シンクロ次元、シティにて――2人の死神がぶつかり合う。鬼柳 京介とキース・ハワード。シンクロ次元と融合次元のデュエリストだ。そのデュエルは、余りにも異様な光景に包まれていた。
キースのフィールドには巨大な機械悪魔、『メタル・デビルゾア』の姿。これは別段おかしくはないだろう。珍しいカードではあるものの、あくまで普通のカードだ。
問題は鬼柳のフィールドに存在するモンスター。
マイナスレベル8、負の星を持ったモンスター、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』だ。
シンクロでありながらシンクロではない何か。エクシーズモンスターとはまた違った黒のフレームに包まれた奇怪なカード、ダークシンクロモンスター。
それが真の力を解放したこのカードの正体だ。誰もが圧倒的な存在感を放つこのモンスターに釘付けとなっている。そして、気になるこのモンスターの効果が今、明かされる。
「『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』の効果……このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、このカードは墓地に存在する全ての『インフェルニティ』モンスターの効果を得る!」
「ッ!?」
「な、に……!?」
全ての『インフェルニティ』モンスターの効果を得る、それはつまり――鬼柳の手札が0である限り、『インフェルニティ・ガーディアン』の戦闘、効果で破壊されない効果、『インフェルニティ・ドワーフ』の全体貫通効果、『インフェルニティ・ネクロマンサー』の蘇生効果、『インフェルニティ・デストロイヤー』の1600のバーンダメージ効果、そして『インフェルニティ・デス・ドラゴン』のモンスター破壊、バーン効果とてんこ盛りである。
幸いなのはこれでも完全体ではなく、完全体でもつけ入る隙はあると言う事か。それでも1体のモンスターにしてはとんでもないカードパワーであるが。これがダークシンクロ、シンクロを超越する力と言う事か。新たに得た力は伊達ではない。
「ネクロマンサーの効果を使い、『インフェルニティ・デーモン』を蘇生!」
インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800
「そして『デーモン』の効果!『インフェルニティ・ミラージュ』をサーチ、リバースカード、『二重召喚』を発動し、召喚!」
インフェルニティ・ミラージュ 攻撃力0
「このカードを墓地に送り、『インフェルニティ・ネクロマンサー』と『インフェルニティ・デストロイヤー』を蘇生!」
インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000
インフェルニティ・デストロイヤー 攻撃力2300
「ネクロマンサーの効果で『インフェルニティ・リベンジャー』を蘇生!」
インフェルニティ・リベンジャー 守備力0
「レベル3のネクロマンサーとレベル4の『デーモン』に、レベル1のリベンジャーをチューニング!シンクロ召喚!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!!」
ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000
今度は正当なシンクロモンスターの『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』だ。白と黒、全く違った方向性の『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』を使いこなすのは流石と言うべきか。
「そして効果でミラージュを除外、コピー!墓地に送り、『デーモン』とネクロマンサーを蘇生!」
インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800
インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000
「『デーモン』の効果で『インフェルニティ・ブレイク』サーチ、セット!そしてネクロマンサーの効果でリベンジャー蘇生!」
インフェルニティ・リベンジャー 守備力0
「レベル3のネクロマンサーとレベル4の『デーモン』に、レベル1のリベンジャーをチューニング!シンクロ召喚!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!!」
ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000
「今度はネクロマンサーをコピー!『インフェルニティ・ビートル』を蘇生!」
インフェルニティ・ビートル 守備力0
「ビートルをリリース、同名をリクルート!」
インフェルニティ・ビートル 守備力0×2
「レベル6のデストロイヤーに、レベル2のビートルをチューニング!シンクロ召喚!『煉獄龍オーガ・ドラグーン』!!」
煉獄龍オーガ・ドラグーン 攻撃力3000
たった1枚から攻撃力3000のモンスターを2体展開、これが『インフェルニティ』の展開力だ。あっという間にピンチをチャンスに変えて来た。
「『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』の効果!デス・ドラゴンの効果を使い、攻撃権を放棄し、『メタル・デビルゾア』を破壊!」
「墓地の『仁王立ち』と『ダメージ・ダイエット』を除外、攻撃を『メタル・デビルゾア』に絞り、効果ダメージを半分にする!」
キース・ハワード LP2450→1700
「リバースカード、オープン!魔法カード、『シンクロ・クリード』!シンクロモンスターが3体以上存在する事で2枚ドロー!」
鬼柳 京介 手札0→2
「魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換し、カードをセット、ターンエンドだ」
鬼柳 京介 LP2500
フィールド『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』(攻撃表示)×2『煉獄龍オーガ・ドラグーン』(攻撃表示)『インフェルニティ・ビートル』(守備表示)
セット3
手札0
「俺様のターン、ドロー!」
「罠発動!『針虫の巣窟』。デッキトップから5枚のカードを墓地へ送るぜ」
「俺はこのままターンエンドするぜ」
「罠発動!『インフェルニティ・ブレイク』!墓地の『インフェルニティ・インフェルノ』を除外し、『鋼鉄の襲撃者』を破壊!」
キース・ハワード LP1700
フィールド
セット2
手札1
「俺のターン、ドロー!」
「罠発動!『サンダー・ブレイク』!手札を1枚捨て、オーガ・ドラグーンを破壊!」
「チ、カードを1枚セット、バトルだ!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』でダイレクトアタック!インフィニティ・サイト・ストリーム!」
「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」
『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』の百の眼が赤く発光、身体中の光がそのアギトに集束し、闇の瘴気と混ざり合って撃ち出される。圧倒的な熱量が襲いかからんとしたその時、キースのフィールドに光の剣が突き刺さり、壁となる。
「ターンエンドだ」
鬼柳 京介 LP2500
フィールド『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』(攻撃表示)×2『インフェルニティ・ビートル』(守備表示)
セット1
手札1
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『一時休戦』!互いに1枚ドローし、次のターン終了までダメージを0に!」
キース・ハワード 手札0→1
鬼柳・京介 手札0→1
「カードをセット、ターンエンドだ」
キース・ハワード LP1700
フィールド
セット2
手札0
「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『サイクロン』!セットカードを破壊だ!」
「チッ、なら片方のカードを発動!罠発動!『貪欲な瓶』!墓地の『鋼鉄の襲撃者』2枚、『命削りの宝札』2枚、『一時休戦』をデッキに戻し、1枚ドロー!」
キース・ハワード 手札0→1
「ターンエンドだ」
鬼柳 京介 LP2500
フィールド『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』(攻撃表示)×2『インフィニティ・ビートル』(守備表示)
セット1
手札1
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『一時休戦』!まだまだ休ませてもらうぜ!」
