遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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連日更新グォレンダ。と言う事で連日の方はこれにて打ち止め、次回から週間投稿に戻ります。
……お前グォレンダやりたかっただけだろと言う声が聞こえる。


第139話 揺れるma ma ma mind

「お……俺のターン……ドロー……」

 

『沢渡フラフラとスタートしました。大丈夫なのぉ!?』

 

フレンドシップカップ、1回戦第3試合もいよいよラストホイーラー同士の対決に入る。チーム沢渡のリーダー、沢渡 シンゴ。チームデニスのリーダー、デニス・マックフィールド。

エンタメデュエリスト同士のぶつかり合い、華々しく楽しいデュエルになるであろうカードだが――かたやアカデミアから送られたスパイである事を明かし、敵側が持つ切り札を使い始め。かたや調子によって実力の降り幅が大きくなる癖に、朝飲んだ牛乳が腐っていて腹を下し、絶不調の男。エンタメもクソもない奴等である。

 

ターンは腹を下した男、沢渡へ。相手フィールドには超大型モンスター1体に大型モンスター1体、そして下級モンスター1体。セットカード2枚にペンデュラムカードも揃い踏みと万全とも言える布陣、対する沢渡のフィールドは0、何もない状態だ。有利なのは手札とLP位のものか。

 

「俺は永続魔法、『修験の妖社』を発動……」

 

「だ、大丈夫かい色々……アカデミアの人間である僕が心配するのもあれだけど……」

 

「な、舐めんな……俺様は沢渡 シンゴォ……エンタメデュエリストよぉ。俺は『魔界劇団カーテンライザー』と『魔界劇団ーデビル・ヒール』をセッティング……!」

 

沢渡の背後に2つの光の柱が伸び、中に傘のようなテントのようなモンスターと白い仮面を被った巨体の悪魔が現れ、天空に線を結んで魔方陣を描き出す。召喚可能なモンスターはレベル2から6、何時もに比べ、少々狭い。

 

「ペンデュラム召喚!『妖仙獣閻魔巳裂』……!」

 

妖仙獣閻魔巳裂 攻撃力2300→2600

 

修験の妖社 妖仙カウンター0→1

 

現れたのは巨大な柄無しの刀を方にかけた修行僧のような出で立ちの鬼鼬。烈風を纏って登場するこのモンスターはこの状況では実に優秀だ。不調と言えど、カードに選ばれる男、この幸運は流石と言える。

 

「ペンデュラム召喚に成功した事で、『古代の機械混沌巨人』を破壊……!」

 

「成程、混沌巨人は魔法、罠の効果を受けないけど、モンスター効果は別だ。その攻略法は得策、だけどその対策を考えてないと思ってたのかい?永続罠、『デモンズ・チェーン』!閻魔巳裂の効果を無効に!」

 

ところが閻魔巳裂の身体を次元の歪みより飛び出した鎖が雁字絡めに封じ込める。これで効果はおろか、攻撃する事も出来ない。しかも面倒なのは閻魔巳裂の持ち味とも言える第3の効果、特殊召喚したターン、手札に戻る効果も無効にされたと言う事だ。

毎ターンペンデュラム召喚して相手のカードを削る真似も不可能。デニスの方が一枚上手だった訳だ。混沌巨人も破壊出来ず、シャドー・メイカーにも攻撃出来ない。やはり調子が悪いのか、沢渡が苦い表情となる。

 

「くっ……俺は『妖仙獣右鎌神柱』を召喚……!」

 

妖仙獣右鎌神柱 攻撃力0→300

 

修験の妖社 妖仙カウンター1→2

 

次に現れたのは1本の鳥居の柱。本来ならば『妖仙獣』をペンデュラム召喚する為の門となるべくペンデュラムゾーンに置かれるのだが、生憎手札が悪い。こうして『修験の妖社』の妖仙カウンターを溜める位しか使い道が無い。せめてもう片方の『妖仙獣左鎌神柱』ならば閻魔巳裂が無効化される事を防げたのだが。

 

「召喚後、守備表示に変更……カードを1枚セットし、ターンエンドぉ……!」

 

沢渡 シンゴ LP4000

フィールド『妖仙獣閻魔巳裂』(攻撃表示)『妖仙獣右鎌神柱』(守備表示)

『修験の妖社』セット1

Pゾーン『魔界劇団カーテンライザー』『魔界劇団ーデビル・ヒール』

手札0

 

「僕のターン、ドロー!残念ながら黒咲の願いである僕を倒す事は叶わないようだね。勿論僕もこの試合を終われば君達と居られなくなるけど、このデュエルで実力の差を思い知らせてあげるよ。エンタメデュエリストとして、1度上げた幕は演目が終わらない以上、下げられないしね!ファイヤー・ダンサーのペンデュラム効果でシャドー・メイカーに貫通効果を与え、バトル!『古代の機械混沌巨人』で閻魔巳裂へ攻撃!」

 

「罠発動……『和睦の使者』……!このターン、俺のモンスターは戦闘破壊されず、ダメージも0となる……!」

 

混沌巨人による全体攻撃と貫通攻撃で沢渡のLPが丁度4000削られようとした時、彼のフィールドに光の障壁が展開され、攻撃を防ぐ。どうやら1ターンキルは逃れたようだ。不安材料はまだ多いが、持ち堪えてはいる。

 

「ふぅん?まぁ、これ位やってくれなきゃ、同じエンタメデュエリストとしては困るしね。ターンエンドだ」

 

