遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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絆とか迷ったけどユーゴに合わせるなら熱過ぎるこれかなって。今思えばもう少しユーゴとセクトの交流を書いた方が良かったと後悔。
ではユーゴ対セクト、クライマックスです。


第156話 BELIEVE IN NEXUS

伊集院 セクトはシンクロ次元、シティ、コモンズの生まれだ。彼も例外無く、他のコモンズ出身者同様、トップス達に日々蔑まれ、時には虐げられて来た。

思えばこの時、彼に折り目がついたのだろう。弱者として見られる苦痛、自分の存在を認められない孤独。

 

当時の彼自身がコモンズ内でも弱者だった事で、コモンズからも馬鹿にされる、と言う事実もまた拍車をかけていた。

人間と言うものは、故意でも自然でも、自分よりも下を作り出そうとするものだ。彼はその中でもカースト下位にあったと言う事である。親兄弟もいない孤児。

 

唯一彼が笑みを浮かべられている時は、孤児院にあった昆虫図鑑を眺める事と、昆虫族のカードを拾い集める事。なけなしの小遣いも、それら全てに注ぎ込まれた。

写真やカードイラストの中で、ちっぽけながらも力強く、美しく生きる彼等は、セクトの目には眩しく見えた。

 

そんな日常が変化したのは、やはりシンクロ次元の最強の男、鬼柳 京介との出会いが切欠だろう。

何時も通り、いじめっこに虐められている時、突如ハーモニカの音色が響き渡り、陽光を背に彼が現れ、大人気のなさを発揮し、いじめっこを蹴散らしたのだ。今も昔も変わらずのソリティアも見せつけ、一方的に蹂躙する、圧倒的強者のデュエル。

親戚同士の集まりで、俺アルセウス持ってんだぜ、とポケモンバトルを挑む伝説使いのガキンチョ相手に、厳選した厨ポケで大人気なく圧倒する、社会的地位さえも鼻で笑い、虚仮にするニートのような所業。

 

他人の目を気にしない、彼にとってのキングの姿、ムシキングの堂々とした在り方に――セクトは憧れた。

何も言わずに立ち去る寂しい男の背に、セクトは圧倒されつつも勇気を振り絞り、待ったをかけた。どうやったら、貴方のように強くなれるのかと。

鬼柳はその問いに答える。ただ俺は、俺を満足させる奴に会いに行くだけだと。

 

セクトは痺れた。多くの者にとってはまるで意味が分からん台詞だが、その言葉はどうしようもなくセクトの胸を打ち、気づけば膝をつき、頭を下げて土下座し、彼に懇願していた。

どうか俺を、弟子にしてくださいと。彼もまた、満足の血を引くものだったと言う事か。そんなセクトの姿を見て、鬼柳が一喝、男が簡単に頭を下げんじゃねぇと。

そしてその後――ついてこられるなら、ついて来いと、彼は初めて優しい笑みを浮かべ、彼に手を差し伸べた。

 

その手を取った瞬間から、伊集院 セクトは小さな幼虫から、蛹へと進化を遂げた。彼の退屈な日常は壊され、鬼柳とのジェットコースターのような非日常が彼の世界に光を与えていく。

苦しい特訓、デュエルギャングとの抗争にも音を上げず、セクトは努力を積み重ねた。

様々な人物との出会いもまた、彼に良い刺激を与えてくれた。

 

その中でも特に顕著だったのは、親友、ユーゴとの出会い。競い合うライバルの登場だ。喧嘩し、ぶつかり合いながらも切磋琢磨する2人。

だがそんな充実な日々の中にも、セクトに不満はあった。いや、充実していたからこそ、それは浮き彫りとなっていたのだろう。

彼がどんなに努力して、強くなっても――鬼柳は決して、彼を対等として扱わず、背を預けてはくれなかったのだ。これは、鬼柳があくまでもセクトの事を弟分として見ていた擦れ違いでもある。

