今回下ネタ注意です。
「ダメよ」
それは舞網チャンピオンシップが翌日に迫った日の出来事、遊勝塾の玄関前にて、コナミが柚子に向かって土下座していた。手と背筋はピン、と伸ばされており、額はこれでもかと言う位地面に擦り付けられている。物凄い綺麗な土下座である。
一体何があったのか、この場に現れたLDSの3人組はポカンと呆け、視線をコナミと柚子の間を行ったり来たりしている。
「毎日餌やりするから……!世話もちゃんとするからどうか、UMAを飼わせてくれ……!」
「ダメって言ってるでしょ。ちゃんと元居た場所に帰してきなさい」
「良いではないか柚子。私も面倒見るからな?それに此奴、サラマンダーより、ずっとはやい!!」
「うわぁぁぁぁぁっ!!やめてくれセレナ!その台詞は俺に効く!」
「セレナ!そう言って馬に乗らないの!遊矢もヨヨの事は忘れなさい!」
どうやらコナミが昨日拾って来た、いや、拾われて来た馬を飼うか飼わないか揉めているらしい。近くではセレナが白馬に乗って駆けながらコナミの味方をするがサラマンダーを引き合いに出した事により遊矢の古傷を抉ってしまったらしい。
その場に崩れ落ちて地面を拳で殴り始める。それはもう号泣しながら。コナミも共感できるのか、「分かる。分かるぞ遊矢」と肩をガシッと抱き、慰めている。
「あんな事なら……!あんな事なら名前変更なんてするんじゃ無かった……!」
「もういい……!もういいんだ遊矢……!」
遊矢はヒロインを好きな子の名前にしてプレイする子だったらしい。幼い頃の彼にはダメージがデカ過ぎてトラウマになっているレベルである。
何ともカオスな雰囲気に包まれて来た。その中で真澄が話が見えてこず、頭の上に?マークを浮かべている。一体どう言う事なのか、刃と北斗に聞こうと声をかけようとしたその時、彼等は目から血涙を流し、手から流血する程、力強く握り締め。
「「パルパレオス絶対許さねぇ……!」」
「パルパ……何……?知らないの私だけ!?」
後日、コナミのアレを借りた真澄は見事に主人公の名前を真澄、ヒロインの名前をコナミに変更し、号泣するのだった。
名前逆じゃね?と言うのは言って良い問題なのだろうか?因みに、コナミが拾われて来たUMAこと馬は結局遊勝塾の皆で飼う事になった。
――――――
パカラッ、パカラッ、小気味良い蹄の音を鳴らしながらアユとセレナとSALを背に乗せ、白馬は商店街を歩んでいた。その横ではコナミと遊矢、タツヤとフトシが一緒に歩いている。
商店街の皆様方もこれにはびっくりである。ザワザワと馬を見て話している。
「うむ。買い出しはこれ位か。UMAがいると荷物が多く運べるから助かるな!」
「キッキキー!」
「ブルルルルゥ……」
「ふむ。ユニコーンは処――」
「こんな往来で何を言おうとしてるんだお前は」
コナミが危うい言葉を吐こうとした所を遊矢が止める。自由なのは良いがもう少し弁えて欲しい。商店街の皆様方の視線をヒシヒシと感じながら遊矢は溜め息を吐く。
ここに来たのは先程セレナが言った通り買い出しの為である。最初はセレナと子供達に行かせようと頼んだのだがそこにコナミとUMAが参戦し、このメンバーでは危ういと感じ、遊矢も名乗り出たのだ。
「はぁ、まさか馬を連れて来るなんて……」
「ちょいと、そこのあんた」
「え?」
突然背後から声をかけられ、遊矢は反射的に振り向く。そこにいたのは八百屋のおばちゃんだ。何時も母が世話になっているらしいが、遊矢にはそれ程面識が無く戸惑う。
一体何の用だろうか?そうしている内におばちゃんがパァッと顔を明るくし、笑顔になる。
「ああ、やっぱり。あんた遊矢君だよね?榊 遊矢君」
「は、はい、そうですけど」
「あんた見たよぉ、ストロング石島を倒した所。ぺんでゅらむ召喚だっけ?ちっちゃい頃ここら辺を泣きじゃくって歩いていたあんたが……立派になったねぇ」
「おっ、俺、もうそんなにちっちゃくないですから!」
