遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

27 / 202
嘘劇場版予告

「さらばだ歴戦の満足達よ」

――突如、鬼柳の前に現れた謎のデュエリスト、NOサティスファクション――

「鬼柳京介、貴様のトリシューラは頂いていく」

――奪われたトリシューラ――

「ヒァッハー!満足させてもらおうかぁ!」

「ここで満足するしかねぇ!」

――サティスファクションリーダー、ダークシグナー、町長、3人の鬼柳が集う――

「NOサティスファクション!デュエルだ!満足させてもらうぜ!」

――世界中の満足を救う為、立ち向かう――

「俺達の満足をお前の好きにはさせない!」

――そして、NOサティスファクションの正体とは――

「俺は――フィール次元のお前だ――」

――破壊神より放たれし聖なる槍よ、今こそ魔の都を貫け――

「シンクロ召喚!『氷結界の龍トリシューラ』!!」

「強脱で」

「おかえり」

劇場版遊戯王サティスファクション~超満足!時空を越えたリーダー~

もれなく入場者限定 暗闇で光る鬼柳シールプレゼント



カッとなってやった。満足はしている。反省も後悔もしてない。


第24話 先生の目、くすんでるわ

「コナミ」

 

それは昨日の出来事、セレナが柊家に居候する事が決まり、皆が帰宅しようと準備を始めている時、コナミの背に遊矢が話しかける。

何やら浮かない顔をしているがどうしたのだろうか?

 

「……どうした、遊矢?」

 

その真剣な表情から何かを察したのだろう。コナミは赤い帽子を被り直し、遊矢に身体ごと向き直る。すると俯いていた遊矢が顔を上げ、どこかすがりつくような眼でコナミを見つめる。

 

「……えっ……とさ、コナミって、兄弟とかいるのか?」

 

一呼吸置き、意を決したような顔でコナミに問いかける遊矢。良く分からない質問だ。コナミも首を傾げ、うぅむと顎に手を当て唸る。

 

兄弟、そのような存在なら覚えはある。

何時も自分を慕ってくれ、子供っぽい言動が目立つが妹を、仲間を守る為に絶望の中から希望を見いだした小さな勇者。

そしてその妹、気が弱い所もあるが小さくともしっかりとした少しおませな女の子。

最近では暗次やねねが兄弟みたいなものか。2人はコナミの子分を名乗っているが、コナミとしては年の近い弟や妹と言った方がしっくり来る。だがこの場合遊矢が聞きたい事はそう言う事ではないだろう。

 

「……いない……と思うが」

 

そもそも肉親がいる事でさえ定かではないのだ。余り興味が無いし、気にした事も無い。コナミの答えを聞いた遊矢はほっと安堵した表情を浮かべる。

 

「そっか……あっ、そう言えばさ……!」

 

何かを思い出したように腰のデッキケースからデッキを取り出し、遊矢が1枚のカードをコナミへと差し出す。白銀の鎧を纏い、剣を身に宿した竜の描かれたカード。何か大きな力を放っているのか、コナミが「む」と小さく呟く。

 

「このカード、何時の間にかデッキに入ってたんだけど……俺は『オッドアイズ・ドラゴン』はもう持ってないから、良かったらコナミが受け取ってくれないか?何だかコナミが持っていた方が良いと思ってさ」

 

そう言って苦笑いする遊矢。特別なカードのようだが良いのだろうか?しかしカードをくれると言うのは有難い、どうやらコナミのエースカードである『オッドアイズ・ドラゴン』に関する能力を持っているようだ。好意を無下にするのも気が引けるのでカードを受け取ろうと手を差し出す。

 

「ありがとう遊矢。大切に――」

 

と、そこでコナミの手が止まる。そこから先の言葉を口にするのはどうかと思ったのだ。この台詞を言ってしまえば折角の遊矢の優しさが台無しになってしまうかもしれない。最近はそうでも無い事もあるが、態々フラグを立てるのは間抜けだろうと考え、咳払いを1つし、もう1度手を差し出す。

 

「ありがとう遊矢。取り敢えず使わせて貰う」

 

「何か含みがあるな!?」

 

こうして、2人の友情のカードがコナミの手に渡る。この余計な言葉が原因で、1枚のカードの逆鱗に触れた事は、言うまでもないだろう。

 

――――――

 

「……綺麗……」

 

