シンクロ次元、シティの外れにある雑草が生い茂る廃墟の中で、2人のデュエリストが向かい合う。
1人はこの次元出身、高速シンクロを武器とする『スピードロイド』デッキの使い手、ユーゴ。彼は幼馴染みであるリンを背に守るように立ち、眼前の相手を睨む。
彼の名はユーリ。ユーゴの因縁の宿敵であり、風評被害の元。アカデミアでもトップクラスの実力を誇るデュエリストだ。
現在2人の場には互いのエースと切り札が対峙、動向をうかがうように喉を震わせ、唸り声を上げている。
『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』と、『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』。この2体の竜と、それを操る2人がどのような運命にあるのかは分からないが、良い事では無さそうだ。
ズキリと痛む胸を抑え、ユーゴはデッキから1枚のカードを引き抜くユーリを見る。
「僕のターン!」
「罠発動、『針虫の巣窟』!デッキトップからカードを5枚墓地へ!」
「キメラフレシアの効果でカードをサーチ、魔法カード、『打ち出の小槌』。手札を交換。魔法カード、『闇の誘惑』!2枚ドローし、手札の闇属性モンスター、セラセニアントを除外」
ユーリ 手札4→6→5
「装備魔法、『再融合』!LPを800払い、墓地のキメラフレシアを蘇生、このカードを装備する!」
ユーリ LP5600→4800
捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500
「『スターヴ・ヴェノム』の効果発動!レベル5以上のモンスター、クリスタルウィングの名前と効果をコピーする!」
「クリスタルウィングの効果発動!1ターンに1度、このカード以外のモンスター効果の発動を無効にし、破壊!」
「チェーンしてドラゴスタペリアの効果発動!クリスタルウィングに捕食カウンターを乗せ、捕食カウンターが乗ったモンスターの効果発動を封じる!」
「折り込み済みだっつーの!手札の『エフェクト・ヴェーラー』を捨て、ドラゴスタペリアの効果を無効にする!消えるのはテメェのドラゴンだけだ!そしてクリスタルウィングは効果破壊したモンスターの攻撃力を吸収する!」
「甘いねぇ!融合召喚された『スターヴ・ヴェノム』が破壊された事で、君のモンスターを破壊する!」
「させねぇよ!墓地の『復活の福音』を除外し、クリスタルウィングを破壊から守る!」
互いのドラゴンから放たれる光がフィールド中央でぶつかり、拮抗し合うも、ユーゴのクリスタルウィングが翼に蓄えた光は尋常ではない。主の助けもあり、光は『スターヴ・ヴェノム』を撃ち抜く。
「ドラゴスタペリアを攻撃表示に変更、バトル!キメラフレシアでクリスタルウィングへ攻撃!そしてこの瞬間、キメラフレシアの効果と手札の速攻魔法、『決闘融合ーバトル・フュージョン』を発動!その効果でクリスタルウィングの攻撃力を吸収、次にクリスタルウィングの攻撃力が1000ダウン、キメラフレシアの攻撃力を1000アップ!」
捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500→5500→6500
クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000→2000
その攻撃力の差、4500。一気に決着がつけられる数値だ。圧倒的な暴力が、クリスタルウィングに向けられるが――この竜に、小細工は効かない。
「無駄だぜ!クリスタルウィングがレベル5以上のモンスターと戦闘を行う際、攻撃力を吸収する!」
クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2000→8500
「なっ……!?」
「迎え撃て!烈風のクリスタロス・エッジ!」
キメラフレシアの効果も、『決闘融合ーバトル・フュージョン』の効果も、打てるタイミングは攻撃宣言時、ダメージ計算時に攻撃力をアップするクリスタルウィングが相手では話にならない。キメラフレシアが奪い取った光が再びクリスタルウィングの下に集い、風を纏ってキメラフレシアへ突進、鋭い結晶の翼がキメラフレシアを切り裂く。
ユーリ LP4800→2800
「ぐっ!」
迂闊だったと言わざるを得ない。クリスタルウィングは『クリアウィング』の進化体だ。弱い筈が無い。無いが――流石にこれは予想外だ。
