遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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第164話 このカードだ!クソ野郎!

「な……何で……何でなのよぉぉぉぉぉっ!?」

 

遊矢――ティモシーと黒コナミが激しきデュエルを行っている頃、同じくシティでは、対アカデミアのデュエル戦士精鋭部隊、ランサーズと、学園軍隊ビッグ5のデュエルが佳境を迎えていた。

 

まずは黒咲 隼とアカデミアピンク。最初こそ『衛生兵マッスラー』の高い攻撃力と効果と『シモッチによる副作用』によってピンクの優勢、隼の防戦一方に思われたが――それは全て隼の掌の上。

何時も通り『RRーフォース・ストリクス』でサーチと防御をこなしつつ、準備を整え――特殊召喚だけでなく、通常召喚されたモンスターが相手だろうと正面から打ち勝てるランク10の大型エクシーズモンスター、『RRーアルティメット・ファルコン』によって反撃に出た。

まさか攻めて来るとは思ってもみなかったピンクは瞬く間に布陣を崩され、今のように金切り声を上げている事に至る。

結局、最初から最後まで、隼は自分自身のデュエルを貫いただけ。

 

「こんなものか……確かに今までのオベリスク・フォースと異なり、手こずりはしたが、俺に勝つには至らん」

 

「何じゃとゴラァァァァッ!!」

 

最早オカマ口調も忘れ、怒り狂うピンク。恐ろしい光景だが、隼はこれだったらクネクネとオカマしていた方が恐ろしかったと鼻を鳴らす。

 

「所詮二流は二流、終わりだ。アルティメット・ファルコンで、ダイレクトアタック!ファイナル・グロリアス・ブライトォッ!!」

 

そして――隼の背後から、黄金に燃える太陽のような翼を広げた漆黒の猛禽が飛び立ち、胸部に黒いエネルギーの球体を集束、ピンクに撃ち出し、爆発する。

 

「ノォォォォォンッ!?」

 

アカデミアピンク LP1300→0

 

黒咲 隼VSアカデミアピンク――勝者、黒咲 隼――。

 

「馬鹿な……何故だ、何故ロックをかけていた僕が、逆にロックされている!?」

 

一方、沢渡 シンゴVSアカデミアグリーン。グリーンによって『ダーク・シムルグ』と『魔封じの芳香』の、所謂アロマダムルグコンボによってペンデュラム召喚が封じられた沢渡と言えば――帝による効果で『ダーク・シムルグ』を崩し、そのまま何と、彼の手札から風属性の『妖仙獣』と闇属性の『魔界劇団』を除外、『ダーク・シムルグ』を呼び出し、逆にロックをかけると言う思いもよらぬ戦術に出た。

 

「アロマダムルグねぇ……確かにペンデュラム対策としては悪くねぇが……こんなもんで遊矢を倒せれば苦労なんざしねぇんだよ」

 

やれやれと首を振り、溜め息を吐く沢渡。経験者は語る。そう、彼もまた、『妖仙獣』と『魔界劇団』の属性から、この戦術に辿り着き、取り入れているのだ。当然、遊矢達はこれ1つで止まる程やわじゃなかったのだが。

 

「ま……1つの戦法に止まって、俺達の成長を考えねーテメェじゃ、どっちにしろ勝てねぇさ」

 

ランサーズは全員、敵が成長している事を計算の内に入れている。だから――驚く事はあっても、慌てる事はない。

 

「ありえない、こんな事がっ……!」

 

「何があるか分からねぇ、だからデュエルは面白いんだよ。行け、『ダーク・シムルグ』!ダイレクトアタック!」

 

沢渡の指示を受け、漆黒の怪鳥が飛翔、その羽を矢のようにグリーンに降り注がせ、LPを削り取る。

 

「ぐわぁぁぁぁっ!?」

 

アカデミアグリーン LP2000→0

 

沢渡 シンゴVSアカデミアグリーン――決着、勝者、沢渡 シンゴ――。

 

「さて、これで終わりか?」

 

続けてジル・ド・ランスボウVSアカデミアイエロー。このカードは最早、一方的と言って良かった。『スキルドレイン』によって両者のモンスターの効果を奪い、デメリットのなくなった高攻撃力のモンスターで攻め、『暴君の暴飲暴食』で大型の特殊召喚を封じられていたジルであったが――。

