遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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支え続けてきた(初回)。


第39話 ずっと支え続けてきた

「はぁ~、今日は大漁やったなぁ。おとん」

 

「ッタリ目ぇよぉ!コンコンチキめぃ!こちとらぁ、海の男よぉバッキャローが!」

 

舞網市のとある公道。近くに海を隣した道のりを親子を乗せた軽トラが走っていた。釣りをした帰りなのか、その荷台には釣竿やクーラーボックスが置かれている。何とも個性的な親子である。

 

「ん?んん?」

 

「どうしたんでいバカ息子ぉ!屁でも出そうなのか?ガハハハハ!」

 

「ちゃうって、おとん。何や後ろから変なん来とるで?」

 

「ケツから変なのぉ?テメェまさか実ぃ出そうっつーんじゃねぇだろうなコンチキショーめ!」

 

「ちゃう言うとるやろクソ親父!」

 

「あ?俺ぁ、テメェと違って屁しかこいてねーよクソッタレ!」

 

「くっさ!最悪や、このおっさん!」

 

ドタバタと下らない話をし、息子である少年が中で汚染された空気から逃れ、外の空気を求める為に「ブハァッ!」と顔を出す。

犯人である父親は「ガハハハハ!」と豪快に笑い飛ばす始末である。

 

「俺のオナラはフルーティーなんだよべらんめぇい!」

 

そんな事はない。明らかに嘘である事を声高々に叫びながら運転を続ける父親。

そんな中、軽トラの横に白い何かに乗った赤いものが並走して現れる。父親は息子の方へ向いている為気づいてないが、その姿に息子はぎょっと目を見開く。

 

「それはどうかな?」

 

「何ぃ!?」

 

突如現れ、当然の事ながら自分の言葉を否定したものへと振り返る父親。そこにいたのは――雪のように美しい、純白の毛並みを持つ白馬とそれに騎乗した赤帽子の少年。

その目にはゴーグルがかかっており、肩からはバサバサと赤いジャケットがマントの如く風に靡いている。

 

「お、オメェは一体……!?」

 

「お前の屁は独り善がりだ」

 

「何ぃ!?」

 

更に逆の方向より声が響き、反射的にそちらへ振り返る父親。そこにいたのは白い戦闘機のような物に乗った、白帽子の青年。まるで赤帽子の少年が成長したような姿だ。

そのとんでもない乗り物に親子はあんぐりと口を開き、その間に2人は軽トラの横を通りすぎていく。白帽子の方は機体が巨大すぎるせいか、通りすぎる際に翼が当り、ミラーをぶっ壊していった。

 

「……な、何やったんやあれ……?なぁおと――くっさ!」

 

「……へへ……ちょっとヒビってよぉ……やっこさんが、顔出しちまったようだ……」

 

「このクソ親父!」

 

――――――

 

「シューティング・スターの効果発動!1枚目!『ハイパー・シンクロン』!2枚目!『幽鬼うさぎ』!3枚目!『ロード・シンクロン』!4枚目!『チューニング・ガム』!5枚目!『ブライ・シンクロン』!」

 

無論全てチューナー。当然5回攻撃。怒濤のチューナーラッシュに最早見飽きたのか赤帽子は無言だ。それとも万策尽きたのか。

いずれにせよ逆境である事には変わらない。しかし眼前で先行する男が手加減などする筈が無い。

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『リミット・リバース』をコストに2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札4→6

 

「さぁ、バトルといこうか!俺は『ターボ・ウォリアー』で『スターダスト・チャージ・ウォリアー』を攻撃!『ターボ・ウォリアー』がレベル6以上のシンクロモンスターを攻撃対象とした攻撃宣言時、攻撃対象モンスターの攻撃力は半分となる!ハイレート・パワー!」

 

スターダスト・チャージ・ウォリアー 攻撃力2000→1000

 

「アクセル・スラッシュ!」

 

ドスリ。『ターボ・ウォリアー』の効果により弱体化した『スターダスト・チャージ・ウォリアー』がその鋭き爪で胸を穿たれる。まずは1体、白コナミは獰猛な笑みを深めながら道路に下り、その行く先を妨害する。

