遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

129 / 202
スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800←分かる。
グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力3300←分かる。
覇王眷竜スターヴ・ヴェノム 攻撃力2800←分かる。
覇王紫竜オッドアイズ・ヴェノム・ドラゴン 攻撃力3300←分かる。
スターヴ・ヴェネミー・ドラゴン 攻撃力2500←まぁ、分かる。
スターヴ・ヴェネミー・リーサルドーズ・ドラゴン 攻撃力2800←!?
ダーク・アンセリオン・ドラゴン 攻撃力3000←!?!?

バランスが分からない……。ヴェネミーでバランス取っといて何でアンセリオンの攻撃力が3000なのか、ランク7だからと思えばまぁ、分からないでも無いけど、リーサルドーズは進化体なのに300アップってどう言う事なの……?


第124話 イテテ……

フレンドシップカップ、1回戦第1試合、チームサティスファクションVSチームセキュリティのデュエルは、セルゲイの手によりセキュリティの勝利となった。……チームサティスファクションのメンバーに深い傷を残して。

 

デュエルに敗北した事により、徳松は地下労働施設送り。鬼柳はセクトとの絆を裂かれ、重傷を負い、こちらも治療が終わり次第地下送りとなる。そして最後のメンバー、柊 柚子は――セルゲイの操る禍々しいモンスター、『地縛神』の攻撃でビルに激突、現在彼女の確保を画策するロジェの手により、セキュリティによる捜索が行われているものの、行方不明となっている。

 

それでも、フレンドシップカップは進行する。そんな中――シティ、コモンズ達が住居を構える下層エリアのとあるビルにて、その少女は目覚める。

 

「イテテ……ここは一体……私は確か……」

 

少女の名は柊 柚子。セルゲイに吹き飛ばされ、爆発に呑み込まれた筈であるが――そのストロングさ故に身体が頑丈に出来ているのか、傷1つ無い。彼女はそのまま少々痛む頭を抑え、よろめきながらも立ち上がって辺りの様子を見る。コモンズの廃墟か何かだろうか――と言っても随分と綺麗で清潔感があり、妙に人が住んでいる気配がする。

 

「そうだ、私、セルゲイに……!」

 

漸く自分がセルゲイに敗北した事を思い出し、反射的に飛び上がるが――そんな彼女の前に意外な人物が姿を見せる。

 

「あ、起きたのね!」

 

「え――あなたは――」

 

――――――

 

「クソッ、柚子、柚子っ……!」

 

一方、行政評議会管理のビルにて保護されている遊矢は、柚子がセルゲイに吹き飛ばされた事で冷静さを失い、テーブルの上から無造作にデュエルディスクを掴み取り、荒々しく部屋を飛び出そうとしていた。無理も無いだろう、彼にとって柚子は心の支えとも言える大切な少女だ。

チャンピオンシップで行方不明となっただけでも我を失っていたのだ、彼女の無事が分からない今、鬼気迫る形相となっている。その彼の前に現れたのは――赤帽子にゴーグルを装着し、赤いジャケットを肩からかけた少年、コナミだ。

 

「落ち着け遊矢、お前には試合があるだろう」

 

「これが落ち着けるか!退いてくれコナミ!試合なんかどうでも良い!柚子の方が大切だろう!?」

 

「分かっている。だが態々試合が控えているお前が行く事は無い!」

 

親友であろうコナミが相手だろうと容赦無く食らいかかり、柚子の元まで急ごうとする遊矢をコナミが宥める。コナミとて柚子を見捨てろと言っている訳ではない。

 

「オレの試合は最後だ、お前の次の試合に出る黒咲、そして試合に出ないユートと零羅も柚子を探すと言っている。だからここはオレ達に任せてくれないか?」

 

「ッ!」

 

そう、ここで遊矢が行けば彼が失格になってしまうだろう。だからこそ試合まで時間があるコナミ達が捜索に出ようと申し出たのだ。

 

