行政評議会のビルにて、チームサティスファクションとチームセキュリティのラストホイーラー、柊 柚子とセルゲイ・ヴォルコフのデュエルをテレビのモニター越しに観戦する遊矢は嫌な予感をひしひしと感じていた。原因は分からない。あるとすればセルゲイがもしかするとアカデミアと通じているかもしれないと言う事か。状況は明らかに柚子有利、だがそれでも不安は拭えない。遊矢には何故か、セルゲイが自分から不利になっているようにしか見えないのだ。
「柚子……」
ギュッ、と首から下げたペンデュラムを握り締め、遊矢は瞳を揺らしながら画面を見る。今はただ、彼女の勝利を祈る事しか出来ない。それがどうにも、歯がゆかった。
――――――
一方、行政評議会の要人達が集う場にて、赤馬 零児は思考を繰り返していた。その理由は勿論、チームセキュリティがアカデミアと通じているか否かだ。現在月影に調べさせているが、恐らく間違いないだろう。ただ、証拠を掴まねば、セキュリティと言う権力相手に真っ向から刃向かう事になる。それは少々不味い。
それに――気になるのは、何故、彼がこの大会に参加しているのか、だ。何か目的があるのか、だとすれば――阻止しなければならない。
――――――
「俺のターン、ドロー!」
場所はサーキットへ移り、セルゲイのターンへ。明らかに興奮し、息の荒くなった彼は引いたカードを一瞥した後、手札から1枚のカードをデュエルディスクに差し込む。
「魔法カード、『ミラクルシンクロフュージョン』!フィールドのヴァン、ダーリ、そして墓地のズーマを除外し、融合!辛苦、痛み、凡庸なる価値を骸とし、全て脱ぎ去り、今茨の道を超えよ!融合召喚!現れよ!『茨の超越戒人-ヴァン・ダーリ・ズーマ』!」
茨の超越戒人-ヴァン・ダーリ・ズーマ 攻撃力0→2300
融合召喚、3体のモンスターが混ざり合い、現れたのはヴァン、ダーリ、ズーマがキメラのように茨で絡み合った悩ましくもおぞましいモンスター。シンクロと融合、227と同じくこの二種類を扱う戦術、やはり彼はアカデミアと通じているのだろう。柚子の気が引き締まる。
レベルは一気に上がり、8に、攻撃力も0から上がり、2300。強力な効果もある事も窺えるが、一体どのような計算をしてこの攻撃力になったのだろうか。
「このカードの攻撃力は2500から俺のLPを引き、2倍にした数値になる。2500から1350引き、1150、2倍にして2300だ」
随分と面倒な計算方法だ。これならば自身のLPを回復しつつ、LPの差分攻撃力をアップする『パーシアス』等の方がマシに見える。3体もモンスターを要求しているから尚更か。区別するならば融合モンスター、悪魔族な点を活かす事か。
「LPを100払い、ヴァン・ダーリ・ズーマの効果発動!プロディジー・モーツァルトの攻撃力を100にする!」
セルゲイ・ヴォルコフ LP1350→1250
茨の超越戒人-ヴァン・ダーリ・ズーマ 攻撃力2300→2500
幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力2900→400
LPを払う事で相手モンスターを弱体化させる効果。成程、この効果を持っているならば一気にワンショットキルに持ち込む事も可能だろう。ヴァン・ダーリ・ズーマが絹を裂くような悲鳴を上げながら車輪を回転させ、自身を傷つけて加速する。
「ヴァン・ダーリ・ズーマでプロディジー・モーツァルトへ攻撃ィ!」
柊 柚子 LP4000→1900
「くっ――!」
弾かれたように突き進み、プロディジー・モーツァルトを轢くヴァン・ダーリ・ズーマ。そのまま爆発を引き起こし、黒煙が吹き出し、柚子の機体を揺らす。だがまだLPは残っている。ヴァン・ダーリ・ズーマの攻撃力も対応出来ないものでは無く、反撃は充分可能だ。
「ターンエンド!」
セルゲイ・ヴォルコフ LP1250
フィールド『茨の超越戒人-ヴァン・ダーリ・ズーマ』(攻撃表示)
セット1
手札2