 

コナミ LP3600→2100

 

「次!『ドリル・ウォリアー』で『曲芸の魔術師』を攻撃!ドリル・ランサー!」

 

『ドリル・ウォリアー』がその右腕のドリルを猛回転させ、『曲芸の魔術師』を狙い襲い来る。キィィィィィンッと嫌悪感たっぷりの音色を奏でた槍撃、この一撃を食らえば『曲芸の魔術師』は砕け散ってしまう。

壁モンスターが存在する内に――コナミは手札を切っておく。

 

「手札の『工作列車シグナル・レッド』の効果発動!このカードを特殊召喚し、攻撃対象を移し変え、ダメージ計算を行う!そしてこのカードはその戦闘では破壊されない!」

 

工作列車シグナル・レッド 守備力1300

 

現れたのは赤いランプを輝かせたオレンジ色の列車。空中に線路を敷き、『ドリル・ウォリアー』の眼前を走る事でその攻撃を遮る。

 

「かわしたか……!『ジャンク・バーサーカー』で『曲芸の魔術師』を攻撃!」

 

赤き狂戦士が空気を震わせるような雄叫びを上げ、目にも止まらぬ速度で白馬に接近し、『曲芸の魔術師』へとその巨大な斧を振るう。

ブォォォォォンッ!風を引き裂き、『曲芸の魔術師』を地面へと叩き伏せ、勢い余って公道に亀裂を走らせ、穴を空ける。

 

「漸く出番だ。シューティング・スター!お前の力を見せてやれ!『綿毛トークン』2体とシグナル・レッドを攻撃!スターダスト・ミラージュ!」

 

待ちわびたと言わんばかりに白亜の竜が天に向かって咆哮し、その体躯に纏わせた星屑を散らす。そして舞散る星屑はシューティング・スターの周りでそれぞれ4つの影を作り出し、竜の姿を模倣する。

 

正しく蜃気楼。オーロラのような光景にコナミは逆境である事を忘れほう、と息をつくが色鮮やかな竜がコナミのモンスターに襲いかかり、爆炎を上げる。

 

「ぐぅ――!」

 

轟く爆音と舞い上がる塵埃。そして竜の力によって発生した鈍い痛みを受け、コナミが歯を食い縛って呻く。それは彼を乗せた白馬も同じ。この超常の力に鳴き声を上げる。

思えば良く初対面の自分を乗せここまで付き合ってくれたものだ。と今更ながら感謝してその肌触りの良い毛並みを撫で、首に顎を乗せる。

 

「……すまないな……もう少し、もう少しだけ付き合ってくれ。友よ……!」

 

静かに、そして真摯な想いを乗せて呟く。その言葉は確かに白馬に届く。任せておけと言わんばかりに喉を鳴らしコナミにチラリと視線を寄越す。

今までより速く加速し、爆煙の嵐を駆け抜ける。その先に待ち構えるは白亜の竜。

 

「待たせたな。さぁ散れ!『シューティング・スター・ドラゴン』!ダイレクトアタック!」

 

白き機体に搭乗した白コナミの指示を受け、一筋の流星がコナミの眼前に迫る。だが――まだ、その意志は折れない。

 

「手札の『護封剣の剣士』を特殊召喚!」

 

護封剣の剣士 守備力2400

 

彼の目の前に青い鎧を纏い、光の剣を持った戦士が膝をついて現れる。しかし竜の振るう猛威の前に砕け散る。

これで残るは1回の攻撃。だがコナミのフィールドには壁など存在しない。

 

「どこまでも俺のファンサービスを拒否りやがって……!良い加減倒れろ!『シューティングスター・ドラゴン』ッ!」

 

空をぐるりと旋回し、またしても流星が青空を疾走る。正真正銘最後の一撃。その閃光がコナミへと迫り来る。

 

「悪いが……断る!手札の『クリボー』を捨て、ダメージを0にする!」

 

