良い子も悪い子も真似しちゃダメだぞ!
ギャリギャリと激しいタイヤの擦れる音が辺りに響き渡り、長き廊下を駆け抜ける。地に落ちた幾つもの硝子片をかわしながら真っ直ぐに突き進む。
そんな彼をこれ以上通すまいと何人もの警備員が駆けつけ、力づくで止めようとするも、遅い。
少年の乗るマシンはその重厚なボディに似合わぬ速さ、そして操縦者の繊細なテクニックにより誰1人触れる事も出来ず、髪1本すら触れずに警備員達を無視し、駆ける。
その様はまるで蜃気楼か亡霊、誰も彼を追う事すら許されない。その圧倒的な速度に、誰もが戦意を喪失する。
「誰かっ!奴を捕らえろ!」
何とかして力を振り絞り、警備員の1人が立ち上がり、彼の背に向かって叫ぶも無意味、左右から襲い来る警備員の間を縫うようにジグザグの線を描き、マシンはギャリギャリとまるで獣のような雄叫びを上げ、進む。
弄ばされている。赤子の手を捻るように、誰もが彼の手の上で踊らされている。
だが、それでも、警備員として、プロとしてのプライドが彼等の膝を着かせる事を許さない。
「くっ、クソッタレがぁぁぁぁ!!」
1人が声を張り上げ、それに呼応するかのように警備員達が奮い立ち、少年の後を追う。そして少年の前に山のような巨体を誇る警備員が立ちふさがる。
「ウー!ハー!」
窓が震え、蛍光灯にひびが走る程の雄叫び。その力強さを感じる存在に初めて少年の顔色が変わる。しかしそれは陰りを感じさせないもの。無機質だった表情は、口の端を吊り上げ、この状況を楽しむような笑み。
「奴をっ、赤帽子を止めろぉぉぉぉっ!!」
「イヤッホォォォオオォオウ!」
赤帽子を目深に被り、ゴーグルを装着したコナミがバイクのような乗り物を乗りこなし、マントの如く肩に掛けた赤のジャケットが風に靡く。その車体を廊下から壁へ、壁から天井へとタイヤの足場を変える。
余りにもアクロバティックで強引な突破に巨漢も止められず、その丸太のような腕が空振りする。
混乱した状況、負けちまったぜと清々しい笑みをコナミの背に向けるLDS精鋭の警備員達。気持ちの良い奇声を発するコナミ。
どうしてこうなった。その疑問の答えを導く為、数時間程前に遡る。
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「……ん……おぐぅっ!?」
外より朝日の光がカーテン越しに部屋に差し込み、鳥の囀ずりを子守唄に、コナミが眠り続ける。勿論、トレードマークの赤帽子着用で。
しかし、暢気に眠りこける彼の腹に重いものが勢い良くのしかかり、間抜けな声を上げてしまう。
「コナミ!朝だぞ!お前が起きないと、柚子のご飯が食べられないんだ!起きろ!」
「ウッキー!キキー!」
その正体はセレナとSALだ。ご丁寧にも定位置であるセレナの肩からSALが離れ、セレナと仲良くコナミの腹にのしかかっている。
昨夜のあの寂しそうな表情は何処に行ったのか、口をまるでVの字のように吊り上げ、得意気な笑みを作ってコナミを揺する。しかし相手はコナミ。
デュエルする以外は奇行に走るか寝るかが主なこの生き物はこの程度では起きず、布団を被り直す始末である。
「……あと……5分……」
果てにはこの台詞である。最近は柚子がハリセンで起こしていたからか、耐性が上がっているのかもしれない。そんなコナミの様子にセレナは頬を膨らませ、ぷりぷりと怒り始める。
「ダぁメだ!先生もその手を使っていたから分かる!そう言って15分は稼ごうったって、そうはいかないぞ!起きろ!何でこう言う所も似ているんだ!」
歯を食い縛り、黄色のリボンで結ばれたポニーテールを揺らしながら強引に布団を剥がそうとするセレナ。コナミも負けまいと全力で布団を掴んで放さない。完全にダメ人間のソレである。
「オレは諦めない……!布団を被り眠るヌクヌクも……!布団との絆も……!夢へとダイブするかっとビングも……!」
