コナミと沢渡のデュエルが続く中、赤馬 零児はLDS内の研究室に足を運んでいた。その視線の先にはエクシーズ次元のデュエリスト、瑠那が白衣を纏い、せっせとデュエルディスクを操作したり、机の上で並んだカードを見つめ、睨み合いをしている。一体何故彼女がこんな事をしているかと言うと――。
「……どうだ?彼等のカード化はどうにかなりそうか?」
「……残念ながら無理ね、一応、アカデミアのカード化機能は前に解析した事があるのだけど――このカード化は前回と全く別と言って良い、複雑過ぎて無理。せめて黒いのかクリスがいればどうにかなりそうなんだけど……!」
そう、アカデミアの手によってカード化されたデュエリスト達を何とか解放しようと零児が瑠那に助力を申し出たのだ。幸いと言って良いのか、彼女達エクシーズ次元のデュエリストのデュエルディスクには、アカデミアと同じカード化機能がある。
しかしそのカード化機能もアカデミアに対抗する為、即興でつけたお粗末なものに過ぎない。対してアカデミアの機能はグレードアップしていると来た。流石の零児と瑠那も手こずっていると言う訳だ。
悔し気に歯軋りを鳴らし、俯く瑠那。零児とて渋い顔をする他無い。一体どうするべきか、そこまで考えた時、零児のデュエルディスクの通信機能が鳴り響く。一体こんな時間に誰だ、溜め息をつき、瑠那が訝しむように眉根を寄せる。
零児がデュエルディスクのパネルを覗き――その目を僅かに瞠目させる。それも仕方無いだろう、何故なら、相手は意外過ぎる人物。
「ストロング石島――?」
――――――
一方、LDSのデュエルコート、アクションフィールド、『暗黒界の門』にて、コナミと沢渡のデュエルが続けられていた。
コナミのターンが終了し、沢渡のターン、彼はその手より1枚のカードをデュエルディスクに設置する。
「俺のターン、ドロー!墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、クライスをデッキに戻してドロー!」
沢渡 シンゴ 手札4→5
「『魔界劇団―デビル・ヒール』をセッティング!ペンデュラム召喚!『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』!『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』!『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』!」
魔界劇団―プリティ・ヒロイン 攻撃力1500→1800
魔界劇団―ティンクル・リトルスター 攻撃力1000→1300
魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー 守備力700
フィールドに降り立つ3体のモンスター。今度こそプリティでダンディなモンスターが騒がしくフィールドを盛り上げる。可愛らしい少女型の悪魔に髭をたくわえたラップ吹きの悪魔だ。
「まずはワイルド・ホープの効果発動!」
魔界劇団―ワイルド・ホープ 攻撃力1900→2300
4種の団員が揃っている事でワイルド・ホープの攻撃力がアップする。攻撃力2300、フォレストマンの守備力を軽く越えて来た。だがまだまだ、沢渡の手は止まらない。
「そしてダンディ・バイプレイヤーをリリースし、エクストラデッキの『魔界劇団―ファンキー・コメディアン』を特殊召喚!」
魔界劇団―ファンキー・コメディアン 攻撃力300→600
ダンディ・バイプレイヤーと入れ替わるように姿を見せるのは黄色い肌をした、4本腕の唇の厚い太った悪魔。
「ファンキー・コメディアンの召喚時効果により、その攻撃力を『魔界劇団』モンスターの数×300アップする!」
魔界劇団―ファンキー・コメディアン 攻撃力600→1800
「更にファンキー・コメディアンの効果!こいつの攻撃力をティンクル・リトルスターに与える!」
魔界劇団―ティンクル・リトルスター 攻撃力1300→3100
「まだまだぁ!ファンキー・コメディアンをリリースし、アドバンス召喚!『魔帝アングマール』!」