彼の眼前に毛むくじゃらのモンスターが可愛らしい鳴き声を上げ、巨大化してその一撃を防ぐ。

馬鹿な――。白コナミが帽子の奥に潜んだ目を見開き、その口角をニヤリと上げる。

 

「……やってくれる……!俺はカードを3枚伏せターンエンド!」

 

白コナミ LP2900

フィールド『シューティング・スター・ドラゴン』(攻撃表示) 『ターボ・ウォリアー』(攻撃表示) 『ドリル・ウォリアー』(攻撃表示) 『ジャンク・バーサーカー』(攻撃表示)

セット3

手札3

 

漸く白コナミのターンが終わる。長い長い1ターン、コナミは全ての攻撃を全力を持って凌ぎ、希望を掴み取った。

相手は確かに強い。今の彼の力では間違いなく敗北する。ならば、今までの自分を越えるまで。勝ちたい。ただ1つの明確な意志を右手に宿し、デッキの上へと触れる。

勝ちたいなら――全てを、なぎ払うまで。限界を壊し、今、そのドローは天にアークを描く。

 

「オレのッ!タァァァァァンッ!!」

 

更に、加速する。

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキトップから10枚を除外、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札13→15

 

「スタンバイフェイズ、刻剣と『ジャンク・ガードナー』は帰還する。刻剣の効果を使い、『ジャンク・ガードナー』を除外する!」

 

まずは露払いを。『ジャンク・ガードナー』は厄介だ。出来ればシューティング・スターも除去したいがそれ以上に真正面から倒したい。

 

「魔法カード、『ギャラクシー・サイクロン』!真ん中のセットカードを破壊!」

 

「チェーンして速攻魔法、『禁じられた聖衣』を発動!このターン、シューティング・スターは攻撃が600ダウンし、効果の対象とならず、効果破壊されない!」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300→2700

 

「2枚目『ギャラクシー・サイクロン』!左のセットカードを破壊する!」

 

「シューティング・スターの効果発動!」

 

「手札の『竜脈の魔術師』を捨て、『竜穴の魔術師』のペンデュラム効果発動!もう1度セットカードを対象として破壊する!」

 

「『くず鉄の像』の効果により逆に破壊する!」

 

「ならばもう1度竜穴をセッティング!手札の『慧眼の魔術師』を捨て像を破壊!」

 

「像の効果!墓地の『ジャンク・シンクロン』を蘇生!」

 

ジャンク・シンクロン 守備力500

 

「行くぞ!揺れろ!光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!エクストラデッキより『曲芸の魔術師』!手札より『チューン・ウォリアー』!出でよ、絶望の暗闇に差し込む眩き救いの光!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』!世にも珍しい二色の目を持つ龍!『オッドアイズ・ドラゴン』!」

 

オッドアイズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

チューン・ウォリアー 攻撃力1600

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

コナミが上空の魔方陣に手を翳し、それに呼応するように4つの柱が彼の周囲へ降り立ち、光の粉を散らし、中よりモンスターが姿を見せる。

現れたのは主人にそっぽを向く白銀の鎧を纏った剣の竜。彼の隣でドタドタと走るオッドアイの赤い竜。宙に浮かぶのは赤い戦士型のモンスターと先のターン、彼を守った派手な衣装の『魔術師』。

その中でも白コナミが反応を示したのは『オッドアイズ・ドラゴン』。有り得ないものを見るかのように驚愕を露にし、動揺している。

 

「オッドアイズ……ドラゴン……!?」

 

「そしてオレは!『オッドアイズ・ドラゴン』を対象として手札の『貴竜の魔術師』の効果発動!対象のモンスターのレベルを3つ下げ、このカードを特殊召喚する!」

 

オッドアイズ・ドラゴン レベル7→4

 

貴竜の魔術師 守備力1400

 

フィールドに舞うように飛び出したのは白く高貴な衣服を纏った幼い顔立ちの『魔術師』。その手には奇妙な形の杖を握っており、杖の珠へと『オッドアイズ・ドラゴン』のレベルを吸収している。

 