「カッコイイ事を言っても無駄だ!布団を放せ!」
今までの仲間達の顔を思い返し、彼等の力を得て、更に力を増すコナミ。仲間達にとってはこんなどうでも良い争いに使われて良い迷惑である。
こうして、コナミとセレナによるどうでも良い2戦目は泥沼と化し、痺れを切らした柚子がハリセンで起こすまで続いた。
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「そんで、詫びとしてそこのセレナにおかずの唐揚げが1つ取られたって訳か、ざまぁねぇな、コナミ」
「うるせぇぞ刃!兄貴がしょんぼりしてんのに言う事がそれか!」
「朝は何だかうとうとして、布団を放そうとしても放せないんですよねー」
昼食を終え、場所は変わって遊勝塾の事務室。そこには遊矢と柚子と素良以外の遊勝塾のメンバーと、コナミを迎えに来た子分2人と権現坂と刃の師弟がいた。
遊矢が不在なのはチャンピオンシップに出場する為のデュエルの2戦目に出掛けているからである。因みに柚子と素良は融合召喚のトレーニングに出掛けている。
無論、セレナの紹介を終えた後だ。権現坂と子供達は声を上げる程驚いていたが、刃はどうでも良さそうに「よろしく」と返すのみ、彼らしいと言えば彼らしいか。現在、話題のセレナと言うと子供達に懐かれ、狼狽えている。
「ねぇねぇ!セレナお姉ちゃん!私とデュエルしよー!」
「むっ、むう……!分かったから袖を引っ張るな、伸びてしまう」
「あっ、ごめんなさい……」
「そっ、そんな顔をするな!怒ってないから気にするな、取り敢えず今は遊矢の応援に行くぞ!デュエルはその後してやる!」
トタトタと慌ただしく部屋から出て行くセレナとその後をカルガモの子供のように追いかける遊勝塾のジュニア3人組。
そんな彼女達を権現坂と修造が優し気な笑みで見送る。
「……顔は似ているが……柚子とはまた違う優しさを持つ少女だな」
「柚子に妹が出来たみたいで俺は嬉しいぞ!うぉぉぉぉー!」
慈悲の眼差しを向ける権現坂と感動し、涙を流す修造。何とも保護者染みている2人である。修造は兎も角権現坂は14歳でこの達観した精神は如何なものか。まぁこの山のような安心感が彼の長所なのだろう。
「……ジジ臭いなぁ……」
そんな2人に呆れを含んだ視線を向ける刃。そう言う彼も「よっこらせ」と中年のようなかけ声と共に立ち上がる辺り何ともアレなのだが、本人としては良いのだろうか。ソファに立て掛けていた竹刀を肩にかけ直し、権現坂を顎で指す。
「おら、修行の続きに行こうぜ。ああ塾長さん、お茶、ありがとな」
部屋から出て行く2人を尻目に暗次とねねがズイッとコナミを覗き込む。2人の様子から何かを感じ取ったのか、飲んでいた麦茶をテーブルへと置く。
「兄貴!今日は何処へ乗り込みますか!」
「何処までもついて行きますよぉ」
ニカッ、と最初に会った時では予想もしなかっただろう、気持ちの良い笑顔をコナミへと向ける2人。ふと、そんな彼等の間から刃の背がチラリと見える。
そう言えば--コナミはLDSの事を良く知らない。
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「ダメです、只今取り込み中の為、LDS関係者以外、立ち入り禁止です」
「どうするよ兄貴?これじゃデュエルどころか中にも入れないぜ?」
暫くして、LDSの入り口、そこには堂々と正面から入ろうとするコナミ達がいた。
しかし、どう言う訳か、LDSの周りには慌ただしく駆け回る警備員がいて入る事が出来ない。見学と言っても取り合ってすら貰えない。しかし、コナミはそんな事、予想通りと言うように2人を連れ、その場を離れる。
「暗次、言った通り、D-ホイールを持って来たな?」
「ん?ああ、言われた通り、ナンバーも隠したぜ。後兄貴、これD-ホイールとか言うもんじゃねぇんだけど」
