遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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第169話 優し過ぎる

シンクロ次元、シティで繰り広げられる紫雲院 素良と柊 柚子による師弟デュエル。互いの想いを賭した闘いは中盤に入っていた。

押せ押せと何度も融合召喚をおこなう素良に対し、柚子はモンスターの効果を組み合わせて対抗、互角に渡り合う。そんな2人のデュエルを、オベリスク・フォースを退治しながら、ユートと三沢、そして瑠璃が覗き見る。

 

(紫雲院のデュエルはアカデミアにいた頃、何度か見かけたが……強いな。純融合魔法を使いこなし、数多くの融合モンスターで攻め立てる、恐るべきはその手数の多さか。だが……)

 

(柚子ちゃんも負けていない。今まで維持して相手モンスターを撃退していたマイスタリン・シューベルトこそいなくなったけど、天使族モンスターをコスト無しで呼べる『神の居城ーヴァルハラ』がある。充分に巻き返せる!)

 

互いに譲らぬシーソーゲーム。今は少々素良に傾いているが、それでも柚子にも可能性はある。素良もそれを分かっているのか、その表情にそこまで余裕はない。

 

(厄介なのは柚子の手札にあるスコア……せめてアレが無ければもう少し楽になれるんだけどなぁ……本当、成長してるよねぇ……融合を教えたのは不味かったか……全く、僕も甘かった。だけど――もう甘くはしてやれない!)

 

がぶりと板チョコを噛み砕き、素良は頭の中で戦術を練る。このままでは不利になるのは素良だ。彼の場には守備力3000と申し分のない壁である『デストーイ・ハーケン・クラーケン』が存在するものの、油断は出来ない。

柚子の手札に『幻奏』モンスターと戦闘を行う相手モンスターの攻守を0にする『幻奏の音女スコア』が存在するからだ。上級天使を呼べるヴァルハラもある。間違いなくこのターンでハーケン・クラーケンを倒しに来るだろう。そうなれば手札0の素良は体勢を戻すのに力を裂かねばならない。

 

「私のターン、ドロー!」

 

「バック・ジャックを除外し、デッキトップの罠をセット!」

 

「ヴァルハラの効果発動!手札の『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』を特殊召喚!」

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力2600

 

「ここでプロディジー・モーツァルトか……!」

 

「バトルよ!プロディジー・モーツァルトで『デストーイ・ハーケン・クラーケン』へ攻撃!この瞬間、手札のスコアを墓地に送り、ハーケン・クラーケンの攻守を0に!グレイスフル・ウェーブ!」

 

デストーイ・ハーケン・クラーケン 守備力3000→0

 

プロディジー・モーツァルトがタクトを振るい、空中に音符を放ち、ハーケン・クラーケンの紫の体躯を貫く。ハーケン・クラーケンは攻撃力こそプロディジー・モーツァルトより低いが、相手モンスターを墓地送りにする効果を持っている。破壊ではなく、墓地送り。かなり厄介な効果だ。早々に除去しておくに限る。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

紫雲院 素良 手札0→1

 

「カードを1枚セット、ターンエンドよ!どう?素良、サレンダーでもする?」

 

柊 柚子 LP3600

フィールド『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』(攻撃表示)

『神の居城ーヴァルハラ』『補給部隊』セット1

手札0

 

ニヤリ、先程の素良の台詞を借り、意趣返しを送る柚子。彼女も中々にイイ性格をしている。素良は頬をひくつかせ、『補給部隊』の効果で引いたカードに視線を移す。これなら――。

 

「そんなんだからストロングとか言われるんだよ」

 

「なっ……何ですってぇっ!?」

 

目を細め、挑発し返す素良に対し、柚子がワナワナと肩を震わせ、怒りを抱く。意外と乙女らしい彼女の事だ、乙女からかけ離れたストロングを引き合いに出され、少々傷ついている。

 

「うわ、おっかない。僕のターン、ドロー!『ネクロフェイス』を召喚!」

 

ネクロフェイス 攻撃力1200

 

「召喚時、除外されたカードを全てデッキに戻し、その数×100攻撃力をアップ!」

 

ネクロフェイス 攻撃力1200→5000

 

「バトル!『ネクロフェイス』でプロディジー・モーツァルトへ攻撃!」

 

「罠発動!『セキュリティー・ボール』!『ネクロフェイス』を守備表示に変更!」

 

「チ、なら罠発動!『魂の転身』!通常召喚したレベル4のモンスター、『ネクロフェイス』をリリースし、2枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札1→3

 

「魔法カード、『二重召喚』。通常召喚権を増やし、モンスターとカードをセット、ターンエンドだよ!」

 

