遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

38 / 202
昨日ハンバーグを作ろうとしたら、そぼろ丼になっていた。解せぬ。



第33話 全て壊すんだ

「ワイアームは通常モンスター以外のモンスターとの戦闘では破壊されず、コンコルーダが存在する限りトークンは戦闘及び効果では破壊されない。『バトル・イーグル・トークン』は特殊召喚したエンドフェイズに自壊するが……これでデメリットは帳消しだ」

 

何とも面倒な布陣を敷かれたものだ。正しく難攻不落と言っても良い。だが隙が無い訳では無い。焦らずに心を落ち着かせるべきだ。

しかし、トークンが通常モンスターとして扱われる事を活かした融合召喚に『バトル・イーグル・トークン』のデメリットを消すモンスターの用意とバレットの実力は本物だ。3種の召喚とその特性を充分に発揮させている。

 

「墓地の『ADチェンジャー』を除外し、スサノ―Oを攻撃表示に変更する!」

 

「むう!?」

 

スサノ―Oが攻撃表示となった事で権現坂が唸る。スサノ―Oが不動の切り札たる最大の要因は高い守備力を使った攻撃だ。こうして攻撃表示になってしまえば武器を失い、丸裸になったも当然。

 

「ダメージは無いがモンスターは別だ。ワイアームでスサノ―Oを攻撃!」

 

「スサノ―Oの効果により、『強欲で貪欲な壺』を奪う!」

 

バサァッ!始祖竜はその巨大な翼を翻し機械の武神に食らいつく。スサノ―Oもその手に持った刀で竜の大顎を塞ぐが無意味。バキィィィィィッと刀身を砕き、スサノ―Oは粉々に粉砕される。竜殺しの神をも破壊する竜、その存在は強大だ。

 

「更にコンコルーダでドクロバット・ジョーカーを攻撃!」

 

黄金の機械鳥がドクロバット・ジョーカーを大空に拐い、引き摺り回した後放り投げる。いくら多芸な奇術師であろうと不安定な空ではその真価は発揮できなかったのか、無惨に破壊される。

 

「これで私はターンエンドだ。さぁ、この程度の危機、乗り越えて見せろ若きデュエリストよ!」

 

バレットLP2000

フィールド『No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』(守備表示) 『始祖竜ワイアーム』(攻撃表示) 『幻獣機コンコルーダ』(攻撃表示) 『バトル・イーグル・トークン』(攻撃表示)

『補給部隊』

手札0

 

まるで要塞の相手をしている気分だ。遊矢は苦笑いを浮かべデッキに手を置く。だがこの状況をひっくり返してこそのエンタメデュエル。華々しい逆転劇の引き金に今、手をかける。

 

「お得意のエンタメデュエルか」

 

「ッ!?」

 

そこでバレットが声をかける。まるで幼子を諭すような声音に遊矢の身体がびくりと跳ねる。思わずその手を放し、バレットの顔を覗き込む。

 

「私はエンタメデュエルは素晴らしいと感じた。だが、いつかきっとそのデュエルを受け入れぬ者が、否定する者が現れる。その時、君はどうする?それでも父のデュエルにすがりつくか、諦めて、捨てるか。人の琴線は千差万別だ。そんな時、君はどうする?榊 遊勝では無く、君はどうする?榊 遊矢のデュエルは、どうする?」

 

「俺……が……?」

 

静かに、しかし叱りつけるようにバレットが次々と言葉を投げかける。

考えた事が無い訳じゃない。父が臆病者と呼ばれ、自身が臆病者の息子と蔑まれた時から分かっていた。分かっていて、目を逸らしてきた問題だ。

 

人の心は移り変わりやすい。それでも、父が本当は偉大なデュエリストだと知って欲しくて、分かって欲しくて、父の真似事を続けてきた。

受け入れぬ者も、否定する者もいるだろう。人なのだから、だけど、だけども。

 

「……分からないけど、理解したい、見つけたい。諦めたくない……!笑って欲しいから!例え借り物の言葉でも、俺のこの想いだけは!本物なんだ!」

 

俯いていた顔が上がる。分からないなら考えろ。扉が閉じたならこじ開けろ。答えはきっとデュエルの中にあるから。

一挙一動で、噛み締めろ。

 

「俺のターンッ!ドロー!」

 