「厄介だな……モンスター効果無効と高い戦闘能力……下級で闘おうにも3000の攻撃力を越えなきゃならない。骨が折れそうだ。カードを2枚セット、ターンエンドだ」
ユーリ LP2800
フィールド『捕食植物ドラゴスタペリア』(攻撃表示)
セット2
『融合再生機構』
手札1
「俺のターン、ドロー!」
「スタンバイフェイズ、最後の『再融合』をサーチ、そして罠カード、『針虫の巣窟』!デッキトップからカード5枚を墓地へ!」
「墓地の『スピードリバース』を除外し、『SRベイゴマックス』を回収、召喚!」
SRベイゴマックス 攻撃力1200
「効果でタケトンボーグをサーチ、特殊召喚!」
SRタケトンボーグ 守備力1200
「リリースし、デッキから『SR赤目のダイス』を特殊召喚!」
SR赤目のダイス 守備力100
「効果でベイゴマックスのレベルを4に変更」
SRベイゴマックス レベル3→4
「レベル4のベイゴマックスに、レベル1の赤目のダイスをチューニング!双翼抱く煌めくボディー、その翼で天空に跳ね上がれ!シンクロ召喚!現れろ!『HSRマッハゴー・イータ』!」
HSRマッハゴー・イータ 攻撃力2000
現れたのはピンク色に輝く羽子板のようなモンスター。比較的容易な蘇生効果を持つ為、『SR』の中でも重宝するカードだ。相手がシンクロやエクシーズならばその効果も強力に機能するのだが。
「罠発動、『煉獄の落とし穴』!特殊召喚された攻撃力2000以上のモンスターを破壊する!」
「バトル!」
「ドラゴスタペリアの効果発動!」
「クリスタルウィングの効果でドラゴスタペリアを無効!」
クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000→5700
「分かんねぇ奴だな、クリスタルウィングにはモンスター効果が効かねぇんだよ!ダイレクトアタック!」
「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ」
「チッ、この為か……カードをセット、ターンエンドだ」
ユーゴ LP4000
フィールド『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)
セット1
手札0
「僕のターン、ドロー!魔法カード、『ライトニング・ボルテックス』!手札を1枚捨て、君のクリスタルウィングを破壊する!」
「カウンター罠、『魔宮の賄賂』!無効にし、テメェは1枚ドローする!」
ユーリ 手札1→2
「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のキメラフレシア1体、ドラゴスタペリア2体、オフリス・スコーピオ、サンデウ・キンジー、ダーリング・コブラをデッキへ戻し、2枚ドロー!」
ユーリ 手札1→3
「装備魔法、『再融合』!LPを800払い、『スターヴ・ヴェノム』を蘇生!!」
ユーリ LP2800→2000
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800
「効果発動!クリスタルウィングの効果をコピーする!」
「クリスタルウィングの効果発動!」
「速攻魔法、『禁じられた聖杯』!クリスタルウィングの効果を無効にし、攻撃力を400アップ!」
クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000→3400
「ッ!」
「そんな!?」
再びクリスタルウィングと『スターヴ・ヴェノム』の効果の応酬、今回軍配が上がったのら『スターヴ・ヴェノム』だ。背部の器官を光らせて辺りを包み込み、クリスタルウィングの影を貪り食らう。強力なクリスタルウィングの効果をコピーされ、リンが動揺の声を上げる。
「ハハッ!さぁ、『スターヴ・ヴェノム』でクリスタルウィングへ攻撃!」
「そんな紛い物の光が俺達の絆に届くかよ!墓地の三つ目のダイスを除外し、攻撃を無効に!」
「おいおい、〟俺達の絆〝にそんなものが届くとでも?モンスター効果を無効にする!」
「残念だったな、確かに1枚じゃ届かねぇが、2枚ならどうだ!」
「何……?」
クリスタルウィングの力を奪い取り、その猛威を奮う『スターヴ・ヴェノム』であったが、ユーゴの墓地から2体の三つ目のダイスが飛び出し、六角形の結界を作り出す。
「こんな所でお預けか、カードを1枚セット、ターンエンドだ」
ユーリ LP2000
『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』(攻撃表示)
『再融合』セット1
