遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

177 / 202
第172話 勲章ものだな

「私のターン、ドロー!」

 

榊 遊矢とバレットのデュエルは未だ続く。互いが持てる力、今までの激闘で得た力を総動員するデュエルは長きに渡り、火花を散らす。

ペンデュラム、融合、シンクロ、エクシーズ、4種の召喚法が幾度となく飛び交う中、バレットは遊矢のフィールドを睨みながらデッキのカードを引き抜く。

 

相手フィールドには攻撃力3000の融合モンスター、『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』とペンデュラムモンスター、『EMドラミング・コング』。直接攻撃を無効にし、デッキから『EM』をリクルートする強力な永続罠、『EMピンチヘルパー』。そしてセットカードと、レベル5が召喚可能なペンデュラムスケール。

中々の布陣だ。ルーンアイズの猛攻でバレットのモンスターは破壊されたものの、『リジェクト・リボーン』で窮地を乗り切り、シンクロモンスターとチューナーを蘇生した。

 

本当に、本当に――目の前の少年は成長した。感慨深いものだ。バレットは目を細め、感傷に耽る。初めて会った頃はまだまだ未熟な雛鳥であったと言うのに。

激闘を繰り広げたのだろう、死闘を乗り越えたのだろう。あの頃とは比較にならない程、その上で真っ直ぐに彼の心は、彼のデュエルは、多くの者と触れ、語り、解り合って進化している。

教導した、と言える時は僅かであったが、弟子のような彼が自身と互角に渡り合っているとなると胸から込み上げるものがある。

 

強い、今までバレットが闘って来た中でも遊矢は上位に食らい込むまで強くなった。だからこそ楽しい。本気の本気でぶつかり、勝ちたいと思えるデュエリストと出会えた事が。

そう――バレットは勝ちたいのだ。この若きデュエリストに。それが何よりの誉れなのだと血沸き肉踊る。

 

 

「行くぞ!榊 遊矢!スタンダード次元の誇り高き戦士よ!君の進む先は茨が伸び、飢えた獣が吠える果てしなき闘いのロード!自らの願いを叶えたくば、私を踏み越え、その先で待ち構える覇者共を打ち倒せ!君が倒れ、私の誉れとなるか!それとも君が私を倒し、踏み台とするか!このデュエルで、この眼に答えを見せてみろ!」

 

「――ッ!」

 

この誇り高きデュエリストに認められたと言う事が、遊矢の胸を熱く満たし、その意気に応えねばと想いが瞳に宿る。ここはあくまで両者にとっての通過点。

まだまだ先は長く、より強き者が待ち構えていると言う叱咤が飛び、遊矢の足が一歩前に踏み出される。

備えろ、構えろ、思考を止めるな、目の前のデュエリストに己の全力をも越えし先を見せつけろ。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『幻獣機ドラゴサック』!」

 

幻獣機ドラゴサック 攻撃力2600

 

現れたのはドラゴンと大型輸送機を合成した白い機体、ランク、素材条件、属性、種族は『No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』と同じ。

しかしこちら呼び出すトークンが脆弱かつ半減する代わりとして、自身自らが戦線に加われると言うメリットと『幻獣機』を弾丸として撃ち出す大きな相違点がある。

『No.』でなくてもバレットの頼れる戦力の1つだ。無論遊矢も油断しない。

 

「ドラゴサックのORUを1つ取り除き、効果発動!『幻獣機トークン』を生み出す!」

 

幻獣機トークン 守備力0×2

 

「『幻獣機トークン』をリリースし、ドラゴサックの効果発動!セットカードを破壊!」

 

「破壊されたのは『運命の発掘』!2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

「魔法カード、『融合回収』!墓地の『ヴォルカニック・バレット』と『融合』を回収し、発動!フィールドの『幻獣機トークン』と手札の『ヴォルカニック・バレット』で融合!融合召喚!『起爆獣ヴァルカノン』!」

 

起爆獣ヴァルカノン 攻撃力2300

 

「ヴァルカノンの効果により、このカードと『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を破壊!3000のダメージを与える!」

 

「手札の『クリアクリボー』の効果発動!ダメージを与える効果モンスターの効果を無効にする!」

 

「……君なら防ぐだろうと思っていた。バトル!ヴァルカノンで『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』へ攻撃!この瞬間、リバースカード、オープン!速攻魔法、『決闘融合ーバトル・フュージョン』!ヴァルカノンの攻撃力にルーンアイズの攻撃力を加える!」

 

「ッ、『EMピンチヘルパー』を墓地に送り、戦闘ダメージを0にする!」

 

起爆獣ヴァルカノン 攻撃力2300→5300

 

バーンに加え、ビートダウンの変則的な戦術が遊矢を翻弄、襲いかかる。どちらも今の遊矢には見逃せるものではない。持てる力を総動員、駆使して乗り越える。

 

「そうでなくては面白くない。私はカードを1枚セット、ターンエンドだ。かかって来い。エンタメデュエリスト、榊 遊矢」

 

「ギッタンバッタを墓地に送り、レインゴートを回収」

 

バレット LP1500

フィールド『起爆獣ヴァルカノン』(攻撃表示)『幻獣機ドラゴサック』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

『融合再生機構』

手札0

 

危うい所だった。バレットがドラゴサックの効果を使い、遊矢のバックを割らなければ負けていただろう。警戒心が生んだ命綱だ。彼が慎重な性格で良かった。しかし戦闘ダメージは兎も角、こうも頻繁にバーンを織り混ぜられては堪ったものではない。

