遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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コナミ「……黒咲がオレよりライバルやってんだけど」

零児「私のライバルっぽい出番、零!」


第62話 アーティスト

遊矢と黒咲によるデュエル、それは今正に佳境を迎えていた。数多くの壁を突破し、黒咲の心に辿り着く遊矢に対し、黒咲が拒絶するようにデッキより1枚のカードを引き抜く。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』を発動!アクションカードと共に手札を交換!まずは露払いだ!ブレイズ・ファルコンのORUを1つ取り除き、貴様のフィールドのモンスターを全て破壊し、その数×500のダメージを与える!」

 

榊 遊矢 LP2900→1900

 

「がふっ――!」

 

ブレイズ・ファルコンによる強力な全体除去、バーンも備えたそれは遊矢のLPを削り取る。これで壁モンスターまで破壊されてしまった。頼りになるのはペンデュラムゾーンに置かれた2枚のカードだ。だがそれも、彼の前ではどこまで通用するか。

 

「残りLP1900、全力で削り取る!『RUM-スキップ・フォース』!サテライト・キャノン・ファルコンを対象に、ランクが2つ上の『RR』へとランクアップさせる!」

 

『来る……!隼の切り札が……!』

 

引き抜かれる伝家の宝刀。黒咲 隼の真骨頂、『RUM』。エクシーズモンスターのランクを次々と上昇させ、高位の存在へと進化させるその戦術は彼が持つ最大の武器だ。その終点とも言える、ランク10の登場。強大な力が集束する光景を見て、遊矢は息を呑む。

 

「これで終わりだ、榊 遊矢ぁ!貴様の戯れ言も今ここで終わる!1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築!究極至高のハヤブサよ!数多なる盟友の遺志を継ぎ、勝利の天空へ飛び立て!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR―アルティメット・ファルコン』ッ!!」

 

RR―アルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

今天空へと飛翔する最強の『RR』。重厚な漆黒のボディを煌めかせ、黄金に輝く翼が光を反射する。目を引くのはその背で閃く、日輪を模した黄金の翼。まるで太陽の化身と思える程の圧倒的な存在、究極が今、遊矢の前に立ち塞がる。

 

「これが――黒咲の切り札――!」

 

「アルティメット・ファルコンのORUを1つ取り除き、効果発動!相手フィールド上のモンスター全ての攻撃力を1000ダウンし、このターン、相手は効果を使えない!」

 

「なっ――!罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

全ての効果発動を封じる強力な効果。これを何もせずに通してしまえば遊矢のLPが大量に削られてしまう。それを見逃す遊矢ではない。直ぐ様リバースカードをオープンし、このターンの攻撃を防ぐ。

 

「ッ!どこまでも――!俺は『RR―ネスト』の効果で墓地の『RR―フォース・ストリクス』をエクストラデッキに戻し、ブレイズ・ファルコンを守備表示に変更、カードをセットし、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP3700

フィールド『RR―アルティメット・ファルコン』(攻撃表示)『RR―ブレイズ・ファルコン』(守備表示)×2

『RR―ネスト』セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

『アルティメット・ファルコンは効果を受けないモンスターだ。攻撃力で上回るしかない』

 

「大丈夫さ、乗り越える……!魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地の『召喚僧サモンプリースト』、『EMヘイタイガー』、『EMスライハンド・マジシャン』、『EMドクロバット・ジョーカー』、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』をデッキに戻し、2枚ドロー!良し!魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』!エクストラデッキに表側表示のペンデュラムモンスターが3体以上いる事で2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→6→7

 

「更に魔法カード、『ペンデュラム・ストーム』を発動!ペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、セットカードを1枚破壊!マンモスプラッシュとドクロバット・ジョーカーでペンデュラムスケールをセッティング!ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『降竜の魔術師』!『EMカレイドスコーピオン』!『EMドラミング・コング』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

EMドラミング・コング 守備力900

 

何度も何度も蘇り、黒咲の行く手を遮る遊矢のモンスター。その光景、その諦めの悪さに黒咲は1人の少年を遊矢へと重ねる。そう、これは――まるで――。

 

「俺のモンスターは倒れない!」

 

ユートの『幻影騎士団』だと。

 

「行くぞ黒咲!俺の全開、全力をぶつける!まずは素良との絆!フィールドの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『EMオッドアイズ・ユニコーン』をリリース!出でよ!野獣の眼光りし獰猛なる龍!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

鋭く輝く野獣の眼光。3つの眼が大空に飛翔する黄金鳥を射抜き、狙いを定める。雄々しい遠吠えを放ち、獣の骨格を纏った竜が姿を見せる。

素良との絆、融合の力を取り入れ、進化した『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』だ。

 

