遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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第182話 バーニングソウル

ラビィは森の切り株がお気に入り。いつも登ってまわりをきょろきょろ。

おや?今日は先客がいるみたい。メルフィーの森のお友達に囲まれている帽子の人がいるよ。

 

左腕につけているのはデュエルディスクかな?どうやら彼はデュエリストさんみたい。

ラビィはデュエリストを見るのは初めて。恥ずかしいけど、勇気を出して声をかけてみよう。

デュエリストさん、お友達になってください!

 

「構わぬ」

 

わーい、やったやった!デュエリストさんはラビィのほっぺを掴んでむにむに、くすぐったいけど嬉しいな!

今日はとっても嬉しい日。だけどそれだけじゃ終わってくれないみたいで……?

 

森の奥からおっきなライオン現れた!『獣王アルファ』だ!

アルファは何だか怒っているみたい。森の中で大暴れ!大変、このままじゃメルフィーの森が滅茶苦茶になっちゃうよ!

デュエリストさんもお友達を抱え込んで逃げ出します。

帽子の上に乗ったラビィはそこで良いこと思いついた!

 

デュエリストさんの袖を掴んで案内します。あれを使おう!デュエリストさんならあれを使えるはずだから。

森の奥の切り株まで走って上に乗ったラビィ。ぴょんぴょん跳ねればあら不思議。何かのスイッチが出てきたよ?

 

「これを押せば良いのか?」

 

首を傾げてデュエリストさんが聞いてきます。ラビィがコクコク頷くとちゃんと伝わったみたい。

 

「承知」

 

ポチッと押せばもーっと不思議。地面に大きな穴が開いて、中からメルフィーの森のおっきなお友達、金と白のロボット、『天霆號アーゼウス』が飛び出し、アルファにパンチをおみまいだ!

 

「……ええ……?」

 

――――――

 

「フハハハハ!そぉらどうしたどうした!もっと足掻いたらどうだムシケラぁ!『ワイゼルA』で『RRフォース・ストリスク』を攻撃ィ!」

 

「ぐぉっ!」

 

混乱渦巻くシンクロ次元、シティにて。黒咲達ランサーズは突如現れた強敵達を前に苦戦を強いられていた。

彼の目の前では5体のモンスターが合体した特殊なモンスター、白く輝くボディの人型巨大ロボット、『機皇帝ワイゼル∞』がその主、プラシド・ゴーストの一声で猛威を奮っているのだ。

無論、彼以外にも『機皇帝』やセルゲイの使っていた『地縛神』を操るデュエリスト達が思う限りにその力を奮っている。

正直ビッグ5以上に手強く、恐ろしいデュエリスト達だ。彼等がデュエルを始めた途端にシティを紫色の炎が囲み、市民も逃せなくなってしまった。

黒咲は一般市民を背にその身を盾にして強要されてしまっているも当然。

 

「ククク、正義の味方は大変だなぁ?愚かな者でも守らねばならない!守ったとしても何にもならぬと言うのに!」

 

プラシドの言葉に黒咲の背後で震える2人の人間がビクリと肩を揺らす。

1人はフレンドシップカップ、遊矢VSシンジの闘いの中、コモンズを見下していたトップスの人間だ。

そしてもう1人は、シンジの思想に賛同したトップスを憎むコモンズの人間。

争い合う者達を、このシティの醜さを表すような者を、黒咲は守っていた。

 

「貴様もこのシティを見ただろう、このシティの現状を。差別による悲劇、憎悪の連鎖を。俺を倒したとして、次の敵はそいつ等になるかもしれんぞ?」

 

2人を指差し、プラシドは侮蔑するように嘲笑する。実質、彼等を守っているからこそ黒咲は動きを封じられ、折角発動したアクションデュエルを有利に進められていない。勝利を目指すならば見捨てるべきだろう。

 

「言いたい事はそれだけか?」

 

だが、黒咲はそれをしない。いや、ランサーズの皆、それをしない。プラシドの挑発を鼻で笑い、デュエルディスクを構え直す。

 

「くだらん挑発はやめろ。お前も、分かっているだろう」

 

「……」

 

「彼等を見捨てれば、それこそ愚か者だ。それこそ醜い者だ。それに……かつては俺も愚か者だった。そんな俺でも救ってくれた奴がいる。そんな俺でも前に進めた。ならば、彼等もまたそうなれる筈だろう」

 

人は変わる。変われるのだ。かつて黒咲がそうであったように。だから黒咲は手を差し伸べる。彼が黒咲にそうしてくれたように。

 

――――――

 

一方、シティのスタジアムから連なるデュエルレーンにて。2人のDーホイーラーが凌ぎを削り合っていた。

チームARCー5D'sとチームネオ5D'sの先鋒、ジャック・アトラスとジャック・アトラス・Dだ。

彼等2人は己がエースカードである『レッド・デーモン』とその進化体を次々と呼び出し、駆使し、ハイレベルな攻防を繰り広げていた。

 