彼もまた、天涯孤独の身、初めて出来た弟子であるセクトを、家族のように思い、実の弟のように接していた事にある。それはセクトも同じであり、あくまでその不満は小さなものでしか無かった。

 

そう、この時までは。第3の出会いの転機、プラシドと名乗る男との出会いが無ければ――。突如現れた謎に包まれた彼は、言葉巧みにセクトを惑わす。果たしてお前は、今のままで満足なのか、と。当然セクトはギクリとしつつも否定した。

だが――対等として、彼等と肩を並べ、頼られる存在として見て欲しかった事も、本音。プラシドはセクトの劣等感を刺激し、1枚のカードを彼に渡す。

 

それが――決闘竜、『魔王龍ベエルゼ』。普段のセクトなら、何とかなったのかもしれないが、掻き回されたセクトの心は、徐々にベエルゼの闇に侵食され、彼の心を憧れと劣等感の2つに大きく引き裂く。

どちらが本当の自分なのかも分からない、胡蝶の夢のような、心の歪み。

 

それはついにはこのフレンドシップカップ、鬼柳とのデュエルで爆発し――彼は蛹から、黒き羽を広げ、見上げる眼で、他者を見下す。最早誰の声も届かぬ闇へと飛翔した彼、そんな彼を――ユーゴは尚も諦めず、捕らえようと手を伸ばす。その掌は――空を、見上げていた。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

劣等感を刺激され、ひびが走った歪なプライドに檄を入れながら、セクトがデッキからカードを引き抜く。諦めて欲しい、認めて欲しいと叫ぶセクトに相反する、諦めず、今の彼を認めないユーゴ。

平行線の彼等はぶつかり合い、火花を散らす。状況はセクトの有利。だが――何故か彼の心は掻き乱される。

 

「俺は……強い、強いんだ……!ベエルゼと共に、鬼柳と対等になったんだ!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体を戻し、2枚ドロー!」

 

伊集院 セクト 手札1→3

 

彼の心の闇に呼応し、彼が纏うフィールもまた、強大で凶悪に研ぎ澄まされていく。嫉妬、劣等感、苦痛、負の感情はより増幅され、彼の心を強固に覆う甲殻となる。

 

「魔法カード、『デビルズサンクチュアリ』!俺のフィールドに、『メタルデビル・トークン』を特殊召喚する!」

 

メタルデビル・トークン 守備力0

 

「更に『チューニングガム』を召喚!」

 

チューニングガム 攻撃力400

 

現れたのは2体の悪魔。鋼の像と気持ち悪いリアルな顔面のチューナーだ。レベル1のモンスターが2体、一方はチューナーであるが、一体何を始める気なのか、低レベルシンクロモンスターの登場にしても腑に落ちない。

 

だがその時――突如セクトのエクストラデッキが、黒い光を放つ。

 

「終わらせてやるよ!レベル1の『メタルデビル・トークン』と、レベル8の『魔王龍ベエルゼ』に、レベル1の『チューニングガム』をチューニング!」

 

「な……に……!?」

 

だがユーゴの予想を裏切り、セクトが行ったのは何とエースモンスター、『魔王龍ベエルゼ』を使用したレベル10のシンクロ。

そんな馬鹿な――彼のエースは、ベエルゼでは無かったのかと大粒の汗が伝い、戦慄する。ベエルゼの巨体が宙に浮き、『メタルデビル・トークン』と共に1つのリングを潜り抜け、10の漆黒に輝く星が天を舞う。ただでさえ強力なベエルゼが、セクトの闇に呼応し、新たな進化を遂げ、断末魔のような産声を上げる。

そして――セクトが、黒い輝きを放つカードを、エクストラデッキから抜き取り、フィールドに放つ。

 

「地を這う億万の蛆虫よ!その身をやつし天を埋めよ!全ての世界は我等の掌中にあり!シンクロ召喚!君臨せよ!『魔王超龍ベエルゼウス』!!」

 

魔王超龍ベエルゼウス 攻撃力4000

 