「融合モンスター……!」

 

「そうだ!だけど結んだ絆はこれだけじゃない!『EMマンモスプラッシュ』のペンデュラム効果発動!融合モンスターが特殊召喚された場合、エクストラデッキの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を特殊召喚する!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

再び現れる2色の虹彩。この『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、遊矢のエースカードこそが絆を結ぶカード。結ばれた糸を手繰り寄せるかのように、遊矢はマンモスプラッシュの効果を使い、特殊召喚する。そして次に引き寄せる絆は――。

 

「これで……レベル7のモンスターが2体……!」

 

「ッ!まさかっ!?」

 

『あのモンスターを出す気か遊矢!?』

 

並び立つ『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『降竜の魔術師』。レベル7のモンスター。その2枚に黒咲とユートが顔中に驚愕を貼りつける。黒咲は遊矢が『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』以外のそれを持っている事に対して。ユートは遊矢が召喚しようとしているモンスターに気づいて。

 

「全力で闘わなきゃ勝てない!俺は俺の中の誰かも、笑顔にしてみせる!力を重ねるぞユート!『降竜の魔術師』の効果でこのカードの種族をドラゴンに変える!」

 

『仕方無いか……!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!』

 

重ねる力、遊矢とユートは共に手を翳し、空中で発生した孔へと2体のモンスターを閃光へ変化させ、飛び込ませる。瞬間、孔は集束して爆発を起こし、突風が頬を撫でる。凄まじき轟音、孔の奥から2色の光が閃き、遊矢の虹彩もまた、赤と、灰色に染まる。

 

「二色の眼の龍よ!その黒き逆鱗を震わせ」

 

『刃向かう敵を殲滅せよ!エクシーズ召喚!』

 

フィールドに震撼する雄々しき竜の遠吠え。2人の口上が重なり、漆黒の覇王を呼び覚ます。遊矢とユート、いや、1人のデュエリストの下へと――。

 

『「出でよ、怒りの眼輝けし龍!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』ッ!!」』

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

巻き上がる白煙、それを突き破るように、妖しく輝く鋭いアギトが貫き出る。右が白、左が黒の頭部、真紅と翡翠の眼を煌めかせた覇王竜。

胸部は竜の頭を模しており、腕から伸びた工具のような指が開く。その背で激しい駆動音を響かせるのは巨大な翼。8枚4対の剣の形をしたそれは桜色の光を放っている。

 

「この……モンスターは……!?」

 

「このカードが俺とユートの絆のカード、重ねる力と」

 

『振り子のように何度も立ち上がる力を合わせ持つモンスター』

 

「ッ!ユー……ト……!?」

 

遊矢の口から放たれるユートの声。その聞き慣れた響きに黒咲は思わず遊矢へと顔を向け、動揺を走らせる。そこにいたのは、確かに遊矢の姿。

しかし彼の左目はユートと同じ灰色の光を閃かせており、奥に潜む意志もまた――同じ。

まるでフィールドで雄叫びを上げる竜と同じ、オッドアイ。2色の虹彩の前に、黒咲が息を詰まらせる。

 

『忘れたのか――?この名誉会員の事を。全く、俺の目が離れた隙に好き勝手やっている。手がかかる奴だ』

 

「馬鹿な……!本当にユートなのか……!?だが……例えお前が相手でも、俺は止まらない!」

 

「お前を止めるのは、笑わせるのは俺達だ!行くぞユート!」

 

『ああ!ビーストアイズを対象にカレイドスコーピオンの効果発動!このターン、ビーストアイズは特殊召喚した全てのモンスターに攻撃可能!』

 

「バトルだ!ビーストアイズでアルティメット・ファルコンに攻撃!」

 

『この瞬間、『EMドラミング・コング』の効果で攻撃力を600アップ!』

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000→3600

 

ドラミング・コングが胸のシンバルを叩いて打ち鳴らし、獣の眼を輝かせる竜を鼓舞する。甲高い音を浴び、赤いオーラを迸らせるビーストアイズ。攻撃力3600、アルティメット・ファルコンの攻撃力を僅か100上回る数値。ゴウゴウと燃え盛る熱線が究極のハヤブサを撃ち落とす。

 

「ヘルダイブバーストッ!!」

 

黒咲 隼 LP3700→3600

 

「ぐっうぉ――!」

 

「ビーストアイズの効果発動!」

 

『モンスターを戦闘破壊した際、素材となったオッドアイズ・ユニコーンの攻撃力分のダメージを与える!』

 

黒咲 隼 LP3600→3500

 

