遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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やっぱり少森寺塾の塾生って凄い、そう思いました。


第57話 レベルが無いと言う事は、レベル0と言う事だ!

勝鬨 勇雄は幼き頃より闇の中で生きて来た。親元を離れ、勝利を全てとした梁山泊塾に所属し、塾長や塾生と共に、厳しい修行に身を置いて来たのだ。

地獄のような閉ざした空間、同じ塾生でさえ敵として見なければならない、閉鎖的で暗い日々は次第に勝鬨の精神を腐敗させ、それが常だと刷り込ませていった。

力こそ全て、勝利こそ正義、闘い、戦う、修羅の道を進み、何が目標かさえ分からない中、勝鬨の前に、彼が現れた。

 

赤い帽子を目深に被り、ジャケットを纏った不思議な少年。彼と闘う中、勝鬨は本当のデュエルを知った。

全力で互いの信念をぶつけ合い、分かり合い、笑い合うデュエル。それは勝鬨のデュエリストとしての魂を震わせた。

 

自分のデュエルでも、誰かを笑顔に出来るのだろうか?その問いを胸に、勝鬨は塾長である郷田川とデュエルを通じ、分かり合えた。1度は闇に生きた彼だからこそ、真に分かる事の出来る苦悩、勝鬨はそれを知り、決心したのだ。

自分のように本当のデュエルを知らず、闇の中で苦しむ者を救う事を。そして今――勝鬨 勇雄のルーツが、目の前で立ち塞がる。

 

榊 遊矢。彼の姿は幼き頃より勝鬨の目に焼きついている。暗く沈んだ彼の底無し沼のような眼に、彼とその父、榊 遊勝が山吹色に燃える夕日を背に、眩い笑顔でデュエルを行う光景が。

そんな彼が、憎くて憎くて仕方無かった。何故自分が暗がりにいるのに、あの少年は日向にいるのだろうと。今思えば本当に醜い嫉妬、八つ当たりである。

 

そんな彼が今、闇に堕ち、何者かに乗っ取られ、苦しみもがいている。昔の自分ならどう思うだろうか?

ざまぁ見ろと鼻で笑う?分からないが――今は、彼を見ると、苦しくて胸が引き裂かれそうになる。

 

「自分は昔……お前に嫉妬していた……。何故自分がこんなにも苦しんで、お前は笑っているのか、その差が嫌で仕方無かった……!お前のように、誰でも良い!笑い合ってデュエルをしたかった!独りでいるのが嫌だったんだ!」

 

「勝鬨……!」

 

勝鬨の悲痛な叫びが木霊する。胸元を握り締め、吐き出すように語る彼の姿を見て、権現坂は思わずその名を呼ぶ。遊矢はそんな勝鬨に答えない、それでも勝鬨の言葉は止まらない。

 

「だけどそれはお前も一緒だったんだろう!?権現坂や柚子から聞いた!父が行方不明となり、お前は周りから虐げられた!そんなお前の事情も知らずに、自分はお前がのうのうと生きている奴と決めつけてたんだ!だが違う!お前は強い奴だ!どんな時でも笑顔で、皆を笑顔にする凄い奴だ!だけど今は嫉妬しない、何故だか分かるか!?」

 

止まらない、勝鬨の感情の発露が降り注ぐ。苦しみも悲しみも、全てを宿したそれは、遊矢の心に向かい、必死に動かそうと、彼を取り戻そうと手を差し伸べていく。それでも――遊矢の顔色は、変わらない。

 

「独りじゃないからだ!お前が友達だからだ!お前のように強くなりたいと思っても、負けられないと思っても、むしろ誇らしい!自分の友は凄い奴だと胸を張れる!強くなれる!だからこそお前が昔の自分のように、苦しんでいると自分も苦しい!嫌なんだ!お前のデュエルは、こんなものじゃないだろう!」

 

孤独を知り、そうでは無くなったからこそ、分かった事、大切な友を得たからこそ気づいた事。

何もかも、楽しい事は全て、友が教えてくれた。気づかせてくれたのだ。だからこそ、勝鬨もまた、その手を友へと伸ばす。

独りは寂しい。暗い闇の中で闘う彼に、届くまで何度でも手を伸ばす。どれだけ傷つこうと、どれだけ苦しもうと、友を失う痛みに比べれば大したものではない。

 

「手を伸ばせ!自分が必ず、掴み取ってやる!お前を絶対に独りにはしない!かっとビングだ!遊矢ぁっ!!」

 