それならばこちらも攻めに攻めるとスタンスを大きく変え、1体のモンスターに装備魔法を積みまくってごり押しすると言う力業に出たジルにより、イエローの醜悪なオーク達は一網打尽に陥ったのだ。

 

「ウガガガガ……オ、オイラのモンスター達が……!」

 

「見事であった、イエローとやら。しかし、私の勝ちだ。やれ、『聖騎士アルトリア』!『遅すぎたオーク』へ攻撃!」

 

逃げるオークに対し、何本もの『聖剣』を構えた『聖騎士』が追い、背後から煌めく剣を、オークの穴と言う穴に突き刺す。

 

「アッ――!」

 

アカデミアイエロー LP500→0

 

ジル・ド・ランスボウVSアカデミアイエロー、――決着、勝者、ジル・ド・ランスボウ――。

 

「皆も終わっているようだな。俺も続くとしよう」

 

そして権現坂 昇VSアカデミアブルー。2人の対決も終局に入っていた。フルモンを使う権現坂に対し、フルトラップを使うブルー。似て非なるデッキを使う2人。雁字絡めに罠を張るブルーであったが――『超重神鬼シュテンドウーG』と『超重荒神スサノーO』の2体を巧みに使う権現坂により、張った罠は奪われ、逆に彼を有利にしてしまったのだ。

 

「ク、クソクソクソクソォッ!こ、こんな事が……!」

 

自身の戦術が自身の首を絞めている。プライドを傷つける事実にブルーは頭を掻き毟る。だが――ニヤリ、その口元に邪悪な笑みが描かれる。

当然、この取り乱している様子も彼の罠、彼の場には権現坂の『超重武者』を一気に除去出来る罠カード、『邪悪なるバリアーダーク・フォース』が伏せられている。が――。

 

「俺はレベル4の『超重武者ジシャーQ』と、レベル3の『超重武者ココロガマーA』に、レベル2の『超重武者ホラガーE』をチューニング!白銀の鎧輝かせ刃向かう者の希望を砕け!シンクロ召喚!出でよ!『XXーセイバーガトムズ』!」

 

XXーセイバーガトムズ 攻撃力3100

 

彼の策略とは裏腹に、フィールドに登場したのは『超重武者』ではなく、『Xーセイバー』モンスター。権現坂が師であり、親友の刃から受け取ったカードだ。突如現れたこのカードを見て、ブルーは目を丸くして「ひょ?」と間抜けな声を出す。

 

「そ……そんな……」

 

「やれ、ガトムズ!『カース・オブ・スタチュー』へ攻撃!」

 

アカデミアブルー LP1000→0

 

権現坂 昇VSアカデミアブルー、――決着、勝者、権現坂 昇――。

 

そしてランサーズVSビッグ5最終戦、リーダー、アカデミアレッドVSアリト。やはりリーダーと言う訳か、この男を相手にアリトは少々苦戦し――2人は息を切らし、肩を震わせていた。

 

「ハァ……ハァ……やるじゃねぇか、テメェ……!」

 

「ハァ……ハァ……お前もな……!」

 

レッドのデッキはチェーンバーン。デッキのほぼ全てが相手に効果ダメージを与えるカードだ。カウンター罠を大量に投入していたアリトでなければ短期決戦で終わっていたかもしれない。

究極の速攻デッキは伊達ではないのだ。しかし今回ばかりは相手が悪かったとしか言えない。

まるで一昔前の不良漫画のように互いに笑みを浮かべ、ボロボロになりながらも認め合う2人。デュエルを通して友情が目覚めたのか、実に爽やかだ。

 

「これで終わりだ!罠発動!『仕込みマシンガン』!お前の手札とフィールドのカードの数×200のダメージを与える!お前のフィールドと手札のカードの合計は7!よって1400のダメージ!」

 

「俺のLPは100……!」

 

ガチャリ、アリトのフィールドのカードからマシンガンが飛び出し、その銃口をアリトへと向ける。自らのカードが木場を剥くバーン効果。アリトのLPは僅か100、この一撃で終わる。