「私のターン、ドロー!私は魔法カード、『融合』を発動!手札の『幻奏の音女カノン』とフィールドのエレジーで融合!タクトの導きにより力重ねよ!融合召喚!今こそ舞台へ!『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』!」
幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2400
融合召喚、このターンからエンジンがかかり、『幻奏』の新たな力が炸裂、現れたのは山吹色の長髪をウェーブさせ、刃を持ったタクトを握り、黄金の仮面を被った音姫だ。
「マイスタリン・シューベルトの効果!貴方の墓地の『ゴヨウ・チェイサー』、『共鳴虫』と私の墓地のモーツァルトを除外し、攻撃力を600アップ!コーラス・ブレイク!」
幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2400→3000
マイスタリン・シューベルトがタクトを振るうと同時に旋律が流れ、セルゲイの墓地より3枚のカードを除外する。攻撃力は3000に、これで並のモンスターでは太刀打ち出来ない。
「バトル!マイスタリン・シューベルトでヴァン・ダーリ・ズーマへ攻撃!ウェーブ・オブ・ザ・グレイト!」
「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!」
セルゲイ・ヴォルコフ 手札2→3
マイスタリン・シューベルトが再びタクトを振るい、音が空気を震撼、波打ってヴァン・ダーリ・ズーマに襲いかかり、破壊する。見事な腕前にしかしおかしい。余りにも呆気ない。シンクロと融合、二種の召喚法を扱っているのに――まるで歯応えが無い。
「私はこれでターンエンド!」
柊 柚子 LP1900
フィールド『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』(攻撃表示)
セット1
手札1
「俺のターン、ドロー!フィールドゾーンにカードが存在する事で、俺は手札の『地縛囚人ストーン・スイーパー』を特殊召喚!」
地縛囚人ストーン・スイーパー 攻撃力1600
現れたのは黒い影に青の光を帯びたイルカのようなモンスター。先程までの『茨の囚人』シリーズとは別のカテゴリ。ただ囚人と言うにはその形は異形だ。
「そしてチューナーモンスター、『地縛囚人グランド・キーパー』を召喚!」
地縛囚人グランド・キーパー 攻撃力300
次も『地縛』モンスター、こちらはレベル1、チューナーであると言う事はここから出すのはシンクロモンスターか。
「魔法カード、『異界共鳴-シンクロ・フュージョン』を発動ぅ!フィールドのシンクロモンスターのシンクロ素材となり、融合モンスターの融合素材でもある一組を墓地へ送り、そのシンクロモンスターと融合モンスターをそれぞれシンクロ召喚、融合召喚する!」
「融合とシンクロを同時に!?」
発動されたのは何と融合とシンクロ、二種類の召喚法を同時に行う強力無比なカード、素材のモンスターのカテゴリやレベル、その他の条件を合わせねばならないが、彼のデッキはこのカードの真価を充分に発揮出来るように作られている。
セルゲイの背後でチューナーモンスター、グランド・キーパーが1つの光の輪となって弾け飛び、その中を潜り抜けるストーン・スイーパー。そしてその先で青とオレンジの渦が広がり、眩き閃光がリングと渦を照らす。
「大地に取り憑きし妖精よ、その妖しき力で万物を揺るがせ!シンクロ召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグレムリン』!」
地縛戒隷ジオグレムリン 攻撃力2000
シンクロ召喚、セルゲイのフィールドに2つの穴が空き、その中の1つから姿を見せたのは左翼に矢を縛り付け、黒き影に青い光の紋様を走らせ、2本の捻れた角を伸ばし、鎖や枷に繋がれた人型の悪魔。
「石に囚われし者よ!地に封じられし者と1つとなりて大地を掴め!融合召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグレムリーナ』!」