黒雷をフィールド中に降り注がせ、君臨せしは神をも食らい、より堅牢で巨大な体躯を得た暴食の魔王。

赤黒だった身体は漆黒へと変わり、背からは一対の悪魔の翼が伸びていく。見た目に然程変化は見えないが、纏う闇のフィールは、ベエルゼを軽く凌駕している。

 

「ククク、ヒャハハハハ!どうだ!これが俺の力だ!俺を認めろ!バトルだ!ベエルゼウスで『クリアウィング』へ攻撃!蠅王殲滅覇軍!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→1

 

ベエルゼウスの咆哮が響き渡り、胸部のアギトから無数の羽虫が『クリアウィング』へと飛び交い、その翼を汚し、動きを縛りつけた所をベエルゼウスの双頭が食らいつく。鋭い牙はバキバキと『クリアウィング』の体躯を翼ごと砕き、へし折って粉砕する。圧倒的な力を前に、ユーゴは防ぐ事しか出来ない。

 

「ぐっ――!」

 

「カードを1枚セット、ターンエンドォ!」

 

伊集院 セクト LP2300

フィールド『魔王超龍ベエルゼウス』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5枚をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→2

 

「良し、墓地の電々大公を除外し、手札の『SR赤目のダイス』を特殊召喚!」

 

SR赤目のダイス 守備力100

 

次は赤い目を輝かせたサイコロ型のチューナーだ。クルクルと回転し、ユーゴのフィールドで停止する。

 

「そしてモンスターが特殊召喚された事で、『SR56プレーン』を特殊召喚!」

 

SR56プレーン 守備力0

 

「レベル5の56プレーンに、レベル1の赤目のダイスをチューニング!十文字の姿持つ魔剣よ、その力で全ての敵を切り裂け!シンクロ召喚!現れろ、『HSR魔剣ダーマ』!」

 

HSR魔剣ダーマ 守備力1600

 

現れたのはけん玉の形状を模したシンクロモンスター。現状どんなモンスターを呼び出そうとベエルゼウスには届かない。が、このモンスターを出す事が最善だ。

 

「ダーマの効果!墓地の機械族モンスター、『SR赤目のダイス』を除外し、相手に500のダメージを与える!ベエルゼやベエルゼウスが無敵でも、お前自身は無敵じゃねぇだろ!」

 

伊集院 セクト LP2300→1800

 

「――フン、俺自身は、ねぇ……」

 

「攻撃力アップ効果が無い……?ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『HSR魔剣ダーマ』(守備表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー!相変わらずおめでたい頭だなぁ、ベエルゼは進化してんだよ!ベエルゼウスの効果発動!ダーマの攻撃力を0にし、元々の攻撃力を、俺様のLPに加える!蠅王覇権!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200→0

 

伊集院 セクト LP1800→4000

 

「何だと……!?」

 

「残念だったなぁ、これでテメェのチマチマとする小賢しい手はぺしゃんこに潰されたって訳だ」

 

ベエルゼウスのアギトか、無数の羽虫が飛び出し、ダーマに襲いかかり、その力を腐らせ、ダーマがモノクロに染まる。これがベエルゼの新たに得た力。神をも食らう魔王の権威。攻撃力変動を失った代償に、ベエルゼは恐ろしい進化を遂げた。これで、ベエルゼウスを倒さずにセクトを倒すと言う抜け道も閉ざされた

 

「バトルだ!ベエルゼウスでダーマへ攻撃!」

 

「ぐぁっ!」

 

「カードをセット、ターンエンドだ」

 

伊集院 セクト LP4000

フィールド『魔王超龍ベエルゼウス』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「魔法カード、『成金ゴブリン』!相手にLP1000を与える代わりに1枚ドロー!」

 

伊集院 セクト LP4000→5000

 

「もう1枚だ!」

 

伊集院 セクト LP5000→6000

 

「魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

「モンスターとカードを1枚セット、ターンエンドだ最後の1枚は捨てられる……」

 

