遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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第152話 美しい

長期に渡る遊矢とセルゲイのアクションライディングデュエル。現在は一方的なセルゲイの優勢、LPは1万台、フィールドには相手のバトルフェイズを封じ、守備力の半分のダメージを与える『地縛神ChacuChallua』が圧倒的な存在感を放っている。しかもこのカードは攻撃対象にならない効果付き。加えて魔法、罠カードには遊矢の攻撃をダイレクトアタックに変える『アストラルバリア』、1000ポイントのダメージにつき1枚ドローする『補充部隊』、ドローの度に500ポイント回復する『神の恵み』と3枚のカードが流れを作っている。

少しのダメージを与えても手札を与えるだけではLPは戻ってしまう。一方の遊矢は5体のモンスターが揃ってこそいるが、対抗出来るカードはない。このドローで変えられるかが鍵だ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

『来たか……!』

 

「魔法カード、『金満な壺』!墓地の『EMペンデュラム・マジシャン』、『EMドクロバット・ジョーカー』、『EMオッドアイズ・ミノタウルス』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「そして魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』!エクストラデッキに表側表示のペンデュラムモンスターが3体以上存在する事で2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

「魔法カード、『ペンデュラム・ストーム』!ペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、『アストラルバリア』を破壊!」

 

「ッ!」

 

『まだ行くぞ!『EMシール・イール』をセッティング!ペンデュラム効果により、ChacuChalluaの効果を無効!』

 

「む……!」

 

『これでバトルフェイズは解放されたぞ……!』

 

ニヤリ、金色の眼の主が不敵な笑みを浮かべ、邪神を無力化する。これでバトルフェイズ封じ、攻撃対象にならない効果、ダイレクトアタックに逃げる事の3つの回避を封じた。

 

「『降竜の魔術師』の効果でこのカードをドラゴン族に変更!」

 

降竜の魔術師 攻撃力2400→2900

 

「バトル!『オッドアイズ』でChacuChalluaへ攻撃!」

 

『螺旋のストライク・バーストッ!』

 

『オッドアイズ』のアギトより、渦巻く火炎が放たれ、鯱の『地縛神』を破壊する。

 

「希望は見えた!『降竜の魔術師』でダイレクトアタック!」

 

「アクションマジック、『アンコール』!墓地の『大脱出』を発動!」

 

「インコーラスを守備表示に変更、カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP1800

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EM小判竜』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)『降竜の魔術師』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMシール・イール』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP12300→12800

 

「罠発動!『貪欲な瓶』墓地のカードを5枚デッキに戻し、1枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP12800→13300 手札2→3

 

「魔法カード、『取捨蘇生』を発動!」

 

「Asllapiscuを選択する……!」

 

地縛神Asllapiscu 攻撃力2500

 

「バトル!Asllapiscuでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『フローラル・シールド』!攻撃を無効にし、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「くっ、ターンエンドだ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP13300

フィールド『地縛神Asllapiscu』(攻撃表示)

『補充部隊』『冥界の宝札』『神の恵み』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』!手札を全て捨て、この分だけドローする!シール・イールの効果でAsllapiscuを無効化!更に魔法カード、『一時休戦』!互いに1枚ドローし、次のターン終了時までダメージを0に!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP13300→13800 手札2→3

 

「『降竜の魔術師』の効果で自身をドラゴン化!」

 

降竜の魔術師 攻撃力2400→2900

 

「インコーラスを攻撃表示に変更、バトルだ!インコーラスで自爆特攻!」

 

「アクションマジック、『回避』ぃ!」

 

『『オッドアイズ』でAsllapiscuへ攻撃!』

 

「ぐうっ、相手モンスターを全て破壊!」

 

『だが小判竜の効果でこのカード以外のドラゴンは守られる!』

 

2体目の『地縛神』、撃破。圧倒的な勢いで見事窮地を突破した。諦めない想いが、彼をグングンと加速させる。こんな馬鹿な事がと、セルゲイが目を見開く。

 

