時は戻り、セレナとデイモンのデュエルが行われる前へと巻き戻る。クロウをデッキ切れに追い込みはしたも、敗北してしまったユーゴは選手用のベンチへと繋がる廊下をフラフラと歩き、唇を血が出るまで強く噛み、右拳を思い切り壁へと叩きつけた。ガンッ、と重い音が廊下内に反響し、拳の痕が僅かに壁に残る。
負けた――実際は引き分けと言って良い内容だ。格上相手に健闘したと誰もが口を揃え、ユーゴを讃えるだろう。だが、彼には到底納得出来なかった。
ユーゴは自身の親友であるセクトを救おうと心に誓ったのだ。それが、この様。このままではセクトを救う事等不可能。
今回のデュエルを通し、自分の実力不足を痛感し、彼はベンチから逃げるように飛び出し、ここまで来たのだ。
こんな姿、誰にも見せたくなかった瞳から涙が溢れ、全身から力が抜けたように壁に背を預け、ズルズルと倒れ込む。
「……ぁぁぁぁ……!」
腕で隠すように涙を拭い、嗚咽を溢す。限界だった。遊矢達の前では何でもないように振る舞っていたが、1人になってしまえば自分への情けなさや嫌悪感で胸が張り裂けそうになる。
無様で、情けない。少なくともユーゴが理想とする男らしいデュエリストとは全く異なる。弱々しい姿。誰にも見せたくない姿。だったのだが――。
「……」
「……えと」
不意に腕を目から放した途端――目の前でツンツンと指を突っつき合い、気不味そうに汗を垂らす自身と似た顔立ちの少年、遊矢と目が合う。
何故、オマエガココニイル?
「何でいるんだよぉぉぉぉぉ……!」
「あの、えと、1人になりたいかなって思ったんだけど、やっぱり放っておけなくて」
「1人にしろよぉぉぉぉぉ……っ!」
思わず嗚咽と共に遊矢を非難するユーゴ。何だ、この男は。空気の読めない、いや、読めるんだけど敢えて無視する行動。デリカシーの無いユーゴでさえ腹が立つ。
「お前……マジでふざけんなよっ……!俺がどんな気持ちなのか分かっててやってんだろ……!」
「うん」
「見られたくないのに来たんだろ!」
「うん」
「ざっけんな!」
ギリリと歯軋りを鳴らし、怒りに任せてユーゴが拳を振るう。だが――パシッ、と、乾いた音と共に遊矢の掌に受け止められる。
「ごめん、だけど泣いてる友達を放っておくなんて、俺には出来ない」
真剣な表情で、遊矢はユーゴを肯定し、受け止める。こうなるのは分かっていた。だけど、遊矢は分かっていてここに来たのだ。苦しんで、悩んで、泣いてる仲間を放っておけず、半ば身体が勝手にここに来ていた。
「ッ!何だよ、それ……!」
「大きなお世話だって分かってる。余計なお節介だって分かってる。だけど、俺は仲間と一緒に笑って、気が楽になった。仲間の肩で泣いて、前を見れた。だから、俺がそうしたくて、そうしてる」
「……そうかよ、だったら勝手にしろ!」
チッ、と一際大きく舌打ちを鳴らし、ユーゴは床に座り込む。何なんだコイツは。鬱陶しくてお節介にも程がある。止めろと言っても聞きやしない頑固者だ。誰だって苛立たしく思うに違いない面倒臭い男だ。勝手にズケズケと人の心に上がり込んで、居座って当たり前のように振る舞う。気に入らない。
「言われなくても勝手にするよ」
ドカリ、遊矢が少々荒っぽくユーゴの隣に座り込む。ガンガン距離をつめて来る奴だ。最早こちらが折れるしかないと諦めの悪いユーゴも諦め、溜め息を吐く。
「何なんだよお前、本当に意味分かんねぇ」
「なら分かり合おう。ユーゴの悔しさも、悲しみも、半分ずつ」
「……」
ニコリと微笑みをユーゴに向ける遊矢。彼は、ユーゴの悔しさを少しでも和らげようとしている。本当に、お節介な奴。気に入らない奴だ。だけど――不思議と突き放すような真似が出来ない。それもまた何だか癪で、ユーゴはフイと顔を背け、唇を尖らせる。
「俺もさ、嫌な事があったら、こうしてゴーグルかけて、現実から目を背けて逃げてたんだよ」