たった100、僅か100の微量な数値だが、着実に黒咲にダメージを与えていく。今はこれしかない、これが遊矢の、ユートの全力。小さくとも確実に歩んでいく。それが遊矢のデュエル。

 

「まだだっ!ビーストアイズで2体のブレイズ・ファルコンを攻撃!」

 

続く攻撃、ビーストアイズのアギトより放たれる熱線が遺跡を破壊し、轟音を響かせる。爆風が遊矢の頬を撫で、天空の赤いハヤブサが灰色に燃え尽きて地に落ちる。

 

「ビーストアイズの効果発動!」

 

黒咲 隼 LP3500→3400→3300

 

「オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンで攻撃!反旗の逆鱗!」

 

『ストライク・ディスオベイ!』

 

8枚の翼を広げ、その巨体を翻し、妖しく輝く2本の牙を地へ突き立てる覇王竜。強き者への下克上、歩みを止めない遊矢のように、何度も立ち上がるユートのように、白と黒の線が破壊音を辺りに響かせ突き進む。赤い稲妻がバチバチと鳥の囀りのように迸って散り、黒咲へと進撃する。届け。全ての力を振り絞った一撃。だがそれも――。

 

「速攻魔法発動――」

 

黒咲には、届かない。

 

「『RUM-デス・ダブル・フォース』ッ!!」

 

オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンがその牙を黒咲へと突き立てようとした瞬間、突如地を伏せていたブレイズ・ファルコンの身体を閃光が包み込み、光輝く柱が空へと昇る。

この状況からのまさかの反撃。油断は無かった、だが完全に意識して無かった事だ。遊矢は色彩が異なる両の眼を見開き、動揺を走らせる。そう、光が晴れたそこには――。

 

「ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR―アルティメット・ファルコン』ッ!!」

 

RR―アルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

今倒したばかりの、漆黒のハヤブサが、黄金の翼を広げていたのだから。蘇る黒咲の切り札、2枚目のアルティメット・ファルコンの登場に遊矢はその表情に緊張を浮かべる。これでは追撃をかける事は不可能だ。

遊矢は苦笑いしながらその手を切り替える。

 

「俺は墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、マンモスプラッシュをデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

『魔法カード、『一時休戦』を発動。互いに1枚ドロー』

 

榊 遊矢 手札1→2

 

黒咲 隼 手札2→3

 

『カードを2枚伏せ、ターンエンドだ』

 

榊 遊矢 LP1900

フィールド『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』(攻撃表示)『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMカレイドスコーピオン』(守備表示)『EMドラミング・コング』(守備表示)

セット2

Pゾーン『EMドクロバット・ジョーカー』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!これが俺の怒りだ!俺の力だ!未だ燃え続ける炎!分かるか榊 遊矢!消えていく仲間達、伸ばした手が空を切る無力感が!……お前の言う通りだ。俺は弱い、誰も救えない……!そんな俺が笑って良い筈が無いんだ……!だから頼む……これ以上手を伸ばすなぁっ!アルティメット・ファルコンのORUを1つ取り除き、お前のモンスター全ての攻撃力を1000ダウンし、このターンの効果を封じる!」

 

「うるさい!知った事じゃないぞ、このバーカ!お前がどれだけ拒もうと、俺は手を伸ばす!お前を笑顔にしてみせる!」

 

『止められると思うな隼!このバカは諦めが悪いんだ!』

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000→2000

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000→2000

 

EMカレイドスコーピオン 攻撃力100→0

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600→600

 

ぶつかり合う3人の想い、譲れぬ覚悟がカードの応酬に表れる。黒咲がどれだけ拒もうと、遊矢は折れる事無く、真っ直ぐに突き進む。

 

「ッ!折れろぉ!速攻魔法、『サイクロン』!セットカードを破壊!墓地の『RUM-スキップ・フォース』と『RR―ブレイズ・ファルコン』を除外し、蘇れ!『RR―アルティメット・ファルコン』ッ!!」

 

RR―アルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

地を突き破り、2体目の猛禽が天空に飛翔する。並び立つアルティメット・ファルコン。黄金の翼が太陽の光を反射し、煌めきを見せる。かつて無いような危機的な状況、それでも遊矢の顔に浮かぶのは――デュエルを楽しもうとする、輝く笑み。

 

「『ネクロフェイス』を召喚!」

 

ネクロフェイス 攻撃力1200

 

「召喚時、除外されたカードをデッキへ戻す!そしてその数×100攻撃力アップ!」

 

ネクロフェイス 攻撃力1200→3900

 

「手札のモンスターを捨て、魔法カード、『ワン・フォー・ワン』!デッキの『RR―ラスト・ストリクス』を特殊召喚!」

 

