シンクロ次元終盤戦、開始です。
夢を見る。己が魂が敗北し、消滅した夢を。行き先が閉ざされ、黒き闇に覆われた夢を。
自身が最も恐れる悪夢。彼はそれを目の当たりにして――逃げ出すように、目を覚ました。
「ッ!」
「お、起きたか旦那」
ガバリと勢い良く身体を起こし、荒くなった息を整え、べったりと額に貼りついた汗を拭う。
すると同時に彼が横になっていたであろうベッドの横でカラカラと軽い調子の笑い声がかけられる。
視線を寄越せば、そこにいたのは人ならざる存在。黒い獣を思わせるスーツを纏った戦士の姿。
一瞬驚愕で瞠目するも、彼は今までの経験によって直ぐ様冷静さを取り戻す。
「お前は……ここは……?」
「俺の事はろーちゃんとでも呼んでくれよ。ここは俺達が暮らす『摩天楼』の中さ。旦那は俺の家の前でくたばってたんだよ」
どうやらこのろーちゃんと言う人……人?戦士が彼の事を助けてくれたらしい。
彼はそうか、と頷き礼を言う。ろーちゃんは獣の顔面をニコニコとさせ、軽い調子で良いって事よと返してくれる。
良い奴だな、と思いながら、彼はベッドの横に置かれた自身の帽子を手にとって被り、キョロキョロとろーちゃんの部屋を見渡す。
部屋中にはアメコミのヒーローを思わせるポスターがいくつも貼られており、床には筋トレに使っているであろうダンベル等が散らばっている。
「いやぁしかし嬉しいねぇ。デュエリストに会ったのは久し振りだよ俺。皆も喜ぶだろうよ」
「……何故、オレがデュエリストだと?」
「何でって、旦那の腕に着いてるじゃない、デュエルディスク、デッキは無いみたいだけど」
ろーちゃんの言葉と共に、彼は自身の左腕に取りつけられたデュエルディスクを見て、目を見開く。
黄金に輝くデュエルディスク。本来自身のデッキが嵌め込まれているであろう部分に、1枚もカードが存在していないのだ。どうした事か、これにはろーちゃんの存在を見て取り乱さなかった彼も激しいショックを受ける。
しかし――彼がショックから立ち直らぬ内に、事態は大きく動き出す。
部屋の外からけたたましいサイレンの音が鳴り響き、赤い光が窓から漏れだしたのだ。
「ッ、やっべぇ……アイツ等が来やがったのか!」
「……アイツ等……?」
「『壊獣』の奴等さ!ああクッソ、エリクシーラーさん達はいねぇしZero師匠達は行方不明だし……そうだ!」
頭を抱え、地団駄を踏むろーちゃんは、彼の姿を見て何を思ったのか、ポンと両手を叩き、その肩に手を乗せる。
「旦那ぁ、力を貸してくれよ!」
――――――
ドサリ、アカデミアからの刺客、プラシドの手によって拐われた柚子は、遊矢達の目の前から消えた後、不意に地面へと投げ出された。
「あうっ」と小さな悲鳴を上げて倒れた彼女は、気丈にもプラシドを睨み付けた後、彼の背後に広がる光景に目を点にする。
これは一体どういう事か、先程まで確かに街中にいた筈なのに、今は何とビルの屋上にいるではないか。見開かれた目をキョロキョロと忙しなく動かせ、眼下に広がるネオンの光を見渡す。
瞬間移動、とでも言うのだろうか、とんでもない事態に頭が追い付かない。この男は何をしたのかと、今度は呆然とした表情でプラシドを見つめる。
「チ、榊 遊矢め、もうこれは使えんか」
対するプラシドは柚子には一切興味がないのか、手に持つ剣を見つめ、無造作に宙に放り投げる。剣は遊矢が突き刺したカードのせいでひびが走っており、バチバチとスパークしており、ボンッ、と爆発を起こし、バラバラに砕け散る。
遊矢の行動が不幸中の幸いを引き起こした訳だ。これでプラシドほ自在に移動する事が不可能になる。彼は小さく舌打ちを鳴らし、懐からデュエルディスクを取り出し、自身の左腕に装着する。
「ッ、やる気って訳……てっきりデュエルなんてしないと思ってたけど、貴方もデュエリストなのね」
「勘違いするな、俺の相手は、お前じゃない」
「?何を言って……」
デュエルの意志を見せるプラシドを見て、柚子は身体に鞭を打って立ち上がり、デュエルディスクを構えるも、プラシドはそんな彼女を無視、ツカツカと歩み寄って、彼女の背後を睨み付ける。
すると――空に浮かぶアーククレイドルから光の鎖のようなものが射出され、地面に突き刺さり、巨大な赤の光を引き摺り出す。
赤い光は鎖から逃れ、あっという間にプラシドの眼前に移動、小さく集束していき、人の形を作り出す。
「来たか、赤き竜……!」
『私は赤き竜のしもべ……我が主を呼び起こしたのは、貴方ですか?人間……!』
