「本当なんだ!アトランティスは本当にあるんだ!」
「嘘乙」
「嘘じゃねぇよ!嘘なら鼻でスパゲッティ食ってやる!」
「お前鼻ねぇじゃん」
「ないよぉ!アトランティスないよぉ!」
季節は夏、人々でごったがえすワイキキっぽいビーチの中心で、頭部にヒレを、右手首にボウガンを装着した青い肌の魚人、『アトランティスの戦士』が必死に演説を行っていた。
その内容は自身が仕える海底神殿、アトランティスの存在の証明。
しかし力説する彼を小馬鹿にするように三匹の『舌魚』が良く回る舌でそれを否定して来る。
アトランティスは存在しない。それが『アトランティスの戦士』以外が認識する絶対のルールなのだ。
グスリと目尻から一粒の涙を流す彼の赤い目に、彼が密かに思いを寄せる、白と黒の衣装を纏う青髪のデカチチ美少女――『海神の巫女』が写る。この乳で巫女は無理でしょ。
「あっ、『海神の巫女』ちゃん!巫女ちゃんなら信じてくれるよね!アトランティスがあるって!」
「え、えっと……貴方誰ですか……?」
「たった今海の戦士になりそうな『アトランティスの戦士』だよぉ!」
「えっ、『アトランティスの戦士』さん……?でも貴方『海』をサーチ出来ないから海の戦士にはなれないんじゃ……」
「アトランティスはないし『海』をサーチ出来ないってもう俺何者でもなくない!?」
そそくさと去っていく『海神の巫女』を見て、『アトランティスの戦士』――最早ただの戦士(水族)が膝から崩れ落ちる。名前を覚えられてないのもかなりのダメージだった。
「うう……クソ……何で俺だけアトランティスを知ってるんだよ逆に……俺以外アトランティスを知ってる奴何処かにいないのかよぉ……」
無情なる悲劇を前にして、心が折られ、傷つく『アトランティスの戦士』の前に――彼は、姿を見せた。
左腕に、黄金に輝くデュエルディスクを装着した、彼等が慕う、最も信頼する相棒が。
「ッ!あ、あんたデュエリストか!?そ、そうだ!デュエリストのあんたなら!アトランティスの事知ってるだろ!アトランティスはあるんだ!なぁ、デュエリストさん!」
「ないです」
「なんでだっ!?」
――――――
「一体何が起こってるんだよ!」
「何なんだよアレは!?」
「もしかしてアレって落ちて来たりしないでしょうね……!?」
シンクロ次元、シティにて。真夜中にも関わらず、街中では人々の恐怖と混乱の声が飛び交っていた。
その原因は勿論、夜空の月をも覆い隠し、曇天を突き抜けるように現れたアーククレイドルの存在だ。
街の真上で浮かぶ巨大都市が、現実離れした光景が人々の目に嫌でも目に入る。
最初は誰もが夢だと思った。しかし、残酷な事に悪夢は覚めてくれない。面白がって写真を撮り、SNSに投稿する者も、今では不気味がり街から逃げ出そうとする始末。
だがそれも無意味、嘲笑うかの如くシティが紫色の炎に囲まれ、檻に閉じ込められたかのように脱出を許さない。
パニック状態になった人々を尻目に、フレンドシップカップの司会進行、メリッサ・クレールはヘリへ飛び乗り、MCと共に事態の解決に急ぐ。
そんな中、彼女の目が、スタジアムの光を捉えた。
――――――
「俺のターン、ドロー!」
一方、シティの沿岸部に続くデュエルレーンにて、そこでは2機のホイール・オブ・フォーチュンが白と黒の軌跡を描きながら火花を散らしていた。
両機体を操縦するのはこのシティにおけるキング。いや、元キングと現キングと言っておこうか、2人のジャック・アトラスが互いのプライドを賭け、ライディングデュエルに望んでいるのだ。
現在ターンはジャック・アトラス。彼は先行する自らの偽物、と言うには余りにも強力過ぎる男、ジャック・アトラス・Dを睨み、引き抜いたカードへと視線を落とす。
「魔法カード、『名推理』!相手にレベルを1つ宣言させ、自分はデッキトップからモンスターが出るまでカードを墓地に送る。そしてモンスターかつ相手が宣言したレベル以外の通常召喚可能なモンスターならば特殊召喚が可能!」
「レベル2を選択」
「1、2、3、4……良し、『インターセプト・デーモン』を特殊召喚!」
インターセプト・デーモン 守備力1600
「そして墓地のコラプサーペントを除外、ワイバースターを特殊召喚!」
輝白竜ワイバースター 守備力1800
「フン、それで守りを固めたつもりか。キングのデュエルに守りはいらん!攻めて攻めて攻め尽くす!苛烈なまでの攻めこそ至上のエンターテイメントになるのだ!」
「甘いな、ピンチを演出する事も、エンターテイメントだと思わんか?」
「ほう、吐いたな?しかしその唾、この俺に、天へと吐くと言う事は流星となって降り注ぐ事と知れ!このアーククレイドルのように!」
