遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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VSデイビット&マッケンジー決着回。そして今回からチャンピオンシップ最終戦となります。でもチャンピオンシップが終わっても何話か2章が続いたり。


第76話 最高のコンビ

長く続くアカデミアの侵略、それを退けるべく、闘う4人のデュエリスト。その命運が今、尽きようとしていた。しかし彼等の表情にあるのは、後悔では無く、期待。次の者へと渡す希望のバトン。

 

「――ミッチー!九庵堂!」

 

「兄者!」

 

長い地を踏み越え、駆けつけた遊矢と隼、アリトと月影。しかし――彼等の手〝も〟また届かない。日影達のLPが0を刻み、オベリスク・フォース達のデュエルディスクより紫色の光が閃く。

やめろ、制止の言葉が飛び出る前に――4人のデュエリストが、カードに変えられ――。

 

「させっかよぉ!」

 

『乱入ペナルティ、2000ポイントダメージ』

 

眩き銀の軌跡が弧を描き、紫色の閃光を弾く。続けて宙より撃ち出され、4人の危機を救ったカードの手裏剣がくるりと回転して地面に突き立てられ、3つの人影が日影達の前に降り立つ。

一体何が起きている。目をパチクリと瞬かせ、戸惑う4人を尻目に、現れた3人はデュエルディスクを構え、闘志を剥き出しにする。

1人は黒い長髪、前髪を目の上で切り揃え、ルビーのように輝く瞳を持った少女。1人は無造作に伸ばした茶髪に鋭い目、八重歯が特徴的な、竹刀を手にした小柄な少年。1人は北斗七星を象った髪飾りをつけ、表情に溢れんばかりの自信を纏った少年。そう、この3人は――。

 

「天知る!」

 

「地知る!」

 

「人ぞ知る!」

 

遊矢達を時に苦しめ、闘って来た3人組――。

 

光津 真澄 LP4000→2000

 

刀堂 刃 LP4000→2000

 

志島 北斗 LP4000→2000

 

誰が呼んだか、LDSトリオ。彼等がそれぞれポーズを取り、その背後から赤、青、黄、と信号機の如き色合いの爆煙が上がる。このどうしようも無いピンチに現れた正にヒーロー。

しかし4人としては何とも複雑な心境である。喜ぶべきなのだろうが、実際日影がその目をジトッ、としたものへ変え、3人を睨む。

 

「……助けてくれたのは有り難いが、マシな登場は無かったのか……」

 

「美味しい所を持っていくとは……悔しいですねぇ」

 

「はは……」

 

「何や助かったんか!?おおきにぃ!」

 

それぞれ全く異なる反応を見せる4人だが、その表情はどことなく嬉しそうだ。駆けつけた遊矢達もほっと胸を撫で下ろし、3人に心の中で感謝を送る。何故心の中かと言うとやはり戦隊風の登場が空気をぶち壊したからだろう。いや、4人がカード化されるのは嫌なのだが。そんな事を考えていると北斗がくるりと振り向き、遊矢達へと声をかける。

 

「遊矢、黒咲さん!ここは僕達に任せて先に!」

 

「上から見たけどその先に素良がいたわ!あんたの同門なんだからケリつけなさい!黒咲さんも安心してください!貴方に鍛えられた腕を今こそ見せる時!」

 

「とっとと終わらせてやるよぉ!二階堂道場で暗次とねね、黒咲さんと共に編み出した禁じ手ハンデス解禁だ!行くぜ『レスキューキャット』!」

 

何やら3人共妙に隼に対し、凄い信頼を寄せて来るが本人としては全く身に覚えが無い。遊矢が知り合いなのか?と言う視線を送った途端、口元を引き吊らせてとんでも無い勢いで首を横に振りまくる。しかし彼等の報告で聞き逃せないものがあった。この場所に素良が来ている。遊矢はその言葉に頷き、直ぐ様また駆けていく。その先に――友がいると信じて。

 

――――――

 