魔帝アングマール 攻撃力2400→2700
攻撃力の強化に続き、沢渡が新たなモンスターを召喚する。暗い漆黒のボディを煌めかせた、マントを纏った悪魔族モンスター。沢渡がクライスと共に投入した帝カードだ。
「アングマールの効果で墓地の火竜の住処を除外し、同名カードをサーチ!ティンクル・リトルスターを対象として発動!さぁ、バトルだ!ティンクル・リトルスターで『竜脈の魔術師』に攻撃!」
「罠発動!『仁王立ち』!フォレストマンの守備力を倍にし、除外して攻撃対象をフォレストマンに絞る!」
E・HEROフォレストマン 守備力2000→4000
と、ここで沢渡の進撃を止めるべく、コナミのフィールドのフォレストマンが竜脈を守るように前に飛び出し、防御の姿勢を取ってティンクル・リトルスターの攻撃を防ぐ。どうやらティンクル・リトルスターの複数回攻撃と火竜の住処でコナミのエクストラデッキを削ろうとした事が仇になったようだ。沢渡は直ぐにバトルを中断し、メインフェイズ2に移行する。
「魔法カード、『一時休戦』を発動」
コナミ 手札1→2
沢渡 シンゴ 手札4→5
「ターンエンドだ。『シャッフル・リボーン』の効果で手札を1枚除外」
沢渡 シンゴ LP3700
フィールド『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』(攻撃表示)『魔界劇団―ワイルド・ホープ』(攻撃表示)『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』(攻撃表示)『魔帝アングマール』(攻撃表示)
『魔界大道具「ニゲ馬車」』
Pゾーン『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』『魔界劇団―デビル・ヒール』
手札4
相も変わらず続く沢渡の猛攻、激しさを増す手を掻い潜り、コナミは自分のターンへと漕ぎ着ける。とは言え防御札であるニゲ馬車が厄介だ。全てのモンスターに1ターンに1度の戦闘破壊耐性を与える効果、これがある限り、打点不足なコナミのデッキでは大ダメージを狙えない。
「オレのターン、ドロー!スタンバイフェイズ、ビッグ・スターと刻剣が帰還、フォレストマンの効果でデッキの『置換融合』をサーチし、手札の『曲芸の魔術師』を捨て、『竜穴の魔術師』のペンデュラム効果でニゲ馬車破壊!ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!」
賤竜の魔術師 攻撃力2100
現れたのは1体の『魔術師』。今までとは違い、1体のみのペンデュラム召喚だ。荒々しい粗野な姿で扇を振るう彼はとても『魔術師』とは思えない。
「賤竜の効果で墓地の『慧眼の魔術師』を回収!そして速攻魔法、『揺れる眼差し』を発動!互いのペンデュラムゾーンを破壊し、デッキから『相生の魔術師』をサーチ!そしてビッグ・スターを除外!」
沢渡も発動したカードがコナミの手より炸裂する。これで厄介なビッグ・スターも除去する事が出来た。やっとエンジンがかかって来たコナミを見て、沢渡がニヤリと笑みを深める。
「慧眼と相生でスケールをセッティング!慧眼を破壊し、デッキの『貴竜の魔術師』をセッティング!更に魔法カード、『置換融合』!フィールドの『E・HEROフォレストマン』と『竜脈の魔術師』で融合!融合召喚!『E・HEROガイア』!」
E・HEROガイア 攻撃力2200
「ガイアの効果でアングマールの攻撃力吸収!」
魔帝アングマール 攻撃力2700→1350
E・HEROガイア 攻撃力2200→3550
「墓地の『置換融合』を除外し、Theシャイニングをエクストラデッキに戻し、ドロー!」
コナミ 手札0→1
「バトル!刻剣でティンクル・リトルスターを!賤竜でプリティ・ヒロインを、ガイアでアングマールを攻撃!」
雪崩のようにコナミのフィールドのモンスター達が進撃し、沢渡のモンスターを破壊する。『一時休戦』によってダメージは与えられないものの、これで沢渡のフィールドのモンスターは1体のみ、だが1体たりとも逃す気はない。
「チッ、プリティ・ヒロインの効果でデッキから『魔界台本「魔王の降臨」』をセット!」
