遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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第155話 アリえねぇ

フレンドシップカップ、2回戦第2試合、ついにラストホイーラー同士のデュエルが始まった。カードはスピード重視の高速連続シンクロ召喚で意外にテクニカルに攻めるユーゴと、以前の堅実なデュエルと違い、圧倒的な力を持ったエースに全てを任せてパワーで捩じ伏せにかかる伊集院 セクト。

 

ユーゴのフィールドに存在するのは、遊矢が残してくれた高スケールのペンデュラムカード、『涅槃の超魔導剣士』と、セレナが残した『月光狼』。モンスターゾーンには彼女が残した『月光蒼猫』と『月光狼』、『月光虎』。そして強力な切り札である『月光舞獅子姫』が存在するが――余り状況は良いとは言えない。

何故ならセクトのフィールドには、このカードとは相性が良いとは言えないエースモンスター、『魔王龍ベエルゼ』がいるからだ。戦闘、効果で破壊されず、受けたダメージを攻撃力へと変換する成長性を有したシンクロモンスター。面倒なカードだ。早く退場させなければと鋭い目でベエルゼを睨むユーゴ。

 

そんな彼等の対決を――評議会のモニター越しに、ジッと無言を貫き、見つめる少女が1人――記憶喪失となった、柊 柚子似の少女、リン。ユーゴの幼馴染みだ。正直今の彼女としてはユーゴに苦手意識しかないのだが、彼が見ろと言ったので仕方無く、そう、本当に仕方なくである。大切なカードを取られた事もあり、彼のデュエルを見届けなければならない。の、だが――。

 

「……ユーゴ……」

 

真剣な彼の表情を見て、彼女の頭の奥で、何かが目を覚まそうとしていた――。

 

――――――

 

一方、治安維持局にて、セルゲイが敗北してから目に見えて落ち込むロジェの背後で、モニターをジッと見つめる存在がいた。彼の上司、プラシドだ。彼はセクトのデュエルが始まってから、無言を貫き、目を離さずにモニターばかり見ている。その瞳に秘めた想いは、如何様なものか。

 

「……」

 

思えば、彼にベエルゼのカードを渡した、彼を唆したのはプラシドだったか。自身が彼の劣等心を利用している事に、何か思うところがあるのかもしれない。

 

「……」

 

だが、その瞳に滲むものは、それだけではなく――

 

――――――

 

「俺のターン!」

 

場所は再びサーキットに戻る。ターンはセレナが敗北した事で、強制的にユーゴのものへ。とは言ってもセレナが最後に発動した魔法カード、『死者への供物』の効果でドローフェイズはスキップされるが。フィールドに充分な戦力が存在している為、そこまで痛くはない。

 

「俺は『SR電々大公』を召喚!」

 

SR電々大公 攻撃力1000

 

現れたのは金髪をリーゼント風に固め、赤いマントを纏ったでんでん太鼓を持った貴族。レベル3のチューナーモンスターだ。どうやら早速得意のシンクロを披露するつもりらしい。

 

「さぁ、行くぜ!レベル4の『月光蒼猫』に、レベル3の『SR電々大公』をチューニング!その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!シンクロ召喚!『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

現れたのはユーゴの最も信頼するエースモンスター、ミントグリーンの双翼を広げ、青と白のカラーリングで身体を染めたドラゴンだ。互いに1ターン目からエースを呼び出す全開モード。2体の竜がフィールドで咆哮し、睨み合う。

 

「いきなり『クリアウィング』の登場か。焦ってるのか?ユーゴぉ」

 

「さぁな、俺は『月光狼』と『月光虎』を攻撃表示に変更!バトルだ!『月光虎』でベエルゼに攻撃!『涅槃の超魔導剣士』のペンデュラム効果発動!戦闘ダメージと破壊を防ぎ、ベエルゼの攻撃力を『月光虎』の攻撃力分、ダウン!」

 

魔王龍ベエルゼ 攻撃力3000→1800

 

「榊 遊矢の残したカードか……」

 