少年は、確かに変わっていたのだろう。遠い昔は、こんな激情が湧く事等無かった。感情自体はあったのだろう、笑う事も、怒る事も。しかし、涙は一筋も流さなかった。目の前で旧知の友が消えようと、悲しい、寂しいと思う事はあっても、泣く事は無かった。絶望を味わって尚である。

 

弱くなったと言えばそうだろう、力も、心も。昔ならばこんな事にならなかっただろう。それこそ、この程度の強者、歯牙にもかけない圧倒的な力があった。この悲劇を起こさぬ、理不尽さを持っていた。

彼を知る者ならば弱くなったと言うだろう、しかし、同時にこう言う筈だ。彼は、変わったと。

 

「……ふぅん……ケナミのおまけ程度にしか思ってなかったけど、随分と健闘したじゃないか、えっと……あん、あんー?」

 

「アンジー、だったかしら?久し振りに楽しめたわ。ケナミも良かったわね、助かって……」

 

不躾にも、2人が言葉を発する。そこには暗次に対する賞賛はあっても、達成感はあっても、彼に対する想いが無い。酷く不快な声、苛立ちを募らせる音、それがコナミの神経を刺激し、逆撫でる。

胸の奥からふつふつとどす黒いものが沸き上がり、その止めどないエネルギーが糸の切れたコナミの身体を立ち上がらせ、幽鬼の如くフラフラと足取り危うく2人へ向く。ギリリ、その口より歯軋りが響き、唇から赤い鮮血が溢れ落ちる。

 

「……れ……」

 

「……ん?」

 

小さな、本当に小さな呟き、乾き、掻き切れそうなガラガラの声でコナミが何かを発し、デイビットが無神経にも片目を伏せ、もう一方の片目を丸く開き、それを拾い上げる。その動作さえも――コナミの癪に触る。

瞬間、2人の背筋に氷が入れられたような冷たいものが這う。何か、化物の爪に掴まれたような感覚、それが襲いかかり、2人の表情が一気に変わる。

 

「黙れ……!」

 

途端にコナミを中心として烈風が吹き抜け、激情の刃が2人へ向けられる。静かだが明確な激昂、どす黒く濁ったその感情の名は――怒りだ。

自身の身を焦がす程熱く燃え盛る怒りの炎がコナミの中で渦巻き、発露されている。その事実に、2人は怯える事も無く、むしろ待っていたとばかりに歪んだ笑みを浮かべる。

 

「ふふ……やっと楽しめそうだわ、私はこれでターンエンドよ!」

 

レジー・マッケンジー LP7500

フィールド『天空勇士ネオパーシアス』(攻撃表示)

『神の居城―ヴァルハラ』『コート・オブ・ジャスティス』

『天空の聖域』

手札0

 

ビリビリと空気が震撼し、酷く張りつめる。緊迫した状況、呼吸も許さぬ中、コナミは暗次のカードを大切に、大切に手に取り、ジャケットのポケットへと入れる。

そのまま静かに右手をデュエルディスクに翳す。するとボウッと白と黒の淡い光が一瞬だけ閃き――。

 

「ドロォォォォォッ!!」

 

暗黒のアークが、宙を染め上げる。

 

「『相克の魔術師』の効果でネオパーシアスの効果を無効に!」

 

天空勇士ネオパーシアス 攻撃力7750→2300

 

「速攻魔法、『揺れる眼差し』を発動!ペンデュラムゾーンのカードを全て破壊し、その枚数分効果を適用!まず1枚目!貴様等に500のダメージを与える!」

 

デイビット・ラブ LP2650→2150

 

レジー・マッケンジー LP7500→7000

 

「2枚目!デッキからペンデュラムカード、『降竜の魔術師』をサーチ!そして魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『No.39希望皇ホープ』、『閃光竜スターダスト』、『ジャンク・コレクター』、『E・HEROブレイズマン』、『スターダスト・チャージ・ウォリアー』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札5→7

 

「竜脈と慧眼でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『No.39希望皇ホープ』!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

現れたのは黄金の鎧を纏い、純白の翼を広げた希望の皇。だがこれはモンスターゾーンを空ける為の召喚に過ぎない。コナミは怒りのままに手を進め続ける。

 

「そして墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、ホープを戻してドロー!」

 

