河川敷沿いに位置する独創的な建物、遊勝塾。少女はその入り口前の柱から顔を覗かせていた。
濡羽色の長髪、健康的な褐色の肌、それを隠すように動きやすさを重視した衣を纏い、腰にはデッキケースを付属したベルトを巻いている。特徴的な紅玉の瞳を不安そうに忙しなく動かし、耳につけたマラカイトのイヤリングに触れる姿は小動物のようだ。
重大な決心をしたのか、目をキッ、と吊り上げ、何度目か分からない深呼吸をしようと息を大きく吸い込み。
「……何やってんだ?真澄?」
「ぶふぉぉっ!?」
盛大にむせた。
「くぅっ、く……や、刃?なな何であんたがここに?」
ゆっくりと息を整え、背後から声を掛けてきた少年へと振り向く真澄。その額には汗が滲んでおり、顔には若干の赤みが差している。
対する少年、刃はトレーニングの後なのか、権現坂を連れており、2人共肩にタオルを掛けている。意外な人物を意外な場所で発見した為か、刃と権現坂は目を丸くし、パチクリと瞬かせる。
「何でって……そりゃこっちの台詞だぜ?俺達は休憩がてら寄っただけだ」
「だから!何であんたが遊勝塾で休憩するのよ!後ろの奴も敵でしょ!?」
刃の何気無く放った返事に質問を繰り返す真澄。普段の冷静さを失っているのか、自分にも当てはまる事を言っているが大丈夫なのだろうか?
「いや、それお前にも当てはまるんじゃね?俺は権現坂の師匠みたいなもんだし、ここのコナミ達とは友達だしな。今更敵とかねぇよ」
軽く真澄にツッコミを入れながらも答える刃。後ろに立つ権現坂も「うむ、うむ」と頷いている。しかし何がショックだったのか、雷が走ったように目を大きく見開き、その場に崩れ落ち、膝をつく真澄。
ただならぬ様子に焦りを覚えた刃と権現坂は慌てて真澄へと近寄る。
「だっ、大丈夫か光津!?どこか具合が悪いのか!?」
「……ち……じゃない……」
「うん?」
蚊の鳴くような声で小さく呟く真澄に対し、刃は眉を寄せながら耳に手を当てて真澄の様子を見る。
しかし、次の瞬間、真澄はガッ、と力強く刃の肩を掴み、爪を食い込ませ、必死の形相で叫ぶ。
「あんたコナミの友達なの!?私、友達じゃない!!ズルい!!」
「……え、ええー……?」
戸惑い、口元をひくひくと動かす刃の肩をガクガクと揺すり、「ズルい、ズルい!」とまるで駄々をこねる子供のように何度も叫ぶ真澄。
長い事友達をやっているが、彼女のこんな姿は見た事が無く、どうしたら良いのかと、うーんと唸るフォローの刃。フォローに長けている事で有名な彼でも分からないようだ。
権現坂はと言うと、真澄の余りにも必死の形相に「う、うぅむ……」と若干引いている。
そして、そんな彼等へと自動ドアを開き、現れる者が2人。
「フッ……何やらお困りのようだな刃!」
「また面倒なのが来やがった……!」
ドアに背を預け、こちらを呼び掛けるのは緑の髪をバンドで纏め、鼻に絆創膏、耳にピアスをつけた少年、コナミの子分であり、刃の親友でもある黒門 暗次だ。
学校帰りなのか何時もの黒い道着では無く、舞網第3中のものである学ランを着用しており、その下には迷彩柄のシャツを着ている。
何故か頭に瘤を作り、ドヤ顔を見せつける彼の背後では顔色の悪い茶髪の少女、同じくコナミの子分兼、刃の親友である光焔 ねねが黒いセーラー服と丈の長いスカートを履いて苦笑いしている。
「……悪いけど困ってるからこそ、お前には引っ込んでて欲しいんだけど。つーか何でお前ここに?コナミは?」
眉間を手でこねながら暗次を面倒臭そうなものを見るかの如く冷たい態度を取る刃。親友にしては余りにも突き放した態度だが、実際面倒なのだから仕方無い。大体兄貴分であるコナミのせいである。
それにこのようなやり取りが出来るからこそ親友なのだ。その証拠に暗次は気にした素振りを一つも見せず、フッ、と彼らしく無く気障に笑い。
「兄貴なら素良先輩と柚子の姉御、アユ先輩と一緒に特訓だ!因みに俺は他塾の者だから覗くなって言われて覗こうとしたら門番のセレナにボコられたぜ!」
「何で誇らし気なんだテメェは!?」
胸を反り、ドヤァと笑みを深める暗次。そう、彼はセレナとのデュエルに敗れ、瘤を作ったのだ。強力な『暗黒界』使いである暗次だが打点を上げて物理で殴ってついでに殴る。と言ったセレナの単純且つ豪快な戦法を前にボコられたのだった。
「転校生の子にも負けちゃったし今日は良いとこ無しだねー」
