「さぁ、Show timeだ!僕のターン、ドロー!」
フレンドシップカップ1回戦第3試合もいよいよ大詰め、チーム沢渡のセカンドホイーラー、黒咲隼とチームデニスのラストホイーラーにしてリーダー、デニス・マックフィールドの対決へと展開する。
光輝くサーキットを進むデニス。彼と隼は少し前に地下デュエル場にてデュエルをしたのだが――その時はデュエルは中断、決着つかずだったのだが――今その時が来たようだ。
あの時はデニスの正体を見極められなかったが、このデュエルで。明るく笑顔でデッキよりカードを引き抜くデニスを見つめながらその動向を観察する。
彼のデッキはエクシーズと零児より受け取ったペンデュラムを混合させた『Em』デッキだ。トリッキーな動きでこちらを翻弄して来るだろう。
「まずはマスクド・ナイトの効果で1500のダメージを与えるよ!」
「墓地のレディネスを除外し、このターンのダメージを0に!」
仮面の騎士が光の剣を作り出し、矢のように撃ち出して隼に襲いかかるも、隼はD-ホイールを加速させてかわす。
「でもこれでレディネスは全て使い切った!僕は『Emボーナス・ディーラー』と『Emファイヤー・ダンサー』でペンデュラムスケールをセッティング!」
デニスが手札から2枚のカードをデュエルディスクの両端に設置すると共に、彼の背後に2本の光の柱が追従し、中にコインを弾くディーラーと、火の輪を持ったダンサーが出現、天空に光の線を結んで魔方陣を描き出す。いきなりペンデュラムで来るか――隼が身構える。だが例えどんなモンスターを出そうと、アルティメット・ファルコンと言う巨大な壁を切り崩すのは至難の技だ。
『デニス、ペンデュラムスケールをセッティング!来るか軌跡の召喚法!』
「ペンデュラム召喚!『Emウィンド・サッカー』!『Emボール・ライダー』!『Emカップ・トリッカー』!」
Emウィンド・サッカー 守備力0
Emボール・ライダー 守備力1800
Emカップ・トリッカー 守備力1400
振り子の軌跡を描き、3本の光の柱がフィールドに轟音を立てながら降り立ち、光の粒子を散らして姿を見せる。現れたのは掃除機に乗った少年と、巨大なボールを転がすモンスター、そしてカップを被った昆虫のようなモンスターだ。
「そしてウィンド・サッカーの効果でこのカードのレベルを1つ下げ、手札から3体以上のペンデュラム召喚に成功した事でボーナス・ディーラーのペンデュラム効果発動!2枚ドロー!」
Emウィンド・サッカー レベル5→4
デニス・マックフィールド 手札1→3
手札から3体以上と少々満たしにくい条件であるが、ペンデュラム召喚で失った手札を補充する『強欲な壺』と同じドロー効果。これはデニスには有り難く、隼には厄介に写る。
「良いカードが来たね。僕はボール・ライダーとウィンド・サッカーの2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!Show most go on!天空の奇術師よ華やかに舞台を駆け巡れ!エクシーズ召喚!現れろ!『Emトラピーズ・マジシャン』!!」
Emトラピーズ・マジシャン 攻撃力2500→2800
エクシーズ召喚、こちらも隼と同じ召喚法で対抗する気なのか、デニスの隣に星を散りばめた渦のようなものが発生し、2体のモンスターが光の線となって吸い込まれる。瞬間、爆発が巻き起こり、閃光と共に笑い声を上げ、フィールドに現れたのは空中ブランコで天を駆ける白いマジシャン。
デニスのデュエルの象徴とも言えるエースカードだ。彼のデュエルを1度でも見ている者ならば――彼がこのカードに全幅の信頼を寄せている事が理解出来るだろう。
「装備魔法、『ワンショット・ワンド』をトラピーズ・マジシャンに装備!攻撃力を800アップ!」
Emトラピーズ・マジシャン 攻撃力2800→3600
トラピーズ・マジシャンの右手に三日月を模したステッキが握られ、叡知を授ける。これでトラピーズ・マジシャンの攻撃力はアルティメット・ファルコンを越えた。そう、アルティメット・ファルコンは高い攻撃力と完全耐性を持つが、戦闘耐性は無い。単純であるが、打点で越えれば良いのだ。
「バトル!トラピーズ・マジシャンでアルティメット・ファルコンへ攻撃!」