『融合再生機構』
手札0
「俺のターン、ドロー!バトル!クリスタルウィングで『スターヴ・ヴェノム』へ攻撃!」
「罠発動、『バースト・ブレス』!『スターヴ・ヴェノム』をリリースし、その攻撃力以下の守備力のモンスターを破壊する!」
互いのドラゴンが向かい合い、弾かれたように翼と背部の器官を広げてフィールド中央でぶつかり、鋭き爪を振るう。ガキンッ、鳴り響く金属音。
防がれた――腹を空かせ、一秒でも早く目の前の獲物に食らいつきたい『スターヴ・ヴェノム』は苛つき、獰猛な雄叫びを上げながら回転、長い尾をクリスタルウィングの首もとめがけて振るう。しかしクリスタルウィングはこれを対処、変則的な動きをする尾を右腕に縛りつけ、左の拳を『スターヴ・ヴェノム』の顔面に振り抜く。
メキィッ、見事に『スターヴ・ヴェノム』の頬を捉えた拳の威力は留まる事を知らず、角をへし折り、骨を砕き、毒竜を吹き飛ばす。ヒュン、風を切り、ユーリの真横を通り過ぎ、壁に激突する『スターヴ・ヴェノム』。
砂埃が巻き起こる中、まるで掃除機のケーブルの如くピンとクリスタルウィングの右腕に絡みついていた尾が巻き上げられる。凄まじい速度でクリスタルウィングは引っ張られ、真横の壁へ激突。ガリガリと削りながら進み、待ち構えていた『スターヴ・ヴェノム』が咆哮、首もとに牙を突き立てる。
「道連れだ」
余程飢えていたのか。『スターヴ・ヴェノム』は肩に爪を抉り込ませ、離そうと抵抗するクリスタルウィングにも構わず、その牙を深く、深く沈み込ませ、その肉を食らう。
おぞましく恐ろしく、そして美しい光景だ。そのグロテスクな世界に思わずリンは小さな悲鳴を上げ、ユーゴの背中に隠れる。
その間にもドラゴン同士の闘いは続き、傷が深く、助からないと踏んだクリスタルウィングが今度は逃がすまいと『スターヴ・ヴェノム』に抱きつき――そんな事をしなくとも離れる気はなさそうだが、素早く水晶の翼を発光、天井を突き破り、天高く飛翔して大爆発を起こす。
命がけの自爆技。相討ちに持ち込んだと言うより、持ち込まされたように見える。
「くっ……!」
「そのドラゴンは思った以上に厄介だ。早い内に除去させてもらうよ」
「ハッ、面白いじゃねぇか……張り合いが出て来たな……俺のフィールドにカードが存在しない事で、墓地の『HSR魔剣ダーマ』を特殊召喚!」
HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200
「効果発動!墓地のチャンバライダーを除外し、500のダメージを与える!」
「墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、効果ダメージを半分に」
ユーリ LP2000→1750
「カードを1枚セット、ターンエンドだ」
ユーゴ LP4000
フィールド『HSR魔剣ダーマ』(攻撃表示)
セット1
手札0
「僕のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドローだ!」
ユーリ 手札0→3
「『捕食植物スキッド・ドロセーラ』を召喚」
捕食植物スキッド・ドロセーラ 攻撃力800
「カードを2枚セット、ターンエンドだ」
ユーリ LP1750
フィールド『捕食植物スキッド・ドロセーラ』(攻撃表示)
セット2
『融合再生機構』
手札0
「亀みたいに引っ込みやがって……!引っ張り出してやふよ!魔剣ダーマの効果発動!墓地のタケトンボーグを除外し、500のダメージを与える!」
ユーリ LP1750→1250
「そして『SRダブルヨーヨー』を召喚!」
SRダブルヨーヨー 攻撃力1400
「召喚時効果でベイゴマックスを蘇生!」
SRベイゴマックス 守備力600
「ベイゴマックスの効果でタケトンボーグをサーチ、特殊召喚!」
SRタケトンボーグ 守備力1200
「リリースし、デッキから『SR電々大公』をリクルート!」
SR電々大公 守備力1000
「マッハゴー・イータはフィールドに『スピードロイド』チューナーが存在する事で蘇生!」
HSRマッハゴー・イータ 攻撃力2000
「レベル3のベイゴマックスにレベル3の電々大公をチューニング!シンクロ召喚!『HSR魔剣ダーマ』!」
HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200
「電々大公を墓地より除外し、『SRーOMKガム』を蘇生!」
SRーOMKガム 守備力800