地縛戒隷ジオグレムリーナ 攻撃力2000
融合召喚、もう1つの穴より飛び出したのは黒き影に黄色い光のライン、額より伸びる一本角が特徴的な拘束された獣のようなモンスター。ジオグレムリンと対になるカードであり、並ぶ姿は狛犬のようだ。一気に2体のモンスターをエクストラデッキから呼び出すセルゲイ。
とは言ってもどちらも攻撃力は2000、マイスタリン・シューベルトには届かない。
『何とセルゲイ、シンクロと融合を同時に行いました!ここからどう出る!?』
「ジオグレムリンの効果!フィールドゾーンにカードが存在する場合、このカードを特殊召喚したターンのメインフェイズに1度、マイスタリン・シューベルトを対象に効果発動!相手はそのモンスターを破壊するかしないかを選択する!破壊すればこのターンのバトルフェイズはスキップされ、破壊しなければ対象のモンスターの攻撃力分、俺のLPが回復する!」
珍しい相手に効果を選択させるモンスター。運命の選択肢が柚子に突きつけられる。破壊すればバトルフェイズはスキップされるが、高攻撃力のマイスタリン・シューベルトを失い、次のターンにリカバリ出来るかどうか。
破壊しなければセルゲイのLPが3000回復、今まで削られた分が取り戻され、勝機を逃す可能性がある。
どうするか――柚子は迷うが、ここで間違えれば彼女は敗北する。もう1体のモンスター、ジオグレムリーナは相手モンスターが効果破壊された場合、自分フィールドのモンスター全てを破壊し、その攻撃力の合計ダメージを与える効果を持っている。ジオグレムリンとジオグレムリーナの攻撃力合計は4000、つまり破壊すればそこでジ・エンド。柚子が選択するのは――。
「破壊はしないわ!私はモンスターを信じる!」
ここで焦りを出さず、自分を信じて相手のLPを回復する。例え回復されても直ぐに取り戻すと言う心の表れだろう、見事な覚悟だ。その選択肢は知らずの内に彼女を救う。
「俺はLPを回復する……」
セルゲイ・ヴォルコフ LP1250→4250
心なしかしょんぼりとしているセルゲイ。痛みが快感な彼としては回復は余り嬉しくないのだろう。上司のロジェの命令だから回復カードも投入しているが。しかしこれでセルゲイのLPは4250、初期値まで戻ってしまった。ここからが本番と言う事か。
「カードを1枚セットし、ターンエンド!」
セルゲイ・ヴォルコフ LP4250
フィールド『地縛戒隷ジオグレムリン』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオグレムリーナ』(攻撃表示)
セット2
手札0
「私のターン、ドロー!魔法カード、『トレード・イン』!手札のレベル8モンスターを捨て、2枚ドロー!」
柊 柚子 手札0→2
「バトル!マイスタリン・シューベルトでジオグレムリーナへ攻撃!」
セルゲイ・ヴォルコフ LP4250→3250
「くふぅぅぅぅぅっ!罠発動!『運命の発掘』!戦闘ダメージを受けた際、1枚ドロー!」
セルゲイ・ヴォルコフ 手札0→1
マイスタリン・シューベルトがタクトを振るい、ジオグレムリーナを破壊する。ジオグレムリンの効果は分かっているが、このモンスターは別だ。そしてこの選択も正解。相手モンスターを効果破壊するだけで引導を渡しかねないこのカードは早々に退場させるに限る。逆にセルゲイは優秀なモンスターを失ったと言うのに悦びの声を上げているが。
「カードを1枚セットし、ターンエンド!」
柊 柚子 LP1900
フィールド『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』(攻撃表示)
セット2
手札1
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『地縛救魂』発動!フィールドゾーンに表側表示のカードがある場合、墓地より魔法カードと『地縛』モンスターを回収!俺は『地縛囚人グランド・キーパー』と『異界共鳴-シンクロ・フュージョン』を回収!」