「ぐっ――!」
トラピーズ・マジシャンが空中ブランコで空を駆け、ステッキを振るうと共に輝く星が散りばめられ、明滅して巨大化、流星の如くアルティメット・ファルコンに降り注いで激突、胸部を撃ち抜き、墜落する。
「『ワンショット・ワンド』の効果により、このカードを破壊し、1枚ドロー!」
デニス・マックフィールド 手札2→3
「マスクド・ナイトを守備表示に変更し、カードを2枚セット、ターンエンドだよ」
デニス・マックフィールド LP4000
フィールド『Emトラピーズ・マジシャン』(攻撃表示)『Emカップ・トリッカー』(守備表示)『マスクド・ナイトLV7』(守備表示)
『ディメンション・ガーディアン』セット2
Pゾーン『Emファイヤー・ダンサー』『Emボーナス・ディーラー』
手札1
「俺のターン、ドロー!」
「この瞬間、トラピーズ・マジシャンの効果発動!ORUを1つ取り除き、君のトリビュート・レイニアスに2回攻撃権を与える!」
『デニスどうした事か!相手に塩を送るプレイング!』
「チッ、面倒な事を……」
「あ、やっぱり分かっちゃう」
「何が塩を送るだ。傷口に塩を塗るの間違いだろう」
チッ、とデニスの狙いを理解した隼が苦々しい表情で舌打ちを鳴らす。そう、デニスの狙いは決して隼へメリットのある行為をプレゼントしたのではなく――むしろその逆、笑顔と言う仮面の奥に、とんでもない凶器を隠し持っている。
「偽るのがそんなに楽しいのか……?」
「?何か言ったかい?」
「いや……バトルだ!トリビュート・レイニアスでトラピーズ・マジシャンに攻撃!」
「トラピーズ・マジシャンの効果により、僕はこのカードの攻撃力より低いダメージを受けず、このカードが破壊された事でデッキから『Emウィング・サンドイッチマン』をリクルートする!」
Emウィング・サンドイッチマン 守備力2100
トラピーズ・マジシャンの破壊を起動とし、フィールドに現れたのは背に純白の羽を持つ軍人のモンスターだ。
「トリビュート・レイニアスで攻撃し――バトルを終了」
「この瞬間、トラピーズ・マジシャンの効果を受けたトリビュート・レイニアスは破壊されるよ!」
ボン、と力に呑み込まれ、オーバーヒートしたトリビュート・レイニアスの翼にひびが走り、赤い炎を上げて爆発を起こす。そう、これこそが本当の狙い。2回攻撃の代償として支払われる対価だ。まるで組んだ筈のないローンを支払わなければならないような感覚に隼が溜め息を溢す。
『何とデニスの狙いはトリビュート・レイニアスの破壊!これで黒咲のモンスターは全滅だ!』
「構わん、カードをセット、ターンエンドだ」
黒咲 隼 LP1050
フィールド
セット2
手札0
「僕のターン、ドロー!手品のタネが尽きちゃったかな?こっちはまだまだカードを残してるよ!」
「ならば全て見せてもらおう!タネを明かした上でな!」
「それは困る。マスクド・ナイトの効果でダメージを与えるよ!」
「墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、このターンの効果ダメージを半分に!」
黒咲 隼 LP1050→300
「かろうじて逃れたか……ペンデュラム召喚!『Emウィング・サンドイッチマン』!」
Emウィング・サンドイッチマン 守備力2100×2
「さぁ、行くよ!レベル5のモンスター3体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『Em影絵師シャドー・メイカー』!」
Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2600→2900
3体の『Em』を素材とし、デニスのD-ホイールの影から這いずり出たのはペラペラと紙のような影の体を持ち、巨大な鋏を持った奇妙なモンスター。重い素材を持っているが、出せば強力なモンスターだ。
「そいつか……」
「『RUM』を持ってないからダサいだっけ?必要ないんだよねぇ、そんなの無くたって、僕は君に勝てるのさ!」
「根に持ってやがる……」
「マスクド・ナイトを攻撃表示に変更!バトルだ!シャドー・メイカーで攻撃!」
「永続罠、『強制終了』!セットカードを墓地に送り、バトルフェイズを終了する!」