「行くぞ!レベル4となった『オッドアイズ・ドラゴン』にレベル3の『貴竜の魔術師』をチューニング!シンクロ召喚!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』ッ!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

『貴竜の魔術師』が輝くリングとなり、『オッドアイズ・ドラゴン』を包み込む。そしてコナミのエクストラデッキより黄金に光るカードが排出され、彼が掴み取ると共に白い枠が溢れるように出現する。

 

その何も描かれていないカードに竜の姿が浮かび上がる。間髪入れずにカードをデュエルディスクに叩きつけ、火の粉を舞い上げ、火花を散らすその竜の名を呼ぶ。

 

「赤い……竜……!?」

 

「まだだ!レベル5の『曲芸の魔術師』にレベル3の『チューン・ウォリアー』をチューニング!星海を切り裂く一筋の閃光よ!!魂を震わし世界に轟け!!シンクロ召喚!!『閃光竜スターダスト』!!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

更に天空よりその両翼を羽ばたかせ、星屑を纏った白き竜が閃光と共にその姿を見せる。

白コナミはまたもやその登場に驚愕する。何故ならその竜が、自身の使う『スターダスト・ドラゴン』と酷似していたからだ。いや、存在自体は知らなかった訳ではない。だが、自分の前で出されるとは思っても見なかったのだ。

 

「ここでオレは『ゴブリンドバーグ』を召喚!」

 

ゴブリンドバーグ 攻撃力1400

 

「『ゴブリンドバーグ』の効果発動!手札から『グローアップ・バルブ』を特殊召喚し、守備表示となる!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

「レベル4の『ゴブリンドバーグ』にレベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!シンクロ召喚!」

 

合計レベルは5。コナミは自らの腕に宿る力を全て込め、エクストラデッキよりこの逆境を覆す力を“創造”し、その手に掴み取る。何も描かれていない白紙のカード、ありったけの力で染め上げる。

 

「シンクロ召喚!シンクロチューナー!『アクセル・シンクロン』!」

 

アクセル・シンクロン 守備力2100

 

燃えるような真紅のボディを煌めかせ、現れたのはバイク、いや、D-ホイールを模したモンスター。コナミが創り上げた新たな力。シンクロチューナー、『アクセル・シンクロン』はホイールを回転させ、主人の隣を疾駆する。

 

「魔法カード、『龍の鏡』を発動!墓地の『オッドアイズ・ドラゴン』と『竜脈の魔術師』を除外し、融合召喚!『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』!」

 

オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン 攻撃力2500

 

天を雷鳴で轟かせ、4枚の翼を広げた緑の竜が吠える。次々とフィールドに現れる竜達は共鳴するように喉を鳴らし、白コナミのフィールドでその存在を示す白亜の竜を睨む。

 

「『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』の効果で『ターボ・ウォリアー』をバウンス!そして『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』を選択し、『閃光竜スターダスト』の効果発動!1ターンに1度の破壊耐性を与える!そしてオレは『アクセル・シンクロン』の効果発動!デッキから『ジャンク・シンクロン』を墓地へ送り、このカードのレベルを『ジャンク・シンクロン』のレベル分下げる!」

 

アクセル・シンクロン レベル5→2

 

「オレは!レベル8のスターダストに!レベル2となった『アクセル・シンクロン』をチューニング!」

 

『アクセル・シンクロン』が空中で弾け、スターダストの身体を包み込む。更に白馬とコナミは風を受け、加速していく。

シンクロモンスターとシンクロチューナーによるシンクロ召喚の高み、アクセルシンクロ。今、彼はそれを行おうと疾走し、スピードの壁を突き破り、姿を――。

 

「消え……ない……っ!?」

 

2人が目をパチクリと瞬かせ、状況を掴めないと言った様子で呆ける。そう、姿が消えない。いくら待っても、どれだけ加速しようがその姿が消失する事なく、アクセルシンクロモンスターが現れない。

それどころかスターダストを包み込むリングが弾け、『アクセル・シンクロン』へと戻る。一体何故、何が足りない。コナミが焦りを見せ、自分の身体を探る。ふと、視線を落とした時。