煌々と光輝く粒を雪のように散らして現れたる剣の竜。その雄々しくも美しい姿を見、真澄が感嘆の声を漏らす。それは沢渡も、そしてマルコとて同じだ。誰もがこの洗練された剣のような竜に見惚れ、まるで時が止まったかのような錯覚に陥っている。

 

「漸く会えたな、オットセイ」

 

そう言って妙な渾名で竜を呼び、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』の顎を撫でるコナミ。先日の事が原因なのか、それとも渾名が不服なのか、実に不快そうに「グルル……」と喉を鳴らす。何にせよ、竜の喉に触れてはいけない。

 

「む……どうしたオットセイ。急に尻尾を巻きつけて……締め付けるな、背の剣で刺すな、くすぐったいぞ」

 

竜の喉、顎には触れてはいけない逆鱗が存在する。コナミは馴れ馴れしくそれにベタベタと触れたのだ。

それに怒りを覚えたのか、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』がその刺々しい尾でコナミを普通の人間なら骨が砕け散る程の力で締め付け、その背の大剣で刺している。

どう言う訳か刃が通らないが。実にシュールな光景である。先の感動はどこへやら、今度はコナミの人間離れした身体に戦慄を覚える真澄。

 

「……人から貰ったカードはバッジが一定数にならねば言う事を聞いて貰えないと言う事か……仕方無い、オレはアクションフィールド『フュージョン・ゲート』の効果により、『E・HEROオーシャン』と『竜脈の魔術師』を除外し、融合召喚!『E・HEROガイア』!」

 

E・HEROガイア 攻撃力2200

 

胴体を尾に巻かれながらコナミが次なるモンスターを呼び起こす。水の『HERO』と地の『魔術師』が融け合い、出でたるは黒い鎧を纏った巨人。その巨体が大地を砕き現れる光景は圧倒と言えよう。

 

「『魂吸収』の効果で1000ポイント回復するぜ」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP4200→5200

 

ついに沢渡達のLPが初期値を超える。早めにLPを削りきるか、何らかの対処をしなければ更に差が開くだろう。コナミがその手により一層の力を込め、指示を飛ばす。

 

「『E・HEROガイア』の効果!『天帝アイテール』の攻撃力を半分にし、その攻撃力分、ガイアの攻撃力をアップする!」

 

天帝アイテール 攻撃力2800→1400

 

E・HEROガイア 攻撃力2200→3600

 

「バトルだ!オットセイ、君に決めた!『天帝アイテール』を攻げっ」

 

言い終える前に、コナミの身体が竜の尾によって投げ飛ばされる。一直線に赤の軌跡を描き、風を切り裂いてアイテールへと駆ける。

唖然とする一堂。アイテールがコナミに貫かれる前に。

 

「違う、そうじゃない」

 

コナミの憮然とした否定が響く。直後アイテールが砕け散り、勢いを殺されたコナミが空から堕ち、沢渡とぶつかる。

 

「罠発動、『ダメージ・ダイエット』!ってぬがぁっ!?」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP5200→4500

 

勢いを殺されているとは言え、コナミとぶつかった事で頭に大きな瘤を作り、悶える沢渡。対するコナミはケロリとしている。一体この男は何でできているのだろうか。

痛みが漸く引いたのか、沢渡が勢い良く立ち上がり、コナミを睨み、その胸ぐらを乱暴に掴む。

 

「テッメェ……!ふざけてんじゃねぇぞ赤帽子ぃ……!」

 

「違う、オットセイが勝手に」

 

ガクガクと揺する沢渡と無機質に答えるコナミ。今回ばかりはコナミも被害者と言えるだろう。彼等の後ろでは原因たる『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』が暢気に欠伸をしている。勝手に居眠りを始める辺り、やはりジムバッジが足りないようである。

 

そんな混沌とする中、更なる変化が起こる。――ジルコニアの胸に、金色の剣が刺さっているのだ。

 

「っ!?ジルコニアが!?」

 

「え、あ、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』が戦闘でモンスターを破壊し、墓地に送った時、相手フィールド上のモンスター1体を選んで破壊する……オットセイが勝手に」

 

どう言う事か、コナミも知らずの内に効果が発動し、デュエルディスクが処理していたらしい。何やら不可思議であるが、ただ1つ分かる事は、この『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』がただのカードでは無い、と言う位か。兎も角気を取り戻し、コナミが更なる追撃をかける。

 

「『E・HEROガイア』でダイレクトアタック!コンチネンタルハンマー!」

 

