「ハッ、まさかテメェと当たるなんてな」
「……」
歓声沸き起こるスタジアム、その中心にて、2人のデュエリストが対峙していた。1人は癖毛が特徴的な格闘少年、勝鬨 勇雄。
対するはどの塾にも所属していない暗黒寺 ゲンだ。暗黒寺はハン、と鼻を鳴らし勝鬨を挑発するが柳に風、勝鬨は瞼を閉じ、集中している。
「だんまりか……いいぜ、俺がテメェを以前までの勝鬨に戻してやろうじゃねぇか」
「フ、態々弱くなってどうする」
ヴォン、互いにデュエルディスクを構え、光輝くソリッドビジョンのプレートを展開する。暗黒寺も挑発してその手を鈍らせるのは無理だと理解したのだろう。つまらなそうな舌打ちを鳴らしながら勝鬨を睨む。
まぁ良い、こちらが焦る事はしない。暗黒寺は狡猾に、そして冷静に策を立てる。勝鬨のデッキは融合召喚を軸としたもの、切り札のイダテンさえ封じれば勝てない相手では無い。
『では!皆様お待たせしました!これより1回戦第1試合、勝鬨 勇雄選手対暗黒寺 ゲン選手のデュエルを始めます!アクションフィールド、発動!』
司会であるニコ・スマイリーが指を弾くと共にフィールドが光の粒子に包まれ、その姿を変えていく。
渦巻く荒波、その力強い自然に削られた断崖絶壁、険しい岩礁が切り立った絶海の孤島。まるで外からの助けなど一切遮断し、受け付けないと言わんばかりのフィールドだ。
「アクションフィールド、『絶海の孤島』か……ここがお前の墓場だ!」
「この程度の環境でくたばるのなら自分はここにはいない」
火花を散らす2人の視線。勝鬨にとってこの程度の獣道など話にならない。彼は少森寺塾の化物講師達に鍛え抜かれているのだ。あの地獄に比べれば笑ってしまう。
彼が往くのは修羅の道、何故か野球が上手くなってしまったがあくまでオマケだ。
「さぁ、行くぜ!戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」
「モンスターと共に地を蹴り宙を舞い!」
「フィールド内を駆け巡る!」
「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」
アクションデュエル恒例の口上がスタジアム内で飛び交い、2人は互いにポージングを取っていく。何も知らない者からすると何ともシュールな光景だ。
「「アクショーン……デュエル!!」」
こうして、デュエルは始まる。果たして勝利の女神が微笑むのはどちらか。先行を取った勝鬨はデッキより加えた5枚の手札に視線を移し、その中より1枚のカードをデュエルディスクに叩きつける。
「自分は『微炎星―リュウシシン』を召喚!」
微炎星―リュウシシン 攻撃力1800
現れたのは黄金色に輝く小さな龍を何体も連れた武人。攻撃力は1800、別段驚く事は無い数値だが……このモンスターの登場に暗黒寺は動揺し、目を見開く。
「『炎星』だと……!?馬鹿な!お前のデッキにはそんなカード……!」
「勘違いしているようだから教えてやる。このデッキは自分の師、郷田川が旅に出る時に譲り受けたもの……昔のものとは大きく違う!」
そう、勝鬨は元梁山泊塾塾長である郷田川に勝利した際、成長の証として、彼のデッキを貰ったのだ。
同じ中国の伝奇歴史水説、水滸伝をモチーフとしているが嘗てのデッキとは戦略性が全く違う。暗黒寺はてっきり融合召喚が主軸のデッキで闘う事を想定していた為、策が無駄となってしまった。
「永続魔法、『炎舞―「天枢」』発動!このカードがフィールド上に存在する限り、メインフェイズに1度だけ通常召喚に加え、獣戦士族モンスターを召喚でき、自分フィールド上の獣戦士族モンスターの攻撃力は100ポイントアップする!」
微炎星―リュウシシン 攻撃力1800→1900
「リュウシシンの効果でデッキより『炎舞―「天セン」』をセット、『殺炎星―ブルキ』を召喚」
殺炎星―ブルキ 攻撃力1700→1800
闘牛の姿をした青い炎を従えた武人がリュウシシンへと並び立つ。これでレベル4のモンスターが2体、準備は整った。勝鬨は新たに会得した力を行使する為に右腕を天へと掲げ、背後に黒き渦を出現させる。
「自分は2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『魁炎星―ソウコ』!」
魁炎星―ソウコ 攻撃力2200→2300
勝鬨の導きの元、黒き渦より飛び出したのは白炎の猛虎を背負い、金色の鎧を纏った武人。このカードこそ『炎星』デッキの主軸となるカード。猛虎が雄々しく吠え、暗黒寺へと威嚇し、暗黒寺はその気迫に思わず後ずさる。
まさかのエクシーズモンスターの登場に会場が沸き上がる。エクシーズモンスターはLDSに所属したデュエリスト位しか使用しない為、彼が使うなどと思って見なかったのだろう。
実は勝鬨も最近になってその仕組みを理解したばかり、郷田川と対戦した時は色々と酷かったのだ。
「ソウコがエクシーズ召喚した時、デッキより『炎舞』魔法、罠カード1枚をフィールドにセットする!自分は『炎舞―「天キ」』をセットし、オープン!その効果により、デッキからレベル4以下の獣戦士族モンスター、『立炎星―トウケイ』を手札に加える。更にこのカードがフィールド上に存在する限り、自分フィールド上の獣戦士族モンスターの攻撃力は100アップする!」
魁炎星―ソウコ 攻撃力2300→2400