現在ギッタンバッタとレインゴートのコンボで対策は出来ているものの、それもどこまで続くか分からない。勝つ為に使える手段は何でも使うと言わんばかりのバレットのスタンスは遊矢に多大なプレッシャーを与えて来る。

 

「俺のターン、ドロー!良し、ドラミング・コングをリリースし、『光帝クライス』を召喚!」

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

現れたのは黄金の鎧を纏う光の『帝王』。かなり分が悪いが、ここは賭けに出る。

 

「クライスの効果でこのカードとトランプ・ウィッチを破壊し、2枚ドロー!」

 

「ほう」

 

敵ではなく、自身のカードを破壊してドローを選ぶ遊矢にバレットがニヤリと笑みを浮かべる。どちらにせよこれは賭けに出る。バレットのモンスターを破壊しても、『補給部隊』を合わせ、3枚ドローされる。となればクライスを破壊され、遊矢のLPが削り取られる可能性は高い。だがこちらも2枚のドローで相応のカードを引かねば負ける。自身か、相手のデッキか、どちらを信じるかと言われれば前者を選ぶ。

 

「ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

己を信じ、デッキを信じるドロー。結果は――。

 

「来てくれたか……!『EMオッドアイズ・ユニコーン』をセッティング!ギタートルのペンデュラム効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

「スケールは6と8、つまりレベル7のモンスターをペンデュラム召喚可能!ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『降竜の魔術師』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

「『降竜の魔術師』の効果でこのカードをドラゴン族へ変更!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!二色の眼の龍よ!その黒き逆鱗を震わせ、刃向かう敵を殲滅せよ!エクシーズ召喚!出でよ、怒りの眼輝けし龍!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』!!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

エクシーズ召喚、『オッドアイズ』と『降竜の魔術師』が光の線となり、地面に出現した黒き穴へと飛び込み、大爆発、黒煙の中から赤と緑の光が灯り、怒号が煙を引き裂く。現れたのは遊矢の切り札。

白黒の鱗を持ち、鋭きアギトを伸ばし、背から桜色のエネルギーウィングを広げし竜。エクシーズペンデュラムモンスター。遊矢しか持ち得ぬ2つの次元をまたにかけるモンスターだ。

 

「バトル!覇王黒竜でドラゴサックへ攻撃!反旗の逆鱗ストライク・ディスオベイ!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!」

 

バレット 手札0→1→2

 

覇王黒竜がその眼を光らせ、雄々しき咆哮を放つ。空気を震撼させし、地鳴りを如きそれが響き渡った途端、覇王黒竜は背部の翼から桜色のエネルギーウィングを更に巨大化、目に止まらぬ速度で飛び立ち、ドラゴサックへと向かって突き進む。

 

ドラゴサックも大人しく止まっていてはくれない。白き翼から自らの分身たるデコイを空中に投影、本物と見分けのつかないそれを囮にし、ドラゴサックは大空を旋回、覇王黒竜がデコイに牙を突き立てている内に銃火器を口内から伸ばし、無数の弾丸を放って覇王黒竜を蜂の巣にしようとする。ガガガガガッ、と獣の唸り声の如く回転し、敵を撃ち抜くガトリング弾。

 

余りに激しい弾幕は敵の姿をも覆い隠すが――ゴウッ、覇王黒竜がその攻撃を煩わしく思ったのか、逆鱗に触れられ怒りを露にした竜は弾丸をものともせず鋼のような鱗で弾き返しながら猛スピードでドラゴサックへ突っ込み、アギトを使い真っ二つに切り裂き大爆発を起こす。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP50

フィールド『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMギタートル』

手札2

 

「私のターン、ドロー!フム……速攻魔法、『リロード』手札を交換、カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

バレット LP1500

フィールド『起爆獣ヴァルカノン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

『融合再生機構』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ!覇王黒竜でヴァルカノンへ攻撃!」

 

「罠発動!『奇策』!手札の『幻獣機ブラックファルコン』を捨て、覇王黒竜の攻撃力を1200ダウン!」

 

「何ぃっ!?くっ、アクションマジック、『ダメージ・バニュシュ』!ダメージを0に!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000→1800

 

覇王黒竜が果敢に攻め、ヴァルカノンに牙を突き立てようとしたその時、突如空より黒い鳥型の『幻獣機』が来襲、ヴァルカノンの援護射撃を行い、覇王黒竜に隙を作り、そこを突いたヴァルカノンの一撃が胸部を貫く。余りに鮮やかな手並み。遊矢は虚を突かれ、歯軋りを鳴らす。まんまと相手の策にかかってしまった。

 

「『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』の効果発動!モンスターゾーンのこのカードが破壊された事で、ペンデュラムゾーンのカードを破壊、このカードをペンデュラムゾーンに設置する!」

 

だが遊矢もただでは転ばない。

 

「そしてペンデュラム効果発動!デッキから『EMキングベアー』をセッティング!ペンデュラム召喚!『EMドラミング・コング』!『EMオオヤヤドカリ』!『EMゴムゴムートン』!」

 

EMドラミング・コング 守備力900

 

EMオオヤヤドカリ 守備力2500

 

EMゴムゴムートン 守備力2400

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ。この瞬間、『EMキングベアー』のペンデュラム効果により、このカードを破壊し、墓地の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を回収する!」

 