コナミ 手札7→8

 

「儀式魔法、『オッドアイズ・アドベント』!相克をリリースし、儀式召喚!『オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン 攻撃力2800

 

大地が隆起してひび割れ、竜のアギトの如く開いた地面が『降竜の魔術師』を食らう。贄によって儀式が成立し、地面より『オッドアイズ・ドラゴン』が飛び出し、捲れ上がった土が鎧となる。鉄の如く重く不動なる竜が大山を背負って降り立つ。響き渡る重音、2体の竜が揃い、共鳴するように雄叫びを上げる。

 

「破壊された『妖刀竹光』の効果で『魂を吸う竹光』サーチ、グラビティ・ドラゴンの効果で相手の魔法、罠をバウンス!この効果に相手はチェーンは出来ない!」

 

「チェーン不可の『ハリケーン』……!」

 

「降竜と慧眼でペンデュラムスケールをセッティング!慧眼を破壊し、『竜穴の魔術師』をセッティング!降竜の効果でネオパーシアスをドラゴン族に変更!更に『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』のレベルを3つ下げ、墓地の『貴竜の魔術師』を特殊召喚!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン レベル7→4

 

貴竜の魔術師 守備力1400

 

次なる手はコナミの持つオンリーワンのモンスター、ペンデュラムチューナーの肩書きを持った幼き『魔術師』だ。純白の衣装を纏い、紅玉の瞳を開き、剣の竜を従えるように前に立つ。吼え猛り、目を輝かせる竜、そんな暴れ馬を一瞥し、コナミは小さく呟く。

 

「従え」

 

たった一言、それだけで――あれだけコナミの言う事を聞かなかった『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』がピタリと止まり、コナミに2色の虹彩を移す。そして竜は感じ取る。

コナミが自らの根源、怒りを剥き出しにしている事を。強く、激しい怒り、それを認めた途端――竜は突然、頭を垂れる。それはまるで、コナミを〝主人〟として受け入れた光景。

皮肉な事に、大事なものを失って初めて、コナミは新たな力を得たのだ。その事実として、コナミのエクストラデッキが淡い光を帯びている。

 

「往くぞ、レベル4となった『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』にレベル3の『貴竜の魔術師』をチューニング!シンクロ召喚!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

『貴竜の魔術師』の身体が3つのリングとなって弾け飛び、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』を包み込む。更に『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』から色素が抜け落ち、一筋の閃光がリングを貫き、剣の竜の姿を大きく変える。

『オッドアイズ・ドラゴン』を基本とした二足歩行の竜の姿を激しく燃える赤に変え、大地を踏み砕き、炎を流し込み、火柱を上げる。その様は正にコナミの中で暴れ狂う灼熱の怒り。

だがこれ程の炎でも、コナミの心中を表すには不足している。

 

「メテオバーストの特殊召喚時、ペンデュラムゾーンの『降竜の魔術師』を特殊召喚!」

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

これだけではコナミの怒りは収まらない。炎の竜が天へと咆哮すると共に、コナミの背後にあった柱が砕け散り、中にいた『降竜の魔術師』が竜の背に降り立つ。

 

「更に魔法カード、『置換融合』!フィールドの『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』と『賤竜の魔術師』で融合!融合召喚!『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン 攻撃力2500

 

次は荒れ狂う嵐と鳴り響く轟雷。炎の竜と風の『魔術師』が突如コナミの背後に出現した青とオレンジの渦に吸い込まれ、またもその姿を変える。

深い緑に染まった身体、2対4枚の翼、嘴のように尖ったアギト、3体目の竜が今、降臨した。

 

「そして『賤竜の魔術師』をセッティングし、ペンデュラム召喚!『竜穴の魔術師』!」

 

竜穴の魔術師 守備力2700

 

シンクロ、儀式、融合と立て続けに異なる召喚法を操り、今度は振り子の召喚法、ペンデュラムによってコナミのフィールドに1体のモンスターが現れる。

竜を操る熟練の『魔術師』、竜穴は杖を振るい、地に突き刺す。

 

「竜穴と降竜でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力2800

 