熱く、想いの籠った叫びが右腕へと炎を灯し、その紅蓮の闘志が、デッキより1枚のカードを引き抜く。天空に描く炎のアーク、その軌跡が、遊矢の瞳に鮮明に写る。

 

「魔法カード、『手札抹殺』を発動し、手札を交換!そして墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『バトルフェーダー』を戻し、1枚ドロー!永続魔法、『炎舞―「天キ」』発動!デッキより『輪廻天狗』を手札に加え、魔法カード、『融合』を発動!手札の『輪廻天狗』と『沼地の魔神王』を融合!天駆ける星、地を飛び……今1つとなって悠久の覇者たる星と輝け!融合召喚!来い!『覇翔星イダテン』!!」

 

覇翔星イダテン 攻撃力3000

 

ついに現れる勝鬨のエースカード。紫の兜と甲冑を纏い、真紅の外套を靡かせた天地の覇者。黒き槍を構え、今友の闇を貫かんと吠える。

 

「更に魔法カード、『アームズ・ホール』を発動!デッキトップを墓地に送り、デッキより装備魔法、『アサルト・アーマー』をサーチし、イダテンに装備!」

 

覇翔星イダテン 攻撃力3000→3300

 

「そして『アサルト・アーマー』を墓地へ送り、このターン、イダテンは2回攻撃が可能となる!更に墓地の天キ1枚、天枢2枚、天権1枚、天セン1枚、揺光1枚、玉衝1枚、合計7枚の『炎舞』を除外し、罠発動!『極炎舞―「星斗」』!墓地の『暗炎星―ユウシ』、『微炎星―リュウシシン』、『勇炎星―エンショウ』2体を特殊召喚!!」

 

暗炎星―ユウシ 攻撃力1600→1700

 

勇炎星―エンショウ 攻撃力1600→1700×2

 

微炎星―リュウシシン 攻撃力1800→1900

 

「まだだ!その後デッキより4枚の『炎舞』をセットする!天権と揺光、そして玉衝2枚をセット!そして揺光と玉衝をオープン!そのセットカードを封じる!」

 

暗炎星―ユウシ 攻撃力1700→2000

 

勇炎星―エンショウ 攻撃力1700→2000×2

 

微炎星―リュウシシン 攻撃力1900→2100

 

「玉衝を墓地へ送り、エンショウの効果でセットカード破壊!もう1枚の玉衝も墓地へ送り、セットカード破壊!ユウシの効果でヘイタイガー破壊!届かせる!この拳を!」

 

破壊、破壊、破壊。エンショウの効果を使い、遊矢のフィールドのカードを次々と破壊し、着実に道を切り開いていく勝鬨。

少しずつ、だが確実に、不器用ながらも遊矢の心まで歩んでいく。その手が届くまで、手を伸ばす。

 

「2体のエンショウでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『魁炎星王―ソウコ』!」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2200→2300

 

「ソウコの効果!デッキより天枢をセット!オープン!リュウシシンの効果で天センセット!」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2300→2400

 

暗炎星―ユウシ 攻撃力1700→1800

 

微炎星―リュウシシン 攻撃力1900→2000

 

「リュウシシンの効果を使い、天キと天枢を墓地へ送り、墓地のソウコを特殊召喚!」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2200

 

「まだまだぁ!リュウシシンとユウシでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『間炎星―コウカンショウ』!」

 

間炎星―コウカンショウ 攻撃力1800

 

「コウカンショウのORUを2つ取り除き、墓地の天キと天枢、お前のフィールドのルーンアイズとカレイドスコーピオンをバウンスする!残るはビーストアイズのみ!バトルだ!イダテンでビーストアイズに攻撃!この瞬間、イダテンと戦闘を行うビーストアイズの攻撃力を0にする!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000→0

 

「……手札のバリアバルーンバクを捨て、ダメージを0にする」

 

決死を賭けたエースカードのぶつかり合い。火花を散らし、爆風を吹き荒らす激突は、ビーストアイズを呑み込み、遊矢にも牙を剥く。しかし遊矢の手にはモンスター同士の戦闘ダメージを0にするバリアバルーンバクが握られている。直ぐ様手札から切り、勝鬨の攻撃を防ぐ。

 

「まだ終わらん!イダテン、ダイレクトアタック!」

 

「永続罠、『強化蘇生』発動!墓地のギッタンバッタを蘇生し、レベルを1つ上げ、攻守を100アップする!」

 

EMギッタンバッタ 守備力1200→1300 レベル4→5

 