紫雲院 素良 LP3000

フィールド セットモンスター

『トイポット』『補給部隊』セット1

手札0

 

モンスターとカードをセットし、ターンエンド。次の融合の為の準備、反撃の手立てを整えているのか、随分と大人しい運びだ。派手なデュエルを好む素良にしては少々意外であるが――油断は出来ない。

 

「私のターン、ドロー!プロディジー・モーツァルトの効果発動手札のローリイット・フランソワを特殊召喚!」

 

幻奏の音姫ローリイット・フランソワ 攻撃力2300

 

再び戦場に舞うローリイット・フランソワ。打点こそ低いが、天使族を回収するこのカードは実に厄介、スコアを毎ターン回収され、攻めも守りも先を行かれる。

 

「効果発動!スコアを手札に――」

 

「チェーンし、罠発動!『悪魔の嘆き』!君の墓地のスコアをデッキに戻し、僕のデッキの悪魔族モンスター、『魔サイの戦士』を墓地に送る!更に『魔サイの戦士』が墓地に送られた事で、デッキから『エッジインプ・シザー』を墓地に送るよ!」

 

しかし、それを何度も通す程、今の素良は甘くない。彼はアカデミアの戦士、紫雲院 素良。確実に任務を遂行すべく、相手の一手を踏み潰す。

 

「くっ……ならバトルよ!ローリイット・フランソワでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『メタモルポット』!お互い手札が無いから捨てはしないけど――5枚ドローする!『補給部隊』の効果も使うよ!」

 

紫雲院 素良 手札0→5→6

 

柊 柚子 手札0→5

 

素良のフィールドにセットされたモンスターがクルリと反転し、1つ目とニヤけた口を中から覗かせる壺が出現する。ここで『メタモルポット』――柚子が驚く中、2人の手に5枚のカードが渡り、手札を潤す。リバース効果なのが少々遅く、相手まで回復してしまうが、それでも5枚のドローと強力なドローソースだ。

 

「プロディジー・モーツァルトでダイレクトアタック!」

 

「手札の『速攻のかかし』を捨て、バトルを終了!」

 

「メインフェイズ2、フィールドに『幻奏』モンスターが存在する事で、手札の『幻奏の音女ソナタ』と『幻奏の音女カノン』を特殊召喚!」

 

幻奏の音女ソナタ 攻撃力1200→1700

 

幻奏の音女カノン 守備力2000→2500

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力2600→3100

 

幻奏の音姫ローリイット・フランソワ 攻撃力2300→2800

 

手札を得た事で当然展開。ソナタの効果により、柚子のモンスターの攻守が上がる。益々倒しにくくなった。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドよ」

 

柊 柚子 LP3600

フィールド『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』(攻撃表示)『幻奏の音姫ローリイット・フランソワ』(攻撃表示)『幻奏の音女ソナタ』(攻撃表示)『幻奏の音女カノン』(守備表示)

『神の居城ーヴァルハラ』『補給部隊』セット2

手札1

 

「僕のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『覇者の一括』!このターンのバトルを封じる!」

 

これで素良の手札は6枚、充分巻き返しが可能な数だ。ここから彼がどう出て来るか――。

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!2枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札5→7

 

「魔法カード、『魔玩具融合』!墓地の『エッジインプ・ソウ』、『ファーニマル・ベア』の2体を除外し、融合!融合召喚!『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』!」

 

デストーイ・ホイールソウ・ライオ 攻撃力2400

 

「その効果により、プロディジー・モーツァルトを破壊し、その元々の攻撃力分のダメージを与える!」

 

「罠発動!『スキル・プリズナー』!プロディジー・モーツァルトを対象とするモンスター効果を無効に!」

 

「なら次はこれだよ!手札1枚をデッキトップに戻し、墓地の『エッジインプ・シザー』を蘇生!」

 

エッジインプ・シザー 守備力800

 

「『トイポット』の効果発動!」

 

紫雲院 素良 手札4→5

 

「引いたカードは『ファーニマル・マウス』!特殊召喚!」

 

ファーニマル・マウス 守備力100

 

『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』の致命傷となる一撃を回避する柚子に対し、素良は驚きもせず、休む間もなくその手を進める。この程度は予想通りと言わんばかりの反応、手札1枚と言うコインによって『トイポット』を回し、引き当てたのは羽を生やし、ドーナツに齧りつくハムスターだ。『エッジインプ・シザー』のデメリットも上手く使いこなしている。

 

「そして『ファーニマル・マウス』の効果発動!デッキから同名モンスター2体をリクルート!」

 

ファーニマル・マウス 守備力100×2

 