「……任せて、良いんだな?」

 

「赤馬の許可は得ている。オレ達は別のチームに別れてもランサーズだ。仲間を信じろ」

 

漸く落ち着いた遊矢が覚悟を決めた表情でコナミに語りかける。本当は自分が行きたい。だが――ここは信じられる友に託す。

 

「ごめんコナミ、俺焦って……柚子を頼む。このカードを、ユートに」

 

「任せろ、必ず無事で終わらせる」

 

ガシリと握手を交わし、2人は互いに違う道に進む。そんな彼等の前に現れたのは――次の試合、遊矢の所属するチームランサーズと対決するチーム革命軍のリーダー、シンジ・ウェーバーだ。

 

「柊 柚子の事は諦めるんだな、残念だが、あの子は助からない。助かったとしても、ここに戻れば地下送りだ」

 

「シンジ……」

 

「だから、柊 柚子のような犠牲者を出さない為にも、俺達がシティを変えるしかねぇ……!」

 

バシリ、右拳を左手に殴り付け、やる気満々と言った様子のシンジ。その瞳の奥にあるのは我欲か、復讐か、いずれにせよ彼の言葉は聞き捨てならない。コナミは駆けつけて来るユート達を視界におさめながらシンジの真横を通り過ぎる。

 

「柚子は助かるし、残念ながらお前の目的は果たされん。その事を、大事な事を、お前の目の前にいる奴が教えてくれる筈だ」

 

遊矢がいる限り、彼の黒い野望は叶えられる事は無いと、コナミは友を信じて先に進む。後は互いに任せるのみ。遊矢は第2試合に向け、コナミは柚子救出の為、迷わずに道を進む。

 

「来たかユート、零羅。少々急ぐ、舌を噛まんように気をつけろ」

 

「ん?」

 

「……?」

 

ガシリ、コナミがやって来たユートと零羅を脇に挟み、窓を開く。まさかこの男――ひょっとしなくても、またとんでもない事をしようとしていないか。

 

「成程、確かに手っ取り早いな」

 

ニヤリ、対する隼はコナミ側なのか、不敵な笑みを浮かべる。そして2人はデュエルディスクよりデュエルアンカーを射出、向かいのビルへと引っ掛け――タンッ、窓から一気に飛び降りる。

 

「ちょまっアーっ!?」

 

「……!?……っ!?」

 

「ついて来い黒咲!」

 

「ああ!」

 

ああじゃないが。心の準備もさせてくれぬ即決行動にユートと零羅が動揺する。相変わらず無茶をする2人である。2人を抱えてアンカーを使いこなすコナミも流石だが、それについていく隼もとんでもない。そして4人は地に着地し、ビルの裏口に辿り着く。

 

「し、死ぬかと思った……!」

 

「……」

 

余りのとんでも体験にぐでんと倒れるユートと零羅。零羅に関しては最早魂が抜けている。幼い子供にはショックが強すぎたか。しかし全く反省しないコナミは気絶した零羅を小脇に抱え、気にも止めずに再行動に出る。

 

「情けないぞユート、それでもレジスタンスか」

 

「もう俺レジスタンスじゃなくて良い」

 

ピョンピョン飛んだり跳ねたりするのに最早レジスタンスは関係ない気がする。むしろ赤い配管工に近い。

 

「さて、行こうか。余り時間はかけてられん」

 

任務開始、コナミは零羅を脇に抱えたままと言う人拐いスタイルで、隼はサングラスをかけ、口元にスカーフを巻いた不審者スタイルで街を駆ける――。目的は柚子の捜索。ユートはその姿では職質を受けるぞとツッコミたかったが――もう面倒臭いので放置した。

 

――――――

 

一方その頃、フレンドシップカップの会場では、D-ホイールの準備の為、チームランサーズのメンバー、榊 遊矢、ユーゴ、セレナの3人がピットに揃っていたのだが――。

 

「やんのかコラ?」

 