榊 遊矢 LP50

フィールド『EMドラミング・コング』(守備表示)『EMオオヤヤドカリ』(守備表示)『EMゴムゴムートン』(守備表示)

セット2

Pゾーン『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』

手札3

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『獣闘機パンサー・プレデター』、『幻獣機コンコルーダ』、『重爆撃禽ボム・フェネクス』、『起爆獣ヴァルカノン』、『ヴォルカニック・バレット』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

バレット 手札0→2

 

「墓地の『ヴォルカニック・バレット』の効果発動!LP500を払い、同名カードをサーチ!」

 

バレット LP1500→1000

 

「魔法カード、『ブラック・ホール』を発動!フィールドのモンスターを全て破壊する!」

 

「ッ、通す!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

バレット 手札2→3

 

「墓地のブルーインパラスを除外し、『幻獣機トークン』生成!」

 

幻獣機トークン 守備力0

 

「加えてLPを半分払い、墓地の『亡龍の戦慄ーデストルドー』を特殊召喚!トークンのレベル分レベルをダウン!」

 

バレット LP1000→500

 

亡龍の戦慄ーデストルドー 守備力3000 レベル7→4

 

「レベル3の『幻獣機トークン』に、レベル4の『亡龍の戦慄ーデストルドー』をチューニング!シンクロ召喚!『幻獣機コンコルーダ』!」

 

幻獣機コンコルーダ 攻撃力2400 

 

「『幻獣機エアロスバード』を召喚!」

 

幻獣機エアロスバード 攻撃力1600

 

現れたのはペンギン型の飛行船。準アタッカークラスの攻撃力であるが、今の遊矢には充分脅威となる。

 

「墓地の『幻獣機ブラックファルコン』を除外し、エアロスバードの効果発動!『幻獣機トークン』を生成!」

 

幻獣機トークン 守備力0

 

幻獣機エアロスバード レベル3→6

 

「バトルだ!エアロスバードでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『クリボーン』の効果発動!このカードを除外し、墓地の『クリアクリボー』を蘇生!」

 

クリアクリボー 守備力200

 

「ならばそのモンスターに攻撃変更!」

 

遊矢に危機が迫ったその時、彼の墓地から『クリボーン』が出現、白くふわふわとした丸い身体を光らせ、『クリアクリボー』へ変身。エアロスバードの攻撃を受け止める。

 

「コンコルーダでダイレクトアタック!」

 

「『クリアクリボー』を除外し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

「そしてドローしたモンスター、『EMライフ・ソードマン』を特殊召喚し、攻撃を誘導!」

 

EMライフ・ソードマン 守備力0

 

「メインフェイズ2に移り、魔法カード、『七星の宝刀』を発動、コンコルーダを除外し、2枚ドロー!」

 

バレット 手札1→3

 

「カードをセット、ターンエンドだ」

 

バレット LP500

フィールド『幻獣機エアロスバード』(攻撃表示)『幻獣機トークン』(守備表示)

『補給部隊』セット1

『融合再生機構』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!覇王黒竜のペンデュラム効果発動!デッキから『時読みの魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『EMキングベアー』!『EMドラミング・コング』!『EMオオヤヤドカリ』!『EMゴムゴムートン』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMキングベアー 攻撃力2200

 

EMドラミング・コング 守備力900

 

EMオオヤヤドカリ 守備力2500

 

EMゴムゴムートン 守備力2400

 

5体同時召喚、これぞペンデュラムの本領発揮と言わんばかりの大技が炸裂し、遊矢のフィールドを賑やかに騒ぎ立てる。正攻法の1つ、物量作戦だ。

 

「分かりやすい……!」

 

「オオヤヤドカリの効果で『オッドアイズ』の攻撃力をアップする!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→3700

 

「バトルだ!キングベアーは俺のバトルフェイズの間、攻撃力をフィールドの『EM』の数×100アップする!」

 

EMキングベアー 攻撃力2200→2600

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

「止められたか……!ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP50

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMキングベアー』(攻撃表示)『EMドラミング・コング』(守備表示)『EMオオヤヤドカリ』(守備表示)『EMゴムゴムートン』(守備表示)

セット2

Pゾーン『時読みの魔術師』『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』

手札3

 

「私のターン、ドロー!スタンバイフェイズ『黄金の天道虫』を公開し、LPを500回復」

 

バレット LP500→1000

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』で手札を交換、フム、エアロスバードの効果発動!墓地の『幻獣機タートレーサー』を除外し、『幻獣機トークン』を生成!」

 

幻獣機トークン 守備力0

 

幻獣機エアロスバード レベル6→9

 

「魔法カード、『アドバンスドロー』!エアロスバードをリリースし、2枚ドロー!」

 

バレット 手札1→3

 

「更に『幻獣機トークン』をリリースし、『光帝クライス』をアドバンス召喚!」

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

「効果は知っているな?このカードとトークンを破壊!『補給部隊』を合わせ、3枚ドロー!」

 

バレット 手札2→4→5

 

強力なドローソースの連続により、バレットの手札が見る見る内に回復、5枚まで膨れ上がる。余り回復手段がないデッキだと思っていたが、どうやら遊矢の思い違いだったらしい。

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ」

 

バレット LP1000

フィールド

『補給部隊』セット3

『融合再生機構』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『砂塵の大嵐』!ペンデュラムスケールを破壊する!」

 

「ッ!オオヤヤドカリの効果で『オッドアイズ』の攻撃力をアップ!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→3700