『炎舞』カードの効果によりソウコの攻撃力が2400、所謂帝ラインまで上がる。永続魔法を組み込んだカテゴリ、ソウコのテキストを見るに永続罠も中心になっているのかもしれないと暗黒寺は推測する。こう見えてこの男、頭が回るのだ。
「自分はカードを1枚セットしてターンエンド」
勝鬨 勇雄 LP4000
フィールド『魁炎星―ソウコ』(攻撃表示)
『炎舞―「天枢」』 『炎舞―「天キ」』セット2
手札2
「俺のターン、ドロー!俺は『バーバリアン3号』を召喚!」
バーバリアン3号 攻撃力1000
「『バーバリアン3号』の効果!このカードの召喚成功時、手札より『バーバリアン4号』を特殊召喚!」
バーバリアン4号 守備力1200
「速攻魔法発動!『地獄の暴走召喚』!攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚に成功した時、同名モンスターを手札、デッキ、墓地より特殊召喚する!相手も特殊召喚出来るが……テメェのモンスターはエクストラデッキのモンスター!よって俺のフィールドにのみモンスターが特殊召喚される!」
バーバリアン4号 攻撃力1200×2
暗黒寺の場に4体の『バーバリアン』モンスターが揃う。低攻撃力である事を逆手に取った大量展開、しかも厄介なのは『バーバリアン4号』だ。
このモンスターは1ターンに1度『バーバリアン』モンスターへの攻撃を無効にする。つまり3回も攻撃を防がれる訳だ。壁は厚い。
「ハッ!4号の効果が邪魔って顔だなぁ?安心しろよ、あくまでこいつ等はリリース要因だ」
「何?」
「焦るなよ!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキトップから10枚のカードを除外し、2枚ドロー!」
暗黒寺 ゲン 手札2→4
「いくぜ!『バーバリアン3号』と『バーバリアン4号』2体をリリースし、手札より『バーバリアン・マッド・シャーマン』を特殊召喚する!」
バーバリアン・マッド・シャーマン 攻撃力2000
3体もの『バーバリアン』を糧として新たな『バーバリアン』が現れる。
本来力強く、筋肉質なフォルムとは違いしなやかで白い不気味なフォルム、 首に巻かれたボロボロのマント、顔、そして両腕に肉食恐竜の頭蓋を纏わせ、両腕のそれからは血を思わせるような赤い刃が伸びている。
攻撃力2000、大量のモンスターを失ってまで釣り合う数値では無い。であるならば――警戒するべきは、その効果。勝鬨は眉を吊り上げ、デュエルディスクを構える。
「ハハッ!危機感知能力は獣染みてるなぁ!『バーバリアン・マッド・シャーマン』の効果!ソウコを対象としてコントロールを得る!」
「コントロール奪取効果か……!永続罠、『炎舞―「天権」』!発動時ソウコを選択し、このカードを発動したメインフェイズ1の間だけソウコの効果は無効となり、このカード以外の効果を受けない!更にこのカードがフィールドに存在する限り、獣戦士族モンスターの攻撃力は300アップする!」
魁炎星―ソウコ 攻撃力2200→2500
「チッ、獣の癖に対策札まで用意してやがったか……!なら永続魔法、『一族の結束』!墓地のモンスターの種族が1種のみの場合、自分フィールド上のその種族のモンスターの攻撃力を800アップする!」
バーバリアン・マッド・シャーマン 攻撃力2000→2800
バーバリアン4号 攻撃力1200→2000
「さぁ、バトルと行こうぜ!『バーバリアン・マッド・シャーマン』で『魁炎星―ソウコ』へ攻撃!」
勝鬨 勇雄 LP4000→3700
『バーバリアン・マッド・シャーマン』の腕の赤き刃がソウコの金色の鎧を砕き、その破片が勝鬨に襲いかかる……が、その超人的な身体能力を活かし、拳と蹴りをもって全ての破片を砕く!……デュエルなのでダメージは受けるが。
「ソウコがフィールドより墓地に送られた時、フィールドの『炎舞』魔法、罠カード3枚を墓地へ送る事で同じ攻撃力を持つレベル4以下の獣戦士族モンスターをデッキより守備表示で特殊召喚する!現れろ!『英炎星―ホークエイ』!『捷炎星―セイヴン』!」
英炎星―ホークエイ 守備力1500
捷炎星―セイヴン 守備力1500
現れたのは金色に燃える鷹と烏を連れた2人の武人。本来なら後続のエクシーズモンスターを出す為の効果なのだろう。尤も壁モンスターとしても厄介だが。
「面倒な事を……!俺は『バーバリアン4号』でセイヴンを攻撃!」
「セイヴンがフィールドより墓地へ送られた場合、デッキから『炎舞』魔法カード1枚を選んでフィールドにセットする!『炎舞―「天キ」』をセット!」
「サーチカードか……!俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ」
暗黒寺 ゲン LP4000
フィールド『バーバリアン・マッド・シャーマン』(攻撃表示) 『バーバリアン4号』(攻撃表示)
セット1
手札1
「自分のターン、ドロー!自分は『炎舞―「天キ」』を発動!デッキより『暗炎星―ユウシ』を手札に加える。更にホークエイと『炎舞』カードが存在する場合、『炎星』モンスターの攻撃力は500アップする!そして自分は『立炎星―トウケイ』を召喚!」
立炎星―トウケイ 攻撃力1500→2100
英炎星―ホークエイ 守備力1500→2000