ほら、と何がおかしいのか、遊矢はゴーグルを装着し、ユーゴに笑いかける。
「……そんなもんと一緒にすんな。俺は別に、目を背けてなんかいない」
「あはは、確かにな。ユーゴは多分、嫌な自分と向き合ったから、そんな自分に苛立ってるんだもんな」
「……」
「自分の弱さが、誰かの想いに応えられなくて悔しい。もっと強くなれたらって」
「……」
押し黙ってそっぽを向くユーゴに対し、遊矢は天井を見上げて呟く。無力な自分、弱い自分、期待に応えられない自分――。誰だって持っている、自分の嫌いな自分。遊矢にだってそれはある。伸ばした手が届かなかった悔しさは、今でも胸に残っている。膝をついた悔しさは、今でも胸を締め付ける。
「自分には出来ないって、怖くなるんだよな。だけど――そんな自分も、自分なんだ」
「……」
「無力でも力だ。弱くても力なんだ。受け入れて、自分の血肉にして、強くなれる」
「――」
目を見開き、掌を見つめる。無力に嘆くからこそ、弱さを悔しいと思うからこそ、人は強くなれる。何も出来ない自分だって、何かが出来る自分に変えられる。そうして遊矢は、強くなって来た。
「それにさ――」
「……」
スッ、と遊矢は立ち上がり、ユーゴの前に出て手を差し伸べて屈託のない笑みを見せる。
「俺達は同じチームの仲間だ。例え1人で出来ない事も、3人いれば出来る。俺にも、手伝わせて欲しい」
「……お前……」
「俺はユーゴを友達だと思ってる。会ったばかりだけど、まだ何も知らない者同士だけど、これから分かり合えば良い。それに――ユーゴの友達は、俺にだって友達だ」
都合の良い言葉だと思う。だけど、それがどうにもユーゴには眩しく見えて、その光に向かって手を伸ばす。ガシリと握られた掌は、友情の始まりを物語っていた。
「まだ、認めた訳じゃねぇぞ」
「……」
「俺を信じさせたきゃ、このデュエルで勝ち抜いてみろ。見ててやるからよ」
「……あぁ」
突き放すように、照れ混じりに遊矢にそっぽを向け、鼻頭を掻きながらもユーゴは遊矢に向かって一歩、歩み寄る。今はまだ、これだけで良い。彼らはまだ、友達未満なのだから。
「……しっかしお前のそー言う所、リンにそっくりだな」
「リン?」
「ん、ああ、俺の幼馴染みでよ、見た目は柚子にそっくりで、性格は柚子のストロングさとお前のお節介な所を足したよーな、何つーかオカン染みた、まぁ、ちょっと可愛いって言うか、嫌いじゃないって言うか、そんな女なんだけど」
「……ええと」
リン、と言う名を聞き、首を傾げる遊矢に対し、ユーゴがニヤニヤ、いや、どちらかと言うとデレッとした表情で照れ混じりに笑い、その名の主である幼馴染みの少女の説明を始める。最初は褒めているのか良く分からなかったが、徐々に若干美化が入ったような思い出を語るユーゴ。
凄く、覚えがある。遊矢がこのシンクロ次元で会った、1人の少女に。彼女は遊矢から見て、柚子じゃなかった。また、セレナでもない。隼から見ても、妹である瑠璃では無い。
スタンダード次元の榊 遊矢と柊 柚子。エクシーズ次元のユートと黒咲 瑠璃。黒コナミが言っていた融合次元のユーリとセレナ。そして――シンクロ次元のユーゴとリン。全てのピースが合わさり、パズルが完成する。合点が、いった。
同時に――デレッとした顔で思い出第2部に入るユーゴの背後に、1人の人物が現れる。そして、その少女こそが。
「えっとさ、ユーゴ」
「ん?何だよ。今良いトコなんだぞ。それから俺達は泣いてるリンにあるカードを渡したんだがな」
「そのリンって子さ、もしかして、こんな子だったり……する?」
スッ、と遊矢は何故かこの場にやって来たマントを纏った少女のフードをパッと取り、ユーゴに見せる。ふわりと揺れるウェーブがかったミントグリーンの髪とアホ毛。ピクリともしない無表情に山吹色の瞳。マントの内側には柚子が着用していたものと似たライダースーツ。そう、彼女こそ――。
