遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


第177話 OZON

佳境を迎える遊矢VSユーゴ。互いの記憶の芯に刻みつけるかのような本気同士のぶつかり合いは激化していく。

ペンデュラムとシンクロ、互いの最も得意とする武器で凌ぎを削り、『オッドアイズ』と『クリアウィング』の激突を経て、ユーゴら自らの内に眠る覇王の因子を物とし、『覇王眷竜クリアウィング』をシンクロ召喚。

苛烈とも言える凶悪な効果で遊矢を攻める。『クリアウィング』も対モンスターとして強力なカードであったが、このカードは最早別物。破壊力が段違いとなっている。

 

「俺のターン、ドロー!カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP400

フィールド

『補給部隊』セット1

『EMブランコブラ』

手札1

 

「ハッ、どうした遊矢!そんなんじゃユーリどころか俺も倒せねぇぞ!俺のターン、ドロー!バトル!『クリアウィング』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ホーリーライフバリア』!手札1枚を捨て、このターン受けるダメージを全て0に!」

 

ビュオンッ、烈風を纏い、闇に染まった翼で低空飛行、遊矢を切り裂こうとする『クリアウィング』に対し、遊矢はギリギリで防ぐ。このターンのダメージを逃れたが、何時までも防げるものではない。どこかで反撃にでなければ――。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP100

フィールド『覇王眷竜クリアウィング』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→3

 

文字通り、命を削る思いでデッキよりカードを引き抜く遊矢。特殊召喚が封じられるのは痛いが、今は兎に角、少しでも手数が欲しい。この『クリアウィング』はユーゴの手もあってカード1枚で倒せるようた甘い相手じゃない

 

「良し……!速攻魔法、『ダブル・サイクロン』!俺のフィールドのブランコブラとお前のフィールドのセットカードを破壊!モンスターをセット、『EMギタートル』をセッティングし、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP400

フィールド セットモンスター

『補給部隊』

Pゾーン『EMギタートル』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!バトル!『クリアウィング』でセットモンスターへ攻撃!効果発動!」

 

「セットモンスターは『クリアクリボー』!攻撃力は300だ!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 LP400→100 手札0→1

 

ギリギリ、本当にギリギリの所で踏み留まった。が、風前の灯火には変わりない。とは言えそれはユーゴも同じ。LP100同士、勝負はどう転ぶか分からない。

 

「堪えるか……!そうじゃなきゃな……魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→3

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP100

フィールド『覇王眷竜クリアウィング』(攻撃表示)

セット3

手札0

 

止めを刺し切れなかったと言うのに、ユーゴはニヤリと笑みを浮かべて笑う。心の底から嬉しそうに、楽しそうに。

そんな彼の横顔を見て、リンは一瞬見とれて、泣きそうになりながらも優しく微笑む。このデュエルが、ずっと続けば良いのに。彼がずっと、笑ってられたら良いのに。

次があるデュエルだったら、良かったのに。言いたい事、伝えたい事、山程ある。だけど、決めたのだ、最後の時まで、彼の望みを叶えようと。最後の時まで、彼と同じ夢を見ようと。

 

「やるなユーゴ……!本当に、本当に強い!だけど、俺だって負けるもんか!」

 

「それはこっちの台詞だぜ遊矢!まだまだこんなんじゃ満足出来ねぇ……もっともっと、楽しませてくれ!もっともっと、速く!風よりも、光よりも!」

 

まるで、昔からの友のように、仲の良い兄弟のように、2人は笑みを浮かべ、よりデュエルの深みへ進む。激しいモンスター同士のぶつかり合い、知略の重ね合い、ロマン溢れるコンボも、予想の上を行くプレイングもある。このスピードの世界で。ライディングデュエルは繰り広げられる。

 

「Ladies and Gentleman!お楽しみは、これからだっ!」

 

ライバル同士のエンタメデュエルの、幕が上がる。

 

「『EMオッドアイズ・ユニコーン』をセッティング!ギタートルのペンデュラム効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』!2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

「ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『降竜の魔術師』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