「やってやんよオラ」

 

「良い加減にせんか貴様等!同じ顔同士で睨み合うな気持ち悪い!」

 

「ウキャ!」

 

「ぐふっ、その顔でその台詞は効く……!」

 

そこで繰り広げられていたのは遊矢とユーゴの喧嘩であった。彼等はピットで顔を合わせた途端、珍しく遊矢の方から無言でメンチを切り、それに感化されたユーゴが睨み返して額をぶつけ合う程睨みを効かせ、罵倒し始めたのだ。

 

間に挟まれたセレナとSALとしては堪ったものでは無い。普段は温和な遊矢が喧嘩を売ると言う不可解な行動に戸惑いながらもセレナは彼等を引き剥がす。このままでは試合になった時、チームワークが心配だ。

 

何せ相手は沢渡を倒したクロウ・ホーガンとそれに比肩するであろう実力を持つシンジ・ウェーバー率いるチームなのだ。同じ仲間でもあり、連携も高い筈、少なくともいがみ合っているようでは勝てない。

 

「おい遊矢、一体どうした?何時ものお前なら誰であろうと仲良くする筈だ。少なくとも自分から喧嘩を売るような真似を……まさか柚子の事で気が立っているのではあるまいな?」

 

「ウキャキキ」

 

彼のらしくない行動にもしかすれば柚子の無事が分からないからなのでは?と探るセレナとSAL。一番考えつくものはこれだが――遊矢は、ムスリと頬を膨らませたまま腕を組み、ユーゴを睨みながら答える。

 

「それもあるかもしれない」

 

「む」

 

「何だよ八つ当たりか?分からねぇでも無いが――」

 

「でもその前にこいつはユートを傷つけたんだ」

 

「おふぅ」

 

予想外の言葉に頭をガシガシと乱暴に掻いていたユーゴの手が止まり、頬から空気が抜けるような間抜けな声を漏らす。そう、遊矢は最初からユートの消滅の事でユーゴに怒っていたのだ。戻って来たとは言え、友を傷つけたユーゴを見て、普段のように接する事が出来なかったと言う訳だ。

 

「成程、だそうだぞ融合」

 

「融合じゃねぇ!ユーゴだ!……わ、悪かったよ……あの時は俺も意味分かんなくてさ……一応あのナスビ野郎……ユートにも謝った」

 

「だそうだ遊矢、お前もいきなりだったし、そんな調子では皆を笑顔には出来んぞ」

 

「うぐ……」

 

「この通り!」と手を合わせ頭を下げるユーゴを見て、セレナが溜め息を吐きながらジトリとした視線を遊矢に向ける。喧嘩両成敗。いきなり睨んで来た遊矢も悪く、こんな事ではアカデミアを笑顔には出来ないとセレナは遊矢も叱りつけているのだ。遊矢は言葉をつまらせ、眉を伏せた後、反省してユーゴに頭を下げる。

 

「俺も……柚子の事で気が立っていたんだと思う……いきなりごめん」

 

「と言う訳だ。2人共、どうする?」

 

「気にすんなって!元々俺が悪かったみたいだし、許すぜ!」

 

「ああ、俺も許すよ。何時までも恨み合うなんて嫌だからな。どうせなら仲良くなりたい」

 

再びのセレナの問いに対し、2人はカラッと晴れたような笑顔で互いを許す。2人共何時までも憎み合うような性格ではない。握手を交わし、仲直りをする2人を見て、うんうんとセレナが頷く。

 

「うむ、一件落着と言う訳だな!」

 

「ウキッ!」

 

この調子ならば上手くすれば善戦出来るだろう、セレナが一安心し、SALが彼女の肩で一鳴きした、その時だった。

 

「ま、何たって俺はこのチームのリーダーだからな!器が大きいのよ!」

 

「は?」

 

「あ?」

 