まるで炎が人の形を取っているような、文字通り人外の登場、赤き竜のしもべを見て、柚子はペタリと腰を抜かし、力なく伏す。
プラシドに対して向けられている敵意にも関わらず、余りの気迫に、この場から逃げ出したいのに足が動かない。そんな超常の存在に、明確に敵意を向けられているプラシドとは言うと、臆する事なく、竜を睨み付ける。
「そうだ、俺がこの地にアーククレイドルを呼んだ元凶、お前の敵だ、赤き竜!さぁ、デュエルといこうか!」
『良いでしょう!その身で受けよ!我が主の怒りを!』
プラシドとしもべがデュエルの合図を出すと共にしもべの周囲に巨大な石板、カードがクルクルと纏わりつくように回転しながら出現、次々とカードが躍り出る。
『魔法カード、『調和の宝札』!手札の攻撃力1000以下のドラゴン族チューナー、『ラブラドライドラゴン』を捨て、2枚ドロー!加えて『トレード・イン』!レベル8モンスター、『竜核の呪霊者』を手札から捨て、2枚ドロー!』
赤き竜のしもべ 手札3→5→3→5
『『ドラゴラド』召喚!』
更に続けて手札から1体のモンスターを召喚、1枚の石板が弾丸のようにプラシドへと降り注ぎ、空中で光に覆われ、中に封じ込められた魔物を解き放つ。
胸に宝石を持つ、黒い鱗の小型竜だ。
『ドラゴラド』は口を大きく開き、プラシドを呑み込もうとするも、瞬時に飛び退く事で回避され、ベチャリと地に落ちる。
『『ドラゴラド』の召喚時、攻撃力1000以下の通常モンスター、『ラブラドライドラゴン』を蘇生!』
ラブラドライドラゴン 守備力2400
続けて現れる、宝石の鱗持つ竜を見て目を細め、プラシドは「だろうな」と小さく呟く。流れるようなデュエル運びだ。ここまで無駄がない。そして『ドラゴラド』の胸の宝石に、『ラブラドライドラゴン』が吸収される。
『『ドラゴラド』の効果発動!『ラブラドライドラゴン』をリリースし、レベルを8に変更!』
ドラゴラド レベル4→8
『魔法カード、『黙する死者』!墓地の通常モンスター、『竜核の呪霊者』を守備表示で蘇生!』
竜核の呪霊者 守備力3000
『レベル8の『ドラゴラド』に、レベル8の『竜核の呪霊者』を、マイナスチューニング!』
「マイナスチューニング!?」
『竜核の呪霊者』の姿が突如として光となって弾け飛び、光のリングが出現、『ドラゴラド』を呑み込み、1枚の石板が天へと昇る。
これこそはシンクロを超えたシンクロ、原初のシンクロ召喚。
シンクロ召喚はチューナーとチューナー以外のモンスターがのレベルの足し算、ダークシンクロはダークチューナーとチューナー以外の引き算、しかし、ダークシンクロモンスターはマイナスのレベルを持つ、このシンクロは、0だ。
『混沌の次元より沸き出でし力の源!原点にして全ての頂点!この現世でその無限の渇望を暫し潤すがよい!神臨せよ!究極神、『アルティマヤ・ツィオルキン』!!』
アルティマヤ・ツィオルキン 守備力0
現れしは空を覆う程に巨大な、赤い、紅い、朱い、緋い、炎で創造されたような、竜。レベル0のシンクロモンスターが、解き放たれ、神々しい咆哮を放つ。
「早速か……!」
『カードをセット!この瞬間、我が主の効果発動!エクストラデッキから決闘竜を呼ぶ!』
プラシドの言葉に応えるように、赤き竜は喉を震わせ、とぐろを巻く。するとセットされたカードより光が昇り、新たなモンスターをフィールドへ呼ぶ。
『星海を切り裂く一筋の閃光よ!魂を震わし世界に轟け!『閃光竜スターダスト』!』
閃光竜スターダスト 攻撃力2500
フィールドに来たるは星屑を纏いし白き閃光竜。このカードはその全ての根源、コナミが持つ閃光竜はあくまでこのカードの分身に過ぎない。白き翼を広げるその姿に、プラシドほ目を細め、柚子はゴクリと喉を鳴らす。
「コナミのカード……!」
「よりにもよって最初がそいつか……俺への当てつけか?」
『ターンエンドです……さぁ、かかって来なさい、人間!』
赤き竜のしもべ LP4000
フィールド『アルティマヤ・ツィオルキン』(守備表示)『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)
セット1
手札0
セキュリティの屋上で繰り広げられる人外とプラシドによるデュエル。神とも呼ばれる圧倒的強者を前にしても、プラシドの余裕は、崩れる事はない。
――――――
走る、駆ける、夜のシティを、全速力で。ユーゴより譲り受けたDーホイールに跨がり、遊矢はフレンドシップカップのスタジアムに。