覆い被さっていた布を取り払い、中より黒を基調とした重厚なボディが姿を現す。赤の線が2本走ったそのマシンはまるでバイクのようだが、そうではない。これはあくまで、中学生でも扱えるように安全性を考慮され作られた「バイクのような乗り物」なのだ。
「……ふむ、良いD-ホイールだ。だが何か足りないな、ここに角をつけたらどうだ?」
「いやだからD-ホイールじゃないんだけど……でも良いッスね。グラファみたいにします?」
バイクのような乗り物の前輪部分のフレームを指で差しながら意味の分からぬ事を言い始めるコナミとそれに乗っかる暗次。
男同士の独特の会話にねねはついていけず、頭に?マークを浮かべている。
「まぁその話は今度にしよう、少し借りるぞ。お前達はついてくるな、離れていろ」
そう言ってバイクのような乗り物に跨がり、スロットルをかけ、エンジンを吹かす。
激しい駆動音を響かせ、機体は高速でLDSへと向かい……突撃した。
「何だっ!?何だこの赤帽子はぁ!?」
「いきなり突撃して来たぞ!?狂ってやがる!」
その後は正に阿鼻叫喚の地獄絵図。遠くで叫び声を上げる警備員と暴走するコナミを見続ける2人。
「……」
「……」
「……兄貴……一体何処を目指してんですか?」
「すごいねぇ……」
2人の呟きは、虚空へと消えていった。
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こうして、アホな事を仕出かし、現在へと至る。
「……久し振りだな、この風を切るような感覚。ん……?話し声、こっちか」
ハンドルを固く握り締め、LDSの廊下を奔放に走り回るコナミ。傍迷惑極まりない彼の耳に聞き慣れない声が届き、機体を反転させ進む。やがてコナミの目に入って来たその教室のプレートは……融合コース。
「……ぜですか!?どうして私の眼がくすんでると言うんです!?」
「落ち着くんだ真澄ん。最近のユーはらしくないよ?それでも融合コースのトップかい?」
聞こえて来るのは声変わりしたばかりの少女の勝ち気そうな台詞と独特の言葉使いをした男性の声。
緩やかにスピードを落とし、ブレーキを踏み、機体を止める。
「ここか……」
ゴーグルを外し、その反動でずれてしまった赤の帽子を被り直す。さて、今日はどんなデュエリストとどんなデュエルが出来るのだろうか?ワクワクと込み上げる期待を胸の内に追いやり、教室へと足を踏み入れる。
「当然です!貴方が私を鍛えたのでしょう!?マルコ先生!」
肩を怒らせ、男性に詰め寄る少女。濡れ羽色の長い髪はルビーのような瞳の上で切り揃えられており、清潔さを感じさせる。健康的な褐色の肌を動きやすい軽装で隠し、腰にはデッキケースが付属されたベルトが巻かれている。
その何処かで見た事のある姿にコナミは思わず首を傾げる。整った顔立ちを怒りに染め、強気な態度を見せる少女を男性は胡散臭く、のらりくらりとかわす。
茶と黄の混じった髪をリーゼントのように整え、フリルのついた洋風の服装に身を包んだ美男子。
爽やかな笑顔で薔薇をくわえる彼は一体何者であろうか。
「おやん?僕に気づかれず入室するとは……ユーは何者だい?ジャパニーズニンジャかな?」
教室の後方から歩み寄るコナミに気づいたのか、口元に弧を描き、目を細める男、マルコ。どこかその台詞は芝居がかっており、その瞳の妖しい輝きと言い、冗談染みた言動とは裏腹に強者の風格を感じさせる。
マルコの台詞を聞き、少女がコナミへと振り返る。彼女は紅玉の瞳を大きく見開き、驚愕しながらも警戒の意志をコナミへと向ける。
「あんたは……コナミ!」
「……?何故オレの名を知っている。真澄ん」
「あんたに真澄ん呼ばわりされる謂れは無いんだけどっ!?」
見ず知らずの少女に名を呼ばれ、思わず立ち聞きした少女の名を呼ぶコナミ。しかし“真澄ん”と言うのは愛称だったのだろう。初対面で軽々しく愛称で語り掛けるコナミに、顔をその瞳と同じく赤に染め、怒りを乗せて叫ぶ少女、真澄ん。