カーン、2回戦開始のゴングが鳴り響き、再び遊矢とユーゴが額をぶつけ、メンチを切り合う。一難去ってまた一難。何とも前途多難なチームである。思わずSALがセレナの肩からズルリと落ち、呆れ返る中――。

 

「馬鹿者!リーダーは私だ!」

 

主人であるセレナまでも参戦し、リーダー争いは更にもつれ込む。何なんだこのチーム。SALは思わず両手で顔を覆い、器用にミザル状態となる。

 

――リーダーは俺だろうに、ええい、それよりチカチカチカチカとそこの娘のブレスレットが眩しいわ!――

 

そこで更に遊矢の脳裏に例の声が響き、遊矢の影から発生した黒い瘴気がセレナの手首で光るブレスレットを覆い――一際大きく輝く。

 

――イワァァァァァァクッ!?――

 

「ええ!?」

 

「ッ!?」

 

悲鳴を上げる謎の人物。それっきり声はうんともすんとも言わなくなり、セレナのブレスレットからも光が失われたのであった――。

 

――――――

 

「駄目よ今動いちゃ、目立った外傷が無いとは言え、あんなに派手に吹き飛ばされたんだから」

 

「え、で、でも……」

 

「ダ、メ、よ?」

 

場所は移り、シティ、コモンズが居を構える下層エリア。そこでは同じ顔をした少女が備えつけられたソファに腰をかけさせ、叱りつけ、もう1人がしょんぼりと項垂れると言う奇妙な光景が繰り広げられていた。

 

1人はやや汚れたライダースーツを着て、ピンク色の髪をツインテールに纏めた少女、現在、遊矢が行方を心配する幼馴染みであり、コナミ達が捜索している柊 柚子だ。

彼女の額を指で小突き、叱りつけたのはそんな柚子と似た顔立ちに紅玉の瞳、美しい黒髪を首近くで括った少々大人びた少女だ。

彼女はしゅんとする柚子を見て苦笑した後、ギュッと柚子に抱きつく。

 

「もうびっくりしちゃったわ、いきなりいなくなったと思ったら大会に出てて……あんなに吹き飛ばされたんだから……心配したのよ?」

 

「え?あ、えと、ごめんなさい……?」

 

「フフ、無事で良かったわ。ちょっと待っててね、今簡単なものを作るから。お腹空いてるでしょ?」

 

「わ、私は別に……」

 

妙に親しくして来る自分そっくりな少女に対し、柚子は意味も分からないまま会話を続ける。一体この少女は誰なのだろうか?セレナでは無いようだし、と考えた所で、キュー、と柚子の腹の虫が鳴く。思わず顔を赤くする柚子。恥ずかしく穴があったら入りたいとはこの事だろう。

 

「フフッ」

 

「い、いただきます……」

 

顔を真っ赤にして俯く柚子を見て、少女が吹き出す。何とも微笑ましい光景だ。少女は部屋に持って来た食材を手に取り、キッチンへと入っていく。

 

「待っててねリンちゃん!こう見えて私、料理が得意なんだから!」

 

「え?あの、もしかして貴女――」

 

柚子の事をリン、なる少女と勘違いする彼女を見て、柚子の頭からそう言えばユーゴの幼馴染みであり、自分と似た顔立ちの少女がリンだった事を思い出す。彼女は柚子をリンだと勘違いしており、彼女自身はセレナでない。と言う事は、やはり彼女は――。

と、その時だった。2人の青年がドタドタと別の部屋から外出しようとしていたのは。

 

「あら、サンダー、エアー、どうしたの?」

 

「何、少し知り合いを見つけただけだ。暫く出掛ける。絶対にここを出るな、何かあったら連絡しろ」

 

1人はツンツンとした黒髪に鋭い目付き、黒いジャケットを纏った全身黒一色の青年。もう1人はオールバックに髪を流し、黄色い制服のようなものを着用した、どこか影の薄そうな青年だ。この少女の知り合いなのか、親しそうに話している。

 