「メインフェイズ2、刻剣とワイルド・ホープを除外!ターンエンドだ!」
コナミ LP3200
フィールド『E・HEROガイア』(攻撃表示)『賤竜の魔術師』(攻撃表示)
セット1
Pゾーン『相生の魔術師』『貴竜の魔術師』
手札0
「中々やるじゃねぇか……!俺様のターン、ドロー!魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』!2枚ドロー!ペンデュラムモンスターは1体だ」
沢渡 シンゴ 手札4→6→5
「ダンディ・バイプレイヤーをセッティングし、エキストラを召喚!」
魔界劇団―エキストラ 攻撃力100→400
「リリースしてデビル・ヒールをセッティング!魔法カード、『手札抹殺』で手札を交換!ペンデュラム召喚!『魔界劇団―サッシー・ルーキー』!『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』!『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』!『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』!」
魔界劇団―サッシー・ルーキー 攻撃力1700→2000
魔界劇団―プリティ・ヒロイン 攻撃力1500→1800
魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー 攻撃力700→1000
魔界劇団―ティンクル・リトルスター 攻撃力1000→1300
このデュエル、もう何度目か分からないペンデュラム召喚、揺れ続ける振り子の軌跡はコナミの心情を表しているようだ。だがこれではコナミのモンスターには届かない。ここから先どう出るかとコナミはデュエルディスクを構え、思考を張り巡らせながら沢渡の出方を伺う。待ち切れない、幼子のように。
「ダンディ・バイプレイヤーをリリースし、エクストラデッキのデビル・ヒールを特殊召喚!」
魔界劇団―デビル・ヒール 攻撃力3000→3300
そう来たかと舌を巻く。単純明快、沢渡はこちらより攻撃力の高いモンスターで殴り倒す気なのだ。ファンキー・コメディアンで攻撃力を上げてくるとばかり思っていたが――。
「俺様はエンタメデュエリストだぜ?同じ事ばっか繰り返すなんてつまらねぇ真似するかよ!デビル・ヒールの特殊召喚時、ガイアを対象として効果発動!フィールドの『魔界劇団』モンスターの数×1000ポイント、攻撃力をダウン!」
E・HEROガイア 攻撃力2200→0
白い仮面を被り、大口を開けたデビル・ヒールが駆け出し、ガイアへとラリアットをお見舞いする。身体中の赤き宝石が砕け弱体化するガイア。これは不味い。デビル・ヒールでガイアに攻撃されては大ダメージは必死だ。
「リバースカードオープン!魔王の降臨!破壊するのは賤竜とペンデュラムカードだ!バトルだ!デビル・ヒールでガイアに攻撃!」
「罠発動!『マジカルシルクハット』!」
「構うか!右のシルクハットに攻撃!」
だがコナミもここで終われない。またもや3つのシルクハットが降り、沢渡の視界を遮る。しかし彼はカードに選ばれ過ぎた男、直ぐ様ガイアが入っているシルクハットを見抜き、デビル・ヒールが中のガイアごとシルクハットを叩き潰す。
強力な一撃、これには堪らずガイアも吹き飛び、粉々に砕け散る。『HERO』がヒールに負けると言う、何とも奇妙な光景だ。
「デビル・ヒールの効果で魔王の降臨をセット!まだ行くぜ!ティンクル・リトルスターで2つのシルクハットに攻撃!サッシー・ルーキーでダイレクトアタック!」
「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」
「ハッ、カードを1枚伏せ、ターンエンドだ。さぁ、もっともっと盛り上げろ!」
沢渡 シンゴ LP3700
フィールド『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』(攻撃表示)『魔界劇団―デビル・ヒール』(攻撃表示)『魔界劇団―サッシー・ルーキー』(攻撃表示)『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』(攻撃表示)