RR―ラスト・ストリクス 攻撃力100

 

「ラスト・ストリクスをリリースし、エクストラデッキのサテライト・キャノン・ファルコンを特殊召喚!」

 

RR―サテライト・キャノン・ファルコン 守備力2000

 

「まだだぁっ!魔法カード、『RUM―スキップ・フォース』!サテライト・キャノン・ファルコン1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR―アルティメット・ファルコン』!!」

 

RR―アルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

3体目、天空に舞い上がる漆黒のハヤブサ。黄金の翼を広げる切り札を見て、遊矢が浮かべるのは――。

 

「すげぇ……!」

 

デュエルを楽しむ、純粋な笑み。

 

「ネストの効果発動!」

 

「速攻魔法、『魔法効果の矢』!ネストを破壊!」

 

「ッ!バトルだ!『ネクロフェイス』でドラミング・コングに攻撃!」

 

「くっ――!」

 

「3体のアルティメット・ファルコンでオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンと『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、『EMカレイドスコーピオン』を攻撃ィ!ファイナル・グロリアス・ブライトォッ!!」

 

アルティメット・ファルコンの胸部に黒き稲妻がバチバチと迸り集束し、球体状のエネルギーを構成する。圧倒的な力、アルティメット・ファルコンはそれを撃ち出し、遊矢のフィールドの2体の竜と蠍を焦がす。吹き荒れる砂塵。

だけどまだ、遊矢の気力は尽きていない。ボロボロに傷付いても、その闘志は燃え続ける。まるで――レジスタンスのように。

 

「どう……したぁ……!それで終わりか!良い加減認めろ黒咲ィ!」

 

「何を……俺はお前の事など……!」

 

「違う!お前が認めるのは、許すのは――お前自身だ――!」

 

「ッ!?」

 

息を切らし、よろめきながらも遊矢は明確な強さを瞳に宿し、黒咲を指差す。その口から飛び出したのは遊矢と、そして、ユートの想い。

自分を追い込み、仲間達に負い目を感じる余り、デュエルの楽しさを忘れてしまった黒咲。そんな彼が救われないなんて間違っている。デュエルが大好きな彼が笑えないなんて――遊矢には、許せない。

 

『隼、お前はレジスタンスの皆を仲間だと思っているんだろう?そんな彼等が、お前に笑うなと言う筈が無い。1人で背負うな、痛みは半分に、楽しさは2倍に、それが仲間だろう?』

 

「……俺は――」

 

目を伏せ、胸元を握り締める黒咲。迷い、沸き上がるものを必死で抑えるようにして、黒咲は――。

 

――お前だけ、笑うのか――?

 

「それでも、俺は――!」

 

呪縛は、解けない。

 

「……分からないんだ……あいつ等はそんな事を言う筈が無いのに、デュエルを楽しもうとすれば、頭の中であいつ等の苦しむ顔が過って、俺に言う、お前だけ笑うのか?と。それが怖くて堪らない、俺は――笑えない」

 

暗い絶望の中、黒咲の耳に、目に届くのだ。仲間達が、言う筈の無い怨嗟の声が。それが黒咲を縛りつける。翼に絡みつき、眩しい空へと飛ぶ事を許さない。

ならば飛ばなければ良い。諦めるしか、黒咲の手は無い。

 

「俺は墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『ネクロフェイス』を戻してドロー」

 

黒咲 隼 手札0→1

 

「魔法カード、『闇の誘惑』を発動。2枚ドローし、闇属性モンスター、『ネクロフェイス』を除外、その効果で互いのデッキトップから5枚のカードを除外。永続魔法、『暗黒の扉』を発動し、ターンエンド……」

 

黒咲 隼 LP3300

フィールド『RR―アルティメット・ファルコン』(攻撃表示)×3

『暗黒の扉』

手札0

 

青く澄み渡った上空を、眩き日輪が照らす。崩壊した遺跡、その上空に座す、3体の黒鳥、アルティメット・ファルコンがその太陽を模した翼を広げ、遊矢を睨む。

圧倒的逆境。それでも、遊矢の顔に浮かぶのは――デュエルを楽しむ、熱き闘志。怯えなど欠片も無い。あるものは榊 遊矢の武器、勇気。

そして――それに応えるかのように、遊矢のエクストラデッキが、淡い光を灯していた――。

 

『遊矢……』

 

「ああ、あいつは迷っている、揺れているんだ。このペンデュラムのように……だから、俺のエンタメデュエルで勇気を与える!一歩踏み出す勇気、皆から貰ったものを、今度は俺が与える番だ!」

 