キース・ハワード 手札1→2
鬼柳 京介 手札1→2
「長期戦に持ち込むつもりか……」
2連続で『一時休戦』、一時、とは思えない程の休憩を取るキース。これである程度回復を許してしまった。
「魔法カード、『カップ・オブ・エース』!クク、表だ、2枚ドロー!」
キース・ハワード 手札1→3
「来た来た……魔法カード、『オーバーロード・フュージョン』!墓地の『リボルバー・ドラゴン』と『ブローバック・ドラゴン』を除外、融合!融合召喚!『ガトリング・ドラゴン』!!」
ガトリング・ドラゴン 攻撃力2800
融合召喚、キースの背後に青とオレンジの渦が広がり、回転式と自動式、2丁の拳銃の頭を持った機械竜が現れ、吸い込まれる。
そして閃光が炸裂、中よりガトリング砲の頭部と両腕を持ち、下半身が車輪と化した戦車のようなモンスターが姿を見せる。彼が持つ切り札の1枚だ。ここに来て勝負に出たらしい。
「効果発動!3度コイントスを行い、表の数だけフィールドのモンスターを破壊!結果は――3回表!2体の『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』と『インフィニティ・ビートル』を破壊!」
またも3回連続表、コインが弾丸となってガトリング砲に装填され、鬼柳のフィールドのモンスターに放たれ蜂の巣にする。
この豪運、何かがおかしい。鬼柳が眼を細め、キースを観察したその時、ユラリ、と彼の背後の空間が歪む。
「ッ!?2体の『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』が破壊された事で、デッキから特定の2枚をサーチする!」
何かがおかしい。何かがある。ルールに触れない、デュエルディスクにも反応しない、高度なレベルで――キースはこのデュエルに何かを仕組んでいる。鬼柳は確信し、キースの動作を見逃すまいと更に観察する。
「カードを2枚セット、ターンエンドだ」
キース・ハワード LP1700
フィールド『ガトリング・ドラゴン』(攻撃表示)
セット2
手札0
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『ギャラクシー・サイクロン』!セットカードを破壊だ!」
「破壊されたのは罠カード、『運命の発掘』!墓地に3枚存在する事で、3枚ドロー!」
キース・ハワード 手札0→3
「やぶ蛇か、ならフィールド魔法をセット、今度はこれだ!魔法カード、『死者蘇生』!」
「カウンター罠、『魔宮の賄賂』!魔法、罠の発動を無効にし、相手は1枚ドローする!」
鬼柳 京介 手札2→3
「魔法カード、『貪欲な壺』!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』2体、オーガ・ドラグーン、デストロイヤー、ナイトメア・ハンドをデッキに戻し、2枚ドロー!」
鬼柳 京介 手札2→4
「魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換し、罠発動!『極限への衝動』!手札2枚を墓地へ送り、2体の『ソウルトークン』を特殊召喚する!」
ソウルトークン 守備力0
「フィールド魔法、『ダーク・アリーナ』を発動!そして2体のトークンと俺の満足を生け贄に、降臨せよ!」
カッ、鬼柳の腕から青い光が放たれ、光が線となって巨人の絵を描き出す。まるでそれはナスカの地上絵。圧倒的な闇の力、冥府の王の加護を受けて尚、鬼柳はそれを容易く御し、自らのものとする。奪い取ったのは――ダークシンクロだけにあらず。宙に心臓のように脈打つ物体が浮き、内部から盛大に破裂する。
「『地縛神CcapacApu』!!」
地縛神CcapacApu 攻撃力3000
君臨せし、地に縛られし邪神。黒き巨影に青い光を宿らせた人型のモンスター。あのセルゲイも使っていた、『地縛神』――だが、彼のものとは違い、このカードは正真正銘、本物の『地縛神』。その証拠に、空気を押し潰すかのような重圧が、この場を襲う。
相手取り、充分にその脅威を知る遊矢ですら眼を見開いて驚愕する。これが鬼柳 京介の新たな切り札。人々の魂の代償として、鬼柳の溢れんばかりの満足を捧げて顕現する満足の神。『地縛神』、敵となれば恐ろしいが、味方となればこれ以上に頼れる背中はないだろう。
「何だ……そのモンスターは!?」
「モンスターじゃねぇ!神だ!やれ、CcapacApu!『ガトリング・ドラゴン』へ攻撃!」