 

「バトルに入る!」

 

EMキングベアー 攻撃力2200→2600

 

「『オッドアイズ』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ピンポイント・ガード』!墓地のエアロスバードに耐性を与え、蘇生する!更に罠発動!『邪悪なるバリアーダーク・フォースー』!君の守備表示モンスターを除外る!」

 

幻獣機エアロスバード 守備力400

 

遊矢が『オッドアイズ』に指示を出すと同時に真っ黒な光がフィールドを覆い、ドラミング・コング、オオヤヤドカリ、ゴムゴムートンの3体を次元の彼方に消し飛ばす。本来は権現坂対策に取って置いたカードだろうか?それともこの状況を読んでいたのか、いずれにせよ、意外なカードが突き刺さってしまった。

 

「くっ、『EMウィップ・バイパー』を召喚!」

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力1700

 

現れたのはポップな姿をした紫の毒蛇。ディスカバー・ヒッポや『調律の魔術師』に押され気味であるが、このモンスターも遊矢のデッキのマスコットポジションだ。

 

「ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP50

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMキングベアー』(攻撃表示)『EMウィップ・バイパー』(攻撃表示)

セット2

手札3

 

「私のターン、ドロー!エアロスバードの効果発動!墓地の『幻獣機レイステルス』を除外し、トークンを生成!」

 

幻獣機トークン 守備力0

 

幻獣機エアロスバード レベル3→6

 

「そして2体目のエアロスバードを召喚!」

 

幻獣機エアロスバード 攻撃力1600 レベル3→6

 

「効果発動!『幻獣機サーバルホーク』を除外し、トークン生成!」

 

幻獣機トークン 守備力0

 

幻獣機エアロスバード レベル6→9×2

 

「そして2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『幻子力空母エンタープラズニル』!」

 

幻子力空母エンタープラズニル 攻撃力2900

 

2体のエアロスバードが出現した穴に呑まれ、大爆発、巨大な黒雲を生み出し、激しい駆動音が鳴り響く。まるでドラマか何かに出て来る近未来のマシンの産声の如く吠え猛るそれは徐々に煙を晴らし、中より青白い光を陽光を思わせるように照らし出され――その全貌を、明らかとする。

遊矢の目に焼きつくのは、一面灰色の壁。壁しか目に入らない。それもそうだろう、このモンスターは、余りにも巨大過ぎる。あの『No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』でをも超える程の巨体が上空に浮かび上がる様は、夢か幻かと疑ってしまうだろう。

どんなモンスターか、どんな姿をしているのか、全くもって分からない、理解出来ない。

 

その事が歯痒く思った遊矢はウィップ・バイパーを腕に巻き付けソリッドビジョンの青いブロックを階段に見立てて駆け上がり――その頂きにて、漸くその姿を捉える。

その名の通り、超大型空母の巨体と、亀の甲羅を思わせるような、地平線まで続くかに思える――大袈裟であるが、平らな飛行甲板に、このカードが『幻獣機』と同種なのだろうと推測出来る虹色の光が漏れ出ている。その姿は甲板の存在もあり、海亀にも見られ、その巨体さから遊矢はフィクションの世界で出て来る島のように大きな亀を幻視する。

 

雄大で、どこか美しいモンスター。だが、このカードはフィクションの中の噛めと違い、機械的でどこまでも主人の命令に忠実。命じられれば自らが持つ兵力で敵と見なした全てを排除する。

 

「見惚れる暇があるのか」

 

と、そこで何時の間にか移動したのか、エンタープラズニルの背の甲板に乗ったバレットがギンと遊矢を射抜く。そう、今はデュエル中、気を抜く暇等無い。遊矢は直ぐ様気を取り直し、この巨大のモンスターの戦力を分析する。

攻撃力は見かけに反して余り高くない、2900と言う数値。ランク9と考えた上、自らのランク7エクシーズペンデュラムモンスター、『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』と比べても低いと感じる。

 

そこで遊矢はこの次元に来てから何度か見たシンクロモンスターを思い出す。確か、あのモンスターもレベルも9だった。鬼柳 京介が誇る満足竜の1体、『氷結界の龍トリシューラ』も。

 

瞬間、ゾッと遊矢の背に冷たいものが伝う。遊矢は気づいたのだ。このモンスターは、トリシューラと同種のカードだと。そしてこの遊矢の勘は的中していた。

 

「エンタープラズニルのORUを1つ取り除き、効果発動!4つの効果の中から1つを発動する!私が選ぶのは――相手フィールドのカード1枚を選び、除外する効果!君の頼れるエースには退場してもらおう!」

 

トリシューラと同じ、対象を取らない除外効果が炸裂、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』が成す術なく排除されてしまう。成程、これならばランク9に相応しい性能と言える。

加えてバレットは4つの効果と言った。これに比肩する効果が後3つあるのだ。遊矢は僅かに面倒そうな顔、鬼柳にトリシューラを出された時の対戦者と似たようなものとなる。

 

「言うなれば満足空母って所か」

 

「手札を1枚捨て、『融合再生機構』の効果で『融合』を回収し、発動!手札の『ヴォルカニック・バレット』とフィールドの『幻獣機トークン』で融合!融合召喚!『重爆撃禽ボム・フェネクス』!」

 

重爆撃禽ボム・フェネクス 攻撃力2800

 

「バトル!」

 