ベエルゼは破壊されない効果を持つが、無敵と言う訳ではない。遊矢とセレナの残したカードを使い、ベエルゼの攻撃力を下げにかかるユーゴ。

 

「『月光狼』でベエルゼに攻撃!」

 

「アクションマジック、『回避』!」

 

「なら『月光舞獅子姫』でベエルゼに攻撃!」

 

「チッ、ベエルゼの効果で受けたダメージを攻撃力に加える!」

 

伊集院 セクト LP4000→2300

 

魔王龍ベエルゼ 攻撃力1800→3500

 

とは言え与えたダメージが直ぐ様元に戻り、より強力となってベエルゼが吠える。これで再び手を出せなくなってしまったが――ユーゴにも考えがある。

 

「この瞬間、舞獅子姫の効果発動!ベエルゼは破壊出来ねぇが――本命はこっちだ!『クリアウィング』の効果で無効にして破壊!攻撃力を『クリアウィング』に加える!ダイクロイックミラー!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→6000

 

攻撃して舞獅子姫が自身の役目は終えたとばかりに光の粒子となって消え、『クリアウィング』に力を与える。これこそがユーゴの狙い。遊矢とセレナが託してくれたカードを駆使し、セクトの強力なモンスターを打ち砕く。

 

「何だと……っ!?」

 

「見たかセクト!これが俺達の力だ!行け、『クリアウィング』!ベエルゼに攻撃ィ!旋風の、ヘルダイブスラッシャーッ!!」

 

『クリアウィング』の翼が光輝き、自身を弾丸の如く撃ち出し、ベエルゼに迫る。魂を乗せた全力の一撃、『クリアウィング』の鋭い刃のような翼が今、ベエルゼを切り裂く――その、瞬間。

 

「何てなぁ!甘いんだよ、ツメがよぉ!罠発動!『ガード・ブロック』!戦闘ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

伊集院 セクト 手札1→2

 

「何っ!?」

 

セクトの嘲笑が、ユーゴの戦略を真っ向から打ち砕く。赤黒の竜の口元が吊り上がり、『クリアウィング』の翼に噛みつき、天空へと投げて遠ざける。そう、セクトは最初からユーゴの策を見抜いていたのだ。

 

「俺が気づかねぇと思ったか?アリえねぇんだよ、そんな事はぁ!テメェの薄っぺらい策なんざ、羽虫も当然なんだよ!」

 

「ぐっ!」

 

「むざむざ舞獅子姫まで失ってぇ、ご苦労様だなぁ、ユーゴぉ!」

 

彼の言う通り、これでユーゴは切り札級のモンスターである舞獅子姫を失ってしまった。ベエルゼと相性が悪いとは言え、かなり手痛い。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ……!」

 

ユーゴ LP4000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『月光狼』(攻撃表示)『月光虎』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『涅槃の超魔導剣士』『月光狼』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!さぁてバトルだ!ベエルゼで『クリアウィング』へ攻撃ィ!力の差を思い知らせてやれ!」

 

「永続罠、『追走の翼』!『クリアウィング』は戦闘、効果で破壊されない!」

 

「だがもう1つの効果であるレベル5以上のモンスターとの戦闘開始時、こちらのモンスターを破壊する効果はベエルゼには通じない!ベエルゼの真似事か?当然劣るがなぁ!」

 

ユーゴ LP4000→3000

 

「ぐっあ――!」

 

「カードを2枚セット、ターンエンドぉ!精々楽しませてくれよぉ?」

 

伊集院 セクト LP2300

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!『SRシェイブー・メラン』を召喚!」

 

SRシェイブー・メラン 攻撃力2000

 

ジャキン、ユーゴがデュエルディスクに叩きつけると同時にクルクルとブーメランが回転し、宙で変形してロボットのような形状となる。レベル4にして攻撃力2000と高めだが、当然デメリットは存在する。

 

「シェイブー・メランを守備表示に変更し、『クリアウィング』の攻撃力を800ダウン!『クリアウィング』の効果で無効にし、攻撃力をこのカードに加える!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→4500

 