「お前、勝っていたのにって思っただろ」

 

「!」

 

『デュエルは最後まで、何が起こるか分からない。可能性は決して、0ではない!』

 

セルゲイの隣に並走する遊矢が、彼に言葉を投げ掛ける。それはくしくも、彼の台詞と似た言葉だ。

 

「ぐぅぅぅぅぅっ!」

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP1800

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『降竜の魔術師』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMシール・イール』

手札0

 

「俺のっ、俺のターン、ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP13800→14300

 

「『地縛囚人ストーン・スィーパー』を特殊召喚!」

 

地縛囚人ストーン・スィーパー 攻撃力1600

 

「更に、『地縛囚人ライン・ウォーカー』を召喚!」

 

地縛囚人ライン・ウォーカー 攻撃力800

 

「魔法カード、『異界共鳴ーシンクロ・フュージョン』を発動!」

 

再び発動されるセルゲイのキーカード。融合とシンクロを同時に行うこのカードはとても強力だ。

 

「レベル5のストーン・スィーパーに、レベル3のライン・ウォーカーをチューニング!シンクロ召喚!『地縛戒隷ジオグリフォン』!」

 

地縛戒隷ジオグリフォン 攻撃力2500

 

「ストーン・スィーパーとライン・ウォーカーで融合!融合召喚!『地縛戒隷ジオクラーケン』!」

 

地縛戒隷ジオクラーケン 攻撃力2800

 

揃う2体の『地縛』モンスター。特にこの2体は強力だ。攻撃力もさる事ながら、ジオクラーケンの破壊とバーンに、ジオグリフォンの破壊効果は厄介過ぎる。

 

「バトルぅ!ジオクラーケンで『オッドアイズ』へ攻撃!」

 

『ぐっ、おのれぇっ……!貴様もむざむざこんな変態に『オッドアイズ』を破壊されるんじゃない!』

 

「ジオグリフォンで降竜へ攻撃!」

 

「くっ!」

 

今度は遊矢のモンスターが全滅、『一時休戦』でダメージを受けないのがせめてもの救いか。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP14300

フィールド『地縛戒隷ジオグリフォン』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオクラーケン』(攻撃表示)

『補充部隊』『冥界の宝札』『神の恵み』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!罠発動!『貪欲な瓶』!墓地の『覚醒の魔導剣士』、『アメイジング・ペンデュラム』、『手札抹殺』、『威嚇する咆哮』、『フローラル・シールド』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「カードを2枚セット、魔法カード、『命削りの宝札』を発動!3枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→3

 

「『EMオッドアイズ・ユニコーン』をセッティング、カードを1枚セット、ターンエンドだ!『命削りの宝札』のデメリットで手札を捨てる」

 

榊 遊矢 LP1800

フィールド

セット3

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMシール・イール』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP14300→14800

 

「カードを1枚セット、バトル!ジオクラーケンでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『EMショーダウン』!俺のフィールドの表側表示の魔法カードの数まで、相手モンスターを裏側守備表示に変更!当然ジオクラーケンとジオグリフォンを選択!」

 

「永続罠、『闇次元の解放』!来い、『地縛神ChacuChallua』!」

 

地縛神ChacuChallua 攻撃力2900

 

「また……!」

 

「ダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『パワー・ウォール』!デッキトップから6枚のカードを墓地に送り、ダメージを0に!」

 

「ジオグリフォンを反転召喚、ターンエンド……!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP14800

フィールド『地縛神ChacuChallua』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオグリフォン』(攻撃表示)セットモンスター

『補給部隊』『冥界の宝札』『神の恵み』『闇次元の解放』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『EMフレンドンキー』、『EMウィップ・バイパー』、『EMラディッシュ・ホース』、『慧眼の魔術師』、『カードガンナー』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

『ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『降竜の魔術師』!『相克の魔術師』!『EMレ・ベルマン』!『EM小判竜』!』

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→3000

 

EMレ・ベルマン 守備力2300

 