イダテンの黒槍を防ぎ切ったのはシーソーのように上下するバッタのモンスターだ。息もつかせぬ攻防、押しては返すカード達の波が荒波に変わっていく。見ている権現坂でさえ緊張の余り、言葉が出ない。

 

「ならばイダテンで攻撃!」

 

「特殊召喚されたギッタンバッタは1ターンに1度戦闘では破壊されない!」

 

「ッ!コウカンショウで攻撃!ソウコでダイレクトアタック!」

 

「手札の『EMシール・イール』を捨て、バリアバルーンバク蘇生――!」

 

EMバリアバルーンバク 守備力2000

 

ビーストアイズ、ギッタンバッタ、バリアバルーンと3体のモンスターが立ち塞がる。何度も殴っても遊矢の壁が現れ、勝鬨の拳が届かない。これが遊矢の心の闇、それでも勝鬨は止まらない。友の笑顔を取り戻す為、その拳を振り上げる。ソウコでバリアバルーンバクを破壊――壁は全て、砕く。

 

「ソウコでダイレクトアタック――!」

 

榊 遊矢 LP2500→300

 

「ぐっう――!」

 

「遊矢ぁっ!戻って来い!」

 

全ての力を振り絞り、全ての壁を打ち砕く。傷ついても、倒れても、それでも勝鬨は立ち上がる。傷つく事は怖くない。倒れる事を恐れない。本当に嫌な事は、大切な友を失う事。

握り締めた拳を掌に変え、勝鬨は遊矢へとその手を差し伸べる。そんな彼に対し、遊矢は――。

 

「勝……鬨……ッ!」

 

息を切らし、肩を震わせ上げられた顔、右の眼は血色に彩られた、遊矢のものではない、何者かの瞳。しかし左眼は――燃える炎を思わせる、遊矢本来の真紅の瞳。

途切れながらも遊矢は勝鬨の名を呼び、その手を伸ばす。届いた――。勝鬨の想いが壁を壊し、遊矢の心まで辿り着いたのだ。その事実に、親友である権現坂は表情を緩める。

 

「遊矢――!」

 

「お前も、闘っているのだな……!必ず、救ってやる!自分はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

勝鬨 勇雄 LP800

フィールド『覇翔星イダテン』(攻撃表示)『魁炎星王―ソウコ』(攻撃表示)×2『間炎星―コウカンショウ』(攻撃表示)

セット3

手札0

 

あと少しあと少しで遊矢の手を掴める。うっすらとだが意識を取り戻した遊矢を確認し、安堵する勝鬨。だが油断は出来ない。

ここからが本番、最後の勝負なのだ。遊矢を乗っ取った何者かが確実に動きを見せる時だ。勝鬨もこのターンに全てを賭ける。

 

「俺の……ターン……ドロォォォォォッ!!」

 

運命を賭けたラストターン、遊矢は右腕に全ての闇の瘴気を集わせ、暗黒のアークを描く。漆黒の軌跡が宙を舞い、激しい突風が追随する。砂を巻き上げ、煙を散らす。来る、邪悪な力が遊矢を包み、その力を解き放つ。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地の『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』と『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、『EMヘイタイガー』、『EMギッタンバッタ』、『EMバリアバルーンバク』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「速攻魔法、『揺れる眼差し』!ペンデュラムゾーンのカードを破壊する!そしてお前に500のダメージを与える!」

 

「させん!アクションマジック、『フレイム・ガード』!ダメージを0に!」

 

「更にデッキからペンデュラムモンスター、『EMシルバー・クロウ』をサーチ!魔法カード、『アメイジング・ペンデュラム』発動!エクストラデッキの『相克の魔術師』と『相生の魔術師』を手札に加え、セッティング!」

 

再び遊矢のフィールドに揺れるペンデュラム。2体の『魔術師』が光の柱として空に伸び、巨大な魔方陣が浮かび上がる。

 

「ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!『EMシルバー・クロウ』!『EMドクロバット・ジョーカー』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

振り子の軌道で現れる3体のモンスター。異なる双眸を持つ真紅の竜、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と鋭い鉤爪を地に抉り込ませた銀狼、『EMシルバー・クロウ』、そして黒い仮面の道化師、『EMドクロバット・ジョーカー』、2体のレベル4モンスターが揃う。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