「レベル3のダブルヨーヨーに、レベル1のOMKガムをチューニング!幾千の顔を持つ迷宮の影よ、その鋭き刃で混沌の闇を切り裂け!シンクロ召喚!『HSR快刀乱破ズール』!」
HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300
「OMKガムの効果でデッキトップを墓地へ。残念ながら『スピードロイド』じゃねぇ、よって攻撃力は上がらない」
「成程、これが君の力って訳か」
「バトル!」
「永続罠、『強制終了』!スキッド・ドロセーラを墓地に送り、バトルを終了!そして表側表示のスキッド・ドロセーラが墓地に送られた事で、相手フィールドに特殊召喚されたモンスターに捕食カウンターを乗せる!」
HSR魔剣ダーマ レベル6→1 捕食カウンター0→1×2
HSRマッハゴー・イータ レベル5→1 捕食カウンター0→1
HSR快刀乱破ズール レベル4→1 捕食カウンター0→1
捕食カウンター、散布。『強制終了』の効果で絞り取られ、中から大量の種を放射状に発射。ユーゴのモンスターへと雨の如く降らせるスキッド・ドロセーラ。
その厄介さにユーゴは舌打ちを鳴らす。このカウンターが、かなり面倒だ。ドロソフィルム・ヒドラやサンデウ・キンジー等で対処し辛い方法で処理される上、シンクロ使いのユーゴにとってレベルを好き勝手いじられるのは枷でしかない。
「ターンエンドだ……!」
ユーゴ LP4000
フィールド『HSR魔剣ダーマ』(攻撃表示)×2『HSRマッハゴー・イータ』(攻撃表示)『HSR快刀乱破ズール』(攻撃表示)
セット1
手札0
「僕のターン、ドロー!罠発動!『貪欲な瓶』!墓地の『捕食接ぎ木』2枚、『プレデター・プランター』、『融合回収』2枚をデッキに戻し、1枚ドロー!」
ユーリ 手札1→2
「魔法カード、『マジック・プランター』!『強制終了』をコストに2枚ドロー!」
ユーリ 手札1→3
「魔法カード、『復活の福音』!『スターヴ・ヴェノム』を蘇生!」
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800
「そして手札のスキッド・ドロセーラを捨て、このターン、『スターヴ・ヴェノム』は捕食カウンターが乗った全てのモンスターへ攻撃可能!」
「何だと!?」
バキリ、『スターヴ・ヴェノム』の背から伸びる器官が開き、赤い閃光の糸を放射、細くありながらも剣のような鋭さを持つ糸はユーゴのモンスターを串刺しにし、動きを封じる。
「バトル!『スターヴ・ヴェノム』で全てのモンスターへ攻撃!」
「くっ、ズールが特殊召喚されたモンスターと戦闘を行う場合、ダメージステップ開始時に攻撃力が倍になる!更にマッハゴー・イータをリリース!フィールドのモンスターのレベルを1つ下げる!」
HSR魔剣ダーマ レベル6→5×2
HSR快刀乱破ズール レベル4→3
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン レベル8→7
HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300→2600
ユーゴ LP4000→3800→3200→2600
「ぐおおおおっ!?」
「ユーゴッ!?」
バクリ、顎が外れんばかりに開いて『スターヴ・ヴェノム』がユーゴのモンスターに食らいつき、その度に赤い糸が砕け、針の雨となってユーゴに降り注ぐ。1、2、3、連打。ユーリが倒すべきデュエリストには及ばぬ連続攻撃ではあるが、その威力は凄まじく、ユーゴの身体に電流が走るような痛みが駆け抜け、苦悶の声を漏らす。ただ事ではない。ユーリと同等まで削られた彼に対し、庇われたリンが悲痛の声を上げる。だが――。
「……へぇ……!」
それでも彼は倒れない。それでも彼は弱い姿を見せる事をしない。ボロボロに傷つきながらも、ユーゴはリンを守るように立ち、頼れる背をリンに見せる。
「ユーゴ……!」
「負けるか……!俺を信じてくれてる奴の前で、情けねぇ姿なんて見せる訳にいかねぇんだよ!」
「フ、ハハハハハ!地下以外にもこんなに歯応えのある相手がいるなんてね……僕はカードを1枚セット、ターンエンドだ。さぁ、来なよ。ユーゴ」
「俺は……ズールの効果でベイゴマックスを回収……!」
ユーリ LP1250
フィールド『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』(攻撃表示)
セット1
『融合再生機構』
手札0
「男に……それもお前なんかに名前を覚えられても嬉かねぇんだよ!俺のターン、ドロー!ベイゴマックスを特殊召喚!」