そんな2人のやり取りをニコニコと笑顔で観察するマルコ。
「真澄んのボーイフレンドかい?」
「ぼっ……!違います!コイツは敵!遊勝塾所属の敵です!」
マルコの投下した爆弾発言に忙しなく手を動かしながらコナミを指差す真澄ん。ギロリと顔を険しくし、コナミを睨み、あんたも何とか言いなさいよ。と目で語り掛ける。しかしコナミはどこ吹く風、真澄んの槍のような視線を華麗にスルーしながらマルコへと帽子の奥に潜んだ眼光を移す。
「それで?遊勝塾所属のユーがどうしてここにいるのかな?LDS以外の者は立ち入り禁止の筈だけど?」
口の端を吊り上げ、愉快なものを見るように眼を細めるマルコ。その瞳の奥には一切の敵意を感じないものの、こちらを値踏みするような色が感じられる。言葉を間違えればこちらを本気で排除しようとするだろう。
期待を含んだそれを気にする素振りもせず、腰よりデュエルディスクを取り出し、右腕に嵌め、三日月のような笑みを向けるコナミ。
さて――どんな台詞を吐くか――
マルコがコナミを試す中、コナミが静寂を打ち破る。
「分かりきっている。デュエルをする為だ。アクションデュエルだ、相手はお前か?それとも真澄んか?」
笑みを深め、帽子より僅かに覗く瞳をギラギラと輝かせるコナミ。自分を急かし、早くデュエルをしたいと、子供のような無邪気な答えは予想外だったのか、目を丸くして呆ける真澄んとマルコ。
即座に気を取り戻し、堪えきれないようにマルコが口元に手を当てる。
「……プッ、ククク……アハハハハ!そう来たか!それもそうだよね!ユーはデュエリストなんだからデュエルをしたいと思うのは当然だ!OK、僕が相手になるよ!」
「先生!?」
腹を抱え、大声で笑いながらもコナミの挑戦を了承するマルコ。単純明快な答えを出したコナミを気に入ったのか、コナミの肩を軽く叩きながら紫色のデュエルディスクを取り出し、腕に装着する。
そんなマルコの反応は予想外だったのか、側で固まっていた真澄んが悲鳴にも似た声を上げる。
「ただし、条件がある。ここは僕達のホームグラウンドなんだ。構わないよね、赤帽子君?」
「デュエル出来るなら構わない」
「決まりだね!さぁさぁ、デュエルコートに急ごう!ほら真澄んも早く!この時間なら彼もいるし!」
満面の笑みをその美貌に貼り付けてコナミと真澄んの肩を押すマルコ。一体何を考えているのだろうか?その笑みの裏にどんな企みを隠しているのか、計り知れない。
真澄んに至っては頬を膨らませ、口をへの字に曲げてコナミを睨む。
「全く……!何なのあんた……!後、私は真澄んじゃなくて光津 真澄!気安く真澄んなんて呼ばないでくれる!?」
マルコに背中を押されながらも、コナミに向かってビシリと指を差す真澄。
良く知りもしない男に愛称で呼ばれるのはやはり嫌だったのだろう。顔を険しくし、ムスリとした表情で鼻を鳴らす。
その態度にコナミは何を思ったか顎に手を当て、考え込んだ後。
「分かった、真澄ん」
「ちょっと!?」
ふ、と口元を緩め、痛烈なジョークを飛ばすコナミ。彼とって真澄の呼ぶな、はフリにしか聞こえなかったのだろう。彼等の会話にアッハッハー!と笑いを飛ばすマルコ。
真澄としては不快でしかなかった。
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「――と言う訳で協力してくれないかな?沢渡ンゴ君」
「何がと言う訳なんだよ!?って言うかそこの赤帽子!テメェ何で居やがる!?」
LDSデュエルコート、最先端の技術が集結し、優れたデュエリスト達がその腕を磨き上げる為に使用される場であり、世界広しであれと言えど、アクションデュエルにスタンティングデュエル、様々な状況下で対応出来るのはここ位であろう。コナミはこのデュエルコートに連れられ、意外な人物と再会していた。