EM小判竜 攻撃力1800

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

カードの声が、聞こえる。自分を呼べと、遊矢の進むルートへと、光を差す。考える前に、答えを掴み取っていく。

 

「魔法カード、『置換融合』!フィールドの降竜と小判竜で融合!融合召喚!『EMガトリングール』!」

 

EMガトリングール 攻撃力2900

 

「融合召喚時、フィールドのカード×200のダメージを与える!15枚×200、3000のダメージだ!」

 

「罠発動!『レインボー・ライフ』!手札のアクションカードを捨て、ダメージを回復に!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP14800→17800

 

『くっ――モンスター破壊効果は使わない……だがまだ手はあるさ!墓地の『置換融合』を除外、ビーストアイズをエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!』

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「更に、永続罠、『闇次元の解放』!除外されている『調律の魔術師』を呼び出す!」

 

調律の魔術師 守備力0

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP17800→18200

 

榊 遊矢 LP1800→1400

 

「お次はシンクロだ!レベル7の『相克の魔術師』に、レベル1の『調律の魔術師』をチューニング!シンクロ召喚!『覚醒の魔導剣士』!」

 

覚醒の魔導剣士 攻撃力2500

 

ペンデュラム、融合、更にシンクロ。セルゲイのお株を奪うような連続召喚が披露される。とんでもない腕前だ。だが本番はここから。カードの声に耳を傾け、遊矢のデュエルは更に進化を遂げる。

 

「シンクロ召喚時、墓地の『一時休戦』を回収し、発動!互いに1枚ドローし、次のターン終了までダメージを0に!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP18200→18700 手札0→1

 

「魔法カード、『波動共鳴』!『覚醒の魔導剣士』のレベルを4に変更!」

 

覚醒の魔導剣士 レベル8→4

 

『どうやら、条件は揃ったようだな』

 

ニヤリ、遊矢は口端を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべる。カードの声に導かれる。エクストラデッキが光輝き、早く自身を呼べと語り掛ける。さぁ、ニューフェイスのお披露目だ。

 

「俺はレベル4の『覚醒の魔導剣士』に、レベル6の『EMレ・ベルマン』をチューニング!」

 

「チューナー無しのシンクロ召喚……ッ!?」

 

チューナー無し、シンクロモンスターとペンデュラムモンスターを使用した、彼等の次元を繋げるような特異な召喚法。誰もが新しいシンクロの形を見て驚愕し、期待に目を輝かせる。

 

「平穏なる時の彼方から、あまねく世界に光を放ち、蘇れ!シンクロ召喚!現れろ、『涅槃の超魔導剣士』!」

 

涅槃の超魔導剣士 攻撃力3300

 

神々しい程の光を纏い、現れたのは遊矢の新たなるモンスター。青の兜と法衣に銀の鎧、右手に魔剣を握った、魔導剣士の進化形態。シンクロペンデュラムモンスター。シンクロ次元のデュエリストを模倣する、スタンダード次元のデュエリスト――遊矢に相応しいモンスターが今、フィールドに生み出された――。

 

「シンクロ……ペンデュラム……!?」

 

『誇れようすのろ、これはお前の想いが生んだモンスターだ』

 

「俺の想い……ははっ!ペンデュラム召喚したペンデュラムモンスターをチューナーとして、シンクロ召喚に成功した事で、『涅槃の超魔導剣士』の効果発動!墓地のカード1枚を回収する!俺が選ぶのは、『EMカレイドスコーピオン』!『オッドアイズ』をリリースし、アドバンス召喚!」

 

EMカレイドスコーピオン 攻撃力100

 

現れたのは万華鏡の尾を持つ蠍のモンスター。攻撃面では何時も遊矢を支えてきたモンスターだ。

 

「効果発動!『涅槃の超魔導剣士』は特殊召喚された相手モンスター全てに攻撃可能となる!そしてシール・イールのペンデュラム効果でChacuChalluaの効果を無効!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外、ジオグリフォンの効果も無効!バトル!『涅槃の超魔導剣士』でChacuChalluaへ攻撃!トゥルース・スカーヴァティ!」