現在優勢なのはジャック。『レッド・リゾネーター』の効果で大量のLPを回復し、フィールドにはスカーライトと『レッド・ワイバーン』、2体のシンクロモンスターが存在している。

対するジャック・Dのフィールドには対象を失った『デモンズ・チェーン』のみ。手札0と劣勢だ。LPは余裕があるものの、ジャックの三分の一程しかない。

このまま押せば倒せるだろうが、彼がそれを許すとは思えない。デッキトップの1枚へ手を伸ばす彼を見て、ジャックが眼を細める。さて、どう出るか。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『デモンズ・チェーン』をコストに2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札0→2

 

不要になった『デモンズ・チェーン』を活用し、新たな手札を引き込む。ここでこのカードを引くとは悪運の強い男だ。追い込んでいるのに安心できない。

 

「『イピリア』を召喚!」

 

イピリア 攻撃力500

 

「召喚時、1枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札1→2

 

「魔法カード、『星屑のきらめき』!墓地の『戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン』と『フォース・リゾネーター』を除外し、合計レベルとなるドラゴン族シンクロモンスター、『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』を蘇生!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル 攻撃力3500

 

再びフィールドへ帰還する大悪魔の名を冠する紅蓮魔竜、ベリアル。『レッド・デーモン』を中心にデッキを構築しているだけあり、呼び出す手段も豊富に揃えているのだろう。相手取る身としては厄介この上ないものだ。

そしてこのベリアル自身も、『レッド・デーモン』にして『レッド・デーモン』を呼ぶカード。

 

「ベリアルの効果により、『イピリア』をリリース、墓地の『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』を蘇生!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

そして2体目の『レッド・デーモン』が飛翔し、咆哮を上げる。アビスとベリアル、並ぶ2体の『レッド・デーモン』。

高い攻撃力を持つモンスターを複数体並べられるだけで強力だと言うのに、それが優秀な効果持ちとなると頭が痛くなってくる。

無効と蘇生、どちらも早々に除去しておきたいモンスターだ。

 

「バトル!ベリアルでスカーライトへ攻撃!」

 

「永続罠、『一族の掟』!ドラゴン族を宣言し、宣言したモンスターの攻撃宣言を封じる!」

 

「アビスで無効にする!」

 

「『レッド・ミラー』を『レッド・スプリンター』と交換!そして罠発動、『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!『補給部隊』も合わせ、2枚ドローだ!」

 

「チッ」

 

ジャック・アトラス 手札1→2→3

 

ジャックの手札が見る見る内に回復する様を見て、ジャック・Dが舌打ちを鳴らす。

手札を潤うと言う事はアビスの効果を空打ちさせる可能性があるカードが引き込まれると言う事だ。逆に手札が1枚だけしかない状況ならアビスの独壇場なのだが、ジャックもそれが分かっている。アビスの警戒を第一に戦術を組んでいる。

 

「しかし、これでスカーライトが消えた!アビスで『レッド・ワイバーン』へ攻撃!深淵の怒却拳!」

 

スカーライトへ剣を振るったベリアルの背後よりアビスが飛び立ち、猛スピードでダイブ、勢いを利用し全体重を乗せた拳を『レッド・ワイバーン』に食らわせ、頭蓋を砕く。

 

ジャック・アトラス LP7900→7100

 

「ッ!そんな、ものか……!」

 

「強がりを。アビスが戦闘ダメージを与えた事で墓地のチューナーモンスター、『シンクローン・リゾネーター』を蘇生する!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

戦闘ダメージを起動としてチューナーを蘇生する効果。まだこんなものを持っていたとは。恐らく本来はこの効果を使ってベリアルへ繋げるのだろう。アビスとベリアル、連携力の高い2枚だ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP2600

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』(攻撃表示)『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』(攻撃表示)『シンクローン・リゾネーター』(守備表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『一族の掟』を破壊!『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

「効果発動!」

 

「防ぐ!アビスの効果で無効!」

 

「なら今度はこれだ。魔法カード、『名推理』!相手はレベルを1つ宣言し、俺はデッキトップからモンスターが出るまでカードを墓地に送る。そしてそのモンスターが宣言したレベルなら墓地に送り、それ以外なら特殊召喚する!」

 

「レベル2を宣言」

 

「1枚目……からか。レベル4、『トップ・ランナー』を特殊召喚!」

 

トップ・ランナー 守備力800

 

ホイール・オブ・フォーチュンとスプリンターに並走するのはマラソン選手を模した人型ロボット。走行用に開発されただけあり、凄まじい速度でスプリンターと並ぶ。正しく馬力、馬と互角の速度だ。残像まで放っている。

これでチューナーと非チューナーが揃った。合計レベルは8、スカーライトは1枚のみ。『クリムゾン・ブレーダー』では『レッド・デーモン』には届かない。残る1体は、手札の1枚と合わせる事で。

 

「魔法カード、『アースクエイク』!フィールドのモンスターを守備表示に変更!さぁ、見せてやろう、我が魂のエースを!」

 

「まさか……!?」

 