「永続魔法、『デストーイ・ファクトリー』を発動!墓地の『魔玩具融合』を除外し、融合を行う!僕はフィールドの『エッジインプ・シザー』、『ファーニマル・マウス』3体、更に手札の『ファーニマル・キャット』を融合!融合召喚!『デストーイ・シザー・タイガー』!」

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力1900→2500

 

デストーイ・ホイールソウ・ライオ 攻撃力2400→3000

 

ここで現れるシザー・タイガー。2枚目、素良のエクストラデッキには2枚しか存在しない為、これで打ち止めとなる。

 

「シザー・タイガーの効果でプロディジー・モーツァルト以外の3体のモンスター、そしてヴァルハラと『補給部隊』を破壊するよ!そしてチェーンして『ファーニマル・キャット』の効果発動!『融合』を回収!」

 

「うっ……!」

 

ジョキンとシザー・タイガーの腹部のハサミが伸び、柚子のカードを5枚も切り裂く。

 

「良い感じだ。僕は魔法カード、『融合』を発動!手札の『エッジインプ・チェーン』と『ファーニマル・ペンギン』を融合!融合召喚!現れ出ちゃえ!全てを封じる鎖のケダモノ!『デストーイ・チェーン・シープ』!」

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2000→2900

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力2500→2800

 

デストーイ・ホイールソウ・ライオ 攻撃力3000→3300

 

3回連続融合。現れたのは背からソーサーを伸ばし、目玉が飛び出した羊のぬいぐるみ。モコモコとした毛で地面をバウンドし、2体の『デストーイ』と並ぶ。しかし両隣共に肉食獣、羊の彼は怯えからか、プルプルと震える。

 

「『エッジインプ・チェーン』の効果で『デストーイ・ファクトリー』をサーチし、『ファーニマル・ペンギン』の効果で2枚ドローし、1枚捨てるよ」

 

紫雲院 素良 手札1→3→2

 

「墓地に送られた『デストーイ・ファクトリー』の効果により、除外されている『魔玩具融合』を回収、僕はカードを2枚セット、ターンエンドだよ」

 

紫雲院 素良 LP3000

フィールド『デストーイ・シザー・タイガー』(攻撃表示)『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』(攻撃表示)『デストーイ・チェーン・シープ』(攻撃表示)

『トイポット』『デストーイ・ファクトリー』『補給部隊』セット2

手札1

 

打って変わって戦況は一変、一気に柚子の不利となってしまった。彼女のフィールドに存在するのはプロディジー・モーツァルト1体のみ。対して素良の場には『デストーイ』融合モンスターが3体、かなり不味い。

 

「私のターン、ドロー!速攻魔法、『魔力の泉』!3枚ドローし、1枚捨てる!」

 

柊 柚子 手札1→4→3

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!2枚ドロー!」

 

柊 柚子 手札2→4

 

「プロディジー・モーツァルトの効果発動!手札の『幻奏の歌姫ソプラノ』を特殊召喚!」

 

幻奏の歌姫ソプラノ 守備力1400

 

「特殊召喚時、墓地の『幻奏の音女カノン』を回収し、特殊召喚!」

 

幻奏の音女カノン 守備力2000

 

「そして3体目のソプラノを召喚!」

 

幻奏の音姫ソプラノ 攻撃力1400

 

「1体目のソプラノの効果発動!プロディジー・モーツァルトとこのカードで融合!至高の天才よ!天使の囀りよ!タクトの導きにより力重ねよ!融合召喚!今こそ舞台に勝利の歌を!『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』!!」

 

幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ 攻撃力1000

 

融合召喚、2体の天使が混じり合い、フィールドに花弁が出現、花開き、咲き誇ったのは可愛らしく、幼さが残る竜胆の少女。柚子の切り札たる融合モンスターだ。素良もこのモンスターを警戒しているのか、目を細める。

 

「ブルーム・ディーヴァ……!」

 

「このモンスターなら、貴方のモンスターがどれだけ打点を上げようと向かえ撃てるわ。そしてもう1体のソプラノとカノンを融合!融合召喚!『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』!」

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2400

 

「バトルよ!」

 

「この瞬間、罠発動!『マジカルシルクハット』!『デストーイ・チェーン・シープ』とデッキの魔法、罠2枚をモンスターとしてセット、シャッフル!」

 

「このタイミングで……?」

 

「そしてもう1枚の罠発動!『ダブルマジックアームバインド』!シルクハットをリリース、ブルーム・ディーヴァとマイスタリン・シューベルトのコントロールを得る!」

 

「なっ!?」

 

二重の罠が炸裂し、柚子の強力なモンスターが揃って奪われる。最悪の展開、折角のブルーム・ディーヴァもこうなってしまえば無力だ。

 