「あれは良い所までいったと思うんだけどなー。次は負けねぇぜ!」
「かっとビングだぜ!」と満面の笑みで叫ぶ暗次と「あはは」と微笑むねね。頭が痛い、と言う様子で溜め息を吐く。
そんな彼等のやり取りを近くで見ていた真澄はきょとんとした顔で刃に向かって口を開く。
「刃、誰よこいつ等、知り合い?」
「ん、ああ、こいつ等は俺の親友で、男の方が黒門 暗次。女の方が光焔 ねね。何をどう間違えたのか、2人共コナミの子分になってる」
面倒臭そうに半眼で2人を紹介する刃と、元気一杯と言った様子で「よろしくね!!」と挨拶する暗次とねね。しかし何を思ったのか、2人の紹介を受けた真澄はハッ、と目を見開き、鬼気迫る表情でねねに詰め寄る。
「コナミの子分……くっ……!絶対負けないんだからねっ!」
ズビシ、と音がつきそうな位、勢い良く暗次達を指差す真澄。一体何が彼女をそうさせるのか、暴走する真澄の挑戦に目をパチクリと瞬かせる子分2人。
彼等の様子を見ていた刃は「ああ、またアホが増えるのか……」と眉根を下げ、腹部を抑える。そんな彼を心配そうに介抱する権現坂。
混沌とした状況で真澄は更なる行動へと移る為、凄まじいスピードで暗次とねねの間を駆け、遊勝塾へと足を踏み入れる。
「うおっ!?えっと……光津?一体何なんだ!?」
「え?あの人LDSの人じゃ!?」
「本当だ、でも刃兄ちゃんも良く来るし今更じゃね?」
「……それもそうか」
思わず声を上げる暗次に反応し、ソファで休憩していたタツヤとフトシが驚愕するも、直ぐに持ち直す。何だかんだで部外者が来訪する事に慣れてしまったのだ。子供の順応性と言うのは目を見張るものがある。
一方、真澄はと言うと彼等に反応すらも見せずに真っ直ぐに突き進み、遊勝塾のデュエルフィールドへと通じるドアの前で急ブレーキする。
目の前に立ち塞がるは、1人の少女。紫色の髪を黄色のリボンで結び、ジャケットとスカートをベルトで止め、肩に猿を乗せた彼女に真澄が一瞬の動揺を見せる。
「むっ、何だお前は、ここから先は誰1人通すなと柚子に言われているんだ。デュエルが終わるまで待っていろ」
「柊 柚子?中にいる筈じゃ……まぁ、今はそんな事どうでも良いわ!そこを退きなさい!」
「私はセレナだ!ここを通りたくば私をデュエルで倒せ!」
「キキー!」
鋭い視線を投げ掛け、息巻く真澄。柚子と間違えられた事により、セレナが怒りを見せ、ポニーテールを揺らし、SALと共に叫ぶ。正に一触即発。剣呑な空気に痺れを切らせたのか、真澄がデュエルディスクを取り出し、その左腕に嵌め、前へ突き出すように構える。
「退いて、コナミと友達になれない」
「?知った事か、私はただ、ここを守るだけだ!」
真剣な表情で光のプレートを出現させる真澄に対し、闘争心が刺激されたのか、笑みを深めるセレナ。斯くして、決闘の火蓋は切って下ろされる。
「「デュエル!!」」
その内容が重要な事なのかは、本人達にしか分からないが。
――――――
「んー?何だか外が騒がしいねぇ」
場所は少しばかり変わり、扉の先のデュエルフィールド。水色の髪を後頭部で一括りにした少年、紫雲院 素良は闘いが起こっている扉の先を半眼で見つめている。その口元には彼の好物であるキャンディーがくわえられており、先についた棒がピョコピョコと上下に動いている。
「……デュエルの匂いがするな」
素良に答える形で言葉を紡いだのは遊勝塾1の問題児、コナミである。彼はトレードマークである赤帽子を深く被り直し、スンスンと鼻先で何か常人では分からないものを嗅いでいる。
相変わらず奇妙な事を言う彼に対し、呆れた顔を見せる素良。まぁ、いいや。と何時も通りの事だと判断し、改めて今回の対戦相手となる2人を見据える。
視線の先には2人の少女。ピンク色のツインテールを揺らす、制服を纏った柚子とジュニアコースで学ぶアユだ。女の子同志と言う事もあってか、2人は姉妹のように仲が良い。今現在も楽しそうに談笑している。
「じゃあ、そろそろ始めよっか。準備は良い?柚子、アユ」
「オレは何時でも構わんぞ」
「君には聞いてないよ……」
柚子とアユに対し放った質問に隣に立つコナミがやる気満々、も言った様子で答える。どうしてこう、口数は少ないのにデュエルバカなのか、扉を守る少女のように、ふんすと鼻息の荒いパートナーに口をヘの字にして呆れ返る素良。こんな相棒で大丈夫か?と一抹の不安を覚えながらももう1度デュエルの説明を行う。