ジャックの宣言を受け、ジャック・Dがまさかと眼を見開く。しかし同時に納得する。記憶を取り戻しているのならば、彼がジャック・アトラスとして復活したのなら、相棒たるあのカードが駆けつけてもおかしくはない。

来る、来る、来る。あのカードが、最も長く最も近く、ジャック・アトラスと苦楽を共にし、連れ添い、逆境を打ち破り数多の勝利を刻んで来た半身。

 

「刮目せよ!真の王者の姿を!レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル4の『トップ・ランナー』をチューニング!王者の鼓動、今ここに列を成す。天地鳴動の力を見るがいい!シンクロ召喚!我が魂、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』ッ!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻撃力3000

 

天に8つの星が煌めき、列を成して竜の星座と化す。星座は炎を帯びてフィールドへ降り立ち、火の粉を払い、全貌を見せる。

黒と赤の硬い鱗。身体の半分以上を占める翼に鋭い爪と牙。そして、傷一つない体躯。そう、傷一つない『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』が、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』がそこにいた。

 

「『レッド・デーモンズ・ドラゴン』……!」

 

「『レッド・ミラー』を回収。さぁ、バトル!『レッド・デーモンズ・ドラゴン』で、『シンクローン・リゾネーター』へ攻撃!アブソリュート・パワーフォース!」

 

『レッド・デーモンズ・ドラゴン』が右の掌に巨大な火の玉を作り出し、握り潰す事で拳に炎を纏わせる。そして『シンクローン・リゾネーター』に向かって拳を振り抜き、地面へ激突、大地に蜘蛛の巣状のひびが走る。

 

「そして『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の効果発動!守備表示モンスターを攻撃したダメージ計算後、相手フィールドの守備表示モンスター全てを破壊する!デモン・メテオ!」

 

これこそが元祖『レッド・デーモン』の効果。スカーライトは格下を、炎魔竜は逆らう意志ある者を、そしてこのカードは闘う意志なき者には容赦をしない。

『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の握った拳から炎が漏れ出し、2体の『レッド・デーモン』を呑み込む。

これで厄介な『レッド・デーモン』を2体揃って倒す事が出来た。

 

「チッ、『シンクローン・リゾネーター』の効果で俺は墓地の『バリア・リゾネーター』を回収」

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

ジャック・アトラス LP7100

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札1→3

 

「永続罠『ウィキッド・リボーン』!LPを800払い、墓地よりシンクロモンスター、『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』を効果を無効にし、攻撃表示で特殊召喚!」

 

「永続罠、『死の演算盤』を発動!フィールドのモンスターが墓地に送られる度、プレイヤーに500のダメージを与える!」

 

ジャック・アトラス・D LP2600→1800

 

炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル 攻撃力3500

 

「『チェーン・リゾネーター』を召喚!」

 

身体を丸め、翼を折り畳んで蛹のように滞空するベリアルの肩に背中から鎖を伸ばした『リゾネーター』が飛び乗る。

『チェーン・リゾネーター』は鎖をジャック・Dのデッキへ連結させ、鎖を引っ張り上げる。

 

「シンクロモンスターが存在する状態でこのカードの召喚に成功した事で、デッキから同名以外の『リゾネーター』1体をリクルートする!俺が呼ぶのは『レッド・リゾネーター』!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

引き上げられた1枚のカードから、2体目の『リゾネーター』が飛び出す。このデュエル、両者にとって何度も呼ばれているチューナーモンスターだ。『レッド・リゾネーター』はクルリと宙を舞い、ベリアルの左肩に乗る。

 

「『レッド・リゾネーター』の効果でベリアルの攻撃力分回復!」

 

ジャック・アトラス・D LP1800→5300

 

「ベリアルをリリースし、墓地のアビスを特殊召喚!」

 

「『死の演算盤』の効果発動!」

 

ジャック・アトラス・D LP5300→4800

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『ウィキッド・リボーン』をコストに2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札1→3

 

「アビスの効果で『死の演算盤』の効果を無効に!さぁ、見せてやろう、真の王者の勇姿を!」

 

「何……!?」

 

「俺はレベル9の『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』に、レベル1の『チェーン・リゾネーター』とレベル2の『レッド・リゾネーター』をダブルチューニング!」

 

「何だとッ!?」

 

ジャック・Dが己の胸に拳を当て、心臓を掴むような動作をしたその途端、胸に真っ赤に燃える炎が宿り、ジャック・Dの拳へ移る。この力、そしてダブルチューニング。これは正しく。

 

「バーニング・ソウル……!?」

 

「機械に魂は宿らんか?否!貴様は見てきた筈だ!例え機械として生まれようと、未来を想い、友を想い、己が魂が命ずる熱き想いに従った者達を!言った筈だ!俺は、貴様がジャック・アトラスだろうと倒す程、進化したと!」

 

そう、彼はジャックとのデュエルに敗北し、復活した。そしてこの日、この時、ジャックとのデュエルにおいて勝利するが為に、進化に進化を重ね、ついに彼は会得したのだ。ジャックと同じ火力を。ジャックを倒せる力を。胸の奥で燃える魂、熱血回路を。