再び現れる遊矢のエースと竜の血を継ぐ『魔術師』。どちらもレベルは7、そして『降竜の魔術師』には、ドラゴン族モンスターへと変化する効果がある。

 

「『降竜の魔術師』の効果発動!このカードをドラゴン族に変更!」

 

これで、準備は整った。相手が覇王だと言うのなら、こちらも覇王をもってして立ち向かうのみ。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!二色の眼の龍よ!その黒き逆鱗を震わせ、刃向かう敵を殲滅せよ!エクシーズ召喚!出でよ、怒りの眼輝けし龍!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』!!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

エクシーズ召喚、遊矢の後方に星を散りばめたような渦が広がり、『オッドアイズ』と降竜の2体が光となって吸収され、渦は一気に集束、大爆発を引き起こし、立ち込める白煙の中から、赤と緑の閃きが灯る。

白の覇王に対するは、黒き覇王。左右で異なる白黒の鱗を震わせ、遊矢の覇王竜がフィールドに見参する。

 

「来たか……!」

 

凄まじき怒号が轟き、白煙が晴れる。鋭き牙を持ち、背から伸びる機械翼から桜色の炎を展開する竜。『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』。遊矢の切り札が姿を見せる。

 

「遊矢の切り札……!」

 

「だがどんなモンスターだろうと、この『クリアウィング』は破壊する!」

 

そう、ユーゴの言う通り、遊矢がどれ程のモンスターを出そうと、『覇王眷竜クリアウィング』らダメージ計算前に攻撃モンスターを破壊した上、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える効果がある。ここで遊矢が攻撃しても、『クリアウィング』に破壊され、ダメージを与えられ、敗北してしまうだけだ。

 

「それはどうかな?」

 

「何……?」

 

「手札の『EMレインゴート』を捨て、このターン、『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』は戦闘、効果では破壊されない!」

 

「そう来たか……!」

 

「更にギッタンバッタを蘇生!」

 

EMギッタンバッタ 守備力1200

 

だが、遊矢とて何も考えていない訳ではない。破壊して来るならば破壊されない手を打てば良いだけだ。レインゴートの力によって覇王黒竜に耐性がコーティングされる。これで覇王の力は遊矢へと傾いたが、まだユーゴの余裕の表情は崩れない。

 

「バトル!覇王黒竜で『クリアウィング』へ攻撃!」

 

「だけどそれだけじゃ足りねぇぜ!墓地の『SR三つ目のダイス』を除外し、その攻撃を無効に!」

 

鋭き2本の牙で地を削り、快音を立てながら凄まじい速度で『クリアウィング』に迫る黒竜。その勢いのまま大きく跳躍、牙を白竜の喉元に突き立てようとした時――ユーゴの墓地より三つ目のダイスが出現、高速回転して三角形の結界を作り出し、『クリアウィング』を守る。

ぶつかる牙と障壁、火花を散らす。これだ、ユーゴの墓地にはこのモンスターが存在していたのだ。これで黒竜の攻撃は防がれ、ターン終了時には与えられた耐性も消える。

そうなれば次のターン、『クリアウィング』の効果で破壊され、ダメージによって遊矢は負ける。

ここまでがユーゴの筋書き通り、そして、遊矢の筋書きの途中。

 

「分かっていたさ、そのカードがある事は!」

 

「何……?」

 

「速攻魔法、『ダブル・アップ・チャンス』!攻撃が無効になった時、そのモンスターの攻撃力を倍にし、もう1度攻撃出来る!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000→6000

 

この展開を、遊矢は読んでいた。だからこそ、レインゴートの効果を使い、勝負に打って出たのだ。予測の上を行く遊矢の手に、思わずユーゴが驚愕する。

これが榊 遊矢。予測不可能なデュエリスト。攻撃力6000。怒濤の数値で結界を破る。

 

「ユートに返しそびれたけど、お蔭で助かったぜ……!さぁ、行け、反旗の逆鱗!ストライク・ディスオベイ!」

 

覇王黒竜の背から吹く炎がより強大なものとなり、唸り声を上げて推進する。強く、速く。『クリアウィング』に牙を突き立て、切り裂く。

 