「そーそー!こんな感じでムスッとした感じで――うん?」
ユーゴの言う、リンそのもの。見本が現れた事で同意するユーゴだが、遅れて固まり、頭上に疑問符を浮かべる。だって彼女は――ユーリとか言うアカデミアからの使者に、拐われた筈では――思いもよらず、思考が停止し、フリーズするユーゴに対し、エヴァ――リンはムスッとした表情のまま、ユーゴの下へと目にも止まらぬ速度で肉薄し、流星のように加速した右拳を、鳩尾に叩き込む。
「くぼぉっ!?」
ドズンッ、まるで巨大な重りが地面に激突したような音が響き、ユーゴが強烈な顔芸と共に苦悶の声を漏らす。痛そう、見ていた遊矢はうわぁ……と引く。そしてリンはと言うと。
「不愉快」
ピシャリと、鼻を鳴らし、無表情で握り拳を作る。
「おぉぉぉぉぉ……っ!い、イテェ……!夢じゃない……このストレートの威力、間違いない……リン!やっぱりリンなんだなっ!」
パァッと殴られたにも関わらず、リンと再会出来た感動に突き動かされ、ユーゴが何とか立ち上がり、眩しい笑顔をリンへと向ける。しかし――彼は知らない。
「貴方……誰?何か胸が、ムカムカするわ」
ピシリと、ユーゴが固まる。そう、彼女は今、記憶喪失となっているのだ。例えユーゴと再会したからと言って、その事実は変わらない。その光景に遊矢は胸が締め付けられるような気持ちになる。それもそうだ、自分がもしも柚子に忘れられていたらと思うと苦しくて堪らない。それも、折角再会したと言うのに。
「あのさ、エヴァ――リンは今、記憶喪失になってるみたいなんだ」
「……ハッ!えっ、な、何!?記憶そーしつ……!?どー言う事だ遊矢!説明してくれ!でないとまた泣きそうだ!」
遊矢の言葉に我に返ったユーゴが遊矢の肩を揺らし、必死に説明を求める。余程リンが大切なのだろう。遊矢もコクリと頷き、ユーゴに説明を始める。遊矢と彼女が出会った事から、記憶を失った事、知っている事、全てを。
そして、全てを説明するとと共に、ユーゴは悲しむ事も、悔しがる事もせず、何かを決心した表情でリンに向き合う。
「……何?ゆ、融合……?」
「融合じゃねぇ、ユーゴだ!……良いから、デッキ出せ」
「……何で……?」
手を差し出し、デッキを渡せと言うユーゴに対し、何故かユーゴに苦手意識があるリンはムッとした表情で身を引く。かなり傷つく反応だ。ユーゴはイラッとして青筋を浮かべ、そのまま強引な手段に出る。
「良いから借せってんだ!すぐ返すっつーの!」
「い……やぁ……!」
「お、おいユーゴ……!?」
ガシリと腰につけられたデッキケースを掴むユーゴと嫌がるリン。こうして見れば変態である。いや、実際変態である。どさくさに紛れ、フヒヒとユーゴが鼻の下を伸ばしている。
「うし!あった!」
「あっ……そのカードは……!」
と、ここでユーゴがリンから1枚のカードを奪い取る。どうやら記憶を失っていてもリンにとっては何となく大切なカードだと分かるらしい。奪われたカードを見て、不安そうな顔をする。
「そ、そんな顔すんなっつーの……!安心しろよ、このカードが何でお前にとって大切なのか思い出したら返してやるよ。つーか、俺が今、コイツに頼りてぇんだ。お守りみたいなもんだからな。俺にとっても、お前にとっても……あいつにとっても。俺がコイツで、お前の記憶を取り戻すから、見てろよ?」
リンから取ったカードを見て、感傷に浸るユーゴ。そんな彼を見て、リンは渋々と言った様子で唇を尖らせ、引き下がる。
「……ちょっとだけ……」
「おう!約束する!」
「……やっぱり、ムカムカする」
ニカリと笑うユーゴと、拗ねたように顔を背けるリン。それは彼等を知る者からすれば、正反対の光景だ。何時もは拗ねたユーゴに、リンが笑いながら励ますのだが――今はまだ。
「そう言えば、リンは何でここにいるんだ?」