今再びフィールドに降臨する、鋭きアギトを閃かせた漆黒の竜。しかも今度はそれだけではない、遊矢の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』とユートの『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』、2体の竜が激しく、そして雄々しく咆哮し、まるで共鳴するかのように天が泣き、地が震える。大気がミシミシと圧迫されているかのような異音が奏でられ、耳元を蹂躙するかの如く鳴り響く。

明らかに異様でおぞましさすら覚える光景に勝鬨と権現坂がその額に冷たい脂汗を浮かべ、瞠目する。一体何が起こっているのか、そんな言葉さえ喉から出ぬ中、遊矢がその鮮血を浴びたような右眼を見開き、爛々と輝かせる。

 

「ダーク・リベリオンのORUを2つ取り除き、イダテンを対象に効果発動ぉ!攻撃力を半分にし、その数値を奪う!トリーズン・ディスチャージ!」

 

覇翔星イダテン 攻撃力3000→1500

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→4000

 

ダーク・リベリオンから黒雲が発生し、バチバチと鳥が囀ずるような音と共に真紅の雷が迸り、大気を駆け抜け、イダテンに降り注ぐ。

爆音が轟き、イダテンの身体に熱が這い回る。一直線に落ちる赤のラインは地をも焦がし、黒煙と異臭を撒き散らす。余りに現実よりかけ離れ、ソリッドビジョンを越えた威力。だがそれでも勝鬨は怯む事無く、待っていたとばかりに右腕を突き出す。

 

「自分フィールド上の融合モンスターの攻撃力がダウンした場合、墓地の『天融星カイキ』を特殊召喚する!」

 

天融星カイキ 守備力2100

 

勝鬨がフィールドに召喚したのは『アームズ・ホール』のコストによって落としていたモンスターだ。鬼の角を伸ばした兜を被り、その胸から腹部にかけては鬼そのものの顔が浮かび上がっている。

 

「Ledies and Gentlemen!さぁ、お楽しみはこれからだ!カイキが特殊召喚した時、500LP払い、効果発動!手札、フィールドのモンスターを墓地に送り、融合召喚を行う!」

 

勝鬨 勇雄 LP800→300

 

瞬間、勝鬨の身体に激痛が走り、その頬、そして両腕に極彩色の紋様が浮かび上がる。蝶の羽の描かれている模様にも似たそれはどう見ても彼の傷を癒すものではない。

むしろ今以上に彼に痛みをもたらす戦化粧、新たな力を行使する代償なのだ。苦痛を無理矢理抑え込むような勝鬨の表情を見て、権現坂が心配の声を上げる。

 

「勝鬨……それは……!?」

 

「狼狽えるな!例え、修羅に堕ちようと、自分はデュエリストで在り続ける!フィールドのイダテンとカイキを融合!天に融けし者よ、悠久の覇者よ!重ねし力で天下を取らん!融合召喚!来い!『覇道星シュラ』!!」

 

覇道星シュラ 攻撃力0

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2200→0

 

間炎星―コウカンショウ 攻撃力1800→0

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→0

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力4000→0

 

全ての力を注ぎ、遊矢のエンタメデュエルを再現するかの如く手を合わせ、自らの切り札を呼び起こす。天に漂う雲が閃き、黒雲を貫いて轟音と共に地へ降り立つ。

新たに現れる覇者のモンスター、人と獣、そして鬼の3つの顔を持ち、4本の腕で長い棍と赤く輝く闇の光球を掴んだ融合カード、『覇道星シュラ』。

今勝鬨は、修羅に堕ちても友を救おうとする。

 

「シュラがフィールドに存在する限り、フィールドの全てのモンスターは攻撃力0になる……!」

 

「『相生の魔術師』のペンデュラム効果発動!自分フィールド上のエクシーズモンスター、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』とレベル5以上のモンスター、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を対象にし、エクシーズモンスターのランクを対象のモンスターのレベルと同じ数値にする!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ランク4→7

 

「ランクを……変える……?」

 

遊矢が発動した『相生の魔術師』。そのペンデュラム効果により、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』のランクが『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』に呼応し、7へと変わる。

しかしどれだけランクとレベルを合わせてもその2つではエクシーズ出来ない。攻撃力はシュラによって0になっており、エクシーズモンスターはシュラの力で無力化するからだ。

しかし、勝鬨はこの先、信じられないものを目撃する。

 

「更に『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を対象に、『相克の魔術師』のペンデュラム効果発動!このターン、対象のモンスターは、そのランクと同じ数値のレベルのモンスターとしてエクシーズ召喚の素材に出来る!」

 

「!?!??!??!?!?」

 