柚子を救う為、シティを守る為、プラシドの言う事が真実ならば、決勝でチームネオ5D'sに勝たなければ上空に浮かぶ逆さの街、アーククレイドルはシティへと墜落する。そうなれば、考えただけでゾッとする。
それだけは阻止しなければとあの場は皆に任せて飛び出したのだ。敵もすんなりと遊矢だけは通してくれた。エンジン音を轟かせ、スタジアムへと帰還する遊矢を――1人の男が待ち受ける。
「フン、逃げずに来たか」
白いライダースーツをその身に纏い、高貴さを表すブロンドの髪をヘルメットで覆う長身の男、ジャック・アトラス・D。
このシティのキングが自らの愛機、漆黒のボディを輝かせるホイール・オブ・フォーチュン・Dに搭乗し、赤の眼で遊矢を睨む。
「しかし、1人とはな。てっきりチームメイトを連れて来ると思ったが、貴様1人で俺達3人を相手にするつもりか?」
ニヤリと口角を上げるの彼の傍に、機械的な視線を向けるクロウ・ゴーストが並び、彼等の背後に巨大なDーホイールを飛行させ、降り立つ白コナミ。
そう、3人――この化け物を相手にしなければならないのだ。チーム5D'sの放つ威圧感に思わず遊矢がゴクリと喉を鳴らす。せめてユーゴとセレナがいれば。
「俺の相手はユーゴになると思っていたのだがな、まぁ良い貴様で満足させてもらおう」
そんな、時だった。
「そいつで、満足されて堪るかぁっ!」
ドシュンッ、遊矢の背後から2機のDーホイールが飛び出し、遊矢の味方をするように前に降り立ったのは。
1つはジャック・Dのホイール・オブ・フォーチュンの黒と対を為す純白、そして兄弟機とも言える程似た形状をした独特のDーホイール、ホイール・オブ・フォーチュン。
そしてもう1つはクロウ・ゴーストのブラック・バード・アルビオンの白の逆、漆黒のボディを輝かせるブラック・バード。
この2機を操るDーホイーラーは、少なくとも遊矢が知る中ではそれぞれ1人しかいない。そう、彼等は。
「ジャック!クロウ!」
ジャック・アトラスと、クロウ・ホーガン。偽りの魂にその存在を示すように、本物の輝きが見参する。
彼等の姿を目に捉え、ジャック・Dが表情を分かりやすく歪める。まるで、今更何をしに来たと言わんばかりの視線をジャックは真っ向から受け止め、跳ね返す。
何をしに来たか、そんな事、ジャックにとっては決まりきった事だ。
「名誉挽回、と言う訳ではないが、貴様に勝ち、ジャック・アトラスを取り戻しに来た!」
「……何?」
「今宵の俺はチャレンジャー、この挑戦、まさか逃げる訳ではあるまい、キングよ!」
右手の指先を己の偽物に向け、高らかに挑戦を宣言するジャック。その姿にはチャレンジャーであると言うにも関わらず、遊矢と闘う前以上に王者としての誇り高き意志が見てとれた。
知っている、ジャック・Dは彼を。これこそが己に忘れ得ぬ敗北を刻んだ男、正真正銘、本物のジャック・アトラス。
復活した宿敵の魂の輝きに、ジャック・Dは嬉しさの余り、口角が破けんばかりの笑みを浮かべる。これだ、この男こそを、待っていた。
「クク、フハハハハ!良いだろう、まだ名を持たぬデュエリストよ!己の存在を証明したくば、この俺に勝ち、ジャック・アトラスの名を奪い取って見せろ!俺こそがチームネオ5D'sのジャック・アトラス・D!このシティのキングだ!」
「へっ、俺達に許可も得ず5D'sを名乗る不届き者が言ってくれるぜ!」
高らかに笑うジャック・Dに対し、クロウがニヤリと笑い、ジャック・Dとクロウ・ゴーストを睨む。彼に、彼等にとってチーム5D'sの名は遥かに重い。勝手に名乗る彼等を見過ごす訳にはいかないのだ。
「なら俺達も名乗ればいい」
「あいつ等がいないのに名乗れるかよ。つーかこいつ等3人しかいないのに良く5とか言えるな」
「挑発しているのだろう、俺達を……さて、そう言う事だ。榊 遊矢。このデュエル、俺とクロウが手を貸そう」
「ありがたく思いな」
彼等も遊矢の知らぬ因縁があるのだろう、まるで親友のように軽口を交わしながら手を差し伸べる2人に、遊矢は目を丸くした後、ふにゃりと表情を緩ませる。
「……はは、何でジャックが2人とか、2人は知り合いだったのかとか、聞きたい事がいっぱいあるけど……うん、2人が力を貸してくれれば頼もしい」
「フ、そう言われると頑張らなくてはいけないな」
「お前もしっかりと大将努めな。前は俺達に任せてよ。チーム5D'sは駄目だが、そうだな、こう言うのはどうだ?」
クロウが悪巧みをした子供のような笑みを浮かべ、眼前の敵に向かい、雄々しく名乗りを上げる。