デッキより1枚のカードを引き抜く。工夫しろ、自分のエンタメを昇華し、その身に宿せ。

 

「『強欲で貪欲な壺』を発動!」

 

榊 遊矢 手札4→6

 

「ワイアームをリリースし、『サタンクロース』を特殊召喚!」

 

サタンクロース 守備力2500 

 

まずは厄介な竜の退場を。ワイアームはフルモンの権現坂に対処は厳しいと思っての行動だ。

 

「俺は既に設置されたペンデュラムスケールでペンデュラム召喚!現れろ!エクストラデッキから『EMウィム・ウィッチ』!手札から『EMスライハンド・マジシャン』!『EMボットアイズ・リザード』!」

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500

 

EMボッドアイズ・リザード 攻撃力1600

 

EMウィム・ウィッチ 守備力800

 

遊矢のフィールドに3本の光の柱が降り、土煙と共に轟音を鳴らす。

登場したのは先のターンも猫の魔法使い。赤を基調とした衣装に身を包み、振り子を模した下半身をしたマジシャン。義眼をつけ、クルクルとステッキを回す紫のリザード。

 

「『EMスライハンド・マジシャン』の効果!手札を捨て、『補給部隊』を対象として発動!破壊する!『EMボッドアイズ・リザード』の効果!デッキより『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を墓地に送り、その名を得る!墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『EMスライハンド・マジシャン』をデッキに戻し、ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「そして魔法カード、『置換融合』!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『EMウィム・ウィッチ』を融合!融合召喚!出でよ!秘術ふるいし魔天の龍!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

魔導の力を内包した真紅の竜が天を駆ける。

このターン、ルーンアイズは効果を受けず、2回攻撃を可能とする。これで勝利へ突き進みたいが……そう簡単にいかせてくれるか。

 

「ルーンアイズで『バトル・イーグル・トークン』を攻撃!シャイニーバースト!」

 

魔天の竜が背負ったリングより雷球が発生し、『バトル・イーグル・トークン』へと一直線に光線を放つ。コンコルーダが存在する限りトークンを破壊する事が出来ない。それを逆利用してサンドバッグにして戦闘ダメージで勝とうと言うつもりなのだろう。

しかし、キィィィィィンッ、突如バレットの前に現れたバリアによって防がれる。

 

「墓地より『超電磁タートル』を除外する事でバトルフェイズを終了する」

 

「やっぱ簡単にはいかないな……!ターンエンドだ。『シャッフル・リボーン』の効果で手札を除外」

 

「私は『サタンクロース』の効果でドロー」

 

バレット 手札0→1

 

榊 遊矢&権現坂 昇 LP1500

フィールド『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』 『EMモンキーボード』

手札1(遊矢) 手札2(権現坂)

 

「私のターン、ドロー!速攻魔法、『魔力の泉』!2枚ドローし、1枚を捨てる!」

 

バレット 手札1→3→2

 

「『シャッフル・リボーン』を除外し、『サタンクロース』をデッキに、1枚ドロー!」

 

バレット 手札2→3

 

「永続魔法、『補給部隊』を発動。私はギャラクシー・トマホークと『バトル・イーグル・トークン』をリリースし、『幻獣機グリーフィン』をアドバンス召喚!」

 

幻獣機グリーフィン 攻撃力1000

 

「更に!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『幻獣機ドラゴサック』!」

 

幻獣機ドラゴサック 攻撃力2600

 

ここで現れたのは新たなエクシーズモンスター。最強の生物と謳われるドラゴンと超大型輸送機を合成したであろうモンスターだ。

 

「ドラゴサックのORUを1つ取り除き、2体の『幻獣機トークン』を特殊召喚する!」

 

幻獣機トークン 守備力0×2

 

「そして『幻獣機トークン』をリリースし、『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を破壊!」

 

「ルーンアイズッ!?」

 

『幻獣機トークン』を弾丸として発射する事によりルーンアイズの胸の宝玉が撃ち抜かれ、破壊される。こうも早く対処されるとは思ってみなかった。遊矢の額より汗が伝う。

 

「私は『一時休戦』を発動し、1枚ドロー」

 

バレット 手札0→1

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「カードをセットし、ターンエンド。さぁ、君達の力!見せてもらおうか!」

 