SRベイゴマックス 攻撃力1200
「タケトンボーグサーチ、特殊召喚!」
SRタケトンボーグ 守備力1200
「リリースし、OMKガムをリクルートする!」
SRーOMKガム 守備力800
「マッハゴー・イータ蘇生!」
HSRマッハゴー・イータ 攻撃力2000
「賭けに出る……!レベル3のベイゴマックスに、レベル1のOMKガムをチューニング!シンクロ召喚!『HSR快刀乱破ズール』!」
HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300
「OMKガムの効果でデッキトップを墓地へ。『スピードロイド』モンスターだ!よって攻撃力を1000アップ!」
HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300→2300
「バトル!やれ、ズール!『スターヴ・ヴェノム』へ攻撃!」
「罠発動!『フローラル・シールド』!攻撃を無効にし、1枚ドロー!」
ユーリ 手札0→1
「チッ、カードを1枚セット、ターンエンドだ……!」
ユーゴ LP2600
フィールド『HSR快刀乱破ズール』(攻撃表示)『HSRマッハゴー・イータ』(攻撃表示)
セット1
手札0
「僕のターン、ドロー!これはどうかな?魔法カード、『ブラック・ホール』!フィールド上のモンスターを全て破壊!」
「ッ!」
「墓地の『復活の福音』を除外し、『スターヴ・ヴェノム』の破壊を逃れる」
発動された『ブラック・ホール』は『スターヴ・ヴェノム』の口内より発生、ユーゴのモンスターを吸い込んで噛み砕き、飢えを満たす。だが足りない。幾ら食おうと勝利するその時までは。
「足りない、足りない、足りないんだっ!僕も『スターヴ・ヴェノム』も!君を倒せば、少しは満たされるかなぁ?バトル!『スターヴ・ヴェノム』でダイレクトアタック!」
「テメェの事情なんざ知ったこっちゃねぇんだよ!罠発動!『波動再生』!このダイレクトアタックで受けるダメージを半分にする!」
ユーゴ LP2600→1200
「ぐはぁっ!?」
「ッ、ユーゴ!」
『スターヴ・ヴェノム』のブレスが放たれ、ユーゴを確実に追い込んでいく。ユーゴが膝をつき、リンがその身体を支える。
「こんなにボロボロになって、何で……!何で私なんかを守るのよ!私は貴方の事、忘れてたって言うのに……!それなのに……!」
「関係ねぇよ……俺は覚えてるんだ」
「ッ!」
支える手に手を重ね、息を切らしながらユーゴはリンの目を見つめ返す。真っ直ぐで、曇りなき眼。ユーゴらしい眼だ。
「お前と過ごした日々を、お前の優しさを、お前の笑顔を覚えてる。忘れっぽい俺だけど、全部覚えてる」
「何で……?何でそこまで……っ!」
「あー……もう、うるせぇな……!」
ガシガシと頭を乱暴に掻きながら、ユーゴは思い出す。彼女と過ごした日々を、その優しさを、その笑顔を。思い出して、心に抱いた想いをリンに告げる。
「惚れた女を守りたいって言うのは、そんなにおかしいかよ!?」
「……え――」
言った。言ってしまった。長年隠していた想いを。抱いていた恋を。盛大に叫んでしまった。戦場に似つかわしくない愛の告白。これには流石のユーリも目を丸くし、その成り行きに任せている。
「なっ、こんな時に冗談なんて――」
「冗談でこんな事言うか!本気だっつーの!」
「なっ!?」
「ずっと、ずっと前から、お前が好きなんだ!お前じゃなきゃ、駄目なんだ!」
「……そっ、か――」
ユーゴは本気だ。本気の本気でリンが好きなのだ。これだけは何があろうと変わらない。譲れない想い。例え相手がリンであろうと、この想いを嘘だと言う事は許さない。そんな真っ直ぐなユーゴの想いを前に、リンはフ、と頬を緩める。
「なら、勝たないとね」
その暖かく、柔らかな手がユーゴの右手の甲に乗せられ、ユーゴの頬に朱が差す。分かりやすい反応だ。それを見てリンはクスリと笑い、目の前のユーリを睨む。
「お、おいリン……」
「返事は、このデュエルに勝ってからにしましょう。そうなったら……もう1度、答えてくれる?」
「――おう!何度だって、何度だって言ってやるよ!」
リンの問いに答え、ユーゴは彼女に倣ってユーゴを睨む。するとユーリはやっと終わったかと言わんばかりに大きな溜め息を吐き、わざとらしく肩をすくめる。
「やれやれ……黙っていれば調子に乗ってくれちゃって……で?誰か誰に勝つんだい?」
「私達が!」
「お前に勝つんだよ!」