「いいかい、こーはい君。今回のデュエルは柚子に『融合』を教えるのが目的なんだ。君も融合モンスターしか使っちゃダメ、シンクロとエクシーズは封印。特にエクシーズは使っちゃダメだよ」
「マジか」
「マジだよ。ややこしい事したく無いしね。『融合』に集中して欲しいし」
口からキャンディーを離し、ゴリゴリと噛み砕く音と共にコナミをキャンディーで指す素良。それならば仕方無いか、と無理矢理納得するコナミ。
ホープやスターダストと使い勝手の良いカードが使用できないのは痛いが、世話になっている柚子の為だ。本来なら素良の相方はセレナやねねのような生粋の融合使いが好ましいのだろうが、彼女等は遊勝塾の塾生ではない。
それに素良に頼まれたのだ。「君の力が見てみたい」と、上目遣いでキラキラと目を輝かされたら流石のコナミも「おk」と即答する他ないだろう。訂正、誰に対しても、どんな頼みだろうと了承していた。
「こっちは準備OKだよー!」
2人が話し込んでいる内に対面で立つアユが頭の上で丸を作る。何故彼女が柚子のパートナーになったのか、と言うのは遊勝塾の塾生であり、柚子と相性が良いと言う所か。
遊矢は4連戦の為、不在である事も要因だ。アクションフィールドもジュニア用に設定してある。
ただ、ジュニアクラスと思って侮るなかれ、彼女を含め、ジュニア組はコナミやセレナによる教育により、腕を磨き、油断できない力を持っている。意外にも、セレナには教育者の才能があったと言う事か。ただ、遊矢に対してはスパルタである。
「よし!じゃあ始めよう!戦いの殿堂に集いしデュエリエト達が!」
アユの返事に素良が頷き返し、再びキャンディーを口に含み、口上を叫ぶ素良。遊勝塾の生徒の為か、随分とエンタメに積極的だ。ウインクを飛ばし、デュエルディスクを構える。
「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」
素良の台詞を紡いだのは柚子だ。特徴的なピンクのツインテールを揺らし、踊るように身体を動かす。
「フィールド内を駆け巡る!」
更に口上を放ったのはコナミだ。帽子のつばを抑え、赤いジャケットをはためかせ、嬉々としてデュエルへ臨む。もう5度目となるアクションデュエルだ。口上にも慣れたものだ。
「見よ、これぞデュエルの最終進化形!」
最後に声を張り上げたのはアユだ。彼女の言葉と共にフィールドを光り、その姿を大きく変えていく。
「「「「アクショーン!!」」」」
空よりは雨が降り注ぎ、地よりはぼうぼうとアユの背丈程はある草が生い茂る。アクションフィールド『湿地草原』。水族、水属性のレベル2以下のモンスターの攻撃力を1200と大幅にアップする強力なフィールドだ。低レベルである『ガエル』デッキではその真価を発揮する。――他にもアユのデッキには相性が良いか。何にせよ、今回のデュエルもそう簡単にはいかないか。とコナミは気を引き締める。
「「「「デュエル!!」」」」
コナミは期待を、闘争心を胸に抱きながら光のプレートを出現させる。ランプが指し示したのは素良だ。淡い光が灯ると共に素良はディスクに設置されたデッキより5枚のカードをドローする。
「さぁて、僕のターンだ!まずはお手本を見せて上げるよ!手札から『ファーニマル・オウル』を召喚するよ!」
ファーニマル・オウル 攻撃力1000
ポン、と小さな爆発を起こし、パタパタと翼を動かし、鼻眼鏡をつけた可愛らしい小さな梟が姿を見せる。そのぬいぐるみの愛らしい姿にコナミが「おお」と言葉を漏らす。……コナミは素良の持つ『ファーニマル』について良く知らない為か、これから起こるファンサービスなど想像も出来ないだろう。
世の中には知らない方が幸せな事もあると言う事か。梟は素良の周りを一回転した後、その腕に止まり、コンコンとデュエルディスクをつつく。
「『ファーニマル・オウル』が手札から召喚された時、デッキから『融合』を手札に加えるよ!」
『ファーニマル・オウル』がその嘴で素良のデッキから1枚のカードを引き抜き、主へと渡す。随分と愛嬌のあるモンスターだ。融合使いにとってキーカードである『融合』をサーチする効果も心強い。
素良は早速、手札に加えた『融合』をデュエルディスクへと差し込む。
「お待ちかねの『融合』発動っ。手札の『エッジインプ・チェーン』と『ファーニマル・オウル』で融合!融合召喚!現れ出ちゃえ!全てを封じる鎖の獣、『デストーイ・チェーン・シープ』!」
デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2000
青き渦が巻き起こり、素良の手札よりジャラジャラと鎖を鳴らし、赤き双桙を光らせた悪魔が出現し、梟をズタズタに引き裂き、締め上げていく。やがてそこに現れたのは不気味に蠢く眼を飛び出させ、鎖で真綿を締め上げられた趣味の悪い羊。
可愛らしいぬいぐるみからの変貌に柚子とアユは顔を青くし、コナミも「お……おお……」としか言えない。
「『エッジインプ・チェーン』が手札、フィールドから墓地に送られた場合、デッキから『デストーイ』カードを手札に加えるよ。僕は『魔玩具融合』を手札に加えるよー」
次々とモンスターの効果を行い、手札の補強を行う素良。抜け目の無いプレイングにコナミがほう、と息をつく。
「どうかな柚子?ここまでのプレイングで気づいた事はないかな?」
キャンディーの棒をピコピコと上下に動かしながら柚子へと『融合』の事を教える為に質問を投げ掛ける素良。
対する柚子は?マークを頭に浮かべながらも素良の質問の意味を考え込む。
「……どうっ……て、『融合』を手札に加えて融合召喚……デッキからまた『融合』を……手札が減ってない……!?」
「正解!『融合』を使えばどうしてもカードの消費が多くなるんだ。それにキーカードである『融合』を手札に引き込まないと始まらないからね!サーチは元よりサルベージは大事だよ」
ピン、と人差し指を立て、説明する素良。その表情は真剣そのものだ。これこそが融合使いの悲しい運命だろう。
シンクロもエクシーズも、儀式も、そしてペンデュラムも、アドバンス召喚でさえ基本、2枚のカードが必要なのだ。特に『融合』ならば『融合』を内蔵したモンスターやデッキ融合で無い限り、正規『融合』ならば素材となるモンスター2体、『融合』魔法。計3枚のカードが必要なのだ。大型になれば3体以上にもなりかねない。つまる所、手札の消費が激しいのだ。
その為、折角出したモンスターがあっさりと除去されれば次のターンの動きも鈍くなってしまう。
それにその3枚が手札に揃ってなければ始まる事すら出来ない。カードの消費を抑え、新たなカードを呼び込む事、回収する事が重要なのだ。
「成程……ただ出せば良いって訳じゃないのね……」
「そうだね。ちょっと難しい所だね。僕はカードを2枚伏せてターンエンド!」
コナミ&紫雲院 素良 LP4000
フィールド『デストーイ・チェーン・シープ』(攻撃表示)
セット2
手札5(コナミ) 手札2(素良)
素良が盤石の布陣を敷き、柚子へとターンを渡す。今までにも素良に『融合』についての教導を受けてきたが、実戦で使用するのは初めてだ。上手くいくかは分からない。生唾を飲み込みながらも柚子は覚悟を決めドローする。
「私のターン!私は『幻奏の歌姫ソロ』を特殊召喚!このカードは相手フィールド上にだけモンスターが存在する時、手札から特殊召喚が出来る!」
幻奏の歌姫ソロ 攻撃力1600
「ラララ」と歌声を上げて登場したのは召喚条件の緩い、下級の天使族。このような特殊召喚の効果を持つカードはとても重宝される。
「更に私は、『幻奏の歌姫ソプラノ』を召喚!」
幻奏の歌姫ソプラノ 攻撃力1400
次なるモンスターは癖のある赤毛を揺らした歌姫。美しい音色が響き渡る中、柚子は次の布石を打つ。
「私は『幻奏の歌姫ソプラノ』の効果を発動!『幻奏』融合モンスターによって決められた、このカードを含む素材モンスターをフィールドから墓地に送り、融合召喚を行うわ!」
「へぇ、『融合』を内蔵したモンスターか……これなら確かに、カードの消費を押さえられるね」
単純ではあるが1枚の消費を押さえる効果に舌を巻く素良。弟子の成長を、自らの問題に対する答えに喜んでいるのか、どこかその顔は嬉しそうだ。
「天使の羽ばたきよ!天使の囀りよ!タクトの導きにより力重ねよ!融合召喚!今こそ舞台へ!『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』!」
幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2400
柚子の初めての融合召喚が炸裂する。青き渦より大きな爆発のエフェクトがフィールドを包み込み、現れるのは山吹色の長髪を風に靡かせ、刃を持ったタクトを握り、黄金の仮面を被った音姫。