 

「その目に焼きつけろ!孤高の絶対破壊神よ!神域より舞い降り終焉をもたらせ!シンクロ召喚!『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』!!」

 

炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ 攻撃力4000

 

全てを塗り潰すような黒き炎がアビスを呑み込み、中でバキバキと軋む音を鳴らしながら進化を促す。

鱗はベリアルよりも強固な、まるで要塞の如き硬度を持つ漆黒に染まり、肩からは2本の腕が生え、計4本の逞しい剛腕を得、背から伸びる両翼は天を覆う程に巨大に広がり、首回りには鬣が伸び、頭部に3本、四肢に幾本もの血色の角が反り立つ。

その姿は正しく炎の魔王。魔竜を統べし魔竜王が下界に降り立った。

 

「これが……貴様の切り札か!」

 

圧倒的威圧感。王者の風格、力の権化。例えるならば漆黒の太陽。レベル12、攻撃力4000と言う破格のステータス。

シンクロモンスターにおいて頂点を狙えるであろう事がヒシヒシと伝わって来るようだ。思わずジャックがその巨体を見上げ、ゴクリと唾を呑み込む。

 

「カラミティがシンクロ召喚に成功したターン、貴様はフィールドで発動する効果を使用出来ない!更に、カラミティにはモンスターを破壊した際、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える効果がある!さぁ、バトルだ!カラミティで『レッド・デーモンズ・ドラゴン』へ攻撃!真紅の絶対破壊!」

 

「手札の『レッド・ミラー』を墓地の『レッド・スプリンター』と交換!更に墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外!ぐっおおおおおっ!?」

 

ジャック・アトラス LP7100→6100

 

カラミティが4本腕を胸の前で構え、漆黒に燃える太陽を作り出す。そして太陽を射出、圧倒的な力を前にして『レッド・デーモンズ・ドラゴン』でも抗えず、瞬く間に呑まれ、焼失する。

 

「カラミティの効果を食らえ!地獄の災厄炎弾!」

 

「ぬぅ、ぐぅぅぅぅ!?だが、除外された『ダメージ・ダイエット』により、効果ダメージを半分になる!」

 

ジャック・アトラス LP6100→4600

 

更に太陽の中から黒く染まった『レッド・デーモンズ・ドラゴン』が出現、炎で生み出された竜はジャックに着弾し、身を焦がすような熱が駆け回る。

 

「クハハハハ!これこそが最強の『レッド・デーモン』!貴様を倒す究極の破壊神だ!」

 

「調子に乗るな!そのモンスターを倒し、俺は俺を取り戻す!」

 

「クク、威勢が良いな。速攻魔法、『グリード・グラード』!シンクロモンスターを破壊した事で2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札2→4

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換し、墓地に送られた『髑髏顔天道虫』の効果発動。LPを1000回復」

 

ジャック・アトラス・D LP4800→5800

 

「俺はカードを2枚セット、ターンエンドだ。さぁ、闇の炎に抱かれて消えるが良い!」

 

ジャック・アトラス・D LP5800

フィールド『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

最強の『レッド・デーモン』。カラミティ。言うだけあってその力は強力だ。だが攻略法はある。かつてジャックが、ジャック・Dを倒した時のように。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札1→3

 

「『ミスティック・パイパー』を召喚!」

 

ミスティック・パイパー 攻撃力0

 

「自身をリリースし、1枚ドロー!引いたカードはレベル1モンスター、よってもう1枚ドロー出来る!」

 

ジャック・アトラス LP4600→4100 手札2→3→4

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『死の演算盤』をコストに2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札3→5

 

「魔法カード、『二重召喚』!『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

「墓地の『レッド・リゾネーター』を蘇生!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「カラミティの攻撃力分回復!」

 

ジャック・アトラス LP4100→8100

 

「レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ワイバーン』!」

 

レッド・ワイバーン 攻撃力2400

 

再び現れる『レッド・ワイバーン』。幸い、カラミティにはアビスのような防御的な効果や耐性は無い。例え攻撃力4000のモンスターでも、効果で対処すればいい。

 

「墓地の『レッド・ミラー』を回収!行くぞ!『レッド・ワイバーン』の効果発動!」

 

「罠発動、『肥大化』!『レッド・ワイバーン』の攻撃力を倍に!」

 

「ッ!」

 

しかし、ジャック・Dがそんな抜け道を許す筈がない。カラミティが最強の『レッド・デーモン』なら、この男は最強のキング。この2つが合わさる事により、隙を突く事も否定される。

 

「これで」

 

レッド・ワイバーン 攻撃力2400→4800

 

「フィールドで一番攻撃力が高いモンスターは『レッド・ワイバーン』だ」

 

『レッド・ワイバーン』破壊。効果を逆手に取り、ジャックのモンスターが0になる。だがまだだ、『レッド・ワイバーン』はただ破壊されただけではない。身体が砕かれても、残った炎がジャックの手に渡る。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札4→5

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換。魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地の『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を蘇生!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻撃力3000

 