「やるねぇ、でもとっとと倒れてラストホイーラーに譲ってくれたら助かるかな。ターンエンド!」
デニス・マックフィールド LP4000
フィールド『Em影絵師シャドー・メイカー』(攻撃表示)『マスクド・ナイトLV7』(攻撃表示)
『ディメンション・ガーディアン』セット2
Pゾーン『Emファイヤー・ダンサー』『Emボーナス・ディーラー』
手札1
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『強制終了』をコストに2枚ドロー!」
黒咲 隼 手札0→2
「そして『RRーネクロ・ヴァルチャー』を召喚!」
RRーネクロ・ヴァルチャー 攻撃力1000→1300
ここで現れたのは紫色のボディを持った鳥獣だ。今この危機にこのカード、風は隼に吹いている。
「このカードをリリースし、墓地の『RUM』をサルベージする!」
「無駄だよ!カウンター罠、『無償交換』!モンスター効果の発動を無効にして破壊!君は1枚ドローする!」
黒咲 隼 手札1→2
「ならこれはどうだ?魔法カード、『エクシーズ・リベンジ』!墓地よりレヴォリューション・ファルコンを蘇生し、シャドー・メイカーのORUを奪い取る!」
RRーレヴォリューション・ファルコンーエアレイド 攻撃力2000→2300
カウンター罠でデニスが隼の狙いを外そうとするも、直ぐ様隼が軌道修正を行う。発動されたのは彼に相応しい名を持つ魔法カード。その効果により、エアレイドが反逆の翼を翻す。アルティメット・ファルコンと並ぶ一発逆転のエースを呼ぶカードだ。
「バトル!エアレイドでシャドー・メイカーに攻撃!」
「永続罠、『強制終了』!『ディメンション・ガーディアン』をコストにバトルを終了するよ!」
「チッ、同じカードを……!魔法カード、『一時休戦』を発動!次のターン終了まで互いのダメージを0にし、互いに1枚ドローする!」
黒咲 隼 手札0→1
デニス・マックフィールド 手札1→2
「カードを1枚セットし、ターンエンドだ!」
黒咲 隼 LP300
フィールド『RRーレヴォリューション・ファルコンーエアレイド』(攻撃表示)
セット1
手札0
「僕のターン、ドロー!装備魔法、『ワンダー・ワンド』をシャドー・メイカーに装備!」
Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2900→3400
「シャドー・メイカーが効果の対象になった事で、ORUを取り除き、効果発動!エクストラデッキの同名モンスターを呼び出す!」
Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2600→2900
シャドー・メイカーが自身を鋏で切り裂き、分裂する。これこそがシャドー・メイカーの強力な効果だ。効果の対象になっただけで分身する。
とは言え隼のエアレイドは破壊されればレヴォリューション・ファルコンは特殊召喚したモンスターとの戦闘時、その攻撃力を0にする効果を持っている。特殊召喚が多くなっている現在だからこそ真価を発揮するエクストラモンスターキラーが多い『RR』。その厄介さは伊達ではない。嫌な敵がセカンドホイーラーに居座ったものだ。これを退けるには中々骨が折れる。LPを半分以上削られる事も覚悟しなければならない。
「ま、僕のする事は変わらないさ!楽しくいこうよ、楽しくね!『ワンダー・ワンド』とシャドー・メイカーを墓地に送り、2枚ドロー!」
デニス・マックフィールド 手札2→4
「全く僕って奴はつくづくツイてるねぇ……!バトルだ!シャドー・メイカーでエアレイドに攻撃!」
ガキン、とシャドー・メイカーの鋏が鋼鉄のボディを持つレヴォリューション・ファルコンをも容易く切り裂き破壊する。これで後はレヴォリューション・ファルコンを突破するのみ。幸い、先程のドローで『禁じられた聖杯』を手にした。これでレヴォリューション・ファルコンを無効化し、マスクド・ナイトで切り裂く。だが――残念、隼の狙いは、更に上。
「フ、かかったなアホウが!」
「何――!?」
「速攻魔法、『RUMーデス・ダブル・フォース』!」