デニス・マックフィールド LP3200

フィールド『Em影絵師シャドー・メイカー』(攻撃表示)『Emボール・ライダー』(守備表示)『古代の機械混沌巨人』(攻撃表示)

『デモンズ・チェーン』セット1

Pゾーン『Emファイヤー・ダンサー』『Emボーナス・ディーラー』

手札1

 

「俺のターン、ドロー……!魔法カード、『命削りの宝札』……!3枚、ドロー……」

 

息を切らしながら沢渡が尽きた手札を補充する。絶不調と言えども悪運は尽きない。これで3枚のカードを確保した。後はこの状況を何とかするカードがあるかだが――。

 

「あった……!俺は2体のモンスターをリリースし、アドバンス召喚……ッ!『烈風帝ライザー』!」

 

烈風帝ライザー 攻撃力2800→3100

 

2体の『妖仙獣』が小さな竜巻に包まれ、鎖を破壊しながら供物として捧げられ、2つの竜巻が合わさって1つの巨大な竜巻となる。そして吹き荒れる風を裂き、中より姿を見せたのは風を従える緑の『帝王』。肩や腕には鋭い刃が伸び、背には日輪のようなリングとマントを装着したモンスターだ。

 

「ライザーの効果により、ボール・ライダーとお前の墓地の『超重武者ヌスー10』をデッキトップへ、更に混沌巨人をバウンスする……!」

 

「悪くないね。何せ僕の行動を2ターン封じた上で混沌巨人を除去出来る。でも無駄だよ!罠発動!『ブレイクスルー・スキル』!ライザーの効果を無効に!呆気ないもんだよ」

 

『おおっとこれも防がれる!デニス巧みに翻弄!沢渡はどう出るか!』

 

「ならバトルだ……!ライザーでシャドー・メイカーへ攻撃!」

 

「でも『命削りの宝札』の効果でダメージは与えられない」

 

ライザーによる攻略も防がれる。決まれば強力な効果であるが、決まらなければバニラとなってしまう。沢渡は直ぐ様バトルフェイズへ移行し、少しでも戦力を削る為、ライザーが放つ烈風の刃にてシャドー・メイカーを切り裂く。だが肝心要の混沌巨人は倒せない。目下の脅威であるこのカードを何とかしなければ、沢渡に勝利はない。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP4000

フィールド『烈風帝ライザー』(攻撃表示)

『修験の妖社』

Pゾーン『魔界劇団カーテンライザー』『魔界劇団ーデビル・ヒール』

手札0

 

「正直、君とのデュエルは楽しみにしてたんだけどねぇ。遊矢達以外のエンタメデュエリスト、そして『魔界劇団』に『妖仙獣』、帝と3種を巧みに組み合わせて闘うデッキは驚く他ない。でも――今やその突拍子もないデュエルは見る影も無いけど」

 

「うるせぇ……ぐだくだ言ってねぇで、早くカードを引きな……!」

 

「はいはい、僕のターン、ドロー!見るに堪えないデュエルは直ぐ終わらせてあげるよ!君の小さな名誉の為にもね!バトルだ!混沌巨人でライザーへ攻撃!」

 

「がぁぁぁぁぁっ……!」

 

沢渡 シンゴ LP4000→2300

 

混沌巨人の拳が炸裂し、ライザーを粉々に砕く。1700のダメージ。決して軽くはない数値だ。2連戦にも関わらず、これで沢渡のLPはデニスを下回り、唯一勝っていたLPもデニスの有利となった。凄まじい猛威を奮う混沌巨人。やはり魔法、罠の効果を受けず、バトルフェイズにモンスターの効果も封じ、全体攻撃と貫通ダメージと戦闘向けの効果をこれでもかとてんこ盛りにした攻撃力4500のモンスターと言うのは強力だ。

 

『大ダメージ!これは痛い!』

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだよ」

 

デニス・マックフィールド LP3200

フィールド『Emボール・ライダー』(守備表示)『古代の機械混沌巨人』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『Emファイヤー・ダンサー』『Emボーナス・ディーラー』

手札1

 

「俺のターン、ドロー……!舐めんじゃねぇよ、俺様のデュエルはここからよ。リバースカード、オープン!魔法カード、『汎神の帝王』!手札の『帝王』魔法、罠1枚を墓地に送り、2枚ドローする!」

 

沢渡 シンゴ 手札0→2

 

「まだだ……『汎神の帝王』を墓地から除外し、デッキから『帝王』魔法、罠を3枚公開、テメェが選んだ1枚を手札に加える」

 

「全部同じカードかい、『帝王の深怨』を選ぶよ」

 

「そして手札の攻撃力2400、守備力1000の『光帝クライス』を公開し、発動。デッキより『始源の帝王』をサーチする。そしてペンデュラム召喚、『光帝クライス』!『妖仙獣右鎌神柱』!」

 

光帝クライス 攻撃力2400→2700

 

妖仙獣右鎌神柱 守備力2100

 

修験の妖社 妖仙カウンター2→3

 

振り子の軌跡によって現れる2体のモンスター、光輝く黄金の鎧を纏った『帝王』と鳥居の姿をした『妖仙獣』だ。このカードで道を拓く。

 

「クライスの効果により、混沌巨人とデビル・ヒールを破壊!」

 

「全く……こう言うの、カードに選ばれてるって言うのかな?手札の『エフェクト・ヴェーラー』を捨て、クライスの効果を無効にするよ!」

 