 

涅槃の超魔導剣士が光を帯びた剣を煌めかせ、シャチの地縛神を切り伏せる。刃こぼれを残さない見事な剣技だ。

 

「『涅槃の超魔導剣士』が相手モンスターを破壊した事で、相手のLPを半分にする!」

 

「何――ッ!?」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP18700→9350

 

ダメージではなく、LPを半分にする、LP変動効果。セルゲイの『レインボー・ライフ』も、遊矢の『一時休戦』の効果もすり抜ける強力な効果だ。しかも――この効果に、ターン制限はない。カレイドスコーピオンの効果を受けた今、更にこの効果は光輝く。

 

『これはダメージではない……『レインボー・ライフ』も、『補充部隊』も、『一時休戦』さえも妨げられない!さぁ、バトルはまだ続くぞ!』

 

「罠発動!『早すぎた復活』!墓地より『地縛神Asllapiscu』を蘇生する!」

 

地縛神Asllapiscu 攻撃力2500

 

「成程、そう来たか、だけど――」

 

『止まらんよ!速攻魔法、『禁じられた聖杯』!Asllapiscuの効果を無効!』

 

地縛神Asllapiscu 攻撃力2500→2900

 

「『涅槃の超魔導剣士』で、Asllapiscuへ攻撃!』

 

「Asllapiscuの効果でお前のモンスターを破壊ィ!」

 

「させない!アクションマジック、『ミラー・バリア』!『涅槃の超魔導剣士』の破壊を防ぐ!更に――」

 

『LPを半減だ。貴様如きの策略に、踊らされる俺ではないわっ!』

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP9350→4675

 

「ぐぅうううううっ……!」

 

快進撃は止まらない。続けざまに遊矢が指示を出し、ハチドリの『地縛神』も真っ二つに切り裂かれる。

 

「まだまだぁっ!ジオクラーケンへ攻撃!LPを半減!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4675→2338

 

『ジオグリフォンへ攻撃!LPを半減!』

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP2338→1169

 

「ぐうっ、ぐぅぅぅぅっ……!」

 

LP半減を繰り返し、18700から、1169まで削った。中々見ない数値だ。『補充部隊』の効果も発動させず、ダメージも与えられないこの状況での大立回り。とんでもない戦術だ。僅かな、地獄に垂れたか細い糸のような希望から、手繰り寄せ、光差す道へと繋いで見せた。これこそが榊 遊矢の本領発揮。エンタメデュエル――。

 

「ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP1400

フィールド『涅槃の超魔導剣士』(攻撃表示)

『闇次元の解放』

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMシール・イール』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1169→1669

 

「まだだ……!まだデュエルは終わってない!終わらせるかぁっ!こんな気持ちイイ事を!もっともっとお前を晒け出してくれっ!傷つけ合って、傷を舐め合おう!速攻魔法、『ツイン・ツイスター』!手札を1枚捨て、ペンデュラムを破壊!そして墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『冥界の宝札』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1669→2169 手札0→1

 

「魔法カード、『ミラクルシンクロフュージョン』!墓地のジオグレムリンとジオグレムリーナを除外し、融合する!地を司る悪魔よ、大地を掴む悪魔よ今雌雄一つとなりて大いなる大地の底より来たれ融合召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス』!!」

 

地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス 攻撃力3000

 

シンクロモンスターと融合モンスター、青と黄、雌雄の悪魔が1つとなって、最強の悪魔を産み落とす。巨大な双翼を広げ、『地縛原』の天空を飛翔したるは、オレンジ色に輝くラインを黒い体躯に走らせ、山羊のように捻れた角を伸ばし、3本の尾を振るう大悪魔。翡翠の眼を細め、『涅槃の超魔導剣士』を睨む。これこそがセルゲイ・ヴォルコフの本来の切り札。『地縛神』にも匹敵する融合モンスターだ。