3羽目の鳥がフィールドを駆ける。現れたのは紫の鶏を肩に止まらせた槍を持つ武人。『炎星』モンスターの中で要となる1枚だ。
「『炎舞―「天キ」』を墓地へ送り、トウケイの効果発動!デッキより『炎舞―「天枢」』をセット、オープン!『暗炎星―ユウシ』を召喚!」
暗炎星―ユウシ 攻撃力1600→2200
太陽のように山吹色に燃える熊を連れた顔に傷のある武人がフィールドに見参する。これで勝鬨の場には3体のモンスター、充分に動ける範囲だ。
勝鬨を孤島の中を駆けながら更に手を打つ。
「『炎舞―「天枢」』を墓地に送り、ユウシの効果発動!『バーバリアン・マッド・シャーマン』を破壊する!」
「だがこれでホークエイの効果は消える!」
「充分だ。自分はレベル3のモンスター2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『炎星皇―チョウライオ』!」
炎星皇―チョウライオ 攻撃力2200
腹部と炎に守の文字を持ち、獅子を従えたエクシーズモンスターが姿を見せる。ホークエイの強化が消えたのなら元から高い攻撃力のモンスターを出せば良いだけ。
『一族の結束』によって高い攻撃力を得た『バーバリアン・マッド・シャーマン』は破壊した。次は残っているモンスターだ。
「チョウライオのORUを1つ取り除き、効果発動!墓地のリュウシシンを手札に加える。バトルだ!チョウライオで『バーバリアン4号』を攻撃!」
「『バーバリアン4号』の効果でその攻撃を無効!」
「ならば『暗炎星―ユウシ』で攻撃!」
「ッ!アクションマジックか!」
「その通りだ!アクションマジック、『オーバー・ソード』!ユウシの攻撃力を500アップする!」
暗炎星―ユウシ 攻撃力1600→2100
暗黒寺 ゲン LP4000→3900
「自分はこれでターンエンドだ」
勝鬨 勇雄 LP3700
フィールド『炎星皇―チョウライオ』(攻撃表示) 『暗炎星―ユウシ』(攻撃表示)
セット1
手札3
「俺のターン、ドロー!永続罠、『リビングデッドの呼び声』!墓地の『バーバリアン・マッド・シャーマン』を蘇生する!」
バーバリアン・マッド・シャーマン 攻撃力2000→2800
「何!?『バーバリアン・マッド・シャーマン』は自身の効果以外では召喚できないのでは無いのか!?」
「残念だったな!こいつは普通にアドバンス召喚できるし、蘇生もできるんだよ!」
あのような召喚を見た為、勘違いした勝鬨がぎょっ、と目を見開き、勝鬨る。コントロール奪取と言う強力な効果を持つ割には緩過ぎる。
どこぞの紙のカードとは違う。しかし成長しても想定外の事が起こった時、勝鬨る癖は抜けてないようだ。
「マッド・シャーマンの効果!チョウライオのコントロールは頂くぜ!」
「くっ、さそうおどりだと!?ああっチョウライオがふしぎなおどりを!?」
『バーバリアン・マッド・シャーマン』が自身の効果により奇妙な踊りを踊り出し、それに連れられたチョウライオがまたもや奇妙な踊りを踊りながら暗黒寺のフィールドに誘われていく。
これには暗黒寺も口元を引き吊らせる。
「な、なんか違うがまぁ、良い、マッド・シャーマンでユウシを攻撃!」
「アクションマジック!『回避』!」
「アクションマジック『ノーアクション』!アクションマジックの発動を無効にし破壊する!」
「なっ!?ぐぅっ……!」
勝鬨 勇雄 LP3700→2500
マッド・シャーマンの攻撃が勝鬨へ襲いかかる。その強力な鉄拳を勝鬨は腕をクロスさせる事で防ぐがLPへのダメージは防ぎ切れない。
『回避』を使わずに罠カードを使うべきだったか、いや、『バーバリアン・マッド・シャーマン』を倒す為に温存すべきだと切り変える。
「チョウライオでダイレクトアタック!」
「アクションマジック、『ダメージ・バニッシュ』!戦闘ダメージを0に!」
「魔法カード、『マジック・プランター』!リビングデッドをコストに2枚ドロー!」
暗黒寺 ゲン 手札1→3
「俺は魔法カード、『光の護封剣』を発動し、カードを1枚セットしてターンエンドだ」
暗黒寺 ゲン LP3900
フィールド『炎星皇―チョウライオ』(攻撃表示)
『一族の結束』『光の護封剣』セット1
手札1
「どうしたぁ!?これで終わりかぁ!?」
「終わりだと?ここからが面白い所だろう!」
「何……!?」
暗黒寺が勝鬨が苦戦する姿を見て嘲笑する。こんなものか、と。やはり昔の、荒々しい妨害をしていた彼こそが本物の勝鬨なのだと。
しかし勝鬨はその挑発を鼻で笑う。そんなものが無くても闘える。そんなものが無いからこそ闘い続けられる。この未知なる楽しさを味わえる。デュエルができる。
「自分のターン、ドロー!『微炎星―リュウシシン』を召喚!」
微炎星―リュウシシン 攻撃力1800
「手札より『炎舞―「玉衝」』を発動!お前のセットしたカードの発動を封じる!更に共通効果によりリュウシシンの攻撃力を上げる!」
微炎星―リュウシシン 攻撃力1800→1900
「自分が『炎舞』カードを発動した事により、リュウシシンの効果発動!デッキより『炎舞―「天権」』をセット!更に永続罠、『炎舞―「天セン」』を発動!リュウシシンの攻撃力を700アップ!共通効果により300アップ!」
微炎星―リュウシシン 攻撃力1900→2900
「まだだ!天センを墓地に送り、『マジック・プランター』発動!2枚ドロー!」