「その前にウィップ・バイパーの効果でボム・フェネクスの攻守を入れ替える!」

 

重爆撃禽ボム・フェネクス 攻撃力2800→2300

 

「エンタープラズニルでキングベアーへ攻撃!」

 

「罠発動!『攻撃の無敵化』!戦闘ダメージを0にする!」

 

「だがモンスターは別!ボム・フェネクスでウィップ・バイパーへ攻撃!」

 

「罠発動!『アルケミー・サイクル』!俺のモンスターの元々の攻守を0にし、この効果を受けたモンスターが戦闘破壊され、墓地に送られる度にドローする!」

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力1700→0

 

「構わん、やれ!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

「ターンエンド。この瞬間、『融合再生機構』の効果で『ヴォルカニック・バレット』を回収」

 

バレット LP1000

フィールド『幻子力空母エンタープラズニル』(攻撃表示)『重爆撃禽ボム・フェネクス』(攻撃表示)『幻獣機トークン』(守備表示)

『補給部隊』

『融合再生機構』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『七星の宝刀』!手札の『相克の魔術師』を除外し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→5

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』手札を交換、魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』を発動!」

 

榊 遊矢 手札4→6

 

「魔法カード、『龍の鏡』!墓地の『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『光帝クライス』を除外し、ドラゴン族モンスターを融合召喚する!」

 

「『龍の鏡』……懐かしいな」

 

発動されたのは過去、遊矢がバレットと対戦した際、スサノーOの効果でバレットの墓地から奪い、勝敗を別った因縁のカード。当然『ペンデュラム・ドラゴン』を呼ぶ事が出来る為、遊矢も自身のデッキに投入している。

 

「これにチェーンして速攻魔法、『ダブル・サイクロン』!『龍の鏡』と『融合再生機構』を破壊!融合召喚!現れ出でよ!気高き眼燃ゆる勇猛なる龍!『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

そしてフィールドに火炎と共に現れ出でたるはルーンアイズ、ビーストアイズに続く第3の『ペンデュラム・ドラゴン』。『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』の姿をベースとして、他に2体と異なり、素材が持つ特徴を真っ直ぐに成長、正当進化させたような雄々しい真紅の竜。勇気をその眼に宿すカードが戦場に飛び出し、大気を震わす咆哮を放つ。

 

「『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』の融合召喚時、相手モンスター全ての攻撃力を0にする!」

 

「む……!」

 

幻子力空母エンタープラズニル 攻撃力2900→0

 

重爆撃禽ボム・フェネクス 攻撃力2800→0

 

ブレイブアイズの全身が赤く発光し、光が何体かの竜を模して放射状に広がり、エンタープラズニルとボム・フェネクスを貫く。これこそがブレイブアイズの効果、このカード1枚でデュエルを終わらせかねない凶悪な性能だ。

 

「バトル!ブレイブアイズでエンタープラズニルに攻撃!灼熱のメガフレイムバースト!」

 

「甘い!その程度で我が不動のデュエルを崩せると思うな!墓地の『仁王立ち』を除外し、このターンの攻撃を『幻獣機トークン』に絞る!」

 

ブレイブアイズがそのアギトから火花を散らし、体内の発火器官を駆使し、口内に火球を生成、触れれば全てを溶かしかねないエネルギーを秘めたそれを放つも、攻撃は軌道の途中、ガクリと真横に曲がり何時の間にかエンタープラズニルの姿を模した『幻獣機トークン』へと引き寄せられる。エンタープラズニルもまた、『幻獣機』と同じような存在。こうしてホログラムを用意し、攻撃をかわす事も容易い。

バレットの言う通り、この防御力は権現坂の不動のデュエルと似ている。彼は元々権現坂道場に住み込みで働いていたのだ。これ位は当然だろう。

 

「そして『補給部隊』の効果でドロー!」

 

バレット 手札1→2

 

「俺は『EMドラネコ』をセッティング!カードを1枚セットしてターンエンド」

 

榊 遊矢 LP50

フィールド『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMドラネコ』

手札1

 

「私のターン、ドロー!エンタープラズニルの効果を……」

 

「無駄だよ、ブレイブアイズがフィールドに存在する限り、攻撃力0のモンスターは効果を発動出来ない」

 

「……成程、既に布石は打たれていたか。魔法カード、『手札抹殺』を発動!」

 

「ッ、墓地のギッタンバッタの効果で自身を特殊召喚」

 

EMギッタンバッタ 守備力1200

 

「魔法カード、『成金ゴブリン』!相手のLPを1000回復させる代わりに1枚ドロー!」

 

バレット 手札1→2

 

榊 遊矢 LP50→1050

 

「そして装備魔法、『再融合』を発動!LPを800払い墓地の融合モンスター、『獣闘機パンサー・プレデター』を特殊召喚!」

 

バレット LP1000→200

 

獣闘機パンサー・プレデター 攻撃力1600

 

バレットが命を削り、フィールドに見参したのは半身をサイボーグ化した黒豹の獣人。美しき煌めきを見せるサーベルを握り、戦場を駆け抜ける。バレットのエースモンスターだ。攻撃力こそ低いものの、中々優れた効果を持っており、遊矢を確実に追い詰める。

 

「装備魔法、『巨大化』を発動!パンサー・プレデターへ装備!私のLPが君のLPより低い事で攻撃力を倍にする!」

 

獣闘機パンサー・プレデター 攻撃力1600→3200

 