今度はジャックのエースが蘇る。しかしカラミティに比べれば攻撃力3000のこのカードですらムシケラに近い。それでもジャックの想いに応える為、巨大なカラミティを見上げ、敵意の唸り声を上げる。

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『補給部隊』をデッキに戻し、ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札3→4

 

フィールドにはエース、『レッド・デーモン』。手札は4枚。欲しいパーツは後1枚。だがその1枚はデッキに存在すらしていない。いや、正確に言うならば今現在、ジャックのデッキに宿っていない。

何せあのカードは気まぐれだ。だが、間違いなく勝利に必要不可欠。

呼ぶしかない、しかし、今のジャックに呼べるのか?1度、惨めに敗北し、ジャック・アトラスを忘れていた己に、仲間との絆を断ち切られた己に。

激しい葛藤、自問自答が浮かんだその時。

 

『あぁーっ!やっぱりデュエルしてるぅ!?』

 

突如上空から、大きな声が反響する。ビクリと肩を震わせ、見上げたそこにあったのは、バリバリとプロペラを回転させ、飛行するヘリ。そしてそれに搭乗する、メリッサ・クレールとMCの姿。

スタジアムの光を見てやって来たのだろうか、マイクを片手にジャックとジャック・Dを見て、その目を大きく見開く。

 

『って言うかジャックが2人ィ!一体全体どうなってるのぉ!?』

 

「フン、俺と言う奴は、どうやっても目立ってしまうのだろうな。嗅ぎ付けられてしまった」

 

やれやれと首を振り、みょうちきりんな事をほざくジャック・D。ジャックはそんな彼に反応も出来ず呆けていると、ヘリの奥からユサユサと特徴的な長いリーゼントを揺らし、MCが姿を見せ、ジャックを見下ろし、ニヤリと笑う、

 

『いや、違うぞメリッサ。私は知っている。今まで忘れてしまっていたが、知っている。ジャックは1人、彼だけだ!』

 

そして、決して間違う事なくジャックを指差す。本物の、ジャック・アトラスの事を。根拠はない。例えDーホイールが違っていても、間違えてしまうであろう事に、2人はそっくりなのに、彼はジャックが本物だと分かった。一体、何故。

 

『私の魂がそう言っている!彼が、彼こそがジャック・アトラスだと!今まで何度も世界を救って来た英雄の仲間であり、ライバルであるチーム5D'sのジャック・アトラスだと分かるんだ!』

 

「――ッ!」

 

あの時、記憶を取り戻したのは、ジャックだけではない。クロウも、彼も、そしてこのシティに住む人々の中に。記憶を取り戻した者がいた。未来を掴み取る為に闘ったジャック・アトラス達を思い出した者が。

 

『シティの皆、安心してくれ!今この時、シティを守る為に闘ってくれている者がいる!あの時、チーム5D'sがアーククレイドルを止めたように!だから信じて応援しよう!私達の為に、闘ってくれている彼等を!』

 

「チーム5D'sが……?」

 

「ジャックだ、ジャックが闘ってるんだ!」

 

「チーム5D'sって?」

 

「ああ!」

 

伝わっていく、希望の想い。チーム5D'sと言う伝説を知っている者も、そうでない者にも。希望が広がり、シティ中が声を上げる。

 

「頑張れジャック!」

 

「勝って満足させてくれよぉ!」

 

「アトラス様負けないで!」

 

「ったく、おめぇを応援するのは癪だが、気張れよジャック!」

 

「ジャックー!俺も龍可も応援してるからね!」

 

「勝って!私達の未来を掴む為に!」

 

街中が、ジャックに、チームARCー5D'sへ声援を送り、騒々しくなっていく。その中には懐かしい声もあって、ジャックの胸に、熱い想いが宿っていく。

 

「ジャックー!」

 

そして、このスタジアムにも、1人の少年の姿が。

 

「サム……!?」

 

遊矢が観客席を見て、驚愕で目を見開く。そこにいたのはかつてジャックが『調律の魔術師』を渡した少年、サムの姿。彼は身を乗り出し、ジャックと視線を交わす。

 

「勝って、僕の、僕達のヒーロー……ジャック・アトラス!!」

 

その言葉が、切欠だった。ジャックの腕に、そしてクロウの腕にも、赤き輝く紋様が走り、翼と尾のような痣が描かれたのは。

 

「ッ、クロウ、それは……!?」

 

「赤き竜の痣……あの時、消えた筈なのに、力を貸してくれるってのか……!ジャック!受け取れぇっ!」

 

クロウがガタリとベンチから立ち上がり、右腕をジャックに掲げる。そしてこの街にいる仲間達も。すると彼等の腕から痣が消えていき――。

 

「フ、人気者だな、ジャック・アトラスよ……!」

 

「当然だ!この俺はジャック・アトラス!そしてジャック・アトラスは……応援してくれる者の期待を、裏切らない!」

 

ジャックの背に移り、赤き竜の地上絵となる。

 

「魔法カード、『名推理』!」

 

「足掻くか……レベル2を選択!」

 

「1、2、3……!来たか、『救世竜セイヴァー・ドラゴン』を特殊召喚する!」

 