かに、思われたが――ニヤリ、アリトの口端が吊り上げられ、アリトのフィールドに伏せられたリバースカードが発動され、マシンガンの銃口がレッドに向く。

 

「カウンター罠、『地獄の扉越し銃』!自分が受ける効果ダメージを、相手に与える!」

 

カウンターパンチャーの名手、アリトはこの時を待っていたとばかりに拳を構え、レッドを睨む。

 

「俺のLPも、100……!」

 

「さぁ、燃え尽きな!」

 

振り抜かれる拳と共に、銃声が絶え間無く鳴り響き、14発の弾丸がレッドを貫く。

 

アカデミアレッド LP100→0

 

アリトVSアカデミアレッド――、決着、勝者、アリト。これでランサーズ全員がビッグ5を下し、完全勝利となった。圧倒的な実力を見せる5人。アカデミアの成長をも寄せ付けない。彼等もまた、確実に成長している。

 

「ぐっ、我等が敗れるとは……!」

 

「これがランサーズだ!覚えときな!」

 

「お前が締めるな沢渡」

 

ランサーズ、進撃――。

 

――――――

 

一方、ティモシーと黒コナミのデュエルに決着がついた頃、彼等の前に2人のデュエリストが姿を見せる。

1人は超巨大、先端が二股に別れた戦闘機のようなDーホイールに搭乗した、白帽子のデュエリスト、白コナミ。

そしてもう1人は――刺々しい漆黒の鎧に身を包んだアカデミアの幹部、覇王。

 

両者共に、黒コナミに匹敵する程の化物。因縁深い3人が揃った。揃ってしまった。何も知らない遊矢でも分かる。分かってしまう。この3人は、絶対に引き合わせてはならないと、本能が訴えかける。駄目だと心臓が早鐘を打ち、燃え盛るように熱くなる。何だ、これは――まるで自分の中の何かが彼等に反応しているような――。

 

「ぐっあ……はぁ……はぁ……!」

 

意識が遠退く、身体が熱い。もう思考も定まらない。重い身体を何とか起こし、3人の様子を視線で追う。

全員、笑っていた。黒コナミもあれだけ執着していた遊矢から視線を外し、白コナミと覇王を見て歪んだ笑みを貼りつけ、白コナミは黒コナミと覇王を見て、Dーホイールを駆動、激しいエンジン音を響かせる。覇王は鉄仮面で顔を覆っている為、表情は分からないが、バサリと真紅のマントを翻し、デュエルディスクを構える。そして――。

 

「「「デュエル!!」」」

 

突風が、吹き荒れる。

 

「『シューティング・スター・ドラゴン』ッ!!」

 

白コナミが純白のDーホイールで飛翔、瞬く間の高速シンクロで自身のエースの進化形態、ヘルメットのような頭部に逞しい四肢、戦闘機を思わせる平行な翼を伸ばした白亜の竜を呼び出し、その体躯が5色に輝き分裂、弾丸の如く黒コナミと覇王に襲いかかる。

 

「アクションマジック、『大脱出』!」

 

それを防いだのは黒コナミだ。フィールドを駆け、白コナミのDーホイールの翼を蹴って跳躍、1枚のカードを取ってデュエルディスクに叩きつける。瞬間、彼の姿がテレポートしたかの如く白コナミの視界から外れ、代わりに彼の上空から影が差す。

 

「『E・HEROマグマ・ネオス』!!」

 

続け様に覇王が自らのエース、その身体を黒く染めた『E・HEROネオス』を呼び、大型のカブトムシとドリルを装着したモグラを召喚、3体によるトリプル・コンタクト融合を炸裂させ、強固な甲殻と一撃必殺のドリルを纏った英雄を呼び、白亜の竜を攻撃する。

 

「チ、『シューティング・スター・ドラゴン』の効果により、このカードを除外、攻撃を無効!」

 

しかしインパクトの瞬間、竜は空間に溶け込み消える。白コナミも猛スピードでその場を飛翔し、追っ手を振り切る。そのままクルリと反転、覇王の背後に回り込む。

 