振り抜かれる豪腕、襲いかかる魔の手が『ガトリング・ドラゴン』を滅茶苦茶に押し潰し、あっという間にスクラップに変える。凄まじい衝撃、駆け抜ける土煙とひび割れた大地がこのカードがただのモンスターでは無い事を物語っている。
邪神とは言え、神は神。デュエルモンスターズでも最高位に位置する存在だ。本物の神には劣るものの、格では三沢の三幻魔と同等だろう。
「だがっ、俺のマシーンモンスターが破壊された事で、手札の『デスぺラード・リボルバー・ドラゴン』を特殊召喚する!!」
デスぺラード・リボルバー・ドラゴン 攻撃力2800
しかし、キースも負けてはいない。スクラップとなった『ガトリング・ドラゴン』の中から黒光りする銃口が伸び、その姿を晒す。現れたのはキース・ハワードの真の切り札。鋼の翼と鱗を持つ、『リボルバー・ドラゴン』の強化形態だ。
「更にこいつの効果発動!3回コイントスを行い、表が出た数までフィールドの表側表示モンスターを選んで破壊!」
ここでまたもコイントスを行い効果、しかも『ガトリング・ドラゴン』と違い、自爆の可能性も無い。キースが仕組む何かを見抜く為、鬼柳はキースの方向へと視線を移す。その間にソリッドビジョンで作られた3枚のコインが宙を舞い、瞬間、彼の背後の空間が歪み、黒いローブを纏い、大鎌を持った骸骨が現れる。その姿は――正に死神。
「ほう、見抜いたか、こいつを……!」
「な、し、死神……!?」
キースがイカサマを見抜かれた事で僅かに眼を見開いて感心の様子を見せ、遊矢が現実離れした光景に驚愕する。
無理もない。キースの背後にいるのは正真正銘、空想の中で存在する死神なのだ。
「どうやら……テメェがポンポンとコイントスで当たりを出していたのはそいつのお蔭らしいなぁ」
「バレちゃ仕方ねぇ、聞いた事はねぇか?カードの死神の噂を……」
「……都市伝説か何かか?確か、契約すればデュエルでツキをくれるみたいな奴だったか」
カードの死神。それは契約すればデュエル中、あらゆうツキをもたらすと言う都市伝説のような存在。それがキースに取り憑き、力を貸していたと言うのだ。まさか本当に存在するとは、と余りその手の話に興味がない鬼柳が死神を見つめる。
「イカサマだったのか……!?」
「ハッ、デュエルディスクが反応しないならイカサマじゃねぇよ!運命力と言ってもらいたいね」
呆れる遊矢に対し、開き直るキース。とは言えキースの言う事も一理ある。これはイカサマと言うには少々グレーゾーンな所がある。何せ同じような事例を遊矢は知っているのだから。と言うかこの場にいる自身はユートやティモシーの力を借りているし、鬼柳は冥界の力を使っている。文句を言って良いものか。
「まぁ……そいつがいなくても結果は変わらねぇみたいだがな」
「その通りぃ!墓地の『銃砲撃』を除外し、コイントスの結果を全て表にする!」
最後のイカサマ、最後の足掻き、運ではなく戦略を持って最上の結果を導いて見せた。最初からやれば良いのに。
「そしてCcapacApuを破壊!コイントスが全て表となった事で、更に1枚ドロー!」
キース・ハワード 手札2→3
デスぺラードの頭部の銃口から一発の弾丸が放たれ、CcapacApuの胸部を撃ち抜き、ドパァッと黒い液体となって崩れ落ちる。神を殺す銃砲撃。これこそキースの切り札だ。
「こいつも倒されるとはな……ターンエンドだ」
鬼柳 京介 LP2500
フィールド
セット1
『ダーク・アリーナ』
手札0
「フハハハハ!俺様のターン、ドロー!魔法カード、『古のルール』!手札の『TMー1ランチャースパイダー』を特殊召喚する!」
TMー1ランチャースパイダー 攻撃力2200
現れたのはキースのマシーンモンスターの1体、赤い頭部に緑の身体、背にミサイルポッドを負った機械グモだ。上級にしては攻撃力が低く、闇属性ではないが、キースの愛用する1枚だ。デスぺラードと並び、その巨体で鬼柳を威圧する。
「バトルだ!デスぺラードでダイレクトアタック!」
「させっかよ!罠発動!『カウンター・ゲート』!1枚ドロー!」
鬼柳 京介 手札0→1
「引いたカードは『インフィニティ・ネクロマンサー』!召喚する!」
インフィニティ・ネクロマンサー 攻撃力0
「召喚時、守備表示に変更!」
「ならそいつに攻撃!」
「墓地の『インフィニティ・リベンジャー』の効果でこいつを蘇生!」
インフィニティ・リベンジャー 守備力0 レベル1→3
「この野郎……!ランチャースパイダーで追撃!ショック・ロケット・アタック!」