「バトルだ!『月光狼』で攻撃!『涅槃の超魔導剣士』のペンデュラム効果発動!」

 

「罠発動!『奇策』!手札の『地獄大百足』を捨て、その攻撃力2600分、『月光虎』の攻撃力をダウンする!」

 

「っ!」

 

月光虎 攻撃力2000→0

 

「ペンデュラムモンスターの攻撃力が0なら、変動値も0!言っただろう、お見通しなんだよ、テメェの考え位!さぁ、どうするぅ?」

 

「なら、『月光虎』で!」

 

「アクションマジック、『透明』ぃ!これでベエルゼは効果を受けないぜ。危ねぇ危ねぇ。次は何だ?その攻撃力の上がった『クリアウィング』でベエルゼに攻撃するか?」

 

「ぬっ、ぐ――する……!してやるよぉ!『クリアウィング』で、ベエルゼに攻撃!」

 

「そう来なくっちゃなぁ、このダメージ、ありがたく攻撃力に変換させてもらうぜぇっ!クロス・フィール!」

 

伊集院 セクト LP2300→1300

 

魔王龍ベエルゼ 攻撃力3500→4500

 

ゾゾォッ、ベエルゼに闇の瘴気が発生し、筋肉が膨張、ミシミシと音を立てながら成長する。ダメージを与えなくては勝てないが、与えれば攻撃力が上がるジレンマ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP3000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『月光狼』(攻撃表示)『月光虎』(攻撃表示)

『追走の翼』セット2

Pゾーン『涅槃の超魔導剣士』『月光狼』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!罠発動!『地獄召喚』!墓地から『地獄大百足』を蘇生する!」

 

地獄大百足 攻撃力2600

 

フィールドに這い出したのは赤黒の巨大なムカデ。カサカサと脚を蠢かせ、ベエルゼの隣に並び立つ。『クリアウィング』の攻撃力を超えるモンスターが2体、これは少々不味いか。

 

「バトル!ベエルゼで『月光虎』へ攻撃!」

 

「罠発動!『仁王立ち』!『クリアウィング』の守備力を倍にし、除外、攻撃を絞る!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 守備力2000→4000

 

「チッ、ならそいつに攻撃変更!」

 

ユーゴ LP3000→1000

 

「ぐぅぅぅぅっ!?」

 

圧倒的なフィールの嵐がユーゴに降り注ぎ、苦悶の声を上げる。破壊こそされないが、度重なる猛攻を受け、『クリアウィング』の姿が傷だらけとなっていく。額は少々砕け、翼はガラスのようにひびが走った痛々しい姿。あの頼もしいユーゴのエースが嘘のような有り様だ。これが決闘竜の力、このベエルゼが放つフィールは鬼柳の持つ『煉獄竜オーガ・ドラグーン』をも凌いでいる。

 

「格下の三竜如きが勝とうなんざ、百年早いぜ!魔法カード、『七星の宝札』!『地獄大百足』を除外し、2枚ドロー!」

 

伊集院 セクト 手札0→2

 

「ターンエンドだ」

 

伊集院 セクト LP2300

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

手札2

 

「俺のターン、ドロー!クッ……カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『月光狼』(攻撃表示)『月光虎』(攻撃表示)

『追走の翼』セット2

Pゾーン『涅槃の超魔導剣士』『月光狼』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』!手札を交換、魔法カード、『ハーピィの羽帚』!お前の魔法、罠カードを全て破壊!」

 

「罠発動!『進入禁止!NoEntry!!』フィールドの攻撃表示で存在するモンスターを全て守備表示に変更!」

 

「ならベエルゼを攻撃表示に!『クリアウィング』へ攻撃ィ!」

 

「ぐあっ――!」

 

ここで漸く、ベエルゼの猛攻を前にして、『クリアウィング』が膝をつき、粉砕される。防戦一方、このままでは間違いなくジリ貧だと言うのに、――頼みのエースも倒された。

 

「どこまでもつか見物だなぁ?カードをセット、ターンエンド!」

 