「マイスタリン・シューベルトの効果発動……!」

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2400→3000

 

「墓地に送られた『トイポット』の効果で『ファーニマル・ドッグ』をサーチ」

 

「カードを2枚セット、ターンエンドよ……」

 

柊 柚子 LP3600

フィールド

セット2

手札0

 

「僕のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『成功確率0%』!相手のエクストラデッキからランダムに2枚融合モンスターを墓地へ送る!」

 

「手札1枚を捨て、エクストラデッキの『デストーイ・シザー・ウルフ』と『デストーイ・シザー・ベアー』を墓地に送り、永続魔法、『デストーイ・サンクチュアリ』を発動!僕のフィールドの融合モンスターは、全て『デストーイ』モンスターへと変わる!」

 

「罠発動!『裁きの天秤』!私のフィールド、手札のカードはこれ1枚、貴方のフィールドのカードは9枚!よってその差8枚ドロー!」

 

柊 柚子 手札0→8

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力2800→3400

 

デストーイ・ホイールソウ・ライオ 攻撃力3300→3900

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2900→3500

 

幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ 攻撃力1000→2500

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力3000→4500

 

「『デストーイ・サンクチュアリ』の効果で私の融合モンスターを『デストーイ』に……まさか……!?」

 

柚子から奪った融合モンスターが『デストーイ』へ変わり、彼女の脳裏に次の展開が浮かび上がる。そう、素良が取るであろう次の手は――。

 

「そのまさかさ!墓地の『融合準備』を除外し、『デストーイ・ファクトリー』の効果発動!僕は『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』と『デストーイ』モンスターとなったブルーム・ディーヴァとプロディジー・モーツァルトで融合!」

 

そう、彼の狙いは最初からこれ。『デストーイ・サンクチュアリ』を引き込んだのは運が良かったとしか言えないが、これにて彼のコンボは完成する。

『マジカルシルクハット』で『ダブルマジックアームバインド』のリリース要員を揃え、柚子の融合モンスターを奪い、『デストーイ・サンクチュアリ』の効果で『デストーイ』へと書き換える。そして――『デストーイ』を素材としての融合召喚。彼等は知らないが、この融合召喚は融合の究極形態を、相手モンスターを素材とした融合召喚を擬似的に再現したものだ。

 

「悪魔宿りし非情の玩具よ、刃向かう愚民を根こそぎ滅ぼせ!融合召喚!現れ出でよ!全ての玩具の結合魔獣!『デストーイ・マッド・キマイラ』!!」

 

デストーイ・マッド・キマイラ 攻撃力2800→3700

 

『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』が『デストーイ』化により毛糸に変わった2体の『幻奏』モンスターの胸部を鋭い牙で貫き、大口を開けて貪り食らう。そして3体の毛糸がクルクルと空間に溶けるようにほつれ、重なり、新たな姿を紡ぎ出す。

質量を増し、より巨大でより圧倒的な体躯へと。メキメキと不気味な音を唸らせ、現れたのは3つの玩具が合体した合成獣。素良の切り札となる融合モンスターが、眼を赤くギラつかせ、空気を震撼させる遠吠えを轟かせる。

 

「私のモンスターを融合素材に……!」

 

「まだまだ!魔法カード、『魔玩具融合』!墓地の『エッジインプ・シザー』と3体の『ファーニマル・マウス』を除外し、融合!融合召喚!『デストーイ・シザー・ウルフ』!」

 

デストーイ・シザー・ウルフ 攻撃力2000→3200

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力2800→3100

 

デストーイ・マッド・キマイラ 攻撃力3700→4000

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2900→3200

 

更に現れたのは青い毛色の狼型の『デストーイ』モンスター。素材の数だけ攻撃権を得る、『デストーイ・シザー・タイガー』と極めて相性の良いモンスターだ。元々の攻撃力は2000であるが、シザー・タイガーの効果によって攻撃力3000超えの4回攻撃権を持ったモンスターへ強化される。

 

「バトルといこうか!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

「チッ、ターンエンドだよ」

 

現在柚子の手札数8枚、充分に巻き返しの効く数だ。幸い彼のフィールドには妨害出来るリバースカードは存在せず、手札も0、邪魔はない。

 

「ここでそのカードか……!」

 

紫雲院 素良 LP3000

フィールド『デストーイ・マッド・キマイラ』(攻撃表示)『デストーイ・シザー・タイガー』(攻撃表示)『デストーイ・シザー・ウルフ』(攻撃表示)『デストーイ・チェーン・シープ』(攻撃表示)