「や、やった……!成功した!」
初めて自分が行った融合召喚に高揚を隠せずに両手を合わせる柚子。その顔色は喜びに満ち溢れており、今にも感動の涙を流しそうだ。
「やったね柚子お姉ちゃん!これが柚子お姉ちゃんの融合モンスターかぁ……!綺麗だねぇ!」
まるで自分の事のように喜びの声を上げ、ぴょんぴょんと飛び跳ねるアユ。
「えっと……そろそろ良いかな?一応、デュエル中なんだけど」
頬をポリポリと掻き、苦笑いする素良。尤もである。コナミも早くデュエルの続きがしたいのか、何度も大きく頷いている。残像が作られる位に速い。必死か。
「ああっ!うん、ごめんなさい、続けましょう。マイスタリン・シューベルトの効果発動!素良の墓地の『ファーニマル・オウル』、『エッジインプ・チェーン』、『融合』を除外し、攻撃力を除外した数200アップするわ!」
「流石にマズイかな!罠発動!『融合準備』!エクストラデッキの『デストーイ・シザー・ベア』を公開して素材の『エッジインプ・シザー』をデッキから手札に加え、墓地の『融合』を手札に加える!」
幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト攻撃力2400→2800
紫雲院 素良 手札2→4
「私はマイスタリン・シューベルトで攻撃!ウェーブ・オブ・ザ・グレイト!」
マイスタリン・シューベルトの持つタクトが振るわれ、音符が波打ち、チェーン・シープを破壊する。
コナミ&紫雲院 素良 LP4000→3200
「『デストーイ・チェーン・シープ』の効果!戦闘、効果で破壊された場合、特殊召喚する!」
しかし、これでは終わらない。チェーン・シープはズタズタに引き裂かれた自らの身体を縫合し、もう1度場へと復帰しようともがく。
「この効果で特殊召喚したチェーン・シープは攻撃力を800アップするよ」
デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2000→2800
「アクションマジック!『セカンド・アタック』!マイスタリン・シューベルトはもう1度攻撃できる!追撃よ!」
「さらに!私がアクションマジック『エクストリーム・ソード』発動!これで柚子お姉ちゃんのモンスターの攻撃力は1000ポイントアップ!」
幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2800→3800
2度目の刃が振るわれ、デストーイ・チェーン・シープが復活できぬ程にグズグズに引き裂かれる。破壊されれば1ターンに1度復活する為、ここで封じたのは大きい。何とも厄介な連携だ。
コナミ&紫雲院 素良 LP3200→2200
「私はカードを2枚伏せてターンエンド!」
柊 柚子&鮎川 アユ LP4000
フィールド『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』(攻撃表示)
セット2
手札2(柚子) 手札5(アユ)
ターンがコナミへと渡る。正直、コナミとしては意外であった。素良が強いデュエリストと言うのは自身の嗅覚で感じていたが、柚子がここまでとは思っても見なかったからだ。灯台もと暗し、と言う事か。それとも、隣の少年が育て上げたのか、どちらにしろ、予想以上に面白いデュエルになりそうだ。と口元に笑みを作り、大きくドローする。
「オレのターン……!」
コナミは知らない、このデュエルで、竜の鎖が一つ、外れる事を。新たな力が目覚めようとしている事を。そして――その竜は、別の場所でも喉を鳴らしていた――。
――――――
遊勝塾のデュエルフィールド。その光景を見張る者が1人。真っ白の外套に身を包み、何も描かれていない仮面を被った男。その仮面より覗く眼は紅く彩られ、蛇のように獲物を睨みつけるものだ。その視線の先には赤い帽子を被ったデュエリスト。そして仮面の男の手には1枚のカード。
「……ふぅん、彼がアムナエルの言っていた――」
ギラリ、男の仮面の奥に潜んだ瞳が輝く。それに呼応するかのように手元のカードが淡い輝きを見せる。
「……赤帽子。君の力は――」
世界を、変えられるのか――。
その呟きに込められていたのは――確かに、切望だった――。
NGシーン
素良「エクシーズだけは使うなよ?」
コナミ「了解!エクシーズ!」
素良「待てや」