フィールド魔法の存在が前提とは言え、逆にそれだけで1枚で2枚のアドバンテージを稼ぐ。しかもこのカード、1ターン制限も無く、回収する魔法カードは種類を問わない。つまり、『地縛救魂』で『地縛救魂』を回収すると言う荒業と可能なのだ。
「『地縛囚人グランド・キーパー』を召喚!」
地縛囚人グランド・キーパー 攻撃力300
「リバースカード、オープン!速攻魔法、『スター・チェンジャー』!グレムリンのレベルを1つ上げる!」
地縛戒隷ジオグレムリン レベル6→7
更にレベルを調整。これでシンクロの準備は整った。
「魔法カード、『異界共鳴-シンクロ・フュージョン』を発動!」
「また……!」
『ここでセルゲイ、またも異界共鳴を発動!『地縛』モンスター2体、レベル8!2体の大型が呼び出される!』
再び発動されるセルゲイのデッキのキーカード、『異界共鳴-シンクロ・フュージョン』。融合とシンクロを同時に行う強力な効果により、2体のモンスターが同調し、混ざり合う。
「地の底から蘇れ、戒め放つ翼持つ巨獣よ!シンクロ召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグリフォン』!」
地縛戒隷ジオグリフォン 攻撃力2500
シンクロ召喚、7つの星を1つのリングが縛り上げ、フィールドより飛翔するのは黒い影に緑の光る紋様を走らせ、蛇の尾を持った翼獣。獰猛な唸り声を上げ、ギロリと柚子のモンスターを睨む。
「地を這う囚人よ、刑場への道を歩み続ける囚人と1つとなり戒めを与える巨獣となれ!融合召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオクラーケン』!」
地縛戒隷ジオクラーケン 攻撃力2800
融合召喚、ジオグリフォンが天空の支配者ならこちらは海の魔物。イカの形状をした黒い影に紫色のラインを走らせた大型モンスター。しかし今回も攻撃力はマイスタリン・シューベルトに及ばない。だから――セルゲイは漆黒のD-ホイールを駆けさせ、アクションカードを掴み、デュエルディスクに差し込む。
「アクションマジック、『オーバー・ソード』!ジオクラーケンの攻撃力を500アップ!」
地縛戒隷ジオクラーケン 攻撃力2800→3300
これで攻撃力はマイスタリン・シューベルトを越えた。後は攻め込むのみだ。
「バトル!ジオクラーケンでマイスタリン・シューベルトに攻撃!」
柊 柚子 LP1900→1600
「くっ――!」
「ジオグリフォンでダイレクトアタック!」
「永続罠、『光の降臨』!除外されているプロディジー・モーツァルトを特殊召喚!」
幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力2600
あわや敗北、柚子の危機に現れたのはマイスタリン・シューベルトの効果によって除外されていたプロディジー・モーツァルトだ。攻撃力は2600、ジオグリフォンの攻撃力を僅かであるが越えた。追撃は不可、ジオグリフォンの効果を使えばあるいは突破が可能だが、そうすればジオグリフォンを失う。
「カードを1枚セットし、ターンエンド」
セルゲイ・ヴォルコフ LP3250
フィールド『地縛戒隷ジオグリフォン』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオクラーケン』(攻撃表示)
セット1
手札0
『柚子ちゃんプロディジー・モーツァルトを壁にし、追撃を回避!しかし現状はセルゲイの有利か!?』
「私のターン、ドロー!プロディジー・モーツァルトの効果発動!手札から『幻奏の歌姫ソプラノ』を特殊召喚!」
幻奏の歌姫ソプラノ 攻撃力1400
ここで現れたのは赤毛を揺らしたその名の通り、ソプラノボイスが特徴的な歌姫だ。彼女の融合戦術において頼もしい1枚だ。