伊集院 セクト LP2300

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「くっそ……俺のターン、ドロー!」

 

それでもユーゴは諦めない。諦める訳にはいかないのだ。ここで諦める事は許さない。誰よりも、ユーゴが。遊矢がセルゲイの絶対的な力に抗った。セレナが傷つきながらも227を倒した。鬼柳がボロボロになっても、セクトを救おうとした。

 

「だから俺は、諦めねぇ!2体のモンスターをリリース、アドバンス召喚!『SRビードロ・ドクロ』!」

 

SRビードロ・ドクロ 攻撃力0

 

現れたのはこの窮地を脱する事が出来るモンスター。髑髏と列車が合体したかのようなモンスターだ。高レベルにも関わらず、低い攻撃力と高い守備力、それだけ聞けば守備固めに向いたモンスターとも言えるが――このカードは極めて攻撃的でもある。このカードの登場にセクトも露骨な顔で舌打ちを鳴らす。

 

「そいつか……」

 

「バトルだ!ビードロ・ドクロでベエルゼに攻撃!こいつとの戦闘で発生するダメージは、相手が受ける!」

 

「確かに、ベエルゼに対抗するには打ってつけのモンスターだ。だが甘いんだよ!俺がそいつの事を忘れてると思ったか!罠発動!『次元幽閉』!攻撃モンスターを除外!」

 

「ぬぐっ――!」

 

だがこれでもセクトへは届かない。ユーゴの戦術を知り尽くしているのだろう。ニヤリと見透かした笑みを浮かべ、リバースカードで攻撃を防ぐ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ……!」

 

ユーゴ LP1000

フィールド

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ!ベエルゼでダイレクトアタック!」

 

「アクションマジック、『回避』ィ!」

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドォ!」

 

伊集院 セクト LP2300

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!まだ終わってねぇんだよ!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→3

 

ここで3枚の手札補充、ベエルゼを打ち倒すとなれば多くの手数が必要となる。このドローで対策カードを引き込めれば良いのだが――。

 

「これなら……!モンスターをセット、永続魔法、『補給部隊』を発動し、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP1000

セットモンスター

『補充部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『強制脱出装置』!ベエルゼをバウンスする!」

 

「破壊が出来ねぇからそれ以外の除去を狙おうって魂胆か。確かに有効だが……お前、この期に及んでまだ俺を舐めてんのか?」

 

「ッ!」

 

「自分のカードの弱点位、知らねぇ訳無いだろうが!カウンター罠、『ギャクタン』!その発動を無効にし、デッキに戻す!」

 

ダメージの押しつけにバウンス、破壊耐性をすり抜けての除去を狙うユーゴだが、尽く邪魔され、上手くいかない。ベエルゼだけではない。ベエルゼを使うセクトの実力も高いのだ。

 

「魔法カード、『マジカル・スカイ・ミラー』!テメェがさっきのターン使った『命削りの宝札』の効果を使う!3枚ドロー!」

 

伊集院 セクト 手札0→3

 

「バトル!ベエルゼでセットモンスターを攻撃ィ!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ユーゴ 手札0→1

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ。ベエルゼこそが最強無敵!テメェみたいなムシケラがどう足掻こうったって手も足も出ねぇんだよ!大人しくサレンダーでもするんだな!」

 

伊集院 セクト LP2300

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

セット3

手札0

 

「この野郎……俺のターン、ドロー!魔法カード、『復活の福音』!墓地のレベル7、8のドラゴン族モンスターを蘇生する!来い!『クリアウィング』!!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

再びユーゴのフィールドに『クリアウィング』が飛翔し、雄々しい咆哮を放って自らの存在を誇示する。対モンスターモンスターと言える『クリアウィング』ではあるが、現状ベエルゼに対しては無力だ。破壊されず、攻撃すればする程攻撃力が上がり、成長していくベエルゼ。対して『クリアウィング』は同じく攻撃力アップの効果はあるが、あくまで一時のもの。永続的に上がるベエルゼにはどうしても一歩届かない。

 