 

「バトルだ!ジオグラシャ=ラボラスで『涅槃の超魔導剣士』へ攻撃!このカードが融合、またはシンクロモンスターと戦闘を行う場合、その相手モンスターの攻撃力を0にする!」

 

涅槃の超魔導剣士 攻撃力3300→0

 

ジオグラシャ=ラボラスと超魔導剣士が天空でぶつかり、火花を散らす。互いの切り札級のモンスターが激闘を繰り広げる。剣を振るう超魔導剣士に対し、悪魔は剣を掴み、もう片方の腕を振るい、鋭い爪で切り裂く。折角出した新たなモンスターが倒されてしまったが――このモンスターはシンクロペンデュラムモンスター。活躍はむしろここからが本番だ。

 

「『涅槃の超魔導剣士』がモンスターゾーンで戦闘、効果破壊された場合、このカードをペンデュラムゾーンに置く!」

 

「ターンエンドだぁ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP2169

フィールド『地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス』(攻撃表示)

『補充部隊』『神の恵み』

手札0

 

ぶつかり合う遊矢とセルゲイ。互いの信念と想いを賭けたデュエル。一歩も譲らぬ大激闘に、会場が沸き起こる。

楽しい――遊矢もセルゲイも、ニヤリと笑みを浮かべる。何が起こるか分からない。ドキドキワクワクのデュエル。終わらせたくない。それはセルゲイだけではなく、遊矢も同じ、だけど。

 

「分かるよ、セルゲイ。楽しいから、終わらせたくない。俺だって同じだ。だけど――それ以上に、俺は、お前って言う凄いデュエリストに勝ちたいんだ!」

 

「――ッ!」

 

『良く言ったうすのろぉ!さぁ、引け!ラストドローだ!』

 

楽しいけど――それだけじゃない。遊矢はその先を望む。セルゲイに勝つ事を。純粋に、デュエリストとして。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

遊矢の右手がデッキに翳され――1枚のカードが引き抜かれ、虹色のアークを、天空に描き出す。

 

「俺は、『EMリザードロー』をセッティング!」

 

『これでレベル7のモンスターを同時に召喚可能!』

 

「ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『降竜の魔術師』!『相克の魔術師』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

揺れ動く運命の振り子。三日月の軌跡を描き、フィールドに呼び出される遊矢のエース、『オッドアイズ』と2体の『魔術師』。攻撃力ではジオグラシャ=ラボラスに劣るが――。

 

「バトル!『相克の魔術師』でジオグラシャ=ラボラスへ攻撃!」

 

「自爆特攻……!?くふっ、お前もかぁっ!」

 

「いいや、違うね!『涅槃の超魔導剣士』のペンデュラム効果、発動!俺のペンデュラムモンスターが攻撃する場合、そのモンスターは戦闘破壊されず、ペンデュラムモンスターが攻撃したダメージステップ終了時、相手モンスターの攻撃力は、攻撃モンスターの攻撃力分ダウンする!」

 

地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス 攻撃力3000→500

 

ここでも新たなモンスター、『涅槃の超魔導剣士』が、遊矢の勝利を繋ぐピースとなる。

 

「さぁ、フィナーレだ!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』で、ジオグラシャ=ラボラスへ攻撃!螺旋のストライク・バーストッ!!」

 

「『オッドアイズ』は戦闘ダメージを――」

 

「倍にする効果がある!リアクション・フォース!」

 

最後の一撃、『オッドアイズ』のアギトに火炎が集束し、赤黒の渦巻くブレスが放たれ――ジオグラシャ=ラボラスを丸呑みにする。これで――。

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP2169→0

 

決着――遊矢の勝利。『オッドアイズ』のブレスを受けたセルゲイが吹き飛ばされ、レーンから投げ出される。その最中、遊矢はすかさず『涅槃の超魔導剣士』に指示を出し、セルゲイへと手を伸ばす。だが。

 

「止めるなぁっ!」

 