「いっ、けぇぇぇぇぇっ!!」

 

「くっ、おおおおおっ!!」

 

互いの叫びが木霊し、Dーホイールが更に加速、『クリアウィング』の雄々しい体躯が破壊、大爆発を引き起こす。これで決着か、遊矢がそう思った時。

 

「勝手に、終わらせてんじゃねぇ!」

 

頭上に白いDーホイールが鳥の如く跳躍し、目の前に躍り出たのは。

 

「うっそだろ……!」

 

「ちょっとユーゴ!アンタ何て乱暴な運転してんのよ!」

 

「イテテ、悪かったってリン!」

 

何と、目の前にいるのは無傷のユーゴの姿。まさかあれでも倒し切れなかったと言うのか、とんでもないタフさに自分の事は棚に上げ、遊矢は苦笑いする。

 

「俺は『ガード・ブロック』を発動し、ダメージを防ぎ、1枚ドローしたのさ」

 

ユーゴ 手札0→1

 

「マジか……だけど、『クリアウィング』は倒したぜ」

 

「そうだ、お前は『クリアウィング』を破壊した。だから――このカードの発動条件は満たされた!」

 

「ッ!」

 

「罠発動!『シャドー・インパルス』!俺のフィールドのシンクロモンスターが戦闘、効果で破壊された事で、そのモンスターと同じレベル、種族のシンクロモンスターを、エクストラデッキから特殊召喚する!」

 

「『覇王眷竜クリアウィング』はレベル8のドラゴン族モンスター……まさか!?」

 

「そのまさかだ!」

 

しまったと気づいた時にはもう遅い。覇王が産み落とした闇は影より一筋の光を生み、今天へと飛翔する。眩き閃光を纏う白い竜。空中で螺旋回転し、纏う光をフィールド中に流星の如く降り注がせる。

 

「神聖なる光蓄えし翼煌めかせ、その輝きで敵を討て!出でよ!『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000

 

全ての光を振り払い、姿を見せたのは美しき輝きを放つ水晶の鱗と翼を持つ『クリアウィング』の進化形態。ユーゴとリン、セクト達の絆の結晶である切り札。『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』が今、光臨する。

 

「まさか反撃の手まで整えるとはな……!面白い、面白いぜユーゴ!」

 

「俺もだ!俺も楽しくて堪らねぇ!一秒ごとに限界を超えるのが手に取るように分かる!」

 

「俺とお前のドラゴン!どっちが強いか、勝負といこうか!カードを2枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP100

フィールド『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』(攻撃表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)

『補給部隊』セット2

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMギタートル』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札1→3

 

「速攻魔法、『サイクロン』!『オッドアイズ・ユニコーン』を破壊するぜ!そして魔法カード、『シンクロ・クラッカー』!クリスタルウィングをエクストラデッキに戻し、その攻撃力以下の相手モンスターを全て破壊する!悪いが勝ち逃げさせてもらうぜ!」

 

ユーゴが1枚のカードを発動した途端、それに呼応するかのようにクリスタルウィングが雄々しく咆哮、水晶の翼を煌めかせ、自らが光の球となって弾け飛ぶ。放射状に広がる光は遊矢のフィールドに降り注ぎ、尚も抗う覇王黒竜の四肢を砕き、左眼を撃ち抜いて沈黙させる。

 

クリスタルウィングは相手モンスターの攻撃力を吸収する強力なモンスターであるが、無敵と言う訳ではない。吸収出来るのはレベル5以上のモンスターと自身の効果で破壊したモンスターのみ。

つまりレベルを持たず、ランクを持つエクシーズモンスターに対しては受動的なのだ。だからこそユーゴはこの手を選んだ。面倒な戦闘耐性を持つギッタンバッタもいる事だ。正解と言って良い。フィールドにモンスターが存在しなくなってしまった事にも、一応の対策はある。

 

「くっ、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地より『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』を蘇生する!!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