大地の英雄が沢渡の眼前へと移動し、その両腕を合わせ叩きつける。地を揺るがす重き一撃、決して軽くはないダメージが身体の芯まで響く。

 

「ぐうっ!」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP4500→2700

 

「魔法カード、『一時休戦』を発動。互いに1枚ドローし、次のターン終了までダメージを0に」

 

コナミ 手札0→1

 

沢渡 シンゴ 手札4→5

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

コナミ&光津 真澄 LP1800

フィールド『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』(攻撃表示) 『E・HEROガイア』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン 『竜穴の魔術師』 『法眼の魔術師』

手札0(コナミ) 手札3(真澄)

 

またもや形勢は逆転、デュエルは更なる展開を見せ、ターンはマルコへと渡る。手札は1枚、こんな逆境だと言うのにその顔には余裕が見てとれる。

その表情に笑みを貼り付けたまま――華麗な動作で、ドローした――。

 

「――ねぇ真澄ん。沢渡ンゴはね、とっても努力家なんだ」

 

「ブッ!!なななっ!?おいマルコ先生、急に何言ってんだアンタはっ!?」

 

目を細め、真澄を見つめながら急に沢渡を持ち上げ始めるマルコ。突然自分の名が上がった事により、沢渡は目を丸くして動揺する。

そんな中でも真澄は鼻で笑う事もせず、真剣に耳を貸す。

 

「彼、榊 遊矢に負けてからペンデュラムに有用な手を必死に探してね」

 

「わー!わー!わー!言うんじゃねぇ!俺別にそんな事してねぇし!?努力とかダセェ真似してねぇし!?才能とフィーリングだし!?」

 

静かに言葉を紡ぐマルコとは対照的に、顔を赤くしてマルコの口を塞ごうと慌てふためく沢渡。

 

「色々なデッキを山部ぇ達を相手に何度も試して、漸く今の帝デッキに辿り着いて、それからもデッキ構築を怠らない……最近ではデッキに向かって良く応えてくれたなと言う位だ」

 

「最高ッスよぉ!沢渡さん!」

 

「やーめーろーよー!本当そんなんじゃねぇからぁ!このデッキだって適当に作っただけだからぁ!」

 

何とも微笑ましい話にその場に倒れ込み、羞恥に染まった顔を両手で抑え、ジタバタと悶える沢渡。一応褒めているのだが沢渡の反応を見る限り公開処刑だったようである。

努力している自分を見られる事が余程嫌なのか「あー、あー」と言葉にならない叫びを上げている。

 

「彼は決して弱くない、僕だって彼の姿を見て強くなろうと思い、エクシーズを会得したんだ。こんな所で諦めたら、努力を裏切ってしまう、僕は!『貪欲な壺』を発動!墓地の『異星の最終戦士』、『天帝従騎イデア』、『冥帝従騎エイドス』、『冥帝エレボス』、『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

マルコ 手札1→3

 

「『召喚僧サモンプリースト』を召喚、効果により、守備表示に!」

 

召喚僧サモンプリースト 守備力1600

 

マルコの場に現れる魔法使いの翁。その効果は実に優秀、このLDSにおいてシンクロ、エクシーズで重宝されるモンスターだ。逆に魔法カードを捨てる効果は融合コースで敬遠されがちである。

しかしマルコはエクシーズを会得しており、墓地からの回収が容易である『ジェムナイト・フュージョン』が手札にある事を真澄は覚えている。

 

「手札の『ジェムナイト・フュージョン』を捨て、サモンプリーストの効果により、デッキから『ジェムナイト・ルマリン』を特殊召喚!」

 

ジェムナイト・ルマリン 攻撃力1600

 

サモンプリーストが呪文を呟き、黒き球体を作り出す。電撃が走り、球体を裂くように現れたのは全身を黄色の鎧で覆ったかのような電気石の戦士。

 

「――トルマリンの宝石言葉は健やかな愛、落ち着き、開眼。そろそろユー本来の輝きは取り戻せたかな?僕は!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『暗遷士カンゴルゴーム』!!」

 

暗遷士カンゴルゴーム 攻撃力2450

 

黒き渦が巻き起こり、2体のモンスターが吸い込まれ、巨大な腕が現れる。ボロボロになった暗い、光を失ったダイヤが埋め込まれたそれ。

『ジェムナイト・ジルコニア』の腕だ。渦を払い、その全貌が明らかとなる。全体は別のモンスターだが、その右肩、そして後頭部でうねる金の髪は『ジェムナイト・クリスタ』に近い。