バレットの削られた命の光がパンサー・プレデターの四肢をより逞しく強化する。ブレイブアイズを超えるモンスターを作り出した。

 

「そしてパンサー・プレデターの効果発動!このモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える!」

 

「手札の『ハネワタ』を捨て、このターンの効果ダメージを0にする!」

 

「相変わらずだな、エンタープラズニルとボム・フェネクスの2体を守備表示に変更、バトル!パンサー・プレデターでブレイブアイズへ攻撃!」

 

迫る剣線、本能を剥き出しにした黒豹が強靭な脚で地を蹴り、驚くべき速度でブレイブアイズへ肉薄、剣を持った腕を振るう。分厚い鋼をも細切れにするであろう凶撃だ。これを受ければ如何に生命の頂点に座す竜であろうと絶命し、遊矢にまで切れ味が届きかねない。

 

「させるか!永続罠、『強制終了』!ギッタンバッタを墓地に送り、バトルフェイズを終了!」

 

すかさず遊矢は伏せられていた最後の砦を発動。ギッタンバッタが持ち前の脚力で跳躍しブレイブアイズの盾となる。

 

「繋いだか……私はこれでターンエンド」

 

バレット LP200

フィールド『獣闘機パンサー・プレデター』(攻撃表示)『重爆撃禽ボム・フェネクス』(守備表示)『幻子力空母エンタープラズニル』(守備表示)

『再融合』『巨大化』『補給部隊』

手札0

 

LPは互いにデッドゾーン、正にギリギリの攻防、2人は荒い息を吐きながら獰猛な笑みを口元に浮かべる。恐らく――これがラストターン、遊矢にとってか、バレットにとってか。いずれにせよ、最後のチャンスと言って良い。だが――遊矢は迷う事なくデッキからカードを引き抜く。

 

「Ladies and Gentleman!お楽しみは、これからだ!」

 

引き抜かれる1枚のカード。遊矢はチラリと目を配らせ、少々、苦笑いを溢す。

 

「まさか、ここに来て博打をする事になるとはね……!魔法カード、『アドバンスドロー』!ブレイブアイズをリリースし、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

ここで遊矢が一種の賭けに打って出る。強力なモンスター、ブレイブアイズを手放し、新たな手札に変換。ここで引かねば負けは濃厚だ。

 

「魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地より『覚醒の魔導剣士』を蘇生!」

 

覚醒の魔導剣士 攻撃力2500

 

ここで現れたのは遊矢が初めて所持したシンクロモンスターだ。しかしその光は失われ、目の前のパンサー・プレデターには届かない事が誰の目から見ても頷ける。

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『強制終了』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

届かないなら、届くまで手繰り寄せるまで。決死の思いで勝利へ続く方程式に、1枚1枚カードを当て嵌めていく。

 

「『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』をセッティング!スケールは3と1!つまりレベル2のモンスターをペンデュラム召喚可能!ペンデュラム召喚!『EMトランポリンクス』!」

 

EMトランポリンクス 守備力300

 

スケールはかなり狭いが、これで充分、ペンデュラム召喚で胴体がトランポリンになった山猫を呼び出す。これで準備完了だ。

 

「俺はレベル8の『覚醒の魔導剣士』に、レベル2の『EMトランポリンクス』をチューニング!」

 

「チューナー無しのシンクロ召喚……!?」

 

「このカードはペンデュラム召喚したペンデュラムモンスターをチューナー扱いでシンクロ召喚出来る!平穏なる時の彼方から、あまねく世界に光を放ち、蘇れ!シンクロ召喚!現れろ、『涅槃の超魔導剣士』!」

 

涅槃の超魔導剣士 攻撃力3300

 

そして――フィールドに光を放ち、顕現せしは鎧と法衣を纏った『覚醒の魔導剣士』をも超越した魔法剣士。シンクロペンデュラムモンスター、遊矢がこのシンクロ次元で新たに得た特異なるカードだ。現状彼が持つモンスターの中で最高の攻撃力を持っており、パンサー・プレデターの攻撃力を僅か100であるが上回る。

 

「シンクロ……ペンデュラムモンスター……!?」

 

「シンクロ召喚時、墓地のカードを1枚回収、装備魔法、『団結の力』を装備!」

 

涅槃の超魔導剣士 攻撃力3300→4100

 

「バトルだ!『涅槃の超魔導剣士』で『獣闘機パンサー・プレデター』を攻撃!」

 

『涅槃の超魔導剣士』が持つ剣に光と闇、白黒の輝きが集束し、世にも美しい煌めきを放つ刃を生成、パンサー・プレデターに向かい振るわれ、パンサー・プレデターもまた、自身が最も信頼する剣を振るう。ぶつかり合う剣と剣、交差する刃と刃。白銀の光が空中に軌跡を描き出し、何度も金属音を響かせ、火花を散らす。

 

超一流、いや一流をも超えた化物同士の剣撃だ。互角に渡り合い、このままではラチがあかないと思った両者が魔法と半身の銃火器を放ち、その中を刃が縫う。そして超至近距離で刃は交差、パンサー・プレデターが凄まじい膂力を四肢から発揮、両足、腰、両腕から全力を注ぎ込まれた剣は『涅槃の超魔導剣士』を抑え込み、空いた半身から伸びる火器から弾丸を放つ。

 