空中に残った光の球が風を纏い、ギュルギュルと回転、中より緑色の刃が出現し、切り裂いてモンスターが姿を見せる。

『シンクロ・クラッカー』によって力を失い、退化してしまったのか、クリスタルウィングから『クリアウィング』へ戻っている。

しかしそれでも今の遊矢には充分だ。とは言え彼の墓地にも『クリアクリボー』が存在している。ギャンブル性があるとは言え、彼の事だ、モンスターを引き当てて来るだろう。

ならばユーゴも、賭けに出る。

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、セットカードをデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→1

 

引き抜かれる1枚のカード。そのドローは、空に白と緑の美しい軌跡を描き、ユーゴへ応える翼と化す。

 

「『SRーOMKガム』を召喚!」

 

SRーOMKガム 攻撃力0

 

現れたのはレベル1のチューナー、OMKガム。これでユーゴのフィールドにレベル7のシンクロモンスターと、レベル1のチューナーが揃う。

合計レベルは8、つまり、クリスタルウィングを再び呼ぶ準備が整った。

 

「さぁ、行くぜ!レベル7の『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』に、レベル1のOMKガムをチューニング!シンクロ召喚!『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000

 

飛び散った光を絆で埋め、再び『クリアウィング』が進化する。美しくも雄々しい、ユーゴが持つ最強のモンスター。これで遊矢の『クリアクリボー』の効果も封じられた。

 

「OMKガムの効果により、デッキトップを墓地に。『スピードロイド』じゃねぇ。よって攻撃力はそのままだ」

 

OMKガムの効果により、デュエルディスクの機能で自動的にデッキトップのカードが墓地に排出される。残念な事に『スピードロイド』じゃないが、悪くないカードが落ちた。尤も、使い時があるかは分からないが。

 

「バトル!クリスタルウィングで、ダイレクトアタック!」

 

そして、ユーゴが自らの切り札に止めを指示し、応じたクリスタルウィングが天高く飛翔、上空に立ち込める黒雲を切り裂き、晴らす。

陽光を翼に受け、反射して煌めくそれを広げて急降下。まるで流星と見間違えるような姿だ。風を突っ切って速度を増し、勢いのままに遊矢へとダイブした時。

 

「罠発動!『ペンデュラム・リボーン』!エクストラデッキに送られた覇王黒竜を特殊召喚する!!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

空中の魔方陣が突如ひび割れ、次元の穴が開く。そして中より白黒の光がフィールドに猛スピードで堕ち、クリスタルウィングの行く手を遮る。

そして、咆哮。現れた黒竜が翼を広げ、地を踏み砕き、宿敵、クリスタルウィングを射抜く。

遊矢の危機を救う為、次元の壁を破って駆けつけたと言うのか。その勇姿に感服、敬意を払い、クリスタルウィングもまた吠える。

 

「勝ち逃げは許さないぜ……!」

 

「ハッ、ハハハハハ!この土壇場で……上等だ!『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』で、『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』へ攻撃!烈風のクリスタロス・エッジ!」

 

「迎え撃て!反旗の逆鱗、ストライク・ディスオベイ!」

 

激突、まるで爆発が起こったような轟音がフィールド中央で響き渡る。ぶつかる牙と翼を。極上の得物をも真っ二つにしてしまいそうな刃がギリギリと鍔競り合う。

互いに翼を広げ、推進力を高めようとしても、互角。実力は拮抗し、ピクリとも動かない。

心臓に悪い光景だ。しかし、クリスタルウィングの水晶の翼に、ユーゴのデッキのカード達、そして彼等の絆が写し出され、その輝きは更に増す。

まるで夜空に輝く星の如く、その光は有無を言わさず覇王を切り裂く。

 

「なっ!?」

 

攻撃力は同じ、にも関わらず、破壊されたのは覇王黒竜のみ。LPも削られていない。一体何故、遊矢は思考を張り巡らせ、辿り着く。あの時、先程OMKガムの効果でデッキトップのカードが墓地に送られた時。可能性はあったのだ。

 

「『復活の福音』……!」

 

「その通り!俺はこいつを除外し、クリスタルウィングの破壊を防いだのさ!」

 