 

「……馬っ!」

 

雪のような白い毛並み、逞しく力強い脚部、風に靡く鬣。まさか――乗っているものがD-ホイールではなく馬だから――?ハッ、と今更ながら気づき、頭を抱えるコナミ。

馬では、アクセルシンクロが出来ない。

 

「くっ……!ならばこのままバトルだ!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』で『シューティング・スター・ドラゴン』へ攻撃!」

 

気を取り直し、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』へと指示を出す。剣の竜は不服そうに喉を鳴らすも渋々と言った様子で白亜の竜へと熱線を撃つ。その圧倒的な力の奔流は大地を焦がし、流星を討つ。

 

「罠発動!『くず鉄のかかし』!その攻撃を無効に――」

 

「させる……かっ!『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』の第2の効果!エクストラデッキより『曲芸の魔術師』をデッキに戻し、その発動を無効にして破壊する!」

 

「ならばシューティング・スターで!」

 

「『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』がモンスターゾーンに存在する限り、バトルフェイズ中、モンスターの効果を発動できない!」

 

「なんだと!?くっ、罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分……ぐぅぅぅぅぅっ!?」

 

白コナミ LP2900→2850

 

「更に追加ボーナスだ!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』が戦闘でモンスターを破壊し、墓地に送った場合、お前のモンスターを破壊する!『ジャンク・バーサーカー』を破壊!」

 

まるで雪崩れるように『オッドアイズ』3体の強力な効果が炸裂する。

ボルテックスが雷で『くず鉄のかかし』を串刺しにし、メテオバーストが大地を踏み砕き、炎を流し込み、シューティング・スターの下へと走らせて燃える鎖で封じ込め、セイバーが背の2本の剣でシューティングスターと『ジャンク・バーサーカー』を切り裂く。

 

「シューティング・スターを破壊するとは……面白い……!」

 

圧倒的な力を受け、機体を傾けながらも白コナミは今までになく笑みを深める。切り札が真正面から破壊されたと言うのにショックは無く、それどころか嬉しそうだ。

 

「ボルテックスで『ジャンク・シンクロン』を!メテオバーストで『ドリル・ウォリアー』を攻撃!」

 

白コナミ LP2850→2800

 

まだ攻撃は続く。ボルテックスが周囲に漂う風を巻き上げ、竜巻のブレスを放つと同時にメテオバーストが灼熱のブレスを合わせ、2つのブレスが重なり、火の粉を散らす熱風が2体のモンスターを包み込む。

その余波はプレイヤーである白コナミをも襲い、数地上では微々たるものだと言うのに巨大な機体が吹き飛ばされる程だ。

 

「ぬぅ……!」

 

「『閃光竜スターダスト』でダイレクトアタック!流星閃撃!」

 

白コナミ LP2800→1550

 

スターダストが光を集束し、ブレスを放つ。その光線は白コナミに直撃し、機体がくるくると規則的に回転する。

 

「オレはこれでターンエンドだ」

 

コナミ LP2100

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示) 『アクセル・シンクロン』(守備表示) 『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』(攻撃表示) 『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』(攻撃表示) 『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』(攻撃表示)

Pゾーン『賤竜の魔術師』 『竜穴の魔術師』

手札0

 

一気に優勢に立ったコナミ。フィールドには5体のモンスター、強力な効果を持つ3体の『オッドアイズ』。そして破壊を防ぐ『閃光竜スターダスト』。切り札足る『シューティング・スター・ドラゴン』は倒した。

だが、それこそが大いなる過ち。一見正解に見えた答えも、災いとなって降りかかる。彼が起こした過ち、それは――この帽子の男を、逆境に立たせた事。

 

「俺のターン、ドロォォォォォッ!!」

 

吹き荒れる風を受け、白い機体が火炎を吹かし飛翔する。更にくるりと反転し、コナミを迎え撃つかのような体制を取る。

そして彼はその手より1枚のカードをデュエルディスクに叩きつける。

 