『これも防がれる!デニス、鉄壁の防御!』

 

だがこれも――不発。悉く無効、無効、無効。流石にここまで来るとストレスで爆発しそうになる。が――この男は沢渡 シンゴ。この程度は想定済み。2度ある事は3度あるとも言う位だ。沢渡は青い顔をしながらニヤリと不敵な笑みを浮かべる。まるでここからが本番と言わんばかりに歯を剥き出しにして。

 

「妖仙カウンターを3つ取り除き、デッキから『妖仙獣鎌壱太刀』をサーチ!」

 

修験の妖社 妖仙カウンター3→0

 

「そして召喚!」

 

妖仙獣鎌壱太刀 攻撃力1600→1900

 

修験の妖社 妖仙カウンター0→1

 

現れたのは鼬兄弟の長男。青い羽織と鎌が特徴的なモンスターだ。

 

「鎌壱太刀の効果で混沌巨人をバウンスするぜ!」

 

「カウンター罠、『無償交換』!モンスター効果の発動を無効にして破壊!相手は1枚ドローする!」

 

沢渡 シンゴ 手札2→3

 

『沢渡、果敢に攻めるも弾かれる!』

 

しかしこれも無効、だが――。

 

「リバースカード、オープン!魔法カード、『二重召喚』……!教えてやるよ。これが本当にカードに選ばれてるって事だ!2体のモンスターをリリース、烈風纏いし妖の長よ。荒ぶるその衣を解き放ち、大河を巻き上げ大地を抉れ!アドバンス召喚!出でよ、『魔妖仙獣大刃禍是』!!」

 

魔妖仙獣大刃禍是 攻撃力3000→3300

 

再度2体のモンスターを風が包み込み、烈風を裂いて新たなモンスターが目を覚ます。緑色に彩られた風の体躯を持つ、赤き眼の一角獣。『妖仙獣』の長にして、沢渡のエースモンスターの1体が軽やかにフィールドを舞い、気高き咆哮を上げる。

 

「ここで引いたのか……!?」

 

「効果発動!混沌巨人とボール・ライダーをバウンスする!」

 

そしてついに――大刃禍是が角に風を逆巻かせ、烈波の刃で混沌巨人を切り裂き、倒す。漸く混沌巨人を打倒出来た。この突破の意味は大きい。

 

『沢渡、見事混沌巨人を除去!妨害されても止まらない!これで勝負はイーブンか!?』

 

「くっ、混沌巨人が……!」

 

「バトルだ!大刃禍是でダイレクトアタック!」

 

「させないよ!アクションマジック、『回避』!」

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ!」

 

沢渡 シンゴ LP2300

フィールド『魔妖仙獣大刃禍是』(攻撃表示)

『修験の妖社』セット2

Pゾーン『魔界劇団カーテンライザー』『魔界劇団ーデビル・ヒール』

手札の0

 

「やるじゃないか……でも混沌巨人はあくまで尖兵って事、忘れないでよね!僕のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『Em影絵師シャドー・メイカー』2体、『Emウィング・サンドイッチマン』2体、『Emウィンド・サッカー』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

デニス・マックフィールド 手札2→4

 

「ペンデュラム召喚!『Emボール・ライダー』!『Emウィンド・サッカー』!『Emウィング・サンドイッチマン』!『Emハットトリッカー』!」

 

Emボール・ライダー 守備力1800

 

Emウィンド・サッカー 攻撃力2100→2400

 

Emウィング・サンドイッチマン 守備力2100

 

Emハットトリッカー 守備力1100

 

こちらも沢渡に負けじとペンデュラム召喚。手札全てを使い切り、フィールドに4体のモンスターを並ばせる。玉乗りマジシャン、ボール・ライダー。掃除機のような乗り物に乗ったウィンド・サッカー。羽を生やした軍人、ウィング・サンドイッチマン。そしてハットと眼鏡、手袋だけのハットトリッカーだ。

 

「ボーナス・ディーラーのペンデュラム効果で2枚ドロー!」

 

デニス・マックフィールド 手札0→2

 

手札からとは言え、3体の『Em』をペンデュラム召喚する度に『強欲な壺』と同じ効果を発動するこのボーナス・ディーラーは中々に厄介だ。ペンデュラムの消費を直ぐ様補ってくる。

 

「攻めていくよ!魔法カード、『置換融合』!ウィング・サンドイッチマンとウィンド・サッカーで融合!融合召喚!『Emトラピーズ・フォース・ウィッチ』!」

 

Emトラピーズ・フォース・ウィッチ 攻撃力2400→2700

 

ペンデュラムから融合へ。現れたのはこちらも空中ブランコで空を蹴るマジシャンの少女。二又に別れた魔女帽子に仮面、マラカスのようなおさげ、そして派手な衣装を纏った女版トラピーズ・マジシャンと言った出で立ちのモンスターだ。

 

「更にボール・ライダーとハットトリッカーでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『Emトラピーズ・マジシャン』!!」

 

Emトラピーズ・マジシャン 攻撃力2500→2800

 

ケタケタと笑い声を上げ、再び純白のピエロが赤いマントを翻し、空中ブランコで空を駆けながら登場する。トリッキーな効果を備えたこのカードは実に彼のエースとして似合っている。

 

『デニス、攻める攻める!次々とモンスターを召喚!だぁーっ!』

 