「ソプラノの特殊召喚時、墓地のソロを回収!そしてソプラノとプロディジー・モーツァルトで融合!至高の天才よ!天使の囀りよ!タクトの導きにより力重ねよ!融合召喚!今こそ舞台に勝利の歌を!『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』!!」
幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ 攻撃力1000
融合召喚、柚子の背後に青とオレンジの渦が広がり、2体の天使が混ざり合い、淡い青の光を灯した花弁が出現、回転して花開き、姿を見せたのは青き瞳の幼き少女。天女のような羽衣を纏い、美しき歌声を上げる。これこそが柚子のエースカード、攻撃力こそ低いが、それを逆手に取り、有利に進める。
「バトル!ブルーム・ディーヴァでジオクラーケンに攻撃!」
『攻撃力の低いブルーム・ディーヴァで攻撃!?』
「ブルーム・ディーヴァは戦闘、効果で破壊されず、このカードの戦闘で発生する自分へのダメージは0になる!そして特殊召喚されたモンスターと戦闘を行ったダメージ計算後、相手モンスターとこのモンスターの元々の攻撃力の差分のダメージを与え、その相手モンスターを破壊する!リフレクト・シャウト!」
反射効果を有した戦闘、効果で破壊されない強力なモンスター。そのベエルゼの天敵と言える力がブルーム・ディーヴァの歌声となって表れ、ジオクラーケンの触手を跳ね返す。
セルゲイ・ヴォルコフ LP3250→1450
「うっ、うっ……!」
強烈、弱小モンスターの逆転で爆発が巻き起こり、セルゲイのD-ホイールがクルクルと回転する。ジオグリフォンには自軍の『地縛』モンスターが破壊された場合、相手モンスター1体を破壊する効果があるのだが、ブルーム・ディーヴァの耐性の前では不発に終わる。
「モンスターをセット、ターンエンドよ!」
柊 柚子 LP1600
フィールド『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』(攻撃表示)セットモンスター
セット1
手札1
再び逆転、今度は一転して柚子の有利となった。しかもブルーム・ディーヴァには強固な耐性がある。このまま押し切れば間違いなく勝てる。
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『アドバンスドロー』!ジオグリフォンをリリースし、2枚ドロー!」
セルゲイ・ヴォルコフ 手札0→2
このままジオグリフォンを置いてもブルーム・ディーヴァに破壊されると判断したか、セルゲイは強力なモンスターを手放す代わりに2枚のカードを手にする。この2枚で逆転は――出来ない。
「モンスターをセット、カードを1枚セットし、ターンエンド」
セルゲイ・ヴォルコフ LP1450
フィールド セットモンスター
セット2
手札0
『セルゲイ、逆転のカードを引き込めなかったのか!?このターンで終わりとなるのでしょうか!?』
「私のターン、ドロー!ソロを反転召喚!」
幻奏の音女ソロ 攻撃力1600
「更に『幻奏の音女オペラ』を召喚!」
幻奏の音女オペラ 攻撃力2300
現れたのは可愛らしい幼女のモンスター。レベル4にして攻撃力2300と言う破格のステータスを持っている。とは言っても召喚、反転召喚したターンは攻撃出来ないが。
「バトル!ソロでセットモンスターに攻撃!」
「ぐっ!」
「ブルーム・ディーヴァでダイレクトアタック!」
「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にして、1枚ドロー!」
セルゲイ・ヴォルコフ 手札0→1
「ターンエンドよ!」
柊 柚子 LP1600
フィールド『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』(攻撃表示)『幻奏の音女ソロ』(攻撃表示)『幻奏の音女オペラ』(攻撃表示)
セット1
手札1