今の自分を変える事は、とてつもなく不安なのかもしれない。呪縛に囚われた黒咲にはより一層の筈だ。

だけど、遊矢は踏み出す勇気を皆から貰って来た。恐怖を打ち破って来た。だから今は、遊矢が黒咲へと、勇気を渡す番。彼の恐怖を払うのだ。

その笑顔の為に――遊矢はその手でデッキトップを引き抜き――そのドローで眩い虹色のアークを描く。

 

『「Ledies and Gentlemen!お楽しみは、これからだぁっ!!」』

 

榊 遊矢の真骨頂、エンタメデュエルの幕が上がる。どれだけボロボロに傷付いても、彼の笑顔は曇らない。天空に座す、黒鳥よりもその笑顔は太陽の如く輝き続ける。

 

「俺は魔法カード、『金満な壺』を発動!墓地の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『降竜の魔術師』、そしてエクストラデッキの『EMギタートル』をデッキに戻し、2枚目ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

『来たか!』

 

「応えてくれる!俺は『相克の魔術師』をペンデュラムスケールにセッティング!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMドラミング・コング』!『EMリザードロー』!『EMカレイドスコーピオン』!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』!!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMリザードロー 攻撃力1200

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

EMドラミング・コング 守備力900

 

「オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン……そのカードはエクシーズモンスターの筈……!?」

 

『いや、エクシーズペンデュラムモンスターだ!レベル7がペンデュラム召喚可能な場合、エクストラデッキで表側表示のこのカードはペンデュラム召喚によって復活する!』

 

そう、オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンはエクシーズとペンデュラム、2つの特性を持つモンスター。エクシーズによって登場し、ペンデュラムによって何度も蘇るカードなのだ。

不屈の魂は遊矢へと引き継がれている。直ぐ様遊矢は竜に飛び乗り、スタリと着地する。

 

「そしてペンデュラム・マジシャンの効果で自身とリザードローを破壊し、デッキから『EMディスカバー・ヒッポ』と『EMオールカバー・ヒッポ』をサーチし、魔法カード、『手札抹殺』により手札を交換!そしてカレイドスコーピオンの効果発動!このターン、オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンは特殊召喚されたモンスター全てに攻撃可能!バトルだ!オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンでアルティメット・ファルコンを攻撃!」

 

『この瞬間、ドラミング・コングによりオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンの攻撃力を600アップする!』

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000→3600

 

反逆の覇王黒竜がくるりと宙を舞い、その鋭き牙を地面に突き立てる。ミシリと音を立て遺跡に亀裂が走るも、黒竜は気にする事も無く、翼を広げ、凄まじい速度で地を削り進む。響き渡る快音、黒竜は飛翔して曲線を描き、アギトで黄金の翼を引き裂く。

 

『反旗の逆鱗!』

 

「ストライク・ディスオベイッ!!」

 

黒咲 隼 LP3300→3200

 

翼を破壊され、地へと落ちていくアルティメット・ファルコン。1体目――まだ終わっていない。黒咲の心へと届くまで、何度だって手を伸ばす。

 

「2回目の攻撃!」

 

黒咲 隼 LP3200→3100

 

2体目への攻撃、宙で再びその身を翻し、8枚の翼から火炎を吹かせ、妖しく光る牙が閃光となって黒鳥を食らう。残るは1体、遊矢は更に手を伸ばす。

 

「まだまだぁ!」

 

『3回目の攻撃!』

 

黒咲 隼 LP3100→3000

 

切り裂く牙、その攻撃は見事3体のアルティメット・ファルコンを破壊し、黒咲へと届く。遊矢は何も、3つの太陽を破壊しただけでは無い。

彼は黒咲にかかっていた呪縛をも引き裂いたのだ。

目を見開き、空を見上げる黒咲。身体が軽く感じる。空が広く感じる。切り札が破壊されたと言うのに――馬鹿らしく思う。今までの自分が、ここまでお節介を焼く遊矢が、おかしくておかしくて堪らない。

何だこの男は、どうしてここまで他人の事に首を突っ込む。どうしてこんなに――誰かの為に、必死になれる。

ああ、もうダメだ。我慢が出来ない。今まで堪えて来たものが溢れ出るように、黒咲の口から「ぷ」と張りつめていた空気が漏れる。そうなってしまっては、もう決壊するしか無かった。

 

「ぷっ、ははは……!お前と言う奴は、どこまで……!ははははは!どこまで諦めが悪いんだっ、ぶはっ、はははははっ!!げほっ、おぅえっ」

 