「エースに加え、『Em』の融合モンスター……!」

 

「驚いたかい?これが僕の真の実力さ!」

 

「テメェ、今まで本気じゃなかったって事か!?」

 

「キレる所そこなの!?」

 

ギリッ、歯軋りを鳴らし、沢渡が怒り心頭と言った表情でデニスに向かって叫ぶが、果たしてそこは怒る所なのだろうか。

 

「君のツボが良く分からないよ……ま、まぁ、良い。トラピーズ・マジシャンのORUを1つ取り除き、フォース・ウィッチに2回の攻撃権を与える!更に『Emファイヤー・ダンサー』の効果で貫通効果も与えちゃうよ!バトルだ!トラピーズ・マジシャンで大刃禍是に攻撃!この瞬間、トラピーズ・フォース・ウィッチの効果により、『Em』と戦闘を行う相手モンスターの攻撃力を600ダウン!」

 

魔妖仙獣大刃禍是 攻撃力3000→2400

 

沢渡 シンゴ LP2300→1900

 

「うごっ……おさまって来たのに……!」

 

ザァッと衝撃波が沢渡に襲いかかり、更に便意の波も襲いかかる。折角おさまって来たのに酷い仕打ちである。つらい。

 

「トラピーズ・フォース・ウィッチでダイレクトアタック!アクションマジック、『オーバー・ソード』により攻撃力を500アップ!」

 

Emトラピーズ・フォース・ウィッチ 攻撃力2700→3200

 

「沈まれぃ……!罠発動、『ガード・ブロック』……!ダメージを0にして1枚ドロゥ」

 

沢渡 シンゴ 手札0→1

 

更なる追撃が沢渡に襲いかかり、すんでの所で逃れる。危ない所だった。後一撃入れられたらところてん方式で出てもおかしくはなかった。

 

「かわすか……だけどフォース・ウィッチには、もう1度攻撃権がある!ダイレクトアタック!」

 

「来るんじゃねぇ!永続罠、『始源の帝王』を発動!発動後、悪魔族、闇属性、攻撃力1000、守備力2400のモンスターとして特殊召喚!」

 

始源の帝王 守備力2400→2700

 

沢渡 シンゴ LP1900→1400

 

まだ終わらぬデニスの猛攻と便意から逃れる為、沢渡が『帝王の深怨』で引き寄せた従者の悪魔を呼び起こす。これでもう追撃は出来ないだろう。だがまだまだ気は抜けない。

 

「メインフェイズ2へ移行、トラピーズ・マジシャンの効果を受けたフォース・ウィッチは破壊されるけど、このカードが存在する限り、自分フィールドの『Em』は効果では破壊されず、相手の効果の対象にならない。更に他の『Em』が存在する限り、このカードは攻撃対象にならない。カードを1枚セットし、ターンエンドだ。どこまでもつかな?」

 

デニス・マックフィールド LP3200

フィールド『Emトラピーズ・マジシャン』(攻撃表示)『Emトラピーズ・フォース・ウィッチ』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『Emファイヤー・ダンサー』『Emボーナス・ディーラー』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「フフ、どうだい沢渡ぃ、仲間と思っていたのに、裏切られた気分は。君の事だ、怒り心頭、ただじゃおかないって所かな?」

 

「……」

 

「それともショックだったかい?無視しないで教えてくれよ」

 

「……るせぇ……!」

 

「うん?」

 

デニスがニヤニヤと沢渡を挑発する。対する沢渡は暫く俯き、その顔に影を差していたが――ガバッ、突如顔を上げ、こめかみに青筋を浮かべてデニスを睨む。そして――。

 

「うるせぇってんだよっ!テメェがアカデミアのスパイって事はなぁ……ランサーズ全員、何となくで勘づいてんだよ。このバカがぁぁぁぁぁっ!!」

 

とんでもない爆弾発言を投下した。思わず仮面で隠していても丸わかりな程呆けた表情となるデニス。バレていた?最初から?ずっと?なら、何故今まで――。

 

「なっ、なっ、なっ……!」

 

「何で放って置いたってか?そんなもん決まってんだろ!確証がなかったてのもあるが――それでもお前が俺達の仲間だからだ!敵だってのにも関わらず、俺達と馬鹿やって、遊矢の事だって助けてやれるお人好しだからだ!」

 

「なっ、なら何で黒咲は――」

 

「キレてるってか?あいつも許せねー所もあるんだろうが、それ以上にテメェがそうやって、被りたくもねぇアカデミアの仮面被って、デニス・マックフィールドっつー本当の顔を見せないからだろ!本音を明かさないからだろ!バレバレなんだよ!お前が俺達の事、大事な友達って思ってる事くらい!今だって、続けなくても良いデュエル続けて、未練タラタラだろうが!」

 

「ッ――!」

 

そう、彼等は何となくだが、デニスがアカデミアの人間ではないのかと疑っていた。だけど、皆言わなかった。それはデニスが余りにもスパイらしくないと言う事もあるだろう。ワイワイと友達として馬鹿やって、助け合って、だから皆、友達であるデニスを失いたくなかったのだ。そんな彼等に、デニスもまた――絆を感じていないと言ったら、嘘になる。

 

「本当は最初から言うべきだったんだろうよ。知ってるってな。そんで、改めて仲間になって欲しいって。遅れちまったけど、今言うぜ。デニス、俺達と、来い」

 