「魔法カード、『エクシーズ・ギフト』!ビヨンドのORUを2つ取り除き、2枚ドロー!そしてヴィクトリーで『E・HEROマグマ・ネオス』へ攻撃!効果発動!ヴィクトリー・チャージ!」

 

「手札の『E・HEROオネスティ・ネオス』を捨て、マグマ・ネオスの攻撃力をアップ!」

 

更にぶつかる勝利の希望皇と大地の英雄。炎の剣と光の剣が剣線と火花を走らせる。息つく暇もない嵐のような激しい攻防、このままでは爆心地にいる遊矢が最悪の形で巻き込まれるだろう。

何とかここから脱出したいが、身体が全く言う事を聞かない。勝負に割って入る等もっての他だ。

凄絶な笑みを浮かべ、人外のバトルを繰り広げる3人。勝てる気がしない。どうしようかと考える中――。

 

「遊矢っ!」

 

声が届く。聞き覚えのある、渋い男性の声、この声は――。

 

「徳松さんっ!」

 

徳松 長次郎。エンジョイ長次郎の通り名を持つ元プロデュエリストだ。彼は爆心地をひたすらに走り、3人のデュエルに巻き込まれないように遊矢を抱え、その場から脱出を計る。彼もここは危険だと感じたのだろう。懸命な判断だ。

 

「何だぁ、アイツ等は……取り敢えずトンズラすんぞ遊矢!」

 

「何で、ここに……」

 

「話は後だ!今はここから逃げるぞ!」

 

背後で響く激しき爆音、決して振り返る事をせず、この場から離れる事だけを考えてその場を駆け抜ける。流石に化物同士の争いに態々首を突っ込む事はしない。幸い彼等もこちらに興味が無いのか、台風の如くぶつかりながら辺りを巻き込んで進んでいく。遠くでオベリスク・フォース達の悲鳴が聞こえるが――気のせいにしておこう。何とかその場を逃れ、廃ビルの中に入り込む。そのまま徳松は安全を確認、遊矢を地面に下ろす。

 

「ふぅ、危ねぇ所だったな……」

 

「ありがとう徳松さん。イテテ……これ、思ったより疲れてるな……」

 

壁に背を預け、コキコキと首を鳴らす遊矢。どうやら黒コナミとの闘いだけでなく、セルゲイ戦からの疲労も抜け切れてないようだ。いずれも強敵ばかりの連戦だった為、仕方無いか。とは言えオベリスク・フォース達の事が気にかかる。

 

「動くんじゃねぇ遊矢。安心しろ、今お前の仲間……ランサーズが事態の解決に向かっている。お前が休んでも大丈夫だろう。て言うか休め。そんな状態で加勢されたらそれこそ足手纏いって奴だ」

 

「皆が……!?そっか、だから徳松さんもここに……分かった……悔しいけど、今は休むよ」

 

しかし徳松の忠告を受け、立ち上がろうとした身体を座らせる。徳松の言う事も尤もだ。こんな状態の遊矢が加勢した所で、強化されたオベリスク・フォースを倒せるとは限らない。今は少しでも英気を養い、回復に努めるべきだろう。そんな時だった――。

 

「おうおう、誰かと思えば……ランサーズの榊 遊矢じゃねぇか……どうやらアタリを引いたらしい。いやぁ、俺もツイてるねぇ。ヒャハハハハハ」

 

その男が、廃墟の影から、ヌッと出て来たのは。

 

「ッ!何だぁ、オメェは……」

 

徳松が突如現れた男を見て、遊矢を庇うように前に出てデュエルディスクを構える。アカデミアの者だろうか、にしては随分薄汚れた姿をしている。

所々穴が開いた、星条旗のバンダナにサングラス、着流しを纏った風体の悪い金髪の男だ。懐よりタバコとライターを取り出し、カチカチと中々火が点かないライターを使い、タバコを口に含む。

 

「チ……やっとこそ点いたか……そろそろ新しいの買わねぇとなぁ……ああ……俺が誰だって話だったかぁ?察しの通り、アカデミアのものだよ。名前は――キース・ハワード」

 