自然と口元が弧を描き、腹を抱えて笑う。こんなに笑うのは何時振りだろうか、だがどうしたって笑いが止まらない。

苦しくて息が切れても、面白くて面白くて仕方無い。目尻に涙を溜め、大口を開いて馬鹿笑いする黒咲。その明らかなキャラ崩壊に遊矢とユートが目を丸くして、間の抜けた表情となる。

だが数拍置いた後、遊矢の口元がニンマリと笑みを描き、黒咲と同じように笑う。

 

「ははっ!お前こそどんだけ面倒なんだよ!暗くてジメジメしてて鬱陶しいったらありゃしない!」

 

『くくっ、確かにな……!だけどだけどと女々しい奴だ!』

 

「げほっ、げほっ!何を……!お前こそとことんお節介だろう!母親か!ぶふっ、わはははは!」

 

互いに罵倒が飛び交うも、その表情には澄み切った笑顔が貼りついている。まるで幼い子供の口喧嘩。

ああ、何だろうか、漸く、漸く本当の黒咲 隼が顔を見せてくれた。それも飛びっきりの笑顔を。

そう思うと、遊矢は嬉しくて嬉しくて堪らない。楽しくて楽しくて仕方無い。こうなったらとことん続けよう、この――友とのデュエルを。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド!さぁ来いよ!隼!デュエルだ!」

 

榊 遊矢 LP1900

フィールド『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』(攻撃表示)『EMドラミング・コング』(守備表示)『EMカレイドスコーピオン』(守備表示)

セット1

Pゾーン『EMドクロバット・ジョーカー』『相克の魔術師』

手札0

 

静かに目を伏せ、今までの自分を振り返る黒咲。自分はアカデミアとの闘いで大好きなデュエルを裏切り、憎悪だけで進んできた。仲間を奪われ、妹まで奪われた。

だけどそれでも、黒咲には残っているものがあった。手を伸ばしてくれる友が。彼等の想いに応えたい。

だがそんな黒咲の足元に、ぬるりと黒い何かが絡み付く。

 

――お前だけ――

 

「俺はもう、逃げない」

 

―― ――

 

口元に笑みを浮かべながら、何かに向かい、確かに意志を、覚悟を宿して語りかける黒咲。鉄の意志、鋼の強さ。本当の意味でそれを手にした黒咲に、最早迷いは無い。彼の強さに言葉を失い、何かがその絡み付く手を止める。

 

「すまないな、皆。俺は今までお前達に逃げていた。だけどもう、大丈夫だよ。見ていてくれ、俺の――デュエルを」

 

優しく、どこまでも青い空のような澄み切った想い。デュエリストとして、完全復活を果たした黒咲の背に、黒い何かは姿を変えて、翼となってその背を押す。

 

――勝てよ、隼――

 

「――ッ!ああ!行くぞ遊矢ぁ!かっとビングだ!俺ぇっ!」

 

それはもしかしたら、幻なのかもしれない。だけどそれでも、聞こえる仲間達の激励の声、眩しい笑顔。その全てを噛み締め、黒咲は勇気を持って、一歩踏み出す。

引き抜く1枚のカード。光の翼が右手を包み込み、絆のアークを青空に描く。

 

来た、待っていてくれた、こんな自分を。応えてくれた、1度は裏切った自分を。デッキが――嬉しくて、笑ってしまう。

 

「速攻魔法、『魔力の泉』!2枚ドローし、2枚捨てる!更に墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『暗黒の扉』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札0→1

 

「墓地の『RUM-スキップ・フォース』2枚と『RR―バニシング・レイニアス』2体を除外し、墓地の『RR―アルティメット・ファルコン』2体を特殊召喚!!」

 

RR―アルティメット・ファルコン 攻撃力3500×2

 

再び天へと昇る2つの太陽。眩き輝きを放ち、群れなして現れる『RR』。更に――。

 

「魔法カード、『エクシーズ・トレジャー』!場のエクシーズモンスターの数だけドロー!」

 

黒咲 隼 手札0→3

 

「LPを半分払い、『RUM―ソウル・シェイブ・フォース!』墓地のフォース・ストリクスを蘇生し、2つランクが上のエクシーズへとランクアップする!オーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR―レヴォリューション・ファルコン』!!」

 

黒咲 隼 LP3000→1500

 

RR―レヴォリューション・ファルコン 攻撃力2000

 

現れる黒咲 隼、最後のモンスター。両翼を広げ、青く広い大空へとハヤブサは飛び立つ。この逆境でこのカード、どこまでも強いデュエリストだ。

 

『ははっ、なんて奴だ……!』

 