と、ここで漸くリンがこんな所にいる事に対し、遊矢が問いかける。彼女はアカデミアから狙われているのだから、大人しくしていて欲しいのだが。
「……黒咲達から、遊矢に伝言」
「え……?」
――――――
時は戻り、フレンドシップカップ1回戦第2試合、チームランサーズVSチーム革命軍のライディングデュエルはセカンドホイーラー対決に託された。
ランサーズからは猛攻撃を仕掛ける融合軸のデッキ、『ムーンライト』の使いのセレナが。革命軍からはAカウンターを駆使し、テクニカルに相手を翻弄、次々とあの手この手を繰り出す『エーリアン』使い、デイモン・ロペスがアクションフィールド、『チキンレース』に変わったサーキットで火花を散らす。
セレナが押せばデイモンが華麗に流し、デイモンが切り込めばセレナが防ぎ、返しの刃を放とうとする。一進一退の激しいデュエル。ターンは今、デイモンに移る。彼のフィールドにはセレナからコントロールを奪った強力なモンスター、『月光舞獅子姫』がセレナの舞獅子姫と睨み合う形で剣を構えている。まるで鏡だ。
とは言えデイモンの舞獅子姫はAカウンターとコントロールを奪う為に相手に渡した『エーリアン・マーズ』によって効果が無効化されているが。
「来るが良い!ユーゴの想いに応える為にも、お前を倒す!」
「さぁて、俺のターン、ドロー!……ユーゴの想いに応える、ねぇ……俺だってシンジ達と信念を共にしてんだよ……負けられねぇ!」
セレナがユーゴから受け取ったバトンを繋ごうとする様子を見て、デイモンもまた闘志を燃やす。そう、彼もまた、譲れぬ想いを持っている。この大会に賭けた想いが。
「俺達がこのシティを変えるんだ……!スタンバイフェイズ、『「A」細胞増殖装置』の効果で『月光虎』にAカウンターを乗せる!」
月光虎 Aカウンター0→1
「魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換し、速攻魔法、『非常食』!『暗黒の扉』を墓地に送り、LPを1000回復!」
デイモン・ロペス LP500→1500
「『チキンレース』の効果でドロー!」
デイモン・ロペス LP1500→500 手札4→5
「『月光舞獅子姫』と『月光虎』のAカウンターを2つ取り除き、墓地の『エーリアンモナイト』を蘇生!」
「手札の『増殖するG』を切る!」
セレナ 手札3→4
月光舞獅子姫 Aカウンター1→0
エーリアンモナイト 守備力200
「A」細胞培養装置 Aカウンター5→4→5
「『エーリアン・キッズ』を召喚!」
エーリアン・キッズ 攻撃力1600
現れたのは光線銃を持った『エーリアン』の子供。攻撃力は1600、Aカウンターを溜めていけばこれでも充分に闘える。
「レベル4の『エーリアン・キッズ』に、レベル1の『エーリアンモナイト』をチューニング!シンクロ召喚!『宇宙砦ゴルガー』!!」
宇宙砦ゴルガー 攻撃力2600
セレナ 手札4→5
3度現れるデイモンのエース。レベル5にして攻撃力2600と言う高いステータスと優秀な効果を持ったモンスターだ。
「ゴルガーの第2の効果!コードAと培養装置のカウンターを使い、『月光虎』を破壊!」
「『月光虎』の効果!戦闘、効果で破壊された事で墓地の『月光蒼猫』を特殊召喚!」
古代遺跡コードA Aカウンター1→0
「A」細胞培養装置 Aカウンター5→4→5
月光蒼猫 守備力1200
「仇となったな、『月光蒼猫』の特殊召喚時、舞獅子姫の攻撃力を倍化する!」
月光舞獅子姫 攻撃力3500→7000
『おおっとデイモン、慎重な戦術が仇となった!』
「チッ、藪蛇だったか。まぁ良いさ、ゴルガーのもう1つの効果!コードAをバウンスし、お前のモンスター1体にAカウンターを乗せる!獅子姫を狙おうか!」
「手札の『エフェクト・ヴェーラー』を捨て、ゴルガーの効果を無効!」
「バトル!ゴルガーで蒼猫に攻撃!」