ニヤリ、タバコから白煙を吹かし、顎髭を撫でながら不敵に名乗るキース。やはりアカデミアの人間か。しかし随分と不真面目そうな男だ。てっきりアカデミアは軍隊らしいイメージがついている為、こんな男がいるとは思ってもみなかった遊矢は僅かに目を見開く。

 

「そのキースとやらが何のようだ?」

 

「あぁ?んなもん決まってんだろ、噂のランサーズとやらがどんなもんか、試しに来たんだよ。退きな、オッサン、俺様が用があるのは、後ろのボウズだ」

 

「悪いがそいつぁ出来ねぇな……!」

 

「……チッ、退く気はねぇってか……面倒くせぇ」

 

ボリボリとやる気が無いのか、本当に面倒臭そうに頭を掻くキース。この男、どこか他のアカデミアとは違うように見える。他のアカデミアの者は連携に気を配っている事に反し、この男は極端に協調性を無視しているような。

 

「俺もランサーズのメンバーだ。遊矢に挑みたきゃ、俺を倒してからにしな!」

 

「……へぇ、なら、仕方ねぇなぁ!」

 

徳松がランサーズと名乗った瞬間、あれだけ脱力していたキースより、激しき闘気が吹き荒れる。あの黒コナミにも匹敵する強力な闘志。デュエリストとしての格が目に見えるようだ。思わず2人の表情が強張る。この男は、強い。デュエルディスクを構えるキースに対し、徳松も何とか気力を振り絞り、迎え撃つ。

 

「楽しませてくれるんだろうなぁ」

 

「……へ、そいつぁお前さん次第だぜ……!」

 

今、ギャンブラーがぶつかり合う。

 

「「デュエル!!」」

 

先攻はキースだ。彼はデュエル前とは打って変わって好戦的な表情を見せ、勢い良くデッキから5枚のカードを引き抜く。

 

「魔法カード、『カップ・オブ・エース』!コイントスを行い、表ならドローする。……良し、表だ」

 

キース・ハワード 手札4→6

 

「ツイてんねぇ全くよぉ。俺は永続魔法、『機甲部隊の最前線』と『補給部隊』を発動。そして手札の『可変機獣ガンナードラゴン』の元々の攻守を半分にし、妥協召喚!」

 

可変機獣ガンナードラゴン 攻撃力1400

 

現れたのは首から下が戦車のようになった赤の機竜。元々の攻撃力2800と上級らしいのだが、今回はその攻守を半分にしての召喚だ。『スキルドレイン』等の下でも充分に猛威を奮えるが、彼の狙いはそこでは無いだろう。

永続魔法、『機甲部隊の最前線』により元々の攻撃力2800より下の闇属性、機械族の召喚。風体とは裏腹に、地盤がかなりしっかりとしている戦術だ。

 

「カードを2枚セット、ターンエンド」

 

キース・ハワード LP4000

フィールド『可変機獣ガンナードラゴン』(攻撃表示)

『機甲部隊の最前線』『補給部隊』セット2

手札1

 

「気をつけて、徳松さん……」

 

「おう!俺のターン、ドロー!

 

「魔法カード、『ナイト・ショット』!セットカードを破壊!」

 

「チ、『禁じられた聖典』が……!」

 

「俺は『花札衛ー松ー』を召喚!」

 

花札衛ー松ー 攻撃力100

 

徳松の手札から1枚のカードが切られ、フィールドに登場する。巨大な花札を模したモンスター。このカードはカス札の1つ、『花札衛』では唯一リリース無しで召喚可能な重要な1枚だ。

 

「召喚時、1枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札4→5

 

「そして確認!『花札衛ー芒ー』!よってそのまま手札に加え、このカードはフィールドにレベル7以下の『花札衛』が存在する事で特殊召喚が可能!来な!」

 

花札衛ー芒ー 攻撃力100

 

「特殊召喚時効果により、手札の『花札衛』モンスターをデッキに

戻し、戻した分だけドローする!」

 

カンッ、甲高い音を立て、『ナチュル・コスモビート』のイラストが描かれた『花札衛』が松お連結する。手札交換カード、アドバンテージを取る事には繋がらないが、事故を防ぐ為には必要不可欠の1枚だ。

 