しかしここで『涅槃の超魔導剣士』は獣に勝る反射神経を発揮、左手で魔力球を作り出し、弾丸を呑み込み焼き尽くす盾とする。そのまま驚愕するパンサー・プレデターの顎目掛け、膝蹴りを食らわせ、怯んだ隙に白黒の剣が胸を討つ。そして剣から伸びる光はバレットへ向かい――。

 

「トゥルース・スカーヴァティ!」

 

バレット LP200→0

 

「ガッチャ、勲章もののデュエルだった……!」

 

決着、勝者、榊 遊矢。激闘に幕を下ろした彼は、息を切らしながらバレットに歩み寄る。

 

「貴方に、頼みがある」

 

「……フ、恐らくその問題なら……既に、解決済みだ」

 

――――――

 

「何故、お前がここにいる……」

 

「久々に顔を見せたと思いきや、随分とご挨拶だな」

 

融合次元、とある病院にて。万丈目は紫雲院 素良の妹、美宇をアカデミアから奪取。及び保護をしようと来訪したのだが――。

意外な人物を視界におさめた途端、目を見開いて驚愕、言葉と共に頭を猛回転させていた。

それもそうだろう、目の前にいる人物は、万丈目にとって敵であり、最上級に警戒すべき者だったのだから。

 

「バレット……教官……」

 

「今は覇王の下っ端だ」

 

バレット。アカデミアの幹部であり、この中でも5本の指に入るであろう実力者。それが今、美宇の前で何故かリンゴを下手くそながら剥いていた。

 

「おじさん、リンゴ剥くの下手っぴだね」

 

「練習しておこう」

 

「ええい緩い会話をするな!とっとと説明しろ!」

 

「ツンツン頭のお兄さんうるさいよ。おじさんの知り合い?」

 

「すまんな、基本悪い奴では無いんだが、根っこだけが腐って悪い奴なんだ。根は良い奴の逆だな」

 

「やかましいわ!」

 

「病室では静かにしろ」

 

リンゴを剥くのに苦戦しながら会話を続けるバレットに対し、万丈目は早く用件を終わらせたいのを含めてツッコミを入れる。どうやらここにいるのアカデミアの人間は彼だけらしい。

 

「はぁ……そう警戒するな、今の私はオフだ。仕事をするなとプロフェッサーにも言われている」

 

「……何が言いたい?」

 

「そう言えばここの警護の者は元々いなくてな、まぁ、やり手とは言えアカデミアも幹部以外の者の家族の警護をする程暇じゃないのだ。それに最近この病院の監視カメラが調子が悪いらしくてな」

 

「お前……」

 

口笛を吹きながら、自分は全く関係ないし何も見ていないと言わんばかりに呟くバレット。

これを聞き、罠かと疑うが――いや、結局行動しなければ何も始まらないだろう。

 

「礼は言わん」

 

「それは本当にやめて欲しいな、気色悪い」

 

「……お前は……いや、あんたは来る気はないのか?」

 

万丈目が思わず言った瞬間、バレットがギロリと眼帯をしていない方の眼で睨む。たったそれだけの事にも関わらず、込められし威圧感に一瞬怯む万丈目。しかし、それも僅かな間の事。直ぐ様空気は弛緩する。

 

「子供はな……望むならばこのような事、しなくて良いんだ。未来がある。だが大人は違う。ここまで来てしまえばやり直せない、いや、やり直すべきではない。特に私のような奴が1人はいるべきなんだ」

 

「……」

 

「罪を押しつけられる都合の良い大人がな」

 

「あんたは……」

 

「それに私はそうせずとも罪を重ねて来た。それが増えるだけだ。今更構わんよ。アカデミアの教官だったもの、全ては教官が教えた事とでも言えば彼等の罪は少しは軽くなり、向けられる憎しみも和らぐだろう。汚い大人は汚い事をやって来た責任を取るべきだ」

 

「それで、良いのか?」

 

「そうでなくともプロフェッサーには恩義がある。同情なんてするな、気色悪い。私はお前達の敵だ」

 

遠い目をして、バレットは呟き、剥いたリンゴを皿の上におく。ウサギを模しているのだろうか、それにしては余りにも下手くそだが。

それを見て美宇が「アンゴラウサギだね」と言う程である。

 

「そう言う事なんです。私を助けに来てくれた人ですよね。どうか……私を、私達兄妹を助けてください」

 

ペコリ、頭を下げて頼み込む美宇に、万丈目が更に驚く。この少女、知っていた、いや、知らされていたのか。それにしても気丈な態度。聡明な子なのだろう。

 

「……言われずともやってやるさ……バレット教官」

 

そう言って、準備を終え、部屋から出ていく万丈目と美宇。そんな彼等の背中が遠くなった後、バレットは誰にも聞かれぬような小声でつぶやく。

 

「……今まで1度も教官なぞ呼ばなかった奴が……全くもって、気色悪い……」

 

ふんと鼻を鳴らし、更に残されたリンゴを1つ、口に放り込むバレット。しゃくりを音を鳴らし、思考を切り替える。

 

「さて……オフは終わりだ。そろそろ……私の最後の教え子の顔を見に行こう。尤も、向こうがそう思っていてくれるかどうかは分からんが」

 

そうして彼は、シンクロ次元でエンタメデュエリストを名乗る教え子とぶつかる事となる。

 

――――――

 