「今更『クリアウィング』か。確かにそいつは強力だが……俺様のベエルゼに比べれば羽虫も同然!いい加減気づけよ!テメェが俺より格下って事になぁ!」

 

「言ってくれるぜ……!魔法カード、『スピードリバース』!墓地のシェイブー・メランを蘇生!」

 

SRシェイブー・メラン 攻撃力2000

 

「効果発動!守備表示に変更し、ベエルゼの攻撃力を800ダウン!『クリアウィング』の効果で無効に!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→4500

 

「バトルだ!『クリアウィング』でベエルゼに攻撃!この瞬間、罠発動!『ブレイクスルー・スキル』!ベエルゼの効果を無効に!」

 

「甘いっつってんだよ!ムシズが走るぜ!罠発動!『イタクァの暴風』!テメェのモンスターの表示形式を変更!」

 

「これでも届かねぇっつーのか……!?」

 

「何しても無駄だって事だ!」

 

多くのカードを駆使して狙う逆転も、たった1枚のカードで封じられる。手札が足りない、打点が足りない、足りないものだらけ。だがそんなもの――。

 

「コモンズなら当たり前だっつーの……!ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(守備表示)

『補給部隊』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!罠発動!『貪欲な瓶』!墓地の『手札抹殺』、『地縛救魂』、『命削りの宝札』、『死者蘇生』、『ハーピィの羽帚』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

伊集院 セクト 手札1→2

 

「墓地の『地獄毒蛾』2体を除外し、『デビルドーザー』を特殊召喚!」

 

デビルドーザー 攻撃力2800

 

現れたのは昆虫族モンスターの代表格、ピンク色の巨体を持った大百足のモンスターだ。その巨大さは『地獄大百足』に退けを取らず、地鳴らしのような音を轟かせながら地面より出現し、セクトのDーホイールに並走する。

 

「バトルに入るぜ!『デビルドーザー』で『クリアウィング』へ攻撃ィ!」

 

「墓地の『復活の福音』を除外し、破壊を防ぐ!」

 

「まぁそうするしかねぇよなぁ!だがそれは1度だけ!やれ、ベエルゼ!光栄に思えよ、このカードの贄となる事を!」

 

「まだだ!墓地の『SR三つ目のダイス』を除外し、攻撃を無効に!」

 

ベエルゼが待っていたとばかりに双頭の竜のアギトから舌を覗かせ、ペロリと舌舐めずりをした後、『クリアウィング』へと襲いかかる。しかしユーゴも負けていない。墓地から三角錐のサイコロを呼び出し、3つの面で別れてそれぞれ空中を飛翔、三角形のバリアを作り出し、ベエルゼから『クリアウィング』を守った。

 

「往生際の悪い……ターンエンドだ!」

 

伊集院 セクト LP2300

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)『デビルドーザー』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!カードを1枚セット、ターンエンドだ……!」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!手も足も出ませんってかぁ!?バトルだ!『デビルドーザー』で『クリアウィング』へ攻撃!」

 

「罠発動!『強制終了』!『補給部隊』を墓地に送り、バトルフェイズを終了する!」

 

「あぁん?無駄な事を……諦めちまえば苦しまずに済むってのによぉ!カードを1枚セット、ターンエンド!」

 

伊集院 セクト LP2300

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)『デビルドーザー』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『強制終了』をコストに2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→2

 

「良し……これなら……俺は墓地の『スピードリバース』を除外、同じく墓地の『SRシェイブー・メラン』を手札に加える!そして召喚!」

 

SRシェイブー・メラン 攻撃力2000

 

「懲りねぇ奴だ……今度は墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外して相撃ち狙いかぁ?」

 

「どうかな?シェイブー・メランの効果を使い、『クリアウィング』で無効!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→4500

 

「馬鹿の1つ覚えが……!」

 

「更に魔法カード、『ハイ・スピード・リレベル』!墓地から『SRシェイブー・メラン』を除外し、『クリアウィング』の攻撃力を、除外したモンスターのレベル×500アップし、同じレベルにする!」

 