茶髪に黄色い前髪が特徴的な遊矢と同じ舞網第2中学の制服を身に纏った、整った顔立ちの少年と、彼を囲むように並び立つ3人の少年。
「ん、誰かと思えばネオ沢渡じゃないか、久し振りだな」
「何だ沢渡か、先生、こんな奴に協力なんて何考えてるんです?って言うかあんた沢渡と友達だったの?付き合い考えた方が良いわよ?」
そう、その人物とはコナミがここ、舞網市へと来て、最初にデュエルをした少年、ネオ沢渡。突然マルコに協力を要請された彼は何故自分が、と声を上げる。大体マルコの説明不足のせいである。
マルコは何故彼に協力を求めたのだろうか?コナミと言えば彼に再会したからか嬉しそうに手を振り、真澄は辛辣な言葉を吐く。
「友達じゃねぇし、そりゃどう言う意味だ光津!?それに今の俺は沢渡じゃねぇ!今の俺はそう!」
「ネオ沢渡」
「イエース!ってお前が言ってんじゃねぇよ!?柿本、大伴、山部ぇ!ボーッとしてないでお前等もちゃんとリアクションしろ!」
「いやでもその赤帽子、反応が早すぎッスよぉ!」
真澄の台詞にツッコミを入れ、コナミに柿本達の台詞を取られた事により、顔を真っ赤にして柿本達を責めるネオ沢渡、愛故にである。
しかしコナミの理不尽極まりない反射速度に文句を垂れる大伴。それを見てか「仕方ねぇなぁ」と溜め息を吐き、優しい眼差しを3人に向けるネオ沢渡。
「懐の広い俺様がもう1度チャンスをやるよ」
「「「沢渡さん……!(なんて偉そうなんだこの人……!)」」」
ネオ沢渡の傲慢且つ、優しい台詞に2つの意味で感動を覚える山部達、こうまで親しまれるのはこの謎のカリスマのお陰か。ネオ沢渡は右手を天高く広げ、左手を腰に当てる。
「ノンノン、言っているだろう、俺は沢渡じゃなくて――」
「沢渡ンゴ」
「ンゴゴゴゴwwwwって違う!アンタまで邪魔してんじゃねぇ!一応教師だろうが!?」
天丼である。空気を察したのか、それとも読んでないのか、恐らく前者なのだろう。再びネタをやり出したネオ沢渡にマルコが茶々を入れる。それに対し、即興であるが完成度の高いノリツッコミをするネオ沢渡。逸材である。
「一体何の用があるんだよアンタは!?おちょくってるだけなら帰るぞ!」
「そーんな事言わないでくれよぅ、沢渡ンゴ。ユーの実力を見込んでお願いがあるんだよ~頼むよ~、エリートのユーにしか出来ないんだよ~」
「ふ、ふーん?そこまで言うなら仕方ねぇなぁ!言ってみろよ、エリートのこの、俺が!協力してやるよ!マルコ先生!」
「チョロいなぁ(チョロいなぁ)」
「なめてんのかっ!?何で本音と建前が一緒なんだよっ!?せめて建前だけでも頑張ってくれよぉ!こんなんじゃ俺、協力する気無くなっちまうよ……!」
漫才である。本音も建前もクソもないマルコのどうでも良い態度に思わず吠えかかり、最後にはいじけて、アトリームの新人防衛隊員のような台詞を吐くネオ沢渡。尤もである。上げてから下げる、何とも彼の意地の悪さが見えてくる。
ここまで来れば少々ネオ沢渡が可哀想になってくる。
「ソーリー、沢渡ンゴ。拗ねないでくれよ、君に頼みと言うのはね――」
ふ、と口元を緩め、鋭い目付きをコナミと真澄へと向ける。サファイアのような輝きを放つ瞳が2人を捉え、まるで獲物を狙う鷹のように細められ、思わず真澄は動きを止め、生唾を飲み込む。
「僕とタッグを組んで、この2人を叩き潰して欲しいんだ」
口の端を歪め、ネオ沢渡の肩に手を乗せ、2人へと敵意を向けるマルコ。その恐るべき、こちらを刺すような視線に真澄は心の臓を握り締められたような感覚に陥り、コナミはデュエルの気配を感じ、笑みを浮かべる。
ネオ沢渡と取り巻き達は状況を掴めず、首を傾げている。
「ん、んん?いや待てよ、ちょうど良い機会だ!前の借りを返してやるぜ、赤帽子ぃ!乗ってやるよこの勝負!」
「せっ先生、何で!?どうして私がこいつと組んで、よりにもよって沢渡なんかとデュエルを!?」
「光津ぅ!師弟揃って失礼だぞテメェ等!」
