れている。傍にいるユートも歯切れの悪そうな顔で遊矢を見守っている。だが彼は感じる。このデュエルはきっと――遊矢にとって、必要なものだと。
「「アクショーン……デュエル!!」」
始まる2人のデュエル。先攻は遊矢だ。彼は明らかに気合いが入っていない表情で5枚のカードを手にし、その中より1枚のカードをデュエルディスクの右端に設置する。
「俺は『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をペンデュラムゾーンにセッティング」
遊矢には何気無い行動。何時も通り、自身の最大の武器であるペンデュラムカードを置いただけ。それだけだったのだが、ペガサスにとっては違う。突然遊矢の背後に現れた光の柱、その中に遊矢のエースカード、2色の虹彩を輝かせ、真紅の体躯を唸らせる『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』が咆哮するのを見て、ペガサスが目を輝かせる。
「WAO!ペンデュラム!これがMr.ストロングの言っていたカードデスカ!感激デース!と言う事は見れるのデスカ?ペンデュラム召喚を!」
何と言う事か、ペンデュラムカードを目にし、幼い子供のように興奮し、はしゃぎ出してしまった。久し振りとも言える反応に思わず目を丸くして呆ける遊矢。一体この男は何なのだろうか。「ペンデュラム!ペンデュラム!」とコールを繰り返すペガサスに溜め息を吐き出し、遊矢はその手を進める。
「手札を1枚捨て、魔法カード、『ペンデュラム・コール』を発動。デッキから『慧眼の魔術師』と『刻剣の魔術師』をサーチ。モンスター1体とカードを1枚セットし、ターンエンド。この瞬間、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を破壊し、デッキから『EMペンデュラム・マジシャン』をサーチ」
榊 遊矢 LP4000
フィールド セットモンスター
セット1
手札3
「ノォォォォォッ!?何故ペンデュラムしないのデース!がっかりも良いとこデース!」
あろう事か、ペガサスの期待をバッサリと無視し、何時もの遊矢らしからぬ消極的なターンに大はしゃぎしていたペガサスはその反動なのか、目を剥いてブーイングし始める。酷い手のひら返しである。溜め息を吐き、頭を抑える遊矢。本当にこの男が分からない。
「アナタは素晴らしいエンタメデュエリストと聞いていたのデスガ仕方ありマセーン。こうなったら何が何でも本気にさせて見せマース!私のターン、ドロー!私は『トゥーン・サイバー・ドラゴン』を特殊召喚しマース!」
トゥーン・サイバー・ドラゴン 攻撃力2100
ポン、と白い煙を立て、地面となっている本のページから現れたのは大きな目にポップな身体、コミカルな姿をした機械の竜だ。いきなり攻撃力2000オーバーのモンスターを見て、僅かだが遊矢の目付きが鋭くなる。
「更に『トゥーン・仮面魔道士』を召喚デース!」
トゥーン・仮面魔道士 攻撃力900
次に召喚されたのは青い仮面を被った、これまたコミカルな魔道士だ。合計攻撃力は3000だが――。
「残念ながらトゥーンモンスターは召喚したターン、攻撃出来まセーン。カードを2枚セットし、ターンエンドデース!トホホのホー!」
ペガサス・J・クロフォード LP4000
フィールド『トゥーン・サイバー・ドラゴン』(攻撃表示)『トゥーン・仮面魔道士』(攻撃表示)
セット2
手札2
警戒するのも束の間、召喚酔いの説明によってズルリと転けそうになる遊矢。何とも掴めない男だ。強いのか弱いのか、全くと言って良い程分からない。
「俺のターン、ドロー。俺は『慧眼の魔術師』と『刻剣の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング。そして慧眼を破壊し、デッキから『時読みの魔術師』をセッティング」
「ペンデュラム!ペンデュラム!」
再びペガサスよりペンデュラムコールが放たれる。どうも調子が狂う相手だ。デュエルの相手だと言うのに、こちらの応援まがいの事をするとは。しかし今回は先のターンと違い、準備は万端。お望みとあらば、見せてやろうでは無いか、榊 遊矢の十八番、ペンデュラムのアークを。
「揺れろ、魂のペンデュラム。天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『慧眼の魔術師』!雄々しくも美しく輝く二色の眼!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500