勝鬨 勇雄 手札2→4
「馬鹿が!折角チョウライオの攻撃力を上回っていたのによ!」
「馬鹿を舐めて貰っては困る!3枚目の天キを発動!デッキから『雄炎星―スネイリン』を手札に加え、2枚の『炎舞』カードを墓地へ送り、リュウシシンの効果発動!墓地より『立炎星―トウケイ』を特殊召喚!」
立炎星―トウケイ 攻撃力1500
「トウケイの効果発動!このカードが『炎星』モンスターの効果で特殊召喚された時、デッキから『炎星』モンスターを手札に加える!『孤炎星―ロシシン』を手札に加え、『炎舞―「天枢」』発動!」
微炎星―リュウシシン 攻撃力1500→1600
立炎星―トウケイ 攻撃力1500→1600
「『雄炎星―スネイリン』を召喚!」
雄炎星―スネイリン 攻撃力1800→1900
「レベル4のモンスター2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『間炎星―コウカンショウ』!」
間炎星―コウカンショウ 攻撃力1800→1900
勝鬨がエクストラデッキから排出されたカードを掴み、モンスターゾーンへ叩きつける。現れたのは白い鎧と剣を持ち、立派な髭をたくわえた道士。その背後では青い炎の翼を翻した紅冠鳥が金切り声の如く高く張りつめた鳴き声を上げる。
攻撃力は僅か1800。『炎舞』カードの効果を受けても1900だ。その点では先程のリュウシシンの方が上、態々2体のモンスターを使ってまで召喚するモンスターではない。
暗黒寺はニヤリと馬鹿にするように笑みを歪めるが――このモンスターの恐るべき力はその効果、『バーバリアン・マッド・シャーマン』と同じだ。
「コウカンショウのORUを2つ取り除き、効果発動!自分の墓地の天キと天枢、お前のフィールドのチョウライオと『光の護封剣』をデッキへ戻す!」
「チッ、速攻魔法発動!『エネミーコントローラー』!チョウライオをリリースし、コウカンショウのコントロールを得る!」
「『炎舞―「天枢」』を墓地へ送り、トウケイの効果発動!デッキより『炎舞―「揺光」』をセット、オープン!発動時、コウカンショウを選択!手札の『孤炎星―ロシシン』を捨て、コウカンショウを破壊する!」
「何!?」
トウケイの肩に止まった炎の鶏が羽ばたき、コウカンショウを撃ち抜く。有無を言わさぬ洗練されたプレイング、それによって暗黒寺のフィールドががら空きとなった。
「トウケイでダイレクトアタック!」
暗黒寺 ゲン LP3900→2300
「カードを1枚伏せ、ターンエンド」
勝鬨 勇雄 LP2500
フィールド『立炎星―トウケイ』(攻撃表示)
『炎舞―「揺光」』セット2
手札1
飛び交うカードの応酬、激しい攻防に観客達が沸き立つ。勝鬨は今までのデュエルでは味わえなかった快感を改めて実感する。
だが自分の力はまだまだこんなものではない。勿論それは暗黒寺もそうだろう。ここからが本番、見せようではないか、デュエルと言う演舞、いや、熱く燃え上がるような『炎舞』を。
「何笑ってやがる……?」
未だダメージが抜け切っていないのか、暗黒寺が膝の埃を払いながら立ち上がる。その表情は勝鬨とは違い、怒りに染まり、肩を震わせている。
「もう勝った気か……舐めるなぁ!勝って最後に笑うのは俺だぁ!」
「今笑えぬ者が最後に笑えるかぁ!」
ゴウッ、闘志を剥き出しにした一喝に勝鬨を中心として風が舞い、木の葉を散らす。ビリビリと空気を震わせるそれに暗黒寺が思わず後ずさる。
ボロボロの姿、押せば倒れる程しかないライフなのに呑まれているのは暗黒寺の方だ。それでもその闘気をプライドで振り払い、デッキに手を翳す。
「うるせぇ……!どいつもこいつも甘ったるい事言ってんじゃねぇよ!勝てば正義だ!勝てば強者だ!俺のターン、ドロー!」
来た。この状況を引っくり返す1枚のカードにニヤリとほくそ笑む暗黒寺。だが――それを見てまた、勝鬨もまた、笑みを溢す。
「ふん、何だ。お前もデュエルを楽しんでるじゃないか」
「なっ!?何言ってんだテメェ!」
クックッと笑い声を漏らす勝鬨の台詞を聞いて、慌てたように顔を赤くして目を見開く暗黒寺。誰得である。
「自分の知恵を絞り、作ったデッキ、信頼するカード達だ。こんな逆境でデッキが応えてくれたからこそお前は笑った。フッ、自分なんかより余程デュエルを楽しんでいると見た」
「違う、違う、違う!俺はテメェを叩き潰せると思って!」
「デッキを信頼する点は否定しないのか?」
「ッ!」
ドヤァ、図星だと分かったのか、勝鬨が口角を持ち上げてこれ以上ない位ウザいドヤ顔を披露する。
結局の所、暗黒寺もデュエリストなのだ。カードを集め、考え抜き、作り上げたデッキ。究極的に言えば昔の勝鬨のような事情が無ければデュエリストは皆、デュエルを楽しんでいるのだ。
どれだけ悩もうとも、どれだけ心ない事を言っても、“デュエル”をしている時点で、心の底では楽しんでいる。分かり合える。
「~~ッ!俺はッ!魔法カード、『死者蘇生』を発動!墓地の『バーバリアン・マッド・シャーマン』を特殊召喚!」
バーバリアン・マッド・シャーマン 攻撃力2000→2800
蘇るは『バーバリアン』の降霊術師。暗黒寺の切り札が3度フィールドに踊り出る。制限のないコントロール奪取に加え、『一族の結束』の効果で最上級モンスターに相応しい攻撃力を得ている。