スッ、と沢渡がデニスに向かって手を差し伸べる。それは、救いの手であり、絆を繋ぐ掌だ。この手を取るだけで――彼等とまた、馬鹿をやれる。そんな希望がデニスの心を揺さぶる。だが――罪の意識が、天秤を傾ける。

 

「ッ!残念だったね……!その手には乗らないよ!言っただろう、僕こそが真の悪!君達を倒すアカデミアの手先だ!さぁ、覚悟しろランサーズ!1人残さず始末してやろう!フハハハハ!」

 

「……そうかい、ならぶん殴ってでも引き摺り込む!一緒に赤馬の手先になって、馬車馬のように働いてもらうぜ。ついでに俺の子分にしてなぁッ!」

 

拒絶の意志に、行き場の失った掌を握り締め、沢渡は覚悟を決める。

 

「紫雲院と言い、お前と言い、アカデミアは素直な奴がいねーのか!男のツンデレなんぞクソ食らえだ!俺様は魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地の『妖仙獣閻魔巳裂』、『妖仙獣鎌壱太刀』、『烈風帝ライザー』、『No.80狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク』、『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札1→3

 

「『魔界劇団カーテンライザー』は自分フィールドにモンスターが存在しない場合、ペンデュラム効果で特殊召喚可能!」

 

魔界劇団カーテンライザー 攻撃力1100→2400

 

ペンデュラムゾーンからモンスターゾーンへ綱渡りするように移るテントの姿を模したモンスター。この効果はデュエル中1度しか使えないが、今は出し惜しみはしない。

 

「『魔界劇団ーファンキー・コメディアン』をセッティングし、ペンデュラム召喚!『魔界劇団ーサッシー・ルーキー』!『妖仙獣右鎌神柱』!」

 

魔界劇団ーサッシー・ルーキー 攻撃力1700→2000

 

妖仙獣右鎌神柱 守備力2100

 

修験の妖社 妖仙カウンター2→3

 

そしてペンデュラム、フィールドに2体のモンスター、『魔界劇団』のメンバー、モジャモジャとした髪にだらりと手を垂らしたやる気のない腕が特徴的なモンスターと、『妖仙獣』の鳥居が呼び出され、『修験の妖社』にカウンターが灯る。

 

「ファンキー・コメディアンの効果発動!サッシー・ルーキーをリリースし、その攻撃力分、カーテンライザーの攻撃力をアップする!」

 

魔界劇団カーテンライザー 攻撃力1700→3100

 

「カーテンライザーの効果により、『魔界台本「魔王の降臨」』を墓地に落とし、エクストラデッキのサッシー・ルーキーを回収!更に妖仙カウンターを3つ取り除き、『妖仙獣凶旋嵐』をサーチし、右鎌神柱をリリースし、アドバンス召喚!」

 

妖仙獣凶旋嵐 攻撃力2000→2300

 

修験の妖社 妖仙カウンター3→0→1

 

次に現れたのは禍々しい闇の瘴気を放つ鎌鼬。鎌を振るうと共に、隣につむじ風が発生し、仲間を運ぶ。

 

「召喚時、デッキから『妖仙獣大幽谷響』をリクルート!」

 

妖仙獣大幽谷響 攻撃力?→300

 

修験の妖社 妖仙カウンター1→2

 

現れたのは山のように巨大なのっぺりとした顔の妖だ。これで沢渡の準備は整った。後は攻め込むのみ。

 

「カーテンライザ―でトラピーズ・マジシャンへ攻撃!アクションマジック、『ハイダイブ』!攻撃力を1000アップする!」

 

魔界劇団カーテンライザー 攻撃力3100→2500→3500

 

「罠発動!『ガガガシールド』!発動後、トラピーズ・マジシャンの装備カードなり、装備モンスターは1ターンに2度まで破壊されない!」

 

「チッ、大幽谷響でトラピーズ・マジシャンへ攻撃!こいつの攻撃力は戦闘を行う相手モンスターと同じになる!」

 

妖仙獣大幽谷響 攻撃力300→2800→2200

 

大幽谷響がトラピーズ・マジシャンと同じ姿となり、空中ブランコで空を駆け、鋭い矢のような飛び蹴りを放つも――トラピーズ・マジシャンが盾で防ぎ、そのまま盾を地面に突き刺し、軸として回し蹴りを放つ。

 

沢渡 シンゴ LP1400→1100

 

「ぐっ、破壊された大幽谷響の効果で、デッキから『魔妖仙獣大刃禍是』をサーチするぜ。魔法カード、『一時休戦』を発動。互いに1枚ドローし、次のターン終了までダメージを0にする」

 

沢渡 シンゴ 手札2→3

 

デニス・マックフィールド 手札0→1

 

「ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP1100

フィールド『魔界劇団カーテンライザー』(攻撃表示)『妖仙獣凶旋嵐』(攻撃表示)

『修験の妖社』

Pゾーン『魔界劇団ーファンキー・コメディアン』『魔界劇団ーデビル・ヒール』

手札3

 

「僕のターン、ドロー!速攻魔法、『揺れる眼差し』!互いのペンデュラムゾーンを全て破壊!その数は4!よって4つの効果を適用する!まずは1つ目!相手に500のダメージ……は、『一時休戦』の効果で与えられないね。2つ目!ペンデュラムモンスター、『Emミラー・コンダクター』をサーチ!3つ目!フィールドのカードを選んで除外!『修験の妖社』には退場してもらうよ!」

 

「チッ!」

 

