日も大きく傾き、辺りが暗くなって来る頃、河川敷に近くに位置する遊勝塾に1人のデュエリストが来訪していた。赤いジャケットをマントのように羽織り、トレードマークの赤帽子の上にゴーグルを装着した少年、コナミである。彼は柚子に連れられこの遊勝塾の一室に備え付けられたソファーに座っている。
「ええっと、俺は榊 遊矢、よろしくな」
テーブルを挟んで対面したソファーに座った少年、榊 遊矢がぎこちない笑みで話し掛けて来る。対するコナミはと言うと。
「……コナミだ」
デュエル時とは打って変わって、どこかボーッとした様子で名乗るコナミ、これには遊矢も苦笑いだ。
「(なぁ柚子、俺嫌われてるのかな?)」
「(大丈夫じゃない?私にもこんな感じだったし……口数が少ないタイプなのよきっと)」
微妙な空気に堪えられず隣に座る柚子に小声で話す遊矢、こういった自分と同い年の者、しかも初対面の――に対してあまり得意ではないのは年相応の反応と言えよう、しかも遊矢にとってこの手のタイプの人間は初めてである。掴み所が無い奴だなぁと思いながらコナミを見る、赤い帽子を目深に被った自身と同年代の少年、何処にでも居そうで何処にも居ない、そんな不思議な存在感が彼にはある。
「柚子を助けてくれたんだってな、ありがとう」
「大した事はしていない」
「それでもありがとな」
「……そうか……」
ふっと頬を緩ませるコナミ、それを見た遊矢は何だかコナミとは仲良くなれそうな気がした。
(柚子の言ってる通り、無口だけど良い奴だな)
目を細めコナミと同じように微笑む遊矢そんな二人を優しく見守る柚子、そこへ。
「コナミ君っ!娘を助けてくれてほんっとうっにありがとうっ!!」
ガッと力強くコナミの両肩を掴みガクガクと揺するジャージを着たキリッとした眉の男性、喋るまでもなく、彼の人間性と言うか性格が伝わってくる。気のせいか、部屋の温度が上がった気がする。
「いやっ、別にっ、大したっ、事はっ、してないっ」
体を揺すられて首がカックンカックンと上下に動き、言葉を区切る形となってしまうコナミ、こんな中でも動揺一つ見せないのは数々の心理フェイズを経験した賜物であろうか。
「ちょっ!ちょっとお父さん落ち着いて!コナミがカックンカックンしてる!」
慌てて止めに入る柚子と遊矢。
「ああっ!?すまないコナミ君!悪いなついこう熱くなると周りが見えなくなって」
ぱっと手を放し、はははと困ったように眉を八の字にし苦笑いする男性、ぐらつくコナミを大丈夫かと男性と同じく苦笑いして支える遊矢。
「紹介が遅れたな、俺はこの遊勝塾の塾長をやっている柊 修造だ」
「私のお父さんでもあるのよ」
白い歯を見せ、気持ちの良い笑顔で右手を差し出す修造。コナミも頬を緩め握手を交わす。
「……コナミだ、呼び捨てで構わない」
「それでねお父さんコナミをこの遊勝塾に迎えようと思うの、どうかしら?」
「本当か!?此方からお願いしたい位だ!!よろしく頼むコナミ!」
「ああっ」
「これでこれからコナミも仲間だな」
よろしくなと笑い、コナミの背を軽く叩く遊矢。
「ああ、よろしく頼む」
そう答え、遊矢に握り拳を差し出すコナミ。その行動に意外そうに目を丸める遊矢、だがしばらくして口元に弧を描き、拳を差し出し
軽くぶつけ合った。
――――――
「話は終わったのか?」
部屋を出た所で声を掛けられる。特徴的な下駄の音を鳴らし、コナミの前に仁王立ちしたのはリーゼントや学ランと少し古風な大男、とは言っても嫌な悪感情は感じない、漢らしい男と言う雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。
「権現坂!どうしたんだ、こんな時間まで?」
コナミの後ろからひょっこりと遊矢が顔を出す。どうやら二人は知り合いのようだ。
「うむ、柚子の恩人と聞いてな、友の恩人は俺にとっても恩人、俺も挨拶を、と思ったのだ」
「……コナミだ、たった今、遊勝塾のメンバーになった」
「権現坂道場の権現坂 昇だ。柚子の友として助けてくれた事、この男権現坂、深く感謝する」
ガシッと手を取り合う2人のデュエリスト、そんな権現坂の脇から3人の子供達が顔を覗かせる。1人は聡明さを感じさせる少年、もう1人は可愛らしい少女、3人目は元気そうな少年だ。