救世竜セイヴァー・ドラゴン 守備力0

 

ジャックのデッキが光輝き、彼の手に渡る。これこそがジャックの求めた最後のピース。赤き竜の力の一端、桜色の小さな竜がフィールドに現れ、夜の闇を光で照らす。

 

「『セイヴァー』……!再び俺の前に立ち塞がるか……!」

 

「墓地の『ヘルウェイ・パトロール』を除外!手札の攻撃力2000以下の悪魔族モンスター『レッド・ミラー』を特殊召喚!」

 

レッド・ミラー 守備力0

 

「さぁ、行くぞ!レベル8の『レッド・デーモンズ・ドラゴン』とレベル1の『レッド・ミラー』に、レベル1の『救世竜セイヴァー・ドラゴン』をチューニング!」

 

今放たれるはダブルチューニングにも比肩するシンクロ召喚。救世竜がクルリと宙を舞って巨大化し、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』達を包み込み、眩き光を広げていく。

 

「研磨されし孤高の光、真の覇者となりて、大地を照らす!光輝け!シンクロ召喚!大いなる魂、『セイヴァー・デモン・ドラゴン』!!」

 

セイヴァー・デモン・ドラゴン 攻撃力4000

 

現れしは『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の進化体、燃え盛るような美しい深紅の翼を4枚広げ、光に包まれし救世の魔竜。

『セイヴァー・デモン・ドラゴン』、『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』と互角の赤が目を覚ます。

 

「『セイヴァー・デモン・ドラゴン』……!」

 

天に飛翔し、光輝く『セイヴァー・デモン・ドラゴン』を見上げ、ジャック・Dが憎々し気に目を細め、睨む。それもその筈、ジャック・Dはかつてこのモンスターによって敗北を喫したのだ。

 

「『セイヴァー・デモン・ドラゴン』の効果発動!ターン終了まで『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』の効果を無効にし、その攻撃力を吸収する!パワー・ゲイン!」

 

セイヴァー・デモン・ドラゴン 攻撃力4000→8000

 

『セイヴァー・デモン・ドラゴン』の翼から光が広がり、カラミティの胸を貫く。そしてカラミティから力を奪い取り、『セイヴァー・デモン・ドラゴン』の体色が更に赤く染まる。攻撃力8000、カラミティと同じく、自身の攻撃力を無理矢理ぶつけるような効果だ。

 

「バトル!『セイヴァー・デモン・ドラゴン』で『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』を攻撃!アルティメット・パワーフォース!」

 

『セイヴァー・デモン・ドラゴン』が光と炎を纏い、猛スピードでカラミティに突撃し、貫こうとする。全てを乗せた魂の一撃、これでカラミティを破壊する。その時。

 

「甘いわぁっ!貴様が何歩進もうと、俺は常に、その先を行く!罠発動、『プライドの咆哮』!」

 

「何、だとぉっ!?」

 

「言っただろう、貴様がジャック・アトラスであろうと倒すと!同じ手で敗北する俺ではないわぁっ!」

 

そうだ、ジャック・Dはかつてこのモンスターの前に敗北した。ならば、プライドの高い彼の事だ。同じ手による敗北を許す筈がない。

その事実を示すかのような名の罠が発動され、カラミティが吠え猛り、大気に波紋が広がっていく。

 

「ダメージ計算時、俺のモンスターの攻撃力が相手モンスターより低い事で、その差分のLPを支払い、差分+300の攻撃力をカラミティに与える!」

 

ジャック・アトラス・D LP5800→1800

 

炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ 攻撃力4000→8300

 

負ける位なら命を削る。まるでそう言わんばかりの効果が炸裂し、カラミティの攻撃力を2倍以上に跳ね上げる。攻撃力8300、『セイヴァー・デモン・ドラゴン』をも食らう漆黒の太陽が咆哮、4本の腕で四肢を掴み、巨大なアギトを開きブレスを放つ。

 

「くっ!」

 

「粉砕せよ!」

 

ジャック・アトラス LP8100→7800

 

救世の竜が破壊された反動、そしてカラミティの迎撃の激痛がジャックの身体に襲いかかり、ホイール・オブ・フォーチュンが猛回転する。意識が吹き飛びそうなところを何とか堪え、肩で息をしながらも立ち上がる。

とは言え最悪中の最悪。自身のターンにモンスターが破壊され、その上そのモンスターがこのデュエルにおける希望だったのだ。それがいとも容易くへし折られてしまった。

戦況でも士気においてもこの状況は不味い。その証拠に今の光景を映像で見ていたシティの市民に絶望が走る。

ジャック・アトラスでも、勝てないのかと。

 

「希望を与え、それを奪う。これも一種のエンターテイメントか。悪趣味だがな」

 

しかし。

 

「まだだ……!」

 

ジャック・アトラスは諦めない。その瞳に確固たる意志を持ち、ジャック・Dを睨み付ける。そんな彼に応えるように、背中に浮かぶ竜の痣、その中のドラゴンヘッドの眼が光輝く。