ペンデュラムモンスターとエクシーズモンスターを使用してのエクシーズ。その有り得ない、馬鹿げた召喚を実現する効果に勝鬨が今までに無く、いや、これまでの人生の中で最も激しく勝鬨る。頭がパンクし、湯気が出そうになる程の光景だ。立っているだけでも奇跡と言える。

 

「俺はレベル7の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』とランク7の『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』でオーバーレイ・ネットワークを構築!二色の眼の龍よ!その黒き逆鱗を震わせ、刃向かう敵を殲滅せよ!エクシーズ召喚!出でよ、怒りの眼輝けし龍!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』!!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000→0

 

共鳴する眼の竜と牙の竜。2体が赤と黒の光となり、天上で交差し、超新星爆発を引き起こす。爆煙が風に流され、晴れたそこには――1体の、竜。

右が純白、左が漆黒の顔を持ち、深紅と翡翠の眼を煌めかせ、その額には青い宝玉が輝いている。下顎からは2本の妖しく光る鋭い牙が伸び、胸部は竜の顔を模している。首元では2本の角が宝玉を嵌め込まれた上で伸びており、腕から生えた指は工具のようになっている。

何より眼を引くのはその背に伸びた、巨大な翼。機械的なそれは複雑な構造をしており、8枚4対の眩く輝く剣の如き形で展開している。

 

美しくも、禍々しい覇王竜。周囲に『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の星を回転させたその竜は、雄々しき咆哮を覇者へと放つ。

 

「エクシーズ……ペンデュラムモンスターだと……!?」

 

そのカードの上半分は黒く、下は緑、エクシーズモンスターでありながら、ペンデュラムモンスター。その相反する二律を持って生まれたかのような歪なカード。

体験した事が無い存在に勝鬨と権現坂が勝鬨る。特に先程まで勝鬨っ放しの勝鬨には追い討ちとなる存在だ。カイキの呪いも合わせるとダメージが酷い。

 

「バトルだ!いけ!オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン」

 

「残念だったな!シュラにはモンスターの戦闘を行うダメージ計算時、互いのモンスターの攻撃力はそれぞれのレベル×200アップする!だがエクシーズモンスターにレベルは無い!つまりレベル0と言う事だ!」

 

勝鬨が微妙に間違った事をぬかしながらシュラの効果を説明する。そもそも攻撃力0のモンスター同士ではどちらも破壊されない。何故遊矢が攻撃を行ったのか――それは、瞬時に理解する事となる。

 

「ならば速攻魔法――『月の書』!これでシュラをセット状態にする!」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力0→2200×2

 

間炎星―コウカンショウ 攻撃力0→1800

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力0→3000

 

「そしてソウコに攻撃!反旗の逆鱗!ストライク・ディスオベイ!!」

 

形勢逆転、この状況を作り出すシュラをセットする事で全てのモンスターの攻撃力を取り戻す遊矢。

オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンが翼を翻し、大地をその2本の牙で抉りながら轟音を放ち、突き進む。そして一気に上昇し、ソウコへと牙を突き立てようとした時――。

 

「フン、貴様――遊矢とは違い、駆け引きは苦手なようだな――」

 

「ッ!?」

 

「ソウコを対象に――罠カード、『破壊指輪』発動!」

 

ガシャン、反旗を上げるオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンの眼前に立つソウコの指に、勝鬨が発動した『破壊指輪』が嵌められる。このカードの効果は単純明快、対象のモンスターを破壊し――自分と相手に1000ダメージを与える――。

 

「今回の所は引き分けにしておいてやる――」

 

瞬間、指輪は膨張して赤く発光しながら爆発を起こし、粉塵を舞い上がらせる。爆風が2人の身体を吹き飛ばし、2人のLPを削っていく。

 

勝鬨 勇雄 LP300→0

 

榊 遊矢 LP300→0

 

「遊矢!勝鬨!」

 

ドサリ、音を立てて倒れる2人を心配して、権現坂が駆け寄る。どうやら2人とも傷ついてはいるものの大丈夫らしい。比較的ダメージが少ない遊矢が「イテテ……」と呟いて頭を掻きながら立ち上がる。

 

「遊矢!正気に戻ったのか!?」

 

「ああ……届いてたぜ……勝鬨、いや、勇雄の手……本当に、ありがとう」

 

「フ、そうか……」

 

やはり勝鬨の方がダメージが大きいのか、権現坂に肩を借りながら遊矢の元に歩み寄り、苦笑を溢す。何にせよ、自分がすべき事は成し遂げた。

次は――遊矢の番だろう

 