EMペンデュラム・マジシャン 守備力800
慧眼の魔術師 攻撃力1500
天空に揺れるペンデュラム、振り子の軌跡の後に続き、3本の光の柱が魔方陣より降り、フィールドを震撼させる。光の粒子を降らせ、現れたのは遊矢のエースカード、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』。そして赤い衣装を纏い、ペンデュラムを手に持った『EMペンデュラム・マジシャン』。銀髪を靡かせ、秤を持った『慧眼の魔術師』だ。
「ファンタスティック!これがペンデュラム召喚!何と美しい召喚法デショウ!」
「ペンデュラム・マジシャンの効果でペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、『EMギタートル』と『EMドクロバット・ジョーカー』をサーチ、そのまま召喚」
EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800
何時もならば恭しく頭を下げ、礼をするペガサスの興奮を含んだ、自身を讃える声を無視し、遊矢は機械的に次の手に進める。現れたのはボロボロのシルクハットと黒い仮面を被り、トランプのマークを燕尾服に散りばめた道化。
このコミックの世界に相応しい登場人物だ。彼はポン、と音を立てて白い煙を上げ、一冊の本を取り出し、パラパラと捲る。すると中より飛び出したのはカードの襟巻きを巻いた蜥蜴のモンスター。バタバタとコメディちっくに駆け、遊矢の手札におさまる。
「ドクロバット・ジョーカーの効果でデッキから『EMリザードロー』をサーチ」
「Oh!『EM』!面白いモンスター達デース!」
「そしてギタートルとリザードローをセッティングし、ギタートルの効果で1枚ドロー!リザードローを破壊してもう1枚ドロー!」
榊 遊矢 手札1→2→3
これこそが遊矢の黄金パターン、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、『EMペンデュラム・マジシャン』、『EMドクロバット・ジョーカー』で相互サーチを繰り返し、ギタートルとリザードローのコンビに繋げ、エクストラデッキを増やしながら手札を回復させる。これが基本となり、遊矢の戦術を支え、次の展開の礎となっているのだ。
「悪いけど、一気に攻める!ドクロバット・ジョーカーと『慧眼の魔術師』でオーバーレイ・ネットワークを構築!漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500
遊矢の眼前の地面に突如渦が広がり、2体のモンスターが光の線となって飛び込む。そして瞬間、渦は集束して小爆発を起こし、フィールドに黒煙が舞う。立ち込める黒煙の中から紫電が迸り、鋭き刃物のような物体が妖しき閃きを放つ。
赤きスパークが黒雲を晴らし、現れたのは黒き竜。鋭きアギトを煌めかせ、翼と尾を振るうこのモンスターは、ユートのエースカードだ。
『……』
「格好良いドラゴンデース!」
「ダーク・リベリオンのORUを2つ取り除き、『トゥーン・サイバー・ドラゴン』の攻撃力を半分にし、その数値分このモンスターの攻撃力を上げる!トリーズン……ッ!?ORUが使えない……!?」
「NO!残念ながら『トゥーン・キングダム』が存在する限り、私のトゥーンモンスターは相手の効果の対象となりマセーン!」
「ッ!ならバトルだ!」
「させマセーン!罠発動!『威嚇する咆哮』!このターンの攻撃を封じマース!」
「……カードを1枚セットし、ターンエンド」
「この瞬間、罠発動!『トゥーン・マスク』!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を対象に、そのレベル以下のトゥーンをデッキから特殊召喚しマース!私が召喚するのは『トゥーン・ブラック・マジシャン』!!」
トゥーン・ブラック・マジシャン 攻撃力2500
「『ブラック・マジシャン』!?」
コミックの中から現れる。王と呼ばれたデュエリストの最強の僕、そのトゥーンバージョンが杖を振るう。
可愛らしいSDキャラとなっているが、この黒衣の魔導師から放たれる気迫は本物だ。『ブラック・マジシャン』を1度扱った事のある遊矢とユートはその登場に驚愕する。
榊 遊矢LP4000
フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示)『EMペンデュラム・マジシャン』(守備表示)セットモンスター