 

「まだデュエルは終わっていない!」

 

「ほう……!」

 

「必ず貴様を倒す!ターンエンドだ!『シャッフル・リボーン』の効果で手札を1枚除外する!」

 

ジャック・アトラス LP7800

フィールド

手札1

 

「俺のターン、ドロー!クク、そうでなくてはな……闘う意志無き者を倒したところで誇りにならん。魔法カード、『暗黒界の取引』、互いに1枚ドローし、1枚捨てる。更に魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキトップの10枚を除外し、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札0→2

 

「魔法カード、『強欲で謙虚な壺』!デッキトップから3枚をめくり、その内の1枚を手札に!『ディメンション・ウォール』を選択!」

 

「『ラプテノスの超魔剣』をカラミティに装備!バトル!カラミティでダイレクトアタック!」

 

ジャック・アトラス LP7800→3800

 

「がぁぁぁぁっ!?」

 

『レッド・リゾネーター』で回復していたLPがカラミティの猛攻で半分まで減少する。幸いなのはこれ以上の追撃がない事か。

 

「どうしたどうした!その程度か!?カードをセットし、ターンエンドだ!」

 

「この瞬間、墓地に送られた『スカーレッド・コクーン』の効果発動!『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を蘇生!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻撃力3000

 

ジャック・アトラス・D LP1800

フィールド『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』(攻撃表示)

『ラプテノスの超魔剣』セット1

手札0

 

圧倒的なパワーで攻め立てるデュエリスト、ジャック・アトラス・D。間違いなくジャックが今まで闘って来た中で一番の強敵だ。たった、1人を除いて。彼の宿命のライバルを除いて。

確かにジャック・Dは強い。だがそれでも、ジャックには負けられない理由がある。このシティを、彼がいないシティを守りたいのだ。

今はまだ、街にもなっていない街だ。だが未来は分からない。これから先、この街が街となる未来を守りたい。彼が帰って来る街を守りたいのだ。それに。

 

(貴様に恥じぬ、デュエルがしたい!それだけだ、それだけで充分だ!文句は言わせんぞ、遊星!)

 

「俺の、タァァァァンッ!」

 

紅蓮のアークが、ドローの軌跡が宙に浮かぶ。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札1→3

 

「『ミスティック・パイパー』を召喚!」

 

ミスティック・パイパー 攻撃力0

 

「効果発動!ドローしたカードは……レベル1!更にドローする!」

 

ジャック・アトラス 手札2→3→4

 

「魔法カード、『二重召喚』!『チェーン・リゾネーター』を召喚!」

 

チェーン・リゾネーター 攻撃力100

 

「効果発動!デッキから『ダーク・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

ダーク・リゾネーター 攻撃力1300

 

フィールドに揃う『レッド・デーモン』と2体の『リゾネーター』。狙うはレベル9か、レベル11のシンクロモンスターか。否、そうでない事は、2人のデュエルの中で分かっている。『レッド・デーモン』とチューナーが2体、ここから導き出される答えは。

 

「来るか、バーニングソウル!」

 

ジャック・アトラス、真の切り札の登場。ジャック・Dが口角を上げると共に、ジャックの背中に浮かぶ竜の痣が胸部に集束、燃え盛る魂となる。

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』!手札を交換し、俺は、レベル8の『レッド・デーモンズ・ドラゴン』に、レベル1の『チェーン・リゾネーター』とレベル3の『ダーク・リゾネーター』をダブルチューニング!王者と悪魔、今ここに交わる。荒ぶる魂よ、天地創造の叫びを上げよ。シンクロ召喚!出でよ、『スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン』!!」

 

スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン 攻撃力3500→6000

 

フィールド中央で、シンクロの輪が大爆発。響く轟音の中、黒煙を裂き、現れたのは鮮やかな赤の竜。紅蓮よりも尚紅く、赤く、朱く、緋い、4枚の翼を広げる、紅蓮魔竜。

太陽をも焦がす超新星。『スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン』。ジャック最強の切り札が今覚醒する。

 

「これが……そうか、これが『スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン』……貴様の切り札か!ジャック・アトラス!」

 

「そうだ!これが俺の、俺が誇る最強の切り札!さぁ、決着をつけよう!ジャック・アトラス・D!」

 

向かい合うジャックとジャック・D。対峙する『スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン』と『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』。2人のキングとその最強の切り札。存在と誇りを賭けた闘いに、今決着をつける時。

 

「俺は墓地の『レッド・ミラー』を回収し、バトル!『スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン』で、『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』へ攻撃!バーニング・ソウル!」

 

「迎え撃て!真紅の絶対破壊!」

 

真紅の竜と漆黒の竜が大激突、熱い火花が飛び散っていく。スカーレッドが鋭い牙をカラミティの首に突き立て、業炎を流し込めばカラミティが苦悶の咆哮を上げながら2本の腕で引き剥がし、残る2本の腕でどす黒い球体を生み出してスカーレッドの胸部に押し込んで爆発させる。