バチン、とセルゲイが合体したDーホイールの腕を振るって拒み、遊矢が瞠目する。一体何を――。

 

「壊れる時、人は最高の美しさを放つ!散り際こそが――最上の輝き!ヒヒヒヒッ、イーヒッヒッヒッヒッヒッ!」

 

これが、セルゲイの信念、彼は最後の最後まで、自分を貫き通す。その清々しいまでの潔さに――遊矢は、ブチ切れた。

 

「ふっざけんな、このド変態がぁぁぁぁぁっ!!」

 

ありったけの激情を抱き、恥も外聞も、エンタメデュエリストとしての余裕の笑みすら投げ捨て、遊矢は叫び、問答無用で『涅槃の超魔導剣士』に指示を出し、無理矢理にセルゲイを掴んで引き上げようとする。その姿に驚愕し、目を見開くセルゲイと観客達。その中で、遊矢は更に言葉を続ける。

 

「壊れる時、人は最高の美しさを放つ?そんな事あって堪るか!お前がやってるのは、ただの独り善がりだ!ただの逃げだ!俺はそんな事しないぞ!醜くたって、足掻いてやる!意地汚くたって諦めない!俺の目の前で自分を投げ出すような事はさせない!良いかセルゲイ!お前が100回身を投げても、100回身を投げても、100回俺が止めてやる!」

 

「ッ!」

 

「それにお前は勘違いしてる!デュエルはこんな事の為にあるんじゃない!デュエルは1回じゃ終わらないんだよ!何度も何度もデュエルして、その度に分かり合う為にあるんだ!勝っても負けても、デュエルは俺達を歩ませてくれるんだ!お前達にも言ってんだぞ!」

 

ギン、赤き眼で会場を見上げ、遊矢は観客へと矛先を向ける。まさかの展開にギョッと目を見開く観客達。遊矢はそのまま暴走したかのように言葉を続ける。

 

「1回や2回の敗けで、相手の全部を奪おうとするな!実力者主義とか言って誤魔化すな!狂ってると思わないのかお前等は!優しい人達を犠牲にして、ヘラヘラヘラヘラ、薄っぺらい笑いを浮かべるなぁっ!」

 

最早、我慢の限界だった。このシティの有り様を見て、遊矢の感情が爆発する。このシティはおかしい。優しい人が報われない。それはどこにでもある光景なのかもしれない。だけど――実力主義が度を越しているのだ。それが当たり前の現状が――遊矢は嫌で嫌で堪らない。

そんな、誰かの為に怒る遊矢の姿を見て、セルゲイが呆然とする。なんだ、この少年は、何故こんなにも、誰かを想える。何故醜い感情の発露なのに――こんなにも心を打ち、美しいと思えるのか。トクン、今まで凍っていたセルゲイの心が溶かされ――熱く、高鳴る。えっ、これってまさか――そんな、だって――と頭を振るも、この熱は、消え去らない。

 

「お、下ろして……」

 

「あぁん?まだ言ってんのかお前ぇっ!」

 

「もっもうしないから、良いから下ろしてっ!」

 

「お、おう……?」

 

引き上げられたセルゲイは借りられた猫のようにシュンと大人しくモジモジと頬を赤らめ、遊矢の顔をチラチラと窺う。一体どうしたんだこの変態は、と遊矢は首を傾げる。そんな彼を見て、セルゲイは顔を真っ赤に染め上げ――。

 

「べっ、別に感謝なんてしてないんだからっ!これは絶対、違うんだから――っ!」

 

ウィーガチャ、ウィーガチャ、ガションガション、プヒー、ドルンドルン、ブロロロロォォォォンッ!と、セルゲイが一部壊れたDーホイールと合体したまま、黒煙を纏わせ、脱兎の如く駆動音を響かせ、ツンデレながらピットまで逃げ込む。

 

「……何だったんだ……?」

 

結局、遊矢には何が何だか分からなかった。それが、幸か不幸かは分からないが。


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