鈍い黒の鎧、ズタズタに破れたマント、何より不気味なのはひび割れた兜から覗く赤い眼。

ギョロギョロと動き回り、焦点が定まらないそれは恐怖を煽る。

 

「……『ジェムナイトマスター・ダイヤ』……!?」

 

真澄が驚愕の声を漏らす。そう、このモンスターは真澄のエースカードに驚く程似ているのだ。まるで暗黒面へと堕ちた黒騎士、いや、バーサーカーの姿を見て動揺を隠せないのは無理もないだろう。

 

「まだまだ!手札より2枚目の『ブリリアント・フュージョン』を発動!デッキより『ジェムナイト・アレキサンド』、『ジェムナイト・エメラル』、『ジェムナイト・サフィア』を融合!昼と夜の顔を持つ魔石よ!幸運を呼ぶ緑の輝きよ!堅牢なる蒼き意志よ!光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん!融合召喚!輝きの淑女!『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』!!」

 

ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ 攻撃力3400→0

 

今再び現れる輝きの淑女。攻撃力は0になってしまったが、先のターンで触れた通り、それには何の意味も無い。

 

「墓地の『ジェムナイト・アレキサンド』を除外し、『ジェムナイト・フュージョン』を回収!この時、『魂吸収』の効果発動!」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP2700→3200

 

「そして『ジェムナイト・フュージョン』を捨て、『ブリリアント・フュージョン』の効果でブリリアント・ダイヤの攻撃力をアップ!」

 

ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ 攻撃力0→3400

 

「念の為、墓地からの『ジェムナイト・エメラル』を除外して『ジェムナイト・フュージョン』を回収、500LP回復するよ」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP3200→3700

 

「さぁ、バトルだ!『暗遷士カンゴルゴーム』で『E・HEROガイア』を攻撃!」

 

マルコが指示を飛ばすと同時に、カンゴルゴームが姿を消す。一体何処に――?コナミ達が考える前に、『E・HEROガイア』の背後にカンゴルゴームが現れ、巨大な右腕でガイアの身体が砕かれる。圧倒的、黒き狂戦士の速度に反応すら出来ず、コナミの『E・HEROガイア』は破壊される。

 

「続けて『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』で『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』を攻撃!」

 

ブリリアント・ダイヤの手に握られた白刃が光輝く。流麗なる動作でフィールドを駆け、互いのモンスターが対峙する。

『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』もその重たい身体を起こし、ブリリアント・ダイヤを睨みつける。一触即発の空気、先に動いたのは意外にも竜の方であった。ドタドタとフィールドを揺るがし、背の剣でブリリアント・ダイヤを切り裂こうと動く。ブオンッと空気を引き裂く。ブリリアント・ダイヤは剣へと飛び乗り、何度も『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』を斬る、斬る、斬る。

 

カチャリ、その刃が振るわれ、地を刺した所で、竜は雄叫びを上げて散った。

 

「僕はこれでターンエンドだ」

 

「エンドフェイズ『リビングデッドの呼び声』を発動、再び出でよ『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

再びフィールドに現れる剣の竜。叩き起こされた事に怒っているのか、それとも細切れにされた事を恨んでいるのか、その眼が鈍い輝きを放ち、その雄叫びは空気を震撼させる。

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP3700

フィールド 『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』(攻撃表示) 『暗遷士カンゴルゴーム』(攻撃表示)

『ブリリアント・フュージョン』×2 『魂吸収』

手札0(マルコ) 手札5(沢渡)

 

マルコのターンが終了する。場に出揃ったのは融合とエクシーズ、2色のカード、マルコの切り札。

狂気の黒騎士と華麗なる白騎士、強力なモンスターを前に真澄がたじろぐ。削りきれないLP、何度も出現する大型モンスター。だけど諦めはしない。

 

諦めればそこで――強くなりたいと言う心は、死んでしまう――。

 

「――あ――」

 

小さな吐息が、呟きが溢れる。隣に立つコナミにしか聞こえない程の小さなそれ。自然と真澄の顔はコナミへと振り向く。

 

「……漸く見つけたか……俺好みの眼だ」

 

「どうしたんだい真澄ん?怖じ気づいたのかな?」

 

マルコの挑発が飛ぶ。しかし今の真澄にはそんなものは通じない。答えは出た、揺るぎない、これ以上無い答え。全てが分かった今では馬鹿馬鹿しいものだ。

だが頷けるものがある。確かに、自分は見失っていた。気づかせてくれたのはマルコだけではない、コナミも、あの沢渡もだ。

 