セット2
Pゾーン『EMギタートル』
手札2
勝負を急ぎ、2体の強力なドラゴンを使役する事で1ターンキルを狙う遊矢に対し、のらりくらりとかわすペガサス。厄介な相手だ、苦い顔でターンを終了する遊矢。そんな遊矢を見て、ペガサスがクスリと微笑む。
「……Mr.ストロングに聞いたユーとは随分と違うのデスネー」
「……え?」
「私が聞いたユーは、どんな状況だろうと逃げずに立ち向かい、見る者全てを楽しませる、ワクワクするエンタメデュエルをするデュエリストと聞いていまシター」
「……俺は……違う、俺はそんなに、強くなかったんだ……自分でも何でも出来るって自惚れていた、ただの子供だったんだよ……!」
ペガサスの問いかけに対し、俯き、拳を握り締め、表情を歪める遊矢。今まで遊矢は、どんな逆境だろうと、笑って進んで来た。何だって出来ると思い込み、ひたすらに走って来た。だけど、それが壁にぶつかってしまった。榊 遊矢のエンタメデュエルで笑顔に出来ない友がいたのだ。結局、遊矢も人間だ。出来ない事に苦悩し、落ち込んでいるのだ。
だがペガサスはそんな彼を――慈しみさえ感じさせる優しい笑みで、受け止める。
「それの何が悪いのデース?」
「……え……?」
「フフ、ユーはただ、ゴーグルを着けているだけデース!視界が狭くなって、見えるものが見えなくなってしまっている……No problem!このデュエルでユーの迷いを晴らして見せマショウ!」
両手を広げ、高らかに宣言するペガサス。彼は遊矢の弱さを肯定する。悩む遊矢を優しく導こうとする。毅然と、大人として、子供の手を取り、共に進むべき道を見つけようとする。
その姿に、遊矢は今まで自分を叱咤激励し、背中を押してくれた大人達を思い浮かべる。修造やバレット、ストロング石島にニコ、母、洋子。そして――父、遊勝。
「手札から『トゥーン・マーメイド』を捨て、『トゥーン・ブラック・マジシャン』の効果発動!デッキから『トゥーンのもくじ』をサーチしマース!そのまま発動!2枚目のもくじをサーチし、これを後1回繰り返しマース!そして最後のもくじを発動し、『トゥーンのかばん』をサーチデース!そして装備魔法、『ワンダー・ワンド』を『トゥーン・仮面魔道士』に装備!」
トゥーン・仮面魔道士 攻撃力900→1400
「だけどそのモンスターじゃ俺のモンスターは倒せない!」
「倒す必要はありマセーン!トゥーンは物語の中の住人!本が存在する限り、ダイレクトアタックが可能となるのデース!」
『なっ――!』
「にぃ!?」
今明かされる衝撃の真実。トゥーンモンスターの真価に2人が驚愕する。『トゥーン・キングダム』が存在する限り、ペガサスのモンスターはモンスターとの戦闘を無視し、直接攻撃が出来る。とんでも無いカードだ。しかもアクションデュエルと言うルール上、フィールドの魔法は破壊出来ず、唯一の例外であるフィールド魔法の張り替えも、自分フィールドのみ。彼のフィールドまでは変えられない。
昔とあるデュエリストが編み出した、物語の住人達の住処である本そのものを破壊する、と言う攻略法も無意味だ。
「バトルデース!『トゥーン・サイバー・ドラゴン』でダイレクトアタック!」
「ダイレクトアタックなら――永続罠、『EMピンチヘルパー』!直接攻撃を無効にし、デッキから『EMジンライノ』を特殊召喚!」
EMジンライノ 守備力1800
ならば、と相手がダイレクトアタックする事を逆手に取り、遊矢が最も頼りとする罠カードが炸裂する。攻撃を受け流した上で現れたのは角に電気を帯びたサイの『EM』。
「あと1体……!」
「かわしマシタカ……なら『トゥーン・仮面魔道士』でダイレクトアタックデース!」
榊 遊矢 LP4000→2600
「ぐっ――!」
続けて仮面の魔道士がフィルムのように細く長く自身の身体を伸ばし、遊矢のモンスター達を掻い潜って杖を振るう。『EMピンチヘルパー』で防げるのは1ターンに1度まで。そして遊矢のデッキの防御札のほとんどがモンスターとの戦闘に関するものだ。ダイレクトアタックの防御札はそれ程豊富では無い。
「『トゥーン・仮面魔道士』が戦闘ダメージを与えた事で1枚ドローしマース!」
ペガサス・J・クロフォード 手札2→3
「『トゥーン・ブラック・マジシャン』でダイレクトアタックデース!」
「アクションマジック、『回避』!」
「ホウ……アクションカードデスカ……メインフェイズ2、『ワンダー・ワンド』と『トゥーン・仮面魔道士』を墓地に送り、2枚ドロー!」
ペガサス・J・クロフォード 手札3→5