「蒼猫の効果により、デッキから2体目の『月光蒼猫』をリクルート!」
月光蒼猫 守備力1200
ゴルガーより放たれる熱線が蒼猫を撃つも、直ぐ様2体目の蒼猫が現れ、壁になる。カテゴリ専用のリクルートモンスター。同名縛りも無い為、厄介なものだ。
「舞獅子姫で『エーリアン・マーズ』へ攻撃!その効果でテメェのモンスターを全て破壊!」
「舞獅子姫は効果破壊されず、蒼猫は効果で3体目を呼ぶ!」
月光蒼猫 守備力1200
古代遺跡コード「A」 Aカウンター0→1
舞獅子姫の剣がマーズを切り裂き、刃先から巻き起こる爆発がセレナのモンスターを破壊する。とは言っても余り効果は無いようだが。
「2回目の攻撃!蒼猫を破壊!」
「蒼猫の効果で『月光彩雛』を呼ぶ!」
月光彩雛 守備力800
最後に呼び出されたのは素材を軽減する雛鳥だ。
「モンスターを残したか、カードを2枚セット、ターンエンド」
デイモン・ロペス LP500
フィールド『宇宙砦ゴルガー』(攻撃表示)『月光舞獅子姫』(攻撃表示)
『「A」細胞増殖装置』『「A」細胞培養装置』『古代遺跡コードA』セット2
手札2
「私のターン、ドロー!」
「罠発動!『毒蛇の供物』!爬虫類族のゴルガーとお前のフィールドの『月光彩雛』、『月光狼』を破壊する!」
「彩雛が効果で墓地に送られた事で墓地の『融合』を回収!」
ここでデイモンが舞獅子姫によって破壊される前にセレナの戦術を崩そうと考えたのか、ゴルガーを犠牲に2枚のカードを破壊する。素材軽減と墓地のモンスターで融合を行う『月光彩雛』と『月光狼』の破壊、これは手痛い反撃だ。
「速攻魔法、『手札断札』!互いに手札を2枚捨て、2枚ドロー!良し、魔法カード、『月光香』!墓地から『月光蒼猫』を蘇生!」
月光蒼猫 守備力1200
「効果で舞獅子姫の攻撃力を倍に!」
月光舞獅子姫 攻撃力3500→7000
「そして墓地の『月光香』を除外、手札を1枚捨て、デッキから『月光白兎』をサーチ、召喚!」
月光白兎 攻撃力800
「効果で墓地の『月光黒羊』を蘇生!」
月光黒羊 守備力600
「まだだ!『月光虎』のペンデュラム効果で『月光舞豹姫』を蘇生!」
月光舞豹姫 攻撃力2800
これでセレナのフィールドに5体のモンスターが揃った。とんでもない展開力だ。流石のデイモンも舌を巻く。
「白兎の効果でお前の魔法、罠を全てバウンス!」
「甘い!墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、その効果を防ぐ!」
「そう来ると思っていた。魔法カード、『融合』!フィールドの舞豹姫、白兎、黒羊を融合!融合召喚!『月光舞獅子姫』!!」
月光舞獅子姫 攻撃力3500
『再び舞獅子姫の融合召喚!重い素材にも関わらず、完璧に使いこなしている!』
このデュエル、3体目の舞獅子姫の融合召喚、そして並び立つ3体の舞獅子姫。重い素材であるこのカードを全て呼び出すとは大したものだ。
「素材となった黒羊の効果で『月光彩雛』を回収!バトルだ!」
「おっと、永続罠、『ディメンション・ガーディアン』!舞獅子姫を戦闘、効果破壊から守る!」
「チッ、カードをセットし、ターンエンドだ」
セレナ LP1000
フィールド『月光舞獅子姫』(攻撃表示)×2『月光蒼猫』(守備表示)
セット1
Pゾーン『月光虎』
手札1
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『精神操作』!『月光蒼猫』のコントロールを奪い、墓地の『シャッフル・リボーン』で戻してドロー!」
デイモン・ロペス 手札2→3
「培養装置のカウンターを2つ取り除き、『エーリアン・リベンジャー』を蘇生!」
「A」細胞培養装置 Aカウンター5→3→4
エーリアン・リベンジャー 攻撃力2200
「リベンジャーの効果発動!」