「マッド・シャーマンの効果ぁ!トウケイのコントロールを奪う!」
「永続罠、『炎舞―「天権」』!トウケイはこのターン、このカード以外の効果を受けない!」
立炎星―トウケイ 攻撃力1500→1800
だがこれでも足りない。先程からフィールドを駆けているもののアクションカードが見当たらない――あった、しかし場所は遥か上空、今から木々を登ってジャンプしても間に合わないが――これはアクションデュエル。モンスターと共に宙を舞う。
「トウケイ!」
勝鬨がトウケイに目配せし、トウケイも察したのか静かに頷き、背後で羽ばたく炎の鶏を勝鬨の元へ向かわせる。
鶏はその脚で勝鬨の肩を掴んで空へと飛翔する。が――そう簡単にはいかない。全てを察した暗黒寺もまたモンスターへと指示を出す。
「させるか!マッド・シャーマン!攻撃ついでに邪魔をしろ!問題ねぇよなぁ!何たってモンスターを使っての妨害はありなんだからよぉ!」
そう、デュエリスト自身が妨害をするのはグレーゾーンだがモンスターを使っての妨害はルール上有効だ。それを理由にマッド・シャーマンへと指示を出し、それを受けたマッド・シャーマンがモンスター特有の脚力で地を蹴り、勝鬨の前に現れ、血色の刃で襲いかかる。
このままではその凶刃によって切り裂かれる――が、彼は勝鬨 勇雄。リアルファイトに置いては引けを取らない。
例えそれが――攻撃力2800のモンスターでも。
「少森寺拳法――『ゴギガ・ガガギゴ』突き!!」
ギュルリ、ドリルのように手刀を半回転し、その勢いを殺さずに槍の如く鋭い突きを常人離れした速度でマッド・シャーマンの赤き刃へ向けて放つ。
ガキィィィィィンッ!金属がぶつかり合うような甲高い音が響き渡る。そして――バキリ、威力で負けた刃は折れ、宙を舞い、カランと落ちる。
「アクションマジック――『回避』(物理)!」
頭がおかしい。ちょっと本気で頭をノックしたいと思ってしまう程に今の勝鬨は色々おかしかった。
その証拠に対戦相手である暗黒寺は勿論、会場の全員が静まり返っている。が、流石と言うかプロであるニコはいち早く我に返り、マイクに向かってコメントを放つ。
『な、な、なぁぁぁぁぁんとっ!?勝鬨選手っ!モンスターの妨害をものともせず!むしろ『バーバリアン・マッド・シャーマン』の刃を砕いてしまったぁぁぁぁぁっ!!これぞアクションデュエリストォォォォォッ!!』
「コナミ、あれって大丈夫なのか?」
「いいんでね?頭は手遅れだけど」
お前が言うな。
「なっ、は、はぁぁぁぁぁっ!?そっそんなんありかよっ!?」
「今の師は言っていた。努力せずに出来るのが天才ではない、人に出来ぬ事を成し遂げるのが天才だと」
「バカと天才は紙一重だわ!!クソッ!ターンエンド!」
暗黒寺 ゲン LP2300
フィールド『バーバリアン・マッド・シャーマン』(攻撃表示)
『一族の結束』
手札1
フッ、と鼻で笑い、ドヤ顔を見せる勝鬨とその奔放さに思わずヤケクソ気味に吐き捨てる暗黒寺。
それも仕方無いだろう。それ程までに目の前の少年は破天荒だ。
「自分のターン、ドロー!行こうか!『炎舞―「天権」』を墓地へ送り、『マジック・プランター』!2枚ドロー!」
勝鬨 勇雄 手札1→3
「墓地の『炎舞―「天キ」』、天枢2枚、天権2枚、玉衝、天セン、合計7枚の『炎舞』を除外し、罠発動!『極炎舞―「星斗」』を発動!墓地より『炎星』モンスターを可能な限り特殊召喚する!」
「ッ!手札の『増殖するG』の効果発動!」
「構わん!来い!ユウシ、ロシシン、リュウシシン、スネイリン!」
暗炎星―ユウシ 攻撃力1600→1700
孤炎星―ロシシン 守備力1400
微炎星―リュウシシン 攻撃力1800→1900
雄炎星―スネイリン 攻撃力1800→1900
暗黒寺 ゲン 手札0→1
「そして特殊召喚したモンスターの数だけデッキから『炎舞』をセットする!自分は天キ、天枢、天センをセットし、揺光を墓地へ送り、ユウシの効果によってマッド・シャーマンを破壊する!」
「アクションマジック、『透明』!『バーバリアン・マッド・シャーマン』に耐性を与える!」
ユウシの背の熊が雄叫びを上げてマッド・シャーマンに飛びかかる。しかし暗黒寺によるサポートでマッド・シャーマンの姿が消え、破壊をかわす。
「スネイリンの効果発動!1ターンに1度、『炎舞』カードがフィールドより墓地へ送られた場合、デッキから『炎舞』罠カードをセットする!『炎舞―「開陽」』セット!更に永続魔法、ダブルオープン!天キ!天枢!天キの効果でデッキから『勇炎星―エンショウ』を手札に加え、スネイリンの効果で天キと天枢を墓地に送り、1枚ドロー!」
勝鬨 勇雄 手札4→5
「ユウシとスネイリンでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『間炎星―コウカンショウ』!」
間炎星―コウカンショウ 守備力2200
暗黒寺 ゲン 手札1→2
再びフィールドに現れた強力な力を宿した道士。だが今のマッド・シャーマンは相手の効果を受けない。いくらデッキへと戻すと言う高いレベルの除去能力を有していようと無駄になる。
「コウカンショウのORUを2つ取り除き、効果発動!自分の墓地の天キと天枢、お前の墓地の『バーバリアン4号』2体をデッキに戻す!」
「墓地までもかよ……!」
「更に『勇炎星―エンショウ』召喚!」