バレットLP2000

フィールド『幻獣機ドラゴサック』(攻撃表示) 『幻獣機トークン』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札0

 

バレットのターンが終了し、権現坂へと移る。今までにない強敵、しかし遊矢は諦めるつもりなど毛頭ない。

デュエルも、エンタメも――相手より学び、吸収する為に――。

 

榊 遊矢には憧れる者達がいる。道を示してくれた大人達、共に歩んできた仲間達。何時だって貰ってばかりで返そうと思っても、また貰ってしまう。

貰った何かは遊矢を成長させてくれた。だからせめて、見せるのだ。成長した姿を、貴方のお陰で強くなれました。君と一緒に成長できたと言う証を。このデュエルで、笑い合えるように。

 

「俺のターン、ドロー」

 

権現坂がデッキより1枚のカードを手に取る。相手の場にはトークン生成効果と破壊効果を合わせ持つエクシーズモンスター、『幻獣機ドラゴサック』が赤に染まった空を旋回し、こちらの動向を伺っている。

 

2対1だと言うのにどうにも決定打に入れる事を出来ずやっと渡り合えるレベルだ。だが、だからと言って諦める訳にはいかない。これからも遊矢とタッグを組む事はあるだろう。その度に彼の足を引っ張るなど御免被る。

 

それに、彼等と共に闘う為に、自分の目指す不動のデュエルの為に、後悔しない為に刃に弟子入りし、この力を得たのだ。

 

「負ける訳にはいかんのだ……!墓地の『置換融合』を除外、ルーンアイズをエクストラデッキに戻し、ドロー!」

 

権現坂 手札2→3

 

「俺は既に設置されたスケールでペンデュラム召喚!エクストラデッキより『EMドクロバット・ジョーカー』!手札より『超重武者ジジャ―Q』!『超重武者ワカ―02』!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

超重武者ジジャ―Q 守備力1900

 

超重武者ワカ―02 守備力2000

 

「更にチューナーモンスター、『超重武者ツヅ―3』召喚!」

 

超重武者ツヅ―3

 

ペンデュラムの特性を活かし、モンスターゾーンが埋まる。流石はフルモン構成と言った所か。大量の素材を扱うシンクロには打ってつけなのかもしれない。

 

「いくぞ!レベル4のワカ―02とジジャ―Qにレベル1のツヅ―3をチューニング!動かざる事連山の如し。大岩に宿りし魂、今、そびえ立つ砦となれ!シンクロ召喚!出でよ!『超重魔獣キュウ―B』!!」

 

超重魔獣キュウ―B 守備力2500→4300

 

裂帛の気合いと共に権現坂のフィールドに9つの炎を尾のように靡かせた白い獣機が現れる。その姿はまるでケンタウルスのように上半身が人型、下半身が4足となっている。

頭部からは獣の耳のように炎が上がっており、その手には黒い杖状の武器を持っている。

 

「キュウ―Bは守備表示のまま攻撃でき、またこのカードの守備力は相手フィールド上の特殊召喚されたモンスターの数×900ポイントアップする!」

 

守備力4300。切り札のスサノ―Oを超える恐るべき数値を前にしてもバレットの眉は動かない。

何かがある。そう分かっていても退く訳にはいかない。権現坂は手を挙げ、声を張り上げる。

 

「バトルだ!『超重魔獣キュウ―B』で『幻獣機ドラゴサック』を攻撃!」

 

白き魔獣はその手に持った杖をぐるりと回し、天に浮かぶ機竜へと向ける。キィィィィィンッ、激しい耳鳴りと共に杖の砲門が輝き、極太のビームが撃たれる。

 

「甘い!速攻魔法!『リミッター解除』!自分フィールド上の機械族モンスターの攻撃力を倍とする!」

 

幻獣機ドラゴサック 攻撃力2600→5200

 

突如、ドラゴサックの全身より赤い雷が迸り、急激に加速する。金色に輝くビームをスレスレでかわし、ジグザクの線の軌道を描き、ドラゴサックは弾丸をばら撒く。

高速回転する弾は白き魔獣の装甲を貫き、カランと音を立て地面に落ちる。

 

「くっ……!ならばドクロバット・ジョーカーで『幻獣機トークン』を攻撃!」

 

「『補給部隊』の効果で1枚ドロー!」

 