「魔法カード、『ブラック・ホール』!フィールドの全てのモンスターを破壊する!さぁ、どうする!?」

 

「無効にするに決まっている!『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』の効果により、エクストラデッキの『貴竜の魔術師』をデッキに戻し、その発動を無効にする!」

 

「……失望したぞ。貴様のデュエルはその程度か!魔法カード、『調律』を発動!デッキより『ジャンク・シンクロン』を手札に加え、デッキトップを墓地へ!更に墓地へ送られた『リミッター・ブレイク』の効果でデッキから『スピード・ウォリアー』を特殊召喚!」

 

スピード・ウォリアー 守備力400

 

「手札の『ボルト・ヘッジホッグ』を墓地へ送り、魔法カード、『ワン・フォー・ワン』を発動!デッキよりレベル1モンスター『ロード・ランナー』を特殊召喚!」

 

ロード・ランナー 守備力300

 

知っている。この光景を。今でも鮮明に、瞼に焼きついた思い出が目の前で繰り返される。

コナミはその光景をスローモーションのように感じていた。

 

「そして『ジャンク・シンクロン』を召喚!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300

 

そう、今まで彼が繰り出してきたシンクロモンスター、その中にあのモンスターの姿は無かった。このデッキの代名詞と言って良いあのモンスターが。

 

「『ジャンク・シンクロン』の効果発動!墓地より『ソニック・ウォリアー』を特殊召喚する!」

 

ソニック・ウォリアー 守備力0

 

「そしてチューナーがフィールドに存在する事により、墓地の『ボルト・ヘッジホッグ』を特殊召喚!」

 

ボルト・ヘッジホッグ 守備力800

 

フィールドに集う5体のモンスター。低いレベル、決して強いとは言えないステータス。何の変哲も無いカード達。

それでも、彼が、英雄が使い続けて来た、英雄を支えて来たモンスター。その勇姿にコナミは帽子の奥の目を丸くして呆ける。

 

何故なら――白コナミの姿が、あの時の相棒の姿に、重なって見えたから。

 

「レベル2の『ソニック・ウォリアー』に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!」

 

『ジャンク・シンクロン』が弾け、3つの光のリングとなって『ソニック・ウォリアー』を包み込み、閃光と共に姿を変える。

 

「集いし星が、新たな力を呼び起こす!光差す道となれ!」

 

赤く輝くツインアイ、首に巻かれた白いマフラー、光を反射する青いボディ、足は鋭利な刃状となっており、右手にはナックル・ダスターが嵌められている。

背のバーニアに火を灯し、宙でくるりと回転して足を開き、右腕を突き出したシンクロモンスター。その、名は。

 

「シンクロ召喚!出でよ!『ジャンク・ウォリアー』!!」

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力2300

 

最後を飾るに相応しい、絆を象徴とした戦士が現れる。攻撃力は2300。このままではコナミのモンスターは倒せないが――何も、このカードは、1人で闘って来た訳では無い。

 

「『ジャンク・ウォリアー』の効果!このカードがシンクロ召喚に成功した時、このカードの攻撃力は自分フィールド上に存在するレベル2以下のモンスターの攻撃力の合計分アップする!更に墓地よりチェーンして『ソニック・ウォリアー』の効果発動!このカードが墓地に送られた時、フィールド上に存在するレベル2以下のモンスターの攻撃力は500アップする!」

 

スピード・ウォリアー 攻撃力900→1400

 

ロード・ランナー 攻撃力300→800

 

ボルト・ヘッジホッグ 攻撃力800→1300

 

『ソニック・ウォリアー』によりモンスター達の攻撃力が僅かながら上昇していく。しかし、その僅かな力が、小さな力が英雄に託され、その想いが拳に宿っていく。

天に突き出された『ジャンク・ウォリアー』の右腕を目刺し、光が集束し、どんどん巨大化していく。合計攻撃力は――。

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力2300→5800

 

「……攻撃力……5800……!」

 

「驚く事は無い。俺達の間では、小さなものだろう?」

 

「――!」

 