『トイポット』『デストーイ・ファクトリー』『補給部隊』

手札0

 

強い、巧い、凄い。とんでもない奇抜で大胆、予想もつかない戦術で守り、攻めて来る素良に対し、柚子は苦戦を強いられる。

間違いない、この手の闘い方は、遊矢やコナミ、遊勝塾のものだ。敵も味方もワクワクさせる、エンタメデュエルなのだ。

彼は違うと、自分はアカデミアの人間だと言うが――それこそ違う。彼は最早、遊勝塾の色に染まり切ってしまっている。アカデミアに戻っても、彼のデュエルは嘘をつけない。まだ、望みはある。

 

「何度でも言うわ!帰って来なさい素良!貴方の居場所は、アカデミアなんかじゃない!」

 

「何度でも言うよ!僕は帰らない!僕の居場所はアカデミアだ!」

 

「なら……なら何で、貴方は笑ってないのっ!!」

 

「ッ!!」

 

互いの思いの丈を口から放つ素良と柚子、融合師弟。遊矢はその観察眼の高さから素良の嘘を見抜いたが――柚子は、素良の弟子だ。その付き合いの長さから嘘を見抜く。

 

「自分の居場所なら、何で貴方はそんなに苦しそうな顔をするの!?そんなの絶対におかしい!少なくとも私は嫌なの!大事な友達から笑顔を奪う居場所なんて、許せないから!」

 

「ぼく、は――」

 

このデュエル中、いや、素良は柚子と再会してから1度たりとも笑っていない。遊矢とのデュエルでは、虚勢であったとしても、不自然な笑みを浮かべていたのに、だ。

だから柚子は気づく。素良が本当は、アカデミアではなく、遊勝塾に帰りたいと悩み、苦しんでいる事に。

 

「何でなんだ……」

 

ポツリ、唇を震わせ、素良は思わず言葉を溢す。溢してしまう。それは――決壊の合図だったのだろう。ガバリと俯く顔を勢い良く上げ、目尻に涙を溜めながら思いの丈を叫ぶ。

 

「何で君達はそんなにも甘いんだ!僕は裏切り者なのに、恨んでくれても良いのに!何でこんな僕を……アカデミアの悪人を助けようとするんだ……!」

 

暖かさを知ってしまった。優しさを感じてしまった。罪悪感を覚えてしまった。友達に出会ってしまった。だから――アカデミアに戻り、戻った後で、どうしようもない後ろめたさが彼を襲う。

今の自分に嫌悪感が募り、吐きそうになってしまう。それでも、今まで重ねて来た罪は消えはしなくて、こんな自分が帰って良い筈が無いんだと首が締まっていく。どうしようもない悪循環が素良を縛りつける。

 

「こんな事なら、出会わない方が良かった……!そうすればっ!」

 

「馬鹿な事言わないで!」

 

出会わない方が良かったと言う素良の否定を、柚子は否定する。

 

「誰もそんな事思わない!私達は、貴方に出会えて良かったって胸を張れる!私も遊矢も、ううん、遊勝塾の皆が貴方に出会えて成長したから!貴方も一緒に成長したから、出会わなかった方が良かったなんて、絶対に思わないっ!」

 

「――ッ!」

 

「最初は確かに嘘だったのかもしれない……だけど、それでも良いじゃない……重ねて来たのは、嘘だけじゃないでしょう……?」

 

柚子は遊矢程甘くない。彼女達から逃げようとする素良の手を無理矢理にでも掴んで正面から向き合わせる。一切の逃げ道を許さない、優しさの暴力だ。

何度も殴られ、素良の仮面は砕けていく。彼の嘘から、本当を引き摺り出していく。

彼女の言う通り、出会いは嘘だったのだろう。たけど、彼等と、遊勝塾の皆と過ごす内に、その日々は嘘ではなくなっていったのだ。

 

「僕だって……僕だって本当は帰りたいさ!だけど駄目なんだ!こんな僕が、罪にまみれた僕が君達と共に歩める筈がない!何より――例え僕だけならまだしも、僕にだって守らなきゃならないものがある!」

 

「……知ってるよ」

 

最早虚構の仮面を砕かれ、本音を引き摺り出された素良が胸を掻き抱き、涙を溢しながら悲痛に叫ぶ。そう、素良だって柚子達の下に、遊勝塾に帰りたいのだ。だけど――彼等への罪悪感と、彼の守らなきゃならないもの――妹の存在がそれを拒む。

その事を――柚子も、知っていた。

 

「――え――?」

 

思わず素良は呆けて声を漏らす。柚子が、彼の事情を知っていたと言う事に。

 