バレット 手札0→1

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

「エンドフェイズ、『リミッター解除』の効果を受けたドラゴサックは破壊される」

 

榊 遊矢&権現坂 昇 LP1500

フィールド『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)

Pゾーン『オッドアイズ・ユニコーン』『EMモンキーボード』

手札2(遊矢) 手札1(権現坂)

 

「私のターン、ドロー。私は『キャリア・センチネル』を召喚!」

 

キャリア・センチネル 攻撃力1000

 

「『キャリア・センチネル』の効果!デッキより『漆黒の豹戦士パンサーウォリアー』を手札に加え、魔法カード、『融合』!」

 

3度行われる融合召喚。毎ターン、エクストラデッキよりモンスターを特殊召喚するバレットの手腕に遊矢は恐ろしさと共に感心する。

 

「獰猛なる黒豹よ、歴戦の番兵と混じり合いて、新たなる雄叫びを上げよ!融合召喚!現れ出でよ、『獣闘機パンサー・プレデター』!」

 

獣闘機パンサー・プレデター 守備力2000

 

再びバレットのフィールドに火花を散らし、獰猛なる獣機が吠える。その効果は既に知っている。だからこそ遊矢の顔に焦燥が浮かぶ。

 

「パンサー・プレデターの効果発動!攻撃力の半分、800ポイントのダメージを与える!」

 

榊 遊矢&権現坂 昇 LP1500→700

 

パンサー・プレデターが銃弾を飛ばし、遊矢達に向かい、一直線に進んでいく。息を飲む遊矢。しかし、そんな彼を傷つけまいと権現坂が前に出て防ぐ。

 

「権現坂っ!?」

 

「掠り傷だ……!お前はバレット殿に自分の答えを見せる事に集中しろ……!」

 

権現坂が苦しそうに眉をひそめながらも平気だと言わんばかりに歯を見せて笑う。

榊 遊矢には憧れる人達がいる。権現坂もその1人だ。何時もこの背中に守られてきた。貰ってばかりいた。

 

遊矢の口がキュッと引き締められる。憧れるのはもうやめだ。背中を見るだけじゃ嫌だ。隣に立って、共に闘うのだ。

遊矢は勇気を振り絞り、一歩前進する。

 

「……遊矢……?」

 

「……ほう、答えは見えたか……私はこれでターンエンドだ」

 

バレット LP2000

フィールド『獣闘機パンサー・プレデター』(守備表示)

『補給部隊』

手札0

 

グッ、と唇を噛み締める遊矢。始まりは何時だったか、幼き頃、父のデュエルに憧れ、その言葉に胸を打たれた時か。

泣きたいときこそ笑え。悲しい事があっても、挫けずに勇気を持って前に進めば楽しい事がある。あの時全てが始まった。

 

ペンデュラム召喚。ストロング石島とのデュエルにより発現した遊矢の力。ゴーグルを被り、弱い自分から逃げていた遊矢が勇気を持って前に出た事でそれは生まれ、波乱の日々が幕を開けた。

 

コナミとの出会いと誓い。明確に遊矢にとっての目標が出来た瞬間だった。

 

そして――今、また新しい榊 遊矢が生まれる日、エンタメデュエルを否定する者、受け入れぬ者が現れる。甘んじて受け入れよう。観客の期待に応えるのがエンタメだ。だからと言って諦めるつもりは毛頭ない。

 

学ぶのだ、全てから、今まで自分が貰ってきた全てを出して。

デュエルは振り子、相手の投げた問題を、試練を返す。1人じゃできない。人にはそれぞれ性格がある。だから――変える。変幻自在の、千変万化の形へと。

 

「スゥー……ハァー……」

 

まずは深呼吸、初めての事だ。緊張するが――同時に試したくて堪らない。――さぁ、覚悟は決まった。ガッ、両足を開き、左手を前方へ、右手を顔の傍へ持っていく。その姿は、まるで歌舞伎の見栄のようだ。

 

「さぁ、さぁ、お立ち合い!これより榊 遊矢による、不動のエンタメ劇場の大盤振る舞い!刮目せよ!」

 

「遊矢!?」

 

「……ククク……ハハハハハ!そう来たか!!」

 