――お前はどうして、マルコに弟子入りした?――

 

最早、その紅玉の瞳に迷いは無い、あるのは確固たる決意。

 

「先生の目、くすんでるわ」

 

強くなりたいから。それが、答え。それを忘れ、今の実力に満足していたのだ。強くなったと勘違いして、胡座をかいていた。偽りの強さを振りかざし、強くなろうと努力する沢渡を馬鹿にしていた。本当に、馬鹿はどちらだと笑ってしまう。

 

もう1度戻ろう、初心に帰ろう、強さを求める、1人のデュエリストに。

 

「私の輝きを見せる!ドロー!」

 

「……ああ、やっぱりユーは、自慢の生徒だ」

 

マルコが蒼の眼を細める。柔らかく、優しい教師の眼、彼女の成長を誰よりも喜び、誇る。

 

「私は!魔法カード『ジェムナイト・フュージョン』を発動!『ジェムナイト・クリスタ』、『ジェムナイト・サフィア』、『ジェムナイト・アンバー』の3体で融合!光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん!融合召喚!」

 

真澄の背後に渦が広がり、その中心へと『ジェムナイト・クリスタ』が立つ。

水晶の戦士の両隣に立つは蒼玉の戦士と琥珀の戦士。いや、それだけではない、『ジェムナイト・クリスタ』の周囲に宝石の騎士達が次々と並んでいく。眩き輝きがフィールドを照らす。

『ジェムナイト』の力が、絆が、1人の聖騎士を生み出す。

 

2本の角を持つ鉄仮面、胸、拳、随所で輝くダイヤモンド、頑強な鎧、背に伸びたマント、そしてその手に持つは赤や青、黄色、様々な色彩を放つ核石が埋め込まれたダイヤの大剣。

 

「現れよ!全てを照らす至上の輝き!『ジェムナイトマスター・ダイヤ』!!」

 

ジェムナイトマスター・ダイヤ 攻撃力2900→3500

 

聖騎士の身体が七色の輝きを見せる。最強の『ジェムナイト』であるブリリアント・ダイヤにも劣らぬ光、真澄の切り札がその雄々しき姿を誇る。

 

「バトルよ!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』で『暗遷士カンゴルゴーム』を攻撃!」

 

『ジェムナイトマスター・ダイヤ』が『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』の背に跨がる。あれ程粗暴だった竜も空気を読んだのだろう、不満そうに喉を鳴らすだけで振り落とそうとはせず、騎士を背に乗せ、フィールドを駆ける。

『ジェムナイトマスター・ダイヤ』が見据えるのは結束の力を失い、暴れ狂うだけと化した黒騎士。未来の自分。

鉄仮面の奥の瞳が決意に揺れる。自分だからこそ許せない、容赦は無用、その意志を汲み取り、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』が背の黄金の剣を振るう。

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP3700→3350

 

「『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』の効果!『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』を破壊!」

 

先程自分を破壊したブリリアント・ダイヤに何か思う所があるのだろう、赤の眼光を白騎士に向け、竜が吠える。次の瞬間、背に跨がった『ジェムナイトマスター・ダイヤ』が竜の背より伸びた剣を引き抜き、『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』へと振るう。

 

ガキィィィィィンッ!甲高い音が辺りに響き渡る。激しい鍔迫り合い、剣戟が紡がれる。技術は互角、しかし手に持つ武器は違う、ブリリアント・ダイヤの白刃がひび割れ、金色の牙がダイヤモンドをも食らう。

 

「これでとどめです!『ジェムナイトマスター・ダイヤ』で攻撃!」

 

ダイヤの大剣と黄金の剣が合わさり、巨大な光の剣が眩き輝きを放つ。神々しいとも言える程の刃、このデュエル、最後の一撃が今、振るわれる。

 

「ああ、チクショウ、こんなに早く越えられるとはねぇ……嬉しいけど、悔しいよ」

 

「認めねぇ……、認めねぇぞ赤帽子!次は絶対勝ってやる!覚えてろよこのやろぉ!」

 

口元に弧を描き、笑みを浮かべるマルコ。その表情は悔し気ではあるが、納得をしている顔だ。彼とは逆に、顔を歪め、憎々し気に吠える沢渡。

彼はまだ上を目指すつもりなのだろう、コナミは彼に対し、グッと親指を立て、何時でもかかって来いと言わんばかりの闘志を剥き出しにする。

 