「そして4つ目!『揺れる眼差し』をサーチ!」

 

『揺れる眼差し』によって4つの効果が沢渡に襲いかかる。まず1つ、ペンデュラムゾーンの破壊により、ペンデュラム召喚を奪われ、2つ、デニスは新たなペンデュラムカードを手札に、3つ、『修験の妖社』が吹き飛ばされ、4つ、再び『揺れる眼差し』を手札に。最後が特に厄介だ。何故なら――。

 

『これでデニスの手札に『揺れる眼差し』が渡った!つまり!沢渡は次のターン、ペンデュラムを完全に封じられた事になる!』

 

そう、『揺れる眼差し』は速攻魔法。セットさえすれば、相手ターンでも発動可能だ。これでデニスが手札に加えたペンデュラムカードをセッティングすれば、沢渡が次のターン、ペンデュラムを整えた瞬間に発動され、ペンデュラムを破壊し、カードを除外されてしまう。よって――ペンデュラムは封じ込められ、リリース要員を揃える事すらままならない。

 

「僕は『Emミラー・コンダクター』と『Emオーバーレイ・ジャグラー』をセッティング!これでレベル4から5のモンスターが同時に召喚可能!ペンデュラム召喚!『Emウィンド・サッカー』!『Emウィング・サンドイッチマン』!『Emファイヤー・ダンサー』!」

 

Emウィンド・サッカー 攻撃力2100→2400 レベル5→4

 

Emウィング・サンドイッチマン 攻撃力1800→2100

 

Emファイヤー・ダンサー 守備力1200

 

更に追い討ちと言わんばかりに3体のモンスターがフィールドに降り立つ。2体のトラピーズを何とかしても、3体の壁が残る。完全に沢渡の逃げ道を塞ぎにかかっている。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『Emトラピーズ・マジシャン』!!」

 

Emトラピーズ・マジシャン 攻撃力2500→2800

 

トラピーズ・マジシャン、3体目――悪夢のような布陣が整う。今この時、最も厄介なのはこのカードの攻撃力以下のダメージを通せない事だ。『ガガガシールド』、トラピーズ・フォース・ウィッチと合わさって、戦闘ダメージや効果ダメージを狙う事さえ出来ない。

 

「さぁ、バトル!2体のトラピーズ・マジシャンでカーテン・ライザーと凶旋嵐へ攻撃!」

 

けたたましい笑い声を上げ、2体のトラピーズ・マジシャンが空中ブランコで空を駆け、弾丸の如く飛び蹴りを放つ。モンスター、セットカード、ペンデュラムが一気に全滅した。沢渡のフィールドのカードは0、残るは2枚の手札、『魔界劇団ーサッシー・ルーキー』、『魔妖仙獣大刃禍是』。どちらも今この時役に立つカードでは無い。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

デニス・マックフィールド LP3200

フィールド『Emトラピーズ・マジシャン』(攻撃表示)×2『Emトラピーズ・フォース・ウィッチ』(攻撃表示)『Emウィング・サンドイッチマン』(攻撃表示)

『ガガガシールド』セット1

Pゾーン『Emミラー・コンダクター』『Emオーバーレイ・ジャグラー』

手札0

 

状況は最悪――こちらのモンスターを破壊する効果、そして攻撃力以下のダメージを防いだ上、破壊されても後続を呼び出すモンスターに加え、『Em』の戦闘補助に効果耐性を与えるモンスター、加えてその内の1体は1ターンに2度も戦闘と効果で破壊されないと来た。極めて不利な状況。それでも――。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

沢渡 シンゴは、諦めない。

 

「魔法カード、『手札抹殺』!手札を3枚捨て、3枚ドローする!」

 

「入れ替えか……!」

 

「まだだぁ!速攻魔法、『魔力の泉』!お前のフィールドにはアクションフィールドを合わせ、表側表示の魔法、罠は3枚!そして俺のフィールドはアクションフィールドとこのカードの2枚!よって3枚ドローし、2枚捨てる!」

 

沢渡 シンゴ 手札2→5→3

 

「墓地に送られた『ダンディライオン』の効果で2体の『綿毛トークン』を特殊召喚!」

 

綿毛トークン 守備力0×2

 

風に運ばれ、2つの綿毛が沢渡のフィールドで舞い踊る。リリース要員にはなるが、それには1ターン待たなければならない。壁としても見た目通り、風に吹かれるように頼りない。

 

「速攻魔法、『リロード』の効果で手札を交換、手札を2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP1100

フィールド『綿毛トークン』(守備表示)×2

セット2

手札0

 

手札を入れ替え、希望を見つけ出そうとするも、ここまで――。それもそうだろう。相手のフィールドは万全とも言える布陣なのだ。せめてトラピーズ・フォース・ウィッチがいなければ何とかなりそうなのだが――このカードがデニスのフィールドに与える影響はそれ程のものだ。

効果の対象にならない為、無効にする事も難しく。『ブラック・ホール』のような全体除去を引き込んでも効果破壊耐性がある。対象を取らない、破壊以外の除去カードでしか対応出来ない。

戦闘ダメージで勝とうとすれば、トラピーズ・マジシャンの攻撃力を越えねばならず、一瞬で勝負を決めるとなると攻撃力5300以上が求められる。

『ガガガシールド』があるのも厄介だ。ガチガチに固められた布陣、求められるのは、破壊以外の対象を取らない全体除去。だが、そんなカードがある筈――。

 

