シティ地下にて、2人の男が対峙する。
1人はこのシティの革命を望むコモンズの人間、シンジ・ウェーバー。
そしてもう1人は、キングの座から転落した男、ジャック・アトラス。
クロウ・ホーガンが見守る中、シンジは鋭い眼でジャックを射抜き、対するジャックは明らかな動揺を表情に浮かべている。
「デュエル……だと?馬鹿な、言っただろう!今の俺はキングではないと!そんな俺とデュエルして何になる!」
「ハァ?お前こそ何言ってやがる。デュエルをするのに、大層な理由が必要か?」
馬鹿馬鹿しいと、シンジの挑発を切り捨てるジャックだが、シンジの意志は固い。元々1度決めたら突っ走っていく性格だ。この状態の彼はクロウとて止められない。
「それとも尻尾巻いて逃げんのかキング?まぁ、逃がさねぇけどよ」
「シンジ……」
「止めんなよクロウ。なぁ、キング様よ。お前だって分かってんだろ?このまま逃げても何にもならねぇってよ」
「……」
無言、シンジの問いかけに対し、ジャックは目を伏せ、だんまりを貫く。彼も実際分かっているのだろう。それでも、立ち上がる気力がない。
「立てよキング、それとも1人じゃ立てねぇか?」
「……良いだろう、そこまで言うなら、デュエルでも何でもしてやる」
「へっ、そう来なくちゃなぁ!さぁ、始めようぜ!」
シンジの挑発を何度も受け、漸くやる気になったのか、それでも弱々しい動作であるが、クロウが奪取していたデュエルディスクを構え、光輝くプレートを展開する。この状態だったのだ。デッキは没収されなかったのだろう。
シンジもデュエルディスクを構え、好戦的な笑みを浮かべ、口火を切る。
「「デュエル!!」」
互いに5枚のカードを引き抜き、デュエルが始まる。先攻はジャックだ。彼は手札に視線を落とし、考え込む。気が進まないが、勝てばシンジも口を出すまいと戦術を練る。
「魔法カード、『強欲で金満な壺』。エクストラデッキから6枚のカードを除外し、2枚ドロー」
ジャック・アトラス 手札4→6
「モンスターをセット、カードを2枚セット、ターンエンド」
とは言え手札が悪い。様子見を兼ね、ここは守備を固める。堅実ではあるが、ジャック・アトラスらしさとはかけ離れた1ターン目だ。
ジャック・アトラス LP4000
フィールド セットモンスター
セット2
手札3
「俺のターン、ドロー!おいおい、何だそりゃあ、本当腑抜けちまったなぁ。これならガキでも勝てちまうぜ!俺は永続魔法、『補給部隊』を発動、『B・F早撃ちのアルバレスト』を召喚!」
B・F早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800
現れたのは固める。『B・F』の下級アタッカー、アルバレスト。蜂を模したモンスターだ。ブブブと羽を震動させ、シンジの手札より飛び出す。モンスターとは言え、子供程度の大きさを持つ蜂。見るだけでおっかない。
「バトル!アルバレストでセットモンスターへ攻撃!」
「……セットモンスターは『ダーク・リゾネーター』。1ターンに1度、戦闘で破壊されない」
「チ、カードを2枚セット、ターンエンドだ」
シンジ・ウェーバー LP4000
フィールド『B・F早撃ちのアルバレスト』(攻撃表示)
『補給部隊』セット2
手札2
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『打ち出の小槌』。手札を交換し、『マッド・デーモン』を召喚!」
現れたのは赤い髪を逆立たせ、腹部に持った口からドクロが覗く恐ろしい出で立ちの悪魔。アルバレストと同じく攻撃力は1800。しかしシンジのモンスターとは違い、こちらはメリットとデメリットを持っている。扱い辛さのあるカードだ。
「レベル4の『マッド・デーモン』に、レベル3の『ダーク・リゾネーター』をチューニング!新たなる王者の脈動、混沌の内より出でよ!シンクロ召喚!誇り高き、『デーモン・カオス・キング』!」
デーモン・カオス・キング 攻撃力2600
シンクロ召喚、『ダーク・リゾネーター』が両手に握る音叉を重ねて鳴らし、自身の3つの輝くリングに変化、その中を『マッド・デーモン』が潜り抜ける事で、7つの星が煌めく。
そして、閃光がフィールドを覆い、現れ出でたるは紅蓮の悪魔。
か細い体躯とは裏腹に、凄まじい熱気を纏い、背に炎の翼を、頭部からはマグマを吹き出している。
「バトル!『デーモン・カオス・キング』で、アルバレストへ攻撃!この瞬間、フィールドの全てのモンスターの攻守をバトル終了まで入れ替える!」
B・F早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800→800
「チ、罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを防ぎ、1枚ドロー!『補給部隊』の効果で更に1枚ドロー!」
シンジ・ウェーバー 手札2→3→4
「もう一丁!アルバレストが破壊された事で、手札から同名モンスターを特殊召喚!」
B・F早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800
ダメージを防ぎつつ、ドロー、特殊召喚と次の展開を支えるシンジ。実に上手い組み立て方だ。ジャックが相手でも一歩も譲らない。
「……ターンエンドだ」
ジャック・アトラス LP4000
フィールド『デーモン・カオス・キング』(攻撃表示)
セット2
手札2
「俺のターン、ドロー!『B・F必中のピン』を召喚!」
B・F必中のピン 攻撃力200
アルバレストの隣に並んだのは対照的に小さく、可愛らしいとも言える『B・F』。アルバレストがスズメバチだとすればこちらは蜜蜂か。低レベルに見合った低ステータス。効果も弱いと見た目通りのカードであるが、レベル2以下の『B・F』と言うだけでシンジにとっては戦力となる。
「ピンの効果!1ターンに1度、相手に200のダメージを与える!」
ジャック・アトラス LP4000→3800
「……フン」
微弱なダメージが入り、ジャックが僅かに眉を動かす程度。やはり200と言うダメージでは大した傷にならない。
「バトル!アルバレストで『デーモン・カオス・キング』へ攻撃!そして罠発動、『奇策』!手札の『デーモン・イーター』を捨て、『デーモン・カオス・キング』の攻撃力を捨てたモンスターの攻撃力分ダウンする!」
デーモン・カオス・キング 攻撃力2600→1100
ジャック・アトラス LP3800→3100
「ちぃっ……!」
「続け、ピンでダイレクトアタック!」
「させん!罠発動、『リジェクト・リボーン』!バトルフェイズを終了し、墓地のシンクロモンスター、『デーモン・カオス・キング』とチューナーモンスター、『ダーク・リゾネーター』を蘇生!」
デーモン・カオス・キング 攻撃力2600
ダーク・リゾネーター 攻撃力1300
シンジが『奇策』を使う事により、ジャックの不意を突いて『デーモン・カオス・キング』を撃破。『デーモン・イーター』の名に恥じぬ活躍を見せるが、調子に乗らせるかとばかりに二の矢をへし折る。効果こそ無効化されたが、高い攻撃力は健在。再び高き壁がそびえ立つ。
「へっ、そう来なくちゃなぁ。このままじゃ物取りねぇと思ってた所だ。カードを1枚セット、ターンエンドだ」
シンジ・ウェーバー LP4000
フィールド『B・F早撃ちのアルバレスト』(攻撃表示)『B・F必中のピン』(攻撃表示)
『補給部隊』セット1
手札1
「俺のターン、ドロー!『ランサー・デーモン』を召喚!」
ランサー・デーモン 攻撃力1600
ジャックの手札から飛び出したのはドクロの兜を被り、紫の鎧を纏う両腕が槍と化した悪魔。腰から伸びる赤マントを翻し、騎士の如く槍を縦に構える。
「バトルだ!『デーモン・カオス・キング』でアルバレストに攻撃!」
「させねぇよ!罠発動、『聖なるバリアーミラーフォース』!相手モンスターの攻撃宣言時、相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊!」
「何っ!?」
ジャックが仕掛けたその時、シンジがニヤリと笑みを浮かべ、罠を発動、ご存知ミラフォが完璧に決まってジャックのモンスターを全滅させる。迂闊、常のジャックであれば踏まなかった失態だ。
「くっ、ターンエンドだ」
「この瞬間、墓地の『デーモン・イーター』の効果発動!アルバレストを破壊し、蘇生!」
デーモン・イーター 攻撃力1500
「『補給部隊』の効果でドロー!」
シンジ・ウェーバー 手札1→2
「アルバレストの効果で同名を呼ぶ」
B・F早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800
ジャック・アトラス LP3100
フィールド
セット1
手札2
上手いコンボだ。アルバレストが破壊される事のみを利用し、場を整えるプレイング。これにはジャックもほうと舌を巻く。成程、粗削りながら高い才気で一流以上の実力は持っているらしい。プロデュエリスト相手だろうと退けをとらないだろう。
それでも、ジャック・アトラス・Dには劣るが。
アレは別格だ。パワーのみならず、高いレベルで基礎が完成しており、テクニカルな手も使って来る。しかもジャックを相手に勝利宣言を行う余裕からして、完全に遊ばれていた。正直、タイマンでアレに勝てるビジョンが浮かばない。
「俺のターン、ドロー!ヌルいぜジャック!テメェの実力はそんなもんだったかぁ!?俺はまだシンクロ召喚もしてねぇぞ!俺はピンの効果発動!」
ジャック・アトラス LP3100→2900
「くっ……!」
「バトルだ!アルバレストでダイレクトアタック!」
「手札の『バトル・フェーダー』の効果発動!このカードを特殊召喚し、バトルを終了させる!」
バトル・フェーダー 守備力0
手数を増やし、果敢に攻めるシンジに対し、ジャックは手札から鐘と一体化した悪魔を呼び出して何とか防ぐ。完全に押されている。
クロウはジャックを圧倒するシンジに驚く――事はなく、ジャックの不調に目を見開く。果たしてジャックはこんなにも脆かったのか。
心の内に違和感が溜まり、首を傾げる。
違う筈だ。自分の知るジャック・アトラスは、もっと――もっと、何だ?考えた所で、今度は自分に疑問が生じる。クロウ・ホーガンとジャック・アトラスには、接点等無い筈だ。なのに何故、違和感等覚えるのか。
「しぶとさだけはキングってか?魔法カード、『命削りの宝札』を発動。カードを3枚ドロー!」
シンジ・ウェーバー 手札0→3
「カードを3枚セット、ピンを守備表示に変更、ターンエンドだ」
シンジ・ウェーバー LP4000
フィールド『B・Fー早撃ちのアルバレスト』(攻撃表示)『B・Fー必中のピン』(守備表示)『デーモン・イーター』(攻撃表示)
『補給部隊』セット3
手札0
「俺のターン、ドロー!『バトル・フェーダー』をリリース!アドバンス召喚!『ストロング・ウィンド・ドラゴン』!」
ストロング・ウィンド・ドラゴン 攻撃力2400
『バトル・フェーダー』と入れ替わりに現れ、地を踏むのは緑に染まった強靭な体躯を誇るドラゴン。逞しい筋肉で膨れ上がった身体を持ち、グルルと獰猛な唸り声を喉から鳴らす。
「バトル!『ストロング・ウィンド・ドラゴン』で、ここはアルバレストを狙う!ストロング・ハリケーン!」
『ストロング・ウィンド・ドラゴン』には貫通ダメージを与える効果がある。守備表示のピンを狙えば大ダメージを狙えるが、ここは定石通り、相手の最大全力を削る。
シンジ・ウェーバー LP4000→3400
「チッ、『補給部隊』の効果でドロー!」
シンジ・ウェーバー 手札0→1
「カードを1枚セット、ターンエンドだ」
ジャック・アトラス LP2900
フィールド『ストロング・ウィンド・ドラゴン』(攻撃表示)
セット2
手札0
「俺のターン、ドロー!罠発動、『強欲な瓶』!2枚だ!2枚のカードをドロー!」
シンジ・ウェーバー 手札2→3→4
「フン……ピンの効果!」
ジャック・アトラス LP2900→2700
「『アーマード・ビー』を召喚!」
アーマード・ビー 攻撃力1600
クルリとカードの中より巨大な蜂が宙を舞い、シンジのフィールドで羽を揺らす。『B・F』と同じく蜂をモチーフとしたモンスター。攻撃力こそ下級アタッカーより落ちるが、このカードの持つ効果は上級モンスターさえ落としかねないものだ。これ1枚で最大3200の攻撃力を処理出来る。
「『アーマード・ビー』の効果発動!『ストロング・ウィンド・ドラゴン』の攻撃力をターン終了まで半分に!」
「させん!罠発動、『スキル・プリズナー』!『ストロング・ウィンド・ドラゴン』を対象に取るモンスター効果を無効にする!」
『アーマード・ビー』から射出される毒針が『ストロング・ウィンド・ドラゴン』に襲いかかったその時、『ストロング・ウィンド・ドラゴン』は自らの筋肉を膨張、針を胸筋で挟むと言う離れ業を披露し、ポイと捨てる。最初のターンからセットしていたのはこのカードだったか、シンジは舌打ちを鳴らす。
「『デーモン・イーター』を守備表示に変更、カードを1枚セット、ターンエンドだ」
シンジ・ウェーバー LP3400
フィールド『B・Fー必中のピン』(守備表示)『アーマード・ビー』(攻撃表示)『デーモン・イーター』(守備表示)
『補給部隊』セット2
手札2
「俺のターン、ドロー!『ツイン・ブレイカー』を召喚!」
ツイン・ブレイカー 攻撃力1600
現れたのは手の甲から3本の剣を爪のよう伸ばしたに武士風のモンスター。一時はユートも使っていたカード、攻撃力こそ低いが、その性能は下級モンスターとしては一級品だ。
「バトル!『ストロング・ウィンド・ドラゴン』で『アーマード・ビー』へ攻撃!」
「罠発動、『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分に!」
シンジ・ウェーバー LP3400→3000
「そして『補給部隊』の効果でドロー!」
シンジ・ウェーバー 手札2→3
「次だ!『ツイン・ブレイカー』で『デーモン・イーター』へ攻撃!『ツイン・ブレイカー』も『ストロング・ウィンド・ドラゴン』同様、貫通効果を持っている!」
シンジ・ウェーバー LP3000→2300
「ぐっ……!」
「そして守備モンスターを攻撃した『ツイン・ブレイカー』はもう1度攻撃が可能!ダブル・アサルト!」
「この時を待っていた!永続罠、『B・F・N』!レベル2以下の『B・F』、ピンを対象に発動!対象のモンスター、そしてその同名モンスターが攻撃対象になった場合、デッキより同名モンスターを特殊召喚し、バトルを終了させる!」
B・Fー必中のピン 守備力300
「チッ、ターンエンドだ……!」
ジャック・アトラス LP2700
フィールド『ストロング・ウィンド・ドラゴン』(攻撃表示)『ツイン・ブレイカー』(攻撃表示)
セット1
手札0
「俺のターン、ドロー!2体のピンの効果発動!」
ジャック・アトラス LP2700→2500→2300
「ッ……!」
チクチクと突き刺さるピンのバーン効果、ダメージこそ低いが、これを続けられては堪ったものじゃない。実際にジャックは追い詰められているのだ。この、小さなモンスターに。
「塵も積もれば山となる。山も針でつつき続ければ崩れるってな。非効率がなんぼのもんじゃい!これがコモンズ魂だぜ!」
「分からないな、もっと手はあるだろうに……!」
2体並べて400、3体並べたとしても600にしかならないピンの効果にジャックは目を細め、鼻を鳴らす。
『B・F』と言うカテゴリに入っているとは言え、もっと他に手はあるだろうにと言う疑問だ。何故そうまでしてそのカードを使うのか、と。
「悪いが、他に手があろうが俺はコイツ等を使うぜ。俺はコイツ等を好きで使ってるんだ。コイツ等と一緒に勝ちたいから使ってるんだ。お前もそうじゃねぇのか?ジャックよぉ!」
「……何……?」
「デュエルを見れば、誰だって分かるぜ。テメェの持つ『レッド・デーモン』。あれは本当にテメェの魂だ。共に闘い、共に勝つ。魂が認めたフェイバリットカード。だからテメェのデッキはあのカードを中心に構築されてんだろ?」
「……」
デュエリストは数多くの目的でデッキを構築する。その中で最も多いのは、勝ちたいから、と好きだから。ジャックもシンジも後者になるデュエリストだ。
「魂が泣いてるぜ、ジャック。負け犬のままで良いのかってな」
「…口が過ぎるぞ、シンジ・ウェーバー」
「ごまかすなよ。それともテメェの魂は、テメェのカード達は声を重ね合わせても聞こえない程度のタマか?」
「口ではなく、手を動かせろ」
「フン、上等だ。墓地の『アーマード・ビー』を除外し、『ジャイアントワーム』を手札から特殊召喚!」
ジャイアントワーム 攻撃力1900
地面から勢い良く飛び出したのは緑色の体躯の巨大ムカデ。ズゾゾゾゾ、と地面を這い、好戦的にキチキチと歯を鳴らす。見る者からくれば嫌悪感を抱く虫型のモンスターだ。
「やれ、『ジャイアントワーム』!『ツイン・ブレイカー』へ攻撃!」
ジャック・アトラス LP2300→2000
「そして『ジャイアントワーム』の効果でテメェのデッキトップ1枚を削る」
戦闘ダメージを与えた際に相手のデッキトップからカード1枚を墓地に送る強制効果。一見メリットのように見えるが、これはデメリットにもなり得る。デッキ破壊として微妙な上、墓地肥やしを助けてしまうからだ。
「カードを1枚セット、ターンエンド!さぁ来な、ジャック・アトラス。今のテメェ程度、軽くひねってやるよ」
シンジ・ウェーバー LP2300
フィールド『B・Fー必中のピン』(守備表示)×2『ジャイアントワーム』(攻撃表示)
『補給部隊』『B・F・N』セット1
手札2
「俺のターン、ドロー!そこまで言うなら良いだろう、貴様にも味合わせてやる!圧倒的な力と向き合う絶望のショーを!」
「遊矢1人倒せてねぇ癖に良く言うぜ!」
「貴様こそ良く吠える!『レッド・リゾネーター』を召喚!」
レッド・リゾネーター 攻撃力600
召喚されたのはジャックが持つ『リゾネーター』の中でも代表的で優秀なモンスター。炎を纏い、音叉とステッキを手にした赤い小悪魔。
守備力200の炎属性チューナーと言うだけで価値があるが、召喚時、特殊召喚時と対応する召喚によって2種の効果を発揮する。とは言えこの盤面では効果を使えないが。
「これでジャックのフィールドにレベル6の非チューナーとレベル2のチューナーが揃った……」
クロウがゴクリと唾を呑み込む。合計レベルは8。と来ればジャックのエースが脳裏に浮かび上がる。
シンジのフィールドには3体ものモンスターが存在している。つまり全体破壊効果を持つあのカードの格好のカモ。間違いなく仕掛けて来るだろう。
「レベル6の『ストロング・ウィンド・ドラゴン』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!王者の咆哮、今天地を揺るがす。唯一無二なる覇者の力をその身に刻むが良い!シンクロ召喚!荒ぶる魂、『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』!!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000
フィールドを炎の幕が覆い尽くし、奥より巨大な竜の影が出現する。そして次の瞬間、野太い腕が炎を引き裂き、深紅に燃える竜が咆哮する。
側頭部から伸びる角。山羊のような、悪魔を思わせるそれの左角は途中で折れており、左腕に巻かれ、赤い光を灯しているギプス同様痛々しさを感じさせる。巨大な翼を広げ、長い尾を振るう赤黒の悪魔竜。
スカーライト、これこそがジャック・アトラスの魂のエース。このカードが纏う覇気は凄まじいとしか言いようがない。
「スカーライトの効果発動!このカードの攻撃力以下の攻撃力の特殊召喚された効果モンスターを全て破壊し、その数×500のダメージを与える!アブソリュート・パワー・フレイム!」
「永続罠、『スクラム・フォース』!俺のフィールドに表側守備表示のモンスターが2体以上存在する場合、俺の守備モンスターは相手の効果の対象とならず、効果で破壊されない!そして墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、効果ダメージを半分に!」
シンジ・ウェーバー LP2300→2050
『B・F・N』に『スクラム・フォース』。攻撃も効果による攻略も防ぐ二段構えの盾。面倒な布陣だ。思わずジャックは舌打ちを鳴らす。
「そして『ジャイアントワーム』が破壊された事で『補給部隊』の効果発動!」
シンジ・ウェーバー 手札2→3
「バトル!スカーライトでピンへ攻撃!灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング!」
「『B・F・N』の効果発動!デッキよりピンを特殊召喚し、バトルを終了!」
B・Fー必中のピン 守備力300
スカーライトがジャックの指示に従い、自らの掌に火球を生み出し、叩きつけようとするも、シンジのフィールドに根差す蜂の巣より数多くの蜂が飛び出し、球状のドームとなってピンを守る。表面の蜂は焼き尽くされるが、中に存在するピンは無事だ。
「だがこれでそのカードの効果は使えまい」
「まぁな、『B・F・N』は2回効果を適用した事で破壊される」
「ターンエンドだ」
ジャック・アトラス LP2000
フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)
セット1
手札0
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『スクラム・フォース』をコストにドロー!」
シンジ・ウェーバー 手札3→5
「3体のピンの効果発動!」
ジャック・アトラス LP2000→1800→1600→1400
「チッ……!」
「魔法カード、『蘇生の蜂玉』!墓地の『B・F』モンスター、アルバレストの効果を無効にし、蘇生!このターン中の戦闘、効果破壊耐性を与える!」
B・Fー早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800
「そして『B・Fー毒針のニードル』を召喚!」
B・Fー毒針のニードル 攻撃力400
次は『B・F』のチューナーモンスター。今までのものとは違い、ターゲットマークを持つ一つ目と毒液を溜め込んだ下半身のガラス瓶等機械にも見えるモンスターだ。
「レベル4のアルバレストにレベル2のニードルをチューニング!その羽で爆風を巻き起こしその一刺しで真実の道を切り拓け!シンクロ召喚!来い、『B・Fー突撃のヴォウジェ』!」
B・Fー突撃のヴォウジェ 攻撃力2500
シンクロ召喚、ついに勝負に出たのか、シンジが得意の召喚法を使い、召喚されてのは青い鎧を纏い、奇妙な形をした赤い槍を構える蜂の戦士。攻撃力こそスカーライトに劣るが、だからこそ反撃の狼煙となるカードだ。
「ピンを攻撃表示に変更、バトル!ヴォウジェでスカーライトへ攻撃!このダメージ計算時、攻撃対象の攻撃力がヴォウジェより上回っている事でスカーライトの攻撃力を半分にする!」
「何だと!?」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト LP3000→1500
ジャック・アトラス LP1400→400
加速、ヴォウジェの速度がスカーライトへ向かう一瞬にして増し、姿を見失った竜が驚愕する隙に、その頭部に槍が突き刺され、倒れ伏す。余りにも呆気なくジャックのエースモンスター、スカーライトが破壊された。
「スカーライトを倒した……!」
「ハッ、相当腑抜けてやがるぜ。スカーライトを守る事だけは達者だったのになぁ!」
「ぐっ……!」
「こんなものがキングか!こんなものに俺達はなりたかったのか!こんなものに、今までチャレンジャーは負け続けてたのか!」
余りにも腑抜けてしまったジャックのデュエルに、シンジが怒りを露にして叫ぶ。その感情を大きく占めるものは、失望。ジャック・アトラスと言う男への軽蔑だ。
「何が、何が言いたい!」
「負け犬が……!ハッキリ言わなきゃ分かんねぇのか!テメェに負けていった奴は所詮負け犬のテメェに勝てねぇ程度の野郎だって事だ!」
ジャックではなく、ジャックに負けていった者達を、シンジは罵倒する。それは直接ジャックを罵倒する事よりも響く言葉だ。ジャックの心を激しく揺さぶる。
「応えなジャック!僕はたくさんの雑魚を倒してなった、お飾りのキングですってなぁ!ハハハハハ!笑わせるぜ!テメェは勝者の責任も果たそうとしないクソ野郎だ!」
「ッ、俺、は……!」
「文句が言いたきゃ踏ん張って見やがれ!この独りよがりが!3体のピンでダイレクトアタック!」
シンジの指示を受け、3体のピンが弾丸のようにジャックに猛スピードで向かって突き進む。現在ジャックのLPは僅か400。ピンの合計攻撃力は600。このままでは負ける。少なくとも、今のジャックでは。
「罠発動!『カウンター・ゲート』!相手の直接攻撃宣言時、攻撃を無効にし、1枚ドロー!それがモンスターならば召喚出来る!」
「ハッ、引けるか?今のテメェに!」
発動されたのは『ガード・ブロック』と似た効果のカード。ただしこちらは運の要素が強い。モンスターを引かなければダメージを受ける事もあるが、引いても上級モンスターなら、ジャックは終わる。
「確かに、お前の言う通りだ。今までの俺なら引けないだろう。だが、一歩先、いや、二歩、三歩先の俺ならどうだ!」
ギン、俯いていたジャックの顔が上がり、その鋭き眼に光が宿る。そして彼は自らのデッキに右手を添える。
「礼を言う、シンジ・ウェーバー。お蔭で、目が覚めた。そうだ――俺は例え負けても、止まる訳にはいかんのだ!俺が倒して来た者達の為にも、俺と共に闘うカード達の為にも!誇り高き、ジャック・アトラスでなければならない!」
そう、これがシンジが伝えたかった事だ。勝者とは、倒して来たデュエリストにとって、闘って胸を誇れるような者でなければならない。強者でなければならない。それを忘れ、自分を失っていたジャックは確かにシンジの言う通り、独りよがりだった。
しかし、ジャックは敗者であっても、愚か者ではなかった。
「フッ、格好のつけてる所悪いが、引けなきゃテメェが負ける事に変わらねぇ!」
ニヤリと笑みを浮かべ、不敵な表情を見せるシンジ。こうは言っているが、シンジはもう、ジャックがモンスターを引かない事等考えてはいない。むしろ、確実に引くだろうと想定している。
「知らないなら教えてやろう。キングのデュエルは、エンターテイメントでなければならない!逆転の引き金を引く事等、容易い!」
ジャック・アトラス 手札0→1
迷う事なく、ジャックは自らのデッキから1枚のカードを引き抜く。こご勝負の別れ道。ジャック・アトラスの復活を決める賭け。モンスターか、それ以外か、下級か上級か。『チェンジ・デステニー』。運命を今、変える。
「俺が引いたのは――」
ゴクリ、デュエルを見守るクロウの喉が鳴る。一体何を引いたのか、ジャックの鋭い表情からは読み取れない。モンスターを引いた事による不敵さか、それとも引けなかった不満さを表しているのか。ポーカーフェイスが惑わせる。
「上級モンスター」
「ッ!」
ピッと引いたカードを見せるジャック。そこには確かにレベル5のモンスターが描かれている。引けなかった、クロウがグッと奥歯を噛み締め、シンジがチッと舌打ちを鳴らす。
「この野郎……!」
しかし、その表情にな隠し切れない喜びがあった。
「『ビッグ・ピース・ゴーレム』は、相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、リリース無しで召喚出来る!」
「魅せてくれるじゃねぇか、クソッタレ!」
ビッグ・ピース・ゴーレム 攻撃力2100
ジャックが引いたのは上級モンスター。条件を満たす事でリリース不要で召喚出来る上級モンスターだ。下げてから上げる展開、ニクい演出にシンジの心が沸き上がる。地面から巨大な生命持つ白銀の巨人、『ゴーレム』が現れ、ピンの道を防ぎ、壁となる。
これがジャック・アトラス。シンクロ次元が誇る遊矢が言う所のエンタメデュエリスト。
「全く、エンタメデュエリストってのは厄介なもんだぜ……!」
「フ、何の、まだまだお楽しみはこれからだ。次のターン、貴様は真のキングを目撃する!」
「面白いじゃねぇか!俺はカードを1枚セット、ターンエンドだ!」
シンジ・ウェーバー LP2050
フィールド『B・Fー突撃のヴォウジェ』(攻撃表示)『B・Fー必中のピン』(攻撃表示)×3
『補給部隊』セット1
手札2
復活のキング、ジャック・アトラスVSシンジ・ウェーバー。勝負は、果たして。