「魔法カード、『ミラクルシンクロフュージョン』!墓地のジオグレムリンとジオグレムリーナで融合!地を司る悪魔よ、大地を掴む悪魔よ、今雌雄一つとなりて大いなる大地の底より来たれ、融合召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス』!!」
地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス 攻撃力3000
大地に眠る2体の悪魔が重なり合い、巨大な翼を広げる魔王と化す。黒き影にオレンジの紋様を走らせ、鋭き爪と野太い尾を振るう、捻れた山羊の角を伸ばした大地の悪魔。これこそがセルゲイの切り札。シンクロと融合を一体とした地上絵の存在。
「罠発動!『ブレイクスルー・スキル』!ブルーム・ディーヴァの効果を無効にする!バトル!ジオグラシャ=ラボラスでブルーム・ディーヴァへ攻撃!」
「罠発動!『仁王立ち』!オペラの守備力を倍にし、除外して攻撃を絞る!」
幻奏の音女オペラ 守備力1000→2000
柊 柚子 LP1600→900
あわやブルーム・ディーヴァが破壊され、敗北の危機に立たされたその時、罠を使ってオペラに攻撃を誘導する。ブルーム・ディーヴァは強力な効果を持っているが、元々のステータスが低い為、効果を無効化されてはただの的になってしまう。
「カードを1枚セットし、ターンエンド」
セルゲイ・ヴォルコフ LP1450
フィールド『地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス』(攻撃表示)
セット1
手札0
「私のターン、ドロー!バトル!ブルーム・ディーヴァでジオグラシャ=ラボラスへ攻撃!」
「罠発動!『フローラル・シールド』!攻撃を無効にし、1枚ドロー!」
セルゲイ・ヴォルコフ 手札0→1
「また攻撃反応系……!」
『ガード・ブロック』が戦闘ダメージを0にして1枚ドローするカードであり、このカードは攻撃自体を無効にして1枚ドローする類似カードだ。攻撃してもこうしてかわされ、手数を増やす。厄介極まりない、セルゲイとしてはダメージを受けられなくてしょんぼりである。
「メインフェイズ2、『幻奏の音女カノン』を特殊召喚!」
幻奏の音女カノン 守備力2000
次の攻撃に備え、柚子な防御手段を取る。現れたのは『幻奏』の表示形式を操るモンスターだ。このモンスターの効果で次のターンのブルーム・ディーヴァの無効対策を取る。
「カノンの効果でブルーム・ディーヴァを守備表示に変更、ソロを守備表示に変更し、ターンエンド!」
柊 柚子 LP1900
フィールド『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』(守備表示)『幻奏の音女ソロ』(守備表示)『幻奏の音女カノン』(守備表示)
手札1
『柚子ちゃん場を固めた!強固な壁を前にセルゲイの魔の手が迫る!』
「俺のターン、ドロー!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、ブルーム・ディーヴァの効果を無効に!バトル!ジオグラシャ=ラボラスでブルーム・ディーヴァに攻撃!このモンスターがシンクロ、融合モンスターと戦闘を行う場合、相手モンスターの攻撃力を0にする!」
幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ 攻撃力1000→0
悪魔が天使の花弁を散らす。能力を奪われ、花の盾を失ったブルーム・ディーヴァへとジオグラシャ=ラボラスが鋭き爪を突き立て八つ裂きにする。ダメージは無いが、その風圧、フィールによってジリジリ減速する柚子。だがまだまだ、モンスターは残っている。逆転の可能性はなくならない。
「カードを1枚セットし、ターンエンド!」
セルゲイ・ヴォルコフ LP1450
フィールド『地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス』(攻撃表示)
セット1
手札1