「もしかして……追手……?」

 

「いや、それは無いだろう。追手は完全に撒いた、ただ知り合いに借りを返すだけだ。お前はそいつと大人しくしていろ」

 

「分かったわ、夕飯には戻って来てね」

 

「俺は子供か……お前も勝手にフラフラ出歩くなよ」

 

「え?あ、はい」

 

サンダーと呼ばれた目付きの悪い青年がギロリと柚子を睨んで釘を刺す。どうやらこの男も柚子の事をリンと勘違いしている模様だ。と言う事は――このシンクロ次元に、リンがいて、アカデミアから狙われ、鍵を握る少女が4人、揃っていると言う事。

 

柚子は鬼気迫る男の表情に気圧されながらも頷き、チラリと少女に視線を移す。この少女は、やはり――サンダー達がバタバタと慌ただしく外出する中、柚子は少女の背に向かって語りかける。

 

「もしかして――貴女は、瑠璃なの……?」

 

「――え……?」

 

シンクロ次元にて、ゆっくりと揃う4人の少女。歯車は狂う。静かに、確実に――。

 

――――――

 

「……おかしいな……」

 

更に場所は変わり、柚子がセルゲイによって吹き飛ばされ、激突した高層ビル。様々なD-ホイールが並ぶその階にて、コナミ達はセキュリティに取り押さえられる前に足を踏み入れていた。

ザッ、と見渡すが、酷いものだ。窓のガラスは盛大に割れ、一部のD-ホイールの装甲がひしゃげて半壊されており、黒煙がモクモクと出ている。直ぐ様隼が消火器を使って鎮火する。

取り敢えず鬱陶しい煙は多少おさまったが、やはりおかしい。その原因は――。

 

「ああ、柚子がいない」

 

そう、柚子がいない事だ。あれ程派手に吹き飛ばされていれば、いくらストロングで頑丈な柚子とは言え、動けない筈だ。それなのにも関わらず、痕跡は残っていない。つまり柚子は誰かに連れ去られたと言う事だ。

3人の表情に緊張が走る。もしやアカデミアの手に捕らわれたかと、最悪の想像が脳裏を過る。そうなっては直ぐ様次元移動で足を掴めなくなる。

 

隼が舌打ちを鳴らす中、コナミはポイと小脇に抱えた零羅を雑にユートに投げつけ、裏口に回り込む。仮にも仲間を気絶させこの仕打ち、外道である。

 

「お、おいコナミ!何を……」

 

「少し待っててくれ、急ぐ」

 

そうして扉を開き、監視カメラの映像が写されたモニターを操作する。成程、ユートが彼のしようとしている事を察し、舌を巻く。

 

「監視カメラの記録を、見てるの……?」

 

「零羅、起きたのか……」

 

と、そこでユートが背負った零羅がモゾモゾと動き、コナミに視線を飛ばす。そう、コナミは残された監視カメラの映像を見て、柚子がどうなったのかを調べているのだ。

 

「ああ、それにセキュリティが負えないように偽装する。……あったぞ」

 

そして、モニターにその様子が写り、4人が覗き込む。そこに写っていたのは、吹き飛ばされる柚子がガラスを突き破り、こちらへと迫り来る瞬間、その時カメラに黒いものが移り込む。現れたのは白いマントを羽織った3人の怪しい人物。1人は柚子を背負う男、そしてもう1人はカメラから見切れた男、最後の1人は女性なのか、背が低く、線が細い。丁度柚子と同程度か。何やら彼女の存在に、ユートと隼がどこかで見たようなと考え込む。そして彼等は早足に部屋から出ていく。

 

「柚子はこいつ等に連れ去られたのか……?隼……?」

 

「……ん、いや、この女、何やら見慣れた動きをする……駄目だ、喉元まで出ているんだが思い出せないと言うか、いや、まさかな……?」

 