「未来の墓標アーククレイドル、貴様の墓にしてやろう!歴史に埋もれろ、偽りの王者!」
繰り広げられる舌戦、回りくどい言い回しもジャックの持ち味の1つ。この舌戦1つをとってもどちらがよりジャック・アトラスなのかを決めるもの、なのかもしれない。
「俺はこれでターンエンドだ!」
ジャック・アトラス LP1900
フィールド『インターセプト・デーモン』(守備表示)『輝白竜ワイバースター』(守備表示)
手札0
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『地割れ』!『インターセプト・デーモン』を破壊!早くも防御が崩れたな!」
「クッ……!」
「バトルだ!『クリムゾン・ブレーダー』でワイバースターを攻撃!」
「コラプサーペントをサーチする!」
「ターンエンドだ、何時まで続くか見物だな……それともこのまま見せ物となるか?」
ジャック・アトラス・D LP5400
フィールド『クリムゾン・ブレーダー』(攻撃表示)
『補給部隊』
手札2
「俺のターン、ドロー!下級モンスターで上級モンスターを倒す、か……フン、この俺が奴の真似事をするハメになるとはな。良いだろう!ジャイアントキリングもまたエンターテイメント!ワイバースターを除外、コラプサーペントを特殊召喚!」
暗黒竜コラプサーペント 攻撃力1800
「魔法カード、『フォース』を発動!『クリムゾン・ブレーダー』の攻撃力を半分にし、コラプサーペントに加える!」
クリムゾン・ブレーダー 攻撃力2800→1400
暗黒竜コラプサーペント 攻撃力1800→3200
「バトルだ!コラプサーペントで『クリムゾン・ブレーダー』へ攻撃!」
「チィッ!『レッド・ミラー』を墓地に送り、『レッド・スプリンター』を回収!『補給部隊』の効果でドロー!」
ジャック・アトラス・D LP5400→3600 手札2→3
コラプサーペントが今までのお返しとばかりに宙を這い、『クリムゾン・ブレーダー』の喉元に噛みつき、漆黒のブレスを放つ。傷口に塩を塗るような強烈な攻撃、これには流石の剣士も苦悶の声を漏らし、倒れ伏す。
「ターンエンドだ!」
ジャック・アトラス LP1900
フィールド『暗黒竜コラプサーペント』(攻撃表示)
手札0
「俺のターン、ドロー!やってくれたな……!俺は『レッド・スプリンター』を召喚!」
レッド・スプリンター 攻撃力1700
「効果発動!墓地の『フォース・リゾネーター』を蘇生!」
フォース・リゾネーター 守備力500
「レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル2の『フォース・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ワイバーン』!」
レッド・ワイバーン 攻撃力2400
「……とことん手堅く来るな」
2枚目の『レッド・ワイバーン』、ジャックが逆転の手を打って来ても詰めるように考えての事だろう、抜け目のない男だ。
「『レッド・ミラー』を回収、ワイバーンでコラプサーペントへ攻撃!」
ジャック・アトラス LP1900→1300
「最後のワイバースターをサーチする!」
「カードをセット、ターンエンド。来るなら来い、全てねじ伏せてやろう」
ジャック・アトラス・D LP3600
フィールド『レッド・ワイバーン』(攻撃表示)
『補給部隊』セット1
手札3
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」
ジャック・アトラス 手札1→3
「装備魔法、『D・D・R』を発動!手札を1枚捨て、除外されているスカーライトを特殊召喚!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000
次元の間より帰還するジャックのエース、スカーライト。圧倒的な力を持つこのカードなら逆転も狙えるが、それは維持出来ればの話。
「『レッド・ワイバーン』の効果発動!」
「させん!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外する事で『レッド・ワイバーン』の効果を無効にする!」
「『名推理』の時か……!」
「さぁ、焼き払え!スカーライトの効果発動!」
ジャック・アトラス・D LP3600→3100
「くっ、『補給部隊』の効果発動!」
ジャック・アトラス・D 手札3→4
「スカーライトでダイレクトアタック!」
「手札のミラーとスプリンターを交換!そして永続罠発動!『デプス・アミュレット』!手札を1枚捨て、攻撃を無効に!」