天空に星を散りばめた渦が広がり、2体の『魔術師』が光となって交差し、渦へと飛び込む。瞬間、小爆発がフィールドを震撼し、砂煙が風に運ばれ吹き荒ぶ。そして突如その砂煙より白い雪が散り、もう吹雪がデイビット達の視界を覆う。

大地が氷結し、吹雪の中から現れたのは絶対零度の青白い竜。胸の宝玉を氷の結晶で覆い、冷気を漂わせるその竜にデイビット達が口元を引き吊らせる。

 

「ハ、ハハハハハ!儀式、融合、シンクロ、エクシーズにペンデュラム!Wonderful!やはりYouは――」

 

「黙れ、聞く耳持たん。魔法カード、『死者蘇生』。墓地のメテオバーストを特殊召喚!!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

儀式、融合、シンクロ、エクシーズ。4種の召喚法によって別れた竜の揃い踏み。とんでもない布陣に2人が口を開き呆然とする。

しかしコナミは違う。これでも尚足りない。昔の自分ならば、この布陣をも凌駕する、圧倒的な力を持っていたと言うのに――今は、力の無さが歯痒くて仕方無い。

 

「貴様等の相手等、オレのような奴で充分だ、バトル、『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』でネオパーシアスへ攻撃!『降竜の魔術師』を素材に融合、シンクロ、エクシーズ召喚したモンスターはドラゴン族と戦闘する場合、攻撃力が倍となる!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力2800→5600

 

「馬鹿なっ!?ネオパーシアスは天使族……ッ!『降竜の魔術師』のペンデュラム効果……!」

 

「失せろ」

 

レジー・マッケンジー LP7000→3700

 

『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』がその口元に冷気を集束させ、絶対零度の氷弾を構成し、ネオパーシアスへと撃ち出す。高速で射出された氷はネオパーシアスの胸を穿ち、その身体を吹き飛ばし、火山へと磔にする。更に氷は身体中を侵食して氷結させる。

それだけではない。後から続き、追従する猛吹雪がマッケンジーのLPを凍てつかせ、削り取る。

 

「あああああ――っ!?」

 

「ボルテックスで攻撃」

 

レジー・マッケンジー LP3700→1200

 

畳み掛ける追撃。天空に座す嵐と雷の竜が暴風を起こし、稲妻を落とす。圧倒的な天候、降り注ぐ猛威にマッケンジーのLPが更に削られる。

 

「かふっ――!」

 

「マック!」

 

「安心しろ、これが終われば次はお前だ。『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』、やれ」

 

ギロリ、マッケンジーを心配し、思わず叫ぶデイビットに対し、コナミがその赤帽子の奥底に眠る瞳で睨む。有無を言わせぬプレッシャーを受け、デイビットは息を呑んで後ずさる。

そしてかけられるマッケンジーのとどめ。メテオバーストがその脚で地を踏み抜き、地面が膨れ上がり、隆起して火柱を上げ、マッケンジーへと向かう。

 

レジー・マッケンジー LP1200→0

 

「――!」

 

あれだけコナミ達を追い詰め、暗次を倒した少女の余りにも呆気ない終わり。吹き飛ばされ、マッケンジーのデュエルディスクが作動し、アカデミアへと強制送還される。

 

「『オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン』で攻撃」

 

「ぐ――!」

 

放つ声に一縷の感情すら込めず、地の竜へと指示を出し、竜はメテオバーストと同じく大地を踏み締め、ひびを走らせ隆起して土の刺がデイビットへと迫り――。

 

「『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』のORUを1つ取り除き、この攻撃を無効に」

 

ピシリ、刺が凍りつき、氷のオブジェが完成する。雪の結晶を散らし、幻想的な光景が広がっていく。突如の攻撃停止、助かったのかと目を瞬かせるデイビット。

しかしそんな筈が無い。この怒りは――収まらない。

 

「そしてその後、墓地の『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』を特殊召喚する――!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

現れたる5体目の『オッドアイズ』の名を冠する竜。金色の剣を背負う鎧の竜が再び目を覚まし、フィールドに咆哮する。その雄叫びに4体の竜も共鳴するかのように喉を鳴らす。