「チームARCー5D's!ぶち抜かせてもらうぜ!」
こうして、チームARCー5D'sとチームネオ5D's。2つの5D'sならざる5D'sが激突する。
先鋒はジャック同士の対決、2人は互いのホイール・オブ・フォーチュンを並ばせ、同時に疾駆させる。弾かれたような爆発的スタートダッシュ。制したのは、何とジャックだ。
機体差では改良機であるホイール・オブ・フォーチュン・Dの方が高性能、ライディングテクニックも決してジャック・Dは劣らない。なのに、僅か一歩が届かない。
「馬鹿な……!」
「先攻は譲ってもらうぞ!キング!」
「ッ、面白い……!」
互いに5枚のカードを引き抜き、今デュエルが開戦する。
「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」
フィールド中に弾けた光が広がり、その姿を舐め上げるように変えていく。アクションフィールド、『スターライト・ジャンクション』がこのシティを光で満たす。
「俺のターン、ドロー!『レッド・スプリンター』を召喚!」
レッド・スプリンター 攻撃力1700
ジャックが召喚したのは炎の鬣を持つ黒馬。主人の隣に並んで駆ける姿を見て、ジャック・Dがフンと鼻を鳴らす。
悪くはないが、このモンスターを召喚した後の展開が容易に思い浮かんだが為の失望だった。
「このカードの召喚時、俺のフィールドに他のモンスターが存在しない事で手札のレベル3以下の悪魔族チューナー、『レッド・リゾネーター』を特殊召喚する!」
レッド・リゾネーター 守備力200
思った通り、続いて現れたのは炎のローブを纏い、音叉とステッキを持った小さな悪魔の姿をしたチューナーモンスター。
思い通りの展開にジャック・Dは期待をし過ぎたかと内心で舌打ちを鳴らす。
「『レッド・リゾネーター』の効果!特殊召喚時、『レッド・スプリンター』の攻撃力分、LPを回復する!」
ジャック・アトラス LP4000→5700
「そしてレベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!赤き魂、ここに1つとなる。王者の雄叫びに震撼せよ!シンクロ召喚!現れろ、『レッド・ワイバーン』!」
レッド・ワイバーン 攻撃力2400
そしてシンクロ召喚、『レッド・リゾネーター』の姿が光のリングとなって弾け飛び、『レッド・スプリンター』を包み、閃光が貫く。
中より飛び出したのは後頭部から火炎を吹かせた深紅の飛竜。ジャックが持つシンクロモンスターの中でも最も先攻に向いているカードだ。
「カードを2枚セット、ターンエンドだ」
ジャック・アトラス LP5700
フィールド『レッド・ワイバーン』(攻撃表示)
セット2
手札1
「俺のターン、ドロー!今更『レッド・ワイバーン』か……そいつの攻略法は既に榊 遊矢が見せている!そんなもので俺を止められると思うな!俺は『戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン』を妥協召喚!」
戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン 攻撃力1500
ズズンと音を鳴らし、現れたのは巨大な悪魔の王。血色の刀身を持つ剣を構える上級モンスターだ。雄々しい角を頭、肩、更には膝にある髑髏から伸ばし、赤い眼が『レッド・ワイバーン』を射抜く。その力が半減されていると言うのに凄まじい威圧感だ。
「お次はこのカードだ。魔法カード、『手札抹殺』を発動。手札を交換、ジェネシスの効果発動!墓地の『デーモン』を除外し、『レッド・ワイバーン』を破壊!『レッド・ワイバーン』の攻略法等いくらでもある!」
「ならばこそだ!罠発動!『スキル・プリズナー』!『レッド・ワイバーン』を対象に取るモンスター効果を無効にする!」
「魔法カード、『モンスターゲート』!ジェネシスをリリースし、デッキトップから通常召喚可能なモンスターが出るまでカードを墓地に送り、通常召喚可能なモンスターが出れば特殊召喚する!6枚のカードを墓地に送り、『デーモンの将星』を特殊召喚!」
デーモンの将星 攻撃力2500
今度は凶皇の部下である『デーモン』の将。苦し紛れの策か、『レッド・ワイバーン』の効果射程圏内だが。
「バトルだ!」
「『レッド・ワイバーン』の効果発動!フィールドで一番攻撃力が高いモンスターを破壊!」
「速攻魔法、『収縮』!将星の攻撃力を半分に!」