「カードを1枚セット、ターンエンドだ。さぁ、今度は貴様の番だぞ?」
ジャック・アトラス LP1300
フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)
『D・D・R』セット1
手札0
「俺のターン、ドロー!上等だ、『レッド・スプリンター』を召喚!」
レッド・スプリンター 攻撃力1700
「効果発動!手札の『クロック・リゾネーター』を特殊召喚する!」
クロック・リゾネーター 守備力1300
もう何度目か分からないスプリンターの登場。過労気味な表情を浮かべ、相方となる巨大な時計を負った『リゾネーター』を先導する。正直、このデュエル中、ジャック・Dの戦術の要となるのはこのカードとこのカードを回収する『レッド・ミラー』だ。後者がある限り、ジャック・Dの手札は常に1枚増加しているようなものだ。
「レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル3の『クロック・リゾネーター』をチューニング!天頂に輝く死の星よ!地上に舞い降り生者を裁け!シンクロ召喚!降臨せよ!『天刑王ブラック・ハイランダー』!」
天刑王ブラック・ハイランダー 攻撃力2800
再びシンクロ召喚、ジャラリと鎖の音を鳴らし、舞い降りたのは黒い鎧とマントを纏う巨大な鎌を持つ悪魔の王。『レッド・デーモン』に相対しても威風堂々として姿勢を崩さず、睨みをきかす。
「『レッド・ミラー』の効果を……」
「させん!罠発動、『悪魔の嘆き』!貴様の墓地の『レッド・ミラー』をデッキへ戻し、俺のデッキの悪魔族モンスター、『魔サイの戦士』を墓地へ送る!」
「ほう、そう来るか……!」
「そして『魔サイの戦士』の効果で更にデッキの悪魔族モンスター、『魔神童』を墓地へ!そしてデッキから墓地に送られた『魔神童』の効果で自身をセット!」
「壁を作ったか、だがモンスターは全滅させる!ブラック・ハイランダーの効果!装備カード、『D・D・R』を破壊!400のダメージを与える!」
ジャック・アトラス LP1300→900
ブラック・ハイランダーが大鎌に連結した鎖に手をかけ、ブンブンと鎌を振り回し、ジャックのフィールドのカードに狙いを定める。
撃ち抜くべきは『D・D・R』。カッと目を見開き、鎌を投擲、『D・D・R』を切り裂くと共に『レッド・デーモン』が光となって消える。
「バトル!ブラック・ハイランダーでセットモンスターへ攻撃!死兆星斬!」
「『魔神童』の効果でリバース効果でデッキより『レッド・ミラー』を墓地へ!」
「それが狙いか!」
ブラック・ハイランダーが煌びやかなローブを纏う悪魔の貴族を切り裂く中、ジャックは本来の目的を達成させる。
墓地へ送られるは『レッド・ミラー』。このカードに苦戦したと言うなら同じ手段で敵を追い詰め、有利に事を運ぼうと言う腹積もりなのだろう。
「だがブラック・ハイランダーがいる限り、シンクロ召喚は封じられる。ターンエンドだ!」
ジャック・アトラス・D LP3100
フィールド『天刑王ブラック・ハイランダー』(攻撃表示)
『補給部隊』『デプス・アミュレット』
手札2
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」
ジャック・アトラス 手札0→3
「永続魔法、『補給部隊』を発動。モンスターとカードをセット、ターンエンドだ!」
ジャック・アトラス LP900
フィールド セットモンスター
『補給部隊』セット1
手札0
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『復活の福音』!墓地から炎魔竜を蘇生する!!」
炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000
再び君臨するジャック・Dの『レッド・デーモン』。こうして見ると本当にジャックのスカーライト、いや、彼が持つ真のエース、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』にそっくりだ。
しかし闇のカードとして纏う瘴気が、このカード独自の気配を醸し出している。シグナーの竜と決闘竜。似て非なる存在だ。大元である存在も姿が似ているのは偶然で片付けられる事ではないだろう。
「バトル!ハイランダーでセットモンスターへ攻撃!」
「セットモンスターは『魔導雑貨商人』だ!リバース効果でデッキトップから魔法、罠カードが出るまでカードを墓地に送り、出た魔法、罠カードを手札に!3枚のカードを墓地へ送り、『復活の福音』を我が手に!そして『補給部隊』の効果でドロー!」