「私のターン、ドロー!カードを1枚セットし、ターンエンド!」
「この瞬間、罠発動!『無力の証明』!自分フィールドにレベル7以上のモンスターが存在する場合、相手フィールドのレベル5以下のモンスターを全て破壊する!」
「なっ――!?」
逆境の柚子に追い撃ちをかけるセルゲイ。彼が発動したカードにより、ジオグラシャ=ラボラスが尾を振るって『幻奏』モンスターを蹴散らす。巨大な悪魔を前に、柚子の天使達は余りに小さい。
「俺のターン、ドロー!永続魔法、『補給部隊』を発動!バトル!ジオグラシャ=ラボラスでダイレクトアタック!」
「罠発動!『威嚇する咆哮』!」
巨大な悪魔の猛威をかわす柚子。セルゲイも手強いが、柚子も食らいつく。少女と言うにはとんでもない根性だ。
「私は諦めない!徳松さんも鬼柳さんも、諦めなかった!遊矢だって何度挫けても立ち上がった!だから私だって諦めない!私だってデュエリストよ!鬼柳さんとセクトの絆を裂いた貴方達を許せない!」
「……!」
真っ直ぐに、一途にぶつけられる清く正しい心を前にして、セルゲイの瞳が揺れる。何と美しい心か、何と正しい少女か。手を伸ばしても届かない、太陽のような輝き。セルゲイはそれに対し――。
「俺はこれでターンエンド……」
セルゲイ・ヴォルコフ LP1450
フィールド『地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス』(攻撃表示)
『補給部隊』
手札1
「私のターン、ドロー!来た!私は速攻魔法、『死者への供物』を発動!次の私のドローフェイズをスキップし、ジオグラシャ=ラボラスを破壊!」
まずは厄介なジオグラシャ=ラボラスの破壊を。融合モンスターの攻撃力を0にするこのカードはブルーム・ディーヴァでしか対応出来ない。だからこそ効果で退場させ、セルゲイのフィールドをがら空きにする。
「『補給部隊』の効果でドロー!」
セルゲイ・ヴォルコフ 手札1→2
「更に私は魔法カード、『オスティナート』を発動!私のフィールドにモンスターが存在しない事で、デッキから『幻奏の音姫ローリイット・フランソワ』と『幻奏の音女アリア』を墓地に落とし、融合!」
融合の中でも特に強力、1枚で融合出来、デッキ圧縮も可能となるデッキ融合が炸裂する。これで呼び出すのは――。
「融合召喚!今こそ舞台に情熱の歌を!『幻奏の華歌聖ブルーム・プリマ』!」
幻奏の華歌聖ブルーム・プリマ 攻撃力1900→2500
現れたのはブルーム・ディーヴァと同じく一輪の花より咲き誇る幼き少女。美しき歌声をハイウェイに響かせるその姿は正に華歌聖。
「バトル!ブルーム・プリマでダイレクトアタック!」
魂を込めた一撃。これが決まれば柚子の勝利。セルゲイの場にはこれを防ぐ手立てはない。ブルーム・プリマの口の周りにリングが形成され、激しき情熱の歌が響き、リングを通して巨大化、セルゲイへと降り注ぐ。
「手札の『バトル・フェーダー』を特殊召喚!バトルを終了させる!」
バトル・フェーダー 守備力0
「これもかわされた――!」
現れたのは手札誘発モンスターの1体、『速攻のかかし』と並ぶバトルフェイズを終了させる防御札の1枚だ。鐘の形をした悪魔。このモンスターの利点はフィールドに残り、リリース要員や他の召喚の素材となれる事にある。逆に場に残る事で低いステータスを狙われ、貫通ダメージを与えられる事もあるが。
「ターンエンド。この瞬間、『オスティナート』の効果でブルーム・プリマを破壊し、その素材を蘇生する!」
幻奏の音姫ローリイット・フランソワ 守備力1700
幻奏の音女アリア 守備力1200
これが『オスティナート』のもう1つの効果。融合素材に選んだ一組をフィールドに蘇生するリカバリー手段にも長けた1枚だ。フィールドに呼び出されたのは墓地の光属性、天使族をサルベージする上級モンスター、ローリイット・フランソワと『幻奏』モンスターに戦闘、効果耐性を与えるアリア。中々に固い布陣だ。
「ブルーム・プリマの効果で墓地のブルーム・ディーヴァを回収!」
柊 柚子 LP900