これが『レッド・ワイバーン』の攻略法、遊矢やシンジが見せた技だ。敢えて、自身のモンスターの攻撃力をダウンさせるテクニック。
これによってフィールドの一番攻撃力が高いモンスターは『レッド・ワイバーン』自身となり、自爆する事になるのだが。
「俺が何時までも同じ手を食らうか!カウンター罠、『見切りの極意』!相手の墓地のあるモンスター、魔法、罠と同名カードの発動を無効にし、破壊!」
「ッ!」
既にジャックはこれを2回食らっている。ならば3度目が通るか?否、復活したジャックに、この手はもう通じない。
舐めているのはこちらの方だったかとジャック・Dが舌打ちを鳴らす。
「だが残念だったな!速攻魔法、『デーモンとの駆け引き』!レベル8以上のモンスターがフィールドから墓地に送られたターン、デッキから『バーサーク・デッド・ドラゴン』を特殊召喚する!」
バーサーク・デッド・ドラゴン 攻撃力3500
『デーモン』達の死肉の臭いを嗅ぎ付け、フィールドに現れたのは痩せ細った黒竜のゾンビ。攻撃力3500、1ターン目からとんでもないモンスターを呼び出してしまった。
「『バーサーク・デッド・ドラゴン』で『レッド・ワイバーン』へ攻撃!」
「墓地の『復活の福音』を除外し、破壊を防ぐ!」
「だがダメージは受けてもらう!」
ジャック・アトラス LP5700→4600
『バーサーク・デッド・ドラゴン』が勢い良く飛び出し、大きく口を開いて『レッド・ワイバーン』に食らいつこうとする。バキリ、激しい音が響くもそれは『レッド・ワイバーン』自身ではなく、その姿を模した像、身代わりに破壊されて砕かれる。
「カードを1枚セット、ターンエンド。この瞬間、『バーサーク・デッド・ドラゴン』の攻撃力は500ダウンする」
バーサーク・デッド・ドラゴン 攻撃力3500→3000
ジャック・アトラス・D LP4000
フィールド『バーサーク・デッド・ドラゴン』(攻撃表示)
セット1
手札0
「俺のターン、ドロー!『フォース・リゾネーター』を召喚!」
フォース・リゾネーター 攻撃力500
ジャックのターンに移り、彼のフィールドに新たな『リゾネーター』が飛び出す。孫悟空の頭部を模した球体を背に負い、両手からバチバチと電撃を迸らせたモンスターだ。
レベルは2、『レッド・リゾネーター』と同じだが、こちらは水属性、使いやすさは劣るが、どうせチューナーとして利用するのだから問題ない。
「レベル6の『レッド・ワイバーン』に、レベル2の『フォース・リゾネーター』をチューニング!王者の咆哮、今天地を揺るがす。唯一無二なる覇者の力をその身に刻むが良い!シンクロ召喚!荒ぶる魂、『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』!!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000
2ターン連続シンクロ召喚、ジャックの声に応えるかの如くフィールドに上がる火柱を裂いて現れたのは、彼のエース。
雄々しく、力強い体躯の左半身は痛々しい傷が走り、その腕にはギプスが巻かれており、背から伸びた翼が天を覆う。額、側頭部からは山羊角が捻れ立ち、鋭い牙が並ぶ口から荒い息が白い霧となって漏れ、火花が散る。
『レッド・デーモン』。赤い悪魔の異名を持つ竜が今、深紅の光を纏って君臨する。
「スカーライトか……」
「今までの俺も、決して無駄にはしない。無駄な闘いも、無駄な勝利も、俺もこのカードも刻んでいないのだから!」
今までの自分も受け止めて、ジャックは更に突き進む。ただ今までは回り道をしていただけ、決して、このシティのキングでいた事は無駄ではない。
それは例え自分でも否定させない。それを否定すると言う事は、闘って来た者達を否定してしまうのと同じだと、ジャックは気づいたから。
「良かろう、それこそが勝者の責、キングの絶対条件!真のキングとは、地位に宿るものではない、魂に宿り、それが地位へと表れるのだ!さぁ、貴様の魂の輝きを、このキングに見せてみろ!」
「言われずとも!貴様こそ、眩き輝きを前に目を逸らすなよ!スカーライトの効果発動!このカードの攻撃力以下の特殊召喚された効果モンスターを破壊し、その数×500のダメージを与える!アブソリュート・パワー・フレイム!」
「アクションマジック、『ミラー・バリア』!『バーサーク・デッド・ドラゴン』を効果破壊から守る!」