「兎に角直ぐに次元移動しなかったと言う事はアカデミアではないか、まだこの次元に用があるかだ。まだそこまで遠くにはいってない筈だ。周辺を調べるぞ」

 

「ッ、セキュリティが来た……」

 

「まぁ、放っては置かんだろうな、後片付けは奴等に任せて急ぐぞ!」

 

セキュリティに気づかれぬように忍び足でビルから脱出し、柚子の捜索を再開する。するとビルから離れた所で――彼等の上から影が差し、何事かと見上げる。そこにあるのは照りつく太陽をバックに飛び出す黒い人影。ユート達が眩しさで目を覆う中、その影はザッ、とコンクリートに着地し、4人の前に立ち塞がる。

 

「貴様等は――!」

 

眼前に現れたのは2人の男。1人はツンツンとした黒髪に鋭い目付き、黒一色のジャケットが特徴的な青年。もう1人はどこか影の薄い、黄色い制服を着用したオールバックの青年。その腕に着けたのは、アカデミア特有の、盾型のデュエルディスク。その身に纏う闘気は、どこかで味わったもの。

 

「久しいな、榊 遊矢、黒咲 隼!」

 

「尤も、あの時は顔も名も隠していたから覚えてなくても不思議じゃないがな」

 

「……」

 

彼等はユートを遊矢と勘違いし、隼と共に名を呼ぶ。この男達は2人を、正確に言えば遊矢と隼を知っている。彼等の姿や声、闘気を頼りにユートと隼は記憶から2人を引き出し――コナミは彼等を見て、帽子の奥の瞳を見開き、黙り込む。そう、彼等は――。

 

「オベリスク・フォース・サンダーと……えっと……」

 

「エアーだよ!何でそっちだけ忘れるんだ!」

 

「……改めて名乗ろうか、俺はオベリスク・フォース・サンダー改め、万丈目 準!」

 

「オベリスク・フォース・エアー改め、三沢 大地!」

 

オベリスク・フォース・サンダーとオベリスク・フォース・エアー。スタンダート次元にて、次元を巻き込んだ舞網チャンピオンシップ、バトルロイヤルで遊矢と隼のコンビを苦戦させた強敵だ。最終的に遊矢達が勝利したものの、それはバトルロイヤルと言うルール、そして2人の力を合わせた事が大きいだろう。あの時は単純な実力は2人が上だった筈、しかも彼等は、手を抜いていたのだ。

 

「お前達が柚子を連れ去ったのか……!」

 

「?柚子、何の事だ?俺達は貴様等にリベンジを果たしに来ただけだ!」

 

そう言ってサンダー、万丈目とエアー、三沢はデュエルディスクよりワイヤーを射出し、万丈目がユートに、三沢が隼を拘束し、大きく引っ張り跳躍する。

 

「ッ!ユート、黒咲……!」

 

「ぐっ、コナミ!零羅!こいつ等は俺達に任せて先に行け!こいつ等が出て来たと言う事は恐らく柚子は近くにいる!」

 

「ッ!わかった!ユート、このカードを!」

 

場所を変え、移動する中、ユートが構うなと声を張り上げてコナミ達を急かす。ここは足止めされ、時間を奪われるべきでは無い。コナミと零羅は頷いてユートに向かって1枚のカードを投げつけて駆ける。

 

「!このカード……さて、俺を分断したと言う事は、1対1で構わないんだな?」

 

「当然だ、今度は邪魔1つ入らない、1対1のデュエルと行こう」

 

「……少し違うな」

 

「何?」

 

ニヤリ、ユートが口元を吊り上げて笑みを描き、〝自信本来の〟デュエルディスクを左腕に巻き付け、1枚のカードをエクストラデッキにおさめた後、光輝くプレートを展開、続いてディスクのパネルを操作し、電子音が鳴り響く。

 

『アクションフィールド、『クロス・オーバー』発動』

 