「それは確か、戦闘破壊されたエクシーズモンスターを倍のランクにランクアップさせる――レヴォリューション・ファルコンのランクは6……ランク12!?」
デス・ダブル・フォース、サテライト・キャノン・ファルコンを呼び出したカードが今再び発動される。エアレイドのランクは6、倍となれば12、最高到達地点とも言える、超弩級のモンスターの登場の予感にデニスが冷や汗を垂らす。あのアルティメット・ファルコンをも越える大型モンスターが、フィールドに飛来する。
『黒咲、ここでランクアップ!ランクは何と12!限界突破だぁーっ!』
「ランクアップこそ、俺のエンタメと言う事だ!行くぞ!1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築!我が魂のハヤブサよ!揺るぎない信念と深い慈愛の心で堅牢なる最後の砦となりて降臨せよ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ、『RRーファイナル・フォートレス・ファルコン』ッ!!」
RRーファイナル・フォートレス・ファルコン 攻撃力3800
革命のハヤブサが赤き炎に包まれ、守護のハヤブサに進化して飛翔する。現れたのは赤い装甲に包まれ、頂に黄金の鳥が飾られた正しく要塞の名に相応しい、黒咲 隼、最強にして最高、鉄壁の切り札。揺るぎなき鉄の意志、鋼の強さ、そして優しさを秘めたカードだ。
「これが……!」
「そう、これが、これこそが俺の真の切り札!このカードで貴様の仮面を剥ぎ取ってやる!」
「――何を……!」
「分かっている筈だ、貴様が何よりも!『RR』をORUとしたこのカードは、他のカードの効果を受けない!」
「アルティメット・ファルコンと同じ完全耐性……僕はマスクド・ナイトを守備表示に変更、カードを2枚セットし、ターンエンドだ!」
デニス・マックフィールド LP4000
フィールド『Em影絵師シャドー・メイカー』(攻撃表示)『マスクド・ナイトLV7』(守備表示)
『強制終了』セット2
Pゾーン『Emファイヤー・ダンサー』『Emボーナス・ディーラー』
手札2
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体を回収し、2枚ドロー!」
黒咲 隼 手札0→2
「速攻魔法、『ツイン・ツイスター』!『強制終了』とセットカードを破壊!」
「ぐっ――!速攻魔法、『禁じられた聖杯』!シャドー・メイカーの攻撃力を400アップ!」
Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2600→3000
「これで邪魔な壁はなくなった!さぁ、行くぞデニス!本当のお前を、引き摺り出す!バトルだ!ファイナル・フォートレス・ファルコンでシャドー・メイカーへ攻撃!」
デニス・マックフィールド LP4000→3200
「ぐっ、あぁぁぁぁっ!!」
ファイナル・フォートレス・ファルコンより発射される葵熱線が一直線にシャドー・メイカーに迫り、影をも焼き尽くす勢いで眩き閃光が全てを呑み込み、デニスのLPを削る取る。一撃、そして――。
「ファイナル・フォートレス・ファルコンの効果発動!墓地の『RRーフォース・ストリクス』を除外し、再攻撃を行う!」
「連続攻撃……!?」
「1度で駄目なら、何度でも!それがアイツが俺に教えてくれた事だ!マスクド・ナイトへ攻撃!」
「くぅ、ううぅぅぅっ!」
墓地より紫色の翼を広げる鳥獣、ファジー・レイニアスがファイナル・フォートレス・ファルコンの両翼に宿って再起動。翡翠の砲撃が大地を焦がしながら突き進み、仮面の騎士を呑み込む。ジルのフェイバリットカードだけあって善戦する強敵だった。が、これで1500のバーンダメージはなくなった。モンスターも全滅。今、この瞬間が勝負所。
「再びフォース・ストリクスを除外し、3度目の攻撃を可能に!これが俺の全力全開!やれ!ファイナル・フォートレス・ファルコン!」
3度目――ありったけの想いを込め、閃光がデニスに迫る。これで決着か――誰の目から見ても明らかな、その時。
「甘いねぇ!エンタメデュエリストは、ピンチの時こそ輝くのさ!特殊召喚されたモンスターの直接攻撃宣言時、墓地の『Emボール・ライダー』を蘇生する!」