デスぺラードの3つの銃口から放たれる弾丸がネクロマンサーを撃ち、ランチャースパイダーのミサイルポッドから数多のミサイルが降り注ぎ、リベンジャーを消し炭へと変える。恐るべき機械兵器軍団。鬼柳も何とかダメージを逃れるが、このままでは不味い。
「カードを2枚セット、ターンエンドだ」
キース・ハワード LP1700
フィールド『デスぺラード・リボルバー・ドラゴン』(攻撃表示)『TMー1ランチャースパイダー』(攻撃表示)
セット2
手札0
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『復活の福音』!墓地よりダークシンクロモンスター、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』を蘇生!!」
ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000
ダークシンクロモンスターはマイナスのレベルを持っているが、自身のダークシンクロ時以外にルール上は特に変わりはない。レベルは勿論、シンクロモンスターとしても扱うのだ。
「そしてネクロマンサーの効果をコピーし、発動!」
「させるかよ!罠発動!『無限泡影』!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』の効果を無効にする!」
「ならバトルだ!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』で『デスぺラード・リボルバー・ドラゴン』を攻撃!」
「甘い!デスぺラードの効果発動!墓地の『銃砲撃』を除外、3回表に!撃ち抜けぇっ!」
キース・ハワード 手札0→1
ガチャリ、デスぺラードの引き金が引かれ、頭部と両腕のリボルバーから放たれる銃弾が高速で『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』へ襲いかかり、爆発を引き起こす。フィールドを覆う黒煙、凄まじい両者の駆け引きの先に――黒煙を裂き、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』が無傷の姿を見せる。
「ッ!『インフィニティ・ガーディアン』の耐性も奪った筈だがなっ!イカサマしてんじゃねぇぞ!」
「テメェが言うな!墓地の『復活の福音』を除外し、破壊を防いだだけだ!さぁ行け!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!」
ギラリ、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』の百の眼が赤く発光し、光がアギトへ集束、漆黒の波動となって撃ち出される。極太の熱線、圧倒的なエネルギーがデスぺラードを呑み込む前に――。
「手札の『工作列車シグナル・レッド』の効果発動!こいつを特殊召喚し、1度の戦闘耐性を与え、攻撃を移し替える!」
工作列車シグナル・レッド 守備力1300
デスぺラードの効果で引いた1枚が、彼の切り札を危機から救う。何と言う豪運、死神等いなくても、この男は幸運の女神に取り憑かれているのではないか。
一瞬の攻防で繰り広げらる駆け引きの連続、めまぐるしく回るカード効果の応酬に遊矢が魅せられる。
「ターンエンドだ……!」
鬼柳 京介 LP2500
フィールド『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』(攻撃表示)
『ダーク・アリーナ』
手札0
だが鬼柳のフィールドに存在するのはあのダークシンクロモンスター、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』だ。全ての『インフィニティ』の能力を引き継ぐ究極の満足竜。デスぺラードであっても手出しは出来ないだろう。
「俺のターン、ドロー!」
その考えを踏み潰すように――。
「俺のフィールドのモンスターを全てリリース!」
その魔物は、フィールドに君臨する。
「現れろ、『真魔獣ガーゼット』!」
真魔獣ガーゼット 攻撃力0→6000
現れたのは偉大にして絶大な魔神の皇帝。雄々しい翼を広げ、骨格の鎧を纏いし巨大な赤の悪魔。巨体だけならば鬼柳の『地縛神』にも匹敵し、その攻撃力は何と2倍、ここに来て攻撃力6000、キースの奥の手が飛び出した。
「嘘、だろ……!?」
「……ハッ、満足させてくれるぜ……!」