月光舞獅子姫 Aカウンター0→1×2
「更に『エーリアン・ソルジャー』召喚!」
エーリアン・ソルジャー 攻撃力1900
次々と現れる『エーリアン』。今度はその下級戦士。鋭い剣を持った騎士か剣士のようなモンスターだ。
「カードをセットし、バトル!舞獅子姫で舞獅子姫に攻撃!」
「永続罠、『デプス・アミュレット』!手札を1枚捨て、攻撃を無効に!更に彩雛の効果で『融合』を回収!」
「アクションマジック、『コスモ・アロー』手札に加えた魔法カードを破壊!2回目の攻撃!」
2体の舞獅子姫が妖しく光輝く刃を振るい、剣閃と火花が散る。ぶつかり合う2頭の獅子。縄張りを争う女王。勝ったのは――デイモンの舞獅子姫だ。『ディメンション・ガーディアン』が有る限り、セレナの不利だ。
「ターンエンドだ。『シャッフル・リボーン』の効果で手札のアクションマジックを除外」
デイモン・ロペス LP500
フィールド『エーリアン・リベンジャー』(攻撃表示)『エーリアン・ソルジャー』(攻撃表示)『月光舞獅子姫』(攻撃表示)
『「A」細胞増殖装置』『「A」細胞培養装置』『古代遺跡コードA』『ディメンション・ガーディアン』セット1
手札1
「私のターン、ドロー!墓地の『置換融合』を除外、舞獅子姫をエクストラデッキに戻し、ドロー!」
セレナ 手札1→2
「魔法カード、『マジック・プランター』!『デプス・アミュレット』をコストにドロー!更に魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!」
セレナ 手札1→3→4
「『激昂のミノタウルス』を召喚!」
激昂のミノタウルス 攻撃力1700
「『月光虎』の効果で『月光舞豹姫』を蘇生!」
月光舞豹姫 攻撃力2800
「魔法カード、『受け継がれる魂』!舞豹姫を墓地に送り、舞獅子姫の攻撃力を2800アップ!」
月光舞獅子姫 攻撃力3500→6300
『セレナ打点を上げるが――『ディメンション・ガーディアン』が有る限り、デイモンのフィールドの舞獅子は無敵!『チキンレース』でダメージも与えられない!』
「カードを1枚セット、バトル!舞獅子姫で『エーリアン・ソルジャー』へ攻撃!」
古代遺跡コードA Aカウンター1→2
「効果で『エーリアン・リベンジャー』を破壊!」
古代遺跡コードA Aカウンター2→3
「そして速攻魔法、『ツイスター』!LPを500払い、『ディメンション・ガーディアン』を破壊!」
セレナ LP1000→500
セレナの手より旋風が巻き起こる。『サイクロン』には劣るが、『チキンレース』を使用するこのデュエルでは彼女を助ける。
「舞獅子姫で舞獅子姫を攻撃!」
「罠発動、『攻撃の無敵化』!戦闘ダメージを0に!」
今度はセレナの反撃だ。美しく輝く刃が振るわれ、幾重もの剣閃が走り、デイモンの舞獅子姫の動きを圧倒、翻弄し、こちらの動きについていけなくなった所で神速の突きが貫く。キャットファイト2戦目、制したのは本来の使い手であった。
「私はこれでターンエンド」
セレナ LP500
フィールド『月光舞獅子姫』(攻撃表示)『激昂のミノタウルス』(攻撃表示)
セット1
Pゾーン『月光虎』
手札0
「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、増殖装置の効果で激昂のミノタウルスにカウンターを乗せる」
激昂のミノタウルス Aカウンター0→1
「魔法カード、『ハーピィの羽帚』!お前の魔法、罠を破壊する!」
「『月光虎』の効果で墓地の『月光蒼猫』を蘇生!」
月光蒼猫 守備力1200
「効果で舞獅子姫の攻撃力を倍に!」
月光舞獅子姫 攻撃力3500→7000
「チッ、そっちからでもとか……インチキ過ぎるだろ。俺はコードAのカウンターを使い、『エーリアン・ヒュプノ』を蘇生!」
古代遺跡コードA Aカウンター3→1