どうにも気恥ずかしくなって、いやいやと手を振る。しかし見ていてくれた事は嬉しくもあり、少し胸が熱くなる。
おばちゃんはそうそうとポン、と手を打ち、奥へと引っ込む。一体何だろうか?遊矢がコナミ達と顔を見合わす間におばちゃんは戻ってきて手に持ったそれを遊矢へと渡す。緑と黒の縞模様をしたその玉は。
「スイカ?」
「勝利記念だよ。持っていきな」
「えっ、で、でも……」
「良いじゃないかい。あたしゃ嬉しいんだよ。ちっちゃい頃クソガキに苛められてたあんたがさ。泣きじゃくって権ちゃんと一緒にここら辺歩いて、心配したあたし達がキュウリやコロッケとか食べさせてたあんたが、笑って、楽しそうにデュエルして、チャンピオンに勝ったんだ。あの時は本当に良かったと思ったよ。お父さんの事は大変だけどね。たまにはここにも顔を出しなよ。あたし達は応援してるよ!」
言われて気づく。遊矢がまだ小さな頃、学校で父の事を馬鹿にされ、苛められていたあの頃、帰り道のこの商店街の人達は「大丈夫?」と声をかけて、泣き止むまで話を聞いてくれた。
時には売れ残りのコロッケとか貰ったりして、大きくなるにつれ忘れてしまっていた大事な事。支えてくれた人達がいる。
「ありがとうございます!俺……頑張ります!」
「おい遊矢!こっちも忘れんなよ!」
またも声をかけられ振り返る。と、投げられた物を鍛えた身体能力でキャッチする。
袋に入ったコロッケだ。できたてのものらしく、熱く湯気が立っている。反対方向にあるコロッケ屋が投げてくれたらしい。ニカッ、と笑う人の良さそうな青年の顔には覚えがある。
「舞網チャンピオンシップ出るんだろ!?商店街の皆でファンクラブ作ったからよ!頑張れよな!」
「ッ!はいッ!」
胸が熱くなる。今までの努力は無駄じゃなかった。見ていてくれる人達がいる。応援してくれる人達がいる。
それだけで遊矢は強くなれる。闘える。前に進める。それが嬉しくて、涙が出てしまう。
「お?ハハッ!でっかくなっても泣き虫は変わらねーな!」
「ッ!そっそんな事ないさ……!俺は、笑えるから!」
ゴシゴシと腕で目を擦り、心からの笑顔を作る。昔は泣いてばかりで、無理して作り笑いをしていたけれど、今は違う。
ゴーグルなんかを着けずに、自分の目で今を見ていたい。心から笑って、この人達の期待に応えたい。
エンタメデュエリストとして、そして何より、榊 遊矢として。
「もう我慢できねぇ!遊矢!ウチの肉も持ってけ!」
「てやんでいっ!俺の魚が先だッ!」
「屁ぇこいてばっかの店の臭い魚なんて遊矢君にあげられる訳ないでしょ!遊矢君!私の花も持っていって!」
「アユちゃん達も応援するぜ!ついでにコナミもな!」
痺れを切らしたように見守っていた商店街の人達が遊矢に次々と自らの店の品を分けていく。もみくちゃになりながらも、戸惑いながらも遊矢も感謝を述べて受け取る。
どうにも嬉しくて、断るのも気が引ける。手に余す程の物を受け取った後、UMAがいて良かったと思う遊矢だった。
――――――
「スイカ割り?」
「川上から流れてきてな」
「嘘はやめよう。八百屋の人に貰ったんだよ。他にも色々あるけど……スイカは折角だしね」
そう言ってゴロゴロと5玉程スイカをテーブルへ置く遊矢。あれから八百屋のおばちゃんがこれもこれもと無理矢理持たせてくれたのだ。もらった肉や魚はコナミが備え付けられた冷蔵庫へと収納している。
「うわ凄いね。どうしたのこんなに?」
コナミの後ろより素良がひょっこりと顔を出す。言葉通りに驚き、スイカをこれでもかと言う程見つめている。それは隣に立つ権現坂も同じだ。顎に手を当てほうほうと頷いている。
「そうと決まったら皆も呼ぼうか。色々ある事だしBBQなんてどうだ?」
「マジッスか兄貴!?俺ちょっと帝野と勝鬨呼んできます!」
「ならば俺は日影殿と月影殿を呼ぼう」
「俺はミッチーと九庵堂とミエルとニコに電話かけてくる」