ジャック・アトラス 手札1→2
「やれ、『レッド・デーモン』!ダイレクトアタック!」
「墓地の『ネクロ・ガードナー』を除外!攻撃を無効に!」
「ターンエンドだ!」
ジャック・アトラス・D LP3100
フィールド『炎魔竜レッド・デーモン』(攻撃表示)『天刑王ブラック・ハイランダー』(攻撃表示)
『補給部隊』『デプス・アミュレット』
手札2
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『復活の福音』!墓地よりスカーライトを蘇生する!!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000
「貴様もか……!」
1ターン目の再来、互いの『レッド・デーモン』がフィールドに相対する。どちらも互いのターンでは無類の強さを誇り、攻め手が変わると優劣が入れ替わる面白い関係、無論この状況で有利なのはジャックの方だ。
「スカーライトの効果発動!」
「墓地の福音を除外し、破壊を防ぐ。そしてハイランダーが破壊された事で『補給部隊』の効果発動!」
ジャック・アトラス・D LP3100→2600 手札2→3
「バトル!スカーライトで炎魔竜へ攻撃!」
「『デプス・アミュレット』の効果発動!」
攻撃力はどちらも同じ、しかしジャックの墓地には先程ジャック・Dも使用したばかりの『復活の福音』が存在している。除外すればドラゴン族の破壊を肩代わりに出来る墓地発動効果。これを使われればジャックのスカーライトのみが一方的に殴り勝つ。
だからこそ攻撃をかわし、返しのターンで手札の『レッド・リゾネーター』を呼び、炎魔竜をベリアルに進化させて反撃しようと考えたのだが。
「甘い!キングのデュエルは2歩先を行く!さぁ、今宵は特別ゲストを招待しよう!罠発動、『バスター・モード』!」
「何だと!?」
このデュエル、初めての驚愕がジャック・Dに襲いかかる。アクセルシンクロ、ダブルチューニング、ペンデュラムシンクロと導き出されて来たシンクロの発展系、この大会、トニーも使ったその中の1つがジャックから放たれたのだ。
ダブルチューニングならば想定内だったがまさかこのカードを使用して来るとは。
想像を超えるジャックはその手を緩まさせる事なく自らの相棒を進化させる。他のシンクロモンスターが『バスター・モード』に至れるのだ。ならばこの『レッド・デーモン』に出来ぬ訳がない。ジャックの背後に眩き光が立ち上ぼり、中より炎が飛び交い、スカーライトの体躯に纏わりつく。
「『レッド・デーモンズ・ドラゴン』扱いのスカーライトをリリース!デッキより、『レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター』を呼び出す!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター 攻撃力3500
炎は深紅の鎧となり、スカーライトに装着、更に傷を舐め上げ、ギプスがひび割れ砕け散る。これがこれこそが進化した『レッド・デーモン』の姿。その雄々しい姿にジャック・Dが乾いた笑いを漏らす。
「クク、ハハハハハ!面白い!まさかそう来るとはな!良いぞ、良いぞ!それでこそチャレンジャーを名乗るに相応しいと言うものよ!」
「さぁ行くぞ!『/バスター』で炎魔竜へ攻撃!」
「やらせるか!『デプス・アミュレット』の効果を発動!手札を1枚捨て、攻撃を無効に!」
「チ、守るか。俺はカードを1枚セット、ターンエンドだ。この瞬間、貴様の『デプス・アミュレット』は破壊される」
ジャック・アトラス LP900
フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター』(攻撃表示)
『補給部隊』セット1
手札1
「俺のターン、ドロー!炎魔竜の効果発動!」
「墓地の福音を除外し、破壊を防ぐ!」
「折り込み済みだ。魔法カード、『アドバンスドロー』!我が『レッド・デーモン』をリリースし、2枚ドロー!」
ジャック・アトラス・D 手札1→3
エースカードを犠牲にするのは心苦しいが、このままでは勝てないのも事実。ここは少しでもカードを引き込み、対策を練る時だ。
『/バスター』はそれだけ厄介な存在だ。例えこのカードを倒しても、進化元となるカードが蘇るのだから。
「悪くない。魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地の『レッド・デーモン』を蘇生!!」
炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000
「そして『シャッフル・リボーン』の第2の効果!『補給部隊』を戻し、1枚ドロー!」
ジャック・アトラス・D 手札2→3
「『バリア・リゾネーター』を召喚!」
バリア・リゾネーター 攻撃力300
現れたのは背から発電機のようなものを伸ばした『リゾネーター』モンスター。これでジャック・Dのフィールドには『レッド・デーモン』とレベル1のチューナー。
カード無効果効果を持つアビスが来るか、しかしアビスを出したとしても攻撃力は3200、ベリアルでも攻撃力は3500、前者は『/バスター』にも届かず、後者は良くて相討ち。成功してもジャックだけが後続となるスカーライトを呼ぶ事となる。
しかも炎魔竜の効果を使用した以上、他のモンスターでは攻撃出来ない。手詰まりか、それとも他の手があるのか。
「永続魔法、『共鳴波』を発動!」
どうやら他の手があったらしい。発動されたカードを見て、ジャックの顔色が苦いものとなる。何せこのカードはジャック・Dが有利になるだけではなく、ジャックの展開をも妨害しうる。
「ならば俺はここで罠発動、『貪欲な瓶』!墓地のカードを5枚デッキに戻し、ドロー!」
ジャック・アトラス 手札1→2
「レベル8の『レッド・デーモン』に、レッド1の『バリア・リゾネーター』をチューニング!深淵の闇より解き放たれし魔王よ!その憤怒を爆散させよ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』!!」
炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200
ジャックが新たな『レッド・デーモン』を呼び出したのと同じように、ジャック・Dも対抗し、自身の『レッド・デーモン』を進化させる。
炎魔竜を一回り大きくし、胸部に竜の顔を模した装甲、両腕からは戦斧の刃を伸ばした魔王竜。深淵より飛翔し、己が敵を見下す。
「『共鳴波』の効果!『リゾネーター』がシンクロ素材として墓地に送られた事で『/バスター』を破壊する!」
「くっ、『補給部隊』の効果で……!」
「無駄だ!アビスの効果で『補給部隊』の効果を無効にする!」
「やはりそいつが一番厄介だな……破壊された『/バスター』の効果により、スカーライトを蘇生する!!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000
『共鳴波』の効果で『/バスター』を破壊し、スカーライトに備えてアビスを呼び出しておく。成程、嫌らしい手だ。何せアビスがいるだけで最低2枚のカードを消費させられる。
高い攻撃力と無効効果、正しく鬼に金棒なモンスターだ。早々に除去したいが、このカードを除去したとしても、このカードの進化体が出ればそれも無為に終わる。このカードを除去した上で、進化体の召喚を防がねばならない。
「ターンエンドだ。『シャッフル・リボーン』の効果で手札を除外する」
ジャック・アトラス・D LP2600
フィールド『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』(攻撃表示)
『共鳴波』
手札0
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動。デッキトップから10枚のカードを除外し、2枚ドロー!」
ジャック・アトラス 手札2→4
「『レッド・ノヴァ』を特殊召喚!」
レッド・ノヴァ 守備力0
『レッド・デーモンズ』の隣に飛び出したのは赤い妖精のようなモンスター。フィールドにレベル8のドラゴン族モンスターが存在する事を条件に特殊召喚が可能になる。
「更に『グローアップ・バルブ』を召喚!」
グローアップ・バルブ 攻撃力100
続いてレベル1、植物から目を生やした不気味なチューナーが召喚される。優秀な汎用チューナーと言う事でジャックも例に漏れずデッキに投入しているカードだ。
これでジャックのフィールドに『レッド・デーモンズ』とレベル1チューナーが2体揃った。ジャックの狙いを理解し、ジャック・Dがニヤリと笑みを浮かべる。
「レベル8の『レッド・デーモン』に、レベル1の『レッド・ノヴァ』と『グローアップ・バルブ』をダブルチューニング!」
チューナー2体を使用したジャックのみに許された荒業、バーニングソウルが炸裂する。
今では思い出せる。ジャックがこの奥義を会得した時の事を。かつて仲間と共に強大な敵を打ち倒す為、この魂を焦がさんばかりに燃やした日々を。
(そうだろう、我が宿命のライバルよ!)