言葉を重ね、心を重ね、リンはボロボロに傷ついたユーゴを支え、2人でユーリを迎え撃つ。
「言ってくれるじゃないか……!フィールド、手札0の状態で勝算があるとでも?」
「あるさ……勝算なら、ここにある!」
「『波動再生』の効果により、『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』のレベル以下のシンクロモンスターを蘇生する!」
「ッ、まさか!?」
「「集いし絆の結晶、飛翔せよ!『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」」
クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000
フィールドに白い雪のように、美しく輝く結晶を降らせ、今絆の竜が飛翔する。沈まぬ闘志、滅びぬ想い、揺るぎなき心が形と化した1枚のカード。それがこの、『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』。ユーゴとリンの切り札、最強のカード。
「ここで、クリスタルウィング……!面白い……!面白いじゃないか!メインフェイズ2、魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」
ユーリ 手札0→3
「カードを3枚セット、ターンエンドだ」
「ズールの効果でベイゴマックスを回収!」
ユーリ LP1250
フィールド『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』(攻撃表示)
セット3
『融合再生機構』
手札0
激しい攻防が続き、最早ユーゴの体力は限界に近い。正直言って、ユーリは強い。今まで闘ってきたデュエリストの中でも、1、2を争う。
それでもユーゴは諦めない。勝機は充分にある。それに、彼が出会ってきた仲間は、デュエリストは決して諦める事はしなかった。敵も、味方も、互いに譲れぬ想いを賭けて、最後まで全力を賭した。
ならばそんな彼等と闘い、勝ち抜いて来たユーゴがここで諦める訳にはいかない。
勝者には、敗者の為にも、敗者が弱くなかったと、強者であったと示す為にも簡単に諦める訳にはいかないのだ。それが勝者の責任。勝利を築き、結晶を作り上げたものがすべき事。そんな彼を、リンが支える。
「勝とう、ユーゴ」
「あぁ!行くぞユーリ!これが、俺達の想いだ!」
2人の指先が重なり、デッキトップへ添えられる。そして――引き抜かれたカードが、虹色のアークを描き出す。
「「ドローッ!!」」
その未来を、ユーリはへし折る。
「罠発動、『マインドクラッシュ』!『はたき落とし』!ベイゴマックスとドローカードを捨てさせる!」
「ッ!」
一気に2枚の手札破壊。これでベイゴマックスまで失ってしまった。それでも、ユーゴのフィールドには最強の切り札が存在している。
「バトル!クリスタルウィングで『スターヴ・ヴェノム』へ攻撃!」
「速攻魔法、『禁じられた聖杯』!クリスタルウィングの攻撃力を400アップし、効果を無効にする!更に墓地のドロソフィルム・ヒドラの効果で墓地の『捕食植物』を除外し、攻撃力を500ダウン!」
クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000→3400→2900
ユーリ LP1250→1150
「ぐぅぅぅぅっ!?」
例え効果が無効にされても、その水晶の翼は衰えず。再びフィールド中央に向かって突き進み、激突。火花を散らすクリスタルウィングと『スターヴ・ヴェノム』。
ユーゴが拳を振るうと同時にその挙動と連動、『スターヴ・ヴェノム』の頬めがけ、いきなり右ストレートが飛ぶも、ユーリと連動した『スターヴ・ヴェノム』の右手が拳を弾き、至近距離でブレスを放とうとする。
下手を打てば自らも危険に晒す恐るべき行為。クリスタルウィングが左手を突き出し、『スターヴ・ヴェノム』の首を掴んで無理矢理上を向かせる。
そしてそのまま一回転、尾で『スターヴ・ヴェノム』を吹き飛ばし、風を纏って真っ直ぐに飛行、刃の如き水晶の翼で切り裂く。
しかしその瞬間、ドクン、両者の心臓が何者かに鷲掴みにされたかのような痛みが走る。
「うっぐ……!」
「ユーゴ!?」
突如膝をつき、苦しみ出すユーゴを見て、リンが動揺する。それに対してユーリは、痛む胸を抑えながらも、倒れる事なく不気味な笑みを浮かべる。しかも、衝撃のせいか、右眼にあった眼帯が外れ、深紅の光を灯しているではないか。