かくして――デュエルは決着する、それぞれの胸にあるものは――更なる高みへの意志。

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP3350→0

 

デュエル終了のブザーが鳴り響く。結果はコナミ達の勝利、これで残るは後3勝。漸く半分、胸に確かな手応えを感じるコナミへと真澄が近づく。

 

「……その……ありがと、コナミ。助かったわ、貴方の言葉で目が覚めた。……言っとくけどちょっとだけだからね!ちょっとだけ感謝してる!」

 

そわそわと落ち着きなく目を泳がせ、照れながらも感謝の意を述べ、そっぽを向く真澄。素直ではない彼女の反応にコナミが困惑し、ずいっと近づき、真澄の瞳を覗き込む。

 

「?お前……また目がくすんでるぞ」

 

「近っ!近いってば!くすんでないわよバーカ!バーカ!」

 

「くすんでるぞ。明らかに先のお前の目の方が綺麗で俺好みだった」

 

「ぬぁっ!?~~~うっあ、ひぃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

ドン、と力強くコナミを突き飛ばしそそくさと風のように去っていく真澄。耳まで真っ赤にして、目をぐるぐると回す彼女にマルコが声をかける。

 

「真澄ん、良かったらこれ」

 

「えっあ、うう?『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』!?良いんですか!?」

 

差し出されたのはマルコの切り札の1枚『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』。いきなりそのカードを渡された事により、顔から赤みが引き、またもや困惑する。

 

「うん、君の更なる成長を願って……ああ、後これ、マラカイト」

 

ガサゴソとポケットから緑色に光る小さな宝石を真澄の手に持たせるマルコ。マラカイト、孔雀の羽の模様にも似ている為、孔雀石とも呼ばれるそれ。

何故マラカイト?と疑問を覚える真澄だが、流石は宝石商の娘、瞬時に理解し、ハッと目を見開く。

 

「ちがっ、違います!先生の目くすんでますぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

再び顔を赤くし、駆けていく真澄。それを茫然と眺めるコナミ達であったが、コナミはそんな場合では無かった。

 

「いたぞ!赤帽子だ!捕らえろぉぉぉぉ!」

 

「やべっ」

 

ぞろぞろとデュエルコートに集まる警備員達に小さく舌打ちをし、コナミが逃げる。その速さは、真澄のそれに劣らなかった。

 

――――――

 

「コロンビア!!」

 

ガッ、と両腕を天高く上げ、遊矢が叫び、正解音が響く。同時にフィールドに顕現した『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』がブレスを放つ。圧倒的な力の奔流、効果により5000まで膨れ上がったダメージが九庵堂を貫く。

 

九庵堂 栄太 LP4500→0

 

「フッ、僕の負けか……覚えてろよ遊矢君。これで勝ったと思ったら大間違いだぁ!」

 

強烈な顔芸と共に不吉な事を言い残し、九庵堂が倒れ伏す。遊矢の額に汗が伝うが、気にしない、気にしないったら気にしないのだ。今は勝利を喜ぼう、そう、遊矢が思った時。

 

「遊矢」

 

彼の背後にセレナが現れる。勝利した事を喜んでくれるのか、と思うも様子がおかしい。肩が小刻みに震え、ゆらりと頭の後ろで結われたポニーテールが揺れる。

瞬時に遊矢は理解する。あ、これ柚子が怒る時と似ている、と。

 

「問題を間違い過ぎだ!来い!私が叩き直す!勉強会を開く!」

 

「キッ、キー!」

 

強引に遊矢の襟首を掴み、ズルズルと引きずるセレナ。まだ闘いは終わってなかった。むしろここからが本番、お楽しみなど欠片もないが。

 

「また来てねークイーン」

 

「何時でも歓迎しますよー」

 

「うむっ!」

 

何時の間にかクイズサークルの女王と化したセレナに手を振る明晰塾の一堂。しかし遊矢の耳にはそんな事は入ってこない。

ふと、顔を上げると九庵堂の顔が目に止まる。ニヤニヤと得意気な笑顔で彼はやれやれと頭を左右に振り。

 

「悔しいでしょうねぇ」

 

「うるさいよ!」

 

遊矢は泣いた。




ヒロイン(失笑)爆誕。
最近忙しくて次週の更新は休むかも、もしそうなったらすいません。
後次回の番外編はシンジの予定でしたが変更します。楽しみにしていた人は申し訳ないです。

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