今はいない彼を想い、自らのエースを進化させる。2体のチューナーがリングに変わり、『レッド・デーモン』を閉じ込めるように交差、リングは集束して魔竜を縛り上げ、その姿をより紅く、より巨大なものとする。
「王者と悪魔、今ここに交わる。赤き竜の魂に触れ、天地創造の雄叫びを上げよ!シンクロ召喚!現れろ!『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』!!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント 攻撃力3500
頭部からは雄々しい角が何本も伸び、より逞しさを増した巨体を覆い隠す程の双翼が月下で広がる。炎の化身を思わせる、燃える紅蓮魔竜。これこそがスカーライトの進化した姿だ。
「シンクロ召喚した事で墓地の『レッド・ミラー』を回収、更にダブルチューニングを行った事で『レッド・ノヴァ』の効果発動!デッキから『レッド・リゾネーター』を守備表示で特殊召喚する!」
レッド・リゾネーター 守備力200
「『レッド・リゾネーター』の効果!タイラントの攻撃力分回復!」
ジャック・アトラス LP900→4400
「タイラントの効果発動!このカード以外のフィールドのカードを全て破壊する!」
「やらせん!アビスの効果で無効にする!」
「そう来ると思っていた!バトル!タイラントでアビスへ攻撃!獄炎のクリムゾンヘルタイドォッ!」
「それも断る!墓地の『ネクロ・ガードナー』を除外し、攻撃を無効に!」
一刻でもアビスを削りたい所だが、そう簡単にはいかせてくれないらしい。2回に及ぶ異なる方向による攻略を振り切るジャック・D。押しているのはジャックだが、直ぐに切り返されてもおかしくない。
「墓地の『グローアップ・バルブ』の効果発動!デッキトップをコストに自身を蘇生!」
グローアップ・バルブ 守備力100
「装備魔法、『ドラゴン・シールド』をタイラントに装備。カードをセット、ターンエンドだ」
ジャック・アトラス LP4400
フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』(攻撃表示)『レッド・リゾネーター』(守備表示)『グローアップ・バルブ』(守備表示)
『ドラゴン・シールド』『補給部隊』セット1
手札0
「俺のターン、ドロー!」
「永続罠、『サモンリミッター』!このカードがある限り、互いに2回しか召喚、特殊召喚を行えない!」
「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」
ジャック・アトラス・D 手札0→2
「『アタック・ゲイナー』を召喚!」
アタック・ゲイナー 攻撃力0
ここでジャックが逆転の一手を引き抜く。ヘルメットから赤い髪をはみ出させた戦士族チューナー。このモンスターの強みは戦闘補助だ。
「アビスの効果で『ドラゴン・シールド』を無効にし、レベル9のアビスにレベル1の『アタック・ゲイナー』をチューニング!泰山鳴動!山を裂き地の炎と共にその身を曝せ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』!!」
炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル 攻撃力3500
更に進化、ただでさえ巨大なアビスの筋肉が膨張し、その鱗が強固な鎧となって身体を照らす。かの大悪魔、ベリアルの名を刻んだ、悪魔よりも凶悪な魔竜。新たな『レッド・デーモン』として君臨し、右腕をタイラントへ翳し、手の甲から炎の剣を生成、射出する。
「シンクロ素材となった『アタック・ゲイナー』の効果により、タイラントの攻撃力を1000ダウン!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント 攻撃力3500→2500
「バトル!ベリアルでタイラントへ攻撃!割山激怒拳ッ!」
刃が胸に深く突き刺さり、弱体化したタイラントへ向かい、ベリアルが飛翔、今度は両腕の手甲より剣を生み出し、回転斬で襲いかかる。
「手札から『レッド・ミラー』を墓地に送り、『レッド・スプリンター』回収、更に墓地の『仁王立ち』を除外し、攻撃を『グローアップ・バルブ』に絞る!」