『トゥーン・仮面魔道士』と『ワンダー・ワンド』の効果を活かし、1400のダメージを与えつつ3枚もの手札を補充するペガサス。良い腕前だ。『トゥーンのもくじ』でのデッキ圧縮も加え、デュエリストとして一流と見える。
「ンフフッ!良いカードを引きマシタ、魔法カード、『アームズ・ホール』!デッキトップをコストに装備魔法、『コミックハンド』をサーチし、発動しマース!」
『トゥーン・キングダム』の中より、びっくり箱の如くバネを勢い良く飛び出させ、白いマジックハンドが『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を掴み、城の中へと引き摺り込む。
『ダーク・リベリオンッ!?』
ドッタンバッタンと騒がしい音が城の中で響き、漫画の世界のように城の構造を無視し、バルーンの中のように城がぐにゃぐにゃと歪む。一体何が起こっているのか、その時だった。城の門が勢い良く開き、中から黒い影が飛び出したのは。
「『コミックハンド』の効果で『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』のコントロールを奪い、トゥーンモンスターへと書き換えマース!」
『ゲシシシシッ!』と不快な笑い声を放ち、現れたのはトゥーンモンスターとしてデフォルメし、コミックの世界の住人となった『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』。今までの鋭いフォルムが嘘のように丸くなり、下品に笑い声を上げて遊矢の眼前に立ち塞がる。
余りのショックに呆然とするユート。遊矢がそんな彼をそーっと覗くと――彼の表情から感情が消え、能面のような顔となった。
「ひぃっ!?」
『殺せぇっ!もう俺を殺してくれぇっ!』
「ええ!?」
――このうすのろがぁっ!装備カードの次はあんな醜悪な姿へとダーク・リベリオンを変えおって!早く何とかしろっ!――
「誰!?」
遊矢を無視し、ユートと誰かの怒りの声が彼を急かす。分からなくも無いが、余りにも突拍子が無いだろうか。困惑する遊矢を尻目に、張本人であるペガサスは爆笑している。
「フフ、アーハッハッハッ!最高デース!どうデスカ?エンタメボーイ!可愛らしくなったデショウ?」
「今アンタのせいでとんでも無い事になってんだけど!?」
「ホワッツ!?い、意味が分かりまセーン!」
クワッ、と目を見開き、爆笑しながらトゥーンと化した『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を自慢するペガサスへと遊矢が怒る。話が見えないペガサスは困惑するだけである。だが今はデュエル中、コホンと咳払いをし、気を取り直してペガサスは手を進める。
「ま、まぁ、良いデショウ……トゥーン・ダーク・リベリオンのORUを2つ取り除き、効果発動!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』の攻撃力を半分にし、その数値分このカードの攻撃力をアップしマース!」
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→1250
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→3750
トゥーン・ダーク・リベリオンの黒翼に嵌め込まれた紅玉から赤き稲妻がバチバチと鳥の囀りのように鳴り響き、コミックの世界だからか効果音が浮かび上がる。そして雷は『オッドアイズ』を穿ち、エネルギーを奪い取る。形こそトゥーンだが、まさかダーク・リベリオンが敵に回るとは思っても見なかった。こうして効果を使われて改めてその強力さを思い知らされる。
「カードを2枚伏せ、ターンエンドデース!」
ペガサス・J・クロフォード LP4000
フィールド『トゥーン・ブラック・マジシャン』(攻撃表示)『トゥーン・サイバー・ドラゴン』(攻撃表示)『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示)
『コミックハンド』セット2
手札2
攻撃力2000越えのモンスター2体に加え、ダーク・リベリオンのコントロールまで奪われた。対する遊矢のフィールドには攻撃力が半減した『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『EMペンデュラム・マジシャン』、『EMジンライノ』とセットモンスター。モンスターはいるが、明らかに不利な状況だ。そんな光景を、隼は静かに沈黙し、観察する。