瞬間、辺り一面が光の粒子に覆われ、青白く輝くブロックが宙に浮かぶ。そう、ユートはコナミ達と合流する前に遊矢達と同じアクションフィールドシステムを新たに得た自身のデュエルディスクを赤馬から受け取っていたのだ。

 

「随分と久しいな、このデュエルディスクも、デッキも……」

 

これにて、レジスタンスのユートはランサーズのユートへと完全復活を果たした。

 

「ふっ、アクションデュエルか……これ位のハンデは構わんだろう、行くぞ!榊 遊矢!」

 

「……俺も、改めて名乗ろう」

 

「俺の名はユート、このシンクロ次元では――ナッシュと名乗っている」

 

「ユートにナッシュ……聞いた事があるぞ、アカデミアを悉く撃退し、黒咲と肩を並べるレジスタンスの砦、ユート。そして――七皇の王、ナッシュ……!面白い、どちらが本名かは分からんが、榊 遊矢と再戦出来ん代わりに当たりを引いたようだ」

 

ニヤリ、ユートの名乗りに対して万丈目も口元を吊り上げて好戦的な笑みを浮かべ、デュエルディスクより光輝くプレートを展開する。両者ともに準備は万端、そして――激突。

 

「「デュエル!!」」

 

先攻はユートだ。彼はデッキから5枚のカードを引き抜き、思考する。今まで遊矢の隣や拾ったデッキで闘ったとは言え、このデッキではブランクがある。彼のスタイル的にもまずは防御を固めるべきだろう。

 

「俺はモンスターをセット、永続魔法、『幻影死槍』を発動、カードを1枚セットしてターンエンド」

 

ユート LP4000

フィールド セットモンスター

『幻影死槍』セット1

手札2

 

「消極的だな、俺のターン、ドロー!俺は『アームド・ドラゴンLV3』を召喚!」

 

アームド・ドラゴンLV3 攻撃力1200ターンが万丈目へと移り、彼の手より現れたのは小さなドラゴンの幼体だ。珍しい『LV』モンスターの1体であり、『ホルスの黒炎竜』と並んで稀少なカード。ただ今ではその効果は遅れつつあり、レアリティだけが目立つカードだ。

 

「『LV』モンスター……」

 

「ほう、知っているか」

 

「これでもデュエリスト養成学校にいたからな」

 

「成程、ならば『LV』モンスターを支えるこれも知っているだろう。魔法カード、『レベルアップ!』。『LV』モンスターを次の『LV』に進化させる!来い!『アームド・ドラゴンLV5』!」

 

アームド・ドラゴンLV5 攻撃力2400

 

召喚したモンスターを直ぐ様レベルアップ。これにより現れたのは黒と赤の鱗に棘を生やし、成長したドラゴンだ。その体躯は立派なものではあるが、少々太っている。

 

「バトル!『アームド・ドラゴンLV5』でセットモンスターへ攻撃!」

 

「罠発動!『幻影騎士団ウロング・マグネリング』!その攻撃を無効にし、このカードをレベル2、闇属性、戦士族、攻守0のモンスターとして特殊召喚!」

 

幻影騎士団ウロング・マグネリング 守備力0

 

ここで現れ、攻撃を防いだのはリング状の磁石を手にした罠モンスター。ユートお得意の罠モンスターによる戦術だ。

 

「ならばアクションマジック、『セカンド・アタック』!もう1度『アームド・ドラゴンLV5』でセットモンスターに攻撃!」

 

「くっ!」

 

早速アクションカードを利用し、戦術に取り入れる万丈目。流石だ。『アームド・ドラゴン』の拳がセットモンスターである『幻影騎士団フラジャイル・アーマー』の鎧を砕き、中より青い炎が霧散する。

 

「カードを1枚セットしてターンエンド。この瞬間、俺の『アームド・ドラゴン』は更に進化する!来い!『アームド・ドラゴンLV7』!」

 

「俺もウロング・マグネリングと『幻影死槍』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

アームド・ドラゴンLV7 攻撃力2800

 