「お次はこれよぉ!レベル8の芒をリリースし、手札の『花札衛ー芒に月ー』を特殊召喚!」

 

花札衛ー芒に月ー 攻撃力2000

 

芒と入れ替わって現れたのは花札で言う光札の1種、高いレベルと2000打点を持つカード。イラストには邪悪な力を持った黒い球体のようなモンスターが描かれている。遊矢も徳松も知らないカードだ。このシンクロ次元のカードでは無いのだろうが、なぜそんなものが描かれているのか。

 

「特殊召喚時、1枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札3→4

 

「引いたカードは『花札衛ー柳ー』!芒に月の効果で特殊召喚!」

 

花札衛ー柳ー 攻撃力100

 

カカンッ、禁止カード、『ハリケーン』が描かれた花札が飛び出し、再び連結。この特徴的な光景も『花札衛』の醍醐味だ。思った以上に回る徳松のカード達に遊矢は苦笑し、キースを欠伸をする。

 

「花札ねぇ……俺はどっちかと言うとトランプの方が好きだぜ。あれで色々遊べるからなぁ。榊 遊矢は確かトランプをモチーフとしたカードも使うんだろ?お前のも中々面白いが、そっちも見てぇ」

 

「ハッ、果たして見られるかねぇ、柳の効果!墓地の芒をデッキに戻し、シャッフル、1枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札3→4

 

「そぉらまだまだ行くぞ!柳をリリースし、『花札衛ー柳に小野道風ー』を特殊召喚!」

 

花札衛ー柳に小野道風ー 攻撃力2000

 

次は『引きガエル』と彼のエースの1体、『花札衛ー雨四光ー』の姿を写したモンスター。そしてこのカードは『花札衛』内では貴重なチューナーモンスターだ。手札に引き込めたのは運が良い。

 

「特殊召喚時、1枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札3→4

 

「引いたカードは……残念、『花札衛』じゃねぇから墓地に送るぜ。そして俺は手札の『花札衛ー桜に幕ー』を公開する事で、効果発動!1枚ドローし、そのカードが『花札衛』モンスターの場合、こいつを特殊召喚する!来い!」

 

徳松 長次郎 手札2→3

 

「来たぜ、『花札衛ー柳ー』だ!よって特殊召喚!」

 

花札衛ー桜に幕ー 攻撃力2000

 

「そして桜に幕をリリースし、来い!『花札衛ー牡丹に蝶ー』!」

 

花札衛ー牡丹に蝶ー 攻撃力1000

 

『黒魔族のカーテン』が描かれた桜に幕から、『炎妖蝶ウィルプス』が描かれたチューナー、牡丹に蝶に。忙しい入れ替わりっぷりだ。目が回りそうになってしまう。

 

「牡丹に蝶の効果!1枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札1→2

 

「チッ、『花札衛』じゃねぇ……墓地に送るぜ。そして柳を特殊召喚!」

 

花札衛ー柳ー 攻撃力100

 

「柳の効果!墓地の桜に幕をデッキに戻し、ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札0→1

 

「さてと……まずは小野道風の効果により、このカードとこのカードと共にシンクロ素材になるモンスターのレベルを2として扱う!俺はレベル2の松と柳にレベル2の小野道風をチューニング!シンクロ召喚!『花札衛ー月花見ー』!」

 

花札衛ー月花見ー 攻撃力2000

 

シンクロ召喚、2体の『花札衛』が光輝く4つの星に、小野道風が2つのリングとなって星を包み込み、激しき閃光がフィールドを照らす。

そして新たにフィールドに呼び出されたのは彼が持つシンクロモンスターの1体、雪のように真っ白な肌、髪を結う美しい簪、黒と赤の鮮やかな着物、満月を描く扇子を持ったモンスター。その姿は正に大和撫子の名に相応しい。

 

「効果を使うぜ!1枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札1→2

 

「ドローカードは『花札衛ー松に鶴ー』!月花見の効果で召喚条件を無視して特殊召喚!」

 

花札衛ー松に鶴ー 攻撃力2000

 

「そして松に鶴の効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札1→2

 

「ドローカードは『花札衛ー萩に猪ー』!よって特殊召喚!」

 