「バレット☆召喚」
「沢渡は……良いや別に」
コナミの言葉を皮切りに皆それぞれこの短い間、デュエルを通じ、知り合った友人へと連絡を取っていく。中々大所帯になりそうだ。
楽しそうに笑う皆を見て、コナミはフッ、と笑う。全くどうして、これだからデュエルは止められない。思い出すのは白帽子の男。
昨日は負けた。だが――次は勝つ。決意を胸に、愛しいものを見るかのように辺りを見渡す。
「コナミ、ありがとう」
「ん、塾長?」
そんなコナミに塾長である修造が声をかける。暖かな父親の眼差し、それをコナミへと向け、ポン、とコナミの帽子越しに頭を撫でる。
一体何がありがとうなのか、コナミとしては首を傾げざるを得ない。自分は特に何もしていない筈だ。
「お前が来てから、遊矢や柚子、皆が強くなった気がするんだ」
「……そんな事は無い。オレがいなくとも、自然とあいつ達は強くなっていたよ」
「確かにそうかもしれない。だけど、今の皆はお前の影響で強くなったんだ。何より、お前がいなかったら遊勝塾はこんなに騒がしくなかった」
そう言って修造は暗次や真澄達へと視線を移す。彼等は遊勝塾とは別の、特にLDSの3人組は敵対していた者だ。それがこんなにも自然に、友達として溶け込んでいる。
彼等もまた、遊勝塾の空気を作っている。この暖かい家族のような居心地の良い雰囲気を。
繋がっているのだ、この場にいる全員が。その中心にいるのは間違いなく――。
「コナミ、お前だよ。遊矢は前に、皆の道標になるとしたら、お前は皆の背中を押して、支えている。踏み出させている」
「……」
驚いた。そう言わんばかりにコナミは帽子の奥の目を見開き、言葉を詰まらせる。修造は予想以上にコナミを、いや、皆を見ている。ちゃんと大人をしている。
熱いばかりじゃなく、冷静に見ていたのだ。修造はニカッ、と白い歯を見せ、乱暴にコナミの頭を撫でる。コナミは帽子が落ちそうになった所を慌てて直す。
「お前も遊勝塾の一員で、家族だ。ほら、皆が待ってるぞ!子供は子供らしく、思いっきり遊べ!」
ポン、とコナミの背を押す修造。まるで背中を押すのは大人の仕事だと言っているようだ。
ふと、視線を前へと戻す。そこには遊矢や柚子達、皆の姿。苦笑、微笑、形は違うが、皆笑ってコナミを待っている。
この塾は全く、居心地が良い。コナミも笑顔で、皆の元へと駆ける。
「にぎや蟹なって来たな!」
――――――
「フゥー☆この俺が来てやったぜ!精々感謝しろよな!」
「「「呼ばれてないのに来るとか流石ッスよ沢渡さぁーん!」」」
「えっ、あの……どちら様ですか?」
「光津ぅ!それリアルに落ち込むからやめろぉ!」
舞網市の砂浜にて、様々な者達が集う中、そこには呼ばれていない筈の沢渡の姿もあった。案の定、真澄に毒を吐かれているが一体何処から嗅ぎ付けて来たのだろうか。
刃と北斗が首を傾げている所、スイカの準備をしていたコナミがやって来る。まさかコナミが呼んだのだろうか。
「オレが呼んだ。柿本と山部と大伴をな」
ピンポイントで沢渡だけ外していた。かなり悪質である。
「何で俺だけ呼ばねぇんだよ!ねぇイジメ!?これイジメだよなぁ!?」
「やはりオレの見込んだ通りだ。今のお前は輝いている」
「嬉しくねぇ!」
沢渡の肩にポン、と手を置き、帽子の奥に潜んだ目を輝かせるコナミ。対する沢渡は怒り心頭と言った様子でコナミに食ってかかる。まるで漫才のようなやり取りである。
実はこの2人、相性が良いのではないだろうか?沢渡の子分達は苦笑いして見守っている。
「久しいなコナミ」
「クイズ大会以来ですねぇ。ん?それってちょっと前の気が」
と、コナミが沢渡にガクガクと肩を掴まれ揺すられている中、少年達の声がかかる。どうやら勝鬨と九庵堂のようだ。
揺らされながらも声のする方に振り向くと……そこには熊を1頭伏せてターンエンドしている勝鬨がいた。