「遊矢兄ちゃん、この帽子の兄ちゃん誰だ?」
小太りの元気そうな少年が近寄る、どうやら初対面のコナミに興味津々のようだ。
「ああ、このお兄さんはコナミって言って、遊勝塾の新しいメンバーだよ」
コナミの肩に手を乗せ子供達に紹介する遊矢。
「コナミお兄ちゃんだね!私は鮎川アユ!よろしくね!」
周りに花が見えるような無邪気な笑顔を見せる少女、コナミはいつも通り無言で頷く。
「何だか無口な人だね、僕は山城タツヤです。よろしくお願いします」
見た目や雰囲気通り、礼儀正しく頭を下げる少年、この位の年でここまでできた子供はそうはいないだろう、コナミも感心しながら、こくりと頷く。
「俺!原田フトシ!コナミ兄ちゃんが遊勝塾に入るなら俺、先輩になるのかな?」
元気いっぱいといった様子でコナミの手をくいくいと引っ張るフトシ、その少しお調子者と言った態度にコナミは1人の少年の姿を重ねる。何時もは子供っぽくて、お調子者で、それでも妹を守るためなら絶望の中でも立ち上がれる、小さな勇者。昔の友を思い出し頬を緩めるコナミ。
「……そうなるな……よろしく頼む先輩」
「……!へへっ!分かった!」
「むぅ、フトシ君ずるい……」
笑うフトシと頬を膨らませむくれるアユ、対照的な2人に苦笑しながらコナミはぽんとアユとタツヤの頭に手を乗せる。
「これから世話になる……先輩」
「えっ……えっへへぇー、しょーがないなぁーもうっ!コナミお兄ちゃんはー!まぁ任せてよ!!なんてったって私、コナミお兄ちゃんの先輩だからね!」
「そっそんな!先輩だなんて!此方こそよろしくお願いします!」
得意気に小さな胸を張るアユと年上に先輩呼ばわりされたせいか、慌てて畏まるタツヤ。とは言ってもタツヤも満更でもなさそうだ。その証拠に口元がにやけている。
「……ん?」
ふと自分に向けられる視線を感じ、顔を上げるコナミ。するとコナミ達の様子を観察するように廊下の壁にもたれかかり、ペロペロキャンディーを舐める髪を後ろで一くくりにした少年がそこにいた。
「……お前は――」
「……ふーん、『あいつ』に似てるけど……ここにいるわけないか」
コナミをジッと見つめながらブツブツと独りごちる少年、次の瞬間にはピンと背を伸ばし、笑みを浮かべコナミの方へ歩み寄ってきた。
「僕は紫雲院 素良!よろしくね!こーはい君」
「……ああ……分かった。」
「自己紹介は終わったわね、もう遅いし、皆帰らないと」
手を2回ほど叩き視線を集める柚子、彼女の言う通り辺りはすっかり暗くなり、時計も7時を回っている。
「本当だ!早く帰らないと!」
アユの言葉を皮切りに慌てて帰る準備を始める子供達。
「コナミも帰らないと」
「……?」
柚子の言葉に首を傾げるコナミ。何かがおかしい、嫌な予感がした遊矢は頬に汗を垂らしながら、指を差しコナミに問う。
「……コナミ、お前家は何処なんだ?」
傾げていた首を戻し、ぽんと納得したかのように両手を合わせる赤帽子。
「……家は無い」
全員の口元がひきつる、家なき子、コナミ。家がなくてもこの男は生きていけそうだが、遊勝塾の心優しい面々は少年を放って置けなかった。
――――――
暗い闇が空を覆い、皆が寝静まる頃、コナミは柊家の一室でベッドに腰掛けていた。責任感のある大人、修造と父に似て世話好きな柚子が説得した結果である。コナミも肩を揺すられながら了承した。
「……」
灯りも点けず、コナミはベッドの上で1枚のカードを見つめていた。60枚のデッキに入っていたカードの1つ、コナミがどのカードよりも興味を示したカードだ。
「……何故」
カードに描かれたモンスター、そのカードには特別な力なんてない、神の力も、正しき闇の力も、赤き竜の力も、世界を作り上げる力も何も無い……筈だった。
「……」
ジッとそのカードを見つめるコナミその瞳は帽子に隠れて、どのような感情が籠っているかわからない、しかし――。
「……」
そのカードはコナミにとって――。
ヤリザ「拙者の出番か……」
スクラップ・コング「俺に決まってるウホ」
ハングリー・バーガー「おいおい俺を忘れてもらっちゃ困るぜ」
モリンフェン「下がっていな」