勇炎星―エンショウ 攻撃力1600
「レベル4エンショウにレベル4のロシシンをチューニング!シンクロ召喚!『コウ炎星―リシュンキ』!」
コウ炎星―リシュンキ 攻撃力2000
暗黒寺 ゲン 手札2→3
光輪を弾かせ、堂々たる姿を見せたのは華美な衣装を纏った商人。その周りには伝説の中でも最上級の力を持つ麒麟を象った黒い炎が漂っている。
「シンクロ召喚まで……!」
「リシュンキがシンクロ召喚に成功した時、デッキから『炎舞』カードをセットする!天枢をセット!オープン!」
間炎星―コウカンショウ 攻撃力1800→1900
コウ炎星―リシュンキ 攻撃力2000→2100
微炎星―リュウシシン 攻撃力1800→1900
立炎星―トウケイ 攻撃力1500→1600
「天枢の効果で『猛炎星―テンレイ』を召喚!」
猛炎星―テンレイ 攻撃力1100→1200
「テンレイとリュウシシンでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『魁炎星―ソウコ』!」
魁炎星―ソウコ 攻撃力2200→2300
暗黒寺 ゲン 手札3→4
「ソウコがエクシーズ召喚に成功した事で天キをセット、オープン!魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地のソウコ、コウカンショウ、チョウライオ、ロシシン、エンショウをデッキに戻し、2枚ドロー!」
勝鬨 勇雄 手札2→3
「魔法カード、『死者蘇生』を発動!墓地より『英炎星―ホークエイ』を特殊召喚!」
英炎星―ホークエイ 守備力1500→2000
魁炎星―ソウコ 攻撃力2300→2900
間炎星―コウカンショウ 攻撃力1900→2500
コウ炎星―リシュンキ 攻撃力2100→2700
立炎星―トウケイ1600→2200
暗黒寺 ゲン 手札4→5
「さぁ、バトルだ!ソウコで『バーバリアン・マッド・シャーマン』へ攻撃!」
「ぐっ、アクションマジック、『奇跡』!このターン、マッド・シャーマンは戦闘で破壊されず、ダメージは半分になる!」
暗黒寺 ゲン LP2300→1850
「リシュンキで追撃!」
「うぐっ……!アクションマジック、『大脱出』!バトルを終了する!」
このまま『バーバリアン・マッド・シャーマン』が破壊され、フィールドががら空きにされては集中攻撃を受け、敗北してしまう。燃え盛る火の手から逃れる為、暗黒寺は走行途中掴み取っていたアクションマジックで難を逃れる。
しかし最早ボロボロの姿となったエースカードを見て、暗黒寺が眉を吊り上げる。
このターンの攻撃は凌いだが相手フィールドには5体ものモンスター。敗北の色は濃厚だ。LPが少なくとも勝てる気がしない。絶望しかない。
「自分はトウケイは守備表示に変更し、カードを1枚セットしてターンエンド」
勝鬨 勇雄 LP2500
フィールド『魁炎星―ソウコ』(攻撃表示)『間炎星―コウカンショウ』(守備表示)『コウ炎星―リシュンキ』(攻撃表示)『立炎星―トウケイ』(守備表示)『英炎星―ホークエイ』(守備表示)
『炎舞―「天キ」』『炎舞―「天枢」』セット3
手札1
右手がガチガチと情けなく震える。何だこれは、あれだけ相手を馬鹿にした結果がこれか。回ってきたツケがこれか。
もう何もかもが馬鹿らしくなってきた。溜め息を吐き出し、つまらなそうな顔でフィールドの『バーバリアン・マッド・シャーマン』を見据える。ボロボロで、これ以上なくみっともない自分が一番大嫌いな姿。
これ以上エースカードのそんな姿を見たくない。そう思い、自らのデッキの上へと、手を翳す。
「あーあ、もうつまんねーわ。負けだ負け。サレンダーだ」
サレンダー。それは自らの敗北を認める行為であり、同時にデュエリストとしての死を意味する。
勝鬨としても勝利できるのだからこれ以上ない事だろう。そう、思っていたのだが―― 。
「サレンダーは許サレンダー」
「……は?」
彼はそれを、拒絶する。何もおかしい事ではない。サレンダーは相手が承諾しなければ通らない。それに――。
「デュエルをしているなら、それも通そう。だが自分はまだ、本当のお前とデュエルしていない。心の底からデュエルを楽しむ暗黒寺 ゲンとデュエルをしていない」
「……んだそれは……ウザいんだよ!目障りなんだよ!お前達のそう言う一々がよぉ!」
ギリィッ、歯軋りの音を響かせ、暗黒寺は咆哮する。そんな綺麗事で止めようとするのかと思うと腸が煮えくり返る。
だが――そんな彼よりも、怒りを露にするものが1人――会場中に響き渡るように叫ぶ。
「ふざけるなっ!!!」
歓声を裂くように、少年の悲痛な、澄んだ声が木霊する。一体誰だ――。
暗黒寺は視線を観客席に移し、目を見開く。今にもフィールドに降り立とうと歯を剥き出しにし、鉄の棒を強く握り締めた少年――榊 遊矢の姿を見て。
「お前……!あれだけ父さんを臆病者って言っておいて、自分が逃げるのか!?勝負はまだついてないのに諦めるのか!?お前こそ臆病者じゃないか!お前の憧れるストロング石島はこんな事で逃げたりしないぞ!俺も逃げない!最後までデュエルから、自分から逃げない!このっ……臆病者ぉぉぉぉぉっ!!!」
魂から引き出すような熱い感情の発露。幼い子供のような言葉が暗黒寺に向けられる。臆病者?自分が?逃げている?自分が?