ユーゴ LP1000

フィールド セットモンスター

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!面倒くせぇなぁ……ベエルゼウスでセットモンスターへ攻撃!」

 

「クソッ……!」

 

「モンスターをセット、ターンエンドだ!」

 

「この瞬間、罠発動!『裁きの天秤』!俺の手札とフィールドのカードと、お前のフィールドのカードの差分ドローする!」

 

ユーゴ 手札0→3

 

伊集院 セクト LP6000

フィールド『魔王超龍ベエルゼウス』(攻撃表示)セットモンスター

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー。!こいつは……!」

 

引き抜いた1枚のカードを見て、ユーゴの目が見開かれる。引いたカードは、彼の運命を決定づける、ラッキーカード。これならば――。

 

「へへ、最高の1枚だぜ……俺は永続魔法、『補給部隊』を発動し、こいつを召喚する!」

 

たった今引いたカードをデュエルディスクに叩きつけ、フィールドにソリッドビジョンによって呼び出される1体のモンスター。それは――。

 

「――っ!そい、つは――」

 

――――――

 

評議会、最高幹部が一堂に集う一室にて、少女、リンは確かにそれを見た。モニターに写し出されるフレンドシップカップの試合。ユーゴとセクトの対決。その激しき火花が散るデュエルの最中、フィールドに呼び出されたモンスターの姿を。

彼女がユーゴへ渡した、いや、強引に奪い取られたカード――記憶を失ったにも関わらず、大切に持っていたカード。無意識に、彼等と彼女達を繋いでいた、絆のカード。そのカードを視界におさめ――。

 

「ユー……ゴ……?」

 

彼女の記憶が、目覚め始める――。

 

――――――

 

「……おい、何の真似だ、そいつぁ……」

 

場所は再びフレンドシップカップ、サーキットへと戻る。ユーゴが手札から呼び出したモンスターを見て、セクトが暫く呆然とした後、ギリリと歯軋りを鳴らしその口を開く。

 

「何の真似だって……?こいつが俺の、切り札さ……!」

 

対してユーゴは不敵に笑い、その真剣な眼差しでカードに信頼を託す。その視線の先にいるのは――羽根つき帽子を被った、幼い少年。細い指先で笛を持ち、軽やかな音色を奏でる――。

 

幸運の笛吹き 攻撃力1500

 

「……それが、切り札……?そんなカードが……?馬鹿に……馬鹿にしてんのかテメェはぁぁぁぁっ!?ここに来てまでお前は俺を、見下してんのか!?ふざけやがって……ふざけやがってぇぇぇ……!ユゥゥゥゥゴォォォォッ!!」

 

ストレスが最高値を振り切り、セクトが憤怒の形相で叫び声を上げる。彼がこうなるのも、ある意味必然なのかもしれない。だがそれでも、ユーゴは真剣そのものだった。

 

「いいや……これが俺の全力だ、カードの想いに応えた結果だ!それにコイツには、スッゲェ効果があるんだぜ?」

 

「あぁ!?俺がそいつの効果を知らねぇでも!?そいつはデュアルモンスター、もう1度召喚すれば効果を得られるが……それでも得られるのは相手モンスターを破壊した後、ドロー出来る効果。分かるか!?もう1度召喚して得られる効果が、たったそれだけだ!低い攻撃力で戦闘破壊しなきゃならねぇ、ベエルゼウスに通じないショボイ効果!アリえねぇだろうが!」

 

そう、セクトとて、このカードの効果は知っている。知った上で怒っているのだ。この状況で、胸を張って出すカードでは無いと。

 

「お前の言う通り、こいつは弱いかもしれない。だけど、このカードは俺に、力をくれるんだ!どんな相手だろうと正面から立ち向かう勇気をなぁ!」

 

だけど、このカードはユーゴにとって、思い出のカードだ。彼等が昔、幼馴染みへと渡したカード。何の変哲もないカードだったが――彼女の、満面の笑顔を見せてくれた最高のカード。

 