「あ?お前等この前の……ってギャー!熊!?何で熊!?」
「うむ。手ぶらでは何だと思ってな。ホンフー先生が稽古をつけてくれたお陰でこの程度は片手で出来る。美味いぞ、熊肉」
そう、実はこの勝鬨、コナミと共闘した後、梁山泊塾の塾長である郷田川と1対1のデュエルを通し、和解した。そして真のデュエルを知った郷田川は梁山泊塾を解散させ、旅に出た。
その後勝鬨は少森寺塾へと移籍した訳である。今ではホンフーを始めとした人外達に鍛えられ、デュエル、武力、野球において成長したと言う訳である。
「コナミ殿、今日はお呼び頂き感謝する」
「む、日影と月影か。権現坂にはもう会ったのか?」
「うむ。権現坂殿には先程挨拶をした」
次に現れたのは日影と月影の風魔兄弟だ。相変わらず昼間では目立つ忍装束に身を包んでおり、砂浜だと言うのに足音も残ってはいない。コナミの傍にいる沢渡は「熊の次は忍者かよ……!」と口元をひくひくと引き吊らせ、勝鬨は「……隙がないな」と何故か臨戦体制に入っている。
そんな中、ヒュッ、と言う風を切る音と共にコナミの腰へと小さな影が突撃する。
「ダァーリィィィィィンッ!」
「コフッ!?」
その正体はふんわりとパーマがかかった赤毛を揺らした小柄な少女だ。彼女はコナミの腰に抱きつき、パァッと明るい笑顔をコナミへ向け……真顔に戻った。
「誰よアンタ」
「オレはコナミだ。よろしくハニー」
「フラッシュ!」
「どえひぃ!」
ズビシッ!コナミがふざけると少女は音速で右手をチョキにしてコナミの帽子の奥に隠れた目を突く。良い子はやってはいけない。尤もコナミはこの程度痛くもないが。
赤毛の少女はフッ、と鼻で笑った後、髪をファサッと掻き上げ、コナミへと冷たい視線を向ける。
「ごめんあそばせ、人違いでしたわ。ミエルの名前は方中 ミエル。榊 遊矢の恋……言わせんな恥ずかしい」
「ほう。お前が遊矢にとってのヨヨだったのか」
「パルパレオス絶対許さねぇ……!で、ダーリンはどこ?」
「遊矢の事ならばあっちの方、柚子の事ならばその隣だ」
色々とツッコミ所のある台詞と共に遊矢のいる場所を指差すコナミ。ミエルは後半部分を無視し、「ありがとう」と言って遊矢の元へと飛んでいった。
スパンッ!とハリセンの音がした所を察すると遊矢は帰らぬ人となったらしい。コナミは手を合わせ「哀れ」と黙祷する。モテる男は辛い。
「君がコナミ君かい?」
と、またもコナミの元へと新たな来客が現れる。山吹色の髪に赤いメッシュを入れた細目とそばかすが特徴的な少年。ミエルと同じくコナミには面識の無い人物だ。
先程と同じく遊矢の知り合いだろうか?少年は人の良さそうな笑みを浮かべ、コナミを伺っている。
「そうだ、オレはコナミ。お前は?」
「僕は茂古田 未知夫。気軽にミッチーと呼んでよ」
「分かったヨシリン」
「君の性格が大体分かったよ」
何ともアホな返しをするコナミに苦笑しながら握手を交わすミッチー。実は此方に来る前に遊矢から変わった奴だと聞いていたのだがその通りだと思い知らされる。
何はともあれミッチーは此方へ来た訳を右手に持ったアタッシュケースを開いてコナミに見せる。
「料理をするんだろう?それなら僕に任せてよ。得意なんだ」
「む、そうか。こう言った事は余り得意では無いのでな。オレはBBQの方を担当するから他は頼んでいいか?」
「OK、うわっ!熊!?こんなものまで用意しているとは……腕が鳴るね」
そう言って次々と調理の準備をしていくミッチー。随分と手際の良い所を見ると本当に料理が得意らしい。コナミも何か思い立ったのか、次々と白米の上におかずを置き、ミッチーへと見せる。
「元キング発案、シンクロ弁当だ」
「そこそこ美味そうなのが腹立つな」
「刃か」
ここで刃を含め、LDSの3人組と子分2人が現れる。どうやらこのイベントをそれなりに楽しんでいるらしい。違和感無く溶け込んでいる辺り、本当に仲良くなったものである。