セット2
Pゾーン『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』『魔界劇団―デビル・ヒール』
手札1
押しては返す波のように、コナミの攻撃を、展開を、全力で返す沢渡。逆境を越えたと思えばまた逆境、怒濤の展開に、コナミのデュエリストとしての魂に火が灯る。ドクン、ドクンと心臓がうるさい位に鳴り響く。熱い血流が身体中を駆け巡る。
ああ、ああ、失意の底にいたと言うのに、どうしてこんなにデュエルは――。
「黒門がよ」
ハァ、と溜め息を溢し、沢渡が仕方がない奴だと言いた気に呟き、コナミが振り向く。
「何でお前を慕ってたのか、分かんねぇのか?」
「――」
それは――と言いかけて、コナミは返す言葉を失う。そうだ、一体何故、暗次は自分を慕ってたのだろうか。こんなに、どうしようも無いコナミの事を。ただ1度助けられたからでは納得がいかない。何故だろう、とコナミが疑問を浮かべ――沢渡が呆れたように、また深い溜め息をつく。
「お前に少しでも光があったからだろ、お前がどうしようも無い事をどうにかして来たからだろ、お前が折れても立ち上がって来たからだろ。――黒門の信じたお前を信じてやったらどうだよ。お前が例えどうしようも無いクズだろうがな、子分の想いに応えてやるのが、兄貴分って奴だ」
「――」
人は、誰しもが光に導かれる。眩く光っていても、鈍く光っていても、光が差す方向へと、惹かれていく。暗次もまた、コナミに光を見出だしたのだ。だからこそ、暗次はコナミに未来を託した。
ああ、何て馬鹿なんだろうか、自分は暗次の想いを、踏みにじっていたのだ。
確かに、彼を失った悲しさも大事で、暗次の事は忘れてはいけない事だ。だけど――彼はまだ、死んだ訳じゃない。取り戻せる可能性がある。何時か彼が帰って来た時に――こんな姿をしていては、兄貴分として、立つ瀬がない。
「黒門の事を忘れるな、なんて言ってる訳じゃねぇ、むしろあいつを想うなら――託されたものは、ちゃんと受け取ってやれ」
沢渡とて、子分を3人引き連れる男だ。だからこそ、子分の想いに応えようとしないコナミを叱咤しているのだ。同じ光を放つ者として、兄貴分として。
「……お前、意外と良い奴だな」
「知らなかったのか?何なら子分にしてやっても良いんだぜ?」
「いや――オレは、兄貴分で良い」
ニヤリ、と互いに不適な笑みを溢す2人の兄貴分。まだコナミからは迷いが振り切れていないが――これならば大丈夫だろうと、沢渡が口元を吊り上げる。
最後まで見てやる程の義理は無い。ここからはコナミが覚悟を決める番だ。スゥーと息を大きく吸い込み、コナミは右手で赤帽子を被り直す。
「行くぞ――シンゴ!」
「ハンッ、来いよ!コナミ!」
立ち上がるコナミ。それを迎え撃つ為、沢渡が吠える。暗次の信じたコナミとして――デッキトップに右手を翳し、勢い良くドローする。天に描く虹色のアーク、雨は上がった――。
「オレのターン、ドロォォォォォッ!!」
引き抜いたカードは逆転の引き金、このどうしようも無い逆境をどうにかする為、コナミは直ぐ様カードをデュエルディスクに叩きつける。
「この瞬間、刻剣とワイルド・ホープが帰還、もう1度除外!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』、『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』、『No.39希望皇ホープ』、『スターダスト・チャージ・ウォリアー』、『E・HEROエアーマン』をデッキに戻し、2枚ドロー!」
コナミ 手札0→2
「ここに来て手札増強カードか……!」
「やっとらしくなって来たじゃない!」
コナミが漸く本調子に戻った事を確認し、管制室の北斗達が安堵の笑みを浮かべる。刃も「やっとかよ」とぼやいてはいるが、口元の笑みは隠し切れない。