花札衛ー萩に猪ー 攻撃力1000

 

次は『クレーンクレーン』を描いた『花札衛』と『ボアソルジャー』の姿を描いた『花札衛』。

 

「萩に猪の効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札1→2

 

「おっと残念、『花札衛』じゃねぇ、捨てるぜ」

 

攻め手は充分、だが相手のフィールドには『機甲部隊の最前線』が存在する為、ガンナードラゴンを倒した途端、上級モンスターが呼び出されるだろう。攻撃力は2000を超える為、今の戦力では少々心許ない。

 

「永続魔法、『一族の結束』!俺のフィールドの戦士族モンスターは攻撃力を800アップするぜ!」

 

「その見た目で戦士族だったのかよ……」

 

花札衛ー月花見ー 攻撃力2000→2800

 

花札衛ー松に鶴ー 攻撃力2000→2800

 

花札衛ー芒に月ー 攻撃力2000→2800

 

花札衛ー萩に猪ー 攻撃力1000→1800

 

花札衛ー牡丹に蝶ー 攻撃力1000→1800

 

これで一気に全体強化、3体のモンスターは『ゴヨウ』ラインまで上がった。これで例えガンナードラゴンを破壊し、『機甲部隊の最前線』の効果でモンスターを呼び出しても最大攻撃力は2800には届かない。

 

「おいおい、ハリキリ過ぎじゃねぇか?ちょっとは手加減してくれよ」

 

参ったと言わんばかりに両手を上げ、首を振るキース。演技なのか素なのか、良く分からない男だ。だが徳松はそれを見て手加減するつもりはない。この男は強い。倒せる内に倒すべきだ。油断はしない。

 

「悪いがそいつは出来ねぇ相談だ。月花見の効果で特殊召喚した松に鶴はダイレクトアタックが可能!」

 

「オッサン無茶し過ぎだぜ……ちょっと話し合おうぜ、な?何でも暴力で解決するのは良くねぇよ、うん」

 

「話し合いならたっぷりしてやるよ、デュエルでな!やれ!松に鶴!ダイレクトアタック!」

 

「待てっつってんだろうが!手札の『工作列車シグナル・レッド』と永続罠、『ラッキーパンチ』を発動!前者は特殊召喚し、1度の戦闘耐性を与え、攻撃をこのカードに移し、後者は3回コイントスを行い、全て表が出れば3枚ドローする!」

 

「そんな効果が――」

 

成功するとでも、と言おうとした途端、彼のフィールドにソリッドビジョンに作り出された3枚のコインが舞い、天空でぶつかり合って落ちる。結果は――何と、3枚とも表。この処理はデュエルディスクによる公正な判断だ。イカサマでも何でもない。偶然の結果だ。

 

「なっ、に……!」

 

「ツイてるねぇ、3枚、ドロー!」

 

工作列車シグナル・レッド 守備力1300

 

キース・ハワード 手札0→3

 

恐るべき豪運、攻撃を回避し、新たに手札を得るキースに僅かな戦慄を見せる徳松。強いデュエリストは運を味方につけている事が多い。この男もその1人だろう。

 

「牡丹に蝶でシグナル・レッドを攻撃」

 

「『補給部隊』の効果でドローするぜ」

 

キース・ハワード 手札3→4

 

「4枚、か……芒に月でガンナードラゴンへ攻撃!」

 

キース・ハワード LP4000→2600

 

「ぐっ……『機甲部隊の最前線』の効果!デッキより『ツインバレル・ドラゴン』をリクルート!」

 

「芒に月がモンスターを戦闘破壊した事で1枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札0→1

 

ツインバレル・ドラゴン 守備力200

 

ガンナードラゴンの装甲が剥がれ落ち、中より姿を見せたのは頭部がダブルデリンジャーとなった青い機械竜。ガンナードラゴンから呼び出されたにしては低めの攻撃力、キースは自分の運に自信があるのか、ニヤリと笑う。

 

「こいつが召喚、反転召喚、特殊召喚された事で月花見を選択し、効果発動!2回コイントスを行い、2回とも表なら対象のカードを破壊する!おっと……ハズレか、おいおい神様、やる気出してくれよな……」

 