遊矢の突然の変貌に権現坂が驚愕し、バレットが目を見開き、らしくない獰猛な笑みを作る。

これこそが榊 遊矢の答え。今まで貰ってきたものを吸収し、エンタメデュエルと合体させる事によって自分独自の、新たなエンタメデュエルへと変える。

 

そして遊矢が実行するのは言わばエンタメデュエルversion不動。権現坂の不動のデュエルに触発されたものだ。上手くいかないかもしれないが――そんな事は試してみないと分からない。

 

「お楽しみは!あ、これからぁ、だぁ!」

 

遊矢のドローが空にアークを描き、激しい突風を巻き起こす。まるで権現坂のような力強いそれ。塾長の指導を受け、柚子達、遊勝塾のメンバーと共に素振りをして、コナミのアドバイス。

皆の力があったからこそ出来たドローだ。今まで培ってきたものは遊矢に答えてくれる。引いたカードは――即座に遊矢の脳裏にカードが線で結ばれていき、方程式が浮かぶ。

 

「俺は『金華猫』を召喚!」

 

金華猫 攻撃力400

 

「『金華猫』の効果により墓地よりレベル1モンスター、『超重武者ツヅ―3』を特殊召喚!」

 

超重武者ツヅ―3 守備力300

 

遊矢のフィールドに現れたのは2体のレベル1モンスターだ。1体は権現坂のチューナーモンスターのようだが。

 

「遊矢?まさかシンクロを……!?」

 

「違うよ権現坂。ツヅ―3には――この状況を引っくり返す効果がある」

 

権現坂の言葉をやんわりと否定し、上空に手を翳す遊矢。そう、ツヅ―3にはこの状況を打破する効果がある。しかしそれは受動的なものだ。

だが――不動とは、ただじっと待つ事ではない。

 

「俺は既にセッティングされたスケールでペンデュラム召喚!現れろ!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMウィム・ウィッチ』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMウィム・ウィッチ 守備力800

 

振り子の軌道でフィールドに降り立ったのは赤い衣装を身に纏ったマジシャンと猫の魔法使いのモンスターだ。遊矢のカードと権現坂のカード、その力が一つになる事で更なる可能性を生み出す。

遊矢1人では出来なかった事、権現坂1人では出来なかった事。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』が特殊召喚に成功した場合、自分フィールド上のカードを対象として発動する!俺はツヅ―3とモンキーボードを対象とし、破壊する事でデッキから『EM』モンスターを手札に加える!そして同時にツヅ―3の効果!このカードが破壊され、墓地に送られた場合、ツヅ―3以外の墓地の『超重武者』モンスターを対象として特殊召喚する!俺が特殊召喚するのは『超重荒神スサノ―O』!!手札に加えるのは『EMディスカバー・ヒッポ』と『EMドラミング・コング』!」

 

超重荒神スサノ―O 守備力3800

 

『剣の墓場』の地面が盛り上がり、荒ぶる神が再び顕現する。次々と放たれるモンスターによる見るも楽しいコンボ。だがこれだけでは終わらない。

 

「ドラミング・コングをセッティング!まだまだぁ!スサノ―Oの効果!相手の墓地の魔法、罠カードを頂戴する!俺が対象とするのは……『龍の鏡』!」

 

「っ!やってくれる……!」

 

相手の武器を盗み、自分のものへとするスサノ―Oの効果。その効果は今の遊矢に良く似合う。遊矢はしっかりと見ていたのだ。

相手の使うカードの1枚、1枚を、相手の顔色を伺ってきた過去の事も武器にして、更に相手の長所を自分のものとする未熟者であるからこその特権。それを見てバレットは舌を巻く。

叶うものなら、自分が教導したいものだと。

 

「更に!『龍の鏡』を発動!手札での融合召喚は出来ないけど……代わりとしてこのカードの素材の範囲は墓地にも及ぶ!俺は墓地の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』とフィールドの『金華猫』を融合!」

 

遊矢の背後に巨大な鏡が出現し、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『金華猫』の姿を写し込む。次の瞬間、鏡は暗い闇を写し、黄と緑、そして金色の色彩を放つ。

まるでそれは――何かの眼だ。そしてバリィィィィィンッ!鏡が中より割れ、激しい音と共に巨大なモンスターが現れる。

 