エーリアン・ヒュプノ 守備力700
「A」細胞培養装置 Aカウンター4→5
「ヒュプノを再度召喚、効果で『激昂のミノタウルス』のコントロールを得る。そして『激昂のミノタウロス』をリリースし、墓地から『BFー隠れ蓑のスチーム』を特殊召喚!」
BFー隠れ蓑のスチーム 守備力1200
「カードをセット、ターンエンドだ」
デイモン・ロペス LP500
フィールド『エーリアン・ヒュプノ』(守備表示)『BFー隠れ蓑のスチーム』(守備表示)
『「A」細胞増殖装置』『「A」細胞培養装置』『古代遺跡コードA』セット1
手札0
これでデイモンは全ての役目を果たした。少々相手に戦力を渡す事、そして後続の相手があのジャック・アトラスを倒した榊 遊矢と言うのが気がかりだが、最初からジャックを倒すつもりだったのだ。シンジに任せておけば何とかなる筈。絶対の信頼を寄せ、最後のセットカードに望みを託す。
彼にとってシンジは恩人だ。トップスから助けてくれた男、そしてこのシティを引っくり返すと言う目的を与えてくれた男。彼に恩を返す為、そしてトップス至上主義と言う社会を変える為、彼は全力を尽くす。
「俺達が変えるんだ、ガキ共の未来を……!」
「私のターン、ドロー!」
「この瞬間、罠発動!『破壊指輪』!隠れ蓑のスチームを破壊し、互いは1000のダメージを受ける!」
「相撃ちだと――!?」
「そう言うこった!俺はテメェより弱い!だけど弱くても倒す方法はあるんだよ!ユーゴって言うガキみたいにな!」
『デイモン、何とここで相撃ち狙い!執念を見せる!』
「お前……そこまで……!」
「俺にだって夢はあるんだよ!」
これがデイモンの、最後のカード。最後の覚悟。自身を犠牲にしてでも相手を倒し、次へと繋げる道筋。
「くっ、私は速攻魔法、『魔力の泉』を発動!5枚ドローし、2枚を捨てる!」
セレナ 手札0→5→3
そして、隠れ蓑のスチームが光輝き、轟音と共に爆発を起こす。
セレナ LP500→0
デイモン・ロペス LP500→0
セカンドホイーラー対決、決着。そこに勝者は存在せず、2人の敗者が自身のベンチへ戻っていく。セレナは魂のモンスターを、デイモンはパーツを託し、ラストホイーラーが今、D-ホイールに搭乗する。
「すまねぇシンジ。俺に出来るのはここまでだ。舞獅子姫が残っちまった」
「気にするなデイモン。お前は良くやってくれた。これで1対1、互角の勝負に持ち込める」
項垂れ、謝罪するデイモンの肩をポンと叩き、シンジ・ウェーバーはヘルメットを被りながらデイモンを励ます。勝負は自分の手にかかっていると言うのに彼の表情に陰りは見えず、寧ろ自信に溢れている。
「後は俺が、シティを変える。革命の時だ」
全ての夢を背に乗せ、彼は挑む。その背中は、紛れもないリーダーのものだ。
「すまない遊矢、ユーゴ、負けてしまった」
「気にするなよ。セレナの想いはフィールドに残ってる。ユーゴの想いも墓地にある。このデュエル、俺達が勝つ」
ぐぬぬと悔しがるセレナに苦笑しながら、遊矢はユーゴとセレナ、チームメンバーに視線を移し、ヘルメットを被り、ゴーグルを装着する。彼の表情も曇りなく、不敵な笑みを浮かべている。
「さぁ、楽しもうぜ」
その身体に想いを乗せ、彼は挑む。その姿は、ただのチームメンバーのものだ。
「遊矢、お前……」
「柚子の無事が分かった。それに、それ以上の事もだ」
「柚子が……良かった。ん?それ以上?」
「後で話すさ」
「よう大将、準備万端か?」
「俺は大将じゃないよ、シンジ」
「そうかい……全力で行くぞ」
「ああ、こっちも全力だ」
互いに並び立つ。託されたものを乗せ、今、彼等は走り出す。
「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」
ちょっと最近忙しくて遊矢VSシンジが終わり次第暫く更新停止するかもです。