確かに『スピードロイド』は当たらなかった、しかし相手はユーゴ。この豪運の持ち主が、ただの外れを引くと言う事の方が可能性が低い。

 

「この野郎……!」

 

ユーゴは本当に運が良い。実はこの時、OMKガムの効果が成功していれば、逆にユーゴは敗北していたのだ。彼は外す事で敗北を逃れた。その事実をしっている遊矢は冷や汗を垂らす。

 

「超えてみな遊矢!俺達の絆を!俺達の夢の結晶を!」

 

『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』。ユーゴの切り札にして、彼を支える絆の結晶とも言えるモンスター。

それを越えろとユーゴは言う。越えられるなら、越えてみせろと。ここで越えなければお前はそこまでだと彼は言う。

しかし、このモンスターを倒すのは容易では無いだろう。

だが、ユーリは倒した。だから遊矢はやらなければならない。ユーリを倒す為に。ユーゴの想いを、砕かねばならない。

 

「……」

 

「出来ねぇなんて言うんじゃねぇぞ……漢なら!この程度の壁、笑って乗り越えてみせやがれ!」

 

ユーゴは強い。その意志が、その心が、何者にも屈する事が無い。不屈と言える程に。だからこそ、遊矢は押し黙る。

果たして自分は、この凄いデュエリストに勝てるのか、と。

 

負けたくない、と思う。足りない。追いつきたい、と思う。足りない。乗り越えなければ、と思う。足りない。全力をぶつけ、この少年に、勝ちたいと思う。並みのデュエリストなら足りる。榊 遊矢なら、あっと言わせ、笑わせたいと思う。

 

「上等だ!」

 

「来いよ遊矢!テメェの全力を!俺の全力にぶつけてみせろ!」

 

ユーゴ LP100

フィールド『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)

手札0

 

正真正銘、これが遊矢にとってラストドロー。ここで引かなくても、クリスタルウィングは倒せるだろう。しかし、それだけでは駄目だ。このターンにユーゴのLPを削らねば、彼は逆転の手を引きかねない。

このターンだ、このターンで勝たねばならないのだ。次はない。

 

「行くぞユーゴ――これが俺の、ラストドローだ!」

 

右手が流れるように動き、遊矢のデッキから1枚のカードが引き抜かれる。宙に結ばれる鮮やかな虹の軌跡。夜空に輝くそれは、何色にもなる遊矢を表しているようで。

 

「来たか……!」

 

遊矢が引いたのは、なんの変哲もない上、強力な効果も持たない、弱い部類に入るカード。このシンクロ次元において、コモンズにお似合いと言われるであろうカード。

だが遊矢は知っている。どんなカードにも、輝けるステージがある事を。そしてそれは、今だ。

 

「俺は『EMドクロバット・ジョーカー』をセッティング!これで、レベル7のモンスターをペンデュラム召喚可能に!」

 

『EMドクロバット・ジョーカー』のスケールは8、ギタートルのスケールは6、そして遊矢の手札には、モンスターが存在せず、エクストラデッキにレベル7のモンスターは存在しない。だが、それでも呼べるモンスターが1体いる。

 

「ギタートルのペンデュラム効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「ペンデュラム召喚!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』!!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

再び現れ、咆哮を上げる覇王黒竜。このモンスターは、エクシーズモンスター。レベルを持たず、ランクを持っている為、一見すればペンデュラムで呼べないかと思えるが、このカードはレベル7がペンデュラム召喚可能な際、呼び出せる特徴がある。

流石はエクシーズとペンデュラム、二種類の力を持ったカードと言う事か。

そしてこのカードであれば、『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』と互角に渡り合える。あくまで、互角。モンスターを倒すだけなら充分だが、遊矢が倒すべきは、真に超えるべきは『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』ではなく、ユーゴと言うデュエリストだ。

 

互角では、彼に届かない。ならばどうするか、答えは、フィールド、手札にある。ドクロバット・ジョーカーから引かれた線がギタートルに繋がり、次に覇王黒竜へと渡る。そして線は、遊矢が引いたカードへと移る。

 