しかしその瞬間、『グローアップ・バルブ』が飛び出して盾に変わる。タイラントを失えば再びペースを握るのに時間がかかる。それどころか運が悪ければそのまま敗北に繋がるかもしれないのだ。
「『補給部隊』の効果でドロー!」
ジャック・アトラス 手札0→1
「メインフェイズ2、カードを1枚セット、ターンエンドだ。この瞬間、『共鳴波』は破壊される」
ジャック・アトラス・D LP2600
フィールド『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』(攻撃表示)
セット1
手札0
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『サモンリミッター』を墓地に送り、2枚ドロー!」
ジャック・アトラス 手札1→3
「魔法カード、『手札抹殺』!タイラントの効果発動!」
「永続罠、『デモンズ・チェーン』!タイラントの効果と攻撃を封じる!」
「ッ!」
タイラントを封じる方法、効果と攻撃を同時に潰す一手。成程、かなり有効だ、だが、まだ手はある。
「魔法カード、『アドバンスドロー』!タイラントをリリースし、2枚ドロー!」
ジャック・アトラス 手札1 →3
時に堅実に、時に大胆に。タイラントもジャックの手に文句はないのか、効果が使えなくなった自身を有効に活かせと頷き返す。
ジャックもそれに応え、新たな希望を引き込む。
「賭けに出ようか……魔法カード、『モンスターゲート』!『レッド・リゾネーター』をリリースし、通常召喚可能なモンスターが出るまでテッキトップを墓地に送る!」
『モンスターゲート』発動と共に、ジャックのデッキからカードが次々と削られていく。1枚、2枚、3枚、4枚、良い落ちだ。墓地は第2の手札と言う言葉もある。デュエルを上手く進める為にも少しでもカードを送り込みたい。
「運は俺に傾いているらしい。来い、『レッド・スプリンター』!」
レッド・スプリンター 攻撃力1700
「『レッド・スプリンター』の効果発動!墓地の『レッド・リゾネーター』を特殊召喚!」
レッド・リゾネーター 守備力200
「『レッド・リゾネーター』の効果でベリアルの攻撃力分回復!」
ジャック・アトラス LP4400→7900
「レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ワイバーン』!」
レッド・ワイバーン 攻撃力2400
怒濤の『レッド』モンスター連続召喚。勢いづいたジャックの背に1つの影が飛翔し、翡翠の眼を光らせる。このデュエルにおいて両者召喚し、目覚ましい活躍を見せる『レッド・ワイバーン』の再登場。容赦なく格上を破壊可能な効果を持つこのカードは彼等が持つシンクロモンスターの中でも非常に優秀だ。
「『レッド・ミラー』を回収、『レッド・ワイバーン』の効果発動!ベリアルを破壊!」
「ぬぅっ!?」
『レッド・ワイバーン』が後頭部から伸びる火柱の火力を爆発的に上げ、そのまま押し出すように口から発射、灼熱の火炎弾がベリアルの胸部を撃ち抜き、絶命に至らせる。
「カードを2枚セット、ターンエンドだ。この瞬間、墓地に送られた『スカーレッド・コクーン』の効果で墓地のスカーライトを蘇生!!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000
スカーライトも取り戻し、フィールドの状態は万全、次のターンの反撃を防ぎ、このまま一気にとどめを刺したいところだ。
ジャック・アトラス LP7900
フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)『レッド・ワイバーン』(攻撃表示)
『補給部隊』セット2
手札1
ターンを越える度に加熱する2人のデュエル。両者のエースであり、魂である『レッド・デーモン』を中心とし、派手なバトルが繰り広げられ、進化体が飛び出していく。
一時も油断出来ない息もつかせぬハイレベルな攻防の応酬。
しかし驚くべき事に、両者共にまだ奥の手を隠している。常に爪を研ぎ、喉元を狙う王と魔王。その奥の手を見せた時が、決着の時。