「魔法カード、『アメイジング・ペンデュラム』!エクストラデッキの相生と慧眼を回収!セッティングし、慧眼を破壊し、『相克の魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『竜脈の魔術師』!『竜穴の魔術師』!『慧眼の魔術師』!『ジャンク・コレクター』!」
賤竜の魔術師 攻撃力2100
竜脈の魔術師 攻撃力1800
竜穴の魔術師 守備力2700
慧眼の魔術師 攻撃力1500
ジャンク・コレクター 守備力2200
フィールドに集う5体のモンスター。浅黒い肌、翠玉をあしらえた衣装を纏い、扇を振るう『賤竜の魔術師』。白いコートを羽織り、上下に刃を持った短刀を構える『竜脈の魔術師』。そしてその師である、錫杖を持った『竜穴の魔術師』。秤を持ち、瑠璃の珠を衣装にあしらえた銀髪の『慧眼の魔術師』。そして身体中に包帯を巻き、ガラクタを集める者、『ジャンク・コレクター』。これが――コナミの全力。
「賤竜の効果で『慧眼の魔術師』を回収!墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『相生の魔術師』をデッキに戻し、ドロー!」
コナミ 手札2→3
「更に『ジャンク・コレクター』と墓地の『エレメンタルバースト』を除外し、その効果をコピー!お前のフィールドのカード全てを破壊!」
瞬間、『ジャンク・コレクター』の姿が光に包まれ飛び散り、4つのエレメントとなって沢渡のフィールドに襲いかかる。燃え盛る灼熱の炎が、巨大な壁と見間違うような津波が、吹き荒れる竜巻の数々が、激しい轟音を響かせ、地が裂け、串刺しにする。
コナミが持つ最強の除去札が、沢渡のフィールドをまっさらにする。
「へっ、上等!破壊された『魔界台本「魔王の降臨」』の効果でデッキから『魔界劇団―ビッグ・スター』と『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』をサーチ!」
「まだだ!『慧眼の魔術師』をリリースし、デッキの『オッドアイズ・ドラゴン』を墓地に送る事で手札のこいつを特殊召喚する!出でよ、絶望の暗闇に差し込む、眩き救いの光!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』ッ!!」
オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800
2色の虹彩を輝かせ、白銀の鎧を纏い、金色の剣を背負った、雄々しくも美しい竜が現れる。遊矢から受け取った、中々コナミに心を許してくれなかったカードだ。デイビット達とのデュエルで漸く認めてはくれたが――コナミはもう1度、このカードに新たな関係を求める。そう――命じるのでは無く、求める。
「友として――闘ってくれないか?」
頭を垂れる竜を優しく撫で、その口元に薄い笑みを浮かべるコナミ。その表情はどこか不安そうに見える。そんな彼に、剣の竜は――。
任せておけ、と言わんばかりに頼もしい遠吠えを上げる。まるでその光景は――あの時、漆黒の龍神の背に語りかけ、認められた不良少年を思わせる、絆が繋がった瞬間だった――。
「行こう――オレは『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』のレベルを3つ下げ、墓地の『貴竜の魔術師』を特殊召喚!」
オッドアイズ・セイバー・ドラゴン レベル7→4
貴竜の魔術師 守備力1400
「レベル4のセイバーにレベル3の貴竜をチューニング!シンクロ召喚!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!!」
「効果でペンデュラムゾーンの『相克の魔術師』を特殊召喚!」
相克の魔術師 攻撃力2500
「竜穴と相克でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』!!」
オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力2800
「慧眼を召喚!」
慧眼の魔術師 攻撃力1500