「やっぱり、君もだったか……」
「貴方、眼が……!?」
リンの言葉もどこ吹く風。無視してユーゴだけを見つめるユーリ。その赤い双眸には明らかにユーゴ以外写っておらず、禍々しさとある種の執着が見てとれる。
「僕等が似ているのは偶然なんかじゃない……僕等は出会うべくして出会ったんだ」
「あ……ぐ……何、言ってやがる……!」
「君も本当は分かっているんだろう?僕等の胸に訴えかけるこの痛みは、渇望だ」
「……!」
「足りない、足りない。何が足りない?身体だ、魂だ、力だ。全てが足りない。取り戻せ、身体を、魂を、力を。そうこの右眼が言っている。魂に焼きついた叫びが木霊している」
早鐘を打ち、うるさく鳴り響く鼓動が、ユーゴの身体を駆け抜ける。自分じゃない誰かが内側から現れようと、ユーゴの身体を裂こうとする。彼の右眼にも、赤い光が灯る。
「うぐ、がぁぁぁぁっ!?」
「ユーゴ!しっかりして!ユーゴぉっ!」
震える足で地を踏み締め、朦朧とする意識の中でユーゴは獣のように叫ぶ。痛い、怖い――欲しい。足りない欠片が、足りない力が、欲しくて欲しくて堪らない。
「そう、それで良い。それがあるべき形なんだ。ユーゴなんて仮面はいらない。この渇望に身を任せるんだ!さぁ、今こそ我等が一つに!』
ユーリの声に、もう1人、誰かの声が重なり、ユーゴの理性を揺らす言葉を放つ。
「ぐぅ……!ひと……つに……?」
「そうだ!取り戻すんだ!本当の自分を!仮面の奥に潜む獣を!」
今ある自分を消し、自分ではない誰かとなる。そんな恐るべきユーリの言葉に、ユーゴは僅かな反応を見せる。いや――これはユーゴではない誰かなのか。そんな事すらリンには分からない。彼女の理解の外にある光景。だが、分からないけど、ここでユーゴを連れていかれては駄目だと彼女は察した。
「駄目……駄目よユーゴ!しっかりして!お願いだから目を覚まして!」
「チ、うるさい奴だ。昔からお前はそうだった……!』
「何を言って……」
ユーリとリンは誘拐の時以外ロクに話した事がない。にも関わらず、彼はまるでリンに誰かを重ねているのか、僅かに親しさを感じさせる口調で語る。支離滅裂、全くもってチグハグだ。
「くっう……!」
「ユーゴ!戻って来て!このデュエルに勝つって約束したじゃない!私の返事を聞いてくれるって、もう1度言ってくれるって約束したのに……!お願い……帰って来て……ユーゴ!ユーゴぉ!」
目尻に大粒の涙を溜め、ユーゴの身体を抱き締めて叫ぶリン。失いたくない、大切な彼を。自分が記憶を失っていても想ってくれたこの少年を。誰にも奪わせてなるものかと必死に抱いて呼び掛ける。掴むのだ。2人で、光差す未来を。絶対に、何としてでも。
「――」
「……チッ』
「ユー……ゴ……?」
「融合じゃねぇ……ユーゴだっつってんだろ……!」
「ユーゴ……!」
戻って来た彼を見て、リンは涙を流しながら微笑み、ユーリは露骨に顔を歪め、舌打ちを鳴らす。右眼に宿っていた光も消えている。自らの意志でユーリに従う事もないだろう。
「残念だったな……テメェと1つになるなんて気持ち悪くて願い下げだぜ!」
「フン、なら仕方無い……君を倒し、我の力を取り戻すまで!』
「ターンエンドだ!さぁかかって来な!テメェは俺が、俺達が倒す!」
ユーゴ LP1200
フィールド『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)
手札0
その心に熱く輝く光を宿し、ユーリを迎え撃つユーゴとリン。そんな眩しい2人を見て、ユーリは僅かに自らの心に燻る想いに疑問を抱く。まさか、自分がこの光に焦がれていると言うのか。
「違う……』
違う。断じて否。そんな事はあり得ない。こんな、1人では強者足り得ない力にユーリが屈する事は無い。自分はそんなものは望まない。
彼が望むのは、全てを捩じ伏せ、希望をへし折る絶対的な力。この右眼で鮮烈に輝く、血に濡れた紅い闇こそ、ユーリの力の源。
「そんな吹けば消し飛ぶような力、弱さを含めた強さは認めない!』
瞬間、ユーリのエクストラデッキが、漆黒の光に覆われる。
ユートが憎しみを、弱さを受け入れ、ダーク・リベリオンを進化させたように。
ユーゴが弱い自分を認め、友との絆で『クリアウィング』を進化させたように。
彼にも、その時が来たと言う事だ。心に僅かに残った光を、果てなき闇が呑み込み、ユーリと『スターヴ・ヴェノム』を進化させる。
「この光、セクトと同じ……いや!」
「あの時、以上の……!?」
榊 遊矢、ユート、ユーゴ、ユーリ。この4人は姿形だけではない。心の根底が似ているのだ。