「なら、そのカードと共に潰れてろ!綺麗事を言おうが、そのカードじゃ勝てねぇんだよ!」

 

「いいや、俺は勝って見せる!魔法カード、『二重召喚』!俺は『幸運の笛吹き』を再度召喚!バトルだ!『幸運の笛吹き』でセットモンスターへ攻撃!」

 

少年が笛を吹き鳴らし、優しい音色がフィールドを包み込む。暖かで懐かしい音色はユーゴへと幸運を与える。

 

「戦闘破壊成功!1枚ドローだ!」

 

ユーゴ 手札1→2

 

「チッ、『カードガンナー』の効果で1枚ドロー!」

 

伊集院 セクト 手札0→1

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『幸運の笛吹き』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!永続魔法、『補給部隊』を発動。ベエルゼウスの効果発動!『幸運の笛吹き』の攻撃力を0に!」

 

幸運の笛吹き 攻撃力1500→0

 

伊集院 セクト LP6000→7500

 

「バトルだ!ベエルゼウスで『幸運の笛吹き』へ攻撃!完膚無きまでに、叩き潰せ!」

 

「罠カード、『パワー・ウォール』!デッキから15枚のカードを墓地に送り、ダメージを0に!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ユーゴ 手札0→1

 

ムシケラを踏み潰すかのように、呆気なくベエルゼウスに倒される『幸運の笛吹き』。その姿を見てセクトは嘲笑い、ユーゴは彼が最後に託したカードに希望を見出だす。

 

「これでテメェの希望とやらは砕け散った。ざまぁねぇなぁ!ユーゴォ!」

 

「そいつぁ……どうかな?」

 

「スカしてんじゃねぇよ!ターンエンドだ!」

 

伊集院 セクト LP7500

フィールド『魔王超龍ベエルゼウス』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

引いたカードは、この窮地を脱出するには足り得ない。だが――ドクン、と。ユーゴの胸の奥から熱い何かが込み上げる。

 

「呼んでる……カードが俺を、呼んでる……!」

 

脳裏に浮かぶ、デッキに、フィールド、墓地に、手札に散りばめられたピース達。それらが一筋の方程式を編み出し――最後に、1枚の輝くカードを描き出す。真っ白で、何も描かれていないカード。それは徐々に鮮明になっていき――ユーゴのエクストラデッキに、光を灯らせる。

 

「ッ!これは――セクトと、同じ……!?」

 

「何だ……何だその光は……!?」

 

眩いばかりの輝きが、フィールドを照らし出す。絶望が、闇が、1枚のカード、ベエルゼの進化を促したように、今、希望の光が、1枚のカードの進化を促す。

 

「覚えてるか、セクト……」

 

「ッ、何を――」

 

「昔、一緒にさ、リンのデッキが後1枚で完成するってなって、俺達3人で、どこかにカードが落ちてないかって探そうとした事があったよな……」

 

「――え……?」

 

暖かい光に包まれ、ユーゴは語り出す。彼等はコモンズだ。カードを買うにしても、小遣いは少なく、拾ったカードでデッキを作る事も多々ある。彼等もその例外では無かっただけ。デュエルが好きで、デュエルがやりたくて、3人でカードを拾っていただけ。その記憶が――ユーゴには何よりも大切で。

 

「もう遅いからって言うアイツは心配してたけど、俺達はムキになって兎に角無我夢中に探して――そんで、見つけたんだ」

 

「……っあ――」

 

ボロボロと、擦り切れていたカード。それは2人で見つけ出して、彼女に渡した。すると、彼女は怒った顔から呆れ顔に、呆れ顔から花が咲いたような笑顔となり――3人が笑顔になった。

 

「その後遅くなってツァンや鬼柳に怒られたけど、リンのデッキが完成したって言ったら、皆笑って許してくれた。あのカードが、幸運を届けてくれたんだ。このカードが、俺達の絆をより強く、深くしてくれたんだ!俺は忘れない!あの時の事を、あの時の想いを!例え俺が何者になろうと、俺達は――!」