「ユートから聞いた、貴方には、病気の妹がいるんだって……きっと、その治療費をアカデミアから受け取ってて、人質として使われてるんだろうって」

 

「……知ってたんだね……なら分かるだろう?僕は――美宇を置いて、君達の下へは帰れない」

 

「何で……?何で私達を頼ってくれないの!?」

 

「ッ!君達に、迷惑をかけられる筈ないだろうっ!重荷を背負わせられる筈がないだろうっ!」

 

「このっ、分からず屋ぁっ!私のターン、ドロー!」

 

互いに互いを想い合うからこそ、2つの線は交わらない。これ以上は分からせてやるしかないと踏んだのか、柚子がデッキよりカードを引き抜く。これで手札は8枚、素良のフィールドのカードも8枚。

 

「魔法カード、『独奏の第1楽章』を発動!自分フィールドにモンスターが存在しない事で、デッキから『幻奏の音女セレナ』を特殊召喚!」

 

幻奏の音女セレナ 守備力1900

 

現れたのはピンク色の髪に黄色のドレスを纏った『幻奏』モンスター。本来なら『幻奏の音女アリア』を特殊召喚する所であるが、手札が手札だ。展開の為にこのカードを呼ぶ。

 

「特殊召喚したセレナの効果で、私はこのターン、通常召喚に加え1度だけ『幻奏』モンスターを召喚出来る!私は『クリスタル・ローズ』を召喚!」

 

クリスタル・ローズ 攻撃力500

 

次は柚子が好敵手、光津 真澄より譲り受けた水晶で作られた薔薇。攻守こそ低いが、『幻奏』においては重い融合素材をカバーする役割を持っており、優秀な働きをしてくれる。

 

「続けて2体分のリリース要員としてセレナをリリースし、手札の『幻奏』モンスターを召喚!天上に響く妙なる調べよ。眠れる天才を呼び覚ませ。出でよ!『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』!」

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 守備力2000

 

「プロディジー・モーツァルトの効果発動!手札の『幻奏の音女アリア』を特殊召喚!」

 

幻奏の音女アリア 守備力1200

 

ここで現れたのは『幻奏』デッキのキーカード、強固な耐性を『幻奏』へと与えるモンスターだ。

 

「特殊召喚されたアリアがモンスターゾーンに存在する限り、私の『幻奏』モンスターは効果の対象にならず、戦闘で破壊されない!私は更に『幻奏の音女カノン』と『幻奏の音女ソナタ』を特殊召喚!」

 

幻奏の音女カノン 守備力2000→2500

 

幻奏の音女ソナタ 守備力1000→1500

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 守備力2000→2500

 

幻奏の音女アリア 守備力1200→1700

 

「『クリスタル・ローズ』の効果発動!デッキから『幻奏の音女タムタム』を墓地に送り、名前をコピー!」

 

クリスタル・ローズ 攻撃力500→1000

 

「そして魔法カード、『置換融合』を発動!フィールドの『クリスタル・ローズ』とカノンで融合!融合召喚!『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』!」

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2400→2900

 

「『置換融合』を墓地から除外し、ブルーム・ディーヴァをエクストラデッキに戻して1枚ドロー!」

 

柊 柚子 手札2→3

 

「魔法カード、『アドバンスドロー』!プロディジー・モーツァルトをリリースし、2枚ドロー!」

 

柊 柚子 手札2→4

 

「マイスタリン・シューベルトの効果発動!貴方の墓地のカードを3枚除外!」

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2900→3500

 

「バトル!」

 

「墓地の『仁王立ち』を除外し、『デストーイ・チェーン・シープ』に攻撃を絞る!」

 

「やっぱりそう来たわね……だけど止まってあげない!マイスタリン・シューベルトで攻撃!」

 

「なっ!?ぐっ――『補給部隊』の効果でドロー!」

 

紫雲院 素良 LP3000→2700 手札0→1

 

『デストーイ・チェーン・シープ』は破壊されても強化されて蘇生されるにも関わらず、攻め込む柚子に目を見開く素良。一体何を考えているのか分からないが、素良にとって良い事では無いだろう。

 

「『デストーイ・チェーン・シープ』の効果で蘇生!」

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2000→2800→4000

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力2800→3100

 

デストーイ・マッド・キマイラ 攻撃力2900→3200

 

デストーイ・シザー・ウルフ 攻撃力3700→4000

 

これで攻撃力4000、かつ攻撃反応系のカードを封じるモンスターが2体並んだ。強化したマイスタリン・シューベルトも超え、アリアで破壊を防げると言ってもダメージは逃れられないだろう。

 

「メインフェイズ2、魔法カード、『死者への手向け』を発動!『デストーイ・シザー・タイガー』を破壊!」

 