Emボール・ライダー 守備力1800→2100
デニスのエンタメが炸裂する。ファイナル・フォートレス・ファルコンの熱線を遮るように現れたのは巨大なボールに乗ったマジシャン。トラピーズ・マジシャンのORUとして墓地に送られたペンデュラムモンスターだ。このペンデュラムモンスターはエクシーズと相性が良く、こうして相手の攻撃を防ぎ、エクストラデッキへと舞い戻り、再びORUとなって墓地に送られる事で何度もデニスを手助けする。まさかまさかのどんでん返し、デニスの大脱出マジックショーに会場が盛り上がる。
『デニス、危機を脱出!見事なプレイングだぁーっ!』
「くっ、だがボール・ライダーも倒し、貴様のモンスターは0だ。どう出る?」
「フ――どうやら君にはバレてるようだし――その誘いに乗ろうかな?」
「漸くと言う訳か。ならば見せてもらおう、デニス・マックフィールドのデュエルを。俺はこれでターンエンドだ」
黒咲 隼 LP300
フィールド『RRーファイナル・フォートレス・ファルコン』(攻撃表示)
手札0
隼がデニスを挑発した事で、笑顔の仮面に隠された彼の本性が刺激され、今舞台に引き摺り出されようとする。漸くだ、漸く、本当の彼が明らかとなる。
「僕のターン、ドロー!お望みとあらば見せようか!デニス・マックフィールド、今世紀最大のショーを!Show time!罠発動!『エクシーズ・リボーン』!墓地の『Em影絵師シャドー・メイカー』を蘇生し、このカードをORUに!」
Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2600→2900
「そして魔法カード、『アームズ・ホール』を発動!デッキトップをコストに、装備魔法、『ワンダー・ワンド』をサーチし、シャドー・メイカーに装備!」
Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2900→3400
「勿論、ORUを取り除き、2体目を呼び出すよ!」
Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2600→2900
「『ワンダー・ワンド』の効果により、このカードとこのカードを装備したシャドー・メイカーを墓地に送り、2枚ドロー!」
デニス・マックフィールド 手札2→4
「魔法使いカード、『手札抹殺』!手札を全て捨て、3枚ドロー!来た来た来たぁ!ここまで思った通りに回ると堪らないね!黒咲ィ!君は勘が良いから色々嗅ぎ回っていたようだけど――貴様の言う通り、我輩こそが真の悪である!」
カチャリ、デニスが懐から取り出した、趣味の悪い仮面が彼の顔を覆い隠すように装着される。その行為を見て、僅かに顔をしかめる隼。
「阿呆が、俺が見たかったのはそんなものではない……!」
ボソリ、と誰にも聞こえぬ声音で隼が呟くが――デニスは止まらない。より拍車をかけ、悪役に没頭する。
「ペンデュラム召喚!『Emボール・ライダー』!」
Emボール・ライダー 守備力1800
「魔法カード発動ゥ!『オーバーロード・フュージョン』!墓地に存在する『古代の機械猟犬』、『古代の機械飛竜』、『古代の機械箱』、『古代の機械熱核竜』を除外し、融合ゥ!古の魂の受け継ぎし機械仕掛けの猟犬共よ!その10の首混じり合わせ混沌にして絶大なる力とならん!融合召喚!現れろ!『古代の機械混沌巨人』!」
古代の機械混沌巨人 攻撃力4500
そして現れる――融合次元、アカデミア、オベリスク・フォースを象徴する1枚のカード。猟犬の頭部を模した青く錆びたボディを鈍く光らせる、破壊の巨人。『古代の機械混沌巨人』。――そう、デニスは、彼は――アカデミアから送られたスパイ。
『で、で、デカーイ!デニスまさかの融合召喚!攻撃力なんと4500ゥ!超弩級のモンスターの登場だぁーっ!』
「そう、これが本当の僕さ!君の妹、瑠璃を拐ったのも!君のご協力、ハートランドを侵略するGOサインを出したのも、全て僕!ランサーズに潜り込んだの、スパイの為!どうだい黒咲ィ?ショックかい?それとも想定通りで、僕が憎い?聞かせてくれよ、君の心を!」
ニヤニヤと歪んだ笑みを貼りつけ、おかしそうに早いを挑発するデニス。そんな彼に、隼は――。