コンロに火を通し、具材に串を刺していくのを暗次とねねに手伝って貰いながら談笑する。
「失礼、君がコナミか」
どうやらまた来客のようだ。今日は良くものを訪ねられる日だな。と苦笑しながら声をかけたであろう人物へと目を移す。
オールバックの髪に眼帯、胸に傷を負った大柄の男。見慣れない人物だ。何処かで会った事があるだろうかと首を傾げながらも男の問いに二つ返事で答える。
「そうだ。あんたは?」
「そうかそうか、貴様がコナミか。奴に良く似ている。私はバレット……セレナ様の保護者だ」
「あっ……(察し)」
ガシッ、確認と共にバレットは笑顔でコナミの肩を掴み物凄い力を込めるが……コナミの何をしたらそうなるんだと言いたくなるような硬度に舌打ちを鳴らし、ギンッ、と冷徹な瞳で睨み、底冷えするような、地の底から響くような声音で脅迫する。
「セレナ様と1つ屋根の下で暮らしているようだが……変な気を起こしたら……分かってるな?」
「それはどうかな?」
「懺悔の用意は出来ているか」
カチャリ、両者共に懐からデュエルディスクを取り出し、一触即発の空気を醸し出す。コナミ達の周辺の全員がゴクリと唾を飲み込み見守る中、勝鬨だけは「何!?そこの肉はそろそろ引っくり返すのではないのか!?」と空気の読めぬ事をほざいている。
何にせよ、デュエルが始まる。誰もがそう思った時、風を裂き、SALがバレットの頬に飛び蹴りを叩き込んだ。
「キッキーッ!!ウキャッキィッ!!」
「ゴフッ!ヌフゥッ!サッ、やめっ!痛っ!」
「ダメではないかバレット!ちゃんとコナミと仲好くしろ!」
そこにセレナが腰に手を当てふんすと鼻を鳴らして現れる。その間にもSALによる容赦なき拳打がバレットの顔面に鈍い音と共に炸裂していく。バレットがタップしても無視である。
「もういいぞ。控えろSAL」
「ウキッ!」
最後に一殴り止めを刺してバレットより離れ、唾を吐きかける。最早バレットは虫の息である。憐れバレット。
「すまんなコナミ。バレットが迷惑をかけた」
「それは別にいいが……大丈夫なのか?ボッコボコだが」
「この程度では死なん」
「いや虫の息なのだが」
「それ……は……っ!ど……う、かな?」
「おっさん無理すんな」
途切れ途切れに台詞を放ち、ボトボトと流血しながらも立ち上がるバレット。そんな彼を見かねた暗次が心配して声をかけるがバレットは意固地になってデュエルディスクを構える。
するとそこに、ヒュッ、と風を切り、またもやSALの飛び蹴りがバレットの頬に命中し、マウントを取ったSALが殴打していく。
「グホッ!サッ、やめっ!本とっ死っ!」
「そろそろ止めたらどうだ?」
「うむ。SAL、もう良――」
「セレナー!スイカの準備出来たぞー!」
「本当か!?今行く!」
「ちょっ!?セレナ様先にSALを止めグボォッ!?」
コナミの言葉を受けセレナはSALを止めようとする。が、間が悪かったのか遊矢のスイカ割りOKの声がそれを遮り、SALを止めずに行ってしまう。
このままではバレットが死んでしまう。皆の思いが一致し、何とか荒ぶるSALを止めようとした時、これ以上は命に関わると考えたのか、それとも飽きたのか、不意にバレットより離れ、唾を吐きかけ、SALはセレナの元へと帰っていった。
「……取り敢えず応急手当だけはしておこう」
「その程度で大丈夫なんスか?おっさんの顔モザイクかかってますよ?」
「デュエリストはこの程度では死なんし、SALも手加減している。それに……」
「どう見てもガチで殴ってたんスけど……それに何スか?」
「ギャグシーンだしギャグ補正がかかってんじゃね?的な」
「なーる、ほどっ☆」
こうして、応急手当を済ませ、コナミ達は皆でワイワイ、スイカ割りにBBQにと楽しみましたとさ。
因みに終始その間、おっさんは気絶していたそうな。
――――――
「ハッ!私は何を……?」
「漸く起きたか」