「あ――」

 

不意に、声が漏れる。あった。破壊もしない、対象も取らない、全体にかかる夢のような、この状況にピッタリと当て嵌めるカードが1枚、沢渡のデッキに。

タイミングも遅く、妨害されればそれまでだが――決まれば、爆発力で勢いのままにゲームエンドまで持っていける。だがその為には――条件を満たさなければならない。この圧倒的不利な劣性で。そんな事が出来るのか?否、やらねばならない。

 

「沢渡 シンゴなら、出来る筈だ……!」

 

「覚悟は出来たかい?僕のターン、ドロー!速攻魔法、『サイクロン』!右のカードを破壊!」

 

「させるか!罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

「ッ!しつこいねぇ、ネタが尽きたエンタメデュエリストに価値はないよ!ターンエンドだ!」

 

「罠発動!『裁きの天秤』!俺のフィールドと手札のカード、テメェのフィールドのカードの差分、ドローする!差は5枚だ!」

 

沢渡 シンゴ 手札0→5

 

一世一代のチャンス。このドローで目当てのカードを引き抜こうとするも――無い。ギリッ、と歯軋りを鳴らし、何とか気持ちを整える。

 

デニス・マックフィールド LP3200

フィールド『Emトラピーズ・マジシャン』(攻撃表示)×2『Emトラピーズ・フォース・ウィッチ』(攻撃表示)『Emウィング・サンドイッチマン』(攻撃表示)

『ガガガシールド』セット1

Pゾーン『Emミラー・コンダクター』『Emオーバーレイ・ジャグラー』

手札0

 

強い、強い、強い。まさかここまでデニスが強かったとは思いしなかった。確かに実力がある事は承知していた。ペガサスの特訓を受け、強くなっている事も。だがこれ程とは。最早後が無い。このドローであのカードを引かねば――確実に負ける。そうなってはランサーズよりもアカデミアが勝る結果になり、彼を味方に引き入れるにしても説得力がない。勝たねばならない。

デニスの為?ランサーズの為?いや、違う。全ては――自分の為。気に入らないからこそ、沢渡は闘うのだ。至極単純で、最も純粋とも言える、闘うべき理由。

 

さぁ、カードを取れ、証明しろ。自分が榊 遊矢よりも、デニス・マックフィールドよりも、最高のエンタメデュエリストである事を。華々しい逆転劇を演じ、観客達の歓声を浴び、仲間を奪い取る。そんな未来を信じ――沢渡は、希望をその手に掴み取る。

 

「俺様のターン……ドローッ!!」

 

引き抜かれた1枚が、宙に黄金に輝くアークを描く。来た、来た、来た。まるで電流が駆け抜けたかのような感覚。沢渡はニヤリと笑みを浮かべ、エンタメデュエルの口上を上げる。

 

「Ladies and Gentleman!さぁ、お楽しみは、これからだぜっ!!」

 

「何を――っ!この状況から、逆転があり得るとでも!?」

 

「あり得るんだよなぁ、それが!この俺様のデュエルなら!」

 

動揺を走らせ、疑惑を飛ばすデニスに応え、沢渡が手札の6枚を翳す。この6枚で、道を拓く。

 

「まずは『魔界劇団ーティンクル・リトルスター』と『妖仙獣左鎌神柱』をセッティング!」

 

「させないよ!速攻魔法、『揺れる眼差し』!ペンデュラムゾーンを破壊し、3つの効果を適用!まずは500のダメージ!」

 

沢渡 シンゴ LP1100→600

 

「ペンデュラムモンスター、『Emウィング・サンドイッチマン』をサーチし、『綿毛トークン』を除去!これでペンデュラムは封じた!」

 

「そいつぁどうかな?ペンデュラムは何度でも揺れ動く!『魔界劇団ーワイルド・ホープ』と『魔界劇団ビッグ・スター』をセッティング!」

 

「止められなかったか……!」

 

「ワイルド・ホープのペンデュラム効果でビッグ・スターのスケールを9に!ペンデュラム召喚!『魔界劇団ーティンクル・リトルスター』!『妖仙獣右鎌神柱』!『妖仙獣左鎌神柱』!」

 

魔界劇団ーティンクル・リトルスター 攻撃力1000→1300

 

妖仙獣右鎌神柱 攻撃力0→300

 

妖仙獣左鎌神柱 攻撃力0→300

 

振り子の軌跡で現れるのは3体のモンスター。そう、3体。それも攻撃力の低い、ティンクル・リトルスターと鳥居コンビだ。折角のペンデュラム召喚にも関わらず、彼が取りそうにない手にデニスが訝しむ。一体何を考えているのか――本気で分からない。

 

「どう言うつもりだい?他のモンスターでもこの布陣を突破出来ると思えないけど――態々戦闘能力の低いモンスターを……しかも2体のみだなんて」

 

「直ぐに分かるさ!『綿毛トークン』を攻撃表示に変更し、永続魔法、『王家の神殿』を発動!1ターンに1度、セットしたばかりの罠の発動を可能にする!さぁ、行くぜ!カードをセット、そしてオープン!これが俺のエンタメだ!対象も取らず、破壊もしない全体に適用するカード!罠発動!『スウィッチヒーロー』!」

 

「――はぁ?」

 

これが――状況を一変する沢渡の奥の手。『王家の神殿』により発動される罠を見て、デニスが思わず目を見開き、そのカードをジッと見つめる。呆れた訳ではない。ただ――予想外。