「……強いな」
「む?意外だな、お前が他人を褒めるとは……」
「俺とて人を褒める時もある。今まではそれ所では無かったがな。しかし奴は強い、下手を打てば俺が代わってやろうと思っていたが――成程、今の遊矢を動かせるのは余裕のある大人である奴と言う事か」
隼が珍しく人を褒めた事に権現坂が反応する。2人共本当ならば自分達が前に出て遊矢の目を覚まそうとしたのだが、暫くの間はペガサスに任せようとなったのだ。彼がそれが出来なかったのなら、押し退けてでも何とかしようと思っていたのだが、今の所、その必要も無い。
何故ペガサスに任せようとしたのかは分からないが――それは恐らく、彼のカリスマと隠れた実力がそうさせたのだろう。
「ふざけているように見えるが、お前も見て来た筈だ。ふざけたように見えて、何よりも真剣なデュエルが、誰かの手を掴んで来た事を。傷ついた心を癒すのは何かを」
クスリと笑みを溢し、隼と権現坂はペガサスと遊矢のデュエルを見守る。子供同士が互いを支えるのだとすれば、大人は子供を導いていく。ならばこの場は大人に任せよう、子供も大人も、それぞれが持つ役割があるのだから。
「ん?そうか……そう言う事か!」
「?どうした、急に笑い出して」
「いや何、ペガサス殿が伝えたい事が、何となく分かってな」
急に何かを閃いたようにおもむろに立ち上がり、笑い出す権現坂。彼にはペガサスが何を伝えようとしているのか分かったのだ。急に立ち上がった権現坂を訝しみ、隼が困惑するも彼はニヤニヤと笑いを止めない。
一体ペガサスは何をしようとし、権現坂は何故その答えに至ったのか――。
「あ、ああ、俺にも分かったぞ、うん、あれだろ、あれ。簡単だよな、うん」
「……お前、絶対分かってないだろ」
謎の対抗意識を燃やし、知ったかぶりをする隼。それを見て、権現坂は思う。こいつが一番、答えに辿り着きそうなのになぁ、と。
「俺のターン、ドロー!俺は『EMドラネコ』をセッティングし、ギタートルのペンデュラム効果でドロー!」
榊 遊矢 手札2→3
「ジンライノをリリースし、『EMスライハンド・マジシャン』を特殊召喚!」
EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500
現れたのは白い仮面に赤い衣装を纏い、下半身が水晶の振り子となったマジシャンだ。多くのデュエルで貢献してくれたこのマジシャンへと、遊矢は望みを託す。
「手札を1枚捨て、スライハンド・マジシャンの効果で『コミックハンド』を破壊!」
「罠発動!『スキル・プリズナー』!その効果を防ぎマース!」
しかしそうは問屋が下ろさない。ペガサスは『コミックハンド』を効果破壊して来る事を見越し、その効果を無効にする。厄介な事この上無い。ならばと遊矢は次の手に移る。
「魔法カード、『置換融合』を発動!フィールドの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『EMペンデュラム・マジシャン』を融合!融合召喚!出でよ!秘術ふるいし魔天の龍!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」
ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000
遊矢の背後に青とオレンジの渦が広がり、竜とマジシャンが溶けて混じり合う。そして閃光が弾け、一筋の光が天に伸び、新たなモンスターへと生まれ変わる。
真紅の体躯を唸らせ、左目を金属で覆い隠し、満月のような金色のリングを背負った巨大な竜。そのモンスターは雄々しい咆哮を放ち、空気を震わせる。
「ペンデュラム召喚したモンスターを素材としたこのカードはこのターン中、相手の効果を受けず、レベル4以下の魔法使い族を素材にした事で2回攻撃が出来る!そしてペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『刻剣の魔術師』!」
EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500
刻剣の魔術師 攻撃力1400
続け様のペンデュラム。振り子の軌跡を描き、フィールドに降り注ぐ2本の柱。降り立ったのは『EM』と『魔術師』だ。どちらも粒揃い、強力な効果でデュエルを有利に進めようとするが――。
「ペンデュラム・マジシャンの効果でこのカードと刻剣を破壊し、『EM』2枚サーチ――」