「レヴォリューション・ファルコンのORUを1つ取り除き、このターン、このカードは特殊召喚されたモンスター全てに攻撃可能!バトルだ!レヴォリューション・ファルコンでオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンに攻撃!」

 

「させるか!永続罠、『六芒星の呪縛』!レヴォリューション・ファルコンの攻撃を封じる!」

 

「ならばアルティメット・ファルコンでドラミング・コングに攻撃!」

 

「ッ!」

 

「2体目のアルティメット・ファルコンでオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンを攻撃!」

 

榊 遊矢 LP1900→1400

 

遊矢がリバースカードをオープンし、レヴォリューション・ファルコンの身体に魔方陣が描かれて浮かび上がり、拘束するも、その程度で黒咲は止まらない。アルティメット・ファルコンによる攻撃が黒竜を破壊する。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ、『シャッフル・リボーン』の効果で手札の1枚を除外。さぁ来い!遊矢!」

 

黒咲 隼 LP1500

フィールド『RR―アルティメット・ファルコン』(攻撃表示)×2『RR―レヴォリューション・ファルコン』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

止まらないワクワク、脈を打つドキドキ、デュエリストの熱き魂が血流となって遊矢の身体を駆け巡る。だがこのデュエルにも終わりが来る。

楽しいデュエルを勝利で飾るのは譲れない。この激闘に、決着をつける為に――遊矢はデッキトップを勢い良く引き抜く。

 

「俺のターン!」

 

『ドローッ!!』

 

「俺は魔法カード、『マジック・プランター』を発動!『六芒星の呪縛』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

引き抜かれる2枚のカード、だがまだ足りない。勝利へ届かせる為に、後、1枚が――。

 

「ペンデュラム召喚!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』!!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMドラミング・コング』!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600

 

ラストターン、遊矢がペンデュラム召喚したのは自身と同じく、オッドアイの輝きを放つ2体の竜とマジシャン、そして森の賢者。

エースカードである、真紅の体躯を唸らせ、気高き咆哮を放つ『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』。そしてもう1体は黒白の逆鱗を震わせる切り札、『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』。

だがこれも通過点、自らを呼ぶカードの声を手繰り寄せ、遊矢は更なる道を拓く。黒咲だって限界を越えた。次は遊矢が振り切った限界を、再び超える番だ。

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果でこのカードを破壊し、『EM』をサーチ!」

 

「カウンター罠、『無償交換』!その発動を無効にし、破壊!」

 

「そっちから、来てくれるとはなっ!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

黒咲が発動したカードを見て、逆に目を輝かせる遊矢。熱き火花が迸り、天空に虹色のアークが描かれる。このデュエル、最後のディステニードロー。引き抜いたカードにチラリと目を配らせる。来た、最後のピースが。

 

「ペンデュラムゾーンの『相克の魔術師』の効果発動!その効果により、このターン、オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンをレベル7のエクシーズ素材とする!」

 

「エクシーズモンスターとペンデュラムモンスターによるエクシーズ……!楽しませてくれる!」

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

呼んでいる、遊矢を。まだ名も知れぬカードが。遊矢の中にある何かが脈打つようにドクドクと音を鳴らす。今までとは全く違う感覚、まるで記憶の奥底に眠るものを引き上げるかの如く――エクストラデッキから白紙のカードが取り出され、真っ黒に染まる。

 

『エクシーズ召喚!』

 

「『幻想の黒魔導師』!!」

 

幻想の黒魔導師 攻撃力2500

 

遺跡の中より、光と闇が集束し、遊矢のフィールドで形を作る。紫に彩られた三角帽と風に靡くローブを纏い、浅黒い肌をした古の魔法使い。

真紅の眼に意志を宿すそのモンスターは、モンスターと言う枠を超えていると思える程、神々しい。

その姿はかつて王と呼ばれた最強のデュエリストが最も信頼を寄せた相棒に良く似ている。

 

「……この、モンスターは……!?」

 

「『幻想の黒魔導師』のORUを1つ取り除き、効果発動!デッキから魔法使い族の通常モンスターを特殊召喚する!待たせたな――『ブラック・マジシャン』!!」

 

ブラック・マジシャン 攻撃力2500

 

そして現れる、幻想でも幻影でもない、王の相棒。伝説を纏う、黒き魔法使い。歴戦のデュエリストと共にあったモンスターを今――遊矢のフィールドに蘇る。

瞬間、遊矢の脳裏にある光景が過る。それは、このカードの記憶、信頼すべき、王と共に闘った黄金の日々。

 

「……力を貸してくれ!魔法カード、『死者蘇生』!墓地のオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンを特殊召喚!!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