圧倒的な力、並び立つ竜を見て、デイビットの口元が震える。これが――コナミの力。眠っていた竜を呼び起こし、逆鱗に触れた結果。そして竜は敵を逃すつもり等、更々無い。

 

『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』はモンスターを戦闘破壊した際、モンスターを破壊し、『オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン』は相手がモンスター、魔法、罠を発動する時、500LP支払う条件を課す。更に発動したとしても、『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』がエクストラデッキのペンデュラムモンスターをデッキに戻し、その効果を封じ、『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』が存在する限り、バトルフェイズ中、モンスター効果は発動出来ない。極めつけは『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』。先程の通り、例え相手が攻めて来ようと無効にする。

相手に何もさせない、何をしようと踏み潰す竜の力。

 

「ハ、ハハハハハッ!何て、何て事だ――!」

 

デイビットが余りに馬鹿げた光景を見て口元を引き吊らせ、乾いた笑いを溢す。もしかしたら自分は――とんでもない化物を目覚めさせてしまったのかもしれないと。

 

「失せろ」

 

たった一言、短い言葉を放ち、コナミはデイビットに背を向け、歩を進める。最早興味も無いと言わんばかりの態度、そしてそんな彼を見て、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』は悲痛な叫びを上げ、その剣でデイビットを切り裂く。

 

デイビット・ラブ LP2150→0

 

デュエルは終わった。コナミの勝利と言う、一見最高と呼べ、最悪と言える結果で。コナミは直ぐ様暗次が封じられたカードを取り出し、カードについた埃を払う。

 

「……すまない」

 

短く、だがその一言にあらゆる感情を込め、コナミは自身のジャケットから何10枚と言える程のカードを取り出す。

そしてその場に座り込み、カードを広げていく。まずは1枚のカードを拾い上げ、正しき闇の力を込めるが――。

 

「『モウヤンのカレー』」

 

失敗、デュエルディスクに差し込まれたカードは淡い光の粒子を帯びるも、直ぐに霧散してしまう。コナミは表情を歪ませ、ギリッ、と歯軋りを鳴らすが――続けるように、1枚のカードを拾い、赤き竜の力を込める。

 

「『拘束解除』」

 

失敗、このカードでも、このカードに込めた力でも届かない。いや、正確に言えばその力が十全に発揮されず、霧散するのだ。

だが関係無い。知った事かと次のカードを手に取る。込めた力は赤き竜の大元、アストラル世界の力。

 

「『魂の解放』」

 

失敗、ならばならばと思いつける限りの力を、カードを使う。

ヘカを込めた『闇次元の解放』、失敗。

精霊の力を込めた『聖なる解呪師』、失敗。

サイコパワーを込めた『連鎖解呪』、失敗。

バリアンの力を込めた『戦士の生還』、失敗。

 

あらゆる手を使っても、何度も何度もカードを使っても、その力は、カードは最後まで発動される事無く失敗に終わる。

それでもコナミは諦めない。カードが擦り切れても、自分の指の感覚が無くなろうと、大事なものを取り戻そうと無様に足掻く。その度に彼との思い出が次々と脳裏に浮かんではシャボン玉のように消えていく。

失敗、失敗、失敗、失敗。どれだけ手を伸ばしても、その手は届かない。ただひたすらに、自分の無力さを痛感させられるばかり。余りの負荷に吐血し、息を切らしてうずくまる。

 

嫌だ、彼とまた馬鹿をやれないなんて。嫌だ、彼と共に笑えないなんて。嫌だ、彼とデュエルが出来ないなんて。嫌だ、真っ暗で何も無い絶望を――彼に、味わわせるなんて――。

 

「……ぁぁぁ……!」

 

涙が、流れる。この身から、流す事など、叶わぬだろうと思っていたと言うのに――。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」

 

唇が震え、口から渇いた、声にならぬ声が絞り出る。失う事がこんなに苦しいなんて、無力な自分がこれ程までに憎いとは、思いもしなかった。

 

「ああああああああああっ!!!」

 