「……行け、遊矢。この先に――奴がいるのだろう?」

 

「勇雄……だけどお前……」

 

「自分なら大丈夫だ。伊達に鍛えてはいない、少し寝て、休むだけだ」

 

「安心しろ、その間は俺が見張っていよう。今度は俺が守る番だ」

 

何かを躊躇う遊矢を見て、勝鬨がその背を押す。遊矢には遊矢のやるべき事がある。勝鬨は眠た気な眼でどこからともなくナイトキャップを取り出し、その場に仰向けになって被る。

その間オベリスク・フォースが来ても大丈夫なように権現坂が見張ると言う事らしい。自分の背を後押ししてくれる2人に遊矢は深く頷く。

 

「黒咲と言う男も、大切なものを失ってしまっている……救ってやってくれ……お前なら出来る」

 

「ああ――ありがとう、2人共――!」

 

勝鬨の言葉を受け取り、感謝の意を述べ、遊矢と、そしてユートは駆け出す。闇に堕ちたからこそ、遊矢にも分かる。

勝鬨の言うように、黒咲もまた、大事なものを失ってしまっている。デュエリストとしての、大切なものを、それを伝えられるのは――1度自分を失い、ユートの意志を継ぎ――そしてエンタメデュエルを行う、遊矢のみ。

誰でも無い、榊 遊矢こそが、黒咲 隼に手を差し伸べられるのだ。コナミが勝鬨を救ったように――その頼れる背を見て、勝鬨は微笑む。

 

「あれなら大丈夫だろう――さて、権現坂。こう言った状況ではあれだろ?自分の好きな子とか言い合ったりするんだろ?」

 

「……お前、実は元気なんじゃないか?」

 

ワクワクと期待に胸を膨らませ、布団を被り、修学旅行に来た中学生のような事を言い出す勝鬨。今まで梁山泊塾で修行ばかりして、皆でそんな事を経験する事が無かった世間知らずな彼は、凄く楽しそうだった。

 

――――――

 

走る、走る。背中を押してくれた友の為、託してくれた者の為、そして何より、自分自身の目指すものの為に。

砂漠を駆け、遺跡を進む。今まで様々な試練とぶつかって来た。いずれも厳しく、簡単なものでは無かったし、躓き、倒れる事もあった。だけど遊矢はそれでも立ち上がって来た。皆に助けられ、背を押して貰いながら、遊矢は笑顔で乗り越えて来た。

だから――今度も、笑顔で進もう。

 

「黒咲……!俺とデュエルしろぉぉぉぉぉっ!!」

 

燦々と輝く太陽を背にし、遊矢は遺跡の前で立つ黒咲に向かって吠える。突然の背後からの来訪者の叫び。

黒咲はそれを受け、静かに遊矢へと振り向く。

 

「――貴様は……良いだろう、俺も貴様には用がある」

 

互いに闘うべき理由がある。戦意も充分、2人はデュエルディスクを構え、光輝くソリッドビジョンのプレートを展開しながらその場を駆ける。

対決する、この大会最大の優勝候補とダークホース。黒咲は確かに強敵だ。圧倒的な戦術、そして意志。今の遊矢では勝率は低い。

だがそれでも、遊矢は諦めない。成長を続ける彼のデュエルは上空で飛翔するハヤブサに届くのか、いずれにせよ、勝負の行方は分からない。

だってそれが――デュエルの面白い所なのだから。

 

『行くぞ――遊矢!』

 

「ああ……ユート」

 

遊矢の背後に浮かぶユートが檄を飛ばし、遊矢も応える。ユートも、親友を救いたいのだろう、確かに、遊矢1人では荷が重いかもしれない。

だが、何も遊矢1人が手を伸ばす訳では無い。遊矢とユート、そしてその背には遊矢が今まで闘って来た者達の想いが乗せられている。

だからこそ、遊矢は闘えるのだ。

 

「「デュエル!!」」

 

始まるデュエル。榊 遊矢対黒咲 隼。そして今、この瞬間、別の場所では――赤帽子のデュエリストと、紫帽子のデュエリストが、デュエル開始の宣言を上げていた――。

 

 

 

 

 

 




と言う事で次回はコナミ君のデュエル、それが終わり次第、遊矢君のデュエルになります。中断とか乱入は無いのでそこら辺はご安心を。
このデュエルを通し、遊矢君の成長や黒咲さんの心情を描写したいなと思います。

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