 

記憶を失っても、敵になっても、それでもユーゴは信じて我夢捨羅に突き進む。風を切って前を向く。馬鹿なユーゴには、それが精一杯だから。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体を回収、2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札1→3

 

「行くぞセクト!これが俺達の絆だ!魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地より蘇れ、『幸運の笛吹き』!」

 

幸運の笛吹き 攻撃力1500

 

現れたのは想い出のカード、皆に笑顔を、幸運を届けてくれた、懐かしい音色、今と昔を繋ぐ、絆のカードだ。

 

「そして墓地から『シャッフル・リボーン』を除外、『補給部隊』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札2→3

 

「魔法カード、『復活の福音』!並び立て、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

次はユーゴのエースカード、美しきミントグリーンの双翼を広げた白の竜。『幸運の笛吹き』の隣に並び、互いに視線を交わせ、頷き合う。ユーゴとリンのカード、互いに時に共に闘い、時にぶつかり合った長い仲だ、カード同士も喜んでいるように見える。

 

「魔法カード、『ハイ・スピード・リレベル』!墓地のパチンゴーカートを除外し、『クリアウィング』の攻撃力を2000アップし、レベルを4に変更!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→4500

 

「更に魔法カード、『ナチュラル・チューン』!通常モンスターである、『幸運の笛吹き』をチューナーにする!さぁ、バトルだ!『クリアウィング』で、ベエルゼウスへ攻撃!」

 

「チッ、たかだか500……!」

 

伊集院 セクト LP7500→7000

 

『クリアウィング』が2枚の翼を広げ、風を引き裂きベエルゼウスを貫く。まるで日本刀のような鋭い切れ味、胴体が切り裂かれ、別れようとしたベエルゼウスだが――ズルリと黒い血液が飛び出し、胴体を繋ぎ合わせ、傷が完全に塞がってしまう。不死の魔王竜、凄まじいカードだ。力を増した『クリアウィング』でさえ、一歩及ばない。

 

「ハッ、残念だったなぁ、結局ベエルゼウスを倒す事は出来ねぇんだよ!」

 

「そうかもな、だけど俺のバトルフェイズは、まだ終わっちゃいない!罠発動!『緊急同調』!バトルフェイズ中に、シンクロを行う!」

 

「ここでシンクロ召喚だと……!?」

 

そう、ここからが本番、ユーゴの全力全開、全身全霊を込めたプレイング。フィールドに存在するのは、レベル4となったシンクロモンスター、『クリアウィング』。レベル4のチューナー、『幸運の笛吹き』。ユーゴ、リン、セクト、3人の想いを乗せたカードが今、1つの光となる。

 

「レベル4の『クリアウィング』に、レベル4の『幸運の笛吹き』をチューニング!」

 

『幸運の笛吹き』が、優しくもどこか懐かしい旋律を笛で奏で出し、光輝くリングとなって『クリアウィング』の体躯を包み込む。儚くも美しい記憶の輝きは今、穢れなき純白の水晶となって――。ユーゴがエクストラデッキから、光を帯びた1枚のカードを引き抜き、デュエルディスクに叩きつける。

 

「神聖なる光蓄えし翼煌めかせ、その輝きで敵を撃て!シンクロ召喚!出でよ、『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』ッ!!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000

 

今、水晶の殻を砕き、1体の竜が蛹から羽化する。散り行く雪のように、水晶の欠片が美しき煌めきを会場中に降り注がせ、フィールドに舞い降りる。頭や胸、脚部等随所に水晶を散りばめ、特徴的なミントグリーンだった翼はクリスタルの鋭い刃のような翼へと変わり、青と白のカラーリングを強調した美しくも、雄々しい、ユーゴの新たな切り札。『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』が、聖誕した。

 

「『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』……だと……!?何だ、そのモンスターは!?『クリアウィング』の進化形態を生み出したって言うのか!?」

 