自分の憧れたストロング石島は――逃げない――。そこまで至り、ハッとなる。そうだ、今の自分は、奴の言う通り臆病者ではないか。そう気づくと腹が立つ。ふざけるな――俺はそんなものではない――。
「俺はっ、俺は臆病者なんかじゃねぇ!勝手な事言ってんじゃねぇ!サレンダーなんてしてやらねぇ!テメェ等後悔すんなよ!本当の俺様の実力を、今見せてやる!俺のターン、ドロォォォォォッ!!」
腹が立つ、苛々する。今まで見下していた者に気づかされた。発破をかけられた。見下していた奴が、自分なんかより余程強かった。
臆病者と嘲笑っていた奴が本当は強くて――自分の方が臆病者だった。こんな様ではもう――馬鹿には出来無いではないか――。
「楽しめってか!?ああ楽しんでやるよぉ!その代わり負けても恨むんじゃねぇぞ!『バーバリアン・マッド・シャーマン』の効果ぁ!リシュンキのコントロールを奪い、2体をリリース!密林の奥から巨木を薙ぎ倒し、現れるがいい。未開の王国に君臨する蛮族の王。『バーバリアン・キング』!!」
バーバリアン・キング 攻撃力3000
現れたのは憧れたデュエリストのカード。自分がデュエルの楽しさを知り、あのようになりたいとデッキを作り、デュエリストになった切欠のカード。
紫の鎧を纏い、巨大な金棒を手にした赤い鬼。三メートルはあろうかと思われる巨体が今――遠吠えを放つ。
「魔法カード、『手札抹殺』!互いの手札を捨て、その数だけドローする!更に魔法カード、『二重召喚』!もう1度得た召喚権で『バーバリアン3号』を召喚!」
バーバリアン3号 攻撃力1000
「効果により『バーバリアン4号』を特殊召喚!」
バーバリアン4号 攻撃力1200
「魔法カード、『蛮族の狂宴LV5』!墓地より効果とこのターン中の攻撃権を剥奪し、『バーバリアン1号』と『バーバリアン2号』を特殊召喚!」
バーバリアン1号 攻撃力1550
バーバリアン2号 攻撃力1800
暗黒寺のフィールドに揃う5体の『バーバリアン』。色とりどりの蛮族が集う光景は正に圧巻 。まるで戦隊ヒーローと巨大ロボのようである。容姿は悪役怪人だが。
その見事なプレイングに観客席は沸き立ち、勝鬨もまた笑う。
「どうだぁ!テメェの歓声、奪ってやるぜ!1号、2号、3号、4号をリリースし、『バーバリアン・キング』の効果発動!このターン中、『バーバリアン・キング』はリリースしたモンスターの数だけ攻撃回数を増やす!リリースしたのは4体!よって通常の攻撃も加え、5回の攻撃を可能とする!」
4体の『バーバリアン』達が赤、緑、青、オレンジとそれぞれ自分と同じ色の光となって『バーバリアン・キング』の胸の宝玉へ吸収され、その鎧が刺々しく変化し、更に巨大化する。
「5回攻撃……!?」
「うっ、腹筋が……」
攻撃力3000オーバーによる5回攻撃。その状況に遊矢が笑いながらも驚くと言う複雑の表情を見せ、隣のコナミは最近あった事を思い出し、腹を抱える。
「さぁ、バトルだ!ホークエイ、トウケイ、コウカンショウ、そしてソウコへ攻撃ィ!」
4体の『炎星』に襲い来る金棒の連打。激しい風切り音と破壊音を響かせ、3体を破壊し、最後に残ったソウコへと伸びていく。
「永続罠、ダブルオープン!『炎舞―「天セン」』!『炎舞―「開陽」』!この効果により、ソウコの攻撃力を1300アップする!」
「アクションマジック、『ハイダイブ』!『バーバリアン・キング』の攻撃力を1000アップ!」
バーバリアン・キング 攻撃力3000→4000
魁炎星―ソウコ 攻撃力2400→3700
勝鬨 勇雄 LP2500→2300
蛮族の王の金棒が『炎星』の王へと直撃し、破壊する。ダメージを減らす事は出来たが――後1度の攻撃が残っている。
「止めといこうか!『バーバリアン・キング』でダイレクトアタック!俺のっ、勝ちだぁぁぁぁぁっ!!」
ドゴォォォォォッ!重々しい打撃音がフィールドに響く。孤島の木々を薙ぎ倒し、へし折る音と共に煙が舞い上がる。これを受けては流石の勝鬨も無事ではすまないだろう。暗黒寺は勝利を確信する。
しかし――煙が晴れたそこには――ボロボロの姿になりつつも、『バーバリアン・キング』の金棒を片手で防ぐ勝鬨が立っていた――。
「な……に……!?」
「自分は罠カード、『ガード・ブロック』を発動していた――」
勝鬨 勇雄 手札1→2
「そう言う問題じゃねぇ!お前人間じゃねぇ!」
「自分は――デュエリストだ!」
間髪入れずに答える勝鬨。卑劣な手を使って勝利を奪い取って来た過去、その時の彼はそれがデュエリストだと思っていた。
だが今は違うと言える。そんなものはデュエリストではない。今、ここにいる自分が、堂々と闘う自分こそがデュエリストなのだと胸を張って言える。
その晴れやかな表情を見て、暗黒寺が呆気に取られ――笑った――。
「……何だそりゃあ、訳分かんねぇ……!分かんねぇけど、格好良いじゃねぇか!そこまで言って負けたらダッセェぞ!俺はこれでターンエンド!かかって来いよぉ、デュエリストォ!」
暗黒寺 ゲン LP1850
フィールド『バーバリアン・キング』(攻撃表示)
『一族の結束』
手札0
暗黒寺のフィールドに存在し、勝鬨へ立ち塞がる巨大な壁、『バーバリアン・キング』。攻撃力は3000。今の勝鬨の手札のカードでは歯が立たず、このままでは無意味なものだ。