「何ッ!?」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力4500→6500 レベル7→4

 

「バトルだ!『クリアウィング』で『デビルドーザー』に攻撃ィ!」

 

「ッ、罠発動!『デストラクト・ポーション』!『デビルドーザー』を破壊し、攻撃力分、LPを回復!」

 

伊集院 セクト LP2300→5100

 

「なら攻撃変更!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、ベエルゼの効果を無効に!行け、『クリアウィング』!」

 

「アリえねぇ……!」

 

『クリアウィング』の双翼が光を帯び、風を纏って一直線にベエルゼへと突き進む。白き閃光はベエルゼの双頭と激突し、打ち砕いて破壊。ベエルゼが悲鳴を上げて焦げ崩れる。

 

伊集院 セクト LP5100→3100

 

ベエルゼ、撃破――。しかしこの瞬間、セクトの肩が震え、ギリィッ、と歯軋りが鳴り響く。

 

「……ソが……!」

 

「?」

 

ズズズ、と不気味に広がり、霧散を繰り返す闇の瘴気、明らかに狼狽しているセクトを見て、ユーゴが彼の表情を覗き込む。もしや元通りの彼に戻ったのかと推測するが――。

 

「クソが、クソが、クソが、クソがぁぁぁぁぁッ!!ムシケラの分際で、俺を、俺を見下してんじゃねぇぇぇぇっ!!」

 

「ッ!?」

 

ゴォッ、今までにない闇のフィールが、彼を中心として吹き荒れ、突風がユーゴのDーホイールをあおる。強烈な衝撃、何とか体勢を正すも、彼を覆う瘴気が巨大過ぎて、近づく事もままならない。一体何が起こっているのか、いきなり豹変したセクトは怨嗟の籠った表情でドスの効いた罵声を放ちまくる。

 

「お前等は何時もそうだ!守ってやるとあたかも自分の方が上であるように俺を見下す!俺を守るべき弱者だと哀れんでいるんだ!どれ程強くなろうと、対等に近づこうとしようと、お前達は俺を認めない!ムシズが走るぜ……!俺を見ろ!俺を認めろ!俺はお前達の下にはいない!」

 

「セクト……!」

 

会場に響き渡る、セクトの悲痛なる魂の叫び。これがセクトの本音。あの時も、こんな事を想っていたのかとユーゴの胸がズキズキと痛む。彼がこうなってしまったのは、自分のせいなのかと。

 

「ッ!その眼で俺を見るなぁっ!その哀れみの籠った眼で、その見下した眼で俺を見るなぁっ!クソクソクソクソォ!ふざけやがって!俺は強い、強いんだ!認めさせてやる……この、力で!」

 

「上等だ……こうなったらお前ととことん向き合ってやる……お前をぶっ倒す!この俺の、全てを賭けて!」

 

胸の奥で染みのように広がる痛みを拭い、彼は親友である伊集院 セクトと向き合う事を覚悟する。彼の抱える闇は、ちっぽけなものかもしれない、大きなものかもしれない。だけど――どんなものであれ、ユーゴは彼を見ると決めた。彼ととことんぶつかり合うと決めた。これは最早、ただの喧嘩だ。互いの全てをぶつけ合う、信念を賭けたデュエル。

 

「俺を認めねぇなら、誰であろうとぶっ潰してやる!」

 

セクトもまた、強大な闇を纏い、血走った眼でユーゴを睨み、地獄の底から響くような声音を放ち、ユーゴに確かな敵意を示す。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド」

 

「罠発動!『奇跡の残照』!このターン戦闘破壊され、墓地に送られたモンスター1体を蘇生する!再びフィールドに顕現せよ!見下せ、『魔王龍ベエルゼ』ェッ!!」

 

魔王龍ベエルゼ 攻撃力3000

 

ユーゴ LP1000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

やっとの思いで倒したにも関わらず、再びフィールドに現れ、セクトを闇の呪縛に捕らえるベエルゼ。向かい合う2人のDーホイーラーと、白と黒の対照的な竜。激闘は、更に加速する――。


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