「……んなもの……」
「ん?何かな?」
「そんなものっ、とっくに分かり切ってるわマヌケがぁぁぁぁぁっ!!」
「……ッ!?」
ゴウッ、一筋の烈風が隼を中心として駆け抜け、腹の底から放たれる怒号が響き渡り、思わずデニスが気圧される。
「バレてないと思ったか?騙せていると思ったか?ちゃんちゃらおかしいわ!」
「は、ハハハハハ!そうかい、そんなに僕が憎いかい?怒りが沸いて来るかい?」
「ああ憎いさ!だがな……っ、今俺が怒っているのはそちらではない!俺が怒っているのは、未だに偽り続ける貴様の態度だワカメ野郎!」
ギリギリと歯軋りの音を鳴らし、カッと目を見開いて隼がデニスを罵倒する。ズレている。彼とデニスの中で何かが。そのズレが――彼の怒りの正体。デニスはそれに見当もつかず、その為更に隼の怒りを刺激する。
「何を言おうがここで終わりさ!カードを2枚セット、バトルだ!『古代の機械混沌巨人』でファイナル・フォートレス・ファルコンに攻撃!クラッシュ・オブ・ダークネス!」
「迎え撃て!ファイナル・フォートレス・ファルコン!」
隼とデニスのモンスター。ファイナル・フォートレス・ファルコンと、『古代の機械混沌巨人』が互いに前に出、攻撃を開始する。光線を撃ち出す赤い猛禽と、その光を腕で裂く青の巨人。勝つのは勿論、攻撃力で勝る混沌巨人。隼の怒号も虚しく、巨人は左腕で光線を払いながら前進し、右腕から極太のビームを放ち、赤き猛禽を地に叩きつけ、破壊、粉々に砕く。
口惜しい――彼を倒せない事だ。隼は舌打ちを鳴らし、D-ホイールからスモークを上げながらクルクルと回転し、ピットへ辿り着く。
黒咲 隼 LP300→0
「チッ、負けたか……!」
「大丈夫か黒咲?」
「アリトか……何ともないが、全く苛々させられる……おい沢渡!後は頼むぞ!」
ピットから迎えに来たアリトに答えながら隼はヘルメットを脱ぎ捨て、チーム沢渡のリーダーにしてラストホイーラーへと全ての望みを託す。
沢渡 シンゴ。この男に勝負の行方と、デニスへの答えがかかっている。のだが、沢渡が隼へと振り向き――ゲッソリと頬が痩け、青くなった顔を見せる。
「あ……今、大きい声出さないでくれますか……?」
「……」
何これ。ただならぬ様子の沢渡を見て、隼がアリトに問うように振り向く。アリトは気不味そうな表情で目を泳がせながらも、重々しく彼が疑問に思っているであろう事に答える。
「今朝、こいつが飲んだ牛乳が腐ってたらしくてな……腹を壊したらしい」
「あ……あ……!」
くらり、予期せぬ展開に隼が目眩を感じて天を仰ぎ、口をパクパクと開く。何故、こんな重要な時に、本当にこの男は――。
「アホかァァァァァッ!?」
天に木霊する隼の魂の叫び。怒髪、天を突く。先程のデニスへの怒りをも越え、呆れ混じりの咆哮が会場中に響き渡り、何だ何だと観客がザワザワとどよめき、チーム沢渡へと視線を向ける。
この反応も当然だろう。大事なものが賭けられた一戦、その最終試合、ラストホイーラーである沢渡が――本来は遊矢達と闘った時のように、絶好調で臨みたい今この時に――逆に、どん底とも言えるような、最悪も最悪の絶不調に陥っているのだから。
動揺する隼を尻目に、沢渡は「あんまり大きな声出さないで……」と、青い顔で腹を抑えながらD-ホイールをヨロヨロと走らせ始める。
しかし、最早後戻りは出来ない。例えゴロゴロと腹が不気味に鳴ろうとも、仲間が繋いだバトンを受け取らねばならないのだ。チーム名に自分の名をつけ、リーダーになると我が儘を言ったからには尚更に。
相手フィールドには融合次元、アカデミアの精鋭部隊、オベリスク・フォースの操る切り札、超弩級融合モンスター、『古代の機械混沌巨人』。対する沢渡のフィールドは0、しかも調子が左右するデュエルスタイルの彼は、現在――絶不調。
だが、こんな逆境だからこそ、エンタメデュエリストの真価が発揮される。
「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」
と言っても――
「腹が痛い……!」
不安材料は、とてつもなく多いが。
黒咲さんはデニスの事をキン肉バスターでボコボコにしたいと思う位、彼のした事を憎んでいて、その程度でおさまる位成長していて、彼の事を想っています。