融合次元、アカデミアからの刺客の手により、戦場に変えられたシンクロ次元、シティ。

パワーアップしてオベリスク・フォース達の侵攻をこれ以上進ませまいと多くのデュエリストが迎え撃つ。対アカデミア精鋭部隊、ランサーズ。三沢達反抗勢力。そしてシンクロ次元で暮らす鬼柳や牛尾、ツァン達。彼等の健闘に加え、オベリスク・フォースを巻き込んで闘う黒コナミ、白コナミ、覇王の3人の手でその数は見る見る内に減っていき、残るは僅かとなっていた。

 

ここにもまた――オベリスク・フォースを撃退するデュエリストが1人。白を基調とし、ライトグリーンと黄色のカラーリングを行ったDーホイールに股がり、白いライダースーツを纏った、こよシンクロ次元独自のライディングデュエルに魂を賭けたDーホイーラー、ユーゴだ。

遊矢と似た顔立ちをした彼はその大雑把で直情的な性格からは想像もつかないようなテクニカルで独創的なタクティクスで相手を翻弄、尚本人はデュエルタクティクスをデュエルスフィンクスと間違えるレベルのアホである。

 

「行け、『HSRチャンバライダー』!『イグナイト・アヴェンジャー』と『カクラリ大将軍無零怒』へ攻撃!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力3800→4000→4200

 

オベリスク・フォースG LP1300→0

 

オベリスク・フォースH LP800→0

 

「がはっ……!」

 

「またこいつに負けるとは……!」

 

日本刀の形状をしたバイクの下半身でフィールドを駆け、刃と化した両腕を振るうユーゴのモンスター。次の瞬間、両腕の刃は凄まじい速度で突き進む斬撃を放ち、オベリスク・フォースのモンスターである銃火器を模した戦士と機械の武将を切り裂く。

実はこの2人、スタンダード次元にてユーゴと桜樹 ユウと闘っており、ユーゴに敗北するのは2度目となる。とは言っても他のオベリスク・フォースと全く同じ姿の為、ユーゴには見分けがつかないのだが。

 

「いや、分かるかよ」

 

その上ユーゴは忘れっぽい為、余計に微妙な顔となる。白い光の粒子に包まれ、デュエルディスクの転送機能が作動したのだろう、倒れた2人がその姿を消す。

 

「さて、次はどいつだ?」

 

ユーゴが次の敵を倒す為、辺りを見渡すが、誰1人として周囲に存在しない。どうやらこの場にいたものは全て倒したようだ。そう思うとドッと疲れが肩にかかる。

正直言って数が多く、1人1人が手強くなっている為、かなりてこずってしまった。だが休む訳にはいかない。遊矢達他の皆も闘っているだろう。コキコキと肩を鳴らし、誰もいないならもうこの場に用はないと廃墟から出ようと足を動かしたその時。

 

「へぇ、中々やるじゃないか、君」

 

不意に、ユーゴの背後から声がかかり、彼の全身をゾッと寒気が襲う。ピタリと動かそうとした足がその場に縫い付けられ、脳が警報を鳴らす。そして同時に――ユーゴの胸がドクンと熱く高鳴り、腹の底から煮えたぎるかのように怒りが燃える。

忘れもしない、この遊矢と良く似ているものの、正反対のねっとりと首筋に絡みつく蛇を思わせる声。そして――頭から爪先まで、危険だと訴える前回とは違った存在感。背後にいるのは、ユーゴが唯一心の底から憎く、ブチのめしたい怨敵。彼は勢い良く振り向き、現れた少年をその目で捉える。

 

「確か……ユーリ、だったよなぁ……!」

 

はやる気持ちを抑え、デュエルディスクを構えるユーゴ。思ったより冷静だ。彼ならば振り向き、直ぐ様胸ぐらを掴みそうなものだが、目の前の少年、ユーリの存在が彼の怒りを抑え込んだのだ。

彼の存在が、前回会った時より、余りにも違っていたから。見た目こそ変わらない、紅い左眼と眼帯を着けた右眼。紫の軍服と赤いマントを纏い、軍靴の爪先で地面をトントンと叩く、ユーゴそっくりの顔をした少年。

だが――彼の内側から溢れ出る邪悪な気配がユーゴの理性を引き摺り出す。この少年は――今まで会った何よりも危険であると。気づかぬ内に大粒の汗を額から流すユーゴを見て、ユーリは皿のように目を細め、嘲笑うかの如くユーリを見下す。

 

「うん、そうだよ。僕の事知ってるんだねぇ、でも僕は君の事知らないや。どこかで会った事あるっけ」

 

本当に、ユーゴの事を覚えていないのだろう。ユーリは考え込む素振りを見せた後、キョトンとした顔でユーゴに視線を移す。それが、ユーゴの逆鱗に触れた。

 

「覚えてない、だと……!?ふざけんなテメェ!テメェがリンを拐った時、この面見せただろうが!忘れたとは言わせねぇぞ!」

 

「うーん、まぁ僕とそっくりな顔だし、忘れる筈ないんだけどなー」

 

「なら……思い出させてやるよ!コイツでな!」

 

「……良いねぇ君ィ。僕好みの答えだ。友達になれそうだね」

 

目を細め、余裕の表情で笑みを浮かべるユーリに対し、ユーゴが犬歯を剥き出し、苛烈なまでの闘争心を迸らせる。そしてユーリもまた、その答えを見てより笑みを深め、凄絶とも言える表情でユーゴを迎え撃つ。

 

「テメェの友達なんて願い下げだぜ!」

 

かくして――覇王を宿す少年はぶつかり合う。

 

「「デュエル!!」」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。