「慧眼と竜脈でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『No.39希望皇ホープ』!」
No.39希望皇ホープ 攻撃力2500
「『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』はバトルフェイズ中、モンスター効果を封じる……!」
「『速攻のかかし』や『バトル・フェーダー』を封じた……!」
「これが通れば……!」
「コナミさんの勝ち……です……!」
今までの逆境を覆し、一気にゲームエンドまで持っていく布陣を整えたコナミの腕に興奮する4人。だがそれに対し、沢渡の子分である山部、柿本、大伴はフッ、とキザったらしく笑い、やれやれ分かってねぇなぁと言わんばかりに顎を突き出して目を細める。
所謂ドヤ顔。非常にウザい態度に勝ち気で短気な真澄は拳を握り締め、暴れる。殴らなかったのは北斗と刃が両肩を掴み、「真澄ん、どうどう」やら「女の子はおしとやかにね?」と必死に食い止めるからだ。そんな猛獣、真澄んに怯え、目尻に涙を溜めながらも山部達が口を開く。
「わ、分かってねぇなぁ、真澄んは」
「あん?」
「ひっ、こっ、光津さんの仰る事は、非常に分かるのですが」
声を震わせ、馴れ馴れしく真澄ん呼ばわりする柿本。しかしそれが逆鱗に触れたのか、真澄がただでさえ北斗と刃にキツい目付きと言われている紅玉の眼を鋭くし、女の子が出してはいけないような、地の底から響くような低い声音で威嚇する。
最早3人は泣いているし漏らしそうである。思わず敬語になる山部。
「さっ、沢渡さんのエンタメデュエルはまだまだこれからなんやで……」
「声が震えてんじゃないの」
「お前が怖いからだろ……」
とは言え――彼等の台詞は簡単に切り捨てられるものではない。沢渡はまだ、エンタメデュエルの本番を告げる、例の口上を放っていないのだ。それにここまで優勢で進んできた彼がここで終わるとは思えない。一体どうやってこの窮地を乗り越えるのか。
「バトル!アブソリュートとホープで攻撃!」
コナミのフィールドのモンスターが咆哮を上げ、それぞれの力を集束し、球体状のエネルギーを作り出し、沢渡へと撃ち出す。放たれた力は渦巻く一筋の閃光となって大地を抉りながら沢渡に迫り――直撃する。
「やったか!」
「おいバカやめろ」
「何でそれ言っちゃうのよアンタは!」
激しい轟音を響かせ、爆発。モクモクと白煙が立つ光景を見て、思わず北斗が叫ぶ。そのフラグビンビンの台詞に刃と真澄がガチめのトーンで北斗を責め、北斗が膝をついて地面に「の」の字を書き始める。そして予想通り、煙が晴れたそこには――。
「ハッハー!墓地の『光の護封霊剣』を除外しぃ、俺様大脱出!やっぱ俺、カードに選ばれスギィ!」
髪を掻き上げ、参ったとばかりに、それでいて嬉しそうに白い歯を見せ、高笑いを放つ、沢渡の姿。フラグは回収されてしまった。
「「「流石ッスよ、沢渡さぁーんっ!!」」」
「くっ、ビビってた癖に……!」
沢渡の無事を確認し、取り巻き3人がその表情に笑顔を浮かべ、押さえ切れないと言った風にそれぞれガッツポーズを取る。反対に唇を噛み、残念そうにする4人、しかし、当の本人であるコナミは――。
「面白い……っ!」
ニヤリと口元を吊り上げ、深い笑みを浮かべる。今までの――彼と同じく、心からデュエルを楽しむように――。
「オレはこれでターンエンドだ!」
コナミ LP3200
フィールド『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』(攻撃表示)『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』(攻撃表示)『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『賤竜の魔術師』(攻撃表示)
手札0
これでコナミのターンは終了し、沢渡のターンへ、一体この布陣をどう切り抜けるのか、この場全員が興味深そうに見いってしまう。それが――沢渡の原動力、何だかんだで、皆が彼等のデュエルを楽しんでいるのだ。ならば答えてやるしかあるまい。沢渡はその両手を大きく広げ、あの口上を言い放つ。