「魔法カード、『スマイル・ワールド』を発動!」

 

発動されたのは、かつて遊矢の父、榊 遊勝の手にあったカード。強さも弱さも度外視したようなカード。

だが実はこのカード、デュエルモンスターズにおいて醍醐味と言える、カードとカードの重ね合い、コンボ向きのカードである。そう考えれば、自分も相手も見る者も楽しませる、エンタメデュエル向きのカードと言える。

 

「その効果で、互いのフィールドのモンスターは、フィールドのモンスターの数×100、攻撃力をアップする!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000→3200

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000→3200

 

『スマイル・ワールド』から溢れる光が辺り一面へと広がり、ポップの表情が咲き乱れる。やはりと言うか、何と言うか、随分と気の抜ける闘いから程遠い光景だ。予想外の一手にユーゴが困惑する。

 

「一体何を考えていると思ったら、おいおいどうした?こんなんじゃ俺を倒せねーぞ?」

 

「いいや、倒せるさ」

 

『スマイル・ワールド』から結ばれる線、それはそのまま、遊矢のフィールドのセットカードへと移る。

 

「既に勝利の方程式は完成した!」

 

「へぇ……なら見せてもらおうか!お前のエンタメデュエルを!」

 

どうする?どう出る?遊矢の勝利宣言を受け、ここからどう『スマイル・ワールド』の効果を活かすのかとユーゴの瞳に興味が移る。ただ発動したと言う訳じゃないだろう。

間違いなく、勝利に必要なパーツとして発動した筈だ。ワクワクするではないか、何の変哲もないカードで『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』を倒し、ユーゴに勝利しようと言うのだ。

 

「さぁ、フィナーレと行こう!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』で、『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』へ攻撃!」

 

互いのフィールドから2体の竜が飛翔し、摩天楼の中を駆け巡る。凄まじい速度で繰り広げられるドッグファイト。時折ぶつかっているのか、空中で火花が散り、甲高い事が響く。

そして高層ビルを螺旋状に飛ぶクリスタルウィングを覇王黒竜が追い、黒と白の影が交差する。その度、2人のデュエリストの魂が高揚する。熱く燃え上がるような熱が灯る。

 

「行け、クリスタルウィングッ!!」

 

「決めろ、オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン!!」

 

叫ぶ。心の底から、喉が裂ける程、熱を乗せ、勝鬨の咆哮を上げる。

 

「「オオオオオオッ!!」」

 

そして2人に応えるかのように、竜は交差し、ぶつかり、天高く飛翔を繰り返し、僅差で覇王黒竜がオッドアイを輝かせ、そのアギトから紫電の光線を放つ。

 

「これが、最後のカードだ!罠発動!『燃える闘志』!覇王黒竜に装備し、相手フィールド上に元々の攻撃力より高い攻撃力を持つモンスターが存在する場合、装備モンスターの攻撃力を倍にする!」

 

「――ッ」

 

昔、ある男が言った。デュエルとは、モンスターだけでは勝てない。罠だけでも、魔法だけでも勝てはしない。全てが一体となってこそ、意味を為すのだと。そして、その勝利を築き上げる為に最も大切な物は。

 

「全てだ!俺は全てを信じた!俺のカードも、お前のカードも!全てを信じる魂が、ここにある!」

 

「フ、ハハハハハ!そう、か……これが、お前のデュエルか……」

 

「革命のイカヅチ、ライトニング・ストライク!」

 

今、全てを解き放ち、極太の雷光がシティの夜空で輝き、水晶の竜を飲み込む。そして。

 

「持っていく、お前の夢も……!」

 

「ああ……出来れば、勝ちたかったんだけどなぁ……」

 

ユーゴ LP100→0

 

ユーゴへと命中、残ったLPが削り取られ、Dーホイールが停止、『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』のカードが光の粒子となって消え、彼の身体からも抑え込まれていた光が漏れ出す。

 

「ユーゴ……」

 

「……ごめんなぁ、リン。俺、カッコ悪い所ばっか見せられなくて」

 