「荻に猪で『ツインバレル・ドラゴン』へ攻撃、月花見でダイレクトアタック!」

 

「手札の『速攻のかかし』を捨て、攻撃を無効、バトルフェイズを終了する!」

 

「かわすか……バトルは終了、松に鶴の効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札1→2

 

「メインフェイズ2、牡丹に蝶の効果でこのカードと共にシンクロするモンスターのレベルを2に、レベル2の松に鶴、芒に月、萩に猪に、レベル2の牡丹に蝶をチューニング!涙雨!光となりて降り注げ!シンクロ召喚!出でよ!『花札衛ー雨四光ー』!!」

 

花札衛ー雨四光ー 攻撃力3000→3800

 

再びシンクロ召喚、4体もの素材により現れたのは黒い鉄傘を持った着物の美丈夫。涙雨の長次郎だった頃の彼のエースであり、今尚彼の強力な武器であるカードだ。月花見と組み合わせる事で、デメリットを最小限に回避出来る。この布陣ならばやすやすと突破されないだろう。

 

「こいつがいる限り、『花札衛』は相手の効果の対象とならず、効果破壊されねぇ。カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

徳松 長次郎 LP4000

フィールド『花札衛ー雨四光ー』(攻撃表示)『花札衛ー月花見ー』(攻撃表示)

『一族の結束』セット2

手札0

 

「やっと終わったか……俺のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、雨四光の効果発動!相手の通常ドロー時、テメェに1500のダメージを与える!」

 

「このカードだ、クソ野郎!『クリアクリボー』を捨て、効果ダメージを発生されるモンスター効果の発動を無効にする!」

 

「チッ、かわしやがるか」

 

「モンスターをセット、カードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

「この瞬間、雨四光の効果により、次の俺のドローフェイズをスキップする事を選択」

 

キース・ハワード LP2600

フィールド セットモンスター

『機甲部隊の最前線』『補給部隊』『ラッキーパンチ』セット2

手札0

 

徳松と比べると随分と短いターンだ。戦況としても徳松の有利。キースは防御を固めているように見える。このまま攻めていきたいと徳松が意気込む。

 

「俺のターン、雨四光と月花見の効果でドローフェイズをスキップ。月花見の効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札0→1

 

「ドローしてのは『花札衛ー桐ー』!特殊召喚!」

 

花札衛ー桐ー 守備力100

 

現れたのは『テンタクル・プラント』が描かれた『花札衛』。月花見の効果でダイレクトアタッカーとなっているものの、その攻撃力の低さから守備表示での登場だ。

 

「バトル!月花見でセットモンスターへ攻撃!」

 

「『ラッキーパンチ』の効果発動!全て表!3枚ドローだ!」

 

キース・ハワード 手札0→3

 

当然のように3枚ドロー。ギャンブルカードがデメリット無しのドローソースとなっている現状に思わず舌打ちを鳴らす徳松。無理もない、この男の運はまるで何かに取り憑かれているのかと疑う程常軌を逸している。

 

「そしてセットモンスターはガンナードラゴン。『機甲部隊の最前線』の効果でデッキから『ブローバック・ドラゴン』をリクルート、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ブローバック・ドラゴン 守備力1200

 

キース・ハワード 手札3→4

 

次に現れたのは『ツインバレル・ドラゴン』の進化体、赤いオートマチックの頭部を持った機械竜だ。雨四光の効果で『花札衛』は効果に対して強固な耐性を持っている。キースのデッキとしてはかなりやり辛い。

 

「雨四光で攻撃!」

 

「罠発動!『フローラル・シールド』!攻撃を無効にし、1枚ドロー!」

 

キース・ハワード 手札3→4

 

「面倒くせぇ……」

 

「ターンエンドだ」

 

徳松 長次郎 LP4000

フィールド『花札衛ー雨四光ー』(攻撃表示)『花札衛ー月花見ー』(攻撃表示)『花札衛ー桐ー』(守備表示)

『一族の結束』セット2

手札0

 

ぶつかる徳松とキース。2人のギャンブラーのデュエル。豪運が降り注ぐ両者の激突の果てに、勝利の女神が微笑むのは、どちらか――。


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