「させマセーン!罠発動!『トゥーンのかばん』!特殊召喚したモンスターをデッキに戻しマース!」
『デッキバウンス……!?』
これも通してくれないらしい。デッキバウンスと言う破壊よりも恐ろしい除去が炸裂し、ペンデュラム・マジシャンのサーチを阻害する。しかも対象を取らない為、2枚共戻されてしまった。
「ならバトルだ!ルーンアイズで『トゥーン・ブラック・マジシャン』と『トゥーン・サイバー・ドラゴン』へ攻撃!連撃のシャイニーバースト!」
ルーンアイズが背負ったリングが2ヶ所光を放ち、2本の光線が宙を飛ぶ。襲い来る熱線、しかしペガサスは微動だにせずそれを受け入れる。瞬間、爆発。轟音を響かせ、凄まじいスモークがフィールドを覆い尽くす。
『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』自体は効果で攻撃力がアップしている上、トゥーンとなっている為、『トゥーン・キングダム』に守られているが、他のモンスターは射程圏内、これで2体のモンスターを倒した――そう、思った時、スモークが晴れ、そこにあったものは『キシシ』と不快な笑みを浮かべ、『チッチッチ』と指を振る、『トゥーン・ブラック・マジシャン』と、そのボディに傷一つついていない『トゥーン・サイバー・ドラゴン』の姿だった――。
ペガサス・J・クロフォード LP4000→3100
「トゥーンだから平気デース!」
「なっ――!?」
驚くべき光景、目を見張る事実が立ち塞がる。だが丸っきり平気と言う訳では無いらしい。ペガサスのLPが減っている辺り、何らかの形で戦闘破壊を防いだのだと思われるが――。
「『トゥーン・キングダム』の効果でトゥーンモンスターが戦闘、効果で破壊される場合、代わりにデッキトップを裏側表示で除外するのデース!しかもアクションマジック、『ダメージ・バニッシュ』で『トゥーン・ブラック・マジシャン』の戦闘ダメージを0に!残念ながら『トゥーン・サイバー・ドラゴン』には間に合いませんデシタガ」
『面倒な……!』
これでは相手はダイレクトアタックし、こちらが攻撃して破壊しようとすればデッキトップが肩代わりして防がれる。正しく次元が違う。こちらは3次元で闘うのに対し、あちらは2次元ですり抜けて来る。完全な生命体。ふと、遊矢の脳裏にその言葉が過る。
「だがダメージは有効!スライハンド・マジシャンで『トゥーン・サイバー・ドラゴン』へと攻撃!」
「デッキトップを除外し、破壊を防ぎマース!」
ペガサス・J・クロフォード LP3100→2700
「くっ、ターンエンド……!」
榊 遊矢 LP2600
フィールド『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMスライハンド・マジシャン』(攻撃表示)セットモンスター
『EMピンチヘルパー』セット1
Pゾーン『EMギタートル』『EMドラネコ』
手札0
ルールをも味方につけ、強力無比な布陣を敷くペガサス。遊矢はそのトリッキーな動きに翻弄され、手も足も出ない。今まで闘って来た中でも格上の強敵だ。どれすれば良い。思考を張り巡らせ、戦略を練る。こんな時、どうすれば良いのか、考えて考えて考え抜け。思考を止めるな。知恵を振り絞り、ペガサスを見据える。
そんな時――遊矢の頭に浮かんだものは、あるデュエリストの姿、髪をオールバックに流し、眼帯をつけた大柄の男、その名は――バレット。融合次元、アカデミアの人間にして、遊矢が尊敬する、師だった。
「フフ……顔つきが変わっていく……子供が成長するのは早いデース!」
それを迎え撃つはペガサスサーカス団、団長、ペガサス・J・クロフォード。彼はニコリと微笑みながらも、眼前にいる少年を見つめる。
思い起こすのは1人のデュエリスト。ペガサスが旅の中、出会い、互いのデュエルで笑い合った、ハットを被ったエンターテイナー。
口元を綻ばせ、手札の1枚へと視線を移す。緑色のフレームをした、魔法カード。何て事の無い、何の力も無いそのカードのイラストは、色とりどりでカラフルな、表情豊かな円が描かれている。効果もお世辞に強いとは言えないそのカード。その1枚を見つめ、ペガサスはその男の名を思い浮かべる。
(……遊勝……ユーにも、私とエンタメボーイのデュエルを見せてあげたいものデース)
眼前で知恵を絞る少年、その父は――ペガサスの友であり、弟子であった――。
ペガサスの口調がすっげぇ難しい。多分クロノス先生も書くとなったら難しいと思う。何で遊戯王にはこんなに変な語尾のキャラが多いんザウルス。