吹き飛ばされたスカーレッドは持ち前の気力でカラミティを睨んで飛翔、太陽にも匹敵する熱量の炎を纏い、カラミティに突撃する。

 

「速攻魔法、『魔力の泉』!」

 

「罠発動、『ディメンション・ウォール』!この戦闘で受けるダメージを押し付ける!」

 

「3枚ドローし、2枚捨てる!」

 

ジャック・アトラス 手札1→4→2

 

「俺は手札から墓地に送ったカウンター罠、『超速攻!』の効果発動!デッキからカードを1枚ドローし、魔法カードならば速攻魔法として扱う!これが、ラストドローだ!」

 

「ならば俺は、カラミティの最後の効果で『炎魔竜レッド・デーモン』を蘇生!!」

 

ジャック・アトラス LP3800→1800 手札2→3

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

引き抜かれる、運命のカード、それは。

 

「『シンクロキャンセル』!スカーレッドをエクストラデッキに戻し、その素材を呼び戻す!来い、『チェーン・リゾネーター』!『ダーク・リゾネーター』!そして……我が魂、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻撃力3000

 

チェーン・リゾネーター 攻撃力100

 

ダーク・リゾネーター 攻撃力1300

 

ジャック・Dの『炎魔竜レッド・デーモン』に対抗するように、ジャックのフィールドに『レッド・デーモンズ・ドラゴン』が姿を見せる。

鏡合わせの『レッド・デーモン』。確かに攻めては増えたが、攻撃力は同じ3000、相討ちは狙えても、ジャック・Dの喉元に届かない。

 

「クク、確かに面白い手ではある。しかし、この俺には届かん!」

 

「いいや、届く!俺は『ダーク・リゾネーター』で『レッド・デーモン』に攻撃!」

 

ジャック・アトラス LP1800→100

 

「『レッド・デーモンズ・ドラゴン』で、『炎魔竜レッド・デーモン』へ攻撃!アブソリュート・パワーフォース!」

 

「良いだろう!迎え撃て!極獄の絶対独断!」

 

『スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン』と『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』の対決の次は彼等の原点たる『レッド・デーモン』のぶつかり合い。

両雄、拳に炎を灯して力を溜め込み、振り抜いて解き放つ。拳と拳が激突し、爆発が起こったような轟音が響き渡る。何たる威力か、重なった拳を中心にスパークが散っていく。

だが、勝負は互角、拳はピタリと静止したまま動く事すらしない。

 

「どうしたジャック・アトラス!それが貴様の限界か!?」

 

「貴様が俺の限界を決めるな!速攻魔法発動、『旗鼓堂々』!俺の墓地に存在する装備魔法、『巨大化』を『レッド・デーモン』に装備する!」

 

「LPは俺が上、この状態で『巨大化』を装備したモンスターは……!」

 

「攻撃力が倍となる!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻撃力3000→6000

 

「――クク、ハハハハハ!ハーハッハッハッハッ!そうだ、これが俺の求めていた者、最強の宿敵――ジャック・アトラス……!」

 

全てを捩じ伏せるかのようなパワーデュエルと、劇的なまでのエンターテイメント。これ等を融合、昇華させたものこそが、ジャック・アトラスのデュエル。

ジャック・Dはそのデュエルを特等席で観戦し、満足そうに高笑いする。これが彼が真に求めたもの。最も欲したもの。

これに辿り着くまで長かった、これと再び闘うまで、本当に長かった。この魂が焼けるような感動を味わうが為に、ジャック・Dは今までの全てを注いで来たのだ。

それだけ、待った介があった。ジャック・アトラスとのデュエル、心踊るライバルとのデュエル。それだけで全てが報われる。

彼のようになりたかった、彼を超えるキングになりたかった。彼に勝ちたかった。悔しくて悔しくて堪らない。だけど、もう、打つ手はない。たった一歩、届かなかった。ならばもう認めるしかない。

 

「今日のところはな……」

 

それでこそ、倒しがいがある。流石は俺のライバルだと胸を張れる。

 

「ジャック・アトラス・D……俺は貴様と闘い、勝利出来た事を、誇りに思う」

 

「……そうか……」

 

そして、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の拳が『炎魔竜レッド・デーモン』の拳を砕き、胸部を貫く。穴が開いた炎魔竜の胸部から、赤い光が溢れていき、その姿が空気に溶けていく。

 

ジャック・アトラス・D LP1800→0

 

燃え盛る炎、その圧倒的な奔流に呑まれ、ジャック・Dは自らのボディを焦がし、溶かして消えていく。

そんな中でも、ジャック・Dは苦しむ事なく、逆に微笑んで己の最期を認める。最後に、天に飛翔せし赤き魔竜に手をかざして――。掴めずに、空を切る。

 

「次は、必ず」

 

そしてジャック・Dは――己の魂を完全燃焼させる。

 

フレンドシップカップ、決勝戦、ファーストホイーラー対決、ジャック・アトラスVSジャック・アトラス・D。勝者、ジャック・アトラス。




サム「最初から僕はジャックの事を信じてましたよ、ええ」

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