窮地に陥っても、決して諦めない不屈の魂。それが、ユーリにもあった。ただ、それだけの事。それだけの事に、勝利への渇望に、デッキが応えた。それだけの事だ。
「僕の……我のターン、ドロォォォォォ!!』
空中に描かれる、赤黒のアーク。まるで竜の体躯のように唸るそれは突風を引き起こし、ユーゴとリンの頬を撫でる。2人は確信する。間違いなく、ユーリが引いたのは、逆転のカード。
「魔法カード、『龍の鏡』!墓地の『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』と『捕食植物スキッド・ドロセーラ』を除外、融合!飢えた牙持つ毒龍よ。奈落へ誘う美しき花よ。今一つとなりて、思いのままに全てを貪れ!融合召喚!現れろ、『グリーディ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』!!』
グリーディ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力3300
フィールドに再び『スターヴ・ヴェノム』が復活。ユーリから溢れ出す闇の瘴気をその身に注がれ、ミシミシと音を立て進化していく。
黄金の角は紅く染まり、か細い肉に葉脈状の紋様が走り、背から伸びる器官には紅い蕾が生える。ひび割れた眼はそのままに。進化した毒竜が、耳を裂くようなおぞましい咆哮を放つ。
「チクショウ……!」
「『スターヴ・ヴェノム』が、進化した……!」
「これこそが君を倒す切り札!効果発動!クリスタルウィングの攻撃力を0にして、効果を無効にする!』
「そんなもんがクリスタルウィングに効くかよ!効果発動!」
「このカード以外のモンスター効果を無効にし、破壊する!」
襲いかかるグリーディ・ヴェノムの効果。背部の蕾が花開き、紅い光を放出、クリスタルウィングを貫こうとするが、クリスタルウィングの翼が輝き、光を反射、紅い光が逆にグリーディ・ヴェノムを貫き、呆気なく破壊する。
これがユーリが新たに得た切り札。こんなものだと言うのかとユーゴとリンが戸惑う。
クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000→6000
「グリーディ・ヴェノムが破壊され、墓地に送られた事で、フィールドのモンスターを全て破壊!墓地のレベル8以上の闇属性モンスターを除外し、このカードを蘇生する!』
「何だと!?くっ、墓地の『復活の福音』を除外し、クリスタルウィングを破壊から守る!」
グリーディ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力3000
そして、彼等の予測に応えるよう、グリーディ・ヴェノムが本領を発揮。再度フィールドに顕現する。死して蘇る。不滅の毒竜。これこそがユーリの切り札。
「最早、望みは絶たれた。グリーディ・ヴェノムの効果発動!』
クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力6000→0
1度で駄目なら2度、それでも駄目なら何度でも。そんの、不屈の意志を感じさせるカード。ベエルゼの天敵として進化したのがクリスタルウィングならば、全てを食らい尽くすべく生み出されたのが、このモンスター。果てなき渇望を持つ毒竜が、絶望をもたらす。
「クリスタルウィングが……!」
「我が魂に弱卒はいらない。力を捧げ、消え去るがいい!『グリーディ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』で、『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』を攻撃!』
光を失い、力を封じられたクリスタルウィングに、グリーディ・ヴェノムが容赦なく背の蕾から美しい花を咲かせ、花より走る紅い光の根が空と地面に根差し、養分を吸収、膨大なエネルギーを食らい、腹を蛙のように膨らませ――極太の熱線として解き放つ。
圧倒的な力の濁流。それを見たユーゴは、トン、リンは巻き込ますまいと、肩を押し、突き放す。
「ワリィ、リン……約束、守れそうにねぇや……」
「ッ!ユー……ゴぉぉぉぉっ!!」
「だから――融合じゃねって言ってんだろ……」
ユーゴ LP1200→0
ゴウッ、リンが手を伸ばすも、その手は届かず。目の前で眉根を下げ、困ったように笑うユーゴを、絶望の波が呑み込み、食らい尽くす。
決着、ユーゴのLPと共に、希望が散る。勝者、ユーリ。