だが彼の顔色が見る見る内に変わり、大粒の汗が額より伝う。それもその筈、このカードは確かに、沢渡の言う通り、対象も取らず、破壊もしない、全体に通じるカード。そう、敵味方問わず、全体に。その効果は――シンプルに短く。

 

「馬鹿な……!」

 

「効果は知ってるみたいだな?そう、このカードは――互いのフィールドのモンスターの数が同じ場合、そのモンスターのコントロールを、全て入れ替える!」

 

コントロール奪取――条件こそ難しいが、決まればとんでもない爆発力。そう、これで――デニスの完璧とも言える布陣がそのまま、沢渡へと渡る。しかもデニスのフィールドに渡るのは、どれも低攻撃力のモンスター。

 

『な、な、なんとぉーっ!!沢渡 シンゴ、大逆転!完璧と思われた布陣を、予想外の手で攻略したぁーっ!!』

 

巻き起こる歓声が降り注ぎ、沢渡が得意気な顔でポーズを決める。まさに大逆転。まさかの大逆転。誰もが予想だにしない手で、逆境を打ち破った。

 

「トラピーズ・マジシャンのORUを使い、フォース・ウィッチとサンドイッチマンに2回攻撃を与え――バトルだ!トラピーズ・マジシャンとフォース・ウィッチで、二鎌神柱へ攻撃ィ!相棒の手で、目を覚ましやがれぇ!」

 

デニスが信頼するエース、トラピーズ・マジシャンとフォース・ウィッチが主を想ってこそ、全力で空中を駆け、飛び蹴りを放つ。矢のように降り注ぐそれは、デニスを貫き――LPを、削り取る。

 

デニス・マックフィールド LP3200→400→0

 

決着――勝者、沢渡 シンゴ。チーム沢渡は、2回戦へと駒を進め、仲間の心に、その想いを刻んだ。

 

『決まったー!ウィナー、沢渡 シンゴ!大、逆、転ッ!』

 

「……よう、どうだい大将」

 

何時の間にかスモークを上げるデニスのD-ホイールに並ぶように、停止した沢渡がデニスに向かって言葉を投げ掛ける。モクモクと立ち込める白煙が周囲を覆い、2人の存在を視認しているのは互いの存在だ。デニスは大きな溜め息を吐き出し、沢渡へと向き直る。

 

「……まさか、負けるなんてね……あそこで『スウィッチヒーロー』はズルいよ大将」

 

「ふざけんな。オメェの方がよっぽどだ。で、どうする?」

 

「……僕は……」

 

顔を曇らせるデニス。結局、彼の決意まで揺るがす事は出来なかったのだろう。沢渡は顔をしかめ、これ以上は無駄かと諦める。自分では。

 

「……負けたら子分、だったな」

 

「え?」

 

「親分命令だ。お前ちょっと、アカデミアにスパイに行ってこい」

 

「……君は……不器用だね……ありがとう……ごめん」

 

沢渡の親分命令に、僅かに目を見開いた後、デニスは苦笑いし、デュエルディスクに手を伸ばし、パネルを操作する。不器用と言うなら、彼もだろう。「お前にだけは言われたかねぇや」と溢しながら、沢渡はデニスに背を向ける。そして――沢渡の背後から、紫色の光が輝き、デニスは姿を消す。

 

「……バカヤローが……」

 

舌打ちを鳴らし、拳を握り締める。生まれて初めての無力感。それはとても――許容出来るものではなかった。

フレンドシップカップ、1回戦はこれにて3試合が終了し、いよいよ最後の試合となる。対決するカード、赤と白の帽子を被るデュエリストが、激突する。

 

――――――

 

満身創痍とも言える状態で、デニスはアカデミアの城へと帰還する。だが心に刻まれたものの方が遥かに大きい。虚脱感に覆われながら、これからどうしようと苦笑いし、溜め息を吐き出す――その時だった。

 

「おや?もしかして君がデニス君かい?」

 

「!?」

 

不意に背後から声がかけられ、ビクリと肩を震わせる。一体誰だ――クルリと振り返り、暗がりで立つ男を、ジッと見つめる。

顔は見えないが、どうにも不気味な声だ。赤いタキシードを纏った彼は、笑みを溢し、ツカツカとデニスに近づく。見ない男だ。一体何者だろうか。

 

「貴方は……?」

 

「私は最近アカデミアに入った新人でね。怪しむのも無理はない」

 

男はパラパラと手元でカードで遊びながら、赤いタキシードにシルクハット、まるでマジシャンのような出で立ちに、目立つのは緑と黒の縞模様の仮面。その男は恭しく礼をした後、カードの中から1枚引き、デニスへと見せるように翳す。それは――赤いローブを纏った、『ブラック・マジシャン』のカード。男は禁忌の宝箱より、自らの名を取り出す。

 

「私の名はパンドラ。奇術師パンドラとでも、呼んでください」

 

災厄が、ばら撒かれる。




アカデミアの人間は大体面倒臭い性格をしてます。
余りに面倒臭いから1話にしては結構多い文字数となり、2話に分けると中途半端になってしまう程です。おのれデニス。
ちなみに赤馬社長は月影使ってデニスがアカデミアである決定的な証拠を掴もうとしていましたが、迷ってる所見る&沢渡達とワイワイやってるので期を見て引き込もうとしていた模様。アカデミアと連絡先していないなら泳がせとこうみたいな。

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