「Ladies and Gentlemen!お楽しみは、これからだぁっ!!」
デッキトップに右手を乗せ、勢い良く引き抜く。火花を散らし、虹色の輝きが放たれる。天に描かれる美しきアーク。スポットライトが彼に向けられ、コナミが食い入るように彼の一挙一動を逃すまいと視線を向ける。
「さぁ、行くぜ!『魔界劇団―デビル・ヒール』と『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』をセッティング!さぁ、準備は整った!ペンデュラム召喚!『魔界劇団―ビッグ・スター』!!『魔界劇団―デビル・ヒール』!『魔界劇団―ワイルド・ホープ』!『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』!『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』!」
魔界劇団―ビッグ・スター 攻撃力2500→2800
魔界劇団―デビル・ヒール 攻撃力3000→3300
魔界劇団―ワイルド・ホープ 攻撃力1600→1900
魔界劇団―プリティ・ヒロイン 攻撃力1500→1800
魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー 攻撃力700→1000
沢渡もコナミに対抗し、フィールドに5体の『魔界劇団』を並び立たせる。『魔界劇団』の大スター、エースモンスターであるビッグ・スター。悪魔らしい巨体に白き仮面、大きな口を開いた悪役、デビル・ヒール。V字を描いたハットを被り、光線銃を持った期待の新人、ワイルド・ホープ。劇団の麗しき姫君、プリティ・ヒロイン。白い髭をたくわえたラッパを鳴らすダンディ・バイプレイヤー。騒々しくも楽しい彼等の存在がデュエルを輝かしいものにする。
「デビル・ヒールの効果!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』の攻撃力をダウン!」
オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500→0
「ダンディ・バイプレイヤーをリリースし、エクストラデッキのファンキー・コメディアンを特殊召喚!」
魔界劇団―ファンキー・コメディアン 攻撃力300→600
「ファンキー・コメディアンの効果を発動!」
魔界劇団―ファンキー・コメディアン 攻撃力600→2400
「そしてこの攻撃力をビッグ・スターに!」
魔界劇団―ビッグ・スター 攻撃力2800→5200
舞台はフィナーレへと向かう。炎の竜が『魔界劇団』の絆で弱体化し、逆にビッグ・スターに力が集束し、まるで竜を退治する勇者のような姿へと変身する。
「アブソリュートとホープをリリースし、『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』をお前のフィールドに特殊召喚!」
溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム 攻撃力3000→3300
2体のエクシーズモンスターを贄とし、現れるマグマの魔神。これで攻撃無効も攻略した。
「アブソリュートの効果でエクストラデッキのボルテックスを特殊召喚!!」
オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン 攻撃力2500
「ボルテックスの効果でビッグ・スターをバウンス!」
「墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、無効!さぁ、終幕だ!ビッグ・スターで『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』へ攻撃!」
ビッグ・スターが光輝く剣を手にし、『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』を胸を穿つ。決着、LPが削られ、デュエル終了のブザーが鳴り響く。