コナミに雪辱を晴らすチャンスだと意気込むネオ沢渡と隣で笑うコナミを指差す真澄。その見下した言い様に目に涙を溜めて精一杯の反論を返すネオ沢渡。後ろにいる山部達もネオ沢渡を擁護するが鼻で笑われる始末。
真澄の中のネオ沢渡の評価はとことん低いようだ。
「何で、か――昔のユーならそんな事、すぐ見抜けただろう?今のユーは弱い。沢渡ンゴよりも、ね」
「っ!?何をっ!?」
やれやれと首を振り、わざとらしく手を上げ、溜め息を溢すマルコ。その仕草を交えた台詞にかあっ、と顔を赤くして掴みかかる勢いで近づこうとするも、マルコの射抜くような、心の内を見透かすような視線を受け、気を削がれ、たじろぐ真澄。
そんな真澄に対し、前髪をかきあげ、右腕のデュエルディスクを構え、光り輝くプレートを展開するマルコ。
これ以上の言葉は不要、そう言わんばかりの動作を見て、真澄が益々畏縮する。
「ユーの眼、くすんでるよ」
「ッ!!」
言葉の刃が真澄の胸を貫く。今まで信じ、ついてきた師の突き放した言葉に息が苦しくなり、動悸が早まる。何故師が自分にそんな言葉を吐くのか、真澄の頭は混乱し、パンク寸前状態となる。そのルビーの瞳は焦点を見失い、揺れ動く。
身体の震えが止まらない、足下が崩れるような感覚がじわじわと心を蝕んでいく。そんな中。
「ならばデュエルだ」
空気を読まぬ、コナミの台詞がデュエルコート全体へと響き渡る。どこまでも澄んだ、淀み1つ無い言葉が真澄の震えを止める。
馬鹿らしい、真っ直ぐで簡潔な意味の分からない言葉。その主はその場にいる全員の訝し気な視線など、これっぽっちも気にした様子も無く、笑う。
「光津、お前の眼がくすんでると言うならデュエルで打ち払え、見せてやろう、その輝きを」
ニィッと笑い、その右腕に光り輝く黄金のデュエルディスクを構え、前に立つマルコを見据えるコナミ。
真澄はそんな彼の態度にむぅ、と頬を膨らませ、2人と同じようにデュエルディスクを構える。
「……ふんっ、言われなくったって、やって見せるわ。私の眼はくすんでなんかいないって、証明して見せる……!」
その目付きを鋭くし、マルコ達を睨みつける真澄。――覚悟は決まった。
「いいねぇ、そうこなくっちゃ!柿もっちー、大伴ん、山部え、アクションフィールドの準備を!」
「「「はっはいぃ!!」」」
「あっ、こら!何、俺の子分使ってんだ!お前等も返事してんじゃねぇ!」
マルコが指示を飛ばし、慌ただしく柿本達が走り出す。やがて、デュエルコートが光に包まれ、淡い輝きを放つ粒子と共にその姿を大きく変える。
渦巻く地平、規則的に網目が並んだ何とも不気味なフィールド。
「『フュージョン・ゲート』……!面白いじゃない……!」
舞台は揃った。後は戦うのみ。
「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」
口火を切ったのはマルコ。口元に笑みを貼りつけ、まるで試すかのような視線をコナミ達へ投げ掛ける。
「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」
師の言葉に応えるように真澄が前へ出る。自分の覚悟を見せる為に。
「フィールド内を駆け巡る!」
次に声を上げたのはネオ沢渡、その瞳の奥にはコナミに対する敵意がギラギラと光り、燃えている。
「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」
最後の口上を上げたのはコナミ。子供のような無邪気な笑顔でマルコ達を迎え撃つ。
「「「「アクショーン!!」」」」
彼等の瞳は。
「「「「デュエル!!」」」」
何を見るのか。
マルコ先生はアニメキャラですが、回想のみ、更に一言も喋った事が無い為、オリキャラ状態、ジムと吹雪さんを足して2で割った感じ。
何か最後の方ディケイドみたいになったけど、ともあれ今年の投稿はこれで終了です。皆さん、良いお年を。