天に木霊する、悲痛な叫び。コナミは歯を食い縛って涙を流し、握った拳で地を殴る。何度も、何度も、血が滲もうと、何度も、何度も。痛くても、辛くても――心の痛みには、到底敵わない。

空には夕陽が昇り、山吹色の光がコナミを照らしていた――。

 

――――――

 

榊 遊矢にとって、紫雲院 素良は大事な友達だ。同じ塾で共に研鑽した仲間であり、遊矢のペンデュラムの先を掴めるようになった切欠でもあり、出会ってから短い間だが、言葉に尽くせぬ程の絆があると、少なくとも遊矢はそう感じている。

それは素良があの、アカデミアのデュエリストと知った今でもだ。いや、そもそも遊矢は、素良の事をアカデミアの人間と思ってないのかもしれない。

 

彼にとって素良は、アカデミアの素良ではなく、遊勝塾の素良なのだ。同じ家で過ごし、同じ塾で過ごしたにも関わらず、遊矢は未だに素良と言う人間を知らない。

知っているのは、その側面だけだ。だから――もっと知るべきなのだろう、素良と言う、友の事を。

 

「遊矢……!」

 

山吹色に燃える夕日と、灼熱の火山を背に、その少年が遊矢へと振り向く。その名の響き通り、青く澄み渡った空色の髪を後ろで一括りにし、棒つきキャンディーを口に含んだ小柄な少年、紫雲院 素良。

彼は遊矢を視界におさめた途端、その目を細め、ガリッ、とキャンディーを噛み砕く。

 

「よっ、素良。久し振り――って言うにはちょっと短いけど……うん、久し振り」

 

「……黒咲はどこ……?」

 

「あいつは権現坂達の助太刀だよ」

 

遊矢の態と取り繕った軽い態度に対し、素良は少しばかり瞠目した後、焦りを覚えたように黒咲の居場所を問う。それも当然か、彼は黒咲との決着に随分こだわっていたのだから。

だけど、遊矢にも譲れないこだわりがある。遊矢はデュエルディスクを構え、光輝くソリッドビジョンのプレートを展開する。

 

「……どう言う風の吹き回し……?」

 

「うん?どう言うもこう言うも、決めてたんだ、次にお前に会ったらデュエルしようって」

 

不適に笑う遊矢を見て、素良の目付きは鋭くなる。一体何をしているんだと言いたげな、疑惑の籠った眼だ。だが当の遊矢はどこ吹く風、普段通りに落ち着き払い、素良に挑戦の意を示す。

 

「あのさぁ……っ!僕は黒咲に用があって……!って言うか裏切者なんだよ僕は!」

 

「うん、だけど、友達だ」

 

「~~~ッ!?」

 

間髪入れず、素良の裏切宣言に「だけど」と答える遊矢。そんな彼に驚愕し、素良が目を瞬かせる。そんな彼をおかしそうにクスリと笑みを溢す遊矢。完全に遊矢のペースだ。

 

「難しい事とか、どうでも良いからさ、デュエルをしよう。あの時みたいに、楽しいデュエルを」

 

「……良いよ、上等じゃないか。教えて上げるよ!本当の僕は、キャンディーみたいに甘くないって事を!」

 

左腕を身体の前に突き出し、装着した盾型のデュエルディスクより剣状のプレートを展開する素良。オベリスク・フォースと同じ、アカデミアのデュエルディスク、それを見て遊矢は、良く見るとカッコイイデュエルディスクだな、と思いながら、同時にこう思う。

 

「「デュエル!!」」

 

このデュエルディスクは、彼には似合わないな、なんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




日影、九庵堂、大漁旗君、負傷によりリタイア。ミッチーはどうなるか分かりません。原作キャラをこんな雑な退場にしてしまい、本当に申し訳ありません。
本来ならば暗次と同じく見せ場を用意するのでしょうが、何時までもチャンピオンシップを続ける訳にもいかないのでこんな事に。せめてカード化は避けようとこのような形に。
大漁旗君のメイン回書きたかったんじゃ、後ミエルちゃん。
本当にこんな事になってしまい、申し訳ありませんでした。


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