時は過ぎ、日が沈み、空に暗い闇の帳が下ろされた頃、バレットは失っていた意識を戻した。痛む顔を抑えながら起き上がり、その拍子に顔にかかっていたモザイクが落ち、暗次が「これ物体なのかよ……」と呟く。
「ここは……」
「銭湯だ。折角皆揃っているからな。あ、お前の分の食べ物はタッパーに詰めておいた。また明日にでも食べると良い」
そう言ってバレットにタッパーを渡し、服を脱いで目の前の籠に入れていくコナミ。どうやら脱衣場までバレットを引き摺って来たらしい。こう言った気遣いと言い、心根の優しい人物なのかもしれない。
セレナと一緒に住んでいると言うので警戒していたのだが……どうやらその必要はないのかもしれない。一言謝ろうと顔を上げた時。
「ブハハハハハッ!あにっ、兄貴っ!それやめっ!苦し……!」
「やはりモザイクはここに無いとしっくり来んな」
先程までバレットの顔にかかっていたモザイクで股間を隠しているコナミがいた。何ともアホな事をしている。
こんなのに謝ろうと一瞬でも思った自分が恥ずかくなり、溜め息を吐くバレット。
「あれ?コナミ、そう言えばSALはどこに行ったんだ?」
キョロキョロと辺りを見渡す北斗。確かにSALの姿が見えない。何時もセレナかコナミの傍にいるのだが、皆も同じように辺りを見るがその中でバレットだけが何を言っているんだと呆れた表情を作る。
「SALは雌だ」
「……は?」
今明かされる衝撃の真実。今日一番の爆弾発言に刃を始めとした皆が固まる。SALの性別は、おにゃのこでした。
言葉は伝わったものの頭で理解が出来ない。誰かが「え」と溢した瞬間。
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?』
全員の叫びが、揃って木霊した。
「こっ、今年一番の驚きなんだけど……」
「ペンデュラムとかどうでも良くなってきた」
「ちょっとそれはやめて欲しい」
「言われてみればメスの顔をしている」
「その言い方はどうでござろうか」
皆が目を見開いてザワザワと矢継ぎ早に騒ぎ立てる。知らない者からすればたかがSALの性別だろうと切り捨てられるが下手に知ってしまっている為か今更なこの話題の衝撃は大きい。
「あー、なんか今のでドッと疲れた。さっさと湯に浸かろうぜ北斗、暗次」
「そうだな……プクッ……クヒュッ……ハハハハハ!コナミやめろ!良い加減モザイク外せ!」
「ハッ!自分のモノに自信がねぇから隠すんだろ。男なら俺みてぇにどーんと構えろよ!」
「その『プチモス』しまえよ」
「プププ『プチモス』ちゃうわ!」
どうやら今度は下の話のようである。こう言う所はやはり男の子と言う訳か、沢渡が自身のそれをブランと右へ左へ揺らしペンデュラム召喚するがスケールが小さかったらしい、低レベルのそれを見てフッ、と鼻で笑うコナミ。
それに対し沢渡は顔を真っ赤にして否定するが全員に鼻で笑われる。
「見ろ。まだ大伴の方がデカいぞ」
「大伴テメェ!裏切ったのか!?売ったのか俺を!?」
「ちっ、違うんスよ沢渡さぁん!」
ファサ、ボロン。コナミが大伴の股間付近に巻かれたタオルを剥がし、大伴のエースカードがリバースする。
確かに沢渡よりデカい(確信)。思わず沢渡は某満足同盟のファッションリーダーの如く表情を険しくして叫ぶ。だがここでハッと電流が走る。
コナミは言った。“まだ”大伴の方がデカい。“まだ”と言う事はつまり。
沢渡は緊張した面で振り返る。視線の先には――大伴と同じく、自分の子分である柿本と山部。彼等は気まずそうに目を逸らしている。
まさか。イチモツの、いや、一抹の、いや、大きな不安が頭の中に過る。
「嘘だろ……なぁ、柿本……山部……俺達仲間だろ……?」
「「……」」
チン黙。投げ出された問いに答えは返って来ない。しかしそれは、何よりも事実を告げる答えに等しい。