互いの竜のアギトに大気が集束し、深紅と紫の炎が放たれる。鬩ぎ合う炎は中央で爆発を引き起こし、吹き荒ぶ黒煙が両者の視界を奪う。
「ならば!スカーライトで攻撃!アクションマジック、『ハイダイブ』!スカーライトの攻撃力を1000アップ!」
「アクションマジック、『フレイム・チェーン』!スカーライトの攻撃力を400ダウン!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000→4000→3600
「闇を晴らせ!クリムゾン・ヘル・バーニング!」
だがジャックに迷いはない、指先をジャック・Dへと向けると共に、スカーライトが飛翔、獄炎を纏ってダイブ、煙を晴らし、スカーライトの突撃が狂える竜の胸部を撃ち抜き、絶命に至らせる。
ジャック・アトラス・D LP4000→3400
「ぐっ、おのれぇ……やってくれる……!」
「カードをセット、ターンエンドだ!」
ジャック・アトラス LP4600
フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)
セット1
手札0
「俺のターン、ドロー!俺も主役を出すとしよう、『レッド・スプリンター』を召喚!」
レッド・スプリンター 攻撃力1700
ジャック・Dの手札から現れたのはジャックも使用した炎の黒馬。準アタッカー級の展開効果を持ったカードだ。当然彼の墓地にはこのモンスターの射程範囲におさまる相方が既に送られている。
「効果発動!来い、『レッド・リゾネーター』!」
レッド・リゾネーター 守備力200
並ぶスプリンターと『リゾネーター』のコンビ。合計レベルは6、ここからジャックも召喚した『レッド・ワイバーン』の登場か、いや違う。ジャックは目を細める。この男の性格からして、自分と同じ事をする確率は低い。ならばここは、状況も考えてあのカード。
「『レッド・リゾネーター』の効果により、スカーライトの攻撃力分回復する!」
「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、無効!」
「レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ライジング・ドラゴン』!」
レッド・ライジング・ドラゴン 攻撃力2100
ジャックの予想通り、シンクロ召喚されたのは『レッド・デーモン』の姿を模した炎の竜。スプリンターと同じく展開手段として活用されるカードだ。
「効果で『レッド・リゾネーター』を蘇生!更に墓地の『レッド・ミラー』の効果により、このカード自身を回収!」
レッド・リゾネーター 守備力200
「そしてレベル6の『レッド・ライジング・ドラゴン』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!漆黒の闇を裂き天地を焼き尽くす孤高の絶対なる王者よ!万物を睥睨しその猛威を振るえ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン』!!」
炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000
爆炎を巻き起こし、逆巻く炎を背に現れたるはジャック・アトラスのエースモンスター。ジャックの持つ『レッド・デーモン』とは異なる、もう1つの『レッド・デーモン』。決闘竜の名を誇る赤き魔竜がスカーライトを睨む。
スカーライトと違い、この竜は格下のみならず、格上にも牙を剥く絶対王者。逆らわず、地に頭を擦り付ける事だけが逃れる一手だ。
「許しを乞うが良い、『レッド・デーモン』の効果発動!このカード以外の攻撃表示モンスターを全て破壊する!真紅の地獄炎!」
「ぐおっ……!」
炎魔竜が炎を纏った右腕でスカーライトの首を掴んで締め上げ、ボキリと首の骨を折り砕く。そしてそのまま凄まじき腕力でスカーライトの全身の骨を引き摺り出し、獄炎で焼却。派手な火葬を見せつける。
「バトル!炎魔竜でダイレクトアタック!極獄の絶対独断!」
「させん!罠発動!『カウンター・ゲート』!攻撃を無効にし、カードを1枚ドロー!モンスターならば召喚出来る!」
ジャック・アトラス 手札0→1
「引いたカードは『ダーク・リゾネーター』!」
ダーク・リゾネーター 攻撃力1300
まるで炎魔竜からジャックを守る盾になるかの如く、両者の間に飛び出したのは始まりの『リゾネーター』。ジャックお気に入りのチューナーモンスターだ。彼は小柄な身体にも関わらず、両手に持った音叉とステッキを重ね、炎魔竜を睨む。