確かに『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』は戦闘、効果で破壊されない『インフィニティ・ガーディアン』の効果を引き継いでいる。されど鬼柳は別、攻撃力を越えさえすればダメージを与えて勝利は可能。至極単純明快な攻略法で、キースは鬼柳の予想を超えて見せた。
「バトル!ガーゼットで『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』へ攻撃!更にだめ押しだ!罠発動!『メタル化・魔法反射装甲』!」
ここでだめ押しのメタル化が発動され、ガーゼットが更なる進化を遂げる。恐ろしき悪魔の肉体が、鋼鉄のボディ、超合金へと変わり、見た目が大きく変化。
頭は白い骸骨のようなものとなり、頭頂部と側頭部から計3本の角が伸び、身体は黒い機械のものに、胸に赤いV字のパーツを、背からは悪魔を思わせる真っ赤な双翼が広がっていく。
これこそがガーゼットの真の姿、真魔神Z。キースはロボット化したガーゼットに搭乗し、デュエルディスクを操作して必殺のロケットパンチを放つ。
「これで、終わりだぁッ!」
迫る巨大な鉄拳、圧倒的な質量と重圧を持って『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』ごと鬼柳を押し潰そうとする。リバースカード無し、手札0、このままでは――鬼柳のLPが削り取られる。
「ッ!鬼柳さん!」
遊矢の叫びも空しく――拳は全てを破壊し尽くす。まるで天空から降り注ぐ隕石のように、天災を超えし宇宙からの災害の如く。地へと命中、激しき轟音と共に砂塵を巻き上げる突風が吹き荒れる。
真魔獣ガーゼット 攻撃力6000→6300→7800
鬼柳 京介 LP2500→0
0を刻むLP、負けた――?徳松に続き、この男は、シンクロ次元最強の男を、冥界の力を新たに得た鬼柳を倒したと言うのか。信じられない光景、最悪の事態が遊矢の脳裏に過る。
「クク、ハハハハハ!これでリーチだ!さぁ、次はお前だ榊 遊矢!テメェを潰してボーナスをたんまりともらうとしようか!」
この男も鬼柳の実力を充分に理解しているのだろう。倒した事で、思わずといった笑い声を溢し、次の獲物、遊矢に視線を移す。
が――何かが、おかしい。
「……あん?どう言う事だこりゃあ……ソリッドビジョンが、解除されねぇ……?」
そう、どう言う訳か、デュエルが終わったと言うのに、ソリッドビジョンによって実体化しているモンスター達やフィールドが解除されていないのだ。デュエルディスクの故障?いや、アカデミアのディスクはスタンダードのものにも負けぬ程の最先端のものだ。考えにくい。なら何故――とキースが訝しむ中、土煙の中から鮮やかな赤の光が放たれる。
「何勝手に終わらせようとしてやがる……?」
「ッ!?」
響き渡る声を皮切りに、赤の光が土煙を切り裂き、景色を晴らす。馬鹿な、とキースが呆然とするも、事実としてそのありえぬ光景は目の前にあった。
土煙の中より姿を見せしは自身がたった今下した筈のデュエリストとモンスター。黒い体躯に百の眼を蠢かせる不気味なドラゴン。そしてチームサティスファクションのリーダー、鬼柳 京介。
「俺はまだまだ満足してねぇって言うのによぉっ!!」
その男のLPは、0を刻んでいる。刻んでいる筈なのに――死んではいない。あり得ない、キースの背後にいる死神でさえも戦慄する光景、本物の死神さえも恐怖させる人間。何が起こっているのか、その謎に最も早く気づいたのは遊矢だった。
彼はコナミから聞いていた。鬼柳と言うデュエリストと出会い、デュエルをしたと言う話を。そのデュエルの最中、鬼柳が繰り出したカードの数々を。LPが0になって敗北を受け入れぬ死神のカードを。
「……『インフェルニティ・ゼロ』……!」
ニヤリ、鬼柳の口元が死神の鎌の如く弧を描く。
「そう……『インフェルニティ・ゼロ』はフィールドに存在する限り、俺はLPが0でも敗北せず、ダメージを受ける度にゼロへとデスカウンターを乗せる」
「馬鹿な!そんなモンスター、フィールドには……!?そう、かっ!」
キースの言う通り、〟フィールドには〝『インフェルニティ・ゼロ』の姿はない。あるのは、ダークシンクロモンスター、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』の姿のみ。
「気づいたようだな。そう……俺のフィールドにいるのは、フィールド上に存在する限り、〟墓地の『インフェルニティ』モンスターの〝効果を得る『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』だけだ。つまり」