まさか、そんな、だって。沢渡の顔が悲痛に歪む。だがまだだ。まだ決まった訳じゃない。沢渡は口端を無理矢理吊り上げて2人に笑いかける。
「なぁ……そうだよな……?昔から俺達は一緒だったよな?……何で……何で答えねぇんだよ……えぇカキモォヤマベェ!!」
「お、俺達は……さ、沢渡さんの子分ッスよ……」
「うるせぇ!なら見せてみろ!絆の証をぉ!」
ファサ、自棄になった沢渡が2人の股間に巻かれたタオルを掴み、力づくで剥がす。そこにあったものは――
ボロンッ、ボロンッ、――残酷なる現実だった――。
「「沢渡さん……第二次成長期ッスよ……」」
「この裏切り者ォォォォォォォォォォ!!!」
「遊矢、そろそろ湯に浸かろう」
「えっ、あ、うん。帽子被ったまま?」
「ちょっとは心配しろよぉぉぉぉぉ!!」
叫ぶ沢渡を無視し脱衣場から出て暖簾を潜るコナミ達。無論帽子は被ったままである。
「……遊矢、女湯覗くぞ」
「えぇ!?ダッダメだって!」
「そんな事言ってお前もトマ棒を『キラー・トマト』に『レベルアップ!』したいだろ?」
「上手い事言ったつもりか」
「此方ズネーク、状況を開始する」
「ズネークダメだ!踏み止まるんだ!」
コナミがアホな事をぬかしながら壁に耳を貼りつけ、コンコンと手の甲で叩く。ガチなやつである。
流石に不味いと思ったのか、常識なのだが遊矢は止めようとする。ちょっと見たいと思ったのはやはり男の子だからか。
「……何をしている」
「ああ権現坂……さん。コナミを止めるのを手伝ってくれないでしょうか」
と、そこで真面目一徹な権現坂……さんが通りかかった事で遊矢は安堵する。何故さん付け及び敬語になってしまったのかは察して欲しい。
こうして、権現坂によりコナミの企みは阻止され、皆仲好く湯船に浸かるのだった。
――――――
時は少し過ぎ、榊家。遊矢の自室では泊まり込みに来たコナミの姿があった。
今は遊矢と共にお互いのデッキを組み直している最中だ。2人のデッキには共通したテーマもある為、時折カードのトレードも行っている。
「今日は楽しかったな」
「ああ」
交わす言葉は少ないが、これは遊矢がコナミに合わせての事だ。静かな空間でカードを地面に置く音だけが響く。だが自然と遊矢はこの時間を楽しんでいた。思えばコナミとこうして話すのはあの誓いの日以来か。
「……なぁ、コナミ、覚えてるか?」
「……ああ」
何が?なんて言葉は言わない。コナミも覚えているし分かっている。それ以上追求するのは野暮と言うものだ。フッ、と笑みを浮かべ、作業を再開する。
意外にも、口を開いたのはコナミだった。
「いよいよ明日だ」
そう、この夜が明ければ、待ちに待った舞網チャンピオンシップが開催される。
これまでの全てを見せる、一大イベントが始まる。
今日笑い合った友も、明日からは敵となる。無論、コナミも、遊矢も。
「どうだ?遊矢。感想は?」
「……そんなもの――」
――楽しみに、決まっている――
こうして夜はふけていく。月が浮かぶ空を見上げ、数多の星達は思いを馳せる。まだ見ぬ強敵、胸踊るデュエル。
さぁ、闘えデュエリスト達よ。最後に輝くのは――誰か。
第1章 THE DUELIST ADVENT 完
これにて第1章完結です。次回からなのですがタイトル変更とタグにオリ主を追加しようかと思います。
タイトルはこれでは少し簡素でオリジナリティが無いので少しだけいじり、タグについてはコナミ君がこれだけ喋っているし本作オリジナル要素が彼にはあるので仕方無くと言った具合です。
色々面倒をかけてすいません。
次回からのチャンピオンシップはコナミ君以外のキャラにもスポットを当て、これまでよりも遊矢を中心的にW主人公の面を押し出したいと思います。
根本的な部分は原作に沿いつつ様々なキャラ、原作では無かった対戦の予定なのでお楽しみに。
では、ここまで読んでくださった読者様、感想、お気に入り、評価をくださった皆様方に感謝を。
ありがとうございます。