ユート 手札2→4

 

互いに更に手を打つ。ユートは新たに2枚ドロー。万丈目は『アームド・ドラゴン』を進化させ、より刺々しく鋭利に、メタリックボディへと。攻撃力2800。少々厄介だが耐性持ちでは無いならば対策は容易い。

 

万丈目 準 LP4000

フィールド『アームド・ドラゴンLV7』(攻撃表示)

セット1

手札3

 

「俺のターン、ドロー!俺は墓地のフラジャイル・アーマーを除外、手札の『幻影騎士団ダスティローブ』を墓地に送り、1枚ドロー!」

 

ユート 手札4→5

 

「そして俺は墓地のダスティローブを除外、デッキから『幻影騎士団サイレントブーツ』をサーチ!」

 

これこそがユートの戦術、罠モンスターによる防御に加え、ほとんどのカードが墓地から除外する事で効果を発揮する強力なものばかり。少しコナミの戦術に似ているが、その面ではユートが上を行くだろう。アドバンテージの取り方が違う。

 

「『幻影騎士団ラギッドグローブ』を召喚!」

 

幻影騎士団ラギッドグローブ 攻撃力1000

 

現れたのは青いデッサン人形のような上半身に青い炎の下半身、更に身体よりも巨大な腕を持ったモンスター。打点で不安な点が残る『幻影騎士団』にとっては優秀な1枚と言える。

 

「そしてフィールドに『幻影騎士団』が存在する事で『幻影騎士団サイレントブーツ』を特殊召喚!」

 

幻影騎士団サイレントブーツ 守備力1200

 

次は便利な特殊召喚効果を持ったローブを纏い、首と両手にあたる部位に枷を着けたモンスター。その名の通りブーツに憑依したのだろう、ユートの隣に立ち、トントンと上下してリズムを刻む。

 

「レベル3が2体か……」

 

「行くぞ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!戦場に倒れし騎士達の魂よ。今こそ蘇り、闇を切り裂く光となれ!エクシーズ召喚!現れろ、『幻影騎士団ブレイクソード』!」

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力2000→3000

 

エクシーズ召喚、ユートの眼前に黒き渦が広がり、2体のモンスターが光となって飛び込み、爆発、黒煙を裂き、現れたのは黒鉄の馬の下半身を持つ首無しの黒騎士。鎧の隙間なら青白い炎を吹き出し、その名の由来である鏡面の輝きを放つ、折れた剣を手にしたこのモンスターは、ユートにとってのフェイバリットカードだ。その性能も高く、時によっては彼がダーク・リベリオンよりも信頼して重宝している1枚と言える。

 

「エクシーズ素材となったラギッドグローブの効果でブレイクソードは攻撃力を1000アップする効果を得る!そしてカードを1枚セット、ブレイクソードのORUを取り除き、効果発動!俺のセットカードと『アームド・ドラゴン』を破壊!」

 

「させん!永続罠、『デモンズ・チェーン』!ブレイクソードの効果と攻撃を封じる!」

 

パキンとブレイクソードの周囲で回転するORUが弾け飛び、ブレイクソードの剣に吸収されて刃を取り戻したその瞬間、万丈目のフィールドから4本の鎖が伸び、ブレイクソードを縛りつける。効果は不発、しかも攻撃も封じられた。

 

「くっ……!」

 

「ラギッドグローブの効果は自身の効果では無く、エクシーズモンスターに与える効果、よって攻撃力もダウンする」

 

「見事なものだ。俺は墓地のサイレントブーツを除外、デッキの『幻影霧剣』をサーチ。カードを3枚セットし、ターンエンド」

 

ユート LP4000

フィールド『幻影騎士団ブレイクソード』(攻撃表示)

セット4

手札1

 

繰り広げられるユートと万丈目、フレンドシップカップの影で巻き起こるデュエル。勝負はまだ、始まったばかり――。




流石デュエリストだ!何ともないぜ!

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