「ッ、そんな事っ、そんな事ない!格好良かった!セクトとのデュエルも、ユーリとのデュエルも、今だって、格好良かった!」

 

溜め息を吐き、夜空を眺めて、ユーゴは背中のリンに謝る。だがそんな彼の背にすがりつき、リンは涙を流す。

勝っても負けても、こうなる事はユーゴには分かっていた。自分がこうなる事で、リンが悲しむ事も。全てを理解、した上で。

 

「遊矢」

 

「ユーゴ……」

 

後悔は無い。晴れやかな心で、自身に勝利したライバルを讃えようと彼の名を呼ぶ。そこにいたのは、眉を伏せた曇り顔の遊矢、ではなく、デュエル前よりも成長した漢の顔。

 

「あぁ、そうだ。その顔じゃなきゃ、俺がデュエルした意味がねぇもんな……でも逆に何か癪に触るなこのヤロー」

 

「どっちだよ」

 

「別に……ただ俺も、お前を励ましてやりたかっただけだよ」

 

「!」

 

あの日、フレンドシップカップ1回戦で、ユーゴはクロウを相手に惜敗した。そしてその後、遊矢と語り合ったのだ。思えばあの時が、遊矢とユーゴの友情の始まりだった。

 

「いいや、充分、励まされたよ」

 

「……そうか……なら良いや。ほら、コイツを持ってけ」

 

フ、と互いに薄く笑い、ユーゴが自分のデッキから2枚のカードを引き抜き、遊矢へと手渡す。

 

「リンには、コイツを返しとかなきゃな」

 

「……『幸運の笛吹き』……」

 

リンへ渡されたのは彼女から借りていた思いでのカード、『幸運の笛吹き』。そして遊矢へと渡ったのは――。

 

「『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』と、『覇王眷竜クリアウィング』……」

 

「本当はクリスタルウィングもやりたかったんだけどな……消えちまった。そうだ、このDーホイールも預ける。へへ、ユートの奴はカード2枚だったか、俺はカード2枚にDーホイールだ。太っ腹だな。持っていけよ、俺の夢を」

 

鼻頭を指で擦り、彼は笑う。遊矢に、友に、望みを託す。

 

「あぁ、大切に使わせてもらう」

 

「へへ……本当は俺がキングになりたかったんだけどよ。譲ってやらぁ。遊矢、俺の代わりにリンを守ってくれ。泣かせたりしたら承知しねぇぞ」

 

「現在進行形でアンタが泣かせてんでしょぉ……!」

 

「言えてら」

 

「勿論だ。必ず守るよ。ユーゴが帰って来る時まで」

 

「……色々言いたい事あったけど、いざこうなると何言って良いか分かんねぇな。あぁ、そうだ、最後に1つだけ」

 

「……」

 

「憎しみで闘うな。俺はやっちまったけど、ユーリとデュエルする時、敵討ちなんて考えるんじゃねぇぞ。それじゃアイツにゃ勝てねぇ。お前の最高の武器は……エンタメデュエルなんだからよ」

 

「うん」

 

「後は柚子の事、頑張れよ!あ、これじゃ2つか……」

 

こんな時でも抜けているのが彼らしい。明るく元気で、熱くて。そんな何時も通りなユーゴを見て、笑ってしまう。

このまま、何時も通りが続くと錯覚してしまう。

 

「またな、ユーゴ」

 

「――ああ、まただ」

 

別れの言葉はいらない。また何時か、ひょっこりと彼が帰って来る事を信じて遊矢は笑いかける。

そんな彼に、ユーゴは目を見開いた後、光となって消え、光は遊矢の手元の『覇王眷竜クリアウィング』に吸い込まれ、その姿を書き換える。

 

「この、カードは……」

 

闇と光、相反する2つを2人の絆が調和させる。恐らく、これがユーゴが本当に渡したかったカード。最後まで、自身へ希望を与えてくれた彼の有り様に、遊矢の胸の奥から熱い何かが込み上げて来る。

 

「ありがとう、ユーゴ……!」

 