並び立つ5体のモンスター。2体の魔法使いと、2体の『EM』、逆鱗を震わせ、咆哮する覇王竜。これが遊矢の全力、全てを出し切った全開。限界を越えた限界で立ち向かう。

 

「更にオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンを対象に、カレイドスコーピオンの効果発動!バトルだ!『ブラック・マジシャン』でレヴォリューション・ファルコンを攻撃!黒・魔・導!」

 

「レヴォリューション・ファルコンが特殊召喚されたモンスターと戦闘を行う際、そのモンスターの攻撃力を0にする!」

 

「『幻想の黒魔導師』の効果発動!『ブラック・マジシャン』の攻撃時、レヴォリューション・ファルコンを除外する!」

 

「何っ!?」

 

『ブラック・マジシャン』による魔術、杖の先端に魔力を集め、黒球を生み出す所に、『幻想の黒魔導師』が更に魔力を重ね、レヴォリューション・ファルコンへと撃ち出す。これにはレヴォリューション・ファルコンの鋼のボディも堪えられず、消滅する。

 

「そしてオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンに攻撃を切り替える!2体を攻撃!」

 

『ドラミング・コングで攻撃力をアップ!』

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000→3600

 

黒咲 隼 LP1500→1400→1300

 

黒竜のアギトが再び太陽を砕き、爆風を吹かせる。黒煙が晴れたそこには、黒球を杖の先端に集束する魔法使い。

しかしまだ、黒咲は諦めない。ここまで来たのだ。もう2度と諦める気にはなれない。

 

「いけ!『幻想の黒魔導師』!」

 

「やらせるかぁ!アクションマジック、『回避』!」

 

だがそれは――遊矢も同じ。既に勝利の方程式は完成している。最後のピースを翳し、デュエルディスクに叩きつける。

 

『速攻魔法発動!』

 

「『ダブル・アップ・チャンス』ッ!!」

 

幻想の魔導師 攻撃力2500→5000

 

デュエルは、終わりを迎える。

 

黒咲 隼 LP1300→0

 

互いに死力を尽くした激闘、勝者は、榊 遊矢。瞬間、彼のデュエルディスクの『ブラック・マジシャン』が光となって消え、『幻想の黒魔導師』もまた、白紙に戻る。

そして限界を越え続けたせいか、2人も糸が切れたようにドサリとその場に倒れる。

 

「――勝っ、た――!」

 

両の眼が赤へと戻り、満面の笑みを浮かべながら達成感を噛み締める遊矢。誰よりもその必死さを知るユートもまた、クスリと笑い、腕を組む。

黒咲も馬鹿笑いをしながら遊矢を認める。

 

「クク、ハハハハハッ!まさかお前のような奴に負けるとはな――いや、当然か、それだけ、お前が――デュエルが好きだったからか」

 

「……なぁ、黒咲、結局、銅の意志って何なんだ?」

 

空で輝く太陽を見上げ、疑問に思っていた事を問いかける遊矢。

銅の意志、それは遊矢を例えた黒咲の台詞だ。その意味は、ボロボロになりながらも、鈍く輝き続ける――赤く燃える意志なのだが――。

 

「……教えてやらん」

 

負け惜しみか、言う気にはなれず、悪戯染みた笑みを浮かべる黒咲だった――。




人物紹介12

黒咲 隼
所属 レジスタンス
エクシーズ次元のレジスタンスに所属する凄腕のデュエリスト。アニメでは登場する度にネタを提供する人であるが、多分本人は至って真面目。
本作品では逆に次元戦争によってデュエルの楽しさを封じ込め、非情に徹していた。要するに強がっている人。しかし遊矢とユートが何度も手を伸ばし、自分が馬鹿らしく思い、本来の自分を取り戻した。
本当は誰よりも優しさを秘めている。これからは年相応に柔らかくなると思われ、今までの罪を可能な限り償うつもりである。
また、妹の瑠璃に対しては超がつく程シスコン。本人には適当にあしらわれている。
気に入った者はどこまでも大切にし、過保護。また稀に友人に対し自分の趣味を押しつける面があり、そこら辺はコミュニケーションに向いていない。
使用デッキは『RR』、エースカードは『RR―アルティメット・ファルコン』。

今回登場した遊矢君の白紙のカードはデュエルの度に書き換わります。
今のところ遊矢とユートが合体したサトシゲッコガ的な状態でしか使えませんが。
と言う訳でやっとこさ黒咲さんが救われました。ここまで長かった……。

勝鬨「こちら側へ」
暗黒寺「ようこそ」
九庵堂「悔しいでしょうねぇ」

黒咲さん「やめろ」

尚、これからハジケる事は逃れられない模様。

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