コナミ LP3200→0
光の粒子となって消えるフィールド、勝者、沢渡 シンゴ。今までのリベンジを果たし、彼は勝利を掴み取った――。
「負け、か……」
「借りは返したぜ」
倒れ伏すコナミを見て、満足そうに笑みを向ける沢渡。対するコナミは――負けたと言うのに、清々しい笑みを浮かべる。迷いは晴れた。
コナミは身体を起こし、こちらへ手を差し伸べる沢渡を見て、ポカンと呆けた表情を見せた後、その手を取って立ち上がる。
「行くぜ、もう1人の馬鹿の所に」
「……ああ」
向かう場所は遊勝塾、榊 遊矢の下へ――。
――――――
そしてその頃、遊勝塾では、1度に多くの事を受け、失意の底に沈み、落ち込む遊矢と、それを心配そうに見つめる仲間達の姿があった。
原因は分かっている、素良を救えなかった事、バレットの裏切り、そして――遊矢の心の支えとなっていた、柊 柚子の行方不明。その3つが同時に襲いかかり、遊矢の心がパンクしたのだ。確かに並外れた精神力を持った遊矢だが、彼はまだ中学生の少年。
親友、自分に道を示してくれた師、大切な幼馴染みが1度に失われたのだ。その負荷は大きい。傍にいるユートもかける言葉に迷っているのか、彼の傍に立ち、無言で見守っている。
「くっ、遊矢……!」
「……情けない奴だ、あれだけ俺に大口を叩いておいて……!見てられん!俺が何とかしてやる!」
「黒咲……!ならば俺も……!」
そんな遊矢を心配し、権現坂と隼が名乗りを上げる。親友が腑抜けているのだ、じっとなんてしてられない。そんな彼等を見て、遊矢の母である洋子が1枚のカードを手に、ある決心をした時だった。突如そのカードがひょいと奪われ、見知らぬ長身の男が人の良い笑みを浮かべていたのは。
「OH!失礼マダム、それにボーイ達!ここは私に任せてくだサーイ!」
「えっ、ちょっ、ちょっと貴方誰!?あ、あらやだイケメン……!」
「なっ、貴様何を……!」
「お、おい!名前くらい名乗ったらどうだ!」
外国人なのか、上下赤のスーツを纏ったその男は長い銀髪を揺らしながら胡散臭い日本語で3人を押し退け、遊矢の下へ鼻唄を歌いながらスキップで進んでいく。
一体何者なのか、突然現れた男に権現坂と隼が目を丸くし、引き止めようとするが、後ろに目がついているかのようにひょいひょいとかわされる。思わず足を滑らせ、その場に倒れる2人。そんな時、洋子の背後から数人の男達が息を切らして現れる。
1人はまるで『ドリル・バーニカル』のような紫色で幾つものドリルが巻かれたような髪をし、顔に戦化粧、世紀末ファッションに身を包んだ大男。1人はアロハシャツにスーツ、薄汚れたハットを被った2枚目の男。1人は小柄な身体でピエロのようなイメージがつきまとう男。
まるでサーカス団のような出で立ちをした彼等を見て、洋子がギョッ、と目を剥くが――1人だけ、見覚えがある男がいた。世紀末ファッションの大男だ。
「ス、ストロング石島ぁっ!?」
「ハァ……ハァ申し訳ない奥方……!こんな不法侵入のような真似をして……後、うちの馬鹿団長が本当にすまない……!目を離すと何時もこうだ……!」
「全くあの人は自由過ぎるぜ……!俺も人の事言えないけどよ」
「イ……イーヒッヒ……!団長の方から観光を申し込んでおいて……!」
それぞれ息を切らし、団長と呼ばれた銀髪の男に向けて視線を飛ばす。その中には苛立ちが含まれている。
「あっあの……あの人……貴方の知り合い……?」
「……あの人は私達を勝手にスカウトしたサーカス団の団長……!」
洋子が団長の背を指差し、問いかける。すると団長は遊矢の前で屈んでデュエルディスクを構え、人の良い笑みを向ける。自分に影が差し込んだ事で俯いていた顔を上げ、虚ろな表情で団長を見て遊矢が口を開く。
「……貴方は――?」
「私の名前はペガサス・J・クロフォード。エンタメボーイ、私にユーのデュエルを見せてくだサーイ!」
愉快なデュエルの、幕が上がる――。
?「ヘーイ、マスター!私は某国生まれのホイール・オブ・フォーチュンデース!愛を食らいなサーイ!マインドクラァッーシュッ!(物理)」
元ジャック「ぐぁぁぁぁぁっ!?」クルクルドガッシャァァァァ!
D-ホイールこれくしょん、Dこれ。