しかし、次なる一手で素良の戦術は一気に瓦解する。狙ったのは『デストーイ・チェーン・シープ』ではなく、『デストーイ・シザー・タイガー』。冷静な判断だ。最大攻撃力1500アップを『デストーイ』全体に与えるこのカードを崩せば、柚子としては何の脅威もない。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドよ」

 

柊 柚子 LP3600

フィールド『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』(攻撃表示)『幻奏の音女ソナタ』(守備表示)『幻奏の音女アリア』(守備表示)

セット2

手札0

 

素良が攻めれば柚子も攻め、互いに互いの上を行く。流石は師弟と言った所か。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

「罠発動、『貪欲な瓶』!墓地のカードを5枚、デッキに戻し、ドロー!」

 

柊 柚子 手札0→1

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地から5体のモンスターをデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札1→3

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』!手札を交換、『デストーイ・ファクトリー』の効果で墓地の『魔玩具融合』を除外し、融合を行う!フィールドの『デストーイ・チェーン・シープ』と手札の『ファーニマル・ライオ』で融合!融合召喚!『デストーイ・サーベル・タイガー』!!」

 

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力2400→2800

 

デストーイ・マッド・キマイラ 攻撃力2800→3200

 

デストーイ・シザー・ウルフ 攻撃力2000→2400

 

「効果で『デストーイ・シザー・タイガー』を蘇生!」

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力1900→3100→3500

 

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力2800→4000

 

デストーイ・マッド・キマイラ 攻撃力3200→4400

 

デストーイ・シザー・ウルフ 攻撃力2400→3600

 

「そして魔法カード、『デストーイ・リニッチ』を発動!『デストーイ・チェーン・シープ』を蘇生!!」

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2000→3900

 

デストーイ・マッド・キマイラ 攻撃力4400→4700

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力3500→3800

 

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力4000→4300

 

デストーイ・シザー・ウルフ 攻撃力3600→3900

 

フィールドに並ぶ5体の融合モンスター。壮観だ、しかも全てのモンスターが攻撃力3000超えと来た。どのカードも固有能力は強力で、マイスタリン・シューベルトに与えられた耐性が仇となり、サンドバッグにされかねない。

 

「バトル!」

 

「手札の『クリフォトン』を捨て、LPを2000払ってこのターンのダメージを0にする!」

 

柊 柚子 手札3600→1600

 

しかし、柚子の最後に託された手段が彼女のLPを削りながらもピンチを救う。攻撃する前に防がれてはマッド・キマイラやチェーン・シープでも追撃出来ない。アリアで与えられた耐性も今度は機能している。素良は歯軋りを鳴らしながらターンを終了する。

 

「ターン、エンドだ……!」

 

紫雲院 素良 LP3700

フィールド『デストーイ・マッド・キマイラ』(攻撃表示)『デストーイ・サーベル・タイガー』(攻撃表示)『デストーイ・シザー・タイガー』(攻撃表示)『デストーイ・シザー・ウルフ』(攻撃表示)『デストーイ・チェーン・シープ』(攻撃表示)

『トイポット』『デストーイ・ファクトリー』『デストーイ・サンクチュアリ』『補給部隊』

手札0

 

相手フィールドには5体の融合モンスター。比べて柚子のフィールドには戦闘補助は与えられてはいるものの、1番攻撃力の高いマイスタリン・シューベルトでも素良のモンスターには届いてはいない。このままでは防戦一方、何か大きな変化がなければ――。

 

「帰るんだ……皆が待ってる、日常に!皆で、一緒に!」

 

叶えたい望みがある。ささやかで、だけど何よりも大切なもの。その為に、何1つ失いたくないから――柚子は進む。

 

「お楽しみは、これからよ!私のターン、ドロー!」

 

天空に描かれる虹のアーク。降り注ぐ雨を晴らし、柚子は視線をカードに移す。来た――。

 

「墓地の『クリスタル・ローズ』の効果発動!墓地の融合モンスター、マイスタリン・シューベルトを除外し、このカードを蘇生!」

 

クリスタル・ローズ 守備力500

 

「そして効果発動!デッキのローリイット・フランソワをコピー!」

 

クリスタル・ローズ 守備力500→1000

 

「魔法カード、『融合』を発動!」

 

そして――この師弟の絆の証となるカードが、このデュエルに決着をつけるエースを呼び覚ます。

 

「フィールドの『クリスタル・ローズ』と『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』で融合!融合召喚!『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』!!」

 

幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ 攻撃力1000

 