「アクションマジック、『セカンド・アタック』!炎魔竜で『ダーク・リゾネーター』を攻撃!」
「ぬ、おぉぉっ!」
ジャック・アトラス LP4600→2900
しかし所詮は下級モンスター。圧倒的な力を誇る炎魔竜を前にしては余りにも無力、頼りなく『ダーク・リゾネーター』の背に負われたでんでん太鼓が揺れると共に、衝撃が撃ち抜き、ニヤリと弧を描いていた口元が一瞬で歪む。
更に裂波は背後のジャックにまでおよび、クルクルとホイール・オブ・フォーチュンが回転、大きく姿勢を崩す。
「く、『ダーク・リゾネーター』は1ターンに1度、戦闘で破壊されない……!」
「フ、今度は俺の有利だな」
「直ぐに抜いてやる、その余裕の笑みを崩してな!」
なんとか気合いで持ちこたえ、回転を逆利用して体制を立て直すジャック。その間にもジャック・Dは疾駆、ジャックを追い抜く彼の背を見て気丈に吠えて見せる。
「ターンエンド、貴様のターンだ!」
ジャック・アトラス・D LP3400
フィールド『炎魔竜レッド・デーモン』(攻撃表示)
セット1
手札1
「俺のターン、ドロー!俺の墓地の闇属性モンスター、『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』を除外する事で、手札の『輝白竜ワイバースター』を特殊召喚!」
輝白竜ワイバースター 守備力1800
スカーライトの屍を蛹の如く食い破り、登場したのは青い体躯に純白の鱗を纏わせた光輝く翼竜。闇属性と光属性を混合する事で真価を発揮するカオスモンスターの一種だ。
「レベル4のワイバースターに、レベル3の『ダーク・リゾネーター』をチューニング!新たなる王者の脈動、混沌の内より出でよ!シンクロ召喚!誇り高き、『デーモン・カオス・キング』!」
デーモン・カオス・キング 攻撃力2600
『レッド・デーモン』に対するは頭部から爆炎を起こす細い体躯の魔王。王者の名を刻む『デーモン』だ。本来ジャックのカードではないが、彼が力を貸してくれていると言う事か、今更ながら記憶を取り戻して思い知る。
ジャックのシンクロモンスターには格上を打倒出来るモンスターは少ない、だからこそこの1枚はありがたい。
「ワイバースターがフィールドから墓地に送られた事で、デッキより『暗黒竜コラプサーペント』をサーチする!そして墓地の光属性モンスター、ワイバースターを除外して手札から特殊召喚!」
暗黒竜コラプサーペント 攻撃力1800
ワイバースターがグルリと回転し、その姿を大きく変える。ブラックホールの発生器官を胸部に持つ刺々しい黒竜。ワイバースターと対をなすカードだ。ワイバースターが死せばこのモンスターが産声を上げ、コラプサーペントが消えればワイバースターが蘇る。二身一体、2体あってこそ真価を発揮するカードなのだ。
「バトル!『デーモン・カオス・キング』で炎魔竜へ攻撃!この攻撃宣言時、お前のモンスターの攻守を入れ替える!魔竜を切り裂け!ファイアソード!」
「攻撃宣言時、手札から『レッド・ミラー』を墓地に送り、『レッド・スプリンター』を墓地から回収!」
炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000→2000
ジャック・アトラス・D LP3400→2800
突如炎魔竜の周囲の重力が倍加し、勢い良く叩き伏せられ、身動きを封じられる紅蓮魔竜。
その隙を突き、魔王が両手に炎の剣を生成、赤と青の二刀流、踊るように回転して投擲し、直撃した途端、大爆発を起こす。
フィールドへ吹く爆風を受け、今度はジャック・Dの黒き機体が風見鶏の如く回転し、フラフラと千鳥足を踏む。
「更にコラプサーペントで攻撃!」
「調子に乗るな!罠発動、『パワー・ウォール』!デッキから4枚のカードを墓地に送り、ダメージを0にする!」
続くコラプサーペントが爆風に流れ、ジャック・Dの背後から襲いかかるもジャック・Dは見抜いていたのか一回転して罠を発動、デッキから投げ出された4枚のカードが宙を舞い、盾となって彼を守る。
「かわすか、俺はこれでターンエンドだ」
ジャック・アトラス LP2900
フィールド『デーモン・カオス・キング』(攻撃表示)『暗黒竜コラプサーペント』(攻撃表示)
手札0