「今なら分かる……こいつは、俺達の記憶の結晶なんだ……昔の俺やリン、お前の想い出、そして今、遊矢とセレナ達との新たな記憶、未来へ繋ぐ為の、絆の結晶なんだ!セクトォ!俺達はこいつで、お前とベエルゼウスを、ぶっ倒す!」

 

「ッ!やれるもんならやってみろよ!決闘竜でも無い分際で、ベエルゼウスに勝てると思ってんじゃねぇぞぉ!」

 

「クリスタルウィングで、ベエルゼウスへ攻撃!」

 

「馬鹿が!ぶっ潰せ!蠅王殲滅覇軍!」

 

クリスタルウィングが翼を閃かせ、ベエルゼウスに向かって一直線に突き進む。迎え撃とうとベエルゼウスが磔になった女性より金切り声を上げ、双頭の竜のアギトから漆黒のブレスを放つ。攻撃力ではベエルゼウスが上、このままでは超過ダメージでユーゴの敗北となるが――。

 

「クリスタルウィングの効果!レベル5以上のモンスターと戦闘を行うダメージ計算時、その相手モンスターの攻撃力を、このカードに加える!」

 

「何だとッ!?」

 

「烈風の、クリスタロス・エッジ!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000→7000

 

伊集院 セクト LP7000→4000

 

突如クリスタルウィングの翼が光り、鏡面の如くベエルゼウスの姿を写し出してその力を自らのものとする。烈風を纏い、ベエルゼウスのブレスをモーゼを思わせる割断、勢いのままベエルゼウス本体を貫く流れ星と化す。

 

「ぐぅぅぅぅっ!?馬鹿な……そのカードは決闘竜に匹敵するって言うのか!?そんな筈無い……アリ得て良い訳が無い!」

 

「決闘竜だろうと何だろうと関係ねぇ!俺達の絆が、そんなヤワなものじゃねぇのは当然だろうが!」

 

「――ッ!舐めるなぁっ!そんなものに、俺が捨てたものに負けるかぁっ!」

 

ゴウッ、クリスタルウィングの攻撃で沈静化していたセクトのフィールが、爆発的に膨れ上がる。結局の所、まだベエルゼウスを倒せてはいない。彼を取り戻すには、ベエルゼウスを倒す他無い。

 

「なら来いよセクト!俺とお前の想い、どっちが強いかハッキリさせようぜ!ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー!負けるか……負けられるかぁっ!魔法カード、『暗黒界の取引』!手札を交換、ベエルゼウスの効果!クリスタルウィングの攻撃力を0に!例えこっちの攻撃力を加えようと、0になりゃあこっちが殴り勝つんだよ!」

 

「甘いぜ、クリスタルウィングの効果発動!モンスター効果の発動を無効にし、破壊……は出来ねぇがな……!」

 

「なっ――」

 

当然と言えば当然、このクリスタルウィングは『クリアウィング』の進化形態なのだ。対モンスター効果が存在してもおかしくはない。全てがベエルゼウスに有効な効果。このカードは、ベエルゼウスの天敵だ。

 

「チッ、カードをセット、ターンエンドだ……!」

 

伊集院 セクト LP4000

フィールド『魔王超竜ベエルゼウス』(攻撃表示)

『補給部隊』セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で金満な壺』!エクストラデッキから6体のモンスターを除外し、2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→2

 

「魔法カード、『ハーピィの羽帚』!お前の魔法、罠カードを全て破壊!そして『SRシェイブー・メラン』を召喚!」

 

SRシェイブー・メラン 攻撃力2000

 

「効果を発動し、クリスタルウィングの効果で破壊、攻撃力を吸収!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000→5000

 

「――ッ!」

 

これが、ユーゴのありったけの想い。いや、ユーゴだけではない。彼は、遊矢とセレナの想いも、鬼柳やリン、そしてセクトの想いまで乗せ、闘っているのだ。1人で歩む道を選んだセクトには――余りにも、眩しい光景、だけど、それでも――彼は、真っ向から来るユーゴから、逃げる事はしない。

 

「墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、ベエルゼウスの効果を無効、さぁ、バトル!『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』で、『魔王超竜ベエルゼウス』へ攻撃!」

 

「迎え撃て!『魔王超竜ベエルゼウス』!蠅王殲滅覇軍ッ!!」

 

互いの竜が雄々しき咆哮を天へと放ち、ユーゴのDーホイールから白く輝く光の翼が、セクトのDーホイールからはどす黒い闇の翼が伸び、モンスターとフィールが今、交差してぶつかり合う。

瞬間、彼等の脳裏にある光景が流れる。ユーゴとセクトの記憶の数々、あれはそう、とある大会にて、ユーゴとセクトが参加した時の事。ユーゴはプレイングミスを多発し、1回戦から敗退してしまったが、セクトは鬼柳との特訓で得た実力を発揮し、優勝まで漕ぎ着けたのだ。その時から、ユーゴは、セクトを目指すべきライバルとして、セクトを目標にして来た。ユーゴは1度たりともセクトを見下した事なんて無かったのだ。

 

「ッ、お前――!」

 

その想いは、セクトにも伝わって。

 

「見下せるかよ……だって、馬鹿な俺と違って、お前は強くて、優しい奴だったじゃねぇか……!俺はそんなお前に並べるように、必死だったんだ!」

 

ユーゴは、手を伸ばす。遥か高みにいる、ライバルに追いつこうと、必死で足掻き、直向きに飛翔して来た。セクトのライバルとして、恥じぬように。

 

「そう、か――!」

 

目を逸らしていたのは、自分の方、見上げていたのは、ユーゴも同じ。結局、誰も彼もが不器用だっただけで。

 

「今こそ届け!烈風の、クリスタロス・エッジィ!!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力5000→9000

 

伊集院 セクト LP4000→0

 

光輝く翼が、セクトの闇の切り裂く。決着、勝者、ユーゴ。

 

――――――

 

「セクト……」

 

試合が終わった後、担架で運ばれるセクトに向け、ユーゴは語りかける。が、セクトは全てが吹っ切れた表情で鼻を鳴らし――。

 

「よせよユーゴ。憐れみなんて、それこそいらねぇ。胸を張れ、お前は俺に、勝ったんだ」

 

「……おう」

 

「俺は取り敢えず――アニキに謝る所から、始めなきゃな……許してくれっかな……」

 

「アイツは許すさ、だけど、なんかそりゃあ――」

 

「あぁ、許されないより、許される方が、ずっと辛いだろうなぁ……」

 

クスリと笑い合う2人の少年。もう彼等は、親友ではなくなったのかもしれない。あれだけの事があったのだ。だけど、そうであっても、もう1度、友人からやり直せば良い。

 

「ッ、アリゃあ……」

 

するとセクトが上空を見上げ、何かを見つけたように目を開く。ユーゴもその視線に倣い、上空を見上げると、そこにあったのは、カイトによって上空を飛翔する、アカデミアからの使者、オベリスク・フォースの姿。これは一体――。

 

「あいつ等は……!」

 

「チッ、プラシドの野郎、そう言えばデュエルエナジーが充分に溜まってないとかいってたな……強行手段に出るつもりか……!」

 

このままではシティが戦場になってしまう。それだけは何としてでも避けねばならない。

 

「行け、ユーゴ!俺はこのままアニキ達にこの事を伝える!お前はお前のやりたいようにやれ!」

 

ボロボロの身体に檄を入れ、ユーゴへと喝を入れるセクトに対し、ユーゴは頷いてDーホイールに跨がり、遊矢達と共に、サーキットを駆け抜ける。

 

「負けるんじゃねぇぞ……!」

 

その背を、セクトは眩しそうに見つめていた――。




最近ミスってハマっていたソシャゲのデータを消す&パスワード忘れると言うコンボ食らい、意気消沈。
逆に時間が出来て小説の進み具合が上がったのですが。余裕が出来たらグリッドマンの続きでも書こうかなぁ……。

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