「融合召喚!野獣の眼光りし獰猛なる龍!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

今までの遊矢とそれを写し込んだ鏡を全て壊し、2度目の産声を放つ竜。

獣の骨格を纏ったような姿、青い体毛、雄々しき角と鋭い2本の牙、そして黄と緑と額に輝く金色の眼。それは確かに、これからの未来を見据えていた。

 

「……予想以上の答えだ……!さぁ、来い!少年、いや!榊 遊矢ぁ!」

 

ニィッ、と口の端を持ち上げ、今までになく楽しそうにバレットが笑う。

ペンデュラム、シンクロ、融合。遊矢と、そして権現坂の全力が今、眼前にある。

 

「いきます!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』でパンサー・プレデターを攻撃!ヘルダイブバーストッ!」

 

辺りの空気を吸い込み、爆炎を放つ遊矢の竜。歴戦の戦士であるパンサー・プレデターもその咆哮を受けてはただでは済まない――が、土煙が晴れたそこには、2体のモンスター。

 

「パンサー・プレデターが戦闘によって破壊された事により、素材であるパンサーウォリアーと『キャリア・センチネル』を特殊召喚する!」

 

「だけど!ビーストアイズの効果で『金華猫』の攻撃力、400のダメージを与える!」

 

バレット LP2000→1600

 

漆黒の豹戦士パンサーウォリアー 守備力1600

 

キャリア・センチネル 守備力1600

 

「ドクロバット・ジョーカーでパンサーウォリアーを!ペンデュラム・マジシャンで『キャリア・センチネル』を攻撃!ペンデュラム・マジシャンの攻撃宣言時、ドラミング・コングのペンデュラム効果により、攻撃力を600アップ!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500→2100

 

2体の奇術師の華々しいマジックによりバレットのフィールドががら空きとなる。道は拓いた。後は――突き進むのみ。

 

「『超重荒神スサノ―O』でダイレクトアタック!」

 

武神がビーストアイズへと股がる。ビーストアイズは喉を鳴らし、スサノ―Oのおもむくままに『剣の墓場』を駆け出す。

ガンッ、と大きく跳躍し、スサノ―Oはビーストアイズの尾に手をかけ、スッと引き抜く。

妖しい輝きを放つ美しい剣を手に取り、二刀の剣でバレットを引き裂く。

 

「クサナギソード・斬ッ!!」

 

バレット LP1600→0

 

新たな道は――切り開かれた――。

 

――――――

 

「素晴らしいデュエルだった……いや」

 

デュエルが終了した後、バレットは満足気な表情を浮かべ2人に話しかけてきた。遊矢のその場に立ち止まり、バレットの先の言葉を伺う。

 

「?どうしたんですか?」

 

「楽しいデュエルをした後には、こう言うべき、と友人に教わっていてな。ガッ――」

 

「ガッチャ!楽しいデュエルだったぞ!3人共!」

 

と、そこでタタタッ、とセレナが駆け寄り、興奮気味に人差し指と中指を突き出し、バレットの言葉を遮る。

突如の乱入に3人は面食らうが、バレットだけは優しい笑みを浮かべ、セレナの頭に手を乗せる。まるで――父娘のように。

 

「そう、ガッチャ。勲章もののデュエルだった」

 

「む?勲章はいらんぞ。捨てろ」

 

「……コホンッ、私の友が、そのまた友に教わった言葉でな、その男は少年のように笑い、デュエルが終わった後にそう言ったらしい。中々良い台詞だろう?」

 

わざとらしく咳をし、遊矢達へと笑いかけるバレット。

ガッチャ、ガッチャ、と胸の奥でその言葉を反芻しながらもくすぐったさを覚える遊矢。

やがて権現坂と顔を合わせ、頷き合った後、2人で人差し指と中指を突き出す。

また――貰ったな、何て思いながら。

 

「「ガッチャ!楽しいデュエルでした!」」

 

2人の顔は――その言葉の主のように――輝きに満ち溢れていた――。

 

 

 

 




カバは添えるだけ。

と言う訳で遊矢君は闘ってきたデュエリストのスタイルを得てパワーアップする王道主人公に。シンクロ次元でハーモニカ吹いたり、エクシーズ次元でファンサービスしたりするかもしれない。
しかし見事にシリアスと言うか真面目な話やってるなーと思う。いや熱い話が書きたいんだけどね、勝手に手がネタを挟もうとするの。俺は熱い話が書きたいんだ……!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。