「既に、『インフェルニティ・ゼロ』を墓地に送り、効果をコピーしていたってのか……っ!」
ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン デスカウンター0→1
「イカサマなんて言うなよ?俺が仕組んだのは、デュエルの中でだけだ」
「このっ……死神がぁっ……!ターン、エンドだ……!」
キース・ハワード LP1700
フィールド『真魔獣ガーゼット』(攻撃表示)
『メタル化・魔法反射装甲』
手札0
最早、勝敗は決した。
「俺のターン、ドロー。カードをセット、『インフェルニティ・デス・ドラゴン』の効果を使い、ガーゼットを破壊、その攻撃力の半分のダメージを与える!」
キース・ハワード LP1700→0
勝者、鬼柳 京介――。
――――――
シティにてぶつかり合う強者達。多くのデュエリスト達が次元を超え、闘う中、ここ、遊矢やランサーズの皆と離れた噴水広場付近でもまた、アカデミアの刺客、オベリスク・フォースを退けている者がいた。
ユート、三沢と柚子、そして瑠璃だ。彼等に合流した月影と零羅も含め、5人のデュエリストがオベリスク・フォース達が最も集う最前線を維持していた。
何故ここにばかり敵が来るか。それはやはり、柚子と瑠璃の2人が狙いだろう。突如やって来た暴風と三沢の三幻魔の力によって何とか事なきを得ているが、オベリスク・フォースの数が減る気配がない。
「面倒な……!」
「しかし数は減っている筈!」
そんな中、この場へと、彼が姿を見せる。トン、とまるで空から降って来たかように軽やかな足取りで靴で地を叩いて降り立ち、水色の髪を後ろで一括りにして、幼さを感じさせる少年――その姿を見て、瑠璃以外の5人が瞠目、特に反応が大きいのは柚子だ。彼女はゴクリと白い喉を鳴らし彼の名を呼ぶ。
「……素良……!」
紫雲院 素良。かつて、遊勝塾で共に励み、共に笑い合った仲間。そして何より、柚子に融合召喚を教えた師。
「……久し振りだね、柚子」
ガリッ、懐から取り出した棒つきのキャンディーに齧りつき、彼は柚子に視線を移す。かつての笑みはそこにはない。遊勝塾にいた彼は、ここにはいない。
ここにいるのは、アカデミアに所属する融合次元のデュエリスト、紫雲院 素良だ。
「そして……隣にいるのは瑠璃かな?悪いけど、アカデミアに来て貰うよ……プロフェッサーからの指令なんだ」
カチャリと左腕に装着した、アカデミア特有の盾の形をしたデュエルディスクより、光輝く剣状のプレートを展開、明らかな敵意を剥き出しにする。
「させると思っているのか?」
そんな彼を見て、当然のようにユートが彼女を守ろうと前に出てデュエルディスクを構える。折角助け出したのに、保護出来たのに捕らえられては堪らない。そう考えての行動だったのだが――そんなユートを制し、柚子が気丈にも素良の前に飛び出す。
「ッ!?お、おい!」
「良いわよ」
「はぁ!?」
自らを拐おうとする素良を前にして、柚子は覚悟を決めた表情で素良に向かい合う。この返事は流石の素良も予想していなかったのか、目をパチクリと瞬かせる。
「ただし、私が勝ったら、〟遊勝塾〝に戻ってもらう!」
ガチャリ、デュエルディスクを構え、光のプレートを展開する柚子。そう、彼女は自分自身を賭け、素良を取り戻そうとしているのだ。何と言う覚悟、そのどこか遊矢を思い起こさせる豪胆さに素良は一瞬息を呑み、ギリ、と歯軋りを鳴らす。
「……君達って、何でそうまで……!悪いけど、僕は遊勝塾に帰る気なんてない!そんな考え出来ないように、噛み砕いて上げるよ!」
「なら私は、貴方を引き摺ってでも連れて帰る!覚悟しなさい!私は遊矢みたいに甘くないわよ!」
師と弟子、互いの意地を賭け、今ぶつかり合う。
「「デュエル!!」」
この作品のダークシンクロモンスターはタッグフォース版のものを採用しております。
ゲーム内ではルール上、ダークシンクロ時以外はレベルは正の数値として扱っていて、他のシンクロモンスターと変わらないカードとして処理されていたのでその辺も流用しています。
例 マイナスレベル8のダークシンクロ版ワンハンドレッドの負の数値の筈のレベルを下げて(上げて?)レベル・スティーラー蘇生
例2 シンクロキラー、機皇帝……このモンスターに対抗すべき答えを、俺はアクセルシンクロやダブルチューニング、サイバー流以外に見つけた!ダークシンクロォ!
グランエル「いただきまーすw」
次回更新は10月頃を予定してます。