「俺のターン、ドロー!クク、良いぞ。これだ、これが俺の求めていたもの!だがまだだ!まだ足りん!もっともっとジャック・アトラスをさらけ出せ!言った筈だ、俺は貴様がジャック・アトラスだろうと踏み潰すと!あの時のままでは進化した俺を倒すには至らん!永続魔法、『補給部隊』を発動、『レッド・スプリンター』を召喚!」
レッド・スプリンター 攻撃力1700
「『レッド・リゾネーター』を蘇生!」
レッド・リゾネーター 守備力200
「『デーモン・カオス・キング』の攻撃力を吸収!」
ジャック・アトラス・D LP2800→5400
「レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!赤き魂、ここに1つとなる。王者の雄叫びに震撼せよ!シンクロ召喚!現れろ、『レッド・ワイバーン』!」
レッド・ワイバーン 攻撃力2400
天空に巨大な火の玉が逆巻き、引き裂いて中より現れたのはジャックも使用した翼を広げし赤い翼竜。
ここでこのカードの登場、ジャックはぐ、と奥歯に力を入れる。
「『レッド・ミラー』をサルベージ、『レッド・ワイバーン』の効果発動!『デーモン・カオス・キング』には退場してもらおう。王者はこの俺ただ1人、ジャック・アトラス・Dだ!」
「やってくれる……!」
「この程度では終わらんぞ?墓地の『レッド・ライジング・ドラゴン』を除外する事で、墓地から『バリア・リゾネーター』と『シンクローン・リゾネーター』、2体のレベル1『リゾネーター』を蘇生する!」
バリア・リゾネーター 守備力800
シンクローン・リゾネーター 守備力100
放電する2本の角を背負った『リゾネーター』と奇妙な音符のようなオブジェクトを背負った『リゾネーター』が現れる。
『パワー・ウォール』の際に送られていたのか、最悪の展開だ。
「レベル6の『レッド・ワイバーン』に、レベル1の『バリア・リゾネーター』をチューニング!王者の叫びが木霊する!勝利の鉄槌よ、大地を砕け!シンクロ召喚!羽ばたけ!『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』!」
エクスプロード・ウィング・ドラゴン 攻撃力2400
『レッド・ワイバーン』から進化を遂げ、天空を飛翔するのは後頭部が隕石のように膨張したエイリアン染みたドラゴンだ。
このカードで大ダメージを狙うつもりかとジャックは目を細めるが、直ぐ様横にいる『シンクローン・リゾネーター』に視線を写し、その考えを正す。
「ほう、勘が良いな、無論このまま攻めはしない。貴様相手だ、ここはダメージより妨害を取る!レベル7の『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』に、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』をチューニング!王者の決断、今赤く滾る炎を宿す、真紅の刃となる!赤き波濤を超え、現れよ!シンクロ召喚!炎の鬼神、『クリムゾン・ブレーダー』!」
クリムゾン・ブレーダー 攻撃力2800
颯爽と見参したのは真っ赤な甲冑を纏う炎の剣士。クルリと華麗な剣舞を見せ、恭しく礼をした後、剣を構える。
召喚をも許さぬ上級殺し。成程、このカードで確実にジャックを仕留めるつもりらしい。
「『シンクローン・リゾネーター』の効果により、墓地の『レッド・リゾネーター』回収。さぁ、バトル!『クリムゾン・ブレーダー』でコラプサーペントへ攻撃!引き裂け炎よ!レッドマーダー!」
「くぁっ!?」
ジャック・アトラス LP2900→1900
「ッ、コラプサーペントの効果でワイバースターをサーチする!」
「だが同時に『クリムゾン・ブレーダー』の効果が起動、次の貴様のターン、貴様はレベル5以上のモンスターの召喚、特殊召喚が封じられる。ターンエンドだ」
ジャック・アトラス・D LP5400
フィールド『クリムゾン・ブレーダー』(攻撃表示)
『補給部隊』
手札2
ぶつかり合う熱き魂、ジャックとジャック・D。王者の咆哮を轟かせる2人の対決に、遊矢の心が魅せられ、熱気を帯びる。
フレンドシップカップ決勝戦、チームARCー5D'sとチームネオ5D's、激闘を制し、勝利するのはどちらか。それは、大いなる神のみぞ知る。
今後の更新についてなのですが、エクシーズ次元編が全く進んでいません。オリジナルマシマシにしたばかりに……!
こりゃヤバい、と思いせめてシンクロ次元だけでも終わらせようとした次第です。
エクシーズ次元編からはキリが良いところまで書き上げ次第投稿しようと思います。
勝手ながら申し訳ありません。