フィールド『幻奏の音姫ローリイット・フランソワ』(守備表示)『幻奏の音女アリア』(守備表示)
手札0
今考えられる中でも強固な布陣を敷く柚子。だが何故だろうか、この布陣でも、嫌な不安が拭えず、背から冷たい汗が伝う――。
――――――
「……現状はセルゲイの不利、まさかあの少女がジオグラシャ=ラボラスも倒すとは」
治安維持局にて、椅子に腰かけたロジェはモニターをジッ、と観察し、僅かながら動揺していた。まさか柚子がここまでセルゲイを追い詰める程とは思ってもなかったのだろう。想定ではジオグラシャ=ラボラスを出せば何とかなると思っていたのだが――彼女はその想像を越える程に強い。
「――やはり、プラシド、お前の忠告を聞いておいて良かった」
「俺もここまでとは思ってなかった。想定外の為にあのコピーカードを出さざるをえないとはな――」
それでも、セルゲイには届かない。プラシドの与えたカードが無ければ、あるいは柚子の勝利も見えただろう。しかし、最早それは、あり得ない。何故ならセルゲイの手には――あの地に縛られし邪神の複製が、握られているのだから。
――――――
「俺のターン、ドロー!俺は『ジェスター・コンフィ』を特殊召喚!」
ジェスター・コンフィ 攻撃力0
フィールドに登場したのは玉に乗ったピエロのモンスター。優秀なサポートが受けられるカードであり、特殊召喚が容易な1枚だ。
「2体のモンスターをリリース!積年の恨み積もりし大地に眠る魂達よ!今こそ穢された大地より出でて、我に力を貸さん!アドバンス召喚!降臨せよ、『地縛神Chacu Challhua』!!」
地縛神Chacu Challhua 攻撃力2900
2体の贄を捧げ――今、邪神が君臨する。今までの『地縛』モンスターと似て非なる、悪魔を越え、統べる神。巨大な黒き体躯に紫色のラインを走らせた鯱のモンスター。『地縛神Chacu Challhua』。これこそがセルゲイのもう1つの切り札であり――遥か昔に、赤き竜の僕と大戦を繰り広げた邪神の複製。コピーと言っても、その存在感は圧倒的、その姿を見て、誰もがのまれる。
「……何……これ……!?」
『こ、これは何とだぁーっ!?セルゲイ選手、この土壇場にとんでもないモンスターを召喚したぁーっ!』
「で、でもアリアがいる限り、私のモンスターは効果の対象にも、戦闘で破壊される事も無い!」
「美しく、完璧な布陣、だがこの神の前では無意味!Chacu Challhuaは、ダイレクトアタックが可能!」
「そん、な――!」
全てを砕く、絶望の神。この神の前では、全てが無意味。
「ヒヒ、ハハハハハァ!やれ、Chacu Challhua!壊して壊して、壊し尽くせぇ!」
Chacu Challhuaがその巨体を動かし、今その尾が――柚子のD-ホイールに激突、彼女を大きく吹き飛ばす。
「――あ――」
柊 柚子 LP900→0
そのまま吹き飛ばされた柚子な――D-ホイールごと、ビル群と激突、爆発が、巻き起こる。
勝者、セルゲイ・ヴォルコフ。その結果に、誰もが押し黙り、声も出せない。
――――――
「そん、な……柚子……柚子ゥゥゥゥゥ!」
余りにも予想外の結果、テレビのモニター内で巻き起こる悲劇を見て、思わず遊矢かを動揺し、大切な彼女の名を呼ぶ。柚子の運命は果たして――。
――――――
「全く……俺様がいなければ流石に危なかったぞ……」
『兄貴ってば優しいんだから~この、このっ!』
『ヒュー、ヒュー!』
『憎いねっ!』
「やかましいわ!」
柚子が爆発に巻き込まれたビル群の近くにて、その男はいた。ツンツンと尖った黒髪に、黒いジャケット。全身に黒を纏ったような男。その男の周囲には、黄、緑、黒と何とも微妙な色をした赤いブーメランパンツ一丁の小さな異形達が浮かび、高い声で彼を囃し立てる。
そして彼の背には――1人の少女が、背負われていた。
シャーク&ジャック&黒咲「スタンダード人頑丈過ぎるんだけど」
遊矢「だって当然だろ?デュエリストなら」(吹き飛ばされて首から地面に叩きつけられながら)