咲き誇りしは竜胆の華の少女。美しき歌声を天へと捧げ、今フィールドに君臨する。素良のモンスターは確かに攻撃力が高く、強力なものばかり。対するこのカードの攻撃力は1000とかなり低いが、何の問題はない。

弱くても、この手は届くのだから。

 

「私は……私達は、貴方から色々なものを貰ったわ……」

 

「……」

 

「この融合だってそう、貴方は今までに色んなものを奪ったのかもしれない。だけど……こうやって与える事も出来る人なの。優し過ぎる事が自分の欠点だって貴方は言うかもしれないけど――優しい事が、貴方の、何よりも凄い事だって、私は言うわ」

 

素良は優しい。いや、遊勝塾の皆と出会い、アカデミアのデュエル戦士となる前の、本来の彼らしさを取り戻した。だからこそ、今苦しんでいる。罪悪感で押し潰されそうになるのだろうと柚子は思う。

仕方無い事だろう。彼はそれだけの事をしてきた。誰かの笑顔を奪って来たのだ。だけど――叶うならば。

 

「1人で苦しまないで、1人で背負い込まないで。辛いなら私達を――友達を、頼ったって良いんだから!!」

 

「僕、は――帰りたい!皆と一緒に、遊勝塾に帰りたいっ!!」

 

何度も、何度も、躊躇う事無く差し伸べられる手を、漸く素良が受け取る。彼が望んでくれた。遊勝塾へ戻る事を。アカデミアではなく、自分達を。それが嬉しくて、満面の笑みが咲き誇る。

 

「遅いのよっ……!意地っ張りなんだから……でも――うん!皆で一緒に、帰りましょう!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、『デストーイ・マッド・キマイラ』の効果を無効に!『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』で、『デストーイ・マッド・キマイラ』へ攻撃!」

 

口では呆れたように言うが、嬉しそうに笑う柚子を見て、ブルーム・ディーヴァが笑みを溢し、花弁を散らしながらクルクルと螺旋状に飛翔し、玩具の合成獣へ向かってフィールドを駆け抜ける。

 

「ブルーム・ディーヴァは戦闘、効果で破壊されず、戦闘で発生する自分へのダメージを0にし、特殊召喚されたモンスターと戦闘を行うダメージ計算時、そのモンスターとこのモンスターの元々の攻撃力分の差分ダメージを相手に与え、その相手モンスターを破壊する!リフレクト・シャウト!」

 

紫雲院 素良 LP2700→900 手札0→1

 

美しき歌声が響き渡り、『デストーイ・マッド・キマイラ』が崩れ落ちる。されど素良のLPは残っている。後1歩を、届かせる為に。

 

「罠発動!『幻奏のイリュージョン』!ブルーム・ディーヴァは魔法、罠への耐性を得、2回の攻撃権を得る!これでフィニッシュよ!ブルーム・ディーヴァで『デストーイ・サーベル・タイガー』へ攻撃!」

 

紫雲院 素良 LP900→0

 

「あーあ……負けちゃったか……」

 

限界突破、師を超え、最後の一撃が素良へ届く。勝者、柊 柚子。彼女は見事、友を取り戻した。悔しそうに、だけど晴れやかに笑みを浮かべる素良を見て、彼女の胸にも清々しい達成感が沸き上がる。

 

「でも……どうしよう、美宇の事……」

 

「心配ないわ」

 

尚も人質である妹を心配する素良に対し、柚子が笑みを向けたその時――。彼の背後より、黒いジャケットを纏う目付きの鋭い青年、万丈目が小さな少女を抱えて現れる。その少女の顔立ちは、素良に似ていて。

 

「そう言う事だ」

 

「美宇!?」

 

突如現れた妹を見て、素良が驚愕し、駆け寄る。何故こんな所にいるのか、病院にいなくて良いのかと口から出そうになるが、その前に万丈目の台詞が遮る。

 

「ユートに頼まれてな。可能ならば連れて来て、別のスタンダードの病院にでもと。妙だと思っていた。お前程のデュエリストが何年も治療費を稼いでいるのに、完治しない等……そこで調べればもう病気は完治して、隠蔽されているではないか。プロフェッサーも人の心があったのか、それとも生かす事でお前を利用し続けようとしていたのだろう」

 

「素良……私もう、大丈夫だから……素良のやりたいように、居たい所にいて……今までごめんね、私のせいで」

 

「良いんだ……良いんだ美宇……!ありがとう……ありがとう、皆……!」

 

抱き合い、互いの事を想い合う兄妹。全ては解決した。これで素良を縛るものは存在しない。帰って来た友の嬉し涙を見て――柚子の目尻に、雫が溢れる。




THEご都合主義。
美宇についてはまた別の話で補完しようと考えています。

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