しかし――デッキに残る1枚のカードを引けば一転して2枚のカードは生まれ変わる。今までの自分ならデッキを信じるなど思いもしなかっただろう。
今は違う。だって――ここで逆転すれば、どうしようも無く面白い。
「かっとビングだ!自分!ドロォォォォォッ!!」
希望の光が引き抜かれ、それを見た勝鬨の表情が明るく輝く。
「来たか!自分は魔法カード、『融合』を発動!手札の『輪廻天狗』と『沼地の魔神王』を融合!天駆ける星、地を飛び……今1つとなって悠久の覇者たる星と輝け!融合召喚!来い!『覇翔星イダテン』!!」
覇翔星イダテン 攻撃力3000
青き渦より現れる紫の兜と甲冑を纏い、深紅の外套を靡かせた武人。黒き槍を手に持ち、このデュエルに終止符を打つ。
「バトル!イダテンで『バーバリアン・キング』へ攻撃!」
「……イダテンの効果は自身のレベル以下のモンスターと戦闘を行うダメージ計算時、相手のモンスターの攻撃力を0にする……」
「そうだ。この勝負――」
イダテンが地を駆け、天へと飛翔する。そして手に持った黒い三ツ又の槍を『バーバリアン・キング』の胸の宝玉めがけ――振り抜く――。
バーバリアン・キング 攻撃力3000→0
暗黒寺 ゲン LP1850→0
舞網チャンピオンシップ、1回戦第1試合。2回戦へと駒を進めたのは――少森寺塾所属、勝鬨 勇雄――。
――――――
「悪かったな。権現坂、榊」
試合が終わり、スタジアムのロビーにて、暗黒寺は権現坂と遊矢に向かい、頭を下げていた。勝鬨とのデュエル、そして遊矢の言葉を受け、心を改めた、いや、デュエリストに戻ったのだろう。
憑き物が落ちたようにさっぱりとした表情だ。彼のしてきた事は決して許される事ではないのかもしれないが――2人は何時までも昔の事を持ち出す性格ではない。
「「別に良いけど、サレンダーは許サレンダー」」
「プフッ……いやこっちは真面目に謝ってるんでそう言うのやめっ……!」
だがサレンダーは許されない。
「もう気にしてないよ。あんな楽しいデュエルを見せてくれたんだ、それにもう誰も傷つける気なんてないだろ?」
「お、おう」
「遊矢がこう言っているのだ。お前も反省しているなら俺も何も言わん。まぁ、たまには権現坂道場に顔を出せ」
「お前等……心の友よぉ!」
ガバァッ、感極まった暗黒寺が2人の肩を抱き寄せる。現金な奴である。遊矢と権現坂は苦笑するが――それを見て、1人の少女がカメラを手に鼻血を垂らしながらハァハァと興奮してシャッターを切る。
「ハァ……ハァ……ダーリンダメよ……男同士なんてそんな……!あっ、でも手が勝手に……!ダーリンはい!アへ顔Wピーッス!」
「するかっ!」
「俺の事嫌いなのかよぉ、榊ぃ!」
バタバタと忙しなく駆け回る遊矢達。取り敢えず、事態の収集と暗黒寺のホモ疑惑解消まで、30分はかかった。
――――――
「はぁ、もうこんな時間か……後少しで柚子の試合が始まるじゃないか」
溜め息を吐き出し観客席へと戻ろうと足を進める遊矢。本当に、どうしてこんなに自分の周りは騒がしいのか、まぁ、楽しいから良いか――と、視線を上げる。
瞬間――遊矢の表情が驚愕へと変わる。何故なら長い廊下の壁、そこに背を預けていた来客がいたから――そして、その男は。
「君の周りは騒がしいんだな――遊矢」
跳ねた前髪、草臥れたシャツとネクタイ、そしてボロボロに擦り切れた黒いマント。何より――遊矢と驚く程似た顔立ちの少年は――。
「ユート……」
「少し、話をしないか?」
人物紹介2
勝鬨 勇雄
所属 少森寺塾
攻撃力2950、守備力3800な少年。コナミと出会う前はアニメ通りのリアルファイターだったがコナミと出会い、郷田川とのデュエル、少森寺塾での修行を通し、デュエリストとして覚醒。アホみたいな修行によって更に身体能力に磨きをかけた。
デュエルスタイルは自身の身体能力で相手の妨害を防ぎ、アクションカードを積極的に取っていくもの。正直アクションデュエルに置いては最強かもしれない。
コナミ達の悪友で暗次やねねとは良く遊んでいる。
鍛えてはいるものの、予想外の事を目にすると勝鬨る癖は治ってない。
デッキは郷田川から譲り受けた『炎星』。エースカードは『覇翔星イダテン』。何気に融合、シンクロ、エクシーズと3種の召喚法を操る数少ないデュエリストである。『炎星』は書きにくかったです(半ギレ)
暗黒寺 ゲン
所属 フリー(後に権現坂道場に戻る)
ストロング石島に憧れるデュエリスト。元々権現坂道場に通っていたが様々ないざこざがあり破門、アニメでは権現坂と闘い、遊矢にちょっかいかけたりしたがそこら辺を入れたらもっと長くなっちゃうので割愛。
勝鬨とのデュエル、遊矢の叱咤で綺麗な暗黒寺になる。暗黒界も驚きの白さである。
これを機に権現坂道場に戻り、厳しくも実のある修行に励む。
遊矢と権現坂、勝鬨に関しては友情と恩を感じている。決してホモではない……遊矢ぁ、お前本当に可愛いなぁ。
デッキは『バーバリアン』。エースカードは『バーバリアン・マッド・シャーマン』。因みに『バーバリアン・キング』はストロング石島のサイン入り。バーバリアン戦隊は書いてて楽しかったです(小並感)