「だが、その小さなものに――お前は倒される」

 

眩き太陽を背に、天空に『ジャンク・ウォリアー』が飛翔し、巨大化した右腕を振り抜く。

ゴォォォォォッ!激しい風を切る音を感じながらもコナミはただ、呆然とするのみ。

 

「『ジャンク・ウォリアー』で、『閃光竜スターダスト』に攻撃」

 

激闘に、終止符が打たれる。

 

「スクラップ・フィスト――!」

 

その、時だった。

 

「「ッ!?」」

 

両者の間に巨大な赤き竜が現れ、とぐろを巻くようにして白コナミと『ジャンク・ウォリアー』を包み込み、光を放つ。

突然の来訪者に2人は驚愕と戸惑いを見せ、白コナミはその手を伸ばし、コナミを睨み付け、咆哮する。

 

「タクシー……!邪魔を……!ッ!赤帽子ィ!いずれお前を倒す……!それまで精々力をつけろ!弱きお前では満足など出来ん!」

 

その言葉と共に、閃光が場を覆い、白コナミは赤き竜と共に姿を消す。残ったのはコナミと白馬のみ。

 

圧倒的な実力、こちらの全ての上をいく戦略と豪運。今まで闘って来た中で間違いなく最強のデュエリスト。

彼に負けていればどうなっていたのだろうと考えれば恐怖が背筋を這う。

 

「……消えていた……」

 

負けていれば、消されていた。同じ者は、太陽は同じ空で2つも輝けないのだから。

 

「……オレは……弱い」

 

ぐらり、激闘の後のせいか、コナミの視界が霞む。身体中にのしかかる疲労を感じながら、コナミは瞼を閉じ、夢の世界へと堕ちていく。

今はまだ弱い。だけど今は休もう。強く、なる為に――。

 

――――――

 

「……チッ、あのタクシーめ……邪魔しやがって……!」

 

コナミが眠りについたその時、白い仮面の男は公道の近くにそびえ立つ鉄塔に立ち、彼等を見下ろしていた。

 

「……まぁ、良い。次がある。舞網チャンピオンシップ……覇王の、凱旋だ……!」

 

企む者、闘う者、様々な者の想いが交錯する。その舞台を次へと移し、物語は進んでいく。

舞網チャンピオンシップ、その開幕まで――後、2日。

 

――――――

 

カン☆コーン!遊勝塾の玄関よりコナミが改造したチャイムの音が鳴り響く。遊矢はその音に飲んでいたコーラを吹き出す。何だか大変な事が起こった気がしてこの音はどうにも慣れない。心配してくれた柚子が持った来てくれたタオルを「ありがとう」と言って受け取りテーブルを拭く。

 

その間にセレナの肩からSALが遊矢の肩へと移り、どこからか出したハンカチで口元を拭ってくれる。

 

「あ、ありがとうSAL」

 

「キキー」

 

「何してんのよ」

 

「良い加減慣れろよ」

 

「それより僕の顔にコーラがかかったんだけど」

 

遊矢の前方に座ったLDSの3人組が呆れた顔で遊矢に向かい溜め息をつく。この3人は逆に遊勝塾に慣れすぎである。

ボリボリと煎餅をかじる真澄と刃に「ごめん」と返す。1人だけ被害を被った者がいるが。

 

「僕は?」

 

「わ、悪い」

 

どうやら意図的に無視した事に怒ったようだ。北斗が物凄い形相で睨むので謝る。

悪気があった訳では無い。ただここボケるべきじゃね?と思ったのである。

 

「ちょっと俺行ってくる。多分コナミだろうし」

 

そう言って席を外し、玄関へと小走りで向かう。電子ロックのドアを開いたそこには。

 

「ブルルルルゥ……」

 

眠るコナミを背に抱えた、白馬がいた。




と言う訳でデュエル中断。まぁ決着はついてるようなものですが、コナミの負けです。
ジャンク・ウォリアーは本当にティンと来たひらめき。色々とご都合主義がありましたが創作なんだし、と流して頂ければ。
次回で1章は終幕です。

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