シンクロ次元で出会ったデュエリスト、ユーゴ。遊矢はその存在を魂に刻み付ける。その姿は、遊矢が知る誰よりも強かった。

 

――――――

 

時は遡る。遊矢達がまだオベリスク・フォースを撃退していた頃、地下にて。

シンジ・ウェーバーとジャック・アトラス、そしてクロウ・ホーガンの3人の姿がそこにはあった。

 

シンジとクロウはジャックが語る真実を聞いていたのだ。あの日、フレンドシップカップ開催前夜、榊 遊矢をチャレンジャーとしたエキシビションマッチが終わった後、彼が現在ジャックにすり代わっている偽物、ジャック・アトラス・Dに敗北後、秘密裏に独房に入れられた事を。

その事実にクロウは絶句。対するシンジの反応は、眉を寄せ、額に青筋を浮かべている。明らかに怒り心頭と言った様子だ。

ジャックは話を終え、これで満足か?とでも言いたげに渇いた笑みを張りつけ、生気の抜けた眼で虚空を見つめる。

そんなジャックを睨み、ズカズカと乱暴に歩み寄ったシンジが彼の胸ぐらを掴み上げる。

 

「お、おいシンジ!?」

 

「止めるなクロウ。俺は今、過去最高に苛ついているんだよ……まさかあのジャック・アトラスがたった2度負けただけてを腑抜けちまうような男だとはなぁ……これならコモンズにいるオバハンの方が根性逞しいぜ」

 

どうやら、自身が打倒しようとしていたジャック・アトラスへの失望から苛立っているらしい。シンジは自分より背の高いジャックを見上げながら罵倒する。

 

「……何とでも言え。地位も名も、存在さえ奪われた俺だ。プライド等、残っている筈もない」

 

「ハッ、なら言ってやるよ。プライドがないだ?そんな訳ねぇだろ!残ってなかったら、そんな独り善がりな事しか言えねぇんだよ!」

 

ガッ、ストレスの限界を超え、一体何を思ったのか、シンジがジャックの左手を掴み、背負って放り投げる。突如空中に投げ出されたジャックが受け身を取れる筈もなく、目の前にあったスクラップの山に命中。ガシャァァァァンッと激しい音を立てて突っ込み、崩れ落ちる。

 

「なっ、何やってんだシンジ!?もうちょっとやりようってもんが……」

 

「うるせぇっ!何で俺がこんな奴に気をつかわなきゃならねーんだ!そもそも俺はそんな器用じゃねぇし、遊矢達みたいに甘ちゃんでもねぇんだよ!」

 

クロウの静止も聞かず、またズカズカとジャックに歩み寄り、仁王立ちして見下ろすシンジ。チンピラそのものである。

 

「立てや。まさか励ましてもらえるとでも思ってねぇだろうな、キング様よ」

 

「……俺はもう、キングではない」

 

「なら何て呼べば良い?元キングか?それとも元ジャックか?」

 

「好きに呼べ」

 

「ならキングだ」

 

「だから俺はキングじゃないと……!」

 

反論しようとするジャックの口を、突如シンジが掌で塞ぎ、ギリギリと力を込めて締め上げる。

 

「甘えた事言ってんじゃねぇぞ。地位も名も奪われた?それ位、コモンズじゃ当たり前だろうが。何なら日常茶飯事だ。お前キングになってヌルくなってんじゃねぇの?その程度で腑抜けるなんざよ」

 

「ッ……!」

 

「それでも俺達は泥水すすって、汗水流して不幸話なんざ酒の肴にして馬鹿笑いしてんだよ。何でか分かるか?覚えてるか?あるからだよ。プライドが、魂が、守りてぇもん、叶えてぇ夢が。何より、デュエルが」

 

「――」

 

指先を自分の胸に当て、シンジはジャックの魂に語りかける。それはどこか、自分達コモンズの事を誇りに思っているようで。

 

「来いよキング。丁度良いぜ、俺がテメェをぶっ倒して、キングになってやるよ」




クリスタルウィングとか言う強すぎて絶対に渡しちゃいけない